仙狐修練-退魔師-

序文

先ほども説明させてもらったけど、
彼が消されてしまった後の世界について
ここに記しておくよ。

急に何の話をされてるのか分からない場合は、
先にここを確認してほしい。

聞き覚えの無い声に耳を傾ける、なんて怪しい項目があるからね。

なにぶん、時間と空間があやふやな場所だ、
会話が前後してしまう事も往々にあるのさ。

それにあれから何年も時が経っているからね、
一部の家臣については、簡単な人物像も
まとめておくよ。

興味があるなら少し上に戻って、主要人物
と言う項目を追ってみるといい。

プロローグ

+ ...
雑賀衆。

■■■■が仙狐復興のため旗揚げした頃より、
半ば専属に近い形で雇われている傭兵集団。

中でも鉄砲を扱う雑賀鉄砲衆は、
雑賀衆の代表を務める雑賀孫市自らが率いる、
生え抜きの精鋭達である。

報酬を求め各地を転戦する彼らは
とある事情により、常闇の領域西端に位置する
退魔師の里を訪れていた。


???
孫市さまぁ~!買ってきました、
ホカホカの焼き鳥ですよ~!

雑賀衆 発中
傭兵集団雑賀衆に所属する異名持ちの一人、
曲者揃いの雑賀衆の中では周囲に振り回されがち。

雑賀孫市
でかしたぞ発中、後は冷酒が届けば、
鬼に金棒と……

雑賀孫市
ってなんだこりゃ?色といい、形と
いい、本当に鳥なのか?

雑賀衆 発中
んっと、流石に焼き鳥は無かったんです、
ここは妖魔界ですし。

雑賀衆 発中
でも、串刺し肉に甘辛いタレを塗って、
炭火でじっくり炙ればそれはもう、
焼き鳥ですよ? うんうん。

雑賀孫市
まぁ、確かに匂いは悪くないがよ……

雑賀孫市
この得体の知れねえ色と形の肉を食う
ってのは、ちいとばかり勇気が要るんだが?

???
であれば私が毒見を承りましょう。

雑賀衆 蛍
雑賀衆に所属する異名持ちの一人、
鋭い戦術眼を持ち指揮能力に長ける。

雑賀衆 蛍
敵陣のただ中で指揮官が倒れる事などがあれば、
作戦遂行に支障を来してしまう……
さあ、それを。

雑賀衆 発中
とか言ってぇ、実は蛍さんも
食べたみたいだけですよね?
私が確保してきた、この何かしら焼きを。

雑賀孫市
甘いな発中、コイツはマジで言ってるぞ。

雑賀孫市
その証拠に見ろ、目が一切笑ってねえ。

雑賀衆 発中
ほんどだ……ということは!?

雑賀衆 発中
じゃあ、実は本当にここは敵陣のただ中で!
私達は作戦遂行中なんですか!一体何の作戦!?

雑賀孫市
あのなあ、こんな出店で賑わってるような
通りが敵陣な訳……って。

雑賀孫市
そういやお前、何も説明されずに引っ張って
こられたんだっけか?

雑賀衆 発中
はい、動ける異名持ちは
全員参加の重大任務とだけ
聞かされまして。

雑賀衆 発中
派兵先から戻ってきたばかりでしたが、
着のみ着のままここにいます。

雑賀孫市
そうだそうだ、道すがら話すと言いながら、
結局派手にドンパチやらかす羽目になって、
それどころじゃなかったな。

雑賀孫市
丁度いい、蛍、今回の任務について
簡単に説明してやってくれ。

雑賀衆 蛍
了解しました孫市様。

雑賀衆 蛍
仙狐族と協力関係にある退魔師、真理亜様
ならびに桜様両名の護衛と、我ら異名持ちの
教練を兼ねた遠征が今回の任務だ。

雑賀衆 蛍
お二方は退魔師の儀式に参加するため、里帰りする
必要が出たが、緊張状態の続く狐妖の領域を抜けるとなれば、
突発的な武力衝突が発生する可能性が高かった。

雑賀衆 蛍
そこで立案されたのが少数の精鋭による突破作戦だ、
城に残された人的資源を勘案した結果、
我々に白羽の矢が立ち、兼ねてからの課題となる……

雑賀孫市
だああ、簡単にって言っただろうが、
お前は話が長すぎるんだよ!

雑賀衆 蛍
お言葉ですが孫市様、不測の事態に対応するためにも、
情報の開示にあたってはその背景に至るまで……

雑賀孫市
確かにごもっともだ、後はこの俺が直々に、
念入りに、余すことなく開示しておいてやるから
お前は見回りに戻っていいぞ。

雑賀衆 蛍
了解、引き続き哨戒任務にあたります。

雑賀衆 発中
孫市様、結局の所は?

雑賀孫市
結局の所は、退魔師のお嬢さん方の里帰りに
便乗して妖魔界観光を満喫しようぜって話さ。

雑賀孫市
後はまあついでに、何かと器用な退魔師の方々に
体術やら、武器の扱いやらをご教授願う予定も
あるがな。

雑賀衆 発中
私達には銃があるのに、
体術に……武器の扱いですか?

雑賀孫市
うーん、分かっちゃいたが、
そういうとこが問題なんだよな。

雑賀衆 発中
初手で駄目出し!?

雑賀孫市
確かに、お前ら異名衆は銃の扱いにかけちゃ
右に出る者はいねえ。

雑賀孫市
だからこそ、銃が使え無いような
状況への備えがまるでなっちゃいねえんだ。

雑賀衆 発中
確かに……でもそんな状況発生しますかね?
そうさせないために、私なんかも用兵術を
磨いてますし。

雑賀孫市
お前の言う通り、我が鉄砲衆の面々は
単純な銃の腕はもちろん、それを正しく
運用するための用兵術をも極める精兵揃いだ。

雑賀孫市
だが、戦場に絶対は無い以上、
そろそろお前らにも自衛の手段を
磨いておいてほしくてな。

雑賀衆 発中
なるほど、万に一つが起きた場合の
備えということですね。

雑賀孫市
まあそんなとこだ。

雑賀孫市
(それに、今後は道理の外の居る連中を
相手取ると聞かされちゃあな)

雑賀孫市
(こいつらが一人でも生き残れるように、
今できることはやっておかねえと……)

雑賀衆 発中
孫市様?

雑賀孫市
っと、公私の切り替えこそが、
楽しく健やかに生きるための秘訣ってな、
難しい話はこの辺にしとくか。

雑賀孫市
そんな訳で、退魔師のお嬢さん方と
孫六がやってる登録作業?とやらは時間が
かかるらしいからな。

雑賀孫市
お前も坦中とでもその辺見て
回ったらどうだ?
この何とか焼きも、ありがとよ。

雑賀衆 発中
ではお言葉に甘えて、
失礼しますね、孫市様

雑賀孫市
さてと、こうして一人になると
色々と考えちまうわな。

雑賀孫市
世界の危機ねぇ……

一章 備えよ常に

第1話
+ ...
■■■■の父親が意識を取り戻した直後、
城に滞在していた勢力や大名の中でも、特に
仙狐族と深い縁を結んでいた者達が集められた。

当代仙狐王の紫音、ならびの補佐役のひまりは
普段の彼女達からは考えられないような、
深刻な表情を浮かべている。

緊迫した場の空気の中、
騒動の張本人が静かに口を開いた。

先代仙狐王 天道
さて、俺の頭ん中を見てきたってなら、
ある程度は察しがついてる奴が
いるかもしれんが。

先代仙狐王 天道
端的に言うと、とんでもねえ力を持った外敵が、
俺達を狙っていやがる……

先代仙狐王 天道
もちろんこの領域だけじゃねえ、
妖魔界も人間界もひっくるめた全部だ。

先代仙狐王 天道
俺達の全てを踏み荒らし、辱め、
最後には何もかもを焼き尽くしちまうような。

先代仙狐王 天道
そんな無法者共にどうやって抗うべきか、
それが今回集まってもらった議題になる。

天道から語られる突拍子もない話を受け
しん、と静まり返る大広間。

???
他でもない紫音殿の父君の言だ、
単なる世迷言ではないのだろうが……

参加者全員の代弁者として、仙狐族と
同盟を結んだ大友家に仕える武将、
立花道雪が当然の疑問を投げかけた。

立花道雪
あまりに荒唐無稽が過ぎる。

立花道雪
この場に集いし者達はいずれも
大なり小なりの荷を背負った者ばかりだ。

立花道雪
故に俺は証を求める。

立花道雪
天道殿の話を裏付ける確固たる証だ、
皆の者も異論はないな?

???
道雪君の言う通りだな。

平賀源内
死後に妖魔として転生した天才技師、
その頭脳は仙狐族の大きな力となっている。

平賀源内
紫音君の父君……だったか?
その真剣な表情から、妄言の類でない
ことは見てとれる。

平賀源内
だが、いまいち信憑性に乏しいのも
また事実な訳だ……

平賀源内
お手数だが、用意している証左を
御開帳願えるかね。

ひまり
まあ、お主らの言い分ももっともじゃな、
さすればこ奴にご登場願おうか。

ひまり
人妖の世界を見守ってくださっておる、
我らが女神様にな。

???
ド、ドーモ、ワタシガカミサマデス……

天照皇大神
仙狐族に身を寄せる神族の一柱。
現在はその名を明かし、天津神本来の
力を発揮している……はずだが。

ひまり
……なんでそんなガチガチに緊張しておるんじゃ?

天照皇大神
だ、だって、いつものお城の
ゆる~っとした空気が全然無くて、
みんな怖い顔してるし。

天照皇大神
私も私で神族として振舞うなんて
もう何百年ぶりかの話だし。

天照皇大神
頭が真っ白になっちゃって……

当代仙狐王 紫音
大切なお話なのは間違いないですが、
天照様はいつもの天照様で大丈夫ですよ?
お水飲まれますか?

天照皇大神
ごめんなさい紫音ちゃん、いただくわね

天照皇大神
んっ……んくっ……

天照皇大神
…………ふぅ、では気を取り直して。

天照皇大神
これから皆に聞いてもらう話は
はるか昔の、途方もない程の昔に起きた悲劇の話。

天照皇大神
そしてこの先の未来の話、
逃れられようのない災厄の話。

天照皇大神
我ら神族が不可侵の禁忌として封ずる記録、
此度はその枷を少しばかり外し、
語り聞かせるとしましょう。



天照皇大神
遥か古の時代に天と地が分かたれて以後、
神が生まれ、国が産まれ、
最後に人が産まれました。

天照皇大神
産まれたばかりの人はまだ力が弱く、
神々の庇護無くしては生きられぬ存在でした。

天照皇大神
神々は先達として人を導き、人は神を敬い、
万物は共存共栄の道を歩みます。

天照皇大神
やがて、神の庇護を必要としなくなった人は、
自らの足で歩を進めます。

天照皇大神
餓え、争い、疫病と、常に死と隣り合わせに
なりながら、それでも人は懸命に歩み、
神は人を見守り続けます。

天照皇大神
様々な文明が興り、栄華と破滅を繰り返すことで、
人は自らを次の段階、次の段階へと押し上げ続けました。

天照皇大神
ついには、神の権能にすらその手をかける所まで、
繁栄の行く末に到達しかけます。

天照皇大神
ですが、そんな人に対し、
途方もない悲劇が襲いかかります。

天照皇大神
──それは、外なる世界からの侵略行為でした。

天照皇大神
理外の力を行使する彼らの前に、
人は成す術もなく蹂躙されてしまいます。

天照皇大神
人の手に余る事態だと判断した我々は、
再び人の前に姿を表し、共に手を取る事としました。

天照皇大神
あらゆる人とあらゆる神が手を結び、
外敵との戦いが始まりました。

天照皇大神
苛烈を極める戦いが。

天照皇大神
戦いは幾日にも及びました。

天照皇大神
いつ終わるとも知れぬ戦いにより、
人は営みの基盤を失い、大地は砕かれ、
幾柱もの神が討たれ……

天照皇大神
それでもなお私達は戦い続けました。

天照皇大神
外敵の狙いは世界そのもの。
逃げ場などなく、話し合いでの解決など、
望めるべくもなかったから……

天照皇大神
そして、人が磨いた知恵と技術、
神が持つ権能、それらを一つに併せても、
届かなかった。

天照皇大神
結果として我々は破れ、#######れた
########、なんとか#########
今###########ます。

話の最中、天照の声が錆びた金属を
擦り合せたような不快な音に変じる。

傍に控えていたひまりは、やれやれと
ばかりにため息をついた。

ひまり
ま~た肝心な所になるとこれか、
やはりまだ無理なのか?

天照皇大神
うん、まだ抑止力の方が強くて、
駄目みたい……

平賀源内
ふむ、君達の会話から察するに、
急に私の耳がおかしくなってしまった訳では
無さそうだな。

当代仙狐王 紫音
そうなんです、このお話をすると、
途中から天照さんの声がガリガリって
音に変わっちゃうんです。

当代仙狐王 紫音
敵に負けてしまった後の話こそ、
一番気になるんですけどね。

ひまり
まあ、わしらがこうしてここに居る以上、
結局なんとかなったとの話ではあろうな。

天照皇大神
…………

先代仙狐王 天道
さて、尻切れトンボではあるが、神族の重鎮が
その重い口をようやく開いてくださったんだ。

先代仙狐王 天道
俺としちゃあ、これともって証としたいが、
まだ不服か?

集められた一同は互いの顔を見渡すが、
そのいずれもが困惑の表情を浮かべていた。

平時であれば一笑に付されるのが妥当な程、
現実味を欠いた話である。

だが、その場に居る誰もが、己れの胸の
奥に奇妙な疼きを覚える。

それはまるで、魂にに刻まれた、
原初の記憶が鳴らす警鐘のように感じられた。

ひまり
とまあ、聞きたいことは山ほどあると思うが、
とにかくわしらには時間が無いらしい。

ひまり
かと言って、今のままではあまりに
情報が少なく動くにも動けん状況じゃ……

ひまり
今後の指針を決めるためにも、まずは
情報を集め、精査や分析を進める段階
だと考えておる。

ひまり
そのためには、優秀な頭が一つでも多く
必要な状況じゃ。

ひまり
よって、各陣営より優秀な人材を集約し、
対策本部を設立する事をここに宣言させてもらう!

当代仙狐王 紫音
目ぼしい方は既に選定しているので、
後ほどお声がけさせていただきますね。

当代仙狐王 紫音
あと、今後の方針が決まるまでの間は、
みなさんご自由にしていただいて問題ないです。

当代仙狐王 紫音
もう、仙狐族の復興なんていってられる
状況じゃなくなっちゃいましたが……

当代仙狐王 紫音
ここに集まってくれた皆さんとなら
どんな困難にも打ち勝てる。

当代仙狐王 紫音
私はそう信じています。

当代仙狐王 紫音
(天照さんのお話、いつも何かが
抜けてるような気がするけど……)

当代仙狐王 紫音
(みんなは気にならないみたいだしいいかな)
第2話
+ ...
雑賀孫市
ようやくおいでなすったか!
こちとらもう、干からびる寸前だっての。

???
すみません孫市様!
俺は急ごうとしたんですが、
無二先輩がどうしてもって……

雑賀衆 大騎
雑賀衆に加入して間もない仙狐族の少年。

異名こそ持たないが、その戦働きは周囲に
高く評価されている。

???
へへっ、こんだけ出店がひしめいてると
なりゃあ、酒を扱ってる所もかなりの
数になりやしてね。

雑賀衆 無二
雑賀衆に所属する異名持ちの一人、
前線で戦う一方、雑賀衆の経理担当も兼任している。

雑賀衆 無二
財布を預かる身としては、
方々を見て回って、少しでも安くて
確かなブツを……ってな具合ですよ。

雑賀孫市
ほほう、確かにこりゃ良さそうな酒だ、
待たされた甲斐もあるってもんだな。

雑賀衆 大騎
でもほんとに凄い賑わいですよ、
退魔師の儀式だって割には、
祭りかなんかにしか見えませんし。

雑賀衆 無二
確かに、右も左もお祭り騒ぎだわなー

雑賀衆 無二
孫市様、もしかして俺達って担がれてるんですか?

雑賀孫市
ま、その辺の話は一杯やりながらとするか、
お前らも座れよ。

雑賀孫市
せっかくの酒だってのに、
野郎ばかりで華が無いのは残念だがな。

雑賀衆 無二
ではお言葉に甘えまして……と
大騎も来いよ。

雑賀衆 大騎
はい、失礼します!

雑賀孫市
回し飲みになっちまうが構わんよな?

雑賀衆 大騎
俺は問題ないですよ。

雑賀衆 大騎
むしろ、皆さんとこうしてやれるだなんて、
義兄弟の契りってやつみたいで嬉しいです!

雑賀衆 無二
大騎君は相変わらず純情だねぇ、
その若々しさは見習いたいもんだ。

雑賀孫市
んじゃま、お先にと……ほう。

雑賀孫市
こいつはなかなかだな、
飲んでみろよ。

雑賀衆 大騎
いただきます……これ旨いですね。

雑賀衆 大騎
いつもの酒と香りが全然違って、
無二先輩の目は相変わらず確かですね。

雑賀衆 無二
その割には懐にも優しいってな?
限られた予算で結果を出すのが
俺の仕事なもんでね。

雑賀衆 無二
……確かにこりゃ上物だ、
土産は全部これでいいかもな。

雑賀孫市
さて、各々に行き渡ったところでアレだ、
儀式にしちゃあ騒がしすぎるって話だったか。

雑賀衆 大騎
はい、俺はももっと厳かと言うか……

雑賀衆 大騎
暗い部屋で、粛々と執り行われてるような
ものを想像してました。

雑賀衆 無二
だよな、空気は妙に浮ついてるし。

雑賀衆 無二
こうして……ふう、白昼から酒にありつける
とは思ってもいなかったな。

雑賀孫市
まあ、お前らの言うとおり、つい最近までは
伝統と格式に重きを置いた辛気臭い
催しだったみたいだぜ。

雑賀孫市
だが、人が集まる所には金が集まるってもんで、
規制やら何やらが取っ払われ続けた結果。

雑賀孫市
出店が立ち並んで、見物人がごったがえし。

雑賀孫市
香ばしい匂いが漂って、気の利いた音楽まで
聞こえてくる始末になっちまったらしい。

雑賀衆 無二
先立つものが必要なのはどこも一緒ですからね、
これも当然の成り行きってやつか……

雑賀衆 無二
ところで、まだ詳しい話を聞いてないんですが、
結局のところ、儀式って何をやるんですかい?

雑賀孫市
ああ、そいつなんだが……

???
ちょっと兄さん!
なんで昼間からお酒のんでるのよ!?

雑賀孫六
孫市と共に雑賀衆を率いる文武両道の才女。
妹として育てられてはいるが、
血縁関係にはない。

雑賀孫市
お?そっちの仕事はもう済んだのか?
孫六。

雑賀孫六
きっちり滞り無くね……じゃなくて!
お・さ・け!

雑賀孫市
だから誤解だっての、
これはそう……あれだ。

雑賀孫市
大騎のやつが義兄弟の契りを
結んでみたいと言い出してな。

雑賀孫市
まだ俺達に合流して日が浅いだろ?
背中を預けあう以上は、親睦を深めておく
必要もある。

雑賀孫市
だよな、お前ら。

無二と大騎は神妙に頷く。

雑賀孫六
本当に……?
怪しいなぁ……

雑賀孫六
まあ、無二もそう言うなら納得してあげるけど。

雑賀孫市
お墨付きが得られたところでだ、
ちょうど例の儀式について話しててな。

雑賀孫市
孫六、ちょうどいいから例の儀式について
こいつらに教えてやってくれ。

雑賀孫六
また兄さんは横着して……
まあいいけど。

雑賀孫六
で、どの辺から説明が必要?

雑賀衆 大騎
俺、戦い以外のことはからっしきしで、
そもそも退魔師?って連中のこともよく
分かってないです。

雑賀孫六
はいはい、じゃあそこからね。

雑賀孫六
戦いを生業とする人間の中でも、特に妖魔の
相手に特化した者達を退魔師と呼ぶのよ。

雑賀孫六
私たち傭兵と違って、退魔師は厳格な世襲制が
敷かれていて、その血と技術を次代へ継承し
続け、今日に至っているの。

雑賀孫六
でね、退魔師の起源までは私も分らないのだけど、
遠く昔から受け継がれている武器があって。

雑賀孫六
その武器を継承するための儀式が、
今回行われる儀式らしいわ。

雑賀衆 無二
じゃあ、退魔師のお嬢さん方もそれに?

雑賀孫六
そうよ、退魔師の真理亜さんと桜さん、
彼女達も継承候補者ね。

雑賀孫六
この里から少し離れた所に、修練場があって、
集まった候補者達が武芸を競い合い、
武器の継承者を決めるの。

雑賀衆 大騎
では俺達はその応援に来たんですか?

雑賀孫六
もちろん応援はするけど、この儀式は
後進の育成も兼ねてて、従者の参加
も許されているの。

雑賀孫六
もちろん参加できるのは、途中まで
だけどね。儀式の最後まで進めるのは
正式な候補者だけだから。

雑賀孫市
その儀式に相乗りさせて貰って、
近接戦闘の何たるかを学びなおすのが
今回の雑賀衆の仕事な訳よ。

雑賀孫市
さっき発中にも話したが、
銃の腕が立つ奴はその他が
おざなりになりがちでな。

雑賀孫市
この先も厳しい戦いが続くんだ、
お前らのケツを守りきれる
保障もねえからな。

雑賀孫市
ここでひとつ、お前らには自衛の
手段ってのを磨き直してもらうつもりだ。

雑賀孫市
俺達傭兵は死ぬところまでが契約とは言うが、
可愛い部下達が無駄死にさせるなんざ、
俺は願い下げだからな。

雑賀孫六
……酒瓶片手に格好つけてないで、
その辺をフラフラしてる異名持ちを集めてね。

雑賀孫六
明日は本番だし、早めに
打ち合わせしときたいから。

雑賀孫市
おいおい、まだ日も高いんだ、
仕事の話なんざ後回しでもよかろうよ。

雑賀孫六
日が高いからこそでしょ!
寝言を抜かしてないでさあ動く動く!

雑賀孫市
あいたたたっ!?わかった、
わかったから引っ張るなっての!

孫六は孫市の腕を掴み、
何所ぞへと引きずっていった。

雑賀衆 大騎
あの孫市様をまるで子供扱いなんて……
やっぱり孫六様は雑賀の大黒柱ですね!

雑賀衆 無二
そういうのを口にするのは無粋ってもんだ、
大騎よ、これじゃ兄貴の立つ瀬も無かろうよ。
第3話
+ ...
鬼道衆との戦いを通じ、仙狐族と縁を
結ぶに至った二人の退魔師、真理亜と桜。

雑賀孫六と共に儀式への参加登録を
済ませた彼女達は、拠点として確保した
宿に戻るべく、里の目抜き通りを歩んでいた。

通りを進む者は一様に笑顔だが、
それとは対照に、真理亜は不機嫌
そうな表情を浮かべている。

退魔師 桜
さてと、かったるい仕事も終わったし、
後は寄り道しながら帰ろっか……ん?

退魔師 桜
あ、みてみて、付け耳と付け尻尾だってさ、
意外と真理亜に似合うかもね。

退魔師 桜
……って、あれ?
なんか怒ってる?

退魔師 真理亜
継承の儀が娯楽として消費されるなんて、
私には見るに堪えない光景なのです。

退魔師 真理亜
貯えが無ければ補給もままならない
のは分かります。

退魔師 真理亜
透明性を確保するために、
情報は開かれなければならないのも
分かります。

退魔師 真理亜
諸々の理由があるのは分かります、
分かりはするのですが……

退魔師 桜
ま、理解できるかどうかと、
納得できるかどうかは別の話だしね。

退魔師 真理亜
桜はどうなのですか?

退魔師 桜
うーん、悩んでる真理亜には悪いけど、
私は別にどっちでもいいかな。

退魔師 桜
情報を秘匿するのか開示するのかなんて、
上の方が散々議論した上での決定じゃん。

退魔師 桜
討滅の助けになるなら肯定するし、
邪魔になるなら否定するけど。

退魔師 桜
この件に関してはどっちも関係ないしね。

退魔師 桜
でもまあ強いていうなら……肯定かな?
おかげでこうやってお祭りを楽しめるし。

退魔師 真理亜
もう、桜ってば……

退魔師 桜
まあまあ、変に悩みとか迷いを抱えると
指先が鈍るだけだよ?

退魔師 桜
頭のお固い魔理亜も今日は観念して、
本番に向けて息抜きしちゃおうよ。

退魔師 桜
常に最高の状態で任務に挑めるよう、
自分の心も管理出来てこそ一流だからね?

退魔師 真理亜
……分かりました。

退魔師 真理亜
貴女ほどの使い手がそう言うなら、
私は従う他にありませんからね。

退魔師 真理亜
今日のところはその口車に
乗せられることとします。

退魔師 桜
そうそう、当代きっての天才退魔師こと
この私に全部任せちゃえばいいの。

退魔師 桜
じゃあさっそく、どこに行こうかなと……
あれ、そこの出店すごい人だね。

退魔師 真理亜
確かに賑わってますね。
高座のような物もありますし、
何かの見世物でしょうか?

退魔師 桜
何屋さんだろね、紙も沢山貼ってあって、
数字が並んでて……

予想屋の妖魔
さあ張った張った!
いよいよ明日に本番を控えた継承の儀、
勝ち抜くは一体どの派閥かぁ!

退魔師 真理亜
なっ!?あれは?
継承の儀を賭けの対象にするとは!

退魔師 真理亜
断じてゆる……んぐむううっ!

退魔師 桜
もう!街中で急に声をあげたり
武器抜いたりしないの!

恰幅の良い妖魔
んん?なんか揉め事かい?
お嬢ちゃん方。

退魔師 桜
あ、全然問題無いんでお構いなく。

恰幅の良い妖魔
ならいいんだけどよ……って、そりゃあ
退魔師の仮装かい?よく出来てるじゃないか。

退魔師 桜
仮装って言うか……ま、いいか

退魔師 桜
うん、せっかくのお祭りだからね、
この子と二人で仮装して遊んでるんだ。

退魔師 真理亜
(仮装?桜、何の話をしているのです)

退魔師 桜
(いいから調子合わせて、
こんな所で騒ぎになったら面倒でしょ)

恰幅の良い妖魔
なるほどね、そんな格好するくらいなんだ、
退魔師に憧れてるのかい?

退魔師 桜
まあね、将来は立派な退魔師になって、
悪い妖魔をズバズバっと討滅してやるわ。

恰幅の良い妖魔
ああ、妖魔のオレが言うのもなんだが、
申し訳ないことに、邪悪な連中も
たくさん居るからね……

恰幅の良い妖魔
退魔師の夢が叶うといいね、
応援させてもらうよ。

退魔師 桜
ありがと、機会があったらおじさんの
事も守ってあげるよ。

恰幅の良い妖魔
ハハハ、こいつは頼もしい話だ。

恰幅の良い妖魔
っと、いかんいかん、
そろそろ予想屋の話が始まる頃か、
じゃあ失礼するよ。

退魔師 桜
やれやれ、面倒臭かったわね……
じゃ、次はどこ行こうか。

退魔師 真理亜
待ってください。

退魔師 桜
ん?どしたの

退魔師 真理亜
継承の儀を賭けの対象とするのは
未だに納得できませんが、
鈴門の評価は気になります。

退魔師 真理亜
この際ですし、予想屋の話とやらも
聞いてみませんか?桜。

退魔師 桜
私は別に構わないけど、
真理亜ってそういうの
気になる人だったんだ。

退魔師 真理亜
いえ、賭けの対象のみならず、万が一、
鈴門に不当な評価が下されていたとすれば、
私は動かねばなりません。

退魔師 真理亜
そのための確認です。

退魔師 桜
そんな真顔で「動かねばなりません」って、
何をやらかすつもりなんだか……

退魔師 桜
まあいいや、それはそれで
面白い気もしてきたし。

退魔師 桜
鈴門に対する忌憚の無いご意見も
聞いてみたいしね、行ってみよ。
第4話
+ ...
予想屋の妖魔
じゃあここいらで、楽しい楽しい継承の儀に
ついての改めておさらいだ。

予想屋の妖魔
退魔師の偉大なご先祖様が遺した聖剣を求め、
選ばれし五人の継承者はこいつらだぁ!

退魔師 桜
(聖剣じゃなくて聖鞭でしょ、
ほんっとに適当なんだから)

退魔師 真理亜
(これは先が思いやられます……)

予想屋の妖魔
分家筋にも関わらず、近年は目覚ましい活躍を見せる
「森栖家」からはこの男。

予想屋の妖魔
金髪碧眼の退魔師、丈二(ジョウジ)が参戦だぁ!

予想屋の妖魔
体術の才能に恵まれてはいるものの、
厳しい面子に囲まれた、苦戦は必至か!?

予想屋の妖魔
倍率も頭一つ抜けてしまったこの彼、
一攫千金狙いなら、間違い無く外せない!

退魔師 桜
(うーん、これは妥当な評価ってとこかな?
実際問題厳しいでしょ、彼)

退魔師 真理亜
(力不足な感は否め無いですね、
継承候補者である以上、戦えるとは思いますが)

予想屋の妖魔
お次は刀での戦いに特化した一門、
「月風家」より参戦!

予想屋の妖魔
静かなる末弟こと太郎丸だ!

予想屋の妖魔
月風家伝来の霊剣を携えつつ、爆弾、手裏剣と
多彩な武器を使い分ける対応力の高さは要注目!

退魔師 真理亜
(月風の方が聖鞭を握っても
使いこなせないのでは……)

退魔師 桜
(権力争いの道具にでもするんじゃない?
あんな剣を抱えてるのに欲張りな連中だよね)

予想屋の妖魔
そして忘れちゃならない!歴史の浅さを物ともせず、
飛躍を続ける「協会」より放たれし美しき刺客!

予想屋の妖魔
夢想旋律こと、紗於奈(シャオナ)!

予想屋の妖魔
「協会」の討伐数番付で圧倒的首位を走る彼女、
果たして聖剣を持ち帰ることはできるのか!?

予想屋の妖魔
腕前は言うに及ばず、その華麗な闘法は見る者を魅了し、
瞬く間に虜にされてしまうと専らの噂だ!

退魔師 桜
(へえ、例のあの子が出てくるんだ……
真理亜も知ってる?)

退魔師 真理亜
(伝え聞く限りですが、協会の切り札とも)

退魔師 桜
(そうそう、かなりの使い手らしいから、
お手並み拝見できる良い機会かもね)

予想屋の妖魔
さて、候補者の情報が出揃ったところで
次はいよいよお待ちかねの……

退魔師 桜
ちょっ、ちょっと、まだ出揃ってないでしょ!
残り二人はどうなってるのよ!

予想屋の妖魔
んん? ああ……

予想屋の妖魔
まー、確かにまだと言えば
そうなんだが……
鈴門の紹介って要るか?

退魔師 桜
(やばっ! 当然のように無視されたから、
つい大きい声を出しちゃった)

退魔師 真理亜
見ての通り、退魔師の格好を模してはみたものの、
恥ずかしながら、知識がまるで追いついていないのです。

退魔師 桜
(流石は優等生、機転を利かせてくれちゃってるじゃん)

退魔師 桜
そ、そうそう! だからさ、鈴門……?
の参加者についても教えてくれない?

予想屋の妖魔
了解了解、これから金を賭けるんだ、
情報はしっかりと握っとく必要があるよな。

予想屋の妖魔
では改めて、退魔師一門の中でも他に並ぶ者が無い
化け物集団「鈴門」からは何と二人も参戦だ!

予想屋の妖魔
……とは言ってみたものの、秘匿主義の根強い
鈴門だ、桜と真理亜って言う名前以外は何も
情報が出回って無くてな。

予想屋の妖魔
でもまあ結局のところは鈴門が持っていくだろうな。

予想屋の妖魔
手堅く金を増やしたいなら、この桜か真理亜かの
どっちかに賭けとくのがいい。

退魔師 桜
鈴門が凄いのは分かったけど、
それじゃ賭けにならなくない?

予想屋の妖魔
そのとおり、大穴を夢見る連中が
いなけりゃそもそも賭けが成立しない。

予想屋の妖魔
それほどまでに圧倒的な連中だよ、
鈴門ってのはな。

退魔師 桜
なるほどね……
ありがと。

退魔師 桜
じゃあ私は桜って言う退魔師に
賭けとくね。

予想屋の妖魔
へい毎度あり、儀式が終わるまで
この券は大事にしとくんだよ。

退魔師 真理亜
(桜! 私達は話を聞きに来たのであって
賭けるなんて……!)

予想屋の妖魔
さあ、連れの嬢ちゃんの方はどうする?

予想屋の妖魔
大物食いが起きるとすれば「協会」の奴が
やってくれそうだが。

退魔師 真理亜
私はその、別に……

退魔師 桜
…………

退魔師 真理亜
……!

退魔師 真理亜
分かりました、真理亜に賭けます。

予想屋の妖魔
おし、じゃあこいつを渡しとくからな、
もし的中したら引き換えに来てくれよ!

退魔師 桜
私は願掛けみたいで面白そうだから買ったのに、
まさか真理亜まで乗ってくるとはね。

退魔師 真理亜
まったく……あんな挑戦的な目を
向けておきながら、よく言いますね。

退魔師 桜
あ、やっぱり分かっちゃった?

退魔師 真理亜
当然です、私だって付き添いではなく、
聖鞭を握るため、ここに立っているのです。

退魔師 真理亜
継承の儀、例え真理亜が相手でも、
私は必ず勝利してみせます。

退魔師 桜
(ふふふっ、
それでこそ私の友達かな……)

退魔師 桜
こっちも勝ちを譲るつもりはないから、
明日からは全力で勝負ね。

退魔師 真理亜
ええ、互いに悔いの残らぬよう、
存分に。

退魔師 桜
さてと……真面目な話したら
お腹減っちゃった。

退魔師 桜
その通りの出店、
端から順に食べてこうよ、
先に行って買ってるね。

退魔師 真理亜
端から全部なんて無理……
ああ、もう行ってしまいました。

退魔師 真理亜
(私と桜の実力差を考えれば、
結果は火を見るよりも明らかです)

退魔師 真理亜
(でも、それでも……)

退魔師 真理亜
(私は……)

駆け出して行く桜を見つめながら、
無意識の内に拳を握り締める
真理亜であった。
第5話
+ ...
日が落ちて以後も、未だ勢いが衰えない
里の様子を尻目に、雑賀孫市は
鈴門家との合同会議に臨んでいた。

雑賀孫市
ったく、とんだ貧乏クジ引かされた
もんだぜ……あいつらは今も遊んで
回ってるってのによ。

雑賀孫六
もう、兄さんは雑賀の代表なんだから、
仕方無いでしょ?

雑賀孫六
いつまでも不貞腐れてないで、
いい加減観念しなさい。

退魔師 桜
ねえねえ真理亜、
向こうもああ言ってるし、
今日はもうお開きにしようか?

退魔師 桜
根を詰めるのもよくないし、
儀式に向けて英気を養うのも!

退魔師 真理亜
貴女まで妙なことを言わないでださい。
根を詰めるも何も、まだ始まって間も
ないでしょう?

雑賀孫六
じゃあ気を取り直して、
真理亜さん、お願いできる?

退魔師 真理亜
はい、儀式のおおまかな
流れからですね。

退魔師 真理亜
儀式は過去の退魔師による、
討滅の足跡をなぞる形で進行します。

退魔師 真理亜
森を抜け、川を渡り、洞窟を進む……
様々な行程を経て、吸血種の居城に辿
り着くまでが、当面の目標ですね。

雑賀孫六
付き添いが許されるのは、
城に辿り着くまで……でしたっけ?

退魔師 真理亜
ええ、儀式遂行のため城に入れる
のは継承候補者だけです。

退魔師 真理亜
雑賀衆の皆さんは城の傍にある
退魔師の拠点でお待ちいただく
事になります。

雑賀孫市
城までの道中も、
何やら物騒な事になってる
らしいな?

退魔師 真理亜
はい。
過去の退魔師達がそうだったように、
行く手を遮る魔獣との戦闘が発生します。

退魔師 真理亜
城までの経路は無数にありますので、
候補者の一団はそれぞれ別の道を進みますが、
そのいずれにも、魔獣が徘徊しています。

雑賀孫六
広大な自然にお城、それに加えて
魔獣まで管理してるなんて、
凄い規模の修錬場なのね。

退魔師 桜
まあね、ここは儀式やって無い時でも
普通に使われてるし。

退魔師 桜
私と真理亜も昔はよくここで
経験を積んでたんだよ。

退魔師 真理亜
ちなみに桜は二つの区間での
記録保持者です。

雑賀孫六
へえ……随分な使い手だとは
思ってたけど、やっぱり凄かったんだ。

退魔師 桜
まあ昔の話だけどね……って、
なんで真理亜はそんなに得意気なのよ。

退魔師 真理亜
当然です、桜は私の誇りですから。

退魔師 真理亜
ちなみに、昔の話と言いながら未だ記録
は破られていませんけどね。

雑賀孫市
候補者の一団は別々の道を進むとあったが、
お嬢ちゃん達も別か?

退魔師 真理亜
はい。鈴門という括りではありますが、
私と桜は個別に継承の儀に参加します。

退魔師 真理亜
そのため、雑賀衆の皆さんも
隊を二つに分けてご同行いただく
ことになりますね。

雑賀孫市
了解だ。
となりゃいい感じに人員を
配置する必要があるな……

雑賀孫市
それぞれの経路について、
何か情報は貰えるのか?

退魔師 桜
経路は無数にあって、
どこを進むのかの割り振りも
出発直前になるの。

退魔師 桜
だから、事前に情報を握って
対策するのは無理だよ。

雑賀孫市
ま、そうなるわな。
なるべく戦力を均等にして、
対応力を上げるくらいしか手は無いか。

雑賀孫六
配置は私が進めておくわ、
あとは規則とか罰則とか、
決まり事はある?

雑賀孫六
私達みたいな外様の人間が
粗相して、儀式が台無しなんて
事になっちゃうと申し訳無いしね。

退魔師 真理亜
他の継承者への妨害行為は
禁じられておりますが……
他はこれといって特に。

退魔師 桜
継承の儀の前半戦って、
実戦形式で進むからね。

退魔師 桜、
各々が好きなように好きな方法で
目的地を目指す感じかな。

退魔師 真理亜
ええ、刻限こそ設けられていますが、
到着順による優劣などもありません。

退魔師 真理亜
己の実力を踏まえ、
問題が起きれば臨機応変に
対処しつつ城を目指す……

退魔師 真理亜
ですので、孫六さんが懸念される
ような問題は特に発生しないかと。

雑賀孫市
なるほどねぇ……

雑賀孫市
ん? 前半戦ってことは、
後半戦だとまた勝手が違うのか?

退魔師 桜
城内で何をするかについては、
私たち候補者にも知らされてないのよ。

退魔師 桜
でも、複数の候補者から一人を
絞り込む訳でしょ?

退魔師 桜
私は何でもあり、
情け無用の聖鞭争奪戦開始と
睨んでるけど……

退魔師 桜
もしそうなったら、
よろしくね、真理亜!

退魔師 真理亜
はい。
貴女を失望させない程度には、
食い下がってみせましょう。

雑賀孫六
ごめん、ちょっといいかしから?

退魔師 真理亜
はい、なんでしょう?

雑賀孫六
私達から見れば、真理亜さんも
とんでもない使い手だと思うけど。

雑賀孫六
桜さんが話に絡むと、
妙に謙遜が過ぎるというか。

雑賀孫六
自己評価が低くなるというか……

雑賀孫市
おい、失礼だぞ孫六。
人様の心に土足で踏み込むような
真似はよせ。

雑賀孫六
……!?
ごめんなさい、私ったら。

少し困ったような、
それでいて悲しそうな
表情を浮かべる真理亜。

だが次の瞬間には、
いつもの様に落ち着き払った
表情へと戻っていた。

退魔師 真理亜
いえ、いいんです、
孫市さん。

退魔師 真理亜
これに関してはちょっとした、
何と言うか、古傷のようなものなので……

退魔師 真理亜
はい、特に気にしていただかなくても、
大丈夫です。

退魔師 桜
(真理亜ったら……
まだあの日のことを……)

雑賀孫六
ありがとう真理亜さん。
もし、私達で力になれるなら
何でも相談してね?

退魔師 真理亜
はい。
雑賀衆の方、そして仙狐族の
方々とはご縁もありますし。

退魔師 真理亜
明日より始まる継承の儀もそうですが、
今後ともよろしくお願いいたします。

雑賀孫市
よし、話もまとまったところで、
今日はお開きにしとくか。

退魔師 桜
だね、明日からもよろしく。

雑賀孫市
おう、よろしくな。

雑賀孫市
孫六はさっき話に上がった、
人員配置の件を頼んだぞ。

雑賀孫六
うん。ちょうど割り切れる頭数だし、
戦力を均等にしておくね、
兄さんはどうするの?

雑賀孫市
他の連中の様子でも
見て回ってくるとするかな。

雑賀孫市
クセの強い奴も多いんだ、
どこぞで騒ぎを起こしてるとも
限らんしな。

雑賀孫六
明日からは本番なんだし、
あまり飲みすぎないようにね……

雑賀孫六
って、もう居ないし。

雑賀孫市
里に来るまではなかなかの
強行軍だったのに、みんな元気
なんだから……

雑賀孫市
ま、そうでも無きゃ傭兵なんて
勤まらないか、私も仕事済ませて
遊びに行こうっと。



月明かり差し込む薄暗い部屋、
初老の男と、凛とした佇まいの女が
机を挟み向かい合っている。

深くしわが刻まれた表情の奥に、
煌々と生気に満ちた瞳を宿す男が告げた。


いよいよ明日より継承の儀じゃ、
抜かりはあるまいな?紗於奈(シャオナ)よ


問題ございません。聖鞭を手にし、
我らが協会へ持ち帰ってみせましょう。


うむ。その身に修めた技の数々、
十全に発揮できれば
鈴門の連中にも遅れは取るまい。


力は適切に管理、運用されなければ
ならぬ……それが強大であれば尚のこと。


紗於奈、力を持たぬ民草のため
協会の一員として、機能せよ。


育ての恩に報いるためにも、必ずや。


その意気じゃ、明日の出立に向けて
の準備もあろう、下がるがよい。


万に一つが許されぬ身じゃ、
弦の調律も念入りにな。

紗於奈
はい。失礼いたします。


……


悲願の成就まで、あと少し、
ほんの少しで手がかかる所まで来た。


我らをお導き下され、
宵の君よ……

二章 合同作戦

三章 相互接触

四章 暗雲立ち込める

五章 反撃の狼煙

第1話
+ ...
第2話
+ ...
第3話
+ ...
第4話
+ ...
第5話
+ ...

六章 Bloodlines

+ ...
第1話
+ ...
第2話
+ ...
第3話
+ ...
第4話
+ ...

エピローグ

+ ...

主要人物

  • 雑賀孫市
    • 雑賀衆の代表者
    • 仙狐族の協力者の中でも最古参の一人として数えられる
  • 雑賀孫六
    • 雑賀衆に所属し孫市の補佐を務めている
    • 孫市の妹として育てられるが血の繋がりは無い
  • 退魔師 桜
    • 退魔師の集団「鈴門」に属する若き天才
    • 異才が集結する仙狐族に強い興味を持っている
  • 退魔師 真理亜
    • 退魔師の集団「鈴門」に属している
    • 自己評価の低さから力を発揮しきれていない
  • 退魔師 紗於奈
    • 退魔師の集団「協会」に属している
    • 確かな腕前を持つが感情の起伏がやや乏しい
  • 平賀源内
    • 仙狐族の参謀として旗揚げ直後からその頭脳を発揮している
    • 死後、記憶を引き継いだまま妖魔に転生した元人間
  • ひまり
    • とある事情により蘇った仙狐族の始祖
    • 比類無き力を持つが言動が時折おかしくなる
  • 紫音
    • ■■■■の妹
    • ■■■■が抹消された後は役割を引き継ぐ役目を負っている
  • 天道
    • ■■■■と紫音の父親
    • 長らく消息不明だったがつい先日に帰還を果たした

登場人物

+ ...

後序

以上が事件の顛末となる。

彼が消されてしまい、あなたが観測出来なく
なってしまった以降も、妖魔界は騒がしかったと言う事さ。

さて、ここに記された内容を見て貰った上で
改めて問い直したい。

あなたが求める物がここで得られそうも無い場合、
これ以上お付き合いいただくのも申し訳無いからね。

おっと、先にこちらを確認しているあなたが居る場合だ。

大変恐れ入るが、プロローグの辺りまで、
回れ右としてもらえると助かるよ。

では改めて、全く同じ言葉で問わせてもらうよ。

一方的に打ち切られた英雄譚、
その続きをあなたは見届けるつもりはあるかい?


最終更新:2022年03月25日 15:14