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シークレットゲーム ーKILLER QUEENー

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「な、なんで...日番谷くん?」

紗寿叶は腹部から感じる痛みよりも、日番谷の行動への疑問で頭の中を埋め尽くされていた。

どうして彼が自分を刺したのか。
いや、そもそもこれは本当に自分の知る彼なのか?
なんで刀じゃなくて素手?

「恨みはねえが、悪く思うなよ」

浮かんだ疑問も、すぐに塗りつぶされる。
腕が抜かれると共に、視線が交わる。
今まで見たことのない冷めた目だった。
その目を見た時、ああ、そういうことかと彼女は思う。


―――日番谷くんは疲れてしまったんだ。

もう諦めちゃったんだ。
だから、抱えきれなくなって私を切り捨てた。


...でも、どこかで仕方ないと思う私もいた。

日番谷くんは私の為にずっと気を張ってきた。
なのに私はなにも返してあげられなくて。
そんな中で私たちの中で悟飯くんに毒を盛るような裏切り者が紛れていて。
そして少し離れている間に悟飯くんも暴走してしまって。

もう全て投げ出したくなってしまうのもわかる気がする。

だってみんなを助けることを諦めてしまえば、強い日番谷くんならどうとでも出来るだろうから。

だから...彼を責めることなんてできない。



「な...なんで...日番谷さん?」
「と、冬獅郎、おまえぇ!」

美柑とケルベロスの悲痛な声が漏れると、日番谷はそちらに視線を向ける。
きっと、数秒後には二人も殺される。
わかっていても、非力な紗寿叶にはどうすることもできない。

(仕方ない、んだよね)

諦めと共に全身から力が抜けていく。
これが日番谷くんの為になるのなら仕方ない...


―――脳裏を過るのは、同じように目の前で腹を抉られたずっと歳下の男の子。

(―――違うッ!!)

走る激痛に堪えて、抜けていく力に逆らって歯を食いしばる。
離れようとする日番谷の腕を掴む。


「だめ、だよ。ひつ、がやくん」

『人、ごろ、しなんて、やめろよ...』

「『ひと、ごろし、なんて、やめろよ』」

繰り返す。
彼の遺したあの言葉を。

『そんな、こと...しても、よ...』

「『そんな、こと...しても...よ...』」

紗寿叶は見ている。
元太を看取っていた時の日番谷の顔を。

紗寿叶は忘れない。
元太に救われた恩を。彼が決して恨みを残さなかったことを。

紗寿叶は知っている。
元太が、なんのために自分を殺した少女に言葉をかけたのかを。


『は、ら...減って...悲しい、だけだ、ぜ』
「『は、ら...減って...悲しい、だけだ、ぜ』...あの子の、ことば、わすれちゃったの?」

だから、彼女は着飾り、完全に再現した。

あの時の後悔を無かったことにしないために。
小嶋元太の意思を無駄にしないために。

最後は、彼の願った、みんなでおなかいっぱいに笑える未来を掴むために。

そんな、この世に再び再現させた少年の言葉は

「―――えっ」

日番谷冬獅郎―――否、エンジェロイド・カオスの心を微かに揺らす。


『...どうやら、紗寿叶さんはなにかを企んでいるようですわね。それも私たちに都合の悪いことを。構いませんわ。予定とは少しズレましたが、ここを彼女たちのお墓にしてしまいましょう』
『ただ、もしも私たちの予期せぬことが起きてこのことが露見されれば少し面倒ですわ。念のため、日番谷さんに姿を変えてから殺してくださいまし。向こうも警戒せずに来てくれそうですし。そうそう、それと死体も見つかりにくいところに隠すのも忘れずに』

沙都子の判断は早かった。
紗寿叶が自分たちに嘘を吐いてまで身を隠した、という時点で、既に彼女たちをこれ以上野放しにするのは危険が伴うと判断し、カオスに改めて始末を依頼した。
カオスは沙都子の指示に従い、日番谷に姿を変えた上で殺しにきたのだが―――

(どうしてわかったの?)

紗寿叶の言葉にカオスは思わず目を丸くした。

別に、今更人を殺すことに躊躇いがあるわけじゃない。
けど、確かに彼女は言った。

『お腹が空いて悲しくなる』

カオスが、シュライバーとの戦いの後からずっと苛まれていた空腹感を見破った。

カオスは誰にもこのことを打ち明けていない。
空腹感なんかで沙都子やメリュジーヌの邪魔をしちゃいけない、嫌われたくないと考えていたから。

だからこの空腹感は誰にも知られていない。そのはずだった。

だというのに。

有象無象だと思っていた目の前の少女は見破った。言い当ててみせた。

それが、ほんの少しだけカオスの興味を惹いた。

「ねえ、どうしてわかったの?」
「え?」

振り返り、問いかけてくる少年に紗寿叶は目を丸くする。

「私、お腹が空いてるの。ずっと。ずっと。ぐうぐうって」
「ひ、日番谷、くん?」

身体を苛む激痛すら頭から消える程に、紗寿叶は困惑する。
たしかに自分は彼を止めようとした。けど、こんな反応をされるなんて予想外にもほどがある。


「ねえ、教えてよ。ねえ、なんでわかったの?お姉ちゃんならどうにかできるの?ねえ、ねえ、ねえねえねえ」

詰めより、覗き込んでくる少年の瞳に紗寿叶は息を呑む。
冷めた目だと思っていた。
全てを諦めてしまったんだと思っていた。

だが、それは間違いだと思い知らされる。
そもそもの認識が違ったのだ。

この子は、日番谷くんじゃない!

そう気づいた時にはもう遅い。

「...教えてくれないなら、いいや」

ふっ、と声のトーンが落ちるなり、その顔に陰が差す。

同時に。

「おねぇちゃんを食べちゃえば、わかるかなぁ」

ちょうどお腹が空いている上に、死体の隠蔽もできるのなら好都合だ、とカオスは口を開いていく。

メキメキと音を立て、口端が裂けていき、徐々に上下に開いていき、日番谷の端整な顔立ちは見る影もなくなっていく。



頭を丸かじりにできるほど開ききった口に、立ち並ぶ牙に。
今まさに己を喰らおうとする捕食者を前に、少年からわけてもらった勇気も吹き飛び、紗寿叶は頭の中が真っ白になる。
いままさに目の前で行われようとする捕食現場に、美柑とケルベロスも身体が凍り付き悲鳴すらあげられない。

人は、突如突きつけられる圧倒的な恐怖を前にした時、全てを放棄してしまう。


抗うこともなく。
思考することもなく。
ありのままを受け入れることで己を慰める。



ゾ  わ  り



だが、その恐怖もまやかしにすぎなかったと思えるほどの悪寒に、美柑の、ケルベロスの、紗寿叶の―――カオスすらも背筋が凍てつく。


それは、突然だった。

大気が震え、大地は軋み、硝子が割れる。
不可思議で不気味な感覚に皆が戸惑う中、一人だけ既視感を覚える者がいた。

「悟飯くん...?」

その呟きに、カオスの胸中に不安が募る。

孫悟飯が雛見沢症候群にかかっているのはカオスも知っているし、沙都子も雛見沢症候群について熟知しているため、さほど心配はいらない。そのはずだ。
なのに、やけに嫌な予感がする。このままではなにか取り返しのつかないことになるんじゃないかと。

「沙都子おねぇちゃん!」

カオスは、直感に従い、その場を放棄した。
ここにいるのはその気になれば容易く殺せる塵芥だけ。

いまは一秒でも早く沙都子の無事を確認するべきだ。
カオスが玄関の方角へ高速で駆けていくと、残されたのは、深手を負った乾紗寿叶と、怯え戸惑う結城美柑とケルベロスだけだった。



はあ、はあ、と荒い呼吸が折り重なる。


「チクショウ...全然歯が立たねえ...!」
(やっぱり強い...動きは直線的なのに、それが防ぎきれない...!)


モクバとイリヤは疲労と重なる負傷で重たくなった身体を引きずりながら前を見据える。
戦局は防戦一方だった。
二人に悟飯を傷つけるつもりが無いとはいえ、それを差し引いてもまるで相手になっていない。

モクバはエルフの剣士の効果でなんとか致命的なダメージは負っていないものの、エルフの剣士が蹴り飛ばされた際の衝撃などは殺しきることはできず、ただの一般人には重たい負荷を何度も受けることで確かに体力を削られていっていた。

イリヤもまた、セイバーの力を身に宿している影響もあり、悟飯の殴打のダメージこそ和らげられているものの、それをほぼ一方的に幾度も受けていれば自然とダメージや疲労は溜まっていく。

対して、悟飯はこの戦いにおいてさしたるダメージや疲労も感じていない。

イリヤたちがロクな反撃に出れないのも相まり、雛見沢症候群により視野が狭まり、疑心暗鬼により引き起こされる憎悪と憤怒が彼から疲労を忘れさせていた。

だが、この戦場で誰よりも傷つき疲弊しきっていたのはこの三名ではなく。

「ご...悟飯くん...」

野比のび太。
この場の誰よりも貧弱で非力な彼であった。

彼は何度も悟飯に呼びかけ続けた。
何度も悟飯に止めるよう縋りついた。

その度に、彼は悟飯に振り払われては地に投げ出され。
立ち上がってはまた縋りつき、振り払われ地を擦り。
何度も何度もその繰り返し。

モクバやイリヤのように多少なりとも負担を軽減する術も持たない彼にとって、度重なる負担は確実にその貧弱な身体を蝕んでいた。

無論、イリヤたちもそんなのび太を無視していたわけではない。
しかし、悟飯から直接殺意を向けられ攻めたてられている彼らに、のび太のカバーをする暇などありはしなかった。


(無駄ですわ、のび太さん)

そんな彼を沙都子は冷ややかな目で見下していた。

いくら情に訴えようとしても無駄だ。

数多のカケラを見てきた彼女だからわかる。
悟飯は既に雛見沢症候群のレベル4を発症している。時間が経過すればレベル5になり、首を掻きむしり死に至る。
過去、ここまで症状が進行して、適切な治療も施さずに無事に済んだ例などたった一つしかない。

『仲間を信じろ!仲間を頼れ!』


竜宮レナと彼女を救った前原圭一。
彼ら自身の自覚が無くとも、悠久の時を経て、一筋の奇跡を掴み取った確かな絆。
きっとあの罪滅ぼしのカケラでの輝きは、自分と梨花が幾千もループを重ねてもそうそう見れるものではない。


(貴方では無理ですのよ)

沙都子は思う。
自分たちの絆は教科書で声たかだかに掲げられる上辺だけの薄っぺらいものなどではないと。

(わたくし達は互いに『罪』を抱えるからこそ仲間の『罪』に寄り添うことができた)

仲間想いの圭一も。
思いやり溢れるレナも。
献身的な魅音も。
愛情深い詩音も。

梨花も。
そして自分も。

みんながみんな、一人じゃ抱えきれないほどの罪がある。けれど互いに罪を受け入れ合ったからこそ、運命をも打ち破れる強く輝かしい絆を育めた。

(ソレを持たない貴方如きが、わたくしたちの領域に踏み込めるなどと思いあがらないでくださります?)

たかだが会って数時間程度の人間が、ぬるま湯に浸かってきた何の罪も重ねていないお上りさんがなぜあの奇跡を起こせると勘違いしているのか。

みんなおてて繋いで仲良くやりましょう。それだけで世界はへいわです。
そんな、クソの役にも立たない道徳の教科書しか読んでないお子様が、自分にもできると思い込んで挑むその姿は、自分たちの絆を虚仮にされているようで、見ていて腹立たしくなってくる。
今すぐにでもその脳天を撃ち抜いて思い上がりを正したい。

その衝動を腹に沈め、沙都子は悟飯へと視線を移す。


(御覧なさい、のび太さん。アレはオヤシロ様の祟りですわ。貴方如きが解り合えるなどと思いあがっていけない、私が作り上げた―――)

「い...いい加減にしてくれ...死にたいのか...!」

「ぇっ?」

沙都子は思わず声を漏らし、信じられないものを見たかのように目を見開く。
悟飯は、いま、確かにのび太を気遣うような言葉を発した。
なぜ?疑心暗鬼に陥ったいま、彼にとって邪魔をするのび太は敵のはずだ。

そんな疑問に答える間もなく、事態は進んでいく。

「さっきから邪魔なんだ!どうしてきみがこんな奴らの為に死のうとするんだ!こいつらは仲間を捨てゴマ扱いするような奴らなんだぞ!」

「悟飯くん...僕は...」

「いまだってそうだ!モクバなんか剣士に戦わせてばかりで自分から前に出てこようともしない卑怯者だし、ドロテアはあのままなら絶対に僕を殺してた!!イリヤはきみを利用しようして僕を追い出そうとするズルイ奴だ!なのになんで...!」

「きみを一人にしたくないんだよ!!」

苛烈さを増していた悟飯の言葉を遮るようにのび太の叫びが木霊する。

最初の同行者のロキシーが死んで直ぐの放送で告げられたスネ夫の名前。
そんな彼の死に対して悲しむよりも怒ってくれたというのを聞いて、のび太は嬉しかった。

自分は悲しみ絶望するだけだった。そんな自分にできなかったことを、悟飯はしてくれた。
会って少しの人に、そこまでしてくれた。

のび太にとって、それは悟飯を信じる理由として充分だった。

だがこのまま悟飯が激情のままにイリヤたちを殺してしまえば、彼の優しさが嘘になってしまうようでイヤだった。
わけのわからない病気なんかのせいで、彼を悪者なんかにしたくなかった。

「このままじゃ...なにも信じられなくて、きみが独りになっちゃう...そんなの、ダメだよ」

みんなにも言った、目の前でもう誰も死んでほしくないというのも。
ここまで皆を護ってくれたイリヤに傷ついてほしくないのも。
悟飯の優しさを嘘にしたくないというのも。

全部一緒だ。
非力な彼には過ぎた願いだ。
それを叶えたいと、のび太は本気で願っている。


「悟飯くんがみんなを信じられないなら、僕が信じられるようにする」

だから、例え弱くても立ち向かう。
どれだけ地に這いつくばっても立ち上がる。
拒絶されようとも放っておけないと何度でも手を伸ばす。

「みんなが、悟飯くんを信じないっていうなら、僕が信じさせてみせる」

ふらふら、ふらふら、と覚束ない足取りで、それでも確かに悟飯のもとへと歩いていく。

その一歩一歩に、悟飯の顔が歪み、悲痛の色に染まる。

それを見つめるモクバとイリヤは、ただその結末を固唾を呑み込み見守っていた。
のび太を心配する気持ちは多いにある。
けれど、既に悟飯に敵視されてしまった以上、自分たちの声はもう届かない。火に油を注ぐだけだ。
のび太は違う。彼の言葉は確かに届いている。
悟飯は、のび太だけは敵とみなしていない。
だから、もうのび太に賭けるしかなかった。

ざっ    さっ

近づく。

近づく。

ザッ ザッ ザッ

のび太が二歩近づく度に、悟飯が怯えたような表情で一歩下がる。
だが、その距離は徐々に、確かに近づいている。


(なんですの、これ)

その光景を見ていた沙都子は、額に青筋を浮かべたい気分になった。
先述した通り、レベル4まで進行した雛見沢症候群は適切な治療方法を施すしか安全なレベルまで引き下げる術はない。
故に、悟飯を説得することなど不可能なはずなのに。
これではまるであの奇跡を起こせるようではないか。

(ふざけないでくださいまし。こんな茶番劇、絶対に成功するはずがありませんわ)

のび太は確実に失敗する。
このあと、悟飯に振り払われて、それでおしまい。
そのはず。そのはずだ。


だが。もしも。万が一にも成功するとしたら。

(そんなの―――認める訳にはいきませんわ)

たかだが一つの命を賭けただけであの奇跡を起こせると思うな。
沙都子の中では、既に、悟飯がのび太の手を取った場合の策が出来ている。
それの準備はできている。

そして、のび太と悟飯の距離が、腕一つ分まで迫る。

「悟飯くん。僕は...絶対にきみの味方だよ」

のび太の手が伸ばされ。

沙都子が動き。





「うるさい!!!」


悟飯は、叫びと共に、のび太を突き飛ばした。

吹き飛ばされた先で、のび太が壁に激突し、ずるりと地に落ちる。

それを見た少女は、薄く微笑んだ。




のび太さんが怖かった。


「きみを一人にしたくないんだよ!!」


どうしてあんなに弱いくせにこんなに頑張れるのか。

「このままじゃ...なにも信じられなくて、きみが独りになっちゃう...そんなの、ダメだよ」

どうして強い僕を放っておかないのか。

「悟飯くんがみんなを信じられないなら、僕が信じられるようにする」

わけがわからない。僕だって、もしもお父さんが似たようなことになってたら、絶対に護りたいと思う。
でも僕らは会ったばかりじゃないか。

「みんなが、悟飯くんを信じないっていうなら、僕が信じさせてみせる」

だから怖い。目が開けれなくなるほどに。

「悟飯くん。僕は...なにがあっても、絶対にきみの味方だよ」

その言葉が信じられない。

だから僕は目を瞑ったまま、彼を突き飛ばした。さっきよりも、うんと強く遠ざけた。


「さっきから邪魔だって言ってるだろ!なんでわからないんだ!!」

そして栓を開けたボトルみたいに、お腹の中から漏らしちゃいけないものまで込みあがってくる。

ずっと隠してた。ずっと隠さなきゃいけないと思ってた、心の底に隠していたドス黒いモノ。

「どうして僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!!」

向けられる視線が銛のように突き刺さる。よほど僕のことが怖いんだろう。
でも、もうまわってしまったものは止められない。

「僕はただ、みんなのために頑張ってきただけなのに、ずっと僕の事をおかしいやつだって決めつけて!!成果を出せないからって、腫物を扱うようなことをしてきて!変な毒で殺されることになって!!なのにみんなを信じろだなんてふざけるのもいい加減にしろ!!」

ああ、そうだ。僕が最初から言いたかったことはこれなんだと思うとなんだかかえってスッキリしてくる。

シュライバーたちマーダーだけじゃない。

僕の事をずっと怖がってる美柑さんも、ケルベロスも。
行動全部が疑わしいイリヤさんも。
仲間を見捨てた癖に口だけはペラペラとまわるドロテアやモクバも。
いつの間にか僕を置いて逃げた日番谷さんも。
うるさいだけで僕にはなにもしてくれないカオスも。
裏切らないと言ったのに、ここまでなにもしてくれないし毒を盛ったかもしれない沙都子さんも。
最初に僕と喧嘩したのに、今更頼りになるような言葉を吐くのび太さんも。


「みんな、みんな―――大嫌いだ!!!!!!」

叫びが木霊し、はあはあと僕の荒い息だけが耳を支配する。
言った。言ってしまった。

でも、これでもういいだろう。
どうせ僕はこのままだと死ぬんだ。先の事なんて、考えるだけ馬鹿らしくなる。

そうだ。もうどうでもいい。
どうして嫌いな奴らまで。
友達の為だろうが殺し合いに乗った連中まで。
僕を護ってくれない奴らまで僕が護らなくちゃいけないんだ。

さっさと悪い奴だけ殺して終わらせよう。
そうすれば少しでもお父さんの力になれる。それでおしまい。
誰に嫌われようが知ったことじゃない。

だからもう邪魔をしないでくれ。どうせ死ぬんだから、最後くらい、好きにやらせてくれ。

僕は目を開けて、さきほど突き飛ばしてしまったのび太さんの方を見る。

ここまで言えば、鈍感な彼も諦めてくれるだろう。

そんなある種の期待を込めて顔を上げた先で彼は。



真赤な水を流して動かなかった。

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