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 順風満帆。僕の人生を評するならば、その一言で事足りる。


 衰退しゆく陰陽師の名家に生まれ落ちた不世出の天才。
 与えられる知識を真綿のように吸収し、十歳になる頃には既に父を超えていた。
 扱う者の才覚が足りず、事実上の失伝状態になっていた秘術をこれまでに五つ再生させた。
 祓いの仕事をしくじったことはなく、来る日も政財界の要人達が手土産引っ提げて僕を頼りにやってくる。
 のぼせでも思い上がりでもなく単なる事実として、香篤井希彦は麒麟だったのだ。
 思い通りにならないことなど何もない。神に愛され仏に愛でられ、成功者になるべくして生を受けた絶世の美男子。

 そう、僕には華があった。
 巷にごまんと溢れる非才の輩に付け入らせない、彼らの鳴き声のすべてを持たざる者のやっかみに落としてしまう圧倒的な輝きが。
 文武と美を兼ね備えた麒麟に隙は皆無。結果として誰も僕に並べない、誰も僕を追い越せない。
 まさに薔薇色の人生。ただひとつの不満を除けば、僕の人生は齢三十を前にして完成されていた。

 来る日も来る日も伝承の死蔵と使い途のない研鑽。
 たまに実践の場が舞い込んだと思えば物好きな金持ちや政治家相手の占星術。
 秘術なぞ使うまでもないチンケな除霊に、やれどこそこの土地で地鎮祭。
 金は増える。才能があるから余暇も工面できる。名声はうなぎ登り。僕の三倍近く齢を食った爺さん連中がぺこぺこ頭を下げてくるのは痛快だ。


 ――――で? これは、わざわざ僕がやらなきゃいけないコトなのか?


 昔は目を輝かせて修行に励んでた。
 知識を蓄えるのは楽しかったし、身に着けた秘術で周りを驚愕させるのも快感だった。
 一人前の陰陽師として大成すれば、きっと息吐く暇もない激動の毎日が待っているのだろうと信じていた。

 闇夜に犇めく魑魅魍魎。国家転覆を目論む大陰謀。国防のため前線にひとり立ち、迫る強大な厄災を颯爽祓う僕。
 安倍晴明のように伝説を刻み、蘆屋道満のような悪党どもとしのぎを削っては、やれやれ休む暇もないなと苦笑する。
 いつかは弟子を取って子孫を残し、されど誰もが僕を頼ってくるから隠居も出来ず、この身朽ち果てるまで陰陽師として戦い続ける。
 歩みを止めて荼毘に臥された後も希彦の名は永遠に残り、香篤井家は誰もが畏敬の念を以って崇め奉る名家となって続いていく。
 そう信じて研鑽に励み、遊びを覚えながらも齢を食っていった。
 やがて父に代わり現場に出て仕事を行うようになり、満を持してその才をお披露目するに至って。
 そこで僕を待っていたのは、しかし――

 なんともつまらなく。
 なんともありふれていて。
 なんともしみったれた、現実だった。

 舞い込む仕事はすべて、誰でもできるような歯ごたえのない無味乾燥。
 失敗はしないが、代わりに劇的な成功もない。
 当然だ、そんなもの起こり得るわけがない。だって誰でもできる仕事なんだから。
 食品にラベルを貼るにも上手い下手はあるかもしれないが、それだけで歴史に名前を残すなんて不可能だろう。

 考えてみれば当然のことだ。
 神々が去り、神秘が薄れ、昼夜を問わず人工の光が大地を照らすこの現代。
 晴明や道満が生きた平安時代のような霊的事件などそうそう起こらず、故にほとんどの人間は陰陽師なんて必要としない。
 要するに平和すぎたのだ、僕が生まれた時代は。
 ドラマを望もうにも発生の余地がなく、業界の中では天才だの神童だのと褒めて貰えるが、一歩でも外に出れば時代遅れの骨董品扱い。
 一度本職の魔術師と顔を合わせた際、露骨に見下した態度を取られた時は憤慨したけれど、今にして思えば気持ちが分かる。
 死蔵と現状維持だけが取り柄の、世俗に堕して小金稼ぎに明け暮れる"伝統"など――いったい誰が本気で畏れ、敬うというのか。

 酒の席で父に訴えたことがある。
 陰陽師(ぼくら)は舐められていると。抜本的な改革を行わなければこの世界に未来はないと。
 魔術師の爪の垢を煎じ飲んででも、かつての栄光を取り戻すため尽力すべきではないのか――我ながら大層な熱弁を振るった記憶がある。
 しかし聡明なる親父殿は頷くでも、怒るでもなく、へべれけになった赤ら顔で困ったように笑ってこう言ったのだ。


『別にいいだろう。現にこれで食えてるんだから、細々のんびりやっていこうじゃないか』
『魔術師の小僧どもに倣うなどそれこそお笑いだ。儂らは儂らの山の上から、徒労好きの莫迦どもを笑っていればいいんだよ』


 殴りたいとすら思わなかった。
 ただただ、自分がこんな玉無しの子であるという事実に失望した。

 気位ばかりを肥え太らせて、目先の金稼ぎに邁進する村社会。
 天才だろうが神童だろうが、誰でもできる仕事をこなしては空寒い喝采に満足するしかない時代。
 女を侍らせ、酒を飲み、美食に明け暮れ、増えていく通帳の数字を見て悦に浸るのが身の丈というもの。

 いっそ魔術師どもの総本山に殴り込んでやろうかと思ったこともあるが、実行はしなかった。
 意味がない。異国に行って土人どもを啓蒙してやるぞと珍奇な行為に走る阿呆と同列にされておしまいだ。
 人生は楽しい。苦楽の苦を取り、楽だけで舗装された道を悠々歩むだけのイージーモード。
 なのに胸の奥に燻る飢えは、どれほど贅を尽くしても失せることはなく。
 だからこそ――聖杯戦争という絶好の土俵に巡り会えた時には、遂に運命の女神が自分へ微笑んだのだと小躍りした。


 ……そこまでだ。
 そこから、僕の人生は急に色を変えた。

『できれば殺してほしいですが、まあお任せしますよ。もし殺せるなら上々、殺せなかったらやっぱりね、という感じなので』

 薄ら笑みを浮かべて見下す魔術師の言葉が今も耳から離れない。
 赤坂亜切。〈はじまり〉の六凶が一。炎の葬儀屋。
 されど、彼だけじゃない。この都市には、思い通りにいかないものが多すぎた。

 僕を馬鹿にして笑う"先人"の鼻を、ひと月あっても明かせなかった。
 青銅の連隊に拠点を包囲された時、僕だけで生き残れたか判断がつかない。
 いざ目の当たりにした〈蝗害〉は背筋が凍るほど恐ろしく。
 その蝗どもを幻ひとつで相手取る幻惑の奇術師に至っては、理解しようとさえ思えなかった。

「…………くそ」

 足元の石ころを蹴り飛ばし、思わず悪態を漏らす。
 そういう態度は揶揄の種になると分かっているのに止められない、自分の幼稚さにも腹が立った。

 この数時間で一生分の辛酸を嘗めた気がする。
 ただ軽んじられるだけなら、そうか僕を僻んでいるんだなと逆にせせら笑ってもやれるだろう。
 だが、赤坂亜切のあの態度はやっかみの悪態とはわけが違った。今の僕にはそれが分かる。分かってしまう。
 ――渋谷の一角を数分にして無人に変えた"本物"の怪物どもを知った今だからこそ、その実感は冷水のように僕の心を濡らしていた。

 自信家の自覚はある。それでも、僕は目の前の現実も分からないほど馬鹿じゃない。
 あの〈蝗害〉や奇術師に比べれば、僕など路傍の石にも等しい端役だと分かる。
 路傍の石。つまらない端役(モブ)。この都市は、そう嘲り笑っているのだ――この香篤井希彦を。

「おう、希彦」
「……なんですか。お局みたいに目敏いですね、貴方は」

 この"先人"――吉備真備も僕に言わせればそのひとつだった。
 僕を弟子のように顎で使って、それを鼻にもかけない不遜なクソジジイ。
 腹が立つし見返してやりたいと思うのに、いつまで経っても底が知れない。

 僕にできないことを、こいつは平然とやってのける。
 それは戦闘でもそうだし、大局を見極める頭脳という意味でもそう。
 晴明などものの敵ではないと吹かれた時には老人の戯言と思ったが、今同じことを言われたとして、果たして否定できるかどうか。
 真備もまた本物だ。僕が知らなかった、僕の前には現れなかった、本物の天禀であった。

 また揶揄われるものとばかり思って悪態をついた僕に対し、真備はいつもの憎たらしい笑みを浮かべなかった。
 その眼は前を見据えている。どこか遠くを眺めている。僕には見えない何かを、視ている。
 僕の子どもじみた悪態など、こいつにはもののそよ風にもならないようだった。

「人類悪という言葉に覚えはあるか」
「……いえ。知りませんが」

 こいつや、あの怪物達を指して本物と呼ぶのなら。
 じゃあこの僕は、偽物だとでもいうのか。

「そうか。なら教えてやるから、暇な今の内に覚えとけ」

 ――違う。僕こそ本物だ。香篤井希彦が偽物などである筈がない。
 そう断言して終わるだけの話なのに、胸の中の苛立ちは腫瘍のように疼いて存在感を増すばかり。
 この疼きこそが、他の誰より僕を嘲笑っているように思えた。
 馬鹿め、道化め。お前もお前が見下してきた洞穴の狢どもと何も変わらない。
 受け入れろ、分を弁えて頭を低くしやり過ごせ。裸の王様の童話も知らないのかと、耳触りな笑い声が幻聴のように木霊している。

 そして、そんな僕の煩悶など知らぬ存ぜぬと。
 いや……知った上で気にかける価値もないと判断しているのか。
 吉備真備は、僕を苛立たせる要因のひとつは、和尚のように話し始めた。

「いつの世も考え過ぎる奴ってのは居るもんじゃ。
 ままならないことをままならないままにしておけない難物が、時にひょっこり顔を出す。
 お前さんも一人二人は顔が浮かぶじゃろう? 知り合いであれ、テレビで見かける有名人であれ」

 ――人類悪。その言葉に覚えはなかった。
 僕は陰陽師であって、魔術師の世界にはそう詳しくない。
 その点、今真備が言っているのは後者の話のように思えた。

「大概の場合、そういう連中ってのはまぁ普通に転けて終わるのよ。
 物を柔軟に考えられん輩ってのはいつの時代でも出る杭じゃ。
 排斥されるか、笑い者にされるか……あるいは単純に能が足りなくて失敗するか。
 時代の徒花って奴じゃな。ナントカの乱って雑に括られて、敗者として歴史書に数行綴られて終いよ」
「……、……」
「だがの。たまに、たま~~に、死んでもそれを捨てられん阿呆が出て来る。
 誰に笑われようが阻まれようが、拗らせた憂いを支柱に進めちまう狂人が涌いて出る。
 それだけなら悪霊、魍魎……厄災の括りに押し込めば済む話じゃが、此処でそいつの執念のカタチが問題になるわけじゃ」

 真備は足を止めない。
 だから、僕も止まらない。
 こいつの背中を見たくはなかった。
 今は、特に。たとえ気休めでも、一歩も譲らない強さってものを体現したかった。

「香篤井の麒麟君に問題を出してやろう。さて、その感情とは何だと思う?」
「悪意、とかですか。人類を滅ぼすためにすべてを注ぎ込める、桁外れの悪意……とか」
「はいハズレ。答えはむしろ、その逆よ」

 真備は言う。
 僕の、眉が動く。
 ほらまただ。また、僕は――

「――――それは"愛"じゃ。ヒトを愛しながら、ヒトを害せる真のケダモノ。これ以上厄介なモノはこの世におらん」

 こいつの前で、間違えた。
 己自身の真贋を証明するように。
 いつか青い心で夢見た未来を、今自分の行動で否定している。

「これを指して人類悪と呼ぶ」

 もっとずっと早く、この事実を直視するべきだったのかもしれない。
 なのにそれができなかったのは、僕もまた平和ボケしていたからなのだろう。
 玉無しの雑魚どもと侮蔑した父や、現代の陰陽師達のように。
 過去の栄光と現在の安定を寄る辺に、言い訳にして、見ないふりをしていた。

「これが顕現(あらわ)れちまえば、もはやその世は終わりも同然よ。
 ヒトなどものの敵にもならん。境界記録帯さえ有象無象の塵芥。
 誰も勝てん。止められん。出て来る前に芽を摘み取るしかないわな」
「……それが」

 聖杯戦争を知った時には心が躍った。
 やっとこの才と能を活かせる運命が巡って来たのだと無邪気に喜んだ。

 しかし蓋を開けてみれば、どうだ。
 培った知識は活きない。極めた秘術は後塵を拝するばかり。
 あれほど切望していた"厄災"の気配を前にしても、僕はせせこましく現状の維持を選び続けるしかなく。
 騙し騙し繋いできた自負はあの瞬間、白い光の前に灼き尽くされた。

「――――神寂さん達だとでも、言うつもりですか」

 そう。
 すべてはあの瞬間に壊れ、始まったのだ。
 純粋無垢を絵に描いたような美貌と、魂に訴えかけるような可憐さを秘めた女(ひと)。
 神が寂寞に耐えられず、鬱屈を祓うために葉を振るったような、青天の霹靂。

 この身は、それを"恋"だと思った。
 恋慕。弾けるような、遊びではない恋など思えば初めてだったから。
 彼女に倣って無垢に信じた。今もその気持ちは嘘ではないと信じている。
 自分の聡明を呪ったのもまた初めてのことだった。なまじ頭がいいからこそ、自分の陥穽に気付けてしまう。
 優れているということが己の絞めることもあるのだと、この歳になって初めて知った。

 あの時――
 彼女を知り、灼かれた時。
 僕はきっと、見ないふりしてきた現実に追い付かれたのだと思う。 

 この都市の主役は、僕ではない。
 香篤井家に生まれた麒麟は、此処では一匹の小鹿に過ぎない。
 主役ではなく、それどころか端役。掃いて捨てるほどいる路傍の石のひとつ。
 運命に選ばれた者たちに翻弄され、彼らを引き立てるために敗北を重ねる凡夫。

 吉備真備を知り、自身の介在を受けながら揺らぐことのない都市の趨勢を見て。
 合理的思考が導き出したその答えを、見ないようにただただ努めてきた。
 その嘘を暴き立てたのが彼女の輝きだ。太陽の、網膜まで灼く白光だ。
 それでも僕は、麒麟と呼ばれた希彦は、駄々を捏ねるように目を塞ぎ。
 されど閉じた瞼の裏側にまで光は浸潤し、僕の実像を暴き立てようとするものだから。

 だから僕は、逃げたのかもしれない。
 そうでなければいいなと思う。
 でももはや、見ないふりで逃げるのは限界だった。

 ――現実を拒んで。
 ――狂おしい恋慕(ヒカリ)に逃げた。
 それが真実だろうと、僕の中の僕が言っている。

「今度は半分当たりで、半分ハズレじゃな。儂が見るに獣は奴さんの相棒の方じゃ」
「じゃああの人は何だというんです。神寂祓葉が、あの"ヒカリ"が誰かの引き立て役だとでも?」
「そう、それなのよ。そこが現状の最も面倒で、厄(やば)い点でなぁ」

 目を瞑っても思い出せる顔がある。
 花咲く笑顔、ほころびひとつで心臓を鷲掴みにする天真爛漫。
 女は美しいだけでなく、最低限の知性も不可欠だなどと知った口で語っていた過去の己が恥ずかしい。
 教養など、品格など、本当に美しいものを前にしては気にする余裕すら与えられないのだと知った。
 そしてきっと同時に、悟ったのだ。
 僕は今、願った神話の前にいる。晴明の再来として名を轟かすための試練を課されていると。

「まろび出るなり世を覆い、悪性で閉ざさんとする邪悪な害獣。その横に、何やら訳の分からんもんが並んどる。
 儂は時を超える千里眼を持たん。だからややもするとそういうこともあるのかもしれんが、まぁ、普通に考えたら有り得ん話よ。
 どこかで道理が狂っとる。こうなると既存のやり方……当世じゃ"セオリー"っちゅうんじゃったか? それが、まったく通らん可能性がある」

 荒唐無稽を地で行くような真備の言葉が、するりと頭に入ってきた。
 そうだろうな、と納得している自分がいることにすぐさま気付く。
 気付いた上で、その判断を疑えない――疑おうとも思えない。

 あの人ならそうだろうなと、納得に納得が重なる。
 神寂祓葉という存在を、常識の物差しで測ろうとする方が可笑しいのだと。
 ともすれば真備の愚鈍を笑いそうになる。
 それをすんでで止められたのは、僕のなけなしのプライドが奏功した結果なのかもしれない。

 それでも、嗚呼。
 この老人に何から何まで上を行かれた挙句に教鞭まで振るわれている現状は、やはり僕には受け入れ難いもので――

「話は分かりました。貴方が言っていた意味深な言にも筋が通って、僕もひとつ憂いが消えた気分です」

 ですが、と。
 僕は懲りもせず、劣等感を掻き立ててくる"本物"に疑義を呈していた。

「矛盾している。一度顕れれば世界が終わる厄災だというのなら、何故、貴方ごとき一介の英霊がそれを知れているのですか」
「わははは、言うのう。だが良い着眼点じゃ、説法するならこうでなくちゃの。
 では答えようか。人理――この文明を取り纏める理も、そう無能じゃあねえのよ。
 ただひとつこの星は、人類悪を討つ手段を持っとる。病に対する抗体のようなもんじゃ」
「……、……」
「一体の獣につき七体の英霊が引っ張り出され、偉大な役目を果たす。
 それを以って獣は討たれ、人理は存続する。額面上は、そういうことになっとる」

 だがの、と、真備。

「だからこれがどうしたことなのか、未だに儂も分かっておらん。
 何故"冠位"の片鱗さえ出て来ていないのか。抑止が失敗し続けているのか。
 おおそうだ、お前の溜飲をちょっとばかし下げてやろうか。
 ―――なーんも分からん。さっぱりじゃ。一足す一は千だの零だの言われとる気分よ、気持ち悪くて敵わんわ」

 青筋の立つ感覚があった。
 見透かされた気がしたからだ。
 僕の飼う、ひた隠しにしている感情を。
 迷いも。悩みも。驕りも。痛みも。

「……やっぱり、晴明を喚べばよかったです」

 なんて幼稚。
 分かっていても言わずにはいられなかった。
 人類悪という言葉に覚えがなかったように。
 冠位という言葉にも、まるで覚えはない。
 だが、どうやら隣に立つ彼がそうではないらしいと分かったから。

 わずかな隙間に飛びつくように、僕は諧謔を弄していた。
 さあどうだ。怒れ。苛立て。そのムカつくニヤけ面を歪めてみせろよと。
 そう思う僕とは裏腹に、このクソジジイは、またニヤリと笑って。

「――そうじゃのう。お前さん、貧乏籤を引いたかもなぁ」

 そんなことを、言ってのけるものだから。
 僕は止めぬと誓った足を、反射的に止めていた。

「奴は儂に言わせれば小僧よ。正面から揉めるとなれば難儀じゃが、負けてやるつもりはない。
 しかし奴が持っていて儂には無い物がひとつある。
 先も言うたが、平安にて令和を見通す眼。人理に於ける王冠。そうさな、本来ならばお呼びが掛かるのはあやつの方だったやも――」
「……黙ってください」
「冗談じゃ、そう怒るな。誰かさんがあんまりショボくれた面しとるから、ちょっとからかってみただけよ」

 からからと笑う真備に、そして。
 自分で毒を吐いておいて、いざ受け止められると動転してしまう己の浅はかさにひどく腹が立った。
 此処に来てから、腹の立つことばかりだ。

「希彦よ。人間誰しも手落ちってのはあるもんじゃ」

 この爺の腹の底が、いつになっても読めない。
 好き勝手振る舞ったかと思えば師父の真似事をしてみたり、孫か何かに接するような子ども扱いをしてみたり。
 それこそ賽の目のようだ。吉備真備という賽子が示す目は、その回転が止まるまで分からない。少なくとも今の僕には、まだ。

「この世のあらゆる秘術を修めた儂にさえ、持っとらん物は星の数ほどある。
 逆にお前さんが言った晴明の小僧は、儂ほど多くの知識を貯蔵しちゃおらんじゃろうな。
 世の中そういうもんよ。儂は魑魅魍魎跋扈し、英傑や曲者が山程溢れる愉快な時代を生きたが……それでもついぞ、完璧な人間っちゅう奴には出会えずじまいじゃった」
「貴方が言うと嫌味にしか聞こえませんね」
「茶化すなよ、坊主。この真備が珍しく気紛れ起こしてやったんじゃ、ありがたく耳穴かっぽじって聞いとかんかい」

 ――また癇の虫が騒ぐのを感じたが、此処で喚いては情けなすぎる。
 僕は押し黙り、真備の説法に少し真剣に耳を傾けてやることにした。

 僕はすべてを持って生まれてきた。
 顔も、家柄も、才能も、人に望まれるすべての美点を、香篤井希彦は余さず所有している。
 だがそんな僕にもきっと、持っていない物はやはりあるのだ。
 頭の中に白い少女が浮かんだ。あの星が持つ輝きを、僕はきっと持っていない。

「無論、そうなろうと追いかけて研鑽する分には構わんが。
 これに取り憑かれたとなると、一転ぜぇんぶ徒労に変わるのが厄介なところでな。
 世の中、結局図太い輩が一番強ぇのよ。自分の不足を呪って病むなんざ、儂に言わせりゃ時間の無駄。自分の尻尾追い回しとる馬鹿犬と同じじゃ」
「ッ――」

 それが僕のことを指しているのは、すぐに分かった。
 ああそうだ。僕は今、とても焦っている。
 僕は挫折を知らない。手に入れなくていいものを、この都市で拾ってしまった。

 この歳になるまで、その味など知らなかった。
 だが今なら分かる。これは、呪いのたぐいだ。
 人が人に施す呪い。堕ちた地祇が撒き散らす呪い。そんなのいずれも及びもつかない。
 心臓を焦がし、脳髄を灼いて苛む焦燥の呪詛。
 麒麟と呼ばれたこの身さえたやすく狂わせる、曇天のような鉛毒。

「……無いものは無いで諦めろ、ということですか」
「なんじゃお前、そんな玉無しじゃったのか?」
「はっ……?」

 我ながら柄にもなく曇っていたところで、予期せぬ言葉が返ってきたものだから声が上ずる。
 見れば真備は僕を振り返り、またニヤリと笑っていた。
 ムカつく笑みだ。僕がこいつを嫌いな理由が全部詰まったような顔だった。

「手が届かんから諦める。身の丈に合った生き方とやらに迎合する。
 利口ではあるが男の道としちゃ下の下よ。男一匹天下に生を受けたなら、いつまでも壮んに飢えてねえとな」

 ……心の中の泥濘に雫が落ちて、波紋が広がるのを感じた。
 だってそれは、僕がかつて社会に抱いていた怒りを肯定する言葉だったから。

「要するに、やり方を間違えるなって話じゃ。
 初志とは貫徹するもの、首尾とは一貫してナンボ。
 馬鹿な奴ほど阿呆みたいにこれを見誤る。蘆屋の餓鬼の末路はお前も知っとるじゃろうが」

 ――自分の実力を、天下に示したい。
 ――陰陽道の香篤井家には麒麟がいるぞと慄かせたい。
 それが僕の初志。貫徹するべき最初の願い。
 再び思い返してハッとする。自分があらぬ方向に向かいかけていたことをようやく自覚した。

「希彦よ。お前が目指すのは本当に――」
「説教ならもういいです。僕は、貴方の弟子になったつもりはない」

 自覚すると、次に湧き上がってきたのは気恥ずかしさだった。
 多感な時期の黒歴史をひょんなきっかけで思い出したような、むず痒さ。
 ああそうだ。やっぱりまったくもって柄ではない。
 よりによってこの僕が劣等感だなんて、これほど似合わないものはなかろうに。

「――僕は、星なんか目指しちゃいない。
 そんな座に興味はありません。たとえ"彼女"が極星だとしても、僕は僕。香篤井の希彦だ」

 はっきり言うが、僕は天才と呼ばれる人種だ。
 自分なら陰陽道でなくとも、魔術や呪術、どんな世界でも最高の結果を出せた自信がある。
 それでも陰陽師の香篤井希彦として在り続けたのは、僕の初志がそこにあるから。
 僕が僕のまま、何も変わらずありのままの形で栄冠を掴むことにこそ意味があるのだ。
 僕でない何かに成り果てて浴びる喝采など、栄光など――そんなもの、敗北宣言と何が違う。

 僕は、香篤井希彦として。
 陰陽師の神童として――我此処に在りと示してみせる。
 相手が誰であろうと関係はなく。星でさえ、その野望の例外ではない。

 本物? 偽物?
 馬鹿馬鹿しい、僕が本物でないなら一体どこの誰がそれを名乗れるというのか。
 それに、これはそのことを証明するための戦いだろうが。
 たかだか一度や二度出鼻を挫かれたくらいで下を向いて、女々しいことこの上ないぞ希彦。


 ――舐められたなら、目に物見せろよ。
 あの日僕は親父の奴に、そう言ってやったんじゃなかったか。


「神寂さんに会う、それは変わりません。
 この気持ちが果たして狂気なのか、もしくは違った何かなのか。
 答えを得て、その上で目指す途を決める。でもたとえ、そこで何が待ち受けていたとしても――」

 すぅ。
 息を吸い込む。
 吐き出す。
 嘆息ではなく、啖呵を。

「――勝つのは僕だ。それだけは、あの星にだろうが譲らない」

 宇宙(そら)の惑星になんて興味はない。
 僕は僕、人間だ。陰陽師の香篤井希彦だ。
 そのままで天下を取る気だし、できなきゃ嘘だろうと信じている。

 けれど恥ずかしながら、僕はこいつに知った風な説教を垂れられるまでそれを見失っていて。
 だからこそこうやって格好つけてる間も、少し居心地が悪かった。
 まったくもって屈辱だ。この失態は、必ずや結果で返上してみせる。

「ま、立ち直りが早いのはお前さんの数少ない美点じゃからのう」
「は? 数少ないって言いました今? かなり聞き捨てならないんですけど」
「いつでも撤回してやるぞ。儂の度肝を抜いてさえくれりゃ、いつでもな」
「……あぁそうですか、そりゃ良かった。言っときますけど僕、まだ全然本気なんて出してませんからね。これからですよこれから」

 まだ約束の時間までには猶予がある。
 その前に神寂さんに、あの星にもう一度会おう。
 そうすれば分かるだろう。僕が彼女に抱く想い。
 それを〈恋慕〉としたこの自認(こころ)が、正しいのか間違っているのか。

 心機一転、気分一新。
 情けない鬱屈は啖呵と一緒に吐き出した。
 今に見てろと真備に告げて、僕は聖杯戦争を"再開"する。

「……ところで、本当にいいんですか? こっちに向かうって判断で」
「半々ってとこじゃの。半分が吉、もう半分が凶」
「50%の賭けで傷心中の人間を連れ回すのやめてくれません?」

 ……それはさておき。
 僕らは今、杉並区に向かっていた。

 何故そこを目指すのか。
 決めたのは真備だが、僕にも理由は分かった。
 分からない筈がない。
 それほどまでに露骨に……件の方角からは、剣呑な気配と震動、そして轟音が響いていたからだ。

「仕方ないじゃろ。下向いてショボくれてる奴に配慮なんざ出来るかい。
 お前さんが使い物にならなそうじゃったから、儂は儂の判断で動いた。それだけよ」

 そう言われると返す言葉がない。
 というか、何を返してもダサくなりそうで憚られた。

 それに――僕としても考えはないわけじゃない。
 "彼女"のサーヴァント。真備曰くオルフィレウスなる英霊。
 永久機関の発明者と言えば聞こえはいいが、いざ調べてみて驚いた。
 単なる詐欺師。少なくとも公の歴史には、そうとしか綴られていない男。
 正直に言って、英霊を呼び寄せ戦う場には不適格と言う他ない存在だった。

 が、真備の言動から察するに、彼こそが"獣(ビースト)"なのだろう。
 人類悪。愛を拗らせて、世界の敵に成り果てた愚者の極み。
 されど如何に愚かでも、最大の脅威であろうことは変わりない。
 であれば情報を得ておくに越したことはなく、また、それを通じて神寂さんとの再会を早められるのではないかという打算もあった。
 それにもうひとつ。目下の標的である〈脱出王〉は享楽の徒と聞いている。
 その上で奴は〈はじまりの六人〉。であればひょっこり顔を出しに来る可能性も否定できない。

 だから僕はおよそ正気とは思えない、"キャスター陣営が激戦の爆心地に近付く"という手をこうして是認しているのだ。

「この都に、"冠位"は喚ばれていない。少なくとも現状、儂はそう見ておる」

 真備が言う。
 当然お前は自分の話をすべて理解しているだろう、というその姿勢は鼻についたが、とりあえず今は黙って首肯することにした。

「抑止は超越され、此度の獣は天敵のいない状態で顕現している――もしもそうなら概ね詰みじゃ。出来ることは皆無に等しい」
「そんな無責任な。言っておきますけど、だとしても僕は諦めませんからね」
「ンなことは前提じゃアホ。儂だって黙って白旗揚げるつもりはないわい。
 が、何にせよ情報は集めておかんとの。結局、実地調査に勝る備えはないってことよ」

 抑止力という言葉の意味は、陰陽道の世界にも伝わっている。
 世界を存続させようとする見えざる力。霊長の願望、その結晶。
 チープなエンドロールを回避するため、星に用意された安全装置。
 曰く魔術師は、目指す悲願の成就のためにこれへ挑む必要があるという。

 その尖兵である冠位なる存在が、真備の見立てではこの都市には不在である。
 それが意味することは何か。問うまでもない。かつてない、人類存亡の危機だ。
 尋常じゃないし、そもそも起こり得る筈のない事態であるにも関わらず、けれどやっぱり心のどこかで納得していた。

 だって〈この世界の神〉は、あの白き極星。神寂祓葉なのだから。
 彼女がいるのなら、まあ、そういうこともあるだろうと不合理な納得を抱いている。
 たかが地球ごときが、世界ごときが、あんなに美しく絶対的な生き物を縛れるものかよと。
 疑いもなくそう思えている自分が少し恐ろしかった。あるいはこれが、赤坂亜切らが患う"狂気"の類型なのか。

「……と、まあ。最悪儂ゃあさっき宜しく首突っ込むことも想定しとったんじゃが――」

 真備は、その先を言わなかった。
 またしても「言わなくても分かるだろ」と言わんばかりに。
 そして事実、僕は時を同じくして感じ取っていた。
 この――全身を突き刺すような、恐らくは英霊であろう何某かの気配を。

「どう見る?」
「……威嚇、ですかね。ここから先には近付くなとか、そんな感じの」
「珍しく見解が合ったの。だがまあ、来るなっちゅうのは探られたくない腹があるってことよ」
「ええ。だから、此処で引き返す選択肢はない」

 僕は大きめの歩幅で前進して、一度は引き離された真備との距離を強引に合わせた。
 餓鬼の背伸びと揶揄されてもいい。こいつの横に立てない自分を想像するだけで嫌だった。
 だからこうして並んで、ふたり揃って、気配の方を見据える。

「行きましょう、キャスター。遥々来たからには成果をぶん取ります」
「生意気言いやがって、餓鬼が。まぁ精々儂の陰に隠れとくんじゃの」

 選ぶは前進。
 向かうは、虎の巣穴。



◇◇



 失意と焦燥だけが、鋼の心を占めていた。
 怒りはない。憎しみもない。ただ身を焦がすような感覚だけがあった。
 鋼の娘は迷子のようにそこにいる。主の、相棒の、ないしは父のような男の眠る廃墟の前で。
 主人の帰りを待つ番犬のように、その矮小な身体を晒し存在している。

 都市の黒幕であり、人類悪たる終端(オメガ)の獣。
 未だ幼体なれど、既に世界を滅ぼす敵としての素養を開花させつつあるオルフィレウス。
 その発明たる機神・ゼノンとの正面戦闘を演じた代償は大きかった。
 少女の身体も、鉛のような疲労と眠気に似た損耗に現在進行形で苛まれている。

 それでも、彼女は休息を選ばずこうして立っていた。
 すべては主を守るため。彼の言伝てを果たすため。
 性能(スペック)を考えれば無謀と言う他ない寝ずの番を務め上げているのだ。

「……起こさないと、いけません」

 起こしてくれ、と彼は言った。
 大丈夫だと。すぐに動けるようになると。
 ならその間、彼を守るのは相棒である自分でなければならない。
 心配無用。彼は嘘を吐かない。だから問題はない、少し休めばきっと元気になる。
 病床の親を横目に不安を隠そうとする幼子のように、機神の娘――デウス・エクス・マキナは自己暗示めいた言葉を繰り返していた。

「当機は、そう、仰せつかったのです」

 他でもない、自分自身を律するように声を放ち。
 マキナは、主の寝床に迫るふたつの影を威嚇する。
 ひとりはどんな女も振り向くような甘いマスクの青年で。
 それに付き従う英霊(もうひとり)は、白髭を蓄えた痩せぎすの老人だった。

「――ですので、此処から先には通せません。お引き取り願います、名も知らぬおふたかた」

 マキナは毅然と告げる。
 当人としては、そのつもりであった。

 ……たとえ他人から見ると、それが親とはぐれた子どもの強がりみたいに見えたとしても。
 彼女の中でだけはそうだった。主の休息を守る従者として、眼前のふたりの行く末を阻む。
 そういうものとして存在する機神少女の姿を見つめ、白髭の老人はただ一言。

「…………ほう」

 まずは、そう呟いて。
 そして、凝視。

「――――成程成程、なるほどのう。
 なかなかどうして涙ぐましい真似をするもんじゃ。あちらさんも必死って所かの、くく、うははははは!!」

 何が可笑しいのか、これは傑作とばかりに腹を抑えて笑い出す。
 マキナはそれを見て、当然訝しむように眉を顰めた。
 だが老人――吉備真備は意にも介さない。
 彼の挙動へ最初に否を唱えたのは、その主である青年。香篤井希彦の方であった。

(何笑ってるんです。ついに中身までボケたんですか。このタイミングで寄る年波に負けないでくださいよ)
(おう、すまんすまん。あんまり傑作だったんでの。堪忍してくれや)
(彼女は英霊だ。おまけにひどく疲労している。
 恐らく杉並の戦いから逃れてきたんでしょうが、間違いなく絶好の狩り時ですよ。――この機を逃すわけにはいかない)

 希彦の判断は正しい。
 彼は、マキナの疲弊をひと目で見抜いていた。
 狩れる。何があったか知らないが、今なら大した労苦なく大将首を掲げられると。
 進言したその判断は間違っていない。が、それに陰陽の始祖は応答しなかった。
 代わりに――、困憊の身で臨戦態勢を取って健気に敵意を示す機神の少女に向け、一歩踏み出した。

「な……っ、キャスター、何を……!」

 希彦の動揺は至極尤も。
 更には敵手であるマキナも、これには疑義の目線を向けるしかなかった。
 何故なら真備は一歩踏み出した上で、降伏を示すかのようにその両手を挙げていたからだ。

「……何のつもりですか?」
「見て分からんか? 此方に戦う意思はない、そう示しとるのよ」

 また勝手な真似を、と希彦は顔を顰める。
 確かに、情報を引き出す余地はある。それは間違いない。
 目の前の少女の損耗の具合と、杉並から極めて近いこの座標。
 その二項は彼女が、今まさに自分達が向かおうとしていたかの区の戦いに何らかの形で関与していた可能性を示していた。

「嬢ちゃんよ、お前さんも分かるじゃろ。
 今此処で儂らと事を構えればどうなるか、どれほどお前さんにとって致命的な結果を生むか。
 だからよく考えて選択せい。お前さんが何処のどんな英霊かは知らんけどよ――後ろに瘤背負って戦うんは辛いぞ? 何せこいつぁ戦争じゃからのう。"それしかない"となりゃあこっちも当然、おたくの後ろの奴を狙って仕掛けることになるんじゃ」
「……ッ……!」

 希彦が口を挟む間も、判断の意図を問う間もなく、真備は笑みと共に畳み掛ける。
 彼の言が効果覿面であることは、対峙するマキナの表情が如実に物語っていた。
 吉備真備は傑物である。陰陽道の始祖、その肩書きには何の偽りも湾曲もない。
 その彼にしてみれば……マキナの背後に聳えるホテルの一室で生死を彷徨う男の存在など、呼吸ほどの手間もなく見抜ける泣き所であった。

「分かったら大人しく案内せぇ。優しくしてやってる内が華じゃぞ」
「ふ――ざけないでください……! 当機は、当機は……!
 そんな根拠もない脅しに屈して大義をなげ、投げ出すほどっ、惰弱な英霊ではありません……!!」

 されどマキナは引き下がらない。
 彼女も分かっている。如何に未熟なれど、エウリピデスの仔は馬鹿ではない。
 未だ全身に疲労を引きずり。精神(メンタル)には莫大な無力感という病痾を抱えた己が、目の前の英霊と本気で競い合う羽目になれば。
 きっとその時、結末はふたつにひとつ。敵を殺すか、自分が"彼"諸共に滅びるかであるということは分かっていた。

 それでも、彼女に選択肢はなかったのだ。主の寝込みを守れと命じられた幼子には、策士のような機転も、戦士のような自信もなかった。
 だからただがむしゃらに、赤子の駄々めいた愚行であると分かっていても、こうして立ち塞がるしかない。
 それ以外に術がなかった。今にも泣き出したくなるような不安を抱えながら、それを懸命に隠して、虚勢を張るしかなかったのだ。

 だって偉大な父は、こんな時どうすればいいかなんて教えてくれなかった。
 英霊の肩書きなど名ばかり。その情操は今も古の幼年期と地続き。
 そう――マキナにあるものは大義だけだ。だってその証拠に、傷ついたマスターひとり救えない。

 Deus Ex Machina Mk-Ⅴに、他者に対する治療機能は搭載されていない。

 何故なら彼女の役目は悲劇の迎撃者。
 起こり得る全ての悲劇を迎撃するのがコンセプトなのだから、"起こってしまった後"のことなどエウリピデスは想定しなかった。
 敗北を、救世神の陥穽を前提とした機能にリソースを割くのを、かの詩人は嫌ったらしい。
 どだいから雲を掴むような計画。だからこそ、削げる部分は削がねばならなかった側面もあるのだろう。

 だからマキナは瀕死の雪村鉄志が約束を守ることを信じて、その眠りを守ることしかできずにいた。
 できたのは最低限の応急処置。医術の心得などあるわけもなく、外から見える傷の止血と安静に眠れる状況の構築に留まった。
 途方もない無力感で今にも泣き出しそうだ。けれど神は泣かない。特に今は、その自戒を破ったらすべてが壊れてしまいそうで。
 引き下がらないようなら本当に実力行使に出ると、拳を向けて精一杯の気勢を放つ。

 そんな彼女に老人は、ニヤリと口元を歪めて言った。

「手前んところの傷病人、治してやると言ってもか?」
「――――っ……!」

 効果は覿面である。
 マキナは、その言葉を無視できない。

「そういう青臭いノリは嫌いじゃないがの。
 もう少しポーカーフェイスの練習をした方がいいぞい」

 希彦に向けるような顔で、からからと笑う真備。
 普段ならからかうなと噴飯するところだが、今の彼女にその余裕はなかった。
 唇を固く結び、されど動揺は隠し切れないまま、真備を睥睨する。

「……当機に、そんな話を信じろと?」
「別に信んじなくてもええぞ。その時は交渉決裂、残念無念。
 不本意ながら"予定通り"、お前らを摘み取ってそれで終いじゃ」

 事実上、お前さんに選択肢なんざありゃせんのよ。
 真備の眼光が鋭く、妖しく光る。
 マキナの眉間に深い皺が刻まれ、数秒の沈黙が下りた。

「で、どうする。儂らはどっちでも構わんぞ?」

 見るからに怪しい二人組だ。
 特にこの老人は、自分より一枚も二枚も上手の古狸だと分かる。
 本来なら慎重になるべき相手。熟考に熟考を重ねた上で関わらねばならない手合い。
 けれどマキナの横に今、未熟な彼女をいつも助けてくれたマスターはいない。初めて、心細いと思った。

(ますたー……、……当機、は――)

 危険かもしれない。
 自分のせいで、全部が台無しになってしまうかもしれない。
 父の夢も。彼の夢も。何もかも、誰かの手のひらで握り潰されてしまうかもしれない。
 怖い。それは、とても怖いことだ。考えただけで鋼の機体の奥にある、心という名の不可解がちいさく震える。

 でも。
 それでも――

「……りょ。分かり、ました」

 マキナは、どうしても、雪村鉄志を助けたかった。
 神らしい合理で物事を分別するには、彼女はあまりに幼すぎた。
 何より。鉄志と一緒に過ごしたひと月という時間は、長すぎたのだ。



◇◇



 吉備真備は数多の秘術をその身に宿す超人だ。
 こと陰陽道に属する術であれば、彼にできないことはほとんどない。
 その数少ない例外が、時空の向こうを見通すことである。

 魔術王ソロモン曰く、冠位の資格を持つ魔術師は優れた千里眼を持つという。
 過去、あるいは未来。
 もしくはその両方を見据える千里眼。
 これを持たぬが故、吉備真備はグランドキャスターたり得ない。

 それはいい。知の希求には欲を示せど、人理の小間使いなど御免である。
 やりたい奴にやらせておけばいいというのが真備の感想だ。
 しかして疑問がひとつ。何故この都市には、冠位英霊の兆しが存在しないのか?

 オルフィレウスは〈人類悪〉で間違いない。
 未だ成体に羽化していないのは僥倖だが、その時はいずれ必ず来よう。
 だからこそ道理に則るならば、未来の顕現を予期して冠位が派遣されていなければおかしいのだ。
 にも関わらず、針音の都市にはそれがなかった。
 奇妙だと思う。解き明かしたいと思う。知識欲と好奇心が擽られるのを強く感じる。

 ――神寂祓葉が異変の根源ってのは、まあ間違いないじゃろうが。

 まだ仮説の段階だが、あの少女には何か、存在するだけで人理をねじ曲げる力があるのではないか。
 例えば、抑止力という理(ルール)の干渉を強力に弾く、だとか。
 一度会っただけではあるものの、そうでなければ説明の付かないことが多すぎた。
 言うなれば歩く特異点。悠久の時間と無数の事象の枝葉の中で、たまさか産まれた新生物。

 そんな存在が、何の因果か人類悪の幼体と遭遇してしまった。
 ふたりは意気投合し、共に滅びの未来へ歩む同胞となった。
 誰もその運命的物語を止められず、失敗した結果がこの仮想都市。
 オルフィレウスは着々と準備を整え、彼に迫る抑止の妨害は祓葉が弾く。
 もしこの推測が当たっているなら、連中を破る手段などない。
 完成された人類悪は冠位なくしては斃せないし、隣にあの白い怪物が寄り添っているなら尚更不可能だ。

 人理は敗北した。
 抑止は超えられた。
 未来は存在せず、誰も星の神話を止められない。

 ――――本当に?


「希彦、後はお前がやっとけ」
「はぁ!? 貴方が言い出したことなのに何で僕が!!」
「ちょっと考えたいことがあんのよ。
 万一危なくなったらちゃんと仕事するから安心せぇ」

 急に仕事をぶん投げられた希彦は噴飯した。
 真備は既に部屋の隅で胡座をかき、すっかり思案に耽る構えである。
 「おや、それとも――」と口元を歪め、ダメ押しにもう一言。

「香篤井の麒麟とやらは、医者の代わりも務まらんボンクラなのかのう?」
「あ゛ぁ!?」

 こうやって発破をかけられると、希彦は弱い。
 なまじ自分が天才だという自負を人一倍持っているから、絶対に聞き逃がせないのだ。
 馬鹿にしないでください、やってやりますよ――!
 さっきまでの悪態は何処へやら、早速ベッドの上に寝ている"彼"の方へ肩を上下させながら向かっていった。

 そうして患者を覗き込む。
 まったくもって不本意な仕事だが、やると決めたら真剣なのも希彦の美点である。
 とにかくまずは容態の確認だ。術を用いて人体の構造を解析し、微かに眉を動かした。

「……、なるほど」
「……どう、なのですか。ますたーは、治るんですか?」
「急所は外しているようですが、折れた骨がいくつかの内臓に刺さってますね。深刻な状態です」

 マキナの顔が目に見えて曇る。
 実際、解析してみて驚いた。
 サーヴァントならまだしも、マスターがこれほどの負傷をするというのは相当な状況だろう。

 肝臓、恐らく脾臓にも骨が突き刺さっている。
 当然出血も見られ、放置しておけば命に関わるのは間違いなかった。
 基礎的な応急処置は施されているが、はっきり言って焼け石に水だ。
 真備が治療を買って出なければ、この男は遠くない内に死亡していたに違いない。実際に治療するのは何故か希彦になったが。

「他にもあちこち損傷が見られる。この様子だと脊椎も痛めてそうなので、病院に運んでも助かるかどうかは五分五分でしょう」

 容態は分かったので、視線を外す。
 ちら、と横目にマキナを見た。

 遭遇した時にも思ったが――なんとも妙なサーヴァントだと思う。
 鋼鉄の四肢を持つというだけなら"そういう存在"と納得できなくもないが、全身の随所から微小な機械音のようなものが聞こえる。
 英霊になれるほど有力な逸話を持つ機械、なんてあったろうか。
 ともすれば、未来の英霊という可能性もあるのかもしれない。そんな変則召喚が成立し得るのかは別として。
 希彦の推測は結論から言うとまったくの的外れだったのだが、こればかりは仕方のないことだ。
 ギリシャの詩人が古代の機神を参考に設計した人造の神霊なんてぶっ飛んだ答え、考えつく方がおかしい。

「…………がい、します」
「え?」
「――おねがい、します……。
 当機にできることなら、なんだってしますから。
 だから、ですから……。当機のますたーを、助けてください……っ」
「……、……」

 ぺこりと、深く深く頭を下げて少女は言った。
 相手は英霊だ。そんな存在に頭を下げられているのは、正直悪い気はしない。
 ただこうも、まるで見た目通りの幼子がするような必死さで"お願い"されると、流石にやや据わりの悪いものもあった。

「……いや、まあ。
 もともとそういう話ですからね。なんで僕がやることになってるのかは今でも不明なんですが」

 なんというか、調子の狂う相手だと思う。
 良くも悪くも、とにかく英霊と接している気がしないのだ。
 そう、"らしくない"。これに比べればひたすら自由で老獪な真備の方が余程真っ当に英霊をやっているだろう。

「――言われなくても、仕事はちゃんとやりますよ。後であのジジイにネチネチ嫌味言われるのとかホント嫌なんで」

 満を持して、患者の身体に手を触れる。
 呼吸は浅い。目を覚ます気配はない。
 反応も示さないところを見るに、かなり深い気絶状態にあると推測できた。
 祈祷師の真似事などいつぶりだろう。が、希彦は実のところ、緊張などはまったくしていなかった。


 そも。
 陰陽とは、森羅万象のすべてを陰と陽に大分して考えようという思想である。
 相対する両極を以って世界を観る。陰陽は互いに支え合って成っており、これを前提として物事を捉えるのが彼ら陰陽師の骨子だ。

 此処から派生して産まれたのが、陰陽五行という考え方だった。
 陰陽を更に五つの元素に分割し、そこに関係と縁を見出す。
 木・火・土・金・水。これを指して五行と呼ぶ。
 陰陽がそうであるように五行も互いに影響し合い、相生と相克を通じて森羅を律している。
 これを人体に適用して科学しようと考えたのが俗に言う東洋医学。
 つまり人を癒やす治療術と陰陽術は、似て非なるようで非常に近しい関係にあるのだ。

 体内の五行、その狂いをひとつひとつ収める。
 希彦の術は治療に特化した魔術師に比べれば慎ましいものだったが、これを適切に運用すれば効果は倍どころでは済まない。
 最低限の干渉と消費で、最大限の結果を生み出す。
 言うなれば非常に効率がよく、無駄に乏しい。
 傷を塞ぎつつ、体内という世界を陰陽と五行の観点から整えていく。

 刺さった骨は除去しつつ、元の場所へ戻して嗣(つな)ぐ。
 抉れた肉は成長を部分的に異常促進させて補う。
 この上で、失われた生命力を補填するのが前述の考え方だ。
 医術というにはあまりに抽象的。されどオカルトというには、あまりにシステマチックな作業が行われていた。

 そして此処で、忘れてはならないことを改めて付記する。



 香篤井希彦は天才だ。



 現代の陰陽師で、彼に並ぶ才気を持つ人間は皆無に等しい。
 雪村鉄志は重体だった。現代医療の粋を尽くしても、確実に救命できるとは言い難い瀕死状態だった。
 だが希彦に言わせればそれも、"思っていたより面倒だな"程度の感想で済む問題でしかなかった。

 希彦は陰陽道のあらゆる分野に精通し、そのすべてで才覚を発揮している。
 その彼が、対人治癒などという基本的な領域を修めていないわけはない。
 彼が手を離した時、マキナは「えっ」と思わず声をあげた。
 希彦が鉄志に触れてから時間にして約十五秒。たったそれだけの時間で、彼は治療をやめてしまったからだ。

「思ったより手間取ったな。くそ、重病人なんて滅多に会わないから鈍ってたか……」
「え、え。あ、あの、その――?」
「治療は終わりましたよ。
 主要な傷は塞いだし気力も整えておいたので、少し待てば目を覚ますでしょう。当面は安静をおすすめしますが」

 事実、鉄志の顔色は希彦が触れる前に比べて明らかによくなっていた。
 血の気の引いた青ざめた肌が、今では健康体と変わらない血色を取り戻している。
 呼吸のリズムも平常に戻り、傍目にはとてもさっきまで生死の境を彷徨っていたとは思えない。

「手抜かりはありません。僕に限って、この程度の仕事でそれはない」

 希彦は断言する。自分の手際に不満があったのかその顔はややむくれていたが、断ずる言葉に淀みはなかった。

「――キャスター! 言われた通りやってやりましたがー!? 手前で命じたんだからせめて確認くらいしてくれませんかーっ!?」

 今になってさっきの物言いがまた癇に障ってきたのだろう。
 青筋を立てながら、無駄にでかい声で希彦は真備を呼ぶ。
 が、そんな彼の服の袖が小さく引かれた。
 まだ何かあるのかと振り向いて、そこで思わずぎょっとする。

 振り向いた先には、唇をぎゅうっと固く結んで、何かを必死に堪えている機械少女の姿があった。
 その顔があまりにも、英霊どころか希彦の思う"聖杯戦争"にそぐわないものだったから。
 真備への怒りも一瞬忘れて、固まってしまった。

「……ありがと、ございました」
「え、いや……あの」
「ますたーを、助けてくれて……っ、ありがと、ございました……! 本当に――っ、う、ぅ」
「そ、そんな大したことしてないですから。こんなの僕じゃなくても誰でもできるようなことですし……ちょ、泣くのはやめてください。あのジジイに何言われるか分からないのでッ」
「な、泣きません。泣いてません。
 神は笑わない、神は怒らない、神は泣かない、神は怠けない…………、ので…………」

 瞳に涙をたっぷり貯めて、表面張力さながらのせめぎ合いを繰り広げながらわなわな震えるマキナ。
 女の扱いには長けている希彦だが、流石にこの歳の幼子は守備範囲外である。
 まして相手は英霊。まさか幼女めいた姿の英霊に目の前で泣かれそうになるなんて想定外も想定外。

 ああくそお菓子の持ち合わせは今無い……! とかズレたことを考えるほど対応に苦慮している希彦の姿を愉快げに見つめながら、真備は小さく苦笑した。
 そして希彦とマキナには聞こえぬ程度の声色で独りごちる。


「確認なんぞせんでも分かるわ、アホ。
 儂を喚べるような術師が、今更それしきの仕事でしくじるかい」


 デウス・エクス・マキナ。
 真備の目から見ても、雪村鉄志のサーヴァントはひどく異質に見えた。
 英霊らしからぬ不完全性。ただの童女のように幼気でいじらしく、されど何故だか視線を外せない煌めきがそこにはある。
 希彦は気付いていないのだろう。彼女の輝きが、あの白き神のそれとよく似通っていることに。

 すなわち星に、酷似していることに。

(抑止は敗北した。だが、諦めたわけではない……ってところか)

 人類悪の兆しは既に都市の深層に根付き、羽化の時を待ちながら針音の調べを悠々奏でている。
 抑止力は彼に付き従う相棒、異形の極星を前に敗北。
 よって冠位英霊、グランドサーヴァントは顕れない。少なくとも現状、真備の観測している限りではその兆候は皆無。
 されど世界は今も戦っている。星の輝きに灼き焦がされながらも、悪あがきとでも呼ぶべき抵抗を続けているのだ。

「――しかしお前ら、相変わらず勝手よなぁ。そんなだから皆に嫌われるんじゃぞ。星の管理者ヅラするんだったらええ加減自覚せぇよ」

 くつくつと、老陰陽師は笑う。
 笑わずにはいられなかった。
 なんて無理難題。なんて傍迷惑。

「目には目を、歯には歯を。ならば星には星を、か」

 デウス・エクス・マキナは、〈恒星の資格者〉だ。
 そして恐らく、彼女だけではない。
 不毛の大地に種を蒔くように、都市にはいくつかの原星核が配置されている可能性が高い。

 冠位なき世界で、獣狩りを成すために。
 そう、すなわち、〈恒星の資格者〉とは――


「冠位(グランド)どもの代替品。極星を超え終端の獣を調伏するための、希望……」


 星を慰める者(てんし)。
 星を超える者(あくま)。
 星を統べる者(めがみ)。
 そして星を穿つ者(マキナ)。


 都市は廻る。
 星は瞬く。


「良かったのう、希彦。どうやら今宵の宴、お前さんの望んだ以上の誉れを確約するやもしれんぞ」


 ――――これは、世界を救う戦いである。



◇◇



【世田谷区・ビジネスホテル(廃墟)/一日目・夜間】

【雪村鉄志】
[状態]:気絶、疲労(小)、回復中
[令呪]:残り二画
[装備]:『杖』
[道具]:探偵として必要な各種小道具、ノートPC
[所持金]:社会人として考えるとあまり多くはない。良い服を買って更に減った。
[思考・状況]
基本方針:ニシキヘビを追い詰める。
0:――。
1:アーチャー(天津甕星)は、ニシキヘビについて知っている……?
2:今後はひとまず単独行動。ニシキヘビの調査と、状況への介入で聖杯戦争を進める。
3:同盟を利用し、状況の変化に介入する。
4:〈一回目〉の参加者とこの世界の成り立ちを調査する。
5:マキナとの連携を強化する。
6:高乃河二琴峯ナシロの〈事件〉についても、余裕があれば調べておく。
[備考]
※赤坂亜切から、〈はじまりの六人〉の特に『蛇杖堂寂句』、『ホムンクルス36号』、『ノクト・サムスタンプ』の情報を重点的に得ています。

【アルターエゴ(デウス・エクス・マキナ)】
[状態]:疲労(大)、安堵とか情けなさとかいろんな感情で心がぐっちゃぐちゃ
[装備]:スキルにより変動
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスターと共に聖杯戦争を戦う。
0:神は泣かない。神は泣かない……
1:マスターとの連携を強化する。
2:目指す神の在り方について、スカディに返すべき答えを考える。
3:信仰というものの在り方について、琴峯ナシロを観察して学習する。
4:おとうさま……
5:必要なことは実戦で学び、経験を積む。……あい・こぴー。
[備考]
※紺色のワンピース(長袖)と諸々の私服を買ってもらいました。わーい。

【香篤井希彦】
[状態]:魔力消費(中)、〈恋慕〉、やけくそ
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:式神、符、など戦闘可能な一通りの備え
[所持金]:現金で数十万円。潤沢。
[思考・状況]
基本方針:神寂祓葉の選択を待って、それ次第で自分の優勝or神寂祓葉の優勝を目指す。
0:もーーーー!!!!(何も思い通りに行かないことへの叫び)
1:僕は僕だ。僕は、星にはならない。
2:赤坂亜切の言う通り、〈脱出王〉を捜す。
3:……少し格好は付かないけれど、もう一度神寂祓葉と会いたい。
4:神寂祓葉の返答を待つ。返答を聞くまでは死ねない。
5:――これが、聖杯戦争……?
[備考]
二日目の朝、神寂祓葉と再び会う約束をしました。

【キャスター(吉備真備)】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:『真・刃辛内伝金烏玉兎集』
[所持金]:希彦に任せている。必要だったらお使いに出すか金をせびるのでOK。
[思考・状況]
基本方針:知識を蓄えつつ、優勝目指してのらりくらり。
0:〈恒星の資格者〉について――
1:希彦については思うところあり。ただ、何をやるにも時期ってもんがあらぁな。
2:と、なると……とりあえずは明日の朝まで、何としても生き延びんとな。
3:かーっ化け物揃いで嫌になるわ。二度と会いたくないわあんな連中。儂の知らんところで野垂れ死んでくれ。
[備考]
※〈恒星の資格者〉とは、冠位英霊の代替品として招かれた存在なのではないかという仮説を立てました。



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最終更新:2025年05月01日 23:10