『お世話になっております。
先ほどの件ですが、話し合いの結果、〈蝗害〉の調査の方でお引き受けさせていただきます。
つきましては人員、および提供いただける設備についての提示を……』
「マメな野郎だな。だが有能だ。そっちは当面、お前に任せる」
徐々に赤く色づいていく街を走る、タクシーの中。
早速届いたメールの文面に、巨漢の男は顔をほころばせた。
すばやく手元で返信を書く。
「素早い判断に感謝する。
先方の番組の関係者の連絡先を添付した。特別相談役の名を出せばスムーズに行くはずだ。
おそらく〈蝗害〉の被害の強かった場所を巡り、嬢ちゃんが現地リポートをする格好になると思う。
アイドルがやるのは珍しいとは聞いたが、芸能人という括りならいくらでもあるとも聞いた。
向こうが期待しているのは面白いアドリブと、感情豊かなリアクションだ。被害の様子を素直に驚けばそれでいい。
撮った映像は基本的に昼間の情報番組に使う予定らしい。
もしスクープ映像が獲れれば夜のニュースに使う可能性もある。
細かな所はそちらの判断に任せる――っと。こんな所か」
ノクト・サムスタンプ自身はTV業界のことを詳しくは知らない。
自分にないスキルは他人に委ねる。その割り切りに一切の躊躇はない。
下手に直接絡むよりも、あのプロデューサーと一般人の業界人を繋げて後は任せる方が賢明だ。
どのみち、ノクトとしては、何らかの形で〈蝗害〉に絡める糸口さえ得られればそれで良かったのだ。
一仕事を終えて、彼はタクシーの車内で目を閉じる。少し精神を統一し、使い魔とリンクする。
遠方で起きていたとある出会い、それを少し遅れて把握する。
「んで……こっちが
ロミオの気まぐれに振り回されてる間に、そっちはそんな状態か。
まさか“あいつ”がそこまで出てくるとはな。
となると、奴の狙いは……あー、面倒くせぇなあ……」
事態が急速に動いている。
ノクトが両にらみで気にかけていた、もうひとつの案件。
それがアイドルたちに対応している間に、決定的にバランスを欠こうとしている。
彼の望まない方向に、天秤が傾こうとしている。
ノクト・サムスタンプが、
煌星満天たちに強引に提示した選択肢はふたつ。
〈蝗害〉と、半グレ集団の抗争。
いずれもノクトが同じくらいに気にかけていたものだ。
何らかの形で探りくらいは入れておかねばならなかったものだ。
けれどもノクトの身体はひとつきりで、それぞれ関与するのに慎重にならざるを得ない理由があった。
なので片方を外注した。
期せずして得られた一蓮托生の同盟相手に、無理を承知でブン投げた。
ついでにそれが原石を磨くための試練になるのならば万々歳だった。
「おいタクシー。行先変更だ。中央区の、いまから言うビルに向かえ」
残る片方は、元よりノクト自身が向かうつもりだったのだ。
ロミオを手放し、護衛のサーヴァントなしの心もとない状態ではあるが、しかし、ロミオが居てはやれないこともある。
ノクトはこの状況すらも利用し、大胆な一歩を踏み込むことに決めた。
◇ ◇ ◇
「じ、じゃあ、これで失礼するッス」
「……ああ。ありがとう」
手入れを怠った金髪がプリンになったような頭の青年が、やや引き攣った顔で応急箱を抱えて部屋から出ていく。
額と両腕に包帯を巻いた格好の
悪国征蹂郎は、無理もないなと苦笑する。
何しろ、夕陽の差し込む部屋の中には、異形の客人がまだ居座ったままなのだ。
褐色の肌の少女は別に怯えるような対象ではない。
問題はその連れだ。
肉もないのに骨だけで動き、剣と盾で武装した骸骨。それが3体。
ファンタジー世界から抜け出してきたかのような、文字通りのスケルトン。
しかもそいつは、かの悪国征蹂郎にこれだけの傷を負わせるほどの手練れなのだ。
刀凶聯合のメンバーは、悪国征蹂郎から聖杯戦争に関する基本的な情報を聞かされていた。
古今東西の英雄や神々を、英霊として呼び出しての大戦争――
荒唐無稽ながらも、他ならぬ悪国の言うことだ。信じたはずだった。
けれど彼らは、こうして魔術でもなければありえぬモノを見るのは、これが初めてだったのだ。
ここまでのデュラハンとの抗争は、悪国がどこからともなく重火器を調達してくる以外は、常識の範疇の闘争に留まっている。
「……うちのものが失礼した」
『良い。儂が生きた世でも竜牙兵(スパルトイ)は珍しいものではあった。神秘の絶えたこの時代なら尚更であろうよ。
傷の検分と処置に手間をかけるのも致し方ない。儂とて貴様が戦力にならぬ展開は望んでおらぬ』
部下の無礼を詫びる征蹂郎に、骨の身体に宿りし王の意思は鷹揚に返す。
結局、王が「五分与える」と言った身支度は、数十分にも及ぶ応急処置となった。
血を流す征蹂郎の姿に慌てた刀凶聯合の仲間たちが、多少なりとも医療の心得のある仲間を呼びつけ、万全を期したのである。
救急隊員を務めきれずに半グレに堕ちてきた彼は、それでも、今すぐ救急車を呼ぶ必要があるかどうかくらいの判断は出来た。
無論、この苛烈な老王カドモスが、ただの仏心でそれだけの猶予を与えた訳ではない。
彼は彼で、見るべきものをきちんと見ている。
『貴様が屑と呼ばれるのを嫌った兵士どもも、練度は足りておらんが、士気は高いようだな。
なるほど、貴様には過ぎた民よ。
貴様の誇りのあり方、未だ認めてはおらんが、得心は行った』
カドモスの意思の宿る竜牙兵の放つ強烈なプレッシャーを前にしたのなら、並大抵のごろつきでは部屋に入ることも出来ない。
それを、彼らはビビりながらも、征蹂郎に何かがあってはいけないという想いだけで乗り越え、やるべきことをやったのだ。
細かな所作から戦闘訓練の不足は見て取れたが、時にこの士気の高さはそれにも勝る成果をもたらすことがある。
「……兵士ではない、仲間だ……が、そうだな。
確かに、あいつらの存在がオレのプライドの根幹にある」
『ふん。
それで、勝てるのか』
「……知っているのか」
「日本において『半グレ』と呼ばれる、裏社会の組織ふたつが激しい抗争状態にあることは把握しています。
いま入ってきた者のひとりは『トーキョーレンゴー』と書かれたTシャツを着ていました。
あなたと対面した当初は気づきませんでしたが、あなたが片方の組織のトップ、ということで間違いないでしょうか」
「……ああ。刀凶聯合の頭は、オレということになっている」
王の問いに、すばやく淡々と補足を入れる少女。
征蹂郎は彼らの推測を肯定する。
「もし仮に聖杯戦争がなかったとしたら、オレたち『刀凶聯合』とあいつらの『デュラハン』は、おそらくほぼ互角だ。
そして、俺の従えるサーヴァントの支援を計算に入れれば、一般のメンバー同士ならオレたちの方に優位がある」
規格外の英霊レッドライダーが無尽蔵に提供する武器の数々は、刀凶聯合の一般構成員の戦力を一気に底上げしている。
ここまでの闘争では意識して抑えていたが、次の一斉攻撃に際しては全て解禁する予定になっている。
普段は拳銃の調達すら難しい半グレたちの、片方だけが、小銃や最新兵器を無尽蔵に扱える――
普通に考えて、刀凶聯合の勝利は揺るぎない。
「だが……どうやらあちらの頭も、聖杯戦争のマスターであるらしい。
そして向こうもここまでは英霊をほとんど使っていない。
これまではあちらの頭の傍で護衛に徹していたようだ。手の内が読めない」
周凰狩魔の傍に、最近になって新たなメンバーが張り付くようになったのは分かっている。
金髪の白人。通称ゴドー。
客分の用心棒、くらいの扱いだ。
どうやら大胆なことに、サーヴァントを普段から実体化させて従えているらしい。
だが彼らが暴力を振るうのは決まって狭い密室のような空間で、目撃者はおらず、戦力についてはほとんど情報らしい情報がない。
つまり、何が出てきてもおかしくないということだ。
向こうも英霊の能力で一般構成員を強化してくる可能性がある。
あるいは、英霊が宝具で軍勢を呼び出してくる可能性がある。
はたまた、英霊自身が圧倒的な戦力を有しており、単騎でこちらの構成員を一方的になぎ倒してくる可能性もある。
対して征蹂郎の従えるレッドライダーは、ひどく扱いにくい英霊だ。
敵の英霊にこちらの英霊をあてがって押さえ込む、相殺を狙う、という聖杯戦争の定石が使いづらい。
最悪、味方ばかりを巻き込んで破滅に導いてしまう可能性があるのだ。
ゆえにここまで、征蹂郎の率いる刀凶聯合は、やや後手に回っていた。
こちらから仕掛けることができずにいた。
だからこそ、仲間はデュラハンの犠牲になり――その報復のために、不明点が多いことを承知で、征蹂郎は重い腰を上げたのだ。
「既に敵には宣戦布告をしてある。今夜、新宿にある敵の拠点を襲撃するとの予告を出した」
『ゴミ山の覇権争いに興味はないが、相手も聖杯戦争の参加者となれば話は別だ。
ここまで生き残っている時点で、いずれも一筋縄ではいかぬ相手なのも分かっている。
貴様らの闘争に乗じて摘まむのも、やぶさかではない』
既に事態は走り出している、そう告げられても、老王は揺らがなかった。
相互に利用しあう、あまりにもか細い協定。
それに則って王は告げたのだ。「お前の思惑に乗ってやる」と。
単騎でサーヴァントにも匹敵する戦力を持つ竜牙兵が、相手の英霊を正面から押さえ込むことができれば。
刀凶聯合の勝利はおそらく揺るぎない。ひいては、周凰狩魔というマスターの排除も成るだろう。
『だが……』
「まだ何かあるのか」
『向こうはどうなのだ。その首なし騎士とやら、あちらも他の主従を引き込んでいたりはしないのか』
提示されたのは、当然の懸念。
こちらが王とその従者と接触したように。
敵方にも何らかの出会いがあった可能性。
それが残る不安要素。
「……あいつに対等の仲間はいない。それは間違いない。
また、知られている限りでは、不自然な付き合いをしているような相手はいない」
『ふむ』
「ただ、抗争が本格化してきた昨日今日は、流石に細かな足取りは追えていない。
その僅かなうちに、例えばオレたちの遭遇のような『何か』があったとしたら、流石に分からない」
互いに潜在的な脅威である間は、あるいは小競り合いで済んでいるうちは、監視や情報収集が出来ていた。
どちらも街の顔役でもあるのだ。緩い付き合いの相手は多いし、人の口に戸は立てられない。
だが抗争が本格化し、正面からの激突が間近である今、そういった緩い監視もほぼ途絶えていた。
何か、現状を探る方法はないのか――
「――3人だ。3組の主従が『デュラハン』側に加わっている。
向こうのトップも含めれば、4組の主従ってことになるな。げんなりする人数だよ」
「……誰だ」
それは唐突に。
太い男の声が響き渡り、悪国征蹂郎は振り返る。
そこには人懐っこい笑みを浮かべた、しかし、明らかにカタギではない男が、部屋に踏み入ってくる所だった。
褐色の肌。大柄な体躯。みなりのいいスーツ姿だが、顔にまで及ぶ刺青を覗かせている。
征蹂郎も、少女も、王の意思を宿した骨の兵士も、それぞれに身構える中。
侵入者は両手を広げて交戦の意思がないことを示す。
「戦力と情報が必要なんだろ? 押し売りに来たぜ。
俺はノクト・サムスタンプ。『傭兵』だ」
◇ ◇ ◇
「……外の仲間はどうした。見張りがいたはずだ」
「心配しなくても、少しぼんやりしてるだけだよ。魔術師の基礎の暗示の術だ。
そっちの嬢ちゃんも使えるだろ?」
「たしかに私も使えますが、ここまで気配もなく行使できるのは驚きです」
答え次第ではここで〈抜刀〉する。
そんな殺気を滲ませる征蹂郎に、ノクトと名乗った男はそれでも笑みを崩さない。
魔術師の基礎と言われても、悪国征蹂郎には魔術の素養も知識もない。判断を下せない。
『……貴様の気配には覚えがある。
小さき霊を用いて嗅ぎまわっていた、鼠どもの主か』
「おう、覚えていてくれたのか、王様。
光栄だぜ。
まあもっともこっちからすると、使い魔を片端から竜牙兵(スパルトイ)に斬られただけの仲だけどよ」
竜牙兵に宿る王の意思は、ここまでの一ヵ月の間に何度かあった、ささやかな遭遇を思い出していた。
何かを探っている様子だった小さな使い魔の群れ。
もちろん拠点を探られたくない老王たちは、発見のたびに容赦なく殲滅していたのだが。
まさにその使い魔たちの魔力と同じ気配を、目の前の男は発しているのだった。
そんな二人のやりとりに、アルマナは軽い違和感を覚えて首を傾げる。
ここまでの流れに、その単語が出てくる理由がない。
「……あなたはこの方を、王さま、と呼んだのですか? 何故?」
「竜牙兵(スパルトイ)は後世の魔術師が模倣して、もはや素材がレアなだけの一般的な魔術に成り果てているが……
あれほど強い竜牙兵を行使できるとなりゃ、『オリジナル』くらいしかありえねぇだろうよ」
『貴様……ッ!』
「まあ、真名が割れたからって分かりやすい弱点のあるお方ではないし、クラスも絞り込めねぇ。
その声の様子だと年取ってからの姿で現界したのかね。
どのみち、偉大なる王様と敵対する気はねぇよ。
それに今日俺が売り込みに来た相手は、王様じゃなくて、そっちのお山の大将でね」
お前の真名を看破しているぞ。
その事実ひとつで老王と従者を牽制すると、ノクトは征蹂郎と向き合う。
何かを思い出そうとするかのように、征蹂郎は目頭を揉む。
「……そうだ、ノクト・サムスタンプ。覚えがある。その容姿は合致する。
『非情の数式』、あるいは『夜の虎』。
裏社会で名の知られる……凄腕の傭兵だ」
「ほう、リトルリーグにまで名を知られていたとはね。何と習った?」
「任務のためならどんな非情な手段も厭わない合理主義者。
そして、可能な限り夜間戦闘を避けるべき相手。
戦場にて遭遇するかもしれぬ強者のひとりとして……名を聞いたことがある」
「やれやれ、有名人になんてなるもんじゃねぇな。
商売がやりづらくて仕方ない。
なのでこの辺を最後に引退しようと思っていたんだがなぁ」
ノクトは大仰に肩をすくめる。
荒事を何でも引き受ける傭兵の業界は、名が無ければ買いたたかれ、知られ過ぎれば対策を取られる。
そんな難しいバランスの中で、ノクト・サムスタンプという男は、いささか「やり過ぎた」。
本来は彼にとって、夜間戦闘の巧者という強みは、見せ札ではなく伏せ札である。
ゆえに最後に一発大きなヤマを当てて退職金代わりにしようと目論んだのが、彼の第一回聖杯戦争の参加動機である。
「だが坊や、お前さんもまた、有名人だぜ。
セージューロー・アグニ。
あの有名な養成所の新エース。
華々しいデビューを果たした後に消息不明。それと前後して養成所は壊滅したと聞いた。
商売仇の閉店は喜ばしいことだったが、肝心のエースの行方不明はちと座りが悪くてよ。噂になってたんだ」
「……知られて……いたのか……」
「狭い界隈だ、新顔の情報はみんな気にかけるもんさ。
どこかで野垂れ死んだという説が有力だったが、まさかこんな所で不良たち(バッドボーイズ)の頭に祭り上げられてるとはな」
殺し屋と暗殺者と傭兵とが交わってパイを奪い合う、狭い裏の仕事の世界。
僅かな情報の格差が生死を分ける。
なので、養成所の座学の授業で教えもすれば、その養成所の出身者もまた注目を浴びることになる。
「……さっき、向こうには4人いると言ったな。
それもお前の『使い魔』とやらの能力か」
「おう。この情報はお近づきの印にサービスだ。ここについては代価を取る気はないぜ。
名前も要るかい?
周鳳狩魔。
覚明ゲンジ。
華村悠灯。
そして……山越風夏。
揃ってとあるライブハウスで顔合わせしている姿を確認した」
「……周凰以外は、どれも知らない名だな」
「どれも今日になってからの参戦だ。どいつもこいつも慌ただしいことだぜ」
「…………」
「一対一なら干渉せずに見守ろうかと思っていたんだが、流石に無視できない奴まで関わってきたんでね。
そちらの王様がいくら強くても、ちょっとまぐれが起きるのが怖い。
お節介かと思ったが、力を貸そうと思ってよ」
◇ ◇ ◇
「……目的はなんだ。
お前は傭兵と名乗ったな。その助力の代償に、何が欲しい」
喉から手が出るほど欲しかった情報と戦力が向こうからやってきたこの状況に、しかし征蹂郎は警戒を崩さない。
あまりにも都合が良すぎる。
なので、長考の果てに出たのは、そんな基本的な意図の確認だった。
ここは誤魔化せない場面と見たか、ノクトの顔から笑みが消える。真顔で端的に言い切る。
「……この抗争の果てに、残されたものが欲しい」
「残されたものとは」
「上手いこと向こうの親玉を倒せれば、その時点で残っているデュラハンの残党が欲しい。
過剰な追い打ちを避けてくれればそれでいい。残党との接触も、残党の取りまとめも、こっちでやる。
もちろん刀凶聯合とは敵対しないようにする。
必要なら地盤でもカネでも何でも持って行って貰って構わない。
俺が欲しいのは人員だけだ」
「…………」
「そして万が一、お前が力及ばず敗れて倒れたのなら、お前が後に遺すものが欲しい。
多少なりとも残っているのなら、その時点での刀凶聯合の残存メンバー。
それに、倒されていなければ、お前の従えているサーヴァント。
取りまとめも契約もこっちで勝手に試みる。
お前はただ、うなづくだけでいい。それだけで俺は命を賭けて戦場を走る」
「…………」
ふたつの可能性。
刀凶聯合が勝った場合と、負けた場合。
勝った場合はいい。
戦意喪失した敵の生き残りを、それでも殺すような残虐性は、征蹂郎には無い。
約束が守られるかどうかは不透明だが、後の始末がラクになるこの提案、正直言って悪くない。
そして、それに加えて、お前が勝手に負けた時にただ働きになるのは御免だ、という、なるほど傭兵らしい正直な要請。
しかし、それは。
『……虫のいい話だな、詐欺師め』
「その言い分だと、刀凶聯合が敗北した方が得られるものが多くなる計算になります。
組織の人員に加えて、サーヴァントとの交渉権。
あなたが真面目に戦う保証にならない」
『太古より、分かりやすい利益のために戦場に立つ者は存在した。為政者は期待し信頼して代価を払った。
しかしそれらは決まって、後になれば賊となるのだ。
こちらが一番苦しい時に、後ろから刺してくるのだ。
中には、最初から裏切るつもりで潜り込んでくる輩までいる。
ゆえにどの国も愛国心を抱く自国の兵を、手間をかけて育てて備えるのだ。
傭兵よ、貴様などが信を得られると思うな』
老王は嘲笑い、少女は鋭い目で端的に申し出の瑕疵を指摘する。
悪国征蹂郎は無言だ。無言のまま、傭兵の次の言葉を待つ。
果たして老獪なはずの魔術師は、降参した、とばかりに首を振って微笑んだ。
「……容易くはねぇようだ。
なので、欲張るのを諦めてぶっちゃけちまうとな。
俺の本音としては、まず第一には、『お前のサーヴァントが惜しい』んだ」
「……オレの……こいつのことか……」
オオオオ………ン。
話題を振られたことを感知でもしたのか、姿も見せぬままに、赤き騎兵が啼く。
この場にいる全てのものが、直接目視せずとも肌に感じている、異常なる一騎。
「おまえがどこまで自覚してるかは知らないが、そいつは規格外中の規格外だ。
広い範囲に影響を与える精神汚染の類も、俺好みだ。
なので使いこなせないってんなら譲ってほしいくらいだが、規格外過ぎておそらく会話もままならねぇ。
普通の英霊相手ならできる話し合いも、同意の取り付けも、とてもできる気がしない」
「…………」
ロミオを捨てての契約の乗り換えを、何度も真剣に検討してきたノクト・サムスタンプであるが。
もし本命というものがあるのだとすれば、それは悪国征蹂郎の従えるレッドライダーに他ならない。
だが、その乗り換えはあまりにも危険すぎる賭けである。
会話の成立しない相手に、交渉も何もない。
この針音響く東京での聖杯戦争では、サーヴァントを失ったまま無為に時を過ごせば、それだけで脱落するのだ。
「なのでこの際、お前の契約下のままでいいから、奴にはもう少しこの東京に留まっていて欲しい。
こんな所で脱落するのは、あまりにも勿体ない。
どんな形であれ、居れば使いようはあるんだ。
俺としては刀凶聯合が負けるよりも、刀凶聯合が勝ってデュラハンを撃破する方が都合がいい」
「……」
「とはいえ、これから始まるのは戦争だ。何が起きてもおかしくはない。
どうせお前も先頭に立って切り込むんだろう? 危険は承知のはずだ。
なので『保険』として、もしお前が倒されたとしても、契約を試みる切っ掛けくらいは残しておきたい」
「……ダメ元でも、最低限の希望は残しておきたいと……そういうことか……」
筋は通っている。
刀凶聯合の助っ人として全力を尽くす理由も、にも関わらず、征蹂郎が倒された展開も想定した約束をしておくことも。
レッドライダーが惜しい、その一点で、綺麗に整合性がついてしまう。
「ついでに、これは優先順位の下がる第二の要望なんだが。
流石にこの辺で、俺も荒事を厭わない兵隊が欲しい。
暴力を振るうことに慣れていて、そこそこの統制の取れた群れがあるとやれることが広がる。
デュラハン残党だろうと、刀凶聯合の残党だろうと、俺にとっては大して差がないんだ。
だが、お前の納得がなければ、そのどちらも掴めないだろう。お前の同意を取っておくことに意味がある」
「……なるほどな」
征蹂郎は納得する。
むしろ死闘に参加することへの報酬としては、第二の要望の方が本命なのだとも正確に理解する。
第一の要望はダメだった時の保険。
このノクト・サムスタンプは、自由に動かせる手駒こそが欲しいのだ。
確かに人手があれば、聖杯戦争でやれることは増える。
傭兵として悪名高いこの男であれば、尚更だろう。
◇ ◇ ◇
(……格が違い過ぎるな)
老王は心の中で嘆息する。
いつの間にやら、ノクトと名乗る侵入者は、既に刀凶聯合の側に立って戦う方向で話が進んでいる。
意図の確認をしていたはずが、いつの間にやら条件の交渉に移っている。
ノクトは譲歩して手の内を明かして見せたように言っているが、これは最初から想定していたシナリオのひとつだろう。
横から多少の援護射撃もしてみたが、大筋ではここまで全てが傭兵の手のひらの上と言っていい。
悪国征蹂郎は決して愚かではない。短いやり取りの中で老王カドモスもそれは認めている。
気に食わない部分はあるが、むしろ優秀な方と言っていいだろう。
だが、絶対的に経験値が足りない。
こういった悪辣な交渉者とまともにやり合ったことも、おそらくないのだろう。
カドモス自身、こういう手合いの魂胆を見抜けるようになったのは、果たして玉座についてからいかほど経ってからだったろうか。
(アルマナよ)
(はい)
(儂はこの交渉が一段落したあたりで、いったんここより意識を離す。あとは基本的にお前の判断に任せる)
熟考する征蹂郎を前に、カドモスはアルマナに念話で告げる。
竜牙兵の一体への疑似憑依。魔力の消耗の観点から、ずっと続ける訳にはいかない芸当だ。
魔力の温存を考えれば、どこかで解除をしなければならない。
(確認させてください。このまま彼らと共闘する方針でよろしいのですね?)
(そうだ。やることに変わりはない。
機を見て他の主従を倒す。最優先はお前自身の安全。危ういと思えば退く。
ただそこに仮初めの味方が増えただけだ)
既におよそ1ヵ月、この2人はこの方針で積極的な攻勢を行っている。
竜牙兵を指揮しての対サーヴァント戦闘においては、アルマナの経験は相当に豊富なものである。
まず判断ミスなどはありえない。王も少女に委ねることに迷いはない。
(だた、そこの傭兵を名乗る男には気を許すな。
可能な限り同じ戦場で戦うことは避けよ。迂闊に背を預けることはならぬ)
(王さまは、彼が裏切ると考えているのでしょうか?)
(分かりやすい闇討ちなどはせぬであろう。
おそらく、奴が吐いている言葉にも嘘はない。
だが――同時に、全てを話してもおらぬ。きっと、何か重要なことを伏せている)
それはこのタイミングで彼が強引に戦線に加わろうとするに至った動機かもしれないし。
何かこの聖杯戦争の根幹にかかわる知識かもしれない。
なんにせよ、細かな言葉の選び方から、『何かを伏せている』。そう、直感的に悟っていた。
(理詰めだけで対応すると痛い目に遭う、そういう種類の厄介者だ。
何が起きても驚かないくらいの心構えで備えよ)
(はい)
(今回は儂の判断で危うい賭けを選ぶこととする。ここが攻め時なのは間違いない。
ただ、今回の戦に限り、ひとつこれまで禁じていた手段を解禁する)
これより挑むのは、危険人物と分かっている相手と肩を並べての闘争。
うまく行けば得られる戦果も多いが、間違いなく危険は大きい。
選択肢は、与えておかねばならない。
(
アルマナ・ラフィー。
いよいよもってどうにもならなくなった場合、竜牙兵を捨て駒にしての退却を許す。何があっても帰還せよ)
(それは……)
(無論、そうならぬように努力せよ。しかし優先順位を見誤ってはならぬ)
(……分かりました)
少女はうなづく。そして老王の言ったことを反芻する。
おそらくこの場にいる中で最も知恵が足りないのは自分だと、そう少女は自覚している。
ならば、考えるしかない。
今は分からなくても、彼らが何を材料にどう判断したのかを、考え続けるしかない。
そうやってこの1ヵ月、アルマナは生き延びてきたのだから――!
◇ ◇ ◇
「……3つ。条件を出そう」
結論から言って、悪国征蹂郎はノクト・サムスタンプを条件つきで受け入れることにした。
ただし彼にも譲れないものはある。
「ひとつ。オレにとって刀凶聯合というのは、そういう取引の対象になるようなものではない。
おまえが手駒を欲しているというのなら、余計に渡す訳にはいかない。
たとえオレが敗れたとしても、刀凶聯合のことは諦めてくれ」
「仕方ないな。意図を開示するしかないとなった時点で、読めていた要求だ。諦めよう」
たとえ悪国征蹂郎が倒された後の話だとしても、仲間を取引の材料に使うことは出来なかった。
この一線は譲ることが出来ない。
「ふたつめ。これはお前の評判も含めてのことだ。
どんな理由があろうとも、刀凶聯合の仲間を意識的に犠牲にするような策は許さない。
彼らにも危険が及ぶことは覚悟しているが、狙って捨て駒にしたりすれば、その時点で契約は御破算と思ってくれ」
「……ほんっとに、有名になんぞなるもんじゃねぇなァ。
OK、ボス。今回はそういうのは無しで行こう」
悪名高き『無情の数式』を好きにさせれば、勝利の代償に味方が全滅している展開も十分にあり得た。
ここは釘を刺しておかねば、危なっかしくて味方に引き入れられない。
「最後に。傭兵を名乗るのであれば、結果を出してもらおう。
やる気なく戦うフリだけして戦列に並び、報酬だけ持っていくのは看過できない。
……4組いるという、デュラハン側の主従。
最低でも1組、お前の手で蹴落としてもらう」
「妥当な要求だな。
ただコッチにも事情があってよ、敵サーヴァントとの正面からの勝負はいささか厳しい。
アサシンのように、敵マスターの首を狙って取る、という形でいいかい?」
「……いいだろう。
もちろん可能であれば、1組と言わず、2組3組落とせるようなら落として貰って構わない。
何らかの形でその貢献には応じよう」
果たすべきノルマと、ボーナスの可能性の提示。
何なら周凰以外は全て刈り取って貰っても構わないのだ。
毒杯と知って仰ぐなら、征蹂郎の側にとっても利益が最大になるようにするのは必然。
「……抗争はおそらく、今夜がヤマだ。
契約期間は、次の夜明けまで。
そこから先のことは、その時になってから改めて交渉することにしよう」
「了解した。
改めてよろしくな。仲良くやろうぜ」
『酔狂なことだな。いつかきっと貴様の命取りとなるぞ』
「共闘が避けられないと言うのなら、せめてこの男からは離れた戦線を希望します」
老王と少女は不信の視線を崩そうとはしていなかったが。
裏社会で名の知れた傭兵が、己の傭兵としてのアイデンティティを提示して参戦した。
その事実を根拠に、悪国征蹂郎はこの危険な男を味方につけることに決めた。
窓の外には、夕陽の最後の赤い光。
果たして陽が再び昇る時、合計で7組、7人、7騎の主従のどれだけが残っているのか。
戦場の無常を知る悪国征蹂郎は、ただ小さく拳を握りしめた。
【中央区・刀凶聯合拠点のビル/一日目・夕方】
【悪国征蹂郎】
[状態]:疲労(小)、頭部と両腕にダメージ(応急処置済み)
[令呪]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円程度。カード派。
[思考・状況]
基本方針:刀凶聯合という自分の居場所を守る。
1:アルマナ、ノクトと協力してデュラハン側の4主従と戦う。
2:可能であればノクトからさらに情報を得たい。
[備考]
異国で行った暗殺者としての最終試験の際に、アルマナ・ラフィーと遭遇しています。
聯合がアジトにしているビルは複数あり、今いるのはそのひとつに過ぎません。
養成所時代に、傭兵としてのノクト・サムスタンプの評判の一端を聞いています。
【ライダー(
レッドライダー(戦争))】
[状態]:損耗なし
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:その役割の通り戦場を拡大する。
1:ブラックライダー(
シストセルカ・グレガリア)への強い警戒反応。
[備考]
【アルマナ・ラフィー】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:カドモスから寄託された3体のスパルトイ。
[道具]:なし
[所持金]:7千円程度(日本における両親からのお小遣い)。
[思考・状況]
基本方針:王さまの命令に従って戦う。
0:もう、足は止めない。王さまの言う通りに。
1:当面は悪国とともに共闘する。
2:傭兵(ノクト)に対して不信感。
[備考]
覚明ゲンジを目視、マスターとして認識しています。
故郷を襲った内戦のさなかに、悪国征蹂郎と遭遇しています。
【ランサー(カドモス) ※スパルトイの一体に憑依中】
[状態]:竜牙兵躯体の胸部にダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:いつかの悲劇に終焉を。
1:当面は悪国の主従と共闘する。
2:悪国征蹂郎のサーヴァント(ライダー(戦争))に対する最大限の警戒と嫌悪。
3:傭兵(ノクト)に対して警戒。
[備考]
『我が許に集え、竜牙の星よ』の一体に意識を憑依させています。
本体は拠点である地下青銅洞窟に存在していますが、その正確な位置は後の書き手さんにおまかせします。
◇ ◇ ◇
結局のところ、ノクト・サムスタンプにとってのかつての「本命」は、半グレの抗争――レッドライダーだった。
広範囲、無差別な精神操作。
一般人を介して広がるフィールドに、際限なく成長できる可能性。
かの〈蝗害〉にも匹敵する規格外。
実にノクト好みの戦力だ。
本当のところ、悪魔に身を転じるアイドルの方こそ、予備プランであった。
いや、実際に接触した後の感想としては、こちらを本命としてしまってもいいのかもしれない。
あれほどキレるキャスターが、あれほど危ない橋を渡ってまで育てようとしている才能。
そこに深く関与できたのは、ノクトにとって幸運だったのかもしれない。
ただ。
あちらは育つのが遅い。
というより、育つスピードが読めない。
とりあえず仕事を振って人々の耳目に触れる機会を作ってはみたが、いったいいつ「完成」するのか全く読めない。
アイドル育成計画の一本きりでは先が苦しい。
そうであれば、最低でも繋ぎの手段は要る。
そうしてやはり思考が向かうのは赤の騎士。そしてそれを従えるゴミ山の王だった。
ここまでノクトが半グレ集団に近づけずにいたのは理由がある。
あの困ったサーヴァント、バーサーカー・ロミオの存在だ。
半グレたちがつるんでいる場所は、かなりの部分、繁華街と重なる。
半グレの構成員は男性がほとんどを占めるが、女性も居ない訳ではないし、彼女連れの男もいる。
そんな所にロミオを従えて行けば、彼がどこに「ジュリエット」を見出すか分かったものではないのだ。
それこそロミオが惚れた相手が、背景のない一般人であれば何とでもなるのだが。
組織の幹部関係者だったり、他の聖杯戦争のマスターだったりすれば厄介この上ない。
相手次第では、ロミオがそのままノクトの敵に回る展開すらありえた。
かといってロミオにお留守番を命じてノクトだけが出かけていく訳にもいかない。
そうなればそうなったで、監視のないロミオがどこで「ジュリエット」と出会うか分かったものではなかった。
要するに、詰んでいたのである。
だが、ロミオが実際にアイドルをジュリエットと定めたことで、状況は一変した。
首尾よくロミオの監視役を他の主従に押し付けて、ノクト本人がフットワーク軽く暗躍する余地を得られたのである。
悪国征蹂郎には魔術の知識も素養もない。
レッドライダーはその無知を補えるような器用な存在ではない。
結果として、ノクトの使い魔や協力者たちは、ほぼ自由に刀凶聯合の内情を探り放題になっていた。
勝手知ったる他人の家のように、ノクトがあの場に踏み込めた理由でもある。
(とはいえ、アイツが……〈脱出王〉が動かなければ、俺ももう少し『見』に徹する気だったんだがな)
監視の目は敵であるデュラハンの方にも回している。
しかしこちらは通常のサーヴァントであり、あまり調子に乗ると逆探知される恐れがあった。
事実、何回か気配くらいは感づかれていた様子がある。
得られる情報が減るのも承知で、隠密性を重視した備えを施した使い魔を用意し、いくつかの拠点に派遣していたのだった。
そんな準備が功を奏して察知できたのが、あのライブハウスでの顔合わせである。
細かな言葉のやり取りまでは拾えなかったが、しかしその代わりに、とんでもないモノがノクトの監視網に引っ掛かっていた。
山越風夏。〈脱出王〉。
いったいどういう手品を使っているのか、ノクトの監視網をもってしても全く捕らえられないのが〈脱出王〉の動向だった。
どうやら魔術とは異質な技術、極限まで極まった奇術師の技の一端であるようなのだが。
彼女自身が、姿を見せても構わない。そう判断した時にしか、ノクトの目に触れる所には現れないのだ。
その例外が、起きた。
他の誰も気づいてなかったとしても、〈脱出王〉だけはそこにノクトの監視があることに気付いていたはずだ。
分かった上で、姿を晒した。
それは明確なメッセージ。
『ノクト、君が覗き見だけに留まっているのなら……赤い騎士は、ここで刈り取るよ』
かの〈脱出王〉がレッドライダーの在り方を嫌うのは、容易に想像のつくことだった。
これは困る。ノクトにとっては大変に困る。
結果として、こうしてノクト自身が前線に出張って身体を張るハメに至っている。
(むしろモノは考えようだ。普段は捕まえようのない〈脱出王〉が、向こうから出てきてくれる。
場を掻き乱す、赤の騎士の影響力もある。
アイツを仕留めようと思ったら、これは千載一遇のチャンスでもあるわけだ)
譲れぬ〈狂気〉を抱いた6人の同族嫌悪の一環として、当然、ノクトと〈脱出王〉も互いを嫌っている。
嫌いつつ、互いに容易ではない相手と認めている。
前の聖杯戦争でも2人は何度か衝突していた。
極光に目を焼かれる前の〈脱出王〉は、聖杯戦争とは無関係の、東京に住む一般人たちを「観客」と定義していた。
その一般人を武器として振り回すノクトとは、まさに不倶戴天の仲だったのだ。
あの飄々とした態度の〈脱出王〉が、本気でノクトの命を狙ってきたのも一度や二度ではない。
他の4人にしたって、誰もがノクトのことを排除したいと願っていた。
ノクト・サムスタンプは、それほどまでに嫌われていた。
亜切は焼こうとし、ガーンドレッドの魔術師は〈爆弾〉を炸裂させ、蛇杖堂のアーチャーは超遠距離射撃を降らせた。
いずれもマスターひとりを狙うにはあまりにも過剰な火力が投入された。
その全てを、ノクトは凌いだ。
とうとう
神寂祓葉の光の剣がその巨体を貫くまで、ノクトは誰にも倒されることはなかったのだ。
(こちらで3組、向こうで4組。いくらなんでも多すぎだ。
流石にこの辺で剪定が必要だろうよ。
たとえ大将戦が痛み分けに終わったとしても、最低でも「誰か」が退場しなきゃならない局面だ)
傭兵として長年戦場に身を置いてきたノクトは、ここは血が流れる局面だと直感する。
理屈を超えた嗅覚のような感覚で、確信する。
強い想いがあろうと。
譲れぬ事情があろうと。
これから伸びる余地を秘めた物語を抱えていようとも。
終わる時には容赦なく、ぶつん、と断ち切られるのが戦場というものだ。
そうして退場するのが〈脱出王〉になるなら一番いい。
そうでなくても、最低でも誰か一人はノクトが潰す約束になっている。
あるいは戦場に出る以上、ノクト自身が討たれる可能性だってある。
何しろノクトはサーヴァントを伴っていない。他の主従が備えている強力な手札を一枚欠いた状態なのだ。
しかしそこまで認識していながら、ノクト・サムスタンプは己の勝利を疑っていなかった。
誰かを適当に摘まんで、どちらに転んでも何らかの代価を掴む。
その結果を、まったく疑ってはいなかった。
何故なら。
もうすぐ、陽が落ちる。
夜の女王が統べる時間が来る。
〈夜を見通す力〉。
〈夜に溶け込む力〉。
〈夜に鋭く動く力〉。
養成所で学ぶ訓練生までもがその噂を知る、『非情の数式』『夜の虎』。
まもなく訪れる夜は、ノクト・サムスタンプのための時間である。
【中央区・刀凶聯合拠点のビル/一日目・夕方】
【ノクト・サムスタンプ】
[状態]:健康、恋
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:莫大。少なくとも生活に困ることはない
[思考・状況]
基本方針:聖杯を取り、祓葉を我が物とする
0:さて、それで誰の首を取りに行くのが最善かね。
1:当面はサーヴァントなしの状態で、刀凶聯合の傭兵として戦い、刀凶聯合側を勝利させる。
2:ロミオは煌星満天とそのキャスターに預ける。
3:当面の課題として
蛇杖堂寂句をうまく利用しつつ、その背中を撃つ手段を模索する。
4:煌星満天の能力の成長に期待。うまく行けば蛇杖堂寂句や神寂祓葉を出し抜ける可能性がある。
5:レッドライダーに期待しつつも、アプローチに困っている。
[備考]
東京中に使い魔を放っている他、一般人を契約魔術と暗示で無意識の協力者として独自の情報ネットワークを形成しています。
東京中のテレビ局のトップ陣を支配下に置いています。主に報道関係を支配しつつあります。
煌星満天&ファウストの主従と協力体制を築き、ロミオを貸し出しました。
悪国征蹂郎と傭兵契約を結びました。
期限は次の夜明けまで、ノクトのノルマはデュラハン側のマスターを最低一人は倒すこと。
成功報酬は、デュラハンが倒されればデュラハン残党の一般構成員たちを自由にできる権利。
悪国が倒されれば残されたレッドライダーとの契約を試みることのできる権利です。
いずれも口約束ではありますが、契約魔術の糸口に利用できる可能性があります。
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最終更新:2024年11月17日 14:40