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ダンゲロスSS上海
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ダンゲロスSS上海

死者より

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dangerousss_shanghai

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「くっ記憶を失っていたが」

目覚めた途端、私の内で強い命令がこだました。

「殭屍として主人を守るぜ」

殭屍。それは中国に伝わる怪異。死体が生きたように振る舞うのはゾンビィに似ているが、決定的に違う点がひとつ。殭屍は命令によって使役できることだ。
主人から役割を与えられたのだろう、他にはなにも思い出せない。
記憶がない。
まあ記憶がなくても主人を守るに支障はないだろう……。

はて。
周囲を見渡してみる。
だあれもいない暗がり。

「主人どこ?」

どこかの路地裏のようだが喧騒は遠い。
空は曇り。雨は降ってない。
地面はぬかるんでいる。膝を折って触れてみる。ぬるりとした感触。血だ。

血が流れ、その中心にいたのは私……。
推理するに、この血を流したのは……

「私、なハズないよな」

私は殭屍だから、血は流れないだろうし。
多分私が落下して、犬か猫でも踏んだのだろう。
私は殭屍。中国の怪異。てことはここは中国の可能性が高い。中国の人は犬猫も食うらしいからきっと食ってったんだろう。犬猫の死体がないのが、逆に、逆に証拠だ。
(⊕チュートリアル説明。自分を殭屍だと思い込み、「自分の血が流れた」「私は殭屍ではない」という可能性を思いつかず、『律令』によってその可能性は消え去りました)

血の流れが、暗い路地裏から表路地へと向かっている。私は自然に歩き出していた。

ギラっとしたネオンの光と夜の暗闇。月光と虫たかる街灯。
露店か乞食かの婆が蹲って死体のように眠っている。
遠くで規則的な破裂音が聞こえ、しかし熱帯特有の弛緩した空気を揺さぶりもしない。この街は、それくらいの喧騒に慣れきっている。

魔都・上海。

視覚からの刺激は、肉体にわずかな記憶を思い出させた。
わずかだ。直近の、近い記憶だから浮いてきたような感触だ。私の原風景ではないのだろう。察するに私は過客なようだ。問題なのは主人も同じそうなのか…どうなのか…。

だだだあん、と銃声。そして悲鳴。
一人の男が、コワモテの武装した数人に追われている。
魔都と呼ばれるだけあって流石に治安がよろしゅうない。

「逃げっじゃあねんぞゴラぁ!」
「タマとったるけェ」

「ひ、ひぃー!」

迫る黒づくめたちと情けなく逃げる男。
静観するか逃避するか加勢するか、私は自分自身に問いかける。殭屍の私にとって意識外のもの、つまり肉体自身がどう動くか、それに任せたく思った。
体は彼らに向かって行った。
どっちをぶん殴るか、これはまあ一目瞭然。多勢に無勢を許さない正義感ではなく、ちゃあんとした理屈で私は判断した。

コワモテ集団に近づく。奴らはスーツ姿で、小銃を提げている。こんなんが私の主人の可能性はゼロだ。全然ピンとこない。
見た目いかつくてもハッまるで⊕同衣装のモブキャラABCじゃないか。

「なんだこの女ァ、動くんじゃ——」

「疾ッ」

フリッカーパンチ。一番近いモブ男の顔を撫ぜ、弾けさす。
これが人と化け物の差か。
あるいは人間と魔人の差。
あるいはモブとPCの差。
なんにせよ烏合の衆ごときが、私に太刀打ちできるものではない。

彼らを屍仲間にするまでさほど掛からなかった。被弾は心臓に貰った一発だけ。モブながらなかなかやるやん。しかし私は殭屍なので致命傷には至らない。というか死せるものがどのように死ねる? ただ空洞ができただけだ。

さて。
先ほどの襲撃にあい、巻き込まれた哀れな男は倒れ伏していた。流れ弾にでもあたったのだろうか、ピクリともしない。

「南無——」

「念仏唱えるでない。ピンピン生きとるわ」
(¬チュートリアル説明。反論をすれば『律令』を覆すことは可能。もし彼が黙っていればそのまま死亡扱いだったろう)

男はニヤリと不敵に笑う。いかにもイチモツ抱えていそうな厭らしい表情だ。
あまり関わり合いたくないな、という心情を読み取ったか、彼は慌てて口をついた。

「アンタは命の恩人さね。商売っ気なしで是非オイラの珍品を譲ってやろう。なんの事も命にゃ変えられん、ありがたやありがたや」


そう言いながら抱えていた風呂敷を広げる。
彼が追われていたのも、この荷物が原因なのだろうか。
彼が取り出したのは黄金色に光る銃火器——のように見えるが、骨董品のような年季を感じさせた。

「秦王朝のアダマンタイト砲です。始皇帝が敵を滅ぼすに用いた乾坤一擲の破壊兵器です。月はかつて地球の一部だと言いますが、何を隠そう、星を破壊するほどの力はアダマンタイトでしか生み出せません」

⊕期待して損した、なんだこのほら吹き野郎は。荒唐無稽にも程がある。
口をへの字にして不快感を表す。彼はいかにも真実らしく御託を述べたが、こんなんに騙されるはずもない。
(¬チュートリアル説明2。反論したとしても、理屈が通らないと思われてしまえば『律令』を覆せない)

続いて彼が取り出したのは、半透明のカプセルだった。

「ではこちらはさらに古い、殷王朝の経口宇宙粘菌で〜ございます。本物の仙丹にございます。これを一度口にすれば地球外の力が宿り、空を飛び神通力を得、食も不要で死ぬこともなく、誰しも仙人と化したと言います」

全く信じるに値しない。
魔都であればどんな与太話も本当らしく思われるのか?


「唐王朝の蜃の化石もありますれば——」
「もう結構」

彼の話を打ち切って、わざとらしくため息をつく。

「もう十分、お前さんがアコギな商売していることは分かった。これからはマフィアどもに目ェつけられない程度のおふざけにしときなって。また追われるハメになるぞ」
「ふふっ、こいつは手厳しい。しかし、しかしだね殭屍の嬢ちゃん。なにごとにも例外はあるものさ。それは、たとえば、アンタ」
「私?」
「そう。頭に札を貼って、血も流さず、怪異の膂力を持つアンタだが、ずいぶんおかしな点があるじゃああないか」

そういいながら男は、力瘤を作るような動作をした。

「殭屍はしゃべることも知性ある振舞いをすることもある。しかしだね、関節が曲がる殭屍はとんと聞いたことがない。お前さんは本当に殭屍なのかい?」
「む」
「死臭のごとき臭さがお前さんを屍と思わせているだけで実際は——」
「臭くない!」

人に向かって臭いとは何事だ。

「あいやっ。殭屍であるなら臭いのくらい受け入れてもらわなきゃ」
「臭くないったら臭くない」
「だとしたらますます一般的な殭屍とは違うね」

そういいながら男はくすくす笑う。

「つまり何が言いたいのかって言うと、信じても信じなくてもいいんだってことさ。お前さんが思うままに、この魔都を闊歩すりゃええ。——さて、オイラの商品はお気に召さないみたいだし、ここいらでお暇させてもらうよ」

男は荷物を片付けはじめる。
なにかを言いたくなって、彼にアドバイスを投げた。

「次に人を騙すとき、もうちょっとラインを考えたら? 殷とか秦とかじゃなくもっと近い時代で、宇宙とかアダマンタイトでなくもっと現実味のあるものでさ。せめて、そうだな、⊕清王朝ダイヤモンドとかさ」

そういうと彼は一番の大笑いをして、閉じかけた風呂敷から一個の輝くものを投げて寄越した。

「いま、こいつを狙ってマフィアどもが東西を駆け回っている。上海大賽に出たアンタの主人と巡り会うには、こいつを探していればいい。もちろんそれ以外の希望もきっと叶えてくれるだろうさ。じゃあのヨニの嬢ちゃん」

そう言い残し、彼の姿は真っ黒に塗りつぶされ、夜の闇に消えていった。

彼の警句のような言葉を私は
⊕信じた。
⊕信じなかった。
(最多投票の場合は男の言い分を信じ、清王朝のダイヤを手に入れます。そうでない場合は、無手よりはマシな手がかりとしてダイヤおよび主人を探します)
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