アットウィキロゴ
ダンゲロスSS上海
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

ダンゲロスSS上海

万事屋上海紀行・一日目 時爆上海狂騒曲

最終更新:

dangerousss_shanghai

- view
管理者のみ編集可

1.爆弾ヲサガセ


上海各地に点在する『清海』の隠れ家の一つの近く。
そこで俺とシグリが朝食を終えたタイミングで、通信が入った。

「……時限爆弾だと?」
『ええ。不審な連中を締め上げたら、地下大放水路に爆弾を仕掛けた、って。……嘘や出任せじゃあないことは確認済み』

華甲(ファージャ)からの通信内容を聞いて、俺は少しばかり頭を抱えた。

上海最大のマフィア『魔幇』への叛逆――清王朝のダイヤの奪取。
そして、そのダイヤの一部を手にした青年、金剛シグリの保護。
それだけでもデカいヤマだというのに、更に厄ネタが転がり込んでくるとはな。

「爆弾の詳細は?」
『仕掛けたのは新興宗教団体……“紫方柱教”の連中。詳しい場所は今、口を割らせているところ。爆弾の形式は……不明』

紫方柱教……確か、『痛みこそ愛』を教義に掲げる自傷マニアック共の集まりだったか。とすると目的は……
テメエらの教義に則って他の連中も傷つけよう、ってところか。
押し付ける教義なんざ、ありがたみは欠片もねえもんだがな。

「だが、爆弾の形式が不明ってのはどういうことだ?仕掛けた張本人がわかってねえのか?」
『真っ先に聞き出したけど、わからないの一点張りよ……おそらく催眠系の能力で記憶を消したんでしょうね。
もちろんリーダー達も動いてるけれど、今一番近いメンバーは……』
「俺、ってことか。……わかった、向かうとしよう。……最後に、タイムリミットは?」
『正午――あと3時間、ってところね』

……3時間か。相当ヤバいな。
華甲との通信を終えた俺の顔を、シグリが少々青ざめた顔で覗き込む。

「海圻、えっと、爆弾って」
「落ち着け。……不安なのはわかるが、俺がいる限り大丈夫だ」
「ああいや、そうじゃなくて。やっぱ『赤か青か』とかやんのかなあって」
「……お前のポジティブさは俺も少しは見習いたいな……っと」

隠れ家を飛び出した矢先、通信が入る。リーダー・ガングートからだ。

『海圻か? ……連絡事項が3つある。
1つ、時限爆弾の件は聞いてるな? その解決に向けて協力者がそちらに向かっている。
トラブルバスターズ槌歌、と言えばわかるか?』

……ああ、聞いたことがある。俺たち『清海』と同じく、上海じゃ有名どころの解決屋だな。

『そこのトップ、槌唄塔也が直々に協力してくれる手筈になっている。
一方で、向こうさんの同行者の護衛にこちらも協力する条件ではあるが、な』

同行者の護衛……って、こっちもシグリがいるんだが、大所帯になりやしないか?

『やむを得まい。向こうの同行者も、ダイヤ絡みで狙われている。
だから、実質は清海と槌歌の合同で二人を護衛する形になるな。
分散して守るよりは、一緒に行動した方が対処はしやすいだろう?』

裏を返せば、敵にとっても狙いが絞れることになるが……
まあ、ガングートの判断で集合した方が安全と判断したのなら、俺はそれに従うよ。

『ありがとう。で、2つ目だが…… “最悪の始末屋”が動いている』

……おいおい。マジか?

『目撃証言を寄越したメンバーとの連絡が断絶した。……やられたと見て間違いはあるまい。
トラブルバスターズ槌歌との協力体制を即座に承諾した理由の大部分は、コイツへの対処にある』

……俺らだけでは手に余る、ってことか。
少し癪だが、漏れ聞こえる噂だけでもやばい相手だってのは俺もわかってる。
できれば遭遇したくないもんだが……わかった、肝に銘じておこう。

『……で、3つ目なんだが……』

なんだ、妙に口ごもるな? 危険性で言えば始末屋の情報が3つ目になりそうなもんだが……まだ何かあるのか?

『……“万事屋”と名乗る女に、これまでの情報を根こそぎ聞き出されて逃げられた』
「……は?」

…………はあああああああああ!?
『清海』のリーダーともあろうアンタが、なんちゅう迂闊なマネをやらかしてんだ!?

『返す言葉もない……もちろんシグリのことも知られている。
いいか、白黒二色の出で立ちをした女を見たら気をつけろ。
……何をしでかす気なのか、俺にも読めない相手だ』

白黒二色の出で立ちってどんなんだ、とガングートに文句を言おうとした矢先――
『四霊随身』で張り巡らせた網に妙な気配を捉えると同時に、シグリが素っ頓狂な声をあげた。

「わーっ、すごい美人ですねお姉さん!」

――なるほど、白黒二色の出で立ちだ。
正中線で髪と服を綺麗に白黒、陰陽紋にしちゃあ随分真っ直ぐな分け目だな。
目の前に現れたロングヘアーの女を見て、俺は思わず素直に口に出していた。
にやにやと笑む女を前に、俺は臨戦態勢に入る――


2.万事屋は憚らない


……いやー、アタシも現金だね。美人だーなんて褒められただけでニヤケちまうなんて。
そこの赤ジャケの兄ちゃんは、もう少し連れの坊やの素直さを見習いなよ。
とりあえずそのおっかないオーラ……『四霊随身』だっけ?ちょっとタンスかどっかにしまってくんない?

「『清海』から情報を盗めるような奴に対して、容赦できると思うか?」

おいおい、盗んだなんて人聞きが悪いぜ。
ただアタシは、自分自身に【正直になんでも喋る】ってイメージを付与しただけさ。
これぞアタシの魔人能力、『創造上の想像力(イマジナリーファイア)』のちょっとした応用ってワケだ。
だからそこの坊やも正直な感想を述べてくれたわけだし、アンタだって思ったことが口に出てたろ?

「……能力を明かすとは、余程自信があるようだな」

んー、そんなピリピリすんなって。アタシはアンタらに協力したいんだからさ。

「協力? ……手は足りてる、得体の知れない奴が首を突っ込むな」

かはは、地下のバカでけー水路のどっかにある爆弾を探すトコからやるのに、人手が足りてたら他チームとは組まねえだろ?

「あの、海圻。たぶんこの人、悪い人じゃないと思うよ」
「かもしれないが、コイツはダイヤを狙う気満々だぞ」

あ、バレた? まあ隠すつもりもねえんだけど。
そこの坊やとダイヤが引っ付いてる、って話はアンタんとこのリーダーからも聞いたよ。
問題は、それだとアタシにとっても都合が悪いんだよな。
ダチの懐妊祝いに活きのいい青年を送り付けるわけにいかねーしな。

「……か、懐妊祝い、だと? ……正気か、アンタ?」

おいおい、何口をあんぐり開けてんだ赤ジャケ。アタシを狂人扱いか?人狼もいねえのにそんなムーブなんざしねえよ。
んで、さらに話を聞いたら最悪の始末屋がどうとか?
そういうトラブルを聞いちまったら『万事屋』のアタシ、白髪黒羽としちゃ放っておけないってワケさ。
手ぇ貸すぜ、猫の手よりはアテになるぜ?

「協力してくれるんですか! ありがとうございます!」
「……おいシグリ、いきなり現れた相手をあまり信用するな。
コイツはお前を妊婦へのプレゼントにしようとしている女だぞ」

だからしねえっての!……で、どうすんだ?

「……アンタに敵意がないってのだけは分かったよ。手を貸してくれる、ってのもひとまずは信じるとしよう。
――だが寝首を掻けるとは思うなよ、白髪黒羽」

信じてくれてサンキューな……っと、悪いが名前で呼ぶのは勘弁してくんな。
アタシを名前で呼んでいいのは敵とダーリンだけなのさ。

「あちゃ~、彼氏持ちかあ……残念だなあ」
「シグリ。付き合う女は選んだ方がいいぞ」

よし赤ジャケ、これ終わったら一発殴らせろ。


3.赤い×印!解決屋危機一髪


トラブルバスターズ槌歌、上海支所の一角。
俺たちが朝食を終えて今後の方針を決めようか……と思った矢先。
『清海』からの協力要請が入った。

「時限爆弾?」
『ああ。地下大放水路のどこかに仕掛けられたようだが、我々だけでは対処しきれる保証がない。
恥を忍んで、貴君らにも協力をお願いしたい』

上海の治安維持に奔走する者同士、それもトップからの直々のお願いとあっては
無下に断るわけにもいかない。もちろん、本来ならば育美の保護が最優先だ。
だが、時限爆弾が爆発してしまえば上海中が無惨なことになるだろう。
当然、そうなれば育美が、そして俺たちが巻き込まれる。

「オッケー、ただし条件がある。現在『清王朝のダイヤ』絡みで狙われてる子を保護してる――
おたくからも護衛メンバーをお借りしたい」
『……こちらも一人、保護対象がいる。
腕利きを護衛につけているが、そういうことなら合流するのはどうだろうか』

おっと。向こうさんにも守るべき相手がいるとはな。
……それなら、合流も一つの方法だろうな。
俺と七歌の能力だけで対処できない追手が来ることも考えられる。
大所帯になることで発生するメリットとデメリット、若干だがメリットの方が大きいと判断した。

「……了承した。それじゃあ、合流地点は――」
『わかった。合流するメンバーは……赤いジャケットが目印だ。よろしく頼む』

合流地点を伝え、俺と七歌、育美の三人で向かう態勢を整える。

「よし、じゃあ行くとしようか」

支所を出て、人気の少ない路地を歩く。
俺たちの支所周辺は、一応中立地帯となってはいるが――
『魔幇』の秘宝たる『清王朝のダイヤ』が奪われたことで、取り戻そうと躍起になる魔幇の息がかかった連中。
ダイヤの横取りを狙うハゲタカ。そいつらをまとめて潰す解決屋。
殺気だった面々が行き交う以上、治安の悪化は免れない。
支所への攻撃を禁じる不文律が正常に作用する保証がない以上、保護対象である少女――浅村育美もまた、俺たちと共に移動させるしかない。

「……本当はもっと、落ち着いたところなんだけどね」
「いえ、気にしないでください。また落ち着いたら、今度は、その……ちゃんと旅行しに来ますから。
そのときはぜひ案内をお願いしますね、七歌さん」

……七歌に育美の精神的ケアをお願いしたつもりが、逆になってないか?
思わず微笑ましくなってしまうな。

……だが。そんな和やかな時間は、あっさり終わりを告げた。
気付けば、いくら人気が少ない場所でもあり得ないほどに――人の気配が消えている。
警戒心のギアを上げながら、角を曲がると――

「――対象、発見」

目の前に現れたのは――『最悪の始末屋』の姿だった。
上海裏社会に突如現れた、謎の怪人。誰が呼んだか――χ(カイ)

頭部と胸部を中心に、×マークを中心にあしらったパワードスーツ。一見すれば、戦隊ヒーローか何かに見えなくもない。
しかし、隠しようのない禍々しさが滲み出ている。狙いは――十中八九、育美だろう。

「――×刀(バットウ)

「みえざるたてよ われらをまもれ」

七歌が咄嗟に『深く昏き森(ダーケストフォレスト)』で防御する。
斬撃は不可視の盾に阻まれ、俺達に凶刃が届くことはなかった――はずだった。

「――『防御禁止』」

視えざる盾に紅く輝く×印が刻まれ、剣で砕かれる。
咄嗟に、俺は七歌の腕を掴んで引き寄せる。間一髪、斬撃は空を切る――だが。

「――点×(テンバツ)

剣の先から放たれた×型の弾が、七歌の喉元に命中した。

「! 七歌! 大丈夫か!?」
「……っ! ……!」

幸いなことに殺傷能力がある攻撃ではなかったようだが――
七歌が受けたダメージはある意味、それ以上に致命的だった。

「――『発言禁止』」

χが抑揚のない声で宣告する。
七歌の深く昏き森(ダーケストフォレスト)の特性を見破り、封じてきたというわけか。

「七歌さん! 今、治します!」

育美が七歌に抱き着くが――七歌の喉元に貼り付いた×印は消える気配がない。
おそらくは奴の能力なのだろう。奴の攻撃を受けるたびに何かを『禁止』される。
そして×印自体は負傷や損壊ではないから、育美の力――『泪をみるひと(ティア・ゲイザー)』でも治せない、ということだろう。

「え、どうして……」
「……っ、危ない!」

狼狽える育美と七歌に対して追撃を加えんとするχを睨みながら、咄嗟に『痛みの塔(ペイン・タワー)』で奴の足元にブロックを積み重ねる。
七歌が能力を封じられた以上、俺一人で二人を同時に守るのは困難を極める。
後ろを気にしながら戦える相手でないことは、相対した瞬間にわかっていた。

「逃げるぞ、七歌!育美!」

七歌と育美の手を取り、逃走態勢に入ると同時に、ブロックを瞬時に消し去る。
致命傷にはならずとも、落下の衝撃で数刻は稼げるはずだ。

……だが、俺の考えは『最悪の始末屋』を舐めていたと言わざるを得なかった。

「――『落下禁止』」

奴の胸元の×が赤く光ると同時に、重力が消えたかのように空中に留まる。
自分にも『禁止』が適用される――そのくらい思いつくべきだった。

「――点×(テンバツ)

上空から、遮蔽物のない場所で狙われる。
射線上にブロックを積み上げようとするが、間に合わない――!

だが、奴の攻撃が届くよりも先に予想外のことが起きた。

χの真下にあった、下水道に続くマンホールの蓋が勢いよく吹き飛び、奴を直撃した。

「!?」

意識外からの打撃に、さしもの始末屋も体勢を崩し落下する。
とはいえ、そのまま地面に叩きつけられることはなく、即座に受け身を取り臨戦態勢を継続している。

その警戒心は、蓋と同時に飛び出した人影――殭屍(キョンシー)に対して向けられていた。


4.インタラプト・キョンシー


我ながら、どうかしていたと思う。
何を思って私は下水道をさまよっていたのか、自分でもとんと心当たりがない。

きっとあの怪しげな物売りの言葉が無意識下にこびりついていたのだろう。
まったく、人のことを臭いだのなんだのと。

当然ながら、⊕下水道には清王朝のダイヤもなかったし、私の主人もいなかった。
さっさと再び地上に戻って手掛かりを探さねばとマンホールの蓋を勢いよく跳ね上げて
下水道から脱出――したのはいいのだが。

私の目の前には、長柄の槌を握りしめた青年と、彼に守られるようにうずくまる女性と少女がいた。
ぐるりと見回せば、青年の視線の先には――『最悪の始末屋』。
……はて。あんな奇抜なヒーローもどき、私は今まで見たことがないはずなのだが。
見た瞬間にアレを『最悪の始末屋』だと認識した。なぜだ?

その疑問に首をかしげている間に、件の始末屋――もといヒーローもどきが
赤光を放つ剣をこちらに向け、斬りかかってきた。

「――×刀(バットウ)

殭屍(キョンシー)である私だろうと、斬撃で腕でも落とされたらただでは済むまい。
咄嗟に、重力に従い定位置に戻ろうとしたマンホールの蓋をキャッチして剣を受ける。
⊕いくらなんでも、マンホールの蓋の重量と強度をいきなり切り裂けるはずはない。
……と、思っていたのだが。

「――¬『防御禁止』」

赤い剣が、鉄製の蓋をまるでバターのように突き進んでくるではないか。
私は慌てて、役に立たなくなったマンホールの蓋から手を放し、剣の間合から逃れる。

「気をつけろ、ソイツの攻撃はあらゆる事象を『禁止』する!」

……もうちょっと早く言ってほしかった。
ともあれ、ここにいる面々はいずれも私の主人ではなさそうだ。
だが――この状況で私がすべきことはわかる。

私は殭屍だが、義侠心まで死んではいない。

肉体が自然と、構えを取る。記憶が曖昧だが、中国拳法の何かしらの構えなのは間違いない。
⊕私の生前は拳法の達人だったのだろう。

始末屋が剣を振り抜いて戻るまでの、僅かな隙に合わせて瞬歩で踏み込む。
そして、胸元ででかでかと輝く×印――⊕明白な弱点を目掛けて、正拳突きを打ち込む。
だが、拳が打撃を伝える瞬間に始末屋が呟く。

「――¬『損壊禁止』」

拳が機械仕掛けの鎧を殴りつけたのは、相手が何か言い終わると同時だった。
弱点を突いた一撃は確かに手ごたえあり――のはず、なのだが。
相手がダメージを受けた気配がまったくない。
そのことに一瞬戸惑った隙に、相手が返す刀で斬りつける。

「――供儀×刀(クギバットウ)・『攻撃禁止』」

咄嗟にバックステップで回避しようと試みたが――
剣から細かい×印が枝分かれするように生え、剣のリーチが変化する。

ざく、と胸元の服がその下の皮膚ごと裂かれた音が聞こえるとともに、奇怪な×印が胸に張り付く。
殭屍とはいえ乙女の服の胸元を裂いた上に、ペイントまでするとは……なんて不埒な奴だ。
あの仮面の下できっとムッツリスケベの本性を見せているに違いない、まったく。
一発お見舞いするか、と傷に構わず再度踏み込んで足を高々と蹴り上げて――
その足が相手に当たる直前に、ピタリと金縛りに遭ったかのように止まった。
……げ。『攻撃禁止』ってそういうことか。これはマズい。
攻撃を寸止めして完全に無防備な状況で、剣使いの前に立ってしまっている。
ああ、⊕こういうピンチのときに、助けてくれる親切な人がいれば――

「――雅忠(ヤージョン)!」
「はっ――!」

背後から女性二人の声がしたかと思うと、私をよけるようにして
始末屋に、正確には奴の持っている剣目掛けて雷が吸い寄せられていく。
⊕尖った武器に雷が落ちるのは当然だろう。
始末屋は即座に剣を手放して後ろに退く――その判断の速さは流石と言えよう。

「嬢ちゃん!しゃがめ!」

今度は追われていた(であろう)男性の叫ぶ声に、思わず咄嗟に反応してしゃがむ。
その直後、私の頭上を何かデカい物が通過し――始末屋に衝突する。
あれは……何かの箱だろうか? そう思った刹那、箱から箱が生えるように増殖し――
あっという間に私たちと始末屋の間を隔ててしまった。

「一緒に逃げるぞ!早く!」

男性の声に、私も踵を返して加わり――その場を後にする。
悔しいが、攻め立てる手段を奪われた以上は退くしかあるまい。
路地一杯に積みあがった箱の山からはざん、ざんと斬撃で箱を破壊する音が聞こえてくる。
どこか気品を感じる女性と、彼女に付き従うメイドの二人も加わり――私も加えて計六人。
思わぬ大所帯となってしまったが、ひとまずは逃げきれそうだ。

「……すいません、巻き込んでしまって」
「お気になさらないでください、どのみち通りがかってしまった時点で
お嬢様も私も目撃者として消されかねませんので、あくまで自分たちのためです」
「雅忠、そのような言い方はよろしくありませんよ?
……私の従者の無礼、お許しくださいませ」
「ああいえ、気にしないでください……っと、走りながらで恐縮ですが。
俺は槌唄塔也、こっちは倉森七歌って言います」
「わたくしは(スー)絲織(スーヂィー)、こちらは(レイ)雅忠(ヤージョン)と申します」
「えっと、浅村育美です。よろしくお願いします」

お互い始末屋から逃げる者同士、縁ができたところで自己紹介の流れになったので
「私はヨニ・ヨニ、見ての通りの殭屍だ」――と名乗ったところ、育美ちゃん以外の女性陣がなぜか
ちょっと気まずそうな顔をした。まあ、殭屍と一緒にいて気分のいい生者もそう居るまい。

――私が、自分の名前の意味を知って羞恥心でのたうち回る羽目になるのは、数分後のことだった。
そしてもう一つ、大きな見落としがあったのだが――それに気づくのは、もっと後になる。


5.殺人鬼、走る!


顔合わせから、おおよそ1時間後。
俺達三人は、地下大放水路の一角、調圧水槽を歩いていた。
……そう、三人。合流すべき『トラブルバスターズ槌歌』の姿はここにはない。

本来であれば合流してから放水路へと潜入する手筈だったのだが……
俺のもとに槌歌側から届いたのは『緊急事態』の報せだった。

「始末屋に遭遇、先に捜索願う」

始末屋χ――これまた随分デカい厄ネタを追加されたもんだ。
なんとか撒いてくれることを祈りたいが……
ともあれ、こちらも簡素な返信として「調圧水槽に向かえ」とだけ返して先に現地入りすることになった、という次第だ。

調圧水槽――簡単に言えば河川からあふれた水を排水機場へ送り込む際に
水を一時的に貯めて水圧を調節するための場所だ。
ここだけでも全長、幅ともに数百m単位のだだっ広い場所だが――
総全長30kmというバカでかい大放水路全体から探し出すよりは遥かにマシだろう。

さて、なぜ俺達が調圧水槽に的を絞ったのか。

「まず各地の立坑は捨てていいだろ、爆破しても広大な縦の空間に爆風が逃げるからな。
立坑間を繋ぐトンネルもナシだな、潰したところで洪水を引き起こすにゃ天候不順を待たないと水が溢れねえ。
洪水起こすならダム爆破のほうがもっと手っ取り早いだろ。
そもそも、水が大量に流れ込む場所に爆弾を仕掛けたら、流されて狙った場所が爆破できねえ上に
誤作動なんかのリスクも高い。そうなると『時限』爆弾としちゃ失格だ。
そして出口の排水機場は基本的に職員がいる、もちろん警備員だってな。
仕掛け人がアッサリ取っ捕まった辺りを考えると、気づかれずに仕掛けるのは無理だろ。
なら、答えは一つだ。監視の目が行き届きにくく、水が流れ込むリスクが少なくて
爆破で大規模な崩落が狙えるのは排水機場の隣、調圧水槽ってことになる。
……ま、コレはアタシのダチの推理だけどな」

とまあ、万事屋が他人の尻馬に乗った推理を披露してくれた矢先に、
華甲からも『調圧水槽に向かって』と通信が入った次第だ。

そしてもう一つ、理由がある。
シグリが、ダイヤの気配を地下から感じ取ったからだ。

『清王朝のダイヤ』――その正体は未だに判然としない。
だが、その欠片をシグリが取り込み、魔人と化した。そう、欠片だ。
他にも欠片が散らばっているのか、欠けた大元の本体があるのかは定かではないが――
少なくとも、その一つがこの地下にあると見ていいだろう。

「はーん、四魂の玉みてーなもんか」
「シコンノタマ……牛肉の部位ですか?」
「そりゃシンタマだ。……え、ひょっとして『犬夜叉』読んだことねえ?
うわー、おねーさんジェネレーションギャップ感じちゃうぜ」

……おい万事屋。そんな気の抜けた駄弁りをしてる暇があればお前も爆弾を探せ。

「えー? お前の『四霊随身』とシグりんの……『金剛糸繰』だっけ。
その合わせ技で探す方が確実だし早いっての。
がんばれよ、見つけたらアタシがちゅーしてやるぜ?」

そう言って万事屋がばしばしと俺の肩を馴れ馴れしく叩く。
1時間前の自分のセリフを忘れたのか、こいつは?
……いいから探せ、それか敵に警戒してくれ。あとキスは不要だ。

「へーへー、わかりましたよっと……あ、シグりん、後でその糸分けてくんない?
糸状っつってもダイヤモンドだし、売れば小遣いくらいにゃーなるかなーって」
「ええー、売れるんだったら自分で売りますよー」

万事屋とシグリが雑談で盛り上がるのを横目に、俺はシグリの肩に手を添え続ける。
そのシグリはというと――地下に入ってからというもの、例のダイヤモンド状態になっていた。
おそらくは欠片が近い影響なのか、能力が自然と引き出されているようだった。
そこで、シグリが張り巡らせた金剛石の糸に俺が『四霊随身』で気を流し――
より精度の高いレーダー替わりにしている、という次第だった。
もちろん、ダイヤ以外の……他の侵入者の気配なども探れる。
調圧水槽は巨大なコンクリートの柱が無数に聳え立っている――敵が潜む余地がある。
今のシグリの姿はダイヤ狙いの連中には垂涎の姿だろうからな。

……そんなことを考えていた矢先。
即席のレーダー網が、人の気配を察知した。

「……おい、万事屋」
「わーってる」

シグリに防御態勢を取るよう伝え、気配のした方向に向き直る。
広大なコンクリート造りの空間に、俺達とは違う足音が響く。
誰か一人の人間が、弾むように走ってくる足音――
複数人いるはずの同盟相手でないことだけは確実だった。
やがて、その姿がシグリのダイヤモンドの輝きに照らされ露わになる。

「いっけな~い地獄地獄☆わたしの名前はしりあるキラ子!三度の飯より無差別殺人が好きな上海の一般的な高校生!」

口に食パンを咥えたまま走る、学生服姿の少女がこちらに向かってきた。
……なんだってこんなときにこんな場所に学生が紛れ込むんだか。
おい、お嬢ちゃん、悪いが今日は社会科見学は控えてくれ――

そう声をかけようとした瞬間。
女学生が、右手に持っているフランスパンを振りかぶるように構える。
――何かがおかしい。
そう気づいたときには、彼女の振りかぶったフランスパンが、俺達の横の地面を殴りつけていた。

「あれぇ~?外すなんておっかしいなぁ~☆ きゃはっ☆」

しりあるキラ子が小首を傾げてみせる――仕草だけ見れば、確かにかわいらしい女学生だろう。
……だが、その表情は邪悪そのものだった。
あからさまな敵に、こんな至近距離まで接近を許すとは――認識系の能力持ちか?
咄嗟に『四霊随身』で気を練り上げ、身体に巡らせる。

「まぁいっか☆ 人の恋路の邪魔するやつは……死んじゃえっ☆」

キラ子が駆け出し、今度は白髪とシグリの方へと襲い掛かる。
右手で得物(フランスパン)を横薙ぎに振り抜く。

「万事屋!」

咄嗟に呼びかけるが……白髪は不敵に笑い、かわそうともしない。
それもそのはず、キラ子の一撃は明らかに間合が合っていなかった。

「悪いね、【襲撃者(アンタ)の攻撃は当たらない】のさ」

万事屋は余裕の笑みを崩さず、少女が振り抜いたパンをがしりと右手で押さえつける。
そして、残る左手で懐から漆黒の拳銃を取り出して見せ――容赦なく、引鉄に指をかける。

「……ははぁん、わたしと同じタイプ、ってワケね」

キラ子が毒づきながら、必死に銃口から身体を逸らそうとするが――遅い。
次の瞬間には、くぐもった悲鳴と共に膝をついて崩れ落ちた。

「こんな至近距離から【撃たれる】気分は……まあ、良くはねえよな」

……拳銃は銃声も硝煙も放っていない。
撃たれたはずのキラ子も、銃創どころかかすり傷すらない。
なるほど、『創造上の想像力(イマジナリーファイア)』……敵に回すと厄介な能力だな。
やたらベタベタ触ってくると思ったが……接触がトリガーか。
俺らに攻撃避けのイメージを付与して、襲撃者が攻撃を当てられないようにしてたわけだ。

「シグりん、糸多めに出しといてくれ。動けねえウチに…… っ!」

万事屋が襲撃者を拘束しようと指示を出したそのとき、キラ子が懐から何かを取り出し――
地面にかつんと落としたかと思うと、白い煙が噴き出す。

「! げほっ、何だこれ……」
「……シグりん、口元を押さえときな、あと――」

……煙幕か。
シグリや万事屋はともかく『四霊随身』がある俺には通じない……
と、先程までなら思えたのだが。相手は認識を狂わせる能力持ちだ。
直前のキラ子の反応からすると、万事屋の守りもあまりアテにできないだろう。

「あ~っ☆ ちょっと男子ー、死んでちょうだーい☆」

立ち込める煙の向こうで、おちゃめな女学生の声が聞こえた。
わかっていても認識が瞬間的に歪んで、人畜無害な女子と錯覚する――
その脳のバグが、瞬間的に思考を鈍らせる。
だが、そんな認知の歪みを吹き飛ばすようなヤバい事態がもう一つ起きている。

――『四霊随身』の感知網に、今まで存在しなかったはずの気配が一つ増えた。

「……ヤダね」

煙幕の向こうから聞こえた声は――シグリのものではなかった。
続けて、硬い武器同士がぶつかる甲高い音が響く。
……キラ子は誰に(・・)襲い掛かったんだ?

その答えは、すぐに明らかになった。
突然、煙幕が薄れ始め、皆の姿が露わになっていく。
見れば、シグリが『金剛糸繰』でダイヤの糸をプロペラ状に編み上げ、風を送っていた。
おそらく万事屋の入れ知恵だろう……決め顔してるのがムカつく。
いつのまにか、もう一丁……純白の拳銃を右手に携えていた。二丁拳銃……ガン=カタか。

そして、俺達の間には――
キラ子に対峙する、金髪の少年が立っていた。


6.乱入者と狙撃手


煙があっさり晴らされ、ぼくの姿が露わになる。
……失敗した、と思った。

『清海』の動きが慌ただしいことは、解決屋の繋がりで簡単に把握できた。
『清王朝のダイヤ』に関わる人物の保護のことも、ジョバンニが掴んでくれていた。
でも、ぼくとジョバンニの二人だけでは、さすがに組織立った相手を正面から敵に回すことはできない。
かといって、手を組むわけにもいかない。ぼくらの『願い』のためには。
だから、乱戦に紛れ込む作戦にしたのだけれど、都合よく乱戦は起きてくれない。
地下大放水路に向かったのも、そういう意味では少し都合が悪かった。
人の気配がなく、だだっ広い場所では乱戦など望むべくもない。

そこで――近場にいた殺人鬼(シリアルキラ―)を利用することにした。
ぼくでさえ回避が困難だった奇襲能力なら、混乱を招くに足る。
銀河鉄道の夜(ハルレヤ・ハルレヤ)』で現れては消え、を繰り返し――地下へと誘導。
後は、先行した面々が応戦している間にぼくも奇襲をかける――
というのが、本来のプランだった。

問題は――その殺人鬼の矛先がぼくに向いちゃったことだ。
フランスパンが武器とかいうふざけた女を前に、リーチで劣るナイフで立ち向かうのは
不利と言っていいだろう。しかもナイフで斬れないとか、どんな硬度なんだか。

「ん~、転校生カナ? 殺しちゃお☆」
「……お姉さんには無理だよ」

周囲の面々が、突然現れたぼくに対して対応を決めかねているのがせめてもの幸いだろう。
逆に言えば、この隙を逃せばぼくも敵と認識される――

しょうがない。プランBだ――ジョバンニ。
ぼくはジョバンニに呼びかけるように念じる。ぼくらは、つながっている。

口にパンを咥えたお姉さんが、手に持ったパンを振りかぶる――
その一撃をいなしたタイミングで、まずは白黒姿のお姉さんを仕留める。
遮蔽物になる柱が多いということは――狙撃がしにくい。
無意識のうちに遠距離からの攻撃は意識から逸れることになる。

そして、殺人鬼がパンという名の鈍器を振り下ろし――
ぼくが受けるまでもなく、【そのまま自分の頭に打ち付けた】。

え?

「ぷぎゃっ」

殺人鬼が脳震盪で崩れ落ちると同時に、ジョバンニが撃った銃弾が地面に着弾し、コンクリートに傷を刻んだ。
――外した? そんな馬鹿な――
ジョバンニの狙撃の腕前はぼくだって知っている――少々予想外はあったけれど、
その程度の動揺で手元が狂うような奴じゃない。

「……思い出したぞ」

着弾に気づき、赤いジャケットのお兄さんが完全に警戒モードに入る。……マズい。
解決屋として、ぼくらはそこそこ名が知れているほうだ――『清海』のメンバーなら
ジョバンニのことまで合わせて知っていてもおかしくはない。

「シグリ、こいつを拘束しとけ。……コイツは俺が相手する」

倒れた女性を顎で指し、ぼくに向き直る。
背後にもう一人、白黒のお姉さん……パン女が倒れ伏したのをニヤニヤと眺めている。
だが、油断はしていない……流石にこの状況で、ダイヤのお兄さんに手出しできる余裕はない、か。

乱戦のつもりが、思わぬ真っ向勝負を強いられて不本意な状況だというのに。
ぼくは、ぼくらは、なぜか笑みがこぼれていた。


……まさか、俺が狙撃で的を外すなんてな。
あの白黒女の能力か――だが、タネさえ割れていれば問題はない。
俺がいる場所は、奴らからはゆうに数百m離れている。
弾道を計算して俺の居場所を割り出すにも、時間がかかるだろう。
先程のやりとりで、白黒女は自分がターゲットだと警戒しているかもしれないが……的外れだ。

――ここからは『清海』の一角、海圻を()る。
強者は排除できる機会に排除しておくに限る。

カムパネルラがナイフを振るい、海圻に踏み込んでいく。
海圻が太刀筋から退きつつ、足払いで体勢を崩しにかかる。
カムパネルラの身のこなしなら大丈夫だろうが――ここは一旦、消えようか。

銀河鉄道の夜(ハルレヤ・ハルレヤ)』、解除。2秒後、再発動。
足払いが空振りしたところを攻め立てる。
……とはいえ『清海』の武闘派で鳴らす相手だ、この程度では怯まない。
ナイフの突きをいなして、腕を極める――解除。5秒後、再発動。
カムパネルラは再出現するたびに、全快する……そのように、なっている。
あの『あやまち』の日から、時計は動いていない。

『願い』のために『あやまち』にしがみつく。
……我ながらクソッタレだと思う。それでも。
あの日をやり直して、今度こそ間違えないためなら。
俺は、カムパネルラは――矛盾だって飲み込もう。

白黒女も、両手に銃を構えて加勢する態勢に入っている。――二対一。
一撃で仕留める必要はない。時間をかければかけるだけ、奴らは焦る。
少しずつ、かすり傷だろうと、僅かな疲労だろうと。
重ねていけば、いずれはこちらが勝つ。

もちろん、黙って見ているばかりではない。
出現と消失を繰り返すカムパネルラに警戒心が移る頃合を見て、海圻の脳天に
風穴を開ける準備は整えている。
スコープで戦場の様子を眺めながら、海圻が離れる隙を伺う。
視界の端では、ガン=カタの構えで二人に割って入るタイミングを伺う白黒女がちらついている。
邪魔ではあるが、標的はあくまで海圻だ。

そして、数分の応酬ののち――絶好のチャンスが訪れる。
技の溜めに、気を練り上げる一瞬。
カムパネルラの誘導通り、射線上に奴の頭が露わになる。
意を決し、引鉄に指をかける――

――!?

スコープの向こうで【ガン=カタの構えを取っていた女が、私の目の前にいた】。
咄嗟にライフルを捨て、こちらも懐の拳銃を取り出すが――一歩遅かった。

身体に走る二連の衝撃――両肩を撃たれた。
痛みにのけぞり、後ずさる――かしゃん、と無骨な金属製の足場にぶつかる。

俺がいるのは、調圧水槽の隣の立坑に併設された点検員用の足場。
どう考えても一瞬で移動できる距離じゃない――そもそもなぜ、ここにいるとわかった?
実際に、カムパネルラの視界から白黒女は動いていない……いや、待て。

海圻に加勢している女の後ろに……もう一人、白黒女がいる。
――幻影(イメージ)を見せる能力、それが正体か。

気付いて咄嗟に肩口に触れるが、銃創はない。
おそらくはあの女との接触がトリガー……だから、本来はカムパネルラに対する干渉だったはずだ。
カムパネルラと思考や感覚を共有していることが、完全に裏目に出た格好だ。
かといって共有を切れば『銀河鉄道の夜(ハルレヤ・ハルレヤ)』が十全に使えない。
そもそも私がここで幻影の女と戦っている時点で、連携も崩れている。

そして、カムパネルラの耳を通して――増援が駆け付けたことを知った……潮時か。

――退くぞ、カムパネルラ。

カムパネルラに呼びかけ、自分も元来た道――地上までの通路へと引き返す。


7.見つけた!キケンな超爆弾


こちらに向けて走り寄る足音が複数名。……今度こそ、トラブルバスターズ槌歌の到着か。

「大丈夫か!?」
「……ああ、なんとかな」

金髪の少年の姿が突然かき消え――気配も感じられなくなった。
瞬間的に消えては現れを繰り返していたときはまだ気配はあったから、
今度こそ撤退したとみていいだろう。
流石に、二人でこの人数は捌けないだろうからな。

……しかし、話に聞いていたよりも人数が倍近く増えてないか?

「無い袖は振れない、とも言うし気にしない気にしない」

『袖振り合うも他生の縁』の間違いだな、殭屍のお嬢ちゃん。
そして、メイドを連れたお嬢さんか……

「おれ、金剛シグリって言います! 生のメイドさん見るのって初めてです!」
「蘇絲織ですわ……ふふ、よろしくお願いいたしますね」
「雷雅忠と申します……ええと、その」

おいシグリ、珍しいかもしれないがもう少し控えめにな?メイドさんがちょっと引いてるぞ?
だいたいなんだ、生のメイドって表現は。

「まあまあ、ちょっと人数も多いから賑やかになるのも仕方ないけれど。
ここらでいったん、情報共有といこうか。ちゃんと自己紹介も兼ねて、ね」

槌唄のとりなしで、お互いの簡単な自己紹介と、これまでの情報共有が進められた。
……『最悪の始末屋』χ、相当厄介な相手だな。
ここが嗅ぎつけられる前に、急いで爆弾の解体に取り掛かりたいもんだな。

ちなみに、俺たちに襲い掛かってきたイカレ女子高生はすでにふんじばってある。
シグリが能力で生み出したダイヤモンド製の糸を編みこんで手足を結んだ上から
さらに身体をぐるぐる巻きにしてあるから、もう悪さはできないだろう。
後でしかるべき機関に突き出すとしよう。

「よーし、そんじゃ早速皆で爆弾探しといこうか」

しれっと仕切り始めた万事屋の合図で、俺たちは爆弾の捜索を再開した。
これだけの人数がいるなら、手分けして探したいところだったが……
始末屋の件や、先ほどのような突然の襲撃者のことを考えると
全員で行動したほうが良いだろう、という結論に至った。

そして、十数分後。
ようやく俺たちの目の前に現れたソレは、なかなか立派な代物だった。

調圧水槽の中央部に鎮座する、ひときわ太いコンクリートの支柱の前。
ゆうに全高3mはあるんじゃないかって位のバカでかい機械が、そこに陣取っていた。
中央には、黒い球体にこれ見よがしのデジタルタイマーがくっついている。
残り時間は……30分を切ったところ。

特筆すべきは――爆弾の最上部。
透明なドームの中に封じ込まれた、光を乱反射する結晶体。

「間違いありません、あれ……ダイヤの欠片です。
爆弾のエネルギー源にされてるみたいです!」

シグリが共鳴するかのように、ほのかに光る。
爆弾のサイズや規模がどう考えても地上を崩落させうるレベルに見えなかったが……なるほど。
ダイヤの力で増幅(ブースト)しているとあれば納得だ。

だが、この時限爆弾――解除されることを前提とした造りにはなっていない。
ジャイロなどのセンサーも含めて、いわゆるトラップの類はなさそうだ。
それでも、複数本のコードが絡んでいるから迂闊に触るわけにはいかなさそうだが……
今から解除に取り掛かれば問題ないだろう。

「え、赤ジャケ爆弾解体とかできんの?大丈夫?」

……だからここに来たんだろうが。その発言の真意は後でたっぷり聞かせてもらうぞ万事屋。
俺はさっそく『四霊随身』で爆弾を精査する――

「きゃっ……!?」
「? ……! ……!」

その瞬間、後ろで育美嬢の小さな悲鳴が聞こえた。
側にいた七歌嬢が、声にならない声で訴える。

育美嬢の首筋には、小さな赤い×印――その中には小さく『死亡禁止』の文字が刻まれていた。

――『最悪の始末屋』の姿が、俺たちの後方数十mに迫っている。
バカな。これだけ近づけば『四霊随身』で気づけたはず――

「……おおかた『探知禁止』とか何かで気配を完全に消してたんだろうぜ」

……くそっ。槌唄らから自身のバフとしても使える話は聞いていたが……
だが、育美になぜ『死亡禁止』を付与した?
時限爆弾に気を取られていた俺たちをそのまま襲うことも十分できたはずだが――

その答えは、すぐに明らかになった。

「――×斬蓋世(バツザンガイセイ)

――始末屋が胸部から放った×印のビームが、時限爆弾を直撃した。
幸いなことに、爆弾がこれで起爆だとか暴発するといったことはなかったが……
赤い×印が、大々的に爆弾に刻まれた。

「――『解除禁止』」

……始末屋の狙いがわかってきた。
奴は自分と育美嬢以外の全員を、まとめて爆弾に巻き込むつもりだ。
彼女に『死亡禁止』を科したのは、爆発やその他の要因で死なせないため。
裏を返せば、死んでさえなければいい――ということか。
奴自身も同様に『死亡禁止』で生き残る腹積もりだろう。
……地上の犠牲なんざ知ったことか、と言わんばかりに。

この忌々しい×印は……おそらく奴を倒せば消えるだろう。
つまり、爆弾を止めるには――『最悪の始末屋』の撃破が必須、ということだ。


8.始末屋襲来


っかー、……とんだレイドボスのお出ましときたか。
『最悪の始末屋』――どっかの宇宙刑事か戦隊ヒーローじみたパワードスーツの
中の人が何者か、どんな表情をしてんのか気にはなるが――そんな場合じゃねえな。

戦えるメンツは、アタシ込みで――四人、ってとこか。
せめてさっきのパツキン坊やと、謎の狙撃手がいればもうちょい幅広い攻撃が
できたかもしんねえんだが……ま、向こうの引き際がよかったってことだな。

すぐに動いたのが、槌使いの兄ちゃん――槌唄塔也だった。
足元から妙なブロックを生やしたかと思うと、長い槌でぶん殴って始末屋に向けて飛ばす。
だが――奴が張り巡らせた×型の薄い障壁を箱が通過した直後、物理学を無視したスッ飛び方で
始末屋の後方へと箱がそれていく。

「――×苦転(バックテン)

×印に触れると『禁止』されるってことは……『命中禁止』あたりか?
ってことはアタシの銃撃も逸らされるのがオチだ――いや。
創造上の想像力(イマジナリーファイア)』なら、現実を無視して【撃たれる】という
イメージは叩きつけられる。……とはいえ、まだ切りどころじゃあない。
アタシが何か禁止されて、能力を封じられたらその時点で勝ち筋が大幅に削れる。

かといって、接近戦を挑めばカウンターが厄介だ。
実際に『攻撃禁止』を食らってキョンシー娘は戦力外になっちまってる。
……ああクソ、頭でごちゃごちゃ考えるよか身体を動かすのがアタシの主義だったつもりだが。
アタシの能力は、味方が多いときほど使い勝手も悪くなるんだよな。
イメージを付与したものを視覚聴覚嗅覚触覚味覚、ついでに第六感のどれかでも
感じていれば影響を受ける。……そんな中で始末屋だけを選択的に狙うのは困難を極める。
【撃たれる】イメージを味方全員に与えるわけにいかねえもんな……

そうこう考えている間も、槌唄のブロック攻勢は続いた。
やがて、始末屋の障壁が耐えきれなかったのか、薄れて消えていく。

「――」

始末屋が動き、槌唄目掛け×型弾をバラ撒く。
ブロックをさらに繰り出して槌唄が弾を止め、さらにそのブロックを殴りつける。

……待て、ブロックを殴るな!

思わず叫んじまったが、ブロックの様子を見れば奴が何をしたか一目瞭然だ。
『移動禁止』――ブロックが空中で静止している。
あのまま殴り飛ばそうとすれば、ブロックが移動できない以上、反動が全て槌唄の手元にハネ返る。

アタシの警告が届いたのか、読んでいたのかは定かじゃないが――
槌唄は打とうとしたブロックを瞬時に消し、そのままスイングした槌が始末屋をかちあげる。

「――!」

さしもの始末屋も多少はダメージが入った――ように見せかけてんな。
キョンシー娘――ヨニ嬢から『損壊禁止』でバフ掛けしてるのを聞かされてなきゃ
調子に乗って畳みかけるところだったぜ。

とはいえ、体勢を崩した好機なのは間違いない。
武器を取り落とし、受け身を取って立て直そうとしているが――
……あのスーツをなんとかすりゃいいってことは――よし、この手でいってみるか。
赤ジャケ、もうちっとだけデケー隙作れねえか?

「……俺に指図するな、万事屋!」

口ごたえできるってことは自身アリ、だな。
――海圻が一気に踏み込み、奴の胸元めがけて強烈な一撃を打ち込む。
接触による禁止を警戒し、拳は直前で止まるが――代わりに気の塊が叩きつけられる。

「気弾――『朱雀翔』」

激しい打撃音と空気の揺らぎが、離れてるアタシにまで届くくらいだ。
いくらパワードスーツが壊れなくても、中の人間への衝撃は避けられまい。

「――! 『攻撃禁止』――」

吹き飛びながらも、カウンターで×印を飛ばす始末屋。
残身のために動けない海圻――そこに、アタシが割り込む。

「! おい、何をする気だ!」

身体を不快感が突き抜ける――ったく、アタシに無粋な赤色のバッテンなんてつけやがって。
そのお返しとばかりに、アタシは始末屋のアーマーにそっと触れた(・・・・・・)
……ソフトタッチは『攻撃』じゃねえもんなあ?

「――禁属×刀(キンゾクバットウ)

ぶぉん、と空手だったはずの右手に新たな剣を生成し――アタシに切りかかる。
そこに、一条の雷が降り注いだ。

「雷は剣に向かう、お忘れのようですね!」

メイドの姉ちゃん、雷雅忠が稲妻の鞭を振りかざしていた。んー、ナイス連携。
いくら触れたモノに次々×をつける能力でも、実体を持たない雷に×は貼れないだろう。

「……! ――七天×刀(シチテンバットウ)・『回避禁止』!」

電撃を受けながらも、始末屋が×型の手裏剣を生成し、発射する。
狙いは全て雅忠だ――だが、彼女は『避けられない』手裏剣に対して避ける素振りを一切見せなかった。

ざくざくざく、と七発の手裏剣が彼女の身体中に突き刺さる――
特に喉元と胸元の傷は、どう見ても致命傷だった。

「……雅忠ぁっ!」

御主人の蘇絲織が悲鳴を上げる――無理もねえな、従者があんなダメージを受ける瞬間を見ちまったら。
だが、彼女が命と引き換えに大きいダメージを与えてくれたおかげで――

そろそろアタシの仕込みが、火を噴く頃合だ。

「…… ――天×敵面(テンバツテキメン)――!」

よろよろと立ち上がった始末屋の胸元、ひときわ大きな×字型のパーツが光り始める。
おそらくゲージ消費の超必ってトコか。だが、チャージする暇はもうねえよ。
⊕【アーマーが分解して脱げる】頃だからな!

「!? な…… アァッ!?」

創造上の想像力(イマジナリーファイア)』で奴のアーマー自体に付与したイメージが炸裂する。
もちろん、実際には脱げてない。だが、そこでアタシが愛銃二丁に付与した【一斉射撃】を
至近距離からお見舞いすりゃあ……生身に銃撃を食らったと脳が錯覚し、ジ・エンド。
これにて討伐完了、といきたかったんだが。

――本当に、アーマーがパージされちまった。

……え、あれ?なんで?
アタシの能力は、あくまでイメージに過ぎない。他人が『そう思い込む』ことはあっても
物体に影響、干渉できねえんだから現実に脱げるはずがないのだが……

だが、アタシが驚いたのはそれ以上に――
フルフェイスメットが脱げ、スーツが分解したことで露わになった『最悪の始末屋』の正体だった。

――おいおい、なんてこった。
アタシの探し人、日ノ御子(ひのみこ)神楽(かぐら)その人だった。


9.裏切りの電撃


ふ、と身体が軽くなる。
見れば、胸元に張り付いていた『攻撃禁止』の×印が消えている。
爆弾からも、大きな×印が少しずつ霧散するように――消えていく。
始末屋が戦闘不能になったことで、能力の影響も消えたのだろう。

先ほど分解したアーマーから出てきたのは、か弱そうな少女だった。
度重なるダメージのせいか、既に気絶しているようで――
白髪黒羽と名乗った万事屋の女性が、彼女を抱きとめていた。

……にしてもあの人、どうやってアーマーを一瞬で分解したのだろうか。
蓄積したダメージの影響か、雷で電気系統が破損したのか……
あれ、でも『損壊禁止』だったような。まあきっと、そこは相手の誇大広告だったのだろう。

ともあれ、これで時限爆弾が解除できるというわけだ。
タイマーは――あと10分を切っていた。

「……マズいな。今からじゃ解体が間に合わない」

え、マジですか。
だが、あれだけ複雑に絡んだコードの山だ。無理もないか。
……え。ってことは、爆発に巻き込まれるってことか?
殭屍の私でも、爆散したら流石に死ぬぞ。いやもう死んでるんだけど。

しかし、ここで一人の女性が前に進み出る。

「――しずかにねむれ じげんばくだん」

それは、ここまで沈黙していた七歌さんだった。
『発言禁止』が解除されたことで、ようやく彼女の肉声を聞くことができた。

そして、それこそが彼女の能力のトリガーだったらしい。
タイマーの表示がぴたりと止まり、デジタルの光が薄れて消える。
……⊕時限爆弾が、永遠の眠りについたのだ。

「サンキュー、七歌。
これで、後は……爆弾からダイヤの欠片を回収するだけ、だな」
「それは俺にまかせてください……よいしょっと」

ダイヤモンドの翼を広げた青年――金剛シグリが、煌めく糸を爆弾の成れの果てに伸ばす。
直後、爆弾だったものの最上部から、淡い輝きを放つ石の欠片が取り出されていく。
ダイヤの回収がつつがなく終わる。
皆がそう思った、その瞬間。

ダイヤより眩く光る稲光が、シグリ青年のもとに迎えられるはずだったダイヤに纏わりつき――
強引に引き寄せられていった。

「そのダイヤ、私たちが頂きます」

宣言したのは、ここまで苦楽を共にしたはずの絲織さん。
その傍らでは、首元にナイフをつきつけられた状態で育美ちゃんが捕らわれていた。
横には、ダイヤを雷光の鞭で掴んだ雅忠さんもいる。
……馬鹿な。⊕彼女は始末屋に殺されたはず――

「……¬蘇生能力か」
「ご明察、と言っておきますわ」

……戦いを眺めていて生じた、かすかな違和感の正体はそれか。
回避が禁じられたとはいえ、迎撃はできたはずの攻撃をむざむざ受けたあの動き。
始末屋を倒せるとふんで、あえて死ににいくことで意識を逸らしたのだ。
最後の最後に、ダイヤを奪うために。

「……ふざけるなよ。育美ちゃんを放せ!」
「できない相談ですわね――この子も、ダイヤのために必要ですから。
……ああ、下手な真似はおよしになってくださいね?
貴方方の攻撃よりも、この刃が動くほうが早いことくらいわかりますよね」

育美ちゃんが涙目になっている――無理もない、短い間とはいえ一緒に過ごしてきた相手が
自分を人質に取ってきたなんて、相当なショックだろう。
他の面々も、苦々しい表情で殺気や闘気を抑え始めている。

「……ったく、震えてるじゃねえか」

ぼそり、と万事屋が呟くと――
まずは七歌さんの肩をぽん、と叩いて何かを促した。

「育美ちゃん、大丈夫――きっと、助けるから」

促されるまま、七歌さんがしゃがんで育美ちゃんと目線を合わせる。
……心なしか育美ちゃんの動揺も収まったようだった。
首筋のナイフが気になるのか、絲織さんにぴったりと体を寄せる。

「……なあ、アンタら。どうしてダイヤが欲しいんだ?」

そして、万事屋が絲織さんと雅忠さんに向き合う。
手にはすでに銃を持っていない――あくまで危害は加えない、というアピールだろう。

「……栄光を、取り戻すためですわ」

万事屋の問いかけに、絲織さんは静かに答え始めた――


10.没落令嬢の告解



栄光、ねえ。アンタがいいとこのお嬢さんだったっぽいのと関係あんのかい?

「……私の家は、魔幇に滅ぼされました。
家族も、財産も、何もかも――奪われたのです」

まぁ、相手は上海一、どうかすりゃ中国一のマフィアだもんな。
……そんな奴らに狙われるなんて、アンタんとこ、どんな家だったんだ?

「……決して綺麗な生業ではございませんでしたが――
それでも、私にとっては栄光に満ちた家でした」

なるほどね。まあそこの善悪は今はいいや。
……んで、アンタにとっての栄光って、なんだ?

「……え?」

金か?名誉か?権力か? ……そんなもんだったら、ダイヤがなくたって
取り戻せるだろうさ。苦労は付きまとうだろうけど、やってできねえわけじゃねえ。

「黙れ! ……部外者の貴様に、お嬢様の苦しみがわかるわけが――」

うん、わかんねえな。
でも、今苦しんでるのはわかるぜ。

……ナイフをつきつけてる、その手。震えてんじゃん。

「――え――」

アンタらが本当にひどい奴だったら、たぶん槌歌チームはここまで来られてねえよ。
槌唄の兄ちゃん以外に戦闘できる奴がいない状態のパーティを裏切らずに、ここまでズルズル来たのも
機を見計らった――てぇんじゃなく、踏ん切りがつかなかったんじゃねえの?

「……買い被り、ですわ。
私は、私の栄光を、取り戻すために―― だからこそ、このような卑劣な真似だって……」

……栄光にしがみついてるような奴が、本気で卑劣な騙し討ちなんてできやしねえよ。
良心の呵責でぶっつぶれそうになってんじゃん。
蘇生能力があるからって、メイドの姉ちゃんを犠牲にするのにさえ耐えきれてねえのにな。
あの悲鳴、演技にゃ聞こえなかったぞ?

「……お嬢様、わたくしの命など気になさらぬよう、とあれだけ言いましたのに……」
「だって! 私には、もうあなたしか――」

……だったら、バカなマネはこれ以上やめな。
育美ちゃんに感謝しろよ、アンタの心の傷――
さっきからずーっと、頑張って治そうとしてくれてんだから。

「……え……?」
「あ、あの……人質にされてる私が言うのも、変ですけど。
絲織お姉さんは、本当は優しい人なんだなってのは……短い旅の中でも、わかりました。
だから、その……もう、やめましょう」

……まー、指示したのはアタシだけどな。
七歌ちゃんに【心の傷を治してやりな、きっとできるから】って伝言のイメージを付与して、
育美ちゃんにだけ目線が合うようにしたんだから。
アタシがくっちゃべって交渉人の真似事したのも、二人が七歌ちゃんを見ないようにする
視線誘導の役割もしてた、ってわけだ。

「……あ、ああ……っ!」

からん、とナイフを手から取り落とし――絲織が泣き崩れる。
雅忠もまた、電気鞭を引っ込めて主に寄り添った。

ま、どうしても栄光とやらを取り返したいなら――万事屋のアタシが請け負うぜ。
どうせ魔幇の連中はブッ飛ばすつもりだったしな、かはは。

つーわけで、爆弾騒ぎとダイヤを巡る狂騒曲の第一章は――
これにて一件落着。メガロポリスは日本晴れ、ってな。


11.ワイワイ!解決祝いは大賑わい


地上へと戻った俺たちは――トラブルバスターズ槌歌・上海支所に集合していた。
そこで、それぞれの今後について、改めて話し合いをすることになった。

まず、清海とトラブルバスターズ槌歌、ついでに万事屋・白髪黒羽の三者が
正式に協力関係を結ぶ運びとなった。
……万事屋は正直加えたくなかったが、放っておいても面倒を起こしかねない相手だ。
といっても、ひと固まりで行動するのはやはり危険が付きまとうということで、
一旦は各々の護衛対象を守ることに専念する運びとなった。
互いに連絡先を交換し、いざとなれば駆けつけあう――緩めの連携協定だ。

そう、各々――万事屋にも護るべき相手が現れた。
万事屋のもう一つの目的、日ノ御子神楽なる少女。
『最悪の始末屋』χの正体だとわかったことで、俺たちは保護に反対の声を挙げたが――

「⊕多分、あのアーマーの方が『最悪の始末屋』としての本体だったんじゃないですかね。
その子、凶悪そうに見えませんし」

……と、ヨニヨニが独自の見解を述べた。
あの戦闘時の無機質な印象を思い返すと、確かにそのような気もしてくる。

実際、そのあと目を覚ました少女にいくつか聞き取りをしたものの――
彼女は上海にさらわれて以降の記憶を失っていた。
能力こそ失っていなかったものの、生成された×印はへろへろと飛ぶ弱弱しいものだった。
戦力として数えるのは、今はやめておいた方が良さそうだな。

意外だったのは、シグリと同級生だった、ということだ。

「いやあ、再会できて本当によかったよ! みんな心配してたから……」
「そうなんだ…… いろいろ、迷惑をかけてしまってごめんなさい」
「大丈夫大丈夫、この人たちならこのくらい迷惑だなんて思わないから!
……思わないよね、海圻?」

……ああ大丈夫だ、迷惑のうちにも入らねえよ。

そして、蘇と雷の二人だが――相談の末に『清海』に迎え入れることにした。
失ったものを取り戻そうと盲目的になっていた彼女たちだったが――
今の彼女たちなら、大丈夫だろうと俺は思えた。

「……改めて、よろしくお願いいたします」
「お嬢様ともども、お世話になります。……ああ、いくつかお願いが。
まず紅茶の銘柄ですが、お嬢様の好みは――」

……雷のお願い事は善処する、とだけ答えておいた。
お嬢様も顔を赤くして止めてたしな。……過保護はよくねえよ、うん。

で、ヨニヨニはというと――俺たちに『ご主人探し』を依頼してきた。
本人も、己の直感の赴くままに主とダイヤを探すとのことだったので
その点については協力できる旨を伝えておいた。

カムパネルラとジョバンニの二人は――今後どう動くつもりかはわからない。
いずれまた衝突するのか、俺たちみたいに手を取り合うことになるのか。
……まあ、もし立ちはだかるつもりなら、今度こそ叩きのめすまでだ。

「よーし、そんじゃあ上海料理フルコースで宴だーっ!」

万事屋が大量に頼んだデリバリーフードの山が、応接室の机を埋め尽くす。
……まだ真昼間なんだが?しかも酒まであるじゃねえか。

「宴に時間もクソもねえよ、一仕事終えたら気分バクアゲにしねえとな。
あ、支払いは『清海』にツケといたからシクヨロー」

……万事屋、表に出ろ。
勝手に俺達を財布代わりにすんじゃねえ!

「かはは、やるかい? いいぜ、あたしのジュークンドーが火を噴くぜ?」
「待って待って海圻、暴力はダメだって! あ、ゴマ団子あるよ神楽さん?」
「ウチからもいくらか出すから、とりあえずそのおっかない気を引っ込めてくださいね?」
「お嬢様にこんなB級グルメを……ってお待ちください、まずわたくしが毒見を……」

……ま、こうやってバカやれてるうちは、平和ってことなんだろうな。
束の間の、仮初の平和であっても。


番外.とまどいキョンシー


皆がわいわいがやがやと騒ぐ中、私は上海焼きそばをずるずると貪っていた。
⊕殭屍だって腹は減るのだ。減るったら減る。
……あいにく、今回の騒動でも私の主人は見つからなかった。
絲織さんとかそれっぽいかなあ、と思っていたのだが。

……それにしても。私の名前……ヨニというのが、まさか女陰のことだとは……
なんで殭屍にサンスクリット語で名づけるんだ、わが主人は。
見つけたら一度文句を言ってやらねば。

……と名前に思いを馳せたところで、はたと気づいた。

私、あの妙な物売りの男に……名乗ったっけ?
ヨニの嬢ちゃん、と私を呼んだのは……あの男だ。

……いやいや、あの男が主ならあのとき名乗っているだろうし気づくだろう。
私はその思考を―― 
⊕即座に否定し、追いやった。
⊕否定しきれず、悩み続けた。


番外2.忘れられた少女


わたしの名前はしりあるキラ子!三度の飯より無差別殺人が好きな上海の一般的な高校生!
……なんだけど、今はとってもとっても大ピンチ!

ダイヤモンドの糸でぎっちぎちに縛られて、くらーい地下に置き去りにされちゃった!
しかも、すぐそばにはよくわかんないガラクタが転がってる!これって爆弾じゃない!?

しかもしかも、なんか水の音が遠くから響いてくるんだけど!
わたし、いったいこれからどうなっちゃうの~~~!?

次回「さらばキラ子!もう帰ってくるな!」 次回も、サービスサービス☆
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー