コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

幸運を。死にゆく者より敬礼を。

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まさか、竜と行動を共にすることになるとはね。
フリーレンはカルデアに歩を進めながら、心中でそう独り言ちた。
既に通常なら絶対に相容れぬ魔族にカテゴライズされる参加者と協力関係を築いているが。
全く長い人生、何が起きるか分からない。
そして、こう言った事はできれば少ない方がいいと思う。
集団の最前列をゆく、乃亜から支給された竜──ガブリアスを眺めてフリーレンは思った。



「どうでしょう、フリーレンさんの目からご覧になって、
私(わたくし)の見る限りでは、ガブリアスさんは危なくない様に見えるのですが……」
「…………あぁ、今のところは、ね」



普段通りの鉄面皮に、複雑な感情を滲ませて。
こっそりと耳打ちをしてきた桃華の言葉に、相槌を打つ。
フリーレンの常識で言えば、竜種もまた広義でいう人類の敵である。
人を襲い喰らう事もある危険な種族。勇者ヒンメルとの旅でも幾度も交戦した。
だからこそ、その竜種を“戦力“として数えるのは常識外れの事態である。
正直な心境を述べるのであれば、フリーレンには今もガブリアスを使う事に迷いがあった。
如何に手なずけていると言っても、羆や虎を心の底から信じ隣に置ける者は少ないだろう。
まして自分自身が手なずけた訳では無いと来れば猶更だ。



(アイゼンやシュタルクがいれば頼る事もなかったんだろうけどね)



無い物ねだりをしても仕方無いし、使える物は使うべきだと理解はしている。
フリーレンの目から見ても、目の前の竜は相当に強いのは明らかだ。
種族としての強靭さは元より、戦闘の経験値が群を抜いている。
立ち振る舞いや周囲の警戒など、節々からその事が窺えた。
だがやはり本音を言えば……人間の、もう少し信頼を置ける相手に前衛を頼みたかった。



(まぁもっとも……この場じゃ人間も信頼できるとは限らないか)



この地に参加させられている大多数の子供は人間だ。
そしてその人間の子供が、殺し合いを行っているのは間違いない。
写影達の言うドロテアの様な参加者や、砂使いの少年の様な参加者。
彼等の存在を考慮に入れれば、例え魔族でなくとも警戒は必要だろう。
だが、とは言え…やはりフリーレンからしてみれば、竜に命を預けるのは不安があった。
だからこそ、モンスターボールと言う球からあの竜を自由にするのに時間がかかったのだ。
きっと乃亜は、自分のそう言った部分を見抜いてあの竜を支給したのだろう。



(今はあの竜が、ガッシュと同じ私の常識の外の存在であることを願うだけだね)



フリーレンからしてみれば、乃亜にどんな仕掛けが施されているか分からぬ魔獣だ。
友好的と見せかけて、土壇場で凶暴化したり、そうでなくとも戦闘で負傷し……
その結果野生に還り牙を剥いてくる可能性だって、ない訳では無かった。
一定以上の竜種は高い魔力耐性を有している可能性が高く、最悪の結末もあり得る。
その為ここまで死蔵していたが、風向きが変わったのはピカチュウと出会ってからだった。
チーム分けの際、改めて支給品なども含めた各々の戦力を確認した時に。
ガブリアスの入ったモンスターボールに、あの愛くるしい電気鼠は強い反応を示した。
ピカピカと身体全体を用いて、必死にフリーレンに訴えてきたのだ。

このガブリアスは知っている。信頼できるポケモンだと。

ポケモンが話している事が分かるガッシュ。
それに加えてサトシからポケモンについての概要を聞いていた一姫がそれを補足した。
彼等はポケモンと言う、フリーレンの知る魔獣や魔族とは別種の人類の隣人である、と。
長らく人に世話をされ、人と共に歩んできた生き物である、と。
このガブリアスはシロナと言うチャンピオンに育てられた、とても強いポケモンだと。
信頼できるし、フリーレンらに危害を加えるなんて絶対にない。
その訴えの、特にシロナという人間に育てられたという部分にフリーレンは反応を見せた。
彼女に与えられたガブリアスの説明書に記載されていた情報を一致していたからだ。
僅かな逡巡の末、フリーレンはガブリアスを使ってみる事とした。




「………でも、できれば…写影辺りに“トレーナー”っていうのになって欲しかったな」



ぼそり、とぼやきを一つ漏らす。
フリーレンは当初ではこの竜は一姫達の護衛にと言う提案を行ったが、結局棄却された。
ガッシュ、桜、ピカチュウに加えて、ガブリアスまで割り振っては戦力が偏ってしまう。
精神の疲弊が強い写影や桃華を抱えている以上、均等に手持ちのカードは割り振るべきだ。
雄二も訓練を受けた自慢の弟だが、人を超えた超人達を相手に最前線を担わせたくはない。
強い前衛がいた方が、フリーレンの戦力としての強さは遥かに増すはずだと。



───私もパートナー役はガッシュで手一杯なの。ごめんなさいね。



最後に一姫はそう言って、フリーレンの案を棄却した。
なおフリーレンは食い下がり、ではコナンがトレーナーになればと言ったが。
その案も通ることは無かった。
肝心のガブリアスが、コナンの言う事を聞かなかったからだ。

強力なポケモン故にコナンをトレーナーとして認められなかったか。
それとも、ポケモンの所有権を持っているのがあくまで支給された本人に限り。
所有権が消えるのは、トレーナーが死んだ時だけではないかという仮説が立てられた。
実際に前の所有者が消えたピカチュウはコナンの指示を聞いた事がこの説を補強し。
同時にガブリアスを御せるのは、今はフリーレンだけという図式が成り立ってしまった。



───魔法を使わなきゃいけないフリーレンの代わりに、僕が指示を出すのは構わない。



一姫に押し切られ、ガブリアスを同行させるのが決定してから。
先ずフリーレンが指示した内容は「自分と写影の指示を聞け」という物だった。
コナンに言う事を聞かせるのが上手くいかなかった事からダメ元の命令だったが。
意外にも、ガブリアスは素直に肯いた。
恐らく本来の担い手が傍にいる前提かどうかで、乃亜の設定した判定が変わるのだろう。
真実はさておき、これでフリーレンはガブリアスへの指示と魔法を用いた戦闘。
そんな二足の草鞋を履く必要は無くなり、本来の戦闘スタイルに専念できる様になった。



───でも、あくまでボールを持っているのはフリーレンの方がいい。
───誰が考えたって、君が一番生き残る可能性が高いんだから。



未来視により危険をいち早く察知し、戦場を俯瞰して見れる写影が指示を出し。
いざと言う時に、戦闘の経験値が段違いのフリーレンが指示をスイッチする。
これはフリーレンの負担を減らすだけでなく、ガブリアスの為のリスクヘッジでもあった。
もし写影に完全に所有権を移した後、マーダーに写影が殺されガブリアスを奪われれば。
そのままガブリアスは人殺しのための道具として使われてしまう。
それだけは絶対に避けねばならない。だから、この中で一番強いフリーレンが従える。
以上が写影の述べた考えであり、フリーレンはそれを否定できなかった。
かくしてなし崩し的に竜を使役する事となり、今に至る。



「凄いね風見。本物の竜だよ。
学園都市の遺伝子操作でも、こんなの生み出せるかどうか………」
「あぁ美山。羆でも倒せそうだ。こんな恐竜みたいな生き物がいるなんてな…」



年の割には落ち着いていて、大人びているが。
それでもやはり少年的には惹かれる物があるのか。
雄二と写影、二人のガブリアスを見る目はフリーレンらにはない憧憬を伴っていた。





「…何なら、僕じゃなくて風見が指示を出してもいいと思うけど……」
「いや、俺はいざと言う時に敵を狙撃する役目があるから、美山の方がいい。
あ、でも…カルデアに無事着いて落ち着いたら、一度くらいはやってみたいな」



大人びている者同士で、不思議と馬が合うのか。
それとも、ガブリアスの存在が“かすがい“となっているのか。
写影と雄二はコナンの様に衝突することなく、並んで歩いていた。
きっとこの光景を一姫が見ていたら、後方で腕を組んでうんうんと頷いている事だろう。
そんな想像が、フリーレンの頭の中に浮かんだ。


「ガァウ」


少年達に「余り女性をジロジロ見る物じゃないわよ。おチビさん達」と言う様な声で。
ガブリアスが振り返りながら鳴き声をあげる。どうやら、説明書の通り雌である様だ。
和やかなやりとりを目にして、桃華が隣でくすりと笑い。
竜の敵意のない視線に複雑な感情を抱きながらフリーレンもまた、二人と一体を見つめた。



「………やっぱり、アンタからすると気になるのか?フリーレン」



と、そこで雄二がフリーレンの視線に気づき。
パンプキンを抱えたまま数歩後ろへ下がって、問いかけてくる。
やはり、訓練を受けているだけあって周囲の気配には敏感である様だ。
そんな評価を下しながら、フリーレンは雄二の問いかけに返答を返す。
細く形のいい指先で、雄二の抱えた銃を指さしながら。



「性能が良くても、いざと言う時に弾が出るか分からない。
もしかしたら、使った瞬間爆発するかもしれない…そんな武器を見る感じかな」
「…そう言われると不安になるのも分かるような気がするな」



フリーレンの話を聞いて、雄二の脳裏に二人の人物が浮かぶ。
片方は余り思い出したくはない人物だが。
ヒース・オスロが銃よりもナイフを好んだ理由も、確実性が多少関係していただろう。
まぁ、彼の場合直接獲物を仕留める実感を得られる利点の方が大きいのだろうが。
加えて師である日下部麻子もまた、きっと武器で一番大切なのは信頼性だと言うだろう。
自衛隊の官品全て国民の血税によって賄われていると豪語してやまない彼女だが。
国産機関銃だけは無い方がマシンガンだとか、言う事機関銃だとかぼやいていた。
その視点で言えば、確かに兵器で必要なのは威力の強力さよりも、
引き金を引けば確実かつ安全に弾が発射されるという信頼性なのかもしれない。



「でも、ガブリアスやピカチュウは銃(コレ)じゃない」



フリーレンの言葉に理解を示しつつ。
雄二が選んだ言葉は、それだった。
彼はガブリアスに、昔失ってしまった相棒を重ねていた。
ヒース・オスロの元から去り、擦れ切っていた自分に安らぎをくれた愛犬。
羆に襲われた際に、自分を守って死んでいったジョンの存在を。
フリーレンの事情も、概要を聞いただけとは言え理解はしている。
それでも、前を歩くガブリアスの姿を実際に見た上で。
あのハンディ・ハンディの様な邪悪と同一であるとは、彼には思えなかった。
だから、フリーレンにも警戒は解かずともいい。無理強いはしないと思いながら。
でも、あいつは兵器ではないという言葉を、はっきりと口にした。




「………そうかもね」



フリーレンは、自分のスタンスが間違っているとは思わない。
これまでの旅の中でも魔族を信じようとした人物は何人も見てきたが。
そのどれもが悲惨な最期を迎えてきた。だから、彼女だけは警戒を解かない。
協力を決めたガッシュですら、まだ一抹の猜疑心を残している。
そして、これからもその感情を完全に解くことは無いだろう。
だが同時に、この島にいる参加者がフリーレンの常識を超えた者達である事も事実。
それは認めなければ生き残る事はできないであろうことも理解していた。
だから、雄二の言葉にも異を唱える事無くそう返したのだった。
どこか緊張感のあった雰囲気はその言葉と共に弛緩して。
すぐ隣でやりとりを眺めていた桃華がほっと息を吐く。



「───みんな。ホグワーツが見えてきたよ」



丁度、その時。
その場にいる全員に向けて、写影が声を上げる。
ガブリアスと共に先頭を歩く彼に視線を向けると、彼は前方を指さしており。
その指先には、古城のような建造物が聳え立っていた。
位置的にホグワーツと言う施設で相違ないだろう。
そして、彼の施設を過ぎれば、カルデアまでは目と鼻の先の距離だ。
このまま何事もなく辿り着ければいい。全員の想いが一つとなる。



「───────…!」



しかし、その想いは残酷な形で裏切られる事となる。
瞬間、フリーレンの索敵能力が、ホグワーツ城の頂点に莫大な魔力を補足したからだ。
総量は少なくともリーゼロッテに迫る…否、殆ど同等の重圧。
フリーレンの卓抜した魔法使いとしての経験値が、最上級の警鐘を鳴らしていた。



「みんな。大きな魔力の持ち主が近くにいる。
急いでこの場から引き返すよ、最低でもガッシュがいなければ───」



あれだけの規模の力の持ち主と矛を交えるのは危険が大きく。
幸いにも相手の力が強かったお陰でそれなりの距離を保った状態で察知出来た。
故に選択するべきは三十六計逃げるにしかず。
目的であるネモやモクバがいるかも分からぬ場所に強行軍を行う必要性は薄い。
そう言った旨の話を、フリーレンは告げようとした。
彼女のその判断は正しい物だ。その選択に瑕疵はないと言っていい。
逃げると言う選択肢が、本当に実現可能だったかという点に目を瞑れば。



「速い────」



僅か、十秒に満たない時間でのことだった。
まず一秒で探知した魔力の持ち主が飛び上がり。二秒で加速。
続く五秒余りの時間で───敵手は、此方へと向かって爆進してきた。
魔力の反応は流星の如く一直線に迫って来る。人の出せる速度ではない。
鳥や隼ですら不可能だ。では、この速さの持ち主は噂に聞くシュライバーという輩か。
いや違う、一姫達からシュライバーが飛べるという話は一度も聞いてはいない。
となれば、フリーレンが知る中で候補となる参加者は一人しかいない。
シュライバー以外で、ここまでの殺意を放ちながら空から接近できるのは────




「竜、か」



魔力が接近してくる方向を睨んだ視界に最初に映った物は、芥の様な黒点だった。
だが、次の一秒でその輪郭は甲冑を纏った少女の物となり。
更に一秒で、少女が手の双剣を突き出している姿がはっきりと捉えられた。
理外の接近速度、その瞬間を以て撒くのは不可能だとフリーレンは判断を下す。



「───フリーレンッ!!」



フリーレンの次に凶兆を感じ取ったのは、写影だった。
戦慄を隠せない表情で、フリーレンの名を叫ぶ。
彼が持つ能力は既に聞いている。また何かが“見えた”のだろう。
少なくとも、フリーレン達にとって決して良い事でない何かが。
その上で、考える。コンマ数秒の刹那に等しい時間でフリーレンは思考を行う。
議題は次の自分の一手。即ち防御か、迎撃か。
解答権は一度切り、不正解を選べば正しい答えを選びなおす時間は、ない。



「全員、下がって」



到達まで五秒を切った時間の中でフリーレンは選択した。
死に物狂いで写影達が駆け寄るのを視界に入れながら、防御魔法を展開する。
迎撃を選ばなかったのは偏に相手の速度が速すぎたためだ。
もし外せば、次の一手は間に合わない。早撃ち勝負になればまず撃ち負ける。
あれ程の速度を持つ相手が、何の駆け引きもなく素直に当たってくれるとは思えない。
だから一旦防御を挟み相手の挙動を崩すしかなかった。
初手を凌げば、ガブリアスや写影の幻覚のサポートを受ける事ができる。
そうなれば、万全には程遠いとは言え迎撃の形は整うだろう────



「今は知らず(イノセンス)────」



だが、迫りくる脅威の。
最強の妖精騎士。ランスロット・アルビオンの。
彼女の最早マーダーである事は疑いようのない殺意を浴びて。
甘かったと、フリーレンは自身の判断ミスを悟った。



「───無垢なる湖光(アロンダイト)」



莫大な魔力で加速(ブースト)された、妖精剣アロンダイト。
それは神が放った槍であるかのように一直線にフリーレンらへと突き進み。
清廉なる声で真名の調べが奏でられると共に。
フリーレンが展開していた防御魔法が、一秒で砕け散った。
防御魔法は、物理的な圧力に脆弱である。
それでもフリーレンの物は下手な城壁よりも強固な防御魔法を展開できるが。
魔法としても剣閃としても無比の威力を誇る妖精騎士の宝具を受けては。
いかな葬送のフリーレンが操る防御魔法でもその身を守る事は叶わなかった。



これは、死んだ。




勇者ヒンメル、戦士アイゼンがいれば迎撃は叶っただろう。
共に世界を救った彼らであれば、例え妖精騎士ランスロットの一撃だとしても。
自分に絶死の神槍を届かせる事は、決してなかっただろう。
だが、彼らはこの島にいない。それ故に、フリーレンがこの攻撃を阻む術はない。
卓抜した魔法使いである彼女だからこそ、その事を確信してしまった。
処刑槍が迫る。



「フリーレンッ!!」



後数センチの所まで槍が迫った瞬間。フリーレンの耳朶を少年の声が打つ。
写影か?いや違う。この声はまだなじみの薄い声だ。
だから、つまり。そう考えている内に、ドンという音が遅れて響いて。
銃を地面に構えた雄二が、身体ごと押しのける様にぶつかって来た。
恐らく銃の反動を使ったのだろうと、フリーレンに何処か他人事の様な考えが過った直後。



「────ぁ」



たった一音の、短い響きの中に絶望の感情を乗せて。
バツン、と風見雄二は抱えていた銃ごと、袈裟懸けに妖精騎士に切り捨てられた。
肩から胸にかけてパックリと切り裂かれ、内臓が飛び出る。
致命傷だと、確かめずとも分かる惨状を目にし、背後で悲痛な声が上がるのを聞きながら。
それでも尚、フリーレンは行動に移していた。
今ここで固まってしまえば、雄二の死が無為に終わる。
努めて冷静にメリュジーヌに杖を指向し、最大威力のゾルトラークを叩き込んだ。






来たか。
ホグワーツ城の頂点に佇んでいたメリュジーヌは、静かに瞼を開いた。
孫悟空達がいるカルデアは、エリアの端の方に位置する。
到達できるルートは限られる為、高所で見張れば近づく者を補足するのは難しくない。
或いは今近づきつつある集団はこのホグワーツ城に用があるのかもしれないが。


「…どうでもいいな、そんな事は」


カルデアを目指す可能性があると言うだけで、今のメリュジーヌには万死に値する存在だ。
これ以上、孫悟空らの戦力の拡充を許すわけにはいかないのだから。
竜としての常人を遥かに超えた知覚機能で周囲を睥睨する。
カオスがいた頃であれば彼女のレーダーで万全の索敵が行えたが、今はそうもいかない。
故に神経を尖らせて、他に近づく集団がいないか確認を行う。幸運な事にいなかった。
ならば、制圧に対し阻む要素は何もない。メリュジーヌは、飛んだ。



「───行こう。戦う…いや、殺すんだ」



独り言ちる。
その最中、思いのほか、精神がささくれ立っているのを感じた。
何故かを考える。直ぐに理由は思い立った。
どうやら自分は、自分が地獄に引き込んだ天使に思いのほか情を移していたらしい。




───自分の願いこそ最も尊(たっと)い物で、最も強い愛。
───貴方はそう断言する義務がある。



皮肉気に笑う。
独りになって、思い浮かべるのがあの少女の言葉とは。
でも…あの少女の言葉の響きには自分を動かすだけの物があった。
そうでなければ、自分はとっくに彼女を血の海に沈めていただろう。
本当に、皮肉だ。
自らの独りよがりの愛の為に、大勢を犠牲にする。あまりにも釣り合わぬ手前勝手な理屈。
そうやって己の愛(ねがい)を卑下した時に、心を動かすのは。
出会った時からずっと、取るに足りない人間の。
哀しいほどまでに醜悪な少女の言葉だった。



「………二人とも恨み言はあるだろう。待っていると善い」



私もそう時間はかけず、地獄(そちら)に行くから。
それまでは、冷たい沼の底で戦い続ける。何も変更はない。そう決めた。
決めたからには結末を潔く受け入れるべきだとは、考えない。
先のある幼い命?自分の願いに比べれば芥に等しい些事だと断言しよう。
鬼畜の誹りを受けようと、誹りごと障害を踏み躙ろう。
例え世界の全てが己の愛を否定したとしても。
彼女が、この身を愛してくれていないのだとしても。
自分だけは認めない。叫び続ける。



「それでも───彼女の終わりが、あんなものであっていいはずがない」



目標目掛けて加速する。



「奇跡(オーロラ)の終焉は…一片の憂いも無く、安らかな物でなくてはいけない…!!」



最早自分は騎士ではない。
他者に不幸をもたらす事に、理由はいらない。
厄災であれば、それでいい。
その矜持の元妖精剣を出現させ、目標に狙いを定める。
十秒足らずで捕捉した標的の小癪な抵抗を粉砕し、敵の懐へと飛び入り。
無垢なる湖光(アロンダイト)が、眩き輝きを迸らせると共に。
無垢なる鼓動(ホロウハート)は、新たなる悲しみを生んだ。







世界を救う旅の中で、命の危機に瀕した事は幾度となくあった。
だが、今回はそんな絶体絶命の危機の中でも、上位に位置する窮地と言えるだろう。
何故ならこの島にはヒンメルも、ハイターも、アイゼンもいないのだから。
翻ってフェルンやシュタルクがいなくて良かったとも思う。
何故なら、彼女らがここにいれば命を落としている可能性が極めて高い。
今、相対しているのはそう言う相手だ。



「───なるほど、シャルティアが気を付けろという訳だ」



中々やるね、君。
総身から零下の殺意を放ちながら、メリュジーヌはフリーレンに賞賛の言葉を送った。
恐らく彼女に皮肉の意図は一切ないのであろうが。
それでも、速射で放てる最高威力のゾルトラークを受けたというのに。
殆ど無傷の姿を晒しながらでは、皮肉としか受け取る事はできない言葉だった。
余りにも損傷が見られないため、躱されたのかと思った程だ。




「ガァウッ!!」



追撃を仕掛けようとしたメリュジーヌに対し、ガブリアスの援護がフリーレンを救った。
未来視により一早く自分の危機を察知していた写影が先んじて命令を下していたのだろう。
一切の容赦なく全力と見られる挙動で、ガブリアスは「かわらわり」で敵を狙う。
その鋭さ、力強さはメリュジーヌをしてほう、と感嘆の声を上げられるものだった。



「キミも大したものだ」



だが、メリュジーヌには届かない。
隣に舞うように飛びのき、かわらわりの回避を行った。
腹の底に響く破壊音と共に、空を切ったかわらわりの手刀が地面を穿つ。
明かな異常事態であった。
どう見ても人間である少女に、歴戦の勇たるガブリアスが迷いなく攻撃を行ったのだから。
本来であれば、ポケモンでない相手に攻撃を仕掛けるなどまずありえない。
ガブリアスの攻撃を受ければ、人間の少女など簡単に死んでもおかしくないからだ。
それでもガブリアスは迷わなかった。野生の本能が感じ取ったからだ。
ここで目の前の相手を下さなければ、死人が出ると。



「ガァアアアアッ!!」



雄たけびを上げて、ガブリアスはかわらわりの反撃として迫りくる白刃を躱す。
常人であれば、今の一閃で既に切り捨てられていただろう。
メリュジーヌの戦闘速度は、常人の動体視力を置き去りにして余りあるが。
そんなメリュジーヌの剣閃でも、マッハポケモンの異名を持つガブリアスは対応可能だ。
今迄培ってきた戦闘経験知と反射神経を総動員し、両断せんと飛来する刃を回避していく。
そう、回避だ。ガブリアスをして一発として受けようとは考えていない。
恐らく受ける事は出来ない。できたとしても四肢のいずれかを持っていかれる。
故に回避に専念。兎に角仮とはいえトレーナーに刃が届かぬように立ち回る。
防戦一方ではあるが問題はない。何故なら、今自分を従えているトレーナーは───



「魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)」



メリュジーヌの剣閃にタイミングを合わせて大地に伏せ、空間を開ける。
傍から見れば土下座する様な無防備な姿勢。これでは追撃は躱せないだろう。
開けた空間目掛けて、フリーレンが魔法を叩き込まなければ。
杖から放たれた光の奔流は鉄砲水の様に敵を飲みこみ、そして押し流す。
その一瞬を見計らって、フリーレンは同行者達に指示を下した。



「全員、今すぐここから離れて。私とガブリアスで奴を止める」
「フ、フリーレンさん、でも………」
「私ひとりじゃ奴には勝てない。多分ガッシュがいても逃げるしかない。
けど、桃華達がいたらそれも無理。悪いけど拒否権は認めない」
「そんな……で、ですが……風見さんが……それにフリーレンさんは………」



僅か一分足らずで訪れた窮地と致命傷を負い倒れ伏した雄二の惨状に、桃華の目が泳ぐ。
正直な所思考が状況に追いついていない。何故襲われたのかすら、よく分からない。
風見さんはこのままでは死んでしまうのではないか。
それに此処に残していけばフリーレンさんは。思考が纏まらない。
ここまで幾度となく死線を越えてきた桃華だったが。
リンリンすら屠ったフリーレンが自分でも勝てないと断言した事に酷く狼狽した。
砂使いの少年の相手引き受けた時とは違う。もしかすればフリーレンが死んでしまうかも。




「桃華、ダメだ」



フリーレンに殿を勤めさせる選択に逡巡を見せる桃華の手を、そっと写影が包む。
そして、フリーレンへと目配せをして、有無を言わせぬ語気で桃華に告げた。
彼女(フリーレン)の言葉に従おうと。



「メリュジーヌには…さっきから僕の幻視(ちから)を使ってるのに効果がない。
きっと君のスタンドも同じだ。今この場で僕らが足手纏い以上にできる事は何もない」
「写影さん……」
「──風見は僕が支える。さぁ早く!!」



血で服が濡れるのも気にせずに。
写影は雄二の身体を支え、そして桃華に決断を促す。
ここで躊躇していれば、待っているのは死人が増える未来以外にありえない。
逆にフリーレンを追い詰める事になる。
足手纏いの僕らがいなくなった方が、フリーレンは逃げられるんだ。
そう訴えられれば、桃華も否とは言えなかった。
僅かな逡巡の後、意を決したように己のスタンドを出現させた。



「───行かせるとでも」



当然、メリュジーヌも黙って獲物が逃げる事を待ったりはしない。
ウェザー・リポートの突風生成により身体が浮き上がった桃華達へ躍りかからんとする。
ゼオンには通じた突風だったが、メリュジーヌにはまるで効果が無かった。
突風に身体が触れた瞬間、彼女から莫大なエネルギーと圧力が発生し。
その加速によって、突風の風圧を物ともしない推進力を得ていたのだ。
淡々と、作業の様に。勢いに任せてメリュジーヌは桃華達を串刺しにしようと迫る。



「行かせるんだよ」
「ガァァアアアアウッ!!!」



だが、桃華達が雄二の様に切り捨てられるのより一手早く。
メリュジーヌを、煌炎が襲った。
視界が赤く染まり、凄まじい熱と焔が総身を舐めつくす。
それに伴い熱風により発生した上昇気流が、桃華達をあっという間に上空へと押し上げた。
押しあがると共に桃華はスタンドを操作する。もう、迷いはしない。
決意を籠めた表情でスタンドを操作し、新たな指向性を伴った突風を生み出す。
そして、その突風に乗って僅か数秒の内に、彼女等の姿は遠ざかって行った。



「…まぁ、いい。どうせ遠くにはいけないし、それに……」



炎の中から美しい美貌を保ったまま、卵から生まれ落ちる様に、妖精騎士が姿を現し。
凍てついた表情はそのままに、業火に包まれたとは思えない程泰然とした態度で。
氷点下の眼差しを最優先抹殺対象へと向け、己の絶殺の意志を標的へと告げた。



「最初から私の狙いは君だ。フリーレン」



フリーレンの名を呼び終わると共に、メリュジーヌの姿が掻き消える。
その光景を見て、迎撃の態勢を取りながらも。
自分の命に指がかかる感覚を、フリーレンは意識せずにはいられなかった。








一秒ごとに、体が冷えていく。
生きていくために必要な血(モノ)が流れ出てい行く感覚が分かる。
あぁ、俺は死ぬんだなって、混濁した意識の中で思う。
桃華や写影達が何かを耳元で言ってくれているけど、何を言ってるかまでは分からない。
返事も返せない。喉元まで血がせり上がってきているから。
今の致命傷を負った俺の身体にこの空の旅は過酷に過ぎた。
浮いているハズなのに、どんどん深い闇の底に落ちていく感覚があった。



───どうして、こうなっちゃったんだろうね。



やめろ。
それは、いやだ。
そう思っても、記憶は俺の頭の中を容赦なく駆け抜けていく。
そのどれもが、俺の前で死んでいった人間の顔だった。
始めて殺した親父。
俺を先に行かせて、一人首を吊っていた母親。
オスロに命じられるままに、殺してきた大人たち。
マーリン。
ジョン。
皆みたいに、俺も死んでいく。



「もも、か………」



今迄、沢山殺してきた報いなんだろう。
きっとこう言う事には順番が合って、俺の順番が回って来た。
ただそれだけの話何だろう。
でも……無念だった。悔しかった。
沢山殺してきたんだから仕方ない、なんて言いたくなかった。
麻子の命令も守れずに。普通の学園生活って奴もできずに。
こうしてどこへとも知らない島で、何もできずに終わる。
そんな事は、ごめんだった。



───安心なさい、貴方には良い未来が待っているわ。



そうだ。
俺だって、多分…いい未来があったんだ。
それをこのまま黙って奪われて終わるだけ何て、我慢ならない。
俺は麻子の言う半人前にすらなれなかったけど。
それでも、まだできる事はある筈だ。
いや、違う。
俺が“やらなきゃいけない仕事“が、まだ残っている。
最後に残された時間は、そのために使う。
血を流し過ぎて、もう死ぬ結末は変えられないとしても。
まだ、指は何とか動く。なら、できるはずだ。
やってみせる。



「風見さん、喋らないで下さい。今───」
「い、や。治療は、いい……それ、よりも………」




治療は元より必要ない。経験上分かる。
疑いようもなく、俺の死は確定した。
ごほごほと、みっともなく血反吐を吐いて。
でも、それでも最後までしっかりと伝える。
俺のやりたい事を。俺が、やらなきゃいけないことを。
俺の、最後の仕事を。



「フリーレン、を……助ける………!」



十人どころか五人すら救えない、半人前にすらなれない。
だとしても、たった一人救ったその人が。
世界を救った魔法使いであれば、収支で言えばプラスだろう?
そう言う事にしておいてくれ、麻子。






断頭台のアウラ。
奇跡のグラオザーム。
不死なるベーゼ。
魔王軍直下、七崩賢。
彼等は一人の例外なく、人類種にとって恐るべき敵対者だった。
善悪の概念が限りなく希薄な思考回路。永い生涯の中で極め上げた魔導により。
彼等は二人の勇者とその仲間達に討たれるまで、人の世に影を落とし続けた。
その存在を踏まえて、世界を救った魔法使いフリーレンは考える。
目の前のメリュジーヌを名乗る騎士と、自分の相性は────



(…すこぶる付きの最悪だな)



この島に来てから出会った強者は魔女リーゼロッテがいるが。
相性と言う視点で言えば、彼女達の方が間違いなく勝ち目があった。
彼女等もまた七崩賢に勝るとも劣らぬ超常の戦徒である事に疑いはない。
だが、相性を加味すれば────メリュジーヌの方が遥かに難敵と言えた。
その事実を噛み締めつつ、額に流れる血を拭って立ち上がる。
彼女の正面には、フリーレンから奪った機械を検めるメリュジーヌが立っていた。
その姿には一つの傷も存在していない。



「……成程、風の氏族が使う使い魔の様に辺りを確かめる道具か。丁度いい───」



ランドセルを切り裂かれ、杖やガブリアスのボールなど手持ち以外の支給品を奪われた。
特に不味いのが、ランドセルに収納していたスパイ衛星だ。
フリーレンには元々優れた魔力探知を行えるし、物理的な索敵は写影が行えるのでそれ自体はさして痛手ではない。
だが、手にした相手がメリュジーヌと言うのが問題だった。
このままでは屈指の機動力を誇るマーダーに、スパイ衛星という索敵機能が渡ってしまう。
フリーレンは即座に決断した。このまま易々と渡すわけにはいかない。
杖を指向し、瞬きの間に五つの魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)を創り上げ放つ。



「────カオスの代わりが欲しかった所だからね」



人間は愚か大魔族であっても、フリーレンのゾルトラークを受ければ助からない。
だが、メリュジーヌは迫る魔法を前に命の危機を感じさせない。実に醒めた表情を見せ。
フリーレンの動体視力をして微かにしか見えない速度で剣を振るう。
びゅうと、風が吹き抜け。魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)が呆気なく切り裂かれた。
魔法が霧散するに伴い生み出された風圧が、死の予感と共にフリーレンの肌を撫で上げる。




「……正直驚いてる。
技量だけで言えばモルガン陛下を想起させる領域の魔術師に会うとは思わなかった」



魔法を難なく打ち払い、悠々と己のランドセルに探知機をしまい込み。
再びフリーレンを見据えて、メリュジーヌは告げた。
魔術が殆どこの身に殆ど通用していないにも関わらず、まだ生存を諦めていない。
魔術師にとって絶望以外の何物でもない状況を前にして、戦意を保ったままだ。



「…君の扱う魔術では龍は墜とせない。とは言え、だ」



竜種は、複数の世界で共通して一つの特性を持つ。
その鱗は、魔術に対し高い耐性を備えているという事だ。
これはメリュジーヌやフリーレンの世界に限らず、ガッシュの世界等でも確認されている。
更に竜種に対しては、魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)の特攻機能が作用しない。
かつて紅鏡龍と呼ばれる竜を相手にフリーレンが長期戦の構えだったのはこのためだ。
そして、メリュジーヌは神域の魔術師モルガンより妖精騎士のギフトを与えられている。
これによって彼女は全ての魔術に対する強い対魔力を、存在そのものに与えられていた。
よって本人の超機動力も含め、魔術に対し二重三重の防御を得ているに等しく。
ゾルトラークさえ当たれば装甲なども無視して消し飛ばせるシャルティアらと比べ。
メリュジーヌはフリーレンにとって正しく“天敵”と言えた。
魔術である以上ガッシュの電撃もほとんど効果が無いだろう。



「君が危険な相手である事に変わりはない」


メリュジーヌは、フリーレンを決して侮らない。
最悪の天敵である自分を前にして、ここまで驚異的ともいえる程軽傷で済ませている。
勿論手加減をしている訳では無い。フリーレンが生きているのは純粋な実力故。
それ故にあの日番谷という男や、シャルティアの警戒するガッシュと合流されれば。
間違いなく厄介な事になるのは想像に難くない。だから、此処で消しておかねばならない。



「ガウッ!!」



そんなメリュジーヌの氷点下の殺意に割り込む様に。
同じ竜が揺るがぬ戦意と共に威嚇の声を上げる。
チャンピオンのパートナー・ガブリアス。
かの竜もまた、メリュジーヌを前にして戦意を保ったまま健在であった。
メリュジーヌからフリーレンを守る様に進み上げ、ヒレのついた両腕を広げ相対する。
その背を見てやはり複雑な思いが沸くが、今は気にせずフリーレンは静かに命じた。



「三十秒稼いで」



並みのポケモンであれば戦意喪失してもおかしくはないメリュジーヌを相手に。
言うまでも無く無理難題に等しい命令であった。
それは、あのピカチュウですら叶わなかった難行なのだから。
だが、そう命じなければ、待っているのは約束された敗北しかない。
ガブリアスもその事は承知の上、拒否する事はなく。
ただ了承の意志を示す様に一度吠え、前へと進み出る。
その眼差しは、子を守らんとする母龍さながらの力強さを秘めていた。



「……いいよ。同じ竜同士───どちらが上か決めようか」




そして、相対する竜の戦意に対し、メリュジーヌもまた答える。
本来であれば、勝つことを優先しなければならない身であれど。
災厄として振舞わずとも、余裕のある戦力差であるが故に。
彼女はガブリアスの挑戦に受けて立つ。



「さぁ、来るが良い!」



メリュジーヌが、誘いの言葉を綴ると同時に。
場の張り詰めていた戦意と殺意が、飽和の時を迎えた。
メリュジーヌとガブリアスの姿が掻き消え、旋風が巻きあがり。
───二対の龍が、その雌雄を決するべく激突した。







目の前の龍は強い。
単に種としての強さに胡坐を掻かず、幼齢の頃より研鑽を積み上げてきた力のソレだ。
恐らくは、数時間前に自分が下した少年が連れていた電気鼠の様な個体なのだろう。
戦闘の経験値が群を抜いている。あのカードから現れた龍よりも余程倒しにくい。
人間の反射神経を置き去りにして余りある、妖精騎士の攻撃に対処出来ているのがその証拠だ。



「だが、それでも君は勝てない」



メリュジーヌはカルデアから訪れたマスターが操るサーヴァントの様に使役される召喚獣。
その致命的な弱点を見抜いていた。
カードから現れる召喚獣とは違い、彼等は優れた戦闘経験を誇る。
防御や回避行動からその事が窺えるが、攻撃だけは違う。
ここまで目の前の龍が攻撃を行うのは、全て後ろに控える主人の命令を受けてからなのだ。
自律的に攻撃ができる分行動がパターン的で防御がザルなカードの召喚獣と違い。
恐らくは一切の命令を受けずに戦えない様に乃亜に調整を受けているのだろう。
ならば対処は容易い、相手が命令を行った瞬間に致命的な攻撃を仕掛ければいいのだ。



「ガブリアス」



命令を受けてからそれを処理するまでに、どうしてもラグは発生する。
メリュジーヌの技巧であればその一瞬を致命に運ぶことは造作もない。
その為、メリュジーヌはわざと自分の振るう剣閃にパターンを作った。
振り上げ、振り下ろし、突き、突き上げ、振り抜き、吶喊。
無論誘っている事を気取られない様に時々崩した挙動を取り入れつつ。
フリーレンが回避から反撃へと移行しろと命じる潮時を計りやすい様に、調整を行う。
自分が作り上げた偽りの隙を狙い、相手が命令を下す様に罠を仕込む。



「かわら───」



十秒弱の攻防の後。
果たして、その瞬間はやってきた。
ガブリアス、というらしい竜の名を呼び、フリーレンは命令を下そうとする。
恐らくは先ほどの手刀だろう。接近戦の手段に乏しいのか、同じ技を選択した。
自分に同じ技が通用すると思っているのか、舐められたものだ。
そう感じながらも、メリュジーヌはカウンターの態勢に移ろうとする。
だが、しかし───




「何……!?」



次の瞬間、ガブリアスが放ったのは先ほどの手刀では無かった。
ヒレを地面へと叩き付け、尖った岩石の剣山でメリュジーヌを狙う。
馬鹿な。命令と違う挙動をしたのか?そう考えながら、ガブリアスの一撃をいなす。
想定外の事態の中でも無窮の武練のスキルは彼女の肉体を十全に駆動させるが、しかし。
戦闘は更にここまでのメリュジーヌの予想を裏切る方向で推移をなす。



「ガァアアアアアアアアウッ!!!!」



ガブリアスが、口から焔を吐き出したのだ。
フリーレンからの命令の言葉は聞いていない。
彼女は未だガブリアスの後ろに控え、魔力を蓄えている様子だった。
一体どういうことかと考える。もしや、目の前の竜は命令されずとも行動可能なのか?
それとも、何かからくりがあるのか?炎の膜を突き破りながら、洞察を行う。
そして、一つの仮説に行きついた。



(そうか、あの魔術師は頭の中に直接───)

「ドラゴンダイブ」



魔術か支給品を用いて発声不要の命令を行っているのではないか。
その過程を前提とした思考に一瞬で切り替え、一旦距離を取ろうとする。
彼女のその見立ては正しかった。
フリーレンは実際にガブリアスの脳に直接命令を行っていたのだ。
桃華の支給品であった秘密道具、『テレぱしい』を使って。
この道具を密かに口に含み、まず口頭での命令より脳内からの命令を優先するよう命じ。
そして口頭とは別の真命令を、テレパシーによって成立させていた。
それ故に、フリーレンの命令に注力していたメリュジーヌの不意を突けたのだ。



(面倒だな)



小細工と言えばその通り。
だが、フリーレンと真っ向から読み合いで勝負するというのは中々に骨が折れる。
事実、今しがたメリュジーヌは次の攻撃を読めずに一旦距離を取ろうとした。
今迄見せた攻撃であれば3メートルも距離を稼げば回避できる。
そして回避してしまえば、返す刀でガブリアスに反撃を叩き込み、勝利できるのだが──



「───やっぱり」



放たれた技は、これまで見せられた「かわらわり」「かえんほうしゃ」「ストーンエッジ」
そのどれとも違っていた。
口頭での命令と、脳内への指令が必ずしも違うとは限らない。
単純だがそれ故に引っかかる二択を、メリュジーヌは強いられていた。



「ガアアアアアアアッ!」



ガブリアスが飛翔する。
命じられた技はドラゴンダイブ。
竜としての気勢により、相手はその技を回避できなくなるという強力な技。
音速に近い速度を叩きだしつつ、メリュジーヌを下さんと竜は猛る。
その威容を間近で感じ、成程この技を本命に選んだのも頷けるというものだ。
何しろ鬼気迫る様相に、妖精騎士である自分がほんの僅かにだが影響を受けたのだから。





「見事だ」




そして、その上で受け止めた。
砲弾が激突する様な轟音と共に、メリュジーヌの華奢な身体が数メートル後退する。
しかしそれだけだ。メリュジーヌの肉体にダメージは無い。
如何な群を抜いた戦闘経験値を誇るガブリアスと言えど、これには戦慄した。
先手を取られておきながら対処された事ではない。
ガブリアスもまた、対処されるだろうとは踏んでいた。
だがまさか完全な形で自分のドラゴンダイブが受け止められるとは。
本来の想定であればドラゴンダイブをいなされてもかえんほうしゃ、
或いはストーンエッジなどで即座に二の矢を放ち、流れを作る筈だったのだ。
完全にメリュジーヌに上を行かれた。そう断じる他ない。



「…ガァッ!!!」



しかしガブリアスの戦意は揺らがない。行動を止めることもまたない。
止められた瞬間とほぼ同時に、既に彼女には次の命令が下っていたからだ。
それ故に彼の竜は戦慄を覚えながらも、即座に次の一手に行動を移す。
殆ど零距離の状態で咢を開き、業火を放った。
それに伴いメリュジーヌ、ガブリアスの双方の視界が紅蓮の色を持つ。
余りにも距離が近すぎた為、自身が放った熱風に身が焼かれるが気にしている暇はない。
両足のバネに力を籠めバックステップ。焔の向こうへ消えた敵手と距離を取ろうとする。



「温い」



コンマ数秒後、冷ややかな声と共にメリュジーヌが姿を現す。
やはりダメージは全く見られない。
彼女にダメージを通すには間合いは不十分な「かえんほうしゃ」では遥かに不足だった。
その為、彼女が双剣を一薙ぎするとともに立ち昇った火柱は切り裂かれ。
現れた妖精騎士は一切の高揚を感じさせない様相で、ガブリアスの元へと距離を詰める。
これは躱せない。メリュジーヌ、ガブリアス双方が確信を抱く。
死にはしないが、同時に治療もせず動けば死の危険がある程度の損傷。
それを与えるべく、メリュジーヌは剣を閃かせた。



「────!?」



メリュジーヌの双剣が、空を切る。
奇妙な現象だった。
刃が到達しようという瞬間、ガブリアスの姿が赤い粒子となって掻き消えたのだから。
瞳を動かし前方を確認してみれば、100メートル程先にフリーレンの姿があった。
片手で杖を指向し、もう片方の手で紅白の球を握っている。
成程、あの紅白の球が今しがた起きた現象の絡繰りか。
思考を奔らせメリュジーヌはフリーレンへと迫る。あの魔術師は判断を明確に誤った。
何故ならまた竜を再び呼び出しても、助走をつけた自分ならば抜きされるのだから。
魔術師は片方の手で杖を此方に指向しているが、大した脅威ではないのは確認済み。
このまま串刺しにしてくれよう。メリュジーヌは両手の手甲から伸びた剣を正眼に構えた。



「今は知らず(イノセンス)────」




既に宝具使用のインターバルは開けている。
仮に先ほどの竜を出したとしても躱せるし、躱せずとも竜の肉体ごと貫こう。
例えあの魔術師がどんな小細工を用いたとしても、最早自分を止める事はできない。
目の前の魔術師の力量は遥かにヒトを超え、上級妖精をも上回るソレだが。
間違いなく勝負は見えている。慢心ではなく事実としてメリュジーヌはそう考えていた。
フリーレンもそれは理解している筈だ。だというのに。
眼前に迫った彼女の瞳に、絶望の彩はなかった。



(─────上等だ)



小癪な策を巡らせるがいい。異邦の魔術師よ。
私は君にとっての災厄として、その全てを打ち砕こう。
冷徹な殺意を滾らせた龍は、小賢しい敵対者を食いちぎらんと彗星と化す。
100の距離を一瞬にして九割埋め、いよいよ一秒掛からず敵手の元へ到達しようとした。
その時の事だった。魔術師の表情が僅かに変わったのは。
メリュジーヌに負けず劣らずだった氷の無表情が、俄かに歪んだのだ。
悲痛さを孕ませた表情、しかし自身の死が身近に迫った者の表情ではない。
むしろ、これは、見送る側の。葬送の────



「撃て」



別離の痛みを感じさせる、ほんの僅かに哀切の感情を籠め。
フリーレンは、しかし迷うことなくその二文字の言葉を紡いだ。
そして、それよりも僅かに先んじて彼女の指向する杖から白亜の濁流が放たれる。
一般攻撃魔法。特攻効果を捨て、純粋に魔力砲としての威力に重点を置いた砲撃。
一般攻撃と言っても葬送のフリーレンのその魔法の威力は、山をも砕く。
それを至近距離で、何の躊躇もなく。彼女は敵手に向けて発射した。



(────いいだろう。これで決着だ。フリーレン)



至近距離でのこの規模の魔力砲。
如何なメリュジーヌとて、完全に躱すことはできないだろう。
だからこそ、彼女は槍兵(ランサー)が如く突き進む。正面対決だ。
例えフリーレンがどれほど強力な魔術を放とうとも。
自分の剣は魔術ごと敵を撃滅する。その自負を胸に。
彼女は、この戦いにおける最後の攻防に身を投じる。



「───無垢なる湖光(アロンダイト)」



世界を救ったエルフの魔導師。
無垢なる鼓動。アルビオンの残滓。
世界すら違う二人の歴戦の戦徒たちが、相博つ。







俺の命に残された時間は後一分も無い。
それまでに、最後の狙撃を完遂する。
まず、予めフリーレンから渡されていたテレぱしいの実を口に含む。
そして狙撃を行う事をフリーレンに伝えてから、狙撃の体勢に入った。
名もなきビルの屋上で照準を付けた瞬間、俺は少し震える。
スコープも無く、数百メートル離れたメリュジーヌの姿がハッキリと見えたからだ。



「風見、距離は300……方位は……」



傍らで美山が距離を教えてくれている。観測主(スポッター)のつもりなのだろう。
…俺が完全に人間の視力を超えた距離を見通せるのも、こいつのお陰なんだろうな。
そんな美山の声は、震えていた。表情を見る余裕はないけど、泣いてるのかもしれない。



「……安心してください風見さん。銃の回りの空気は固定しました。
多分、一回、だけなら、きっと。きっと………大丈夫です、から…っ」



美山とは俺を挟んで逆サイドの傍には、櫻井が膝を付いて。
俺の構える銃に、何か魔法か超能力の細工をしてくれているみたいだ。
メリュジーヌが斬ったのは俺だけじゃない、俺の持つパンプキンもまた斬られていた。
だから、このまま撃ったら暴発するかもしれない。
そうならないように、桃華は手を添えて俺が撃てるようにサポートをしてくれていた。
パンプキンの銃身に雫が伝う。やっぱり見る余裕はないけど、桃華も泣いているんだろう。



───いい奴らだな。



二人とも、俺の為に泣いてくれて。
俺がやらなきゃいけない仕事が成し遂げられるように力を尽くしてくれている。
死んでほしくない。
この二人は麻子が言っていた、俺が守らないといけない十人に入っている二人だ。
だから……二人と、フリーレンを守る為に。
この一発は外せない。外さない。



「頼む……パンプキン」



後一発なんだ。
後一発で善い。お前も……頑張ってくれ。
祈りながら、フリーレンの前方10メートルの位置に照準を合わせる。
メリュジーヌがフリーレンに迫ってきている事は、直感的に感じ取れた。
世界がスローモーションになる。世界の全てが見えるみたいに、感覚が研ぎ澄まされて。
そして、ある事に気づいた。



「はは……っ」



それは奇しくも麻子の元で初めて銃を撃った日。
外した距離だった。方位も風向きも殆ど同じ。違うのは気温くらいか。
もうこの距離、この条件であれば、俺は“捉えている”。
だから俺は刹那の時間で引き金に指を添える。迷いはない。
そして。




───撃て。



撃った。
頭の中に響いてきたフリーレンの言葉に合わせて、引き金を引いた。
飛び出していった弾丸は、これまでで一番早く、音を置き去りにして。
この一発は当たった。結果は確かめるまでも無い、その確信があった。
同時に、命そのものを射出してしまった様に俺は地面に崩れ落ちる。
パンプキンもピシピシとひび割れ、壊れていくのが霞む視界の中見えた。



「風見さん!」
「風見!!」



ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、二人が俺に縋りついてくる。
気の利いた冗談でも言えればよかったけど、どうやらそんな時間は貰えないみたいだ。
だから悪いけど二人の言葉に返事は返せない。
それよりも俺が伝えたいことを優先する事を、どうか許してくれ。




「姉…ちゃん、に……伝え……
俺は、独りで……頑張った、ん、だから…姉ちゃ……も、負け、るな……」



ごふりと血の塊を吐き出す。
まだだ。まだ後一言伝えなきゃいけない。
これを言い終わるまで、あと少し、あと少しだけ………
一人残してしまう姉ちゃんに、伝えなきゃいけない。



「……俺と違って姉ちゃんは…天才、なんだから────」



姉ちゃんはこう言うと嫌がるかもしれないけど。
でも…きっとフリーレンやコナンたち対主催には姉ちゃんの知恵が必要なんだ。
だから負けるな。俺はもう、姉ちゃんが言っていた楽園の様な未来には行けないけれど。
それでも……俺は、俺、は…………




俺は、撃ち抜いたんだ。




【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ(アニメ) 死亡】
【メリュジーヌ ドミノ100ポイント獲得】








フリーレンが発射した魔力砲を見た瞬間、メリュジーヌは勝利を疑わなかった。
確かに、強力な砲撃ではある。如何にダメージは通らないと言っても衝撃までは殺せない。
無防備で受ければ、波濤に逆らって飛ぶことは叶わず吹き飛ばされるだろう。
だがそれは、あくまで無防備で受ければと言う話。
真名を偽装展開した自分の突撃を上回れるほどの一撃では、断じてない。




────殺った。




残り10メートル。
視界も思考もクリアだ。淀みは無い。
最初にこの集団と衝突した時の幻覚の様な光景も見られない。
強力な幻覚だった。戦をこの島で初めて経験したという子供達が見せたとは思えぬほど。
ただの幻影ではなく、起こりうる不幸の未来を彼の者は見せてきたのだから。
もし自分に“運命を視る“龍種としての特性が無ければ、面倒だっただろう。
ともあれ、そんな妨害も今は感じ取れない。断言できる。
であれば屠るための条件は全てクリアーされた。このまま突き進む。



私の願いの為に、息絶えろ。魔術師……!



心中で呟きながら、魔力砲と衝突。
想定通り衝撃はあるものの、今の自分の勢いを殺すには不足に過ぎる。
このまま突き破り、フリーレンの臓腑を貫く。
抵抗を叩き潰すために、竜の炉心より生み出された魔力を更に全身へと巡らせる。
更なる加速を以て魔力の奔流を突き破り、それで詰みだ。
目算の元、実行に移そうとした所で────切っ先に、凄まじい圧力がかかる。



「────な」



フリーレンの放ったものとは明らかに毛色が違う。
けれど強大なエネルギーが、メリュジーヌの行く手を阻んでいる。
先に到達していたフリーレンの魔術を突き破って、飛来したのだ。
そのエネルギーは強大だった。メリュジーヌをして、瞠目を禁じ得ない程。
先にゾルトラークとの衝突で僅かに勢いを殺されていたメリュジーヌの剣先が、鈍る。



「ぐ……っ!こ、の────!」



それもその筈。帝国に伝わる帝具の一つ、浪漫砲台パンプキン。
その銃にはある一つの特性がある。担い手が危機であればあるほど、威力が増すのだ。
故に、銃も、担い手も。全てが命の危機に瀕しているこの状況では。
この一発に限り、あらゆる脅威を凌駕する威力を発揮するのは必然だった。



「あの、少年、か……!」




凄まじい圧力に、メリュジーヌの剣先が押し戻される。
理解している。これは通常放てる砲弾ではない。
紛れもなく担い手の未来そのものを弾丸とした砲撃だ。
眼球だけを動かし、目を凝らす。狙撃手を思わしき少年は、直ぐに見つかった。
フリーレンの後方三百メートルで事切れようとしている少年。
自分が真っ先に斬り捨てたあの少年が、この砲撃を放ったというのか?
明日を捨てた一撃とは言え、この一撃を凌げば次は無いとは言え、異常に過ぎる。
いや、そもそも加速した自分に狙撃を成功させることそのものが神業に等しい。



「────ッ!!!」



遂に、フリーレンの魔力砲によって気勢を削がれていた剣先が撃ち負ける。
受けた砲弾の圧力によって剣先がカチ上げられ、僅かにだが確実に大勢を崩す。
本来であれば何の問題もない隙だ。コンマ数秒でメリュジーヌは立て直せる。
そして放った次の一手で、獲物を彼女は仕留めていただろう。
しかし、今の彼女の置かれている状況は─────



「ぐ、うああああああああ──────!!!」



無防備になった胴体に、ゾルトラークが着弾。
ダメージこそ妖精騎士としてのギフトで存在しないが、圧力は凄まじい。
態勢を立て直す猶予は一切与えられず。成すすべなく飲み込まれ。
咆哮と共に、妖精騎士はゾルトラークとパンプキンの砲撃で吹き飛ばされていった。








損傷は軽微。
また、先ほどの様な反撃も二度目はないだろう。
何故ならそれを行った少年は、今頃息絶えている。それだけは確実だ。
だがフリーレンは取り逃がしてしまった。全く、ままならないものだ。



「…まぁ、もううるさく気を焼く沙都子はいないわけだけど」



一切の感情を殺した声で、呟く。
差し当たってはフリーレンの戦力は確認ができた。
確かにシャルティアの言葉通り危険な女だ。
実力もそうだが、あの戦略眼はメリュジーヌをして脅威と言わざるを得ない。
あの女は、実力以上の相手を倒す事に長けている。
次があれば、絶対に消しておかなければならない。そう強く認識して。
───手甲から双剣を生やし、振り下ろされる大刀を受け止める。





「なにっ!?」
「良い打ち込みだ。才能もある。だが……まだ若い」
「抜かせェッ!!!」



吹き飛ばされた先で、すぐさま襲われる。
普通の参加者なら不幸を嘆く所であっただろうが、メリュジーヌの心は動かない。
ただ淡々と、機械の様に己の為すべきことを遂行する。
突風が吹き抜け、津波の様に押し寄せる豪打の一発一発を、冷静にいなす。
現れたのは、白銀の髪と紫電の眼光を持つ少年だった。
ギラギラとした殺意と怒りに突き動かされ、八つ当たりのように。
彼の少年を見れば一目で分かった。この少年もまた……
自分やシャルティアと同じく、殺す側の存在であると。
大方、吹き飛ばされる自分の姿を目にしてやって来たのだろう。



「テオザケル!!」



少年が掌を翳し、何某かの呪文を唱える。
すると彼の掌が眩く輝き、電撃が放たれた。それは確実に人を殺傷しうる威力。
だが、メリュジーヌはやはり動じない。
迫る電撃を眩く思いながら、それでも回避行動すらとらず、吶喊。
フリーレンの放ってきた魔術に比べれば、一瞬で突き抜けられる威力の雷であった。



「な……!!」



少年が驚愕する中、僅かな痺れを感じながらも電撃のカーテンを突き破り。
敢えてメリュジーヌはゆっくりと両手の剣を構えた。
電撃のダメージで無理をしたと言わんばかりに。それが尾を引いていると伝える様に。
当然、少年もそれを黙って見てはいない。すぐさま我に返ると、大刀を振り上げる。
ぴたりと、お互いの首筋に剣の刀身を突き付けたのは同時だった。同時にした。
訪れるのはお互い簡単には動けない膠着状態。その中で先に口を開いたのはゼオンだった。
怒りに燃えていた瞳が水をかけられた様に落ち着きを取り戻し、問いかけてくる。
何のつもりだ、何故止まる、と。
少年の問いかけに対し、メリュジーヌはゆっくりと口を開いた。


「少し───」



放送後までに、漸く一人。
だが、まだだ。まだキルスコアを稼ぐ必要がある。
でなければ乃亜からの悟空打倒のための報酬は受け取れない。
だから、もっと殺す。殺さなければならない。
その為には、戦力は多い程良い。



「話をしようか」



【一日目/午後/F-3】

【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]失意の庭を見た事に依る苛立ち、魔力消費(小)、疲労(小)、ダメージ(中)、憎悪(極大)
[装備]鮫肌@NARUTO、銀色の魔本@金色のガッシュ!!、千年リング@遊戯王DM
[道具]基本支給品×3、ニワトコの杖@ハリー・ポッターシリーズ、
「ブラックホール」&「ホワイトホール」のカード(2日目深夜まで使用不可)@遊戯王DM
ランダム支給品1~3(ヴィータ、右天、しんのすけ、絶望王の支給品)
[思考・状況]基本方針:優勝し、バオウを手に入れる。
0:話だと……!?
1: いったん休息を取り、その後ガムテと合流する。
2:絶望王や魔神王に対する警戒。更なる力の獲得の意思。
3:ガムテは使い道がありそうなので使ってやる。ただ油断はしない。
4: さっきの連中には必ず復讐する。そのために更なる力を手に入れる。
5:ふざけたものを見せやがって……
6:千年リングの邪念を利用して、術の力を向上させる。地縛神も手に入れたい。
[備考]
※ファウード編直前より参戦です。
※瞬間移動は近距離の転移しかできない様に制限されています。
※ジャックと仮契約を結びました。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※千年リングの邪念を心の力に変えて、呪文を唱えられるようになりました。パートナーが唱えた場合の呪文とほぼ同等、憎しみを乗せれば更に威力は向上します。
 千年リングから魔力もある程度補填して貰えます。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。



【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)自暴自棄(極大)、イライラ、ルサルカに対する憎悪
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』、M61ガトリングガン@ Fate/Grand Order(凍結、時間経過や魔力を流せば使えるかも)
[道具]:基本支給品×8、イヤリング型携帯電話@名探偵コナン、ブラック・マジシャン・ガール@ 遊戯王DM、デザートイーグル@Dies irae、
『治療の神ディアン・ケト』(三時間使用不可)@遊戯王DM、Zリング@ポケットモンスター(アニメ)、逆時計(残り二回)@ドラえもん、
モンスター・リプレイス(シフトチェンジ)&墓荒らし&魔法解除&不明カード×6枚(マサオの分も含む)@遊戯王デュエルモンスターズ&遊戯王5D's、
ランダム支給品1~2(ハーマイオニー、エスターの分)、グルメテーブルかけ@ドラえもん(故障寸前)、戦士の1kgハンバーグ、封魔鉱@葬送のフリーレン、
レナの鉈@ひぐらしのなく頃に業、スパイ衛星@ドラえもん、スミス&ウェッソン M36@現実、思いきりハサミ@ドラえもん、ハーマイオニー、リンリン、マサオの首輪。
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
1:孫悟飯と戦わなけばいけないかもね
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
3:ルサルカは生きていれば殺す。
4:絶望王に対して……。
5:竜に戻る必要があるかもしれない。方法を探す。
6:シャルティアと手分けして殺害数を上げ、ドミノを集める。
7:放送後にシャルティアと再合流。
8:カオス、君は……。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。








メリュジーヌを吹き飛ばし戻る頃には、風見雄二は既に事切れていた。
それを目にして早々にフリーレンは雄二の遺体を屋上から降ろし。
淡々と首輪の回収を行い、魔法で堀った穴に壊れたパンプキンと共に雄二を安置した。
本来であれば一姫の元に遺体を返してやりたかったが。
遺体であっても参加者ではバッグに入らないため、置いて行くしかない。
雄二のランドセルも切り裂かれ用を果たさなくなった自身のランドセルの代わりに、持っていく。



「……行こう、カルデアに向かうのは断念するしかない」



壊れたパンプキンの銃身を簡素な墓標として突き刺し。
その前で旅立った仲間に粛々と祈りを捧げた後、フリーレンは冷徹に同行者に告げる。
涙は既に止まっていたけれど、それでも後ろ髪を引かれる思いがあるのか。
何度も何度も墓標に向けて二人は視線を彷徨わせていた。



「メリュジーヌが今戻ってきたら、雄二は無駄死にになる」



酷なようだが、時は幼い子供達に寄り添って一緒に悲しんではくれない。
現状メリュジーヌへの対抗手段がない以上、急いでこの場を離れるしかない。
それは確かな事実で、だからこそ写影達も無言で頷きやっと雄二の墓標に背を向けた。
こういう時、フリーレンにはどうしていいか分からない。
ハイターやヒンメルであれば、今の彼女らにかける言葉が見つかったのかもしれないが。
フリーレンには今子供達に何と声をかければいいのかは、とんと分からない。
だから、フリーレンなりに論理的に雄二の最期を想像して、そして語り掛けた。




「…雄二は、二人に一姫への言伝を頼んだんでしょ」



その言葉に根拠は無かった。
桃華達から聞いた訳でも無かった。
フリーレンにしては珍しい、咄嗟に口に出た言葉に近かった。
ただ、雄二に末期の言葉を遺す猶予があったのなら。
必ずこの二人へと向けて、何か言葉を遺している筈だと、そう思ったのだ。



「…………!」



どうやら、その予想は正しかったらしい。
写影と桃華の瞳に、光が灯る。
雄二に最後に頼まれた一姫への伝言を思い出したからだ。



「……うん、そうだ」



先に反応を返したのは、写影だった。
頷き、その通りだとフリーレンの言葉に対し肯定の意志を示す。
まだだ。まだ自分達には役目がある。
一姫に伝えないといけない。雄二がどんな風に戦い。自分達を守り。
そしてどんな願いを抱き、どんな言葉を最期に残したのかを。
それを一姫に伝えるまでは、死ぬ訳にはいかない。



「えぇ……行きましょう。フリーレンさん」



やがてこくりと桃華も首を縦に振って了承し。
そして、スタンドを出した。
追跡されぬ様に低高度を飛翔しながら逃走するためだ。
予め伝えられていたフリーレンの指示だった。
彼女は悲痛の只中にあっても、フリーレンからの教えを忘れてはいなかった。
それを思い出すだけの冷静さを、フリーレンの言葉で取り戻せたのだ。
未だ希望は見えないけれど、まだ自分にはやらなければならない事がある。
絶望の淵で、人を動かすのは希望ではなく意志なのだと。
その日、子供達は初めて知った。



「───雄二」



桃華のスタンドによる飛翔を飛行魔法でサポートしながら。
フリーレンは、雄二の墓標に向けてその時初めて一瞥した。
自分を守るために、自らに残された末期の時間を使った少年へと向けて。
葬送の魔法使いは、短い言葉を贈る。



「ありがとう」



雄二の最後の一射が無ければ、あのまま自分の魔法はメリュジーヌに破られていた。
そうなれば、写影達もメリュジーヌに追撃を受け殺されていただろう。
彼のお陰で、今この場にいる三人全員が救われたのだ。
その事実に形容し難い敬意を表し、フリーレンは墓標に向け一つの決意を贈った。



「君の最後の一発、無駄にしないよ」





【一日目/午後/E-3】

【美山写影@とある科学の超電磁砲】
[状態]精神疲労(大)、疲労(大)、能力の副作用(小)、あちこちに擦り傷や切り傷(小)
[装備]五視万能『スペクテッド』
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:ドロテアの様な危険人物との対峙は避けつつ、脱出の方法を探す。
2:桃華を守る。…そう言いきれれば良かったんだけどね。
3:風見……
4:桃華には助けられてばかりだ…。
5:沙都子とメリュジーヌを強く警戒。
[備考]
※参戦時期はペロを救出してから。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。

【櫻井桃華@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]疲労(中)、精神疲労(大)
[装備]ウェザー・リポートのスタンドDISC
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:写影さんや他の方と協力して、誰も犠牲にならなくていい方法を探しますわ。
2:写影さんを守る。
3:この場所でも、アイドルの桜井桃華として。
4:風見さん…
[備考]
※参戦時期は少なくとも四話以降。
※失意の庭を通してウェザー・リポートの記憶を追体験しました。それによりスタンドの熟練度が向上しています。

※写影、桃華、フリーレン世界の基本知識と危険人物の情報を交換しています。


【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(中)、疲労(中)
[装備]王杖@金色のガッシュ!、ガブリアスのモンスターボール@ポケットモンスター
[道具]基本支給品×2(雄二の所持品)、テレぱしい×3@ドラえもん、グロック17@現実、斬月@BLEACH(破面編以前の始解を常時維持)、マヤのランダム支給品0~2、マヤの首輪
0:ホグワーツから離れる。カルデアに向かうのは断念。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティア、我愛羅は次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
5:リーゼロッテは必ず止める。ヒンメルなら、必ずそうするから。
6:ガブリアスを使う事は少し不安。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
※ガブリアスは基本的にフリーレンの指示しか聞きませんが、
これが所謂バッジ不足の様に従えるにあたって普通の人間では実力不足で聞けないか、
それともモンスターボールの所有権がフリーレンにあるためかは後続の書き手にお任せします。



【テレぱしい@ドラえもん】
ハンディ・ハンディに支給。
椎(しい)の実を象った食品。これを食べるとテレパシーを使えるようになる。クルミにハチミツをかけたような味らしい。
ただし、テレパシーを使えるといっても、自分の思考が相手に伝わるだけで、相手の思考を読み取ることはできない。
『ザ・ドラえもんズスペシャル』では「指定した相手以外にはテレパシーが伝わらない」「遠く離れた場所にいる相手にも思考を伝えることが可能」
「数時間で効果が切れる」「動物が食べると、思っている事が人語となって伝わる」という設定になっているが、本ロワではこの設定を準拠する。
ただし、効果時間に関しては一度の使用で15分程で効果が切れる。
5つセットで支給。

【スパイ衛星@ドラえもん】
羽虫ほど小さいスパイ衛星。宇宙に打ち上げるのではなく、
使用したい対象者に投げてその人物を軸に軌道にのせるとモニターする機器でその人物の周囲の映像や音声を視聴できる。
衛星の軌道修正をすることもできる。衛星は1ダースがモニター装置の引き出しに収納され、各々にはカメラが6つ付いている。

【ガブリアスのモンスターボール@ポケットモンスター】
フリーレンに支給。
シンオウ地方チャンピオンであるシロナのポケモン。出典はダイヤモンドパール。
伝説や幻のポケモンとも渡り合う、群を抜いた戦闘力と経験値を有する。
使える技は「ドラゴンダイブ」「ドラゴンクロー」「かえんほうしゃ」「ストーンエッジ」
「かわらわり」「ギガインパクト」「りゅうせいぐん」「げきりん」「すなあらし」「あなをほる」の中からの四つ。
出典がダイヤモンドパールなので、メガシンカやZ技はまだ使えない。



133:道の先、空の向こう 投下順に読む 135:Someday I want to run away
時系列順に読む
117:Anytime Anywhere フリーレン 000:[[]]
美山写影 000:[[]]
櫻井桃華 000:[[]]
風見雄二 GAME OVER
128:迷子になった女の子 メリュジーヌ 141:僕を連れて進め
125:世界で一番暑い夏 ゼオン・ベル

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