コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

未知との遭遇

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匿名ユーザー

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「あぁもう…!イライラするでありんすねぇ……!!」


コンクリートジャングルに囲まれた街の中で、苛立ちを孕んだ声が響く。
カラメルを焦がしたように甘く、そして腐海の様に毒々しい声だった。
声の主は長い銀髪を片方に纏め、白蝋染みた白さの肌を、漆黒のボールガウンとフリルの付いたボレロカーディガンで包んだ、年幼い少女だった。
尤も、年幼い少女と言ってもそれは外見だけだが。
何故なら真紅の瞳を持つ彼女は吸血鬼であり、それも始祖(オリジン)に次ぐ最高位に位置する真祖(トゥルー)なのだから。


「さっきから小細工ばかり、下等な子供と耳長(エルフ)が…私を煩わせるなんて……!」


彼女の名はシャルティア・ブラッドフォールン。
ナザリック地下大墳墓第一、第二、第三階の階層守護者にして。
鮮血の戦乙女の異名を持つ、怪物である。


「怒っているのは、私の方だ……!」


その怪物、シャルティアが苛立っている原因が、目の前に立つ二人の子供だった。
一人は少年、一人は少女。何方も外見的にはシャルティアとそう変わりのない年齢に見える。
片方は長命種として知られるエルフであるため、外見相応の年齢では無いだろうが。
もう片方の少年はシャルティアよりも更に若く見える外見で、金髪金瞳の意思の強そうな少年だった。
青のマントに身を包んだ少年は、後方のエルフの少女を守る様にシャルティアと相対している。
そう、あちこちに傷を負って血を流しているが、相対しているのだ。
ナザリックの守護者序列一位。屈指のガチビルドであるシャルティアを前にして。
歴戦の冒険者であっても瞬きの間に、首を撥ねる事ができる彼女を前にしてまだ生きている。


「オヌシ…何故こんな殺し合いに乗った!」


金の短髪を振り乱して、少年──ガッシュ・ベルは叫ぶ。
彼はシャルティア以上に憤っていた。
何故なら彼は、魔界の王を決める戦いに参加し、破滅の子クリア・ノートとの最終戦が迫ったこのタイミングで拉致されたのだから。
よりによって魔界の存亡の危機のさなかに、である。
その上突然殺し合いをしろと命じられ、二人の兄弟があっさりと命を落とし。
その事に嘆き怒っている時に出会ったのが後ろのエルフの少女だった。
エルフの少女は殺し合いに乗っていないとの事だったので、早速協力を求めた。
彼女はガッシュに支給されていた赤い魔本に興味を示し、その閲覧を条件に協力を了承した。
驚いたのはその直後の事だ。
何故ならガッシュのパートナーである高嶺清麿にしか読めない筈の魔本を、少女は読んで見せたのだから。
何故読めたのか尋ねてみても、少女にもよく分からないとの事で。
ともあれ、清磨が此処にいれば合流するまで、もしいなければ彼女の力を借りる事になるだろう。
そう思って、いくつかの術を実演して見せたりもした。
そんな時に現れたのがシャルティアだ。



「何故って…元々そういう催しでありんしょう?これは
お前は虫けらを踏み潰す理由を一々尋ねるお年頃でありんすか?
……おっと、こんなことを言ったら奴におこられそうでありんすね」


シャルティアを一目見ただけで、危険な存在だとガッシュは直感した。
彼女に出会った瞬間幻視したのが、外ならぬクリア・ノートだったからだ。
その第一印象の通り、開口一番シャルティアの出した提案はろくでもない物だった。
何方か一人、荷物持ちをやるなら見逃してやってもいい。彼女はそう言った。
やらない方はどうするのか、と尋ねれば、短く、殺すと彼女は言ってのけた。
他人を殺す事に何の感慨も沸いていないその様は、正しくクリアの同種と言えた。


「人は虫では決してない!!殺してよいはずがないであろう!!」


小馬鹿にするようなシャルティアの態度に、ビリビリと空気を振るわせて。
ガッシュは仁王の様に怒りを露わにする。
笑いながら命を奪う海馬乃亜やシャルティア、彼女の言う主であるらしいアインズが彼には許せなかった。
絶対に、屈するわけにはいかない。
その両眼に強い意志を秘めて、ガッシュはシャルティアを睨みつける。


「喧しい小僧でありんすねぇ。私だってアインズ様以外の命令を聞くなんて嫌でありんす。
でも──奴の言う『願いを叶える権利』が本当なら小僧共を蹂躙する価値はありんしょう?」


この地に来る以前、シャルティアは失態を犯していた。
ワールドアイテムが相手とは言え、敵に操られ、主であるアインズに剣を向けたのだ。
無事主が操られた自身を倒し、洗脳を解いた後、慈悲深き裁定を行った事でお咎め無しとなったが…
それでもシャルティアは欲していた。
主の慈悲深き裁定に応える事ができるだけの功績を。
そんな時に、このバトルロワイアルに巻き込まれたのだ。
もし、乃亜の言う事が本当であるのなら。
愛しき主であるアインズの願いを叶える事もできるかもしれない。
至高の41人──自身の創造主であるペペロンチーノ様とだって、再会させられるかも。
その後、用済みになった海馬乃亜は後ろから刺し、たっぷりと返礼をすればいい。
シャルティアはそう考えて、殺し合いに乗った。



(そう──アインズ様も言っておりんした。力で超える者には知恵で勝て、と)


前提として。
シャルティアは海馬乃亜を見下していたが、彼の力まで見下している訳ではない。
自分やナザリックの守護者たちに一切気取られずにここまでシャルティアを拉致してきたのだ。
何らかのワールドアイテムを用いて居るのは確実。
加えて、自身の武装は全て没収されている上、爆弾付きの首輪まで嵌められている。
本来であれば首輪サイズの爆弾で真祖の吸血種である自分が死ぬはずはないが、目覚めてからどうにも調子が悪い。
推察するにこれが制限とやらなのだろう。
そんな有様で、それでも大丈夫だと楽観視する気には今のシャルティアはなれなかった。
逆に言えば、殺し合いを制覇しナザリックへと戻り、此度の事を報告すれば敬愛する主は必ず乃亜に然るべき鉄槌を与える筈。
彼女はそう信じていた。
故に、現段階では乃亜に従うのが得策。
元より、ナザリックに纏わらない下等生物を殺すことに何の感慨も無い。


「そんなワケないであろう!!オヌシがそれでも殺しあいをすると言うなら…
ワタシがオヌシをここで止めて見せる!!」


そんな自分の考えも一蹴して、目の前の小僧は出会った時から憤るばかり。
鬱陶しいので後ろのエルフ共々二秒で殺してさっさと殺して次に行こう。
そう決めて、蹂躙を開始した筈だった。
だが──戦闘開始から五分、まだ目の前の二人のガキは生きたままでいる。


「ヌゥゥウウウウアアアアアアア!!!!!」


咆哮と共に、ガッシュがシャルティアに突撃する。
気合ばかりの雑な突撃だ。自殺と変わらない。
当初シャルティアはそう考えたが、それは誤りだった。
ヒュッと風切り音が鳴り、ガッシュの拳が空を切る。
がら空きになったボディをシャルティアが軽く撫でれば、それで終わりだ。
しかし、ガキン!と金属音のような音を立てて、シャルティアの腕は受け止められる。



(見た目に依らず硬い!それにガキの分際で、私に追いすがるだけの実力はある)


シャルティアは横薙ぎの手刀によって、ガッシュの腸をぶち撒けようとした。
だが、彼の纏っていたマントは蛇のように自在に動き、また鋼鉄を軽々切り裂くシャルティアの手刀を見事防いで見せたのだ。
中々に高名な装備なのだろう。自身が制限とやらで普段ほど力を発揮できないのもある。
加えて、マントを装備するガッシュ自身も、シャルティアに追従するだけのパワーとスピードがあった。
単純なフィジカルだけで言えば、レベルは70、もしかすると80はあるだろうか。
子供の齢でそれは驚異的だが、一騎打ちならレベル100のNPC足る自分に分があるとも思える相手ではあった。
……後ろの、エルフさえいなければ。


「ジケルド」


後ろのエルフは無表情で、呟くように呪文を唱える。
そのタイミングはどれもシャルティアがガッシュの攻撃を避けたり、
或いはシャルティアがガッシュに向けて攻撃をしたタイミングを縫う様な詠唱だった。
シャルティアの戦闘スピードを考えれば、好機が来てから呪文を唱えるのでは遅すぎる。
彼女とガッシュの動きを読み切った上で、先読みして唱えなければできない芸当だった。


「鬱陶しいんだよっ!たかだか第五階位程度の魔術師が!!」


シャルティアの苛立ちの種は正にこのエルフにあった。
魔力量は転移した先の世界では人の英雄級ではある。
だが長命種であるエルフで言えば殊更突出したものではない。
それなのに奴が唱え、ガッシュという小僧の放つ魔法が自分への妨害として機能している。
バチリ、とガッシュの口から放出された光弾。
それはガッシュの頭蓋を叩き割らんと振り下ろしていたシャルティアの右腕に命中し、光を放つ。
ガクン、と常人には目にも映らぬ速度で振るわれていたシャルティアの腕が一瞬何かの力場によって停止する。
それは一秒ほどの時間だったが──ガッシュにとってその一秒は長すぎる。


「ヌウウウウウウアアアアアアッ!!!!」


ドンッッッ!!!
シャルティアの動きが一瞬スタンした隙を狙い、ガッシュは裂帛の気合を上げて突っ込んだ。
頭突きである。
子供らしい戦法であったが、決戦に向けて鍛え上げたガッシュの頭突きは今や砲弾もかくやの威力だった。
そのガッシュの頭突きがシャルティアの鳩尾に突き刺さる。



「ぐ───」
「ジケルド」
「ジケルド」
「ジケルド」
「ジケルド」


その攻撃を受けた一瞬に食い込む様に、エルフの少女は矢継ぎ早に呪文を唱える。
唱えるは磁力を用いた魔法。
現代の市街地であるこの場所は、強力な磁力が発生すれば引き寄せる物体は幾らでもある。
尤も、現代の街並みになじみの薄い彼女がこの魔法をチョイスしたのは。
最初にガッシュと出会い魔本を開いた際に、実験で唱え、たまたまその威力を確認できていたから、と言う理由に過ぎないが。
レベル100のNPCであり、高い魔法耐性を有するシャルティアには彼女の唱える術では一秒しか効果を発揮しない。
制限が科されていてなお、だ。
だが、重ね掛けする事により、数秒だがシャルティアの動きが完全に停止する。


「テオザケル」


動きが停止した一瞬の間隙を突く詠唱。
直後、雷鳴が轟いた。
ガッシュの背丈を超えるレベルの電撃が、シャルティアを貫く。
しかし───、


「ざぁあああぁぁあああんねぇぇええぇぇえええんんんんでしたああぁぁあああぁあ!!」


雷撃の壁を、シャルティアは狂的な笑みを浮かべて突き破ってきた。
効いていない訳ではない、確かに、有効打ではあった。
ただそれは無効化されない程度、シャルティアがダメージと感じる下限を少し超える程度でしかなく。
この程度でアンデッド・吸血鬼である彼女は行動不能にすらならないのだ。


「ウヌウ!!」


即座にガッシュは防御姿勢を取るが、シャルティアの目標は彼ではない。
「ヌオオオ!」という叫び声を聞きながら、両手を交差し身構えるガッシュを踏みつけ飛び越えて進軍する。
まずは雑魚のくせに鬱陶しい後衛から始末するべき。彼女はそう判断した。
呪文のサポートさえ無くなれば、あの程度のガキ一人物の数ではない。



「さぁ──蹂躙を開始しんす」


エルフの魔法詠唱者は魔法を用いて慌てて後方へ下がるが、シャルティアからしてみればまだまだ遅い。
鼻歌混じりに追いついて、文字通りその小さな五体をバラバラにできる程度の速度だ。
あのエルフを一秒で肉塊に変えた後、後ろのガキも血祭りにあげる。
間近まで迫ったその未来に美貌を醜悪に歪め──違和感に気づく。


(───気に入らねぇ、何だその顔は)


シャルティアという死の具現が迫ってもなお。
エルフの少女は、冷徹にすら思える視線で眼前の敵を見据えていた。
シャルティアを敵として前にした者は、例外なく恐怖に顔を歪めていなければならないのに。
だというのに、何故。まるで全て想定通りという顔で此方を見ている──!
この手で引き裂くのは辞めだ。掌に魔力を籠める。
あのエルフが何を企んでいようと、確実に蹂躙できるだけの札を用意する。


<<清浄投擲槍>>


選んだ処刑方法は魔力消費で必中となる信仰系魔法に連なるスキル、清浄投擲槍。
本来アンデッドの系譜である吸血鬼だが、職業は神官職を高レベルで修める彼女だからできる離れ業だ。
これを放てば、エルフの命は確実に潰える。その自負があった。
実際に、シャルティアのその見立ては間違っていなかった。
彼女が放とうとしていた戦技は、単純な攻撃力で言えばエルフの少女を三度は殺せる威力だった。
尤も──放つことができれば、の話であるが。


(発動───しない!?)


エルフの命を穿つはずだった聖槍は、発動しなかった。
どう言う事だと、シャルティアは僅かに混乱する。
だが、眼前のエルフを確認しなおした瞬間、合点がいく。
エルフの少女は、先ほどまで手にしていた魔導書だけでなく、もう片方の手に杖を備えていた。
そして、その杖を此方に指向していた。


「どこまでも無駄な小細工を、だったら──」


エルフの実力的に自分の魔法の発動をキャンセルできるほどのスキルは無いだろう。
となれば、恐らく支給品と見られる杖に絡繰りがあるはず。
伝説(レジェンド)級か神器(ゴッズ)級かは手に入れてみないと分からないが。
兎も角、呪文を封じられたシャルティアの取るべき手段は一つだ。



「望み通り、直接ずたずたにしてあげまちょうねぇぇえええぇえええええ!!!」


魔法やそれに関わるスキルを用いず、この五指でひき肉にしてくれる。
当初の予定通り、何も問題は無い。
脚部に少しばかり力を籠めて、杖を向けながら後退するエルフに一瞬で肉薄する。
華奢な肉を切り裂くべく腕を振り上げるのと同時に、杖を向けるエルフが何某かの魔法を唱えるのが聞こえた。
馬鹿め、貴様程度の魔法詠唱者(マジックキャスター)が放つ魔法など痛痒にもなるかよ。
自身の力を過信したまま──地獄に落ちるがいい。



「魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)」



鈴の音の様な、清廉さを感じさせる声が響いて。
直後、シャルティアの振り下ろそうとしていた右腕が消失した。


「……は?」


ぱちくりと。目を瞬かせて。
信じられないと言った様相で亡くなった右腕を見やる。


「ええええええええ!?な、何でぇええええええ!?!?」



ありえない。こんな不条理があり得る筈がない。
確かに、此方の見立てでは奴の魔法詠唱者としての実力は精々が第五階位程度だったはず。
それが自分の魔法耐性を貫通して、右腕を吹き飛ばすなどありえてはいけない。


(チクショウ!一体どういうことだ!このガキ一体どんな手品を──)


この程度の相手には負けない。シャルティアにはその自負があった。
何しろ、強くあれと生み出されたから、強くなるための努力などしたことがないと公言していた彼女だ。
魔法が使えなくなったのはまだいい。支給品の力に依る物だと理解できる。
だが──偉大なるアインズ様なら兎も角、この程度の魔法詠唱者に負けるはずがないのに!





「魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)」



…結論を言えば。
彼女のその自負は、相対するエルフの少女にとってはクソの様な驕りと油断だった。
だが、一概にシャルティアを責めるわけにもいかない。
何故なら、そのエルフの魔法使いは、シャルティアが生まれるずうっとずうっと以前から。
魔族を欺くことに千年と言う、悠久の時を費やし生きてきたのだから。
侮らせろ、実力の多寡を誤認させろ。
それが彼女の師である人類の魔術開祖、フランメの教えだった
当然ながら、彼女が欺くだけが能の魔術師かと言われれば、そんなことは無い。
彼女こそ、魔王討伐者である勇者ヒンメルのパーティーが一人。
正しく、生ける伝説とさえされる魔法使いだ。
シャルティアに向けて撃った魔法も、ただの魔法ではない。
少なくとも、シャルティアにとっては。
腐敗のクヴァールという、魔族としての格であればシャルティアに劣らぬ大魔族。
彼のクヴァールが生み出したのが、人を殺す魔法(ゾルトラーク)という傑作魔法である。
あらゆる魔法耐性や魔法の防具を貫通し、直接触れた物を消し飛ばすこの魔法によって、
当時大陸の冒険者の四割、魔法使いに至っては七割が命を落とした。
対抗手段はゾルトラークから派生した防御魔法による防御のみ。
クヴァール封印後、ゾルトラークの研究・体系化に多大な貢献を残し。
そして、有史で最も多くの魔族を葬り去った魔法使い。
故に、少女の二つ名は『葬送』。
彼女の名は、葬送のフリーレン。



(───完全に不意を突いても対応されたか…間違いなく七崩賢、それもマハト並みだな)



目の前の相手が脅威と感じたのは何もシャルティアだけではない。
フリーレンもまた、眼前のシャルティアが恐るべき相手である事を認識していた。
彼女がシャルティアの右手を吹き飛ばせたのは、偏に支給されていた杖と、ゾルトラークと言う魔法が敵手にとって未知だった事だ。
王杖(ワンド)と名付けられたその杖は敵の魔法だけを封じ、一方的に攻撃が可能になる代物だった。
これが無ければ、フリーレンの戦いは更に厳しいものになっていただろう。
加えて、放ったゾルトラークも本当ならば右腕どころか半身を消し飛ばす筈だったのだ。
それが右腕一つで押さえられた。フリーレンにとっても冷や汗を禁じ得ない相手だった。
もし杖のない状態で一対一を興じていれば、七割方殺される、その領域の怪物だった。



「この淫売の耳長がッッ!!腸を引きずり出してして生きたまま狗の餌にしてやるッッ!!」


既に右手を失ったショックから復帰し、激高する吸血姫。
だが、フリーレンは動じなかった。
何故なら、既に彼女の背後には───


「ヌウウウウウウオオオオオオオ!!!!」


ガッシュが追い付いている。
彼と、シャルティアの射線が重なっている。
短フリーレンは王杖を握る右手の反対側──左手に備えた魔本を煌めかせた。
どこまでも冷静に、冷徹に、ダメ押しの一撃を見舞う。


「バオウ・ザケルガ」


一切の抵抗を許さず。
二秒後、ガッシュの口から現れた巨大な金色龍が、シャルティアの全身を食い破った。







「ゼェ…ゼェ……あの糞エルフがぁ……」


右腕を吹き飛ばされ、全身を金色の龍に食い破られて。
それでもなお、シャルティアは生きていた。
とは言え、あのまま戦い続けていればよくて相打ちだっただろう。
最強として生まれたはずの自分が、此処まで不覚を取ったのは二度目だ。
不覚の代償で、創造主たるペペロンチーノから賜った服はあちこち焦げてしまっている。
怒りで脳が沸騰しそうになるが、何とか堪えた。
あのエルフの使った魔法や金髪の小僧が使った金色龍の魔法は間違いなく第十位階のそれだ。
魔法の格だけではない、魔法詠唱者本人の格も相当な物だった。
今のシャルティアは信仰系魔法やその他に仕える魔法が大半制限されており、愛用の武具であるスポイトランスや真紅の鎧すら没収されてしまっている。
喪った右腕を回復すべく回復魔法をかけ続けてはいるが、無くなった腕が再び生えてくるまでに一日はかかりそうな程遅々たる回復速度だった。
そして、あの金色龍の魔法によりHPも八割がた吹き飛ばされている。
何とか撤退に成功はしたが、この体たらくで再びあの二人組に挑んでも、返り討ちに遭うのがオチだろう。


(一先ず、もしこの会場にあるなら私の槍と鎧を取り戻すことが先決!あのエルフに借りを返すのはその後!!)


優先順位を見誤るな。
自分の私怨よりも、偉大なる御方達から賜った武器の奪還を優先しろ。
煮えたぎる怒りに無理やり蓋をして。
シャルティアは現段階で己が為すべきことを強く定義する。
しかしそれでも───


「糞がッッッ!!!」


もし、ペペロンチーノ様から貰った槍と鎧が下等な人間などが振るっていれば。
己の血の狂乱を抑える事はきっとできないだろう。

手負いの獣こそ最も恐ろしいのだと、誰かが言った。


【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】
[状態]:怒り(極大)、ダメージ(大)、右腕欠損
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:優勝する
1:スポイトランスと真紅の全身鎧を見つけ出して奪還する
2:自分以外の100レベルプレイヤーと100レベルNPCの存在を警戒する
3:武装を取り戻し次第、エルフに借りを返す。
[備考]
アインズ戦直後からの参戦です。
、魔法の威力や効果等が制限により弱体化しています。
その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。




「ま…待つのだフリーレン!」
「……どうしたの、ガッシュ。本はもう返したはずだけど」


シャルティアという稀代の怪物が逃げ去り。
先ほど襲われたばかりだというのに別れて立ち去ろうとするフリーレンを、慌ててガッシュは引き留めた。
今しがたあの怪物の特大の恨みを買ったばかりだというのに、フリーレンは一人で行こうとしている。
もし、シャルティアが引き返してフリーレンを襲ったら。
そう思うと、ガッシュは放って置くことができなかった。
しかし、当のフリーレンの顔は涼しげなもので。


「大丈夫、あの魔族の魔力はもう覚えた。近くに来たら直ぐに逃げられるから問題ないよ」
「ウヌウ…しかしだなフリーレン……」
「ガッシュこそ、いいの?」
「?」
「最初に言っておくけど、私はあの魔族を殺すつもりだ。
それに向こうもほぼ間違いなく私を殺すつもりだろうね」


何でもない様に、殺害宣言を口にするフリーレンにガッシュも目を剥く。
そして、大声を上げて彼女の決定に反論しようとした。
だが、フリーレンはそれよりも早くガッシュの口に一指し指をあてて。


「言いたいことは分かるし、私もそれを否定するつもりは無いよ、ガッシュ。
でも、あの魔族を相手に殺さずに事を収めるのは私には無理だ。
そして…あの魔族はきっとこれからも殺し続けるだろう」


相手が此方の命を狙ってくるからと言って報復で殺してしまうのなら。
それはこのゲームをある種肯定する事になってしまう。
この幼き少年は、そういう類の事を言いたいのだろう。
フリーレンはその考えを否定はしないけれど。
魔族にその考えが届くことは無い。
思考で理解する事はあるかもしれないが、彼等が心で理解する時は来ない。
千年以上、そうだった。
だからフリーレンは、優しき少年王の考えに寄り添う事はしない。



「…ね。私たちは一緒にいない方がいい」


その言葉だけを残して、フリーレンはガッシュの場を去ろうとする。
だが、それで止まるのなら。ガッシュ・ベルは優しい王様を志したりはしない。
ぎゅっとフリーレンの服の袖を掴んで、そして彼は言葉を紡ぐ。


「待つのだ、フリーレン」
「……まだ、何かある?」
「オヌシが無理だというならそれでもいい。
だが、私があのシャルティアを止めて見せる。…私に任せてくれ」


言葉を受けて。
フリーレンはガッシュの大きな瞳をじっと見た。
彼の瞳は、どこまでも真っすぐで。
意志の炎に満ちていた。
暫く視線を交わした後、彼女はぼそりと呟くように。


「…好きにすると言い。ただし、介入するかどうかは私が決める。
ガッシュじゃ無理だと判断したら、私は迷わず手を下すから。それを忘れないで」
「……ウヌ!!」


力強く頷くガッシュを尻目に、またフリーレンは歩みだした。
先ずは首輪を外さなければ、ここから抜け出すことはできない。
となれば、外せる人材を探すことが最優先事項だろう。
今後の段取りを頭の中で考えつつ──追従するガッシュの方を一瞥する。


(……ガッシュ、君は───)


…そもそもが。
僅か五歳の子供に、七崩賢に匹敵する魔族相手に前線を張らせる。
普段のフリーレンらしからぬ行動だった。
その真意は、いざガッシュが襲ってきた場合、二人纏めてゾルトラークで消し飛ばせるようにするためだった。
彼女は、ガッシュ・ベルという少年の事を根本的な所で信用していなかった。
何故なら、彼はシャルティア以上に、フリーレンの既存の価値観を揺るがす存在だったのだから。


(───一体、何だ?)


フリーレンをして瞠目するほどの金色龍の魔法。
そして、これまでの数々の言動。
まるで人の心を理解したかのような。立ち振る舞い。
ありえない、と思った。
驚くガッシュの言葉は気にせず、そっと頭を撫でて確認する。
髪の毛をかき分ければ、そこには魔族の証である角が生えていた。




彼女の世界において、未だ人の心を真に理解した魔族は、存在しない。





【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]全身にダメージ(小)
[装備]赤の魔本
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める
1:フリーレンと、戦えぬ者達を守る。
2:シャルティアは、必ず止める。
[備考]
クリア・ノート戦直前より参戦です。

【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める
1:ガッシュ、君は…
2:シャルティアは次に会ったら恐らく殺すことになる。
[備考]
断頭台のアルラ討伐後より参戦です
一部の魔法が制限により使用不能となっています。

【王杖(ワンド)@金色のガッシュ!】
此方の魔法は使用可能なまま、五十メートル以内の魔物の魔法を封じ込める王の杖。
非常に強力だが本ロワでは制限により一度使用すると六時間経過するまでただの杖となる。


069:霧と雷 投下順に読む 092:レイプ
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START ガッシュ・ベル 020:燃えよ失意の庭
START フリーレン
START シャルティア・ブラッドフォールン 036:かけ違えた世界で

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