いつか、何かが……ううん、何もかもが、壊れてしまうような予感。そんな感覚はずっと昔から、あったように思う。まるで、世界ごと終わってしまうような。むしろ、世界が始まってすらいないかのような。
ヘンだよね、こんなの。だって自分や大好きな町の人たちが、殺し合いなんかに巻き込まれる想像なんて、微塵もなかったはずなのに。
『――コーディ・トスカリナ』
それなのに、コーディが……大好きな友達が死んだって聞かされた時、とっても悲しくって、許せなくって――だけど、何故だかとっても、しっくりきた。まるで元々こうだったかのような、もしくはそれが正しいことであるかのような、そんな納得感。ああ、すっごくモヤモヤする。そんなわけ、ないのに。私の中のコーディとの思い出は、コーディが死んでいいなんて思うはずがないくらいたくさんあるはずなのに――
――コーディがあの町にやって来たのは、私が引っ越してきて少し経ってからだったかな。料理屋さんをやっているって自己紹介してからは、料理の材料となるネッコサンとかメダマメとかを、まどろみの森からいつも採ってきてくれたんだ。クルミはちゃんと払うって言ったんだけど、そしたら『別にいい。代わりに料理を教えて』って言ったんだ。もちろん、二つ返事でまかせて、だったよ!
でも、これは絶対に聞くよね、好きな人に作るの?……って! そしたら『どうでもいいでしょ!』って怒られちゃった。あはは、照れなくてもいいのにねぇ。ただ後で分かったんだけど、コーディは好きな人のためとかじゃなくて、いつも教会の掃除を頑張ってるドグマに差し入れとして持って行ってたみたい。うーん、ちょっと勘繰りすぎたかも?ㅤそれにしても、健気な妹がいて羨ましいなー。お留守番役の方の私も、たまには私のために何か作ってくれてもいいのにね?
そういえばコーディったら、最初は全然料理なんてできなかったんだよ。せっかくの材料を黒焦げにしてばっかりで、ほんとに大変だったんだから……。でも最近はレモンパイとか難しい料理もできるようになって、すっごく成長してた。私がお父さんに料理を教わってた時、お父さんはやけに嬉しそうにしていたけど、こういう気持ちだったのかなあ。 ……それに、忙しくて外国に行ってるお父さんがいなくて、いつも寂しかったから。コーディが料理の練習しにやって来るようになってからは、まるでお姉さんが――ううん、家族ができたみたいで、すっごく楽しかった。聞いたところだと、コーディのとこもお母さんが死んじゃったんだって。だからお互いに他人事だとは思えなかったし、商売とか関係無しに一緒にいることも多かったんだと思う。
一緒にいた時間は、一瞬のようだったけれど、それでもやっぱり、積み重ねてきた時間は決して消えない。だから、私は知ってる。コーディはちょっとトゲトゲしてるところもあって誤解されやすいけれど、本当はとっても優しい人。殺されていい理由なんて、あるわけない。殺した人のことは許せないし、もちろんコーディをこんなことに巻き込んだ主催者の人たちはもっと許せない。
でも、コーディのことを分かってるからこそ言えることだってある。こうして落ち込んでいる私に、『らしくないじゃない』とか、そんなふうにコーディはきっと声を掛けてくれる。だから、落ち込むのはここで終わりにするよ。コーディだって、沈んだままの私は見たくないはずだから。
「よーし、もう大丈夫!」
「……はやいな。本当に大丈夫かい?」
「……はやいな。本当に大丈夫かい?」
放送を落ち着いて聞くために座り込んでいた私たちだったが、気合いの一声とともに立ち上がった私を見て、剣士さんは驚いた顔をしていた。立ち上がった私と、まだ座り込んでいる剣士さんの視線の高さが逆転する。
「もちろん、少し無理してるところもあるけどね……。でも、むしろコーディの分まで前を向いて生きようって気持ちはおっきくなったんだよ!」
本当に前を向けているのかは不安なところだ。いや、だからこそ笑顔で、ポジディブに振る舞おう。明るい言葉は、実際に心まで明るくするって知ってるから。
「……それにさ、私がコーディを覚えていたら、コーディは私の心の中で生きていけるでしょ?」
「……ええっと、心の中で?」
「あっ、さては信じてないなー?」
「……ええっと、心の中で?」
「あっ、さては信じてないなー?」
それを聞いた剣士さんは、どこかきょとんとした、不思議そうな顔をしている。仕方ないなあ、とひと言前置きしつつ、私はそのまま続けた。
「コーディが死んじゃったのは確かに悲しいけど……私やドグマ……他にもコーディのことを大好きだった人たちがコーディのことをずっと覚えているなら、コーディはいなくなったりしないの!」
トン、と自分の胸を指差しながらそう言った。ここにコーディはいるんだと、そんな主張をたっぷりと込めて。
「生きてたって、会いたくても会えない人はいる。でも、心の中にもその人がいなくなってしまったら……もう会いたいって思えなくなってしまったら……きっとその時こそその人が完全に死んでしまう時なんだって思うから。」
そうしている内に、不思議そうな顔をしていた剣士さんの表情が、次第に零れる笑みに変わっていく。そして剣士さんは、唐突に切り出した。
「……ガーデニア。君は、お金がなくて明日食べるにも苦労するような、そんな生活をしたことはあるかい?」
「えっ……? うーん……それはなかったなあ……。」
「えっ……? うーん……それはなかったなあ……。」
どうしてそんなことを聞くんだろうと思いながらも、答えた。お父さんがお金持ちだったから、生活に困窮するようなことは今まで一度もなかった。料理の対価に相応のクルミを貰っているのも、料理人として料理を安く見せるようなことをしてはならないとお父さんから教わったからで、別に生活のためというわけではない。
「生活に余裕がない人は、次第に自分が何故生きているのか、命とは何であるのかを考え始める。何故自分がこんなに苦しむのかを知りたいからかもしれないし、単に何も娯楽が無いからかもしれないけどね。でも、そんな人たちだからこそ、命について真剣に考える。明日にあるかは分からない今日の命を、どう生きるべきなのかを考えさせてくれる。
だから……面白いと思ったんだ。君のように恵まれながら生きてきた人が、命についてそんな素敵な考えを聞かせてくれるなんて。そして優しさという純粋な心から生まれた命の哲学が、こんなにも僕の心に響いてくるなんて。」
だから……面白いと思ったんだ。君のように恵まれながら生きてきた人が、命についてそんな素敵な考えを聞かせてくれるなんて。そして優しさという純粋な心から生まれた命の哲学が、こんなにも僕の心に響いてくるなんて。」
真っ直ぐに伝えてくる剣士さんの視線がどこか恥ずかしい。でも、語る言葉に何となく影を背負っていた剣士さんが、少しだけ笑顔になってくれたような気がして、どこか誇らしくも思う。料理でみんなを笑顔にしたいっていう私の夢はきっと、こんなぽかぽかした気持ちからきてるんだろうなって、改めて思えたから。
「僕がここに生きているのも、もしかしたら誰かがそれを願い続けてくれたからかもしれないって、そう思ったんだ。君の言葉には……どこか不思議な力がある。」
「そ……そう、かな……?」
「そ……そう、かな……?」
小休止を終えて剣士さんが立ち上がる。見上げると、身長差のある私たちの視線が、その瞬間にぴったりと合った。私の影に隠れていたその瞳の中に、月の光が差し込んで――見えるは、瞳に映し出された私の姿。剣士さんが見ている景色。どこか照れくさくなって、私はぷいっと――目をそむけた。
「えへへ……改めてそう言われると照れちゃうなー、もー……。」
でも、もしも本当に誰かの願いが剣士さんをここに居させてくれているのだとするなら、それは剣士さんが可愛そうだよ……。
誰かの心の奥にそっと眠っていたはずの人を改めて呼び出さないといけないなんて。そして、望まない殺し合いをさせられないといけないなんて。そんなの……やっぱり間違ってると思うから。
(コーディは……もう殺し合わなくていいんだよ。)
コーディは、もう私の心から出てこなくていい。コーディは、望まない殺し合いなんてしなくていい。だからどうかそのまま安らかに、眠っててね。
最後にもう一度、目を閉じて手を合わせた。コーディがよくやっていた、神さまへのお祈りのポーズだ。私は神さまなんてのはよく分からないし、普段もまったく祈ってはいない。こんな時だけ神さまにお祈りするのは、むしろバチ当たりなんじゃないかって気持ちもある。だけど、失われた命に祈りを送るのは、できあがった料理に対する『いただきます』と『ご馳走さま』に通じるところもあるんだって、いつかドグマが教えてくれたことがある。だったら、そうやって命を大切にする気持ちを神さまはきっと怒らないと思うんだ。
だから、祈るよ。貴方の忠実なる下僕コーディが、貴方の御許へと行けますように――
「……そろそろ、僕たちも行こうか。」
「うんっ!ㅤ……絶対に、生きて帰ろうね!」
「うんっ!ㅤ……絶対に、生きて帰ろうね!」
放送を聞いて立ち止まっていた私たちは、再び歩き始めた。コーディのことを忘れないためにも、コーディを真の意味で殺さないためにも……私は、みんなと一緒に生きて帰りたいって思うんだ。
【E-2/深夜/1日目】
【ガーデニア・ライトマン@END ROLL】
[状態]:情緒不安定(小)
[装備]:鉄のフライパン@テイルズオブデスティニー
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1 油@ドラゴンクエストビルダーズ2
[思考]
基本:殺し合いには乗らず、剣士と共に生還する
1:知らない世界での冒険は、不安だが楽しみ
[備考]
※参戦時期は5日目です。
※技・「バースデイ」を習得しています。
[状態]:情緒不安定(小)
[装備]:鉄のフライパン@テイルズオブデスティニー
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1 油@ドラゴンクエストビルダーズ2
[思考]
基本:殺し合いには乗らず、剣士と共に生還する
1:知らない世界での冒険は、不安だが楽しみ
[備考]
※参戦時期は5日目です。
※技・「バースデイ」を習得しています。
【無敵と言われた剣士@無敵のsoldier】
[状態]:健康 ガーデニアに疑問
[装備]:バスターソード@Final Fantasy VII
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~2 がんばりニンジン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考]
基本:殺し合いには乗らず、ガーデニアと共に生還する
1:出来るだけ悪人も殺すつもりはないが、出来るかどうかは分からない。
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※この世界を「死者のみが集められた世界」だと思い込んでいます。
[状態]:健康 ガーデニアに疑問
[装備]:バスターソード@Final Fantasy VII
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1~2 がんばりニンジン@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[思考]
基本:殺し合いには乗らず、ガーデニアと共に生還する
1:出来るだけ悪人も殺すつもりはないが、出来るかどうかは分からない。
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※この世界を「死者のみが集められた世界」だと思い込んでいます。
――見つめてました。私が私を見つめてました。
こコは、私だ。
身体ハもう死んデいる。ソれなノに黄泉ガえッテ、殺シあウ。生きヲ吹キ返しテは、マタ苦シむ。
アなタの眼を、見ツめテましタ。眼の中の私を見つメテまシた。私が視つ眼テまシタ。私ガ私ヲ、見ツメテマシタ。
そして、目をそむけた私は――未ダ幸セナ夢ノ世界ノ中。
004:再演・想起ノ森 ~地獄樹~ | 投下順 | 006:炎の料理人の宣伝広告 |
時系列順 | ||
C139:タナトスの手を振り切って | ガーデニア・ライトマン | |
無敵と言われた剣士 |