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きみの善意で壊れる前に

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激戦のあと、ひとときの休息を経て。
目を覚ますなり、孫悟飯は海馬コーポレーションへと向かっていた。

離脱者と死人が多く出たとはいえ、悟飯の知る限り、あの周囲にはまだ参加者がいる。

瀕死の金色の闇、そして戦いの場から避難していたであろう乾紗寿叶とケロベロス。
それなりに時間も経過してしまっているのだ。もうあの場を発っていてもおかしくはないが、敢えてあの場に隠れている可能性もある。
彼女たちを殺さねば。のび太やイリヤのように。自分がこの手で。

「...イヤだ、なぁ」

思わずポツリとひとりごちてしまう。

闇はともかく、残る二人、特に紗寿叶に対して恨みつらみがあるわけではない。彼女に対してとりわけ親切にしてもらったわけではないが、少なくとも彼女は自分に毒を盛った犯人ではない。それほどまでに、彼女との接点は薄い。ただあの場にいた一人というだけ。
言い換えれば、誰もかれもが疑わしかったあの場の参加者たちの中で、最も信用できた人物だ。...あくまでも相対的でしかないが。
そんな人間を、自分は殺しに向かっているのだ。

(でも...逃げちゃダメだ)

決めたのだ。優勝して、全員、ドラゴンボールで蘇らせて償うと。当然、その過程では、善き人も紛れている可能性は高い。
遅かれ早かれ、覚悟は決めなくてはならないのだ。
そうでないと、この手で殺してしまったのび太があまりにも救われない。

そんな言い訳のような使命感を纏った彼の身体は、先ほどまで暴れ回っていた者と同一人物だとは思えないほどに、あまりにも小さく見えて。
守護るべきものという枷を外し、自由になったはずの彼の足取りは、未だに重かった。


やがて、彼は海馬コーポレーションに辿り着き、入り口に点々と残されている血痕を見つけた。
警戒しながらもそれを辿り、施設の中に向かうと、辿り着いたのは、床に多量にぶちまけられた血潮。
探偵や刑事じゃなくともわかる。
間違いない。ここで、諍いーーーそれも、高確率で殺傷沙汰があったのだ。

ではいったい誰がーーー考えるまでも無い。

「ジュジュさん!ケロベロス!!」

気がつけば悟飯は、名前を叫び駆けていた。
その叫びは純粋な心配からか。或いは獲物を取られてはならないという焦燥からか。
その答えは本人にもわからないだろう。
硝子に映った彼の顔は、悲哀とも笑顔とも憤怒とも取れるほどに歪んでいたのだから。

血痕はさして広範囲に散らばってはいない。
ほぼきたルートを戻るだけのことだ。
そんなもの、悟飯にとってはほんの数秒にも見たぬことで。
あっという間に入り口にまで辿り着いた彼は奇妙な痕を見つける。

血痕がパタと途切れ、代わりに地面が少し盛り上がっていた。
悟飯は僅かな疑問すら浮かべることなく、ほぼ反射的に駆け寄り、その指で地面を掘った。
さして深くは掘っていなかったためか、埋まっていたものはすぐに姿を現した。

「ーーーッ」

思わず息を呑む。
現れたのは、首の切断された木乃伊のような死体。
生前と比べると血色が無く、肌がこけ細っているせいで、悟飯の中の記憶の彼女とは似ても似つかないが、しかしそれでも着ていた服とツインテールには特徴が一致しており。
視界から入る情報全てがこれを乾紗寿叶であると訴えかけてくる。

「ぅぁ...」

思わず言葉を失ってしまう。
死体を見るのは初めてでは無い。この殺し合いに巻き込まれる前から、サイヤ人・ナッパに殺された仲間たちやフリーザ軍に殺されたナメック星人たち、自分の手でもセルジュニアをグロテスク極まりない肉片にぶちまけた。そんな彼でも、ここまで憎悪と苦痛に歪んだ顔の遺体は見たことが無く。生前の面影さえ穢されたような不快感を抱くのもまた初めてだった。

「じゃ...じゃあ、こ、こっちは...」

紗寿叶の埋められた穴の側にある小さな埋め跡。
それを指で軽く擦れば、彼の予想通りのものが出てくる。

「ケ、ケロベロス...!」

あの小さな獣もまた、木乃伊にはなっていなかったものの、首を切断されて埋められていた。

悟飯の見開かれていた目が、次第に、怒りに染まっていく。

「誰が、こんな...!!」

キリキリキリ、と歯が噛み締められ、拳に力が入っていく。

ここに二人が埋められていたのは、現実逃避の罪滅ぼしの形とはいえ、モクバの善意から行われた埋葬であり、死者を悼む気持ちはあれど、彼らに対する悪意は介在しない。

事情を知らない第三者から見ても、簡易ながらも穴の中で丁寧に安置されていたことから、死者を善意から埋葬したことは推し測れる。

だが、いまの孫悟飯は違う。

(許せない...ジュジュさん達を殺したことを隠そうとするなんて...!)

いまの彼は雛見沢症候群の重症者だ。
思考は攻撃的になり、他者への疑心暗鬼の極地にある彼にの目には、『死者を悼む埋葬』ではなく『卑劣な隠蔽工作』に見えてしまっていた。

(誰が殺した?)

ーーー姿を消した金色の闇か?

あり得る。瀕死にしてやったとはいえ、あのしぶとさと再生能力だ。小一時間もあれば多少なりとも動けるようになっていてもおかしくない。

ーーーそれとも、日番谷が戻ってきたのか?

あり得る。放送前には僕を恐れて姿を消し、金色の闇を利用して始末しにきた挙句、ピンチになったらあっさり敵前逃亡するような臆病者の卑怯者だ。僕を倒せないとわかったら、せめてドミノだけでも稼がせまいとジュジュさんを殺したのかもしれない。ジュジュさんだってあいつを信用してたんだ。隠れていても、呼びかけられたらあっさり出てきてしまうだろう。

ーーーモクバとドロテアか?
あり得る。そもそもあいつらが発端でこうなってしまったんだ。人を騙し利用し捨てていく奴らなんだ、僕にドミノを稼がせない為にジュジュさんを殺していてもなんらおかしく無い。

ーーー美柑さんを撃ち殺した奴か?
あり得る。誰かは知らないが、姿を消して近づいて不意打ちを仕掛けてくるような奴だ。ジュジュさんを見つけたら殺してもなんらおかしくない。


「だ、誰だ...誰がジュジュさん達を...!」

ガリガリガリと、再び首を掻きむしり始める。
ただ痒いから、というよりは、痒さをもたらしてくるものを追い出すかのように、徐々に掻きむしる強さが増していき、目も血走り始める。
ストレス。雛見沢症候群患者がとりわけ避けるべき火種だ。
もしもこの場に雛見沢症候群に携わる者がいれば、悟飯への精神的負担をどうにか減らそうと躍起になるだろう。だが、いまの彼の周りには誰もいない。
疑心暗鬼と憎悪によるストレスを全て受け止めなければならない。悟飯に埋め込まれた寄生虫の肥やしにせざるを得ない。

「あ、あぁっ、痒い、痒い...ッ!」

指が皮膚を裂き、血が滲み始めるが、悟飯は搔きむしることをやめられない。

「ッ!」

首の内側の肉に指が触れ、ビキィ、と鋭くも鈍い激痛に襲われ、ようやく一時停止する。

ぽたり、ぽたぽた血液が零れ落ち。自分でこんなになるまで掻きむしっていたのか、と驚愕するのも束の間。

ーーーもぞ、と血の蠢く気配がした。

「えっ」

一気に血の気が引く。
悟飯が見たのは、血だまりに蠢く小さな、小さな虫。
カブトムシだとか、蟷螂だなんて、見る者によっては魅力的に見えるものじゃない。

うねうねと地を這いずり、無意味に虚空を掻き、見る者全てに嫌悪感を齎す。

異臭を放つ汚物にたかりこの世で最も汚く蔑まれるソレは





「ひっ」

思わず飛びのいた。
突然のことに頭が真っ白になり、理解するよりも早く本能がそれを拒絶する。

「あ、あぁ...」

この虫はなんだ。どこから現れた。まるで血だまりから産まれたような...

「血...?」

首を抑えていた掌を、その熱さを感じ続けている掌を。

恐れながら、震えながら、眼下にまで持ってくる。

「あ、ぁ、あ」

掌に、蛆虫が蠢いている。
血に溺れ泳いでいる。
そして悟飯の脳が理解を拒み続ける。
血の中から産まれたーーー違う。


この虫は、自分の中から出てきたんだ。

「う、うわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

絶叫し、反射的に掌の血を振り払う。
びちゃりと地面に付着し、もぞもぞと蛆虫が蠢き踊る。


「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うチガうちガうちがう!!!!!!!!」

半ば半狂乱になりながら、蠢く蛆虫達を踏み躙り、存在を認めないと言わんばかりに何度も地を蹴りつける。

だがそれでも。

蛆虫は消えない。悟飯の首筋から血と共に落ちてくる。裂けた皮膚からその頭を覗かせてくる。
皮膚と肉の間を悠々と蠢き。
俺たちの住処はお前の中だと嘲り笑うように湧き踊っている。

「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

獣のような絶叫と共に悟飯は、その首筋を掻きむしった。
ガリガリと引っ掻く度に爪の合間に皮と肉のカスが挟まっていくが、悟飯にはそんなことを気にする余裕は無い。
皮膚が裂けていく痛みよりも、首元に蠢き続ける虫共の存在の方がはるかに恐ろしかった。

「があっ!ぎ、ぃっ...う゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ッ゛!!」

目を瞑り、殆ど無意識的に頭を振り上げ、コンクリート製の壁に叩きつける。
彼の額はコンクリートよりも硬い。故に、出血こそすれど致命的な怪我には及ばない。
そのおかげか。

ーーー完全にビョーキだよ、君。怒りやすくなったり、疑い深くなっているんじゃない?
あとはリンパだ。君、ずっと首に違和感あるだろ。
その様子だと、日付が変わらない内に、正気失って自分で首掻いて死ぬよ

出血に伴い、頭に上っていた血が降りていくに従って、脳裏に過った言葉と共に、徐々に、冷静さを取り戻していく。

「はあっ、はあっ」

激しく肩で息をし、ぼやけた視界と脈うつ鼓動を矯正する。

「っ!!」

バッと手で首筋を抑えるが、掌には赤色以外は付着していなかった。
痒みが消え去ったわけではないが、蛆虫なんて悟飯の身体どころか、地面の血溜まりにもいやしなかった。
皮肉にも、この会場で1番最初に悟飯に憤怒と憎悪を刻み込んだシュライバーの言葉が、彼の意識を辛うじて繋ぎ止めたのだ。

「げ...幻覚...なのか...?」

ほっと安堵に胸を撫で下ろすのも数瞬。
シュライバーに下された宣告を、正気を失うということをより強く実感してしまう。
タイムリミットは、徐々に迫ってきている。

「...い、行かなくちゃ...」

紗寿叶とケロベロスの遺体に土を被せ直し、海馬コーポレーションを後にしようとする。

(まだかゆい...)

幻覚はどうにか治ったが、しかし、首の痒みが消えたわけではない。
せめて首の痒みだけでも和らげたいと思わずにはいられない。

(だ...誰でもいい...誰でもいいから...)

戦わせてくれ。
余計なことを考えずに済むから。
敵と対峙する。拳を振るう。気を放つ。
敵と壊し壊されているその時だけは、首の痒さを忘れさせてくれるから。

戦いが嫌いな彼としてはありえない欲求に縋り、逃避していく。
もはやその選択を止められる者はいない。
ここに至るまでを知る者たちの殆どが斃れ、唯一、雛見沢症候群に蘊蓄のある北条沙都子ですら命を落としてしまったいま、『オヤシロ様の祟り』と化した彼を止める術は非ず。
新たな贄を求め、再び厄神は動き始める。

【一日目/午後/E-7 海馬コーポレーション近辺】


【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:ダメージ(中)、自暴自棄(極大)、恐怖(極大)、疑心暗鬼(極大)疲労(大)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、
雛見沢症候群L4(限界ギリギリ)、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目、孤独感、全員への嫌悪感と猜疑心(絶大)、首に痒み(大)、絶望
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0~1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:全員殺して、その後ドラゴンボールで蘇らせる。
0:全員殺す。敵も味方も善も悪もない。
1:お父さんには...会いたくないな。
2:誰でもいい...戦わせてくれ...痒いんだ...
3:どこに向かうか...
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群の影響により、明確に好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
※イリヤ、美柑、ケロベロス、サファイアがのび太を1人で立たせたことに不信感を抱いています。
※何もかも疑っています。
※蛆虫の幻覚を見始めました。常に見ているわけではありませんが、また不定期に見ることもあるかもしれません。


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119:人は所詮、猿の紛い物、神は所詮、人の紛い物 孫悟飯 133:道の先、空の向こう

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