はじめに
別稿で「トランスミッション単体の脱着 」を書いた。ミッションを下ろした理由は、スプラインが傷んだドライブシャフトを交換するためだった。何とかスプラインを温存し、面倒なミッション脱着やディファレンシャル(以後適宜デフ)の分解を避けたかったが、残念ながら「ロックタイトでドライブシャフトのスプライン(仮)修復」の試みは不成功に終わった。
仕方なく車体をジャッキで上げ、不承不承ながら下に潜り込んでデフをエンジンから分離して下ろし、デフケースを割ることに、、、。その辺りの様子は上のリンク先の記事で読んでいただくとして、ここでは簡単に分解・組み立て手順と、注意点を説明する。
仕方なく車体をジャッキで上げ、不承不承ながら下に潜り込んでデフをエンジンから分離して下ろし、デフケースを割ることに、、、。その辺りの様子は上のリンク先の記事で読んでいただくとして、ここでは簡単に分解・組み立て手順と、注意点を説明する。
デフの分解手順については、ヘインズのマニュアルやネット情報で調べれば解るが、本稿でのキモはそこではなく、ドライブシャフトを交換した後に起きた、走行中の異音とその対処なので、そこまで自分で行った方で同じ症状の方は前半を飛ばしていきなり後半の「ドライブシャフトとパッドについて」に飛んでいただくのが良いかと。
自分も素人なのでこの異音の原因が判らず悩んだ。結局はプロに「再整備してもらえないか?」と泣きつくことになったから、それなりの整備経験があり、締め付けトルク管理ができる人以外は手を出さないほうがよいかもしれない。幸い、僕が頼ったプロの方々(後述)は、良い意味で「突き放して」くださった。突き放したといっても見捨てるとかじゃなく、商売抜きで的確な診断とアドバイス、さらには頑張れとの励ましまでいただけた。今一度書くが、自信がないのに闇雲に分解するのはお勧めしない。手に負えなくなってからプロの手を煩わすくらいなら、始めから専門家に頼むべきだろう。
実際の作業
デフとギアボックスの分割
- ①ギアオイルを排出する
その後すぐに、ドレンボルトの復旧。
- ②ドライブシャフト先端のCクリップ、スリーブ、スリーブラバーブーツを外す
- ③クラッチアームのスプリングを外す
- ④レリーズベアリングを外す
必要であればクラッチアームとレリーズアームも。
- ⑤ドライブシャフトブーツホルダーの固定ナットを外す
レンチサイズ10mm x 4個 x 両側。
- ⑥ドライブシャフトホルダーとブーツ、そしてブーツに埋め込まれているサイドベアリングホルダーのロックプレートを外す
ロッププレートのツメとロサイドベアリングロックナットのノッチは一定角度で対応し、ベアリングのプリロードが変わらないよう固定している。うっかり回さないこと。できればプレートブーツから外し、ロックナット、ベアリングホルダーにはめ込んでマジックで合いマークを記入しておくと良い。ただしオイルや洗油、パーツクリーナーなどですぐに消えるので注意が必要。

- ⑦ベルハウジングの固定ナットを外す
レンチサイズ13mm x 6個
- ⑧サイドベアリングホルダーを外す
6角ナット(レンチサイズ13mm x 片側あたり4個)を外す前にベアリングホルダーの左右別、上下方向が確認できるよう、記入しておくこと。
ホルダーが固着している場合、金ヘラやマイナスドライバーなどでコジたり、プラハンマーで叩く必要があるかも。その場合、ベアリングホルダーのロックナット(内側にギザギザのあるリング)が動かないように注意。

ホルダーが固着している場合、金ヘラやマイナスドライバーなどでコジたり、プラハンマーで叩く必要があるかも。その場合、ベアリングホルダーのロックナット(内側にギザギザのあるリング)が動かないように注意。
- ⑨デフのアウターケースを兼ねているベルハウジングをギアボックスから分離する
液体ガスケットを切り離すためにギャップに金ヘラを打ち込んで割る。

- ⑩ベルハウジングを完全に取り外す
クラッチシャフトを抜く際にコジてオイルシールを傷めないよう、シャフトとスプラインにオイルを施し、軸に沿って真っ直ぐゆっくりと抜く。ただし再組み立て時には、ミッションをエンジンに結合する前にスプラインのオイルはしっかり拭き取っておくこと。

ディファレンシャル分解
- ⑪デフのギアアッセンブリーとドライブシャフトを取り出す
- ⑫ピニオンギアのシャフトリテーナーの固定ツメを起こし、デフケースから外す
マイナスドライバーやラジオペンチ等でコジる。何度も分解されたデフではツメが折れる恐れあり。その場合は要交換。
- ⑬ピニオンギアのシャフトを抜き取る
傷や摩耗をチェック。酷い場合は交換。(写真ではリングギアを先に外しているが、落とす可能性があるのでシャフトは先に抜く方が良い)

- ⑭リングギアをバイス等で固定し、リングギアのボルトを外す
あるいは固定せずにインパクトを使うか、メガネレンチをプラハンマーで叩くなど慣性の法則を利用する。レンチサイズ13mm x 6本。
- ⑮リングギアとデフケースを分離する
プラハンマー等で叩く必要があるかも。
- ⑯デフケースを分割する
双方の合いマークに注意。無い場合は分割前にタガネで線を打ち込んでおく。

分割には金ヘラ、マイナスドライバー、タガネ等が必要かも。

- ⑰ピニオンギアを取り出す
- ⑱ドライブシャフトを抜き取る
デフケース内のサイドギアは外さないこと。うっかり外れた場合は、その奥にあるシムまで外れていないか確認し、ギアをもとに戻す)
再組み立て:
ドライブシャフト交換後の再組み立ては単純に上記の逆工程だが、以下について注意する必要がある。
- 全般に、組み込むパーツにはギアオイルをたっぷり塗っておく。
- 締め付けトルクの管理は正確に。
リングギア⇔デフケース:3.2kgf・m(31.38Nm)
サイドベアリングホルダー⇔トランスミッションケース:1.8kgf・m(17.64Nm)
ベルハウジング<>デフケース:3.8kgf・m(37.27Nm)
トランスミッション⇔エンジン:2.5〜3.0kgf・m(24.52〜29.42Nm)
サイドベアリングホルダー⇔トランスミッションケース:1.8kgf・m(17.64Nm)
ベルハウジング<>デフケース:3.8kgf・m(37.27Nm)
トランスミッション⇔エンジン:2.5〜3.0kgf・m(24.52〜29.42Nm)
- ドライプシャフト端部の四角いパッドはオイル回しの溝がある方がサイドギアの壁面に当たるようにはめ込む。(はめ込んだ状態で溝のある面が見えないこと)
- デフケースを合わせるときに合いマークを合致させる。
- ギアボックスとベルハウジングの合わせ目の古い液体ガスケットを完全に除去しておく。
- 新しく液体ガスケットを塗付する場合、できるだけ細く絞り出して合わせ面の外側寄りに垂らし、デフ内面へのはみ出しを極力少なくする。(ビードを引くだけで、指でなすり付けない方が無用なバブルの形成を防げる)
- クラッチシャフトをべルハウジングに通す前にオイルを塗ってシールに傷がつかないよう気をつける。その後、シャフトのスプラインから完全にオイルを除去しておく。
- サイドベアリングホルダーにはOリングが付いている。ヘタっている場合は交換、あるいは液体ガスケットを併用する。
- サイドベアリングホルダー、ロックナット、ロックプレートの左右と方向を合いマークに従って間違えず元通りに組む。
- デフ・ミッションを組み立てて車体に装着し、試運転をしたら変な音がすることがある。自分がそうだった。その対処は次の章を参照。
ドライブシャフトとパッドについて
異音
ドライブシャフトのデフケース側先端にはシャフト1本につき四角いパッドが2個装着されているて、パッドとシャフトの間にウェーブワッシャー(あるいはシム)を入れる必要があるかもしれない。自分の場合、分解時には何も入っていなかったし、整備書やパーツリストなどにも出てこないので、そのままウェーブワッシャー等を使用せずにシャフトを交換したら、走行時にカタカタという異音が発生した。特に減速時やパワーをかけない空走時に、タイヤの回転に比例するような鳴り方。
始め、自分の作業ミスでどこかマズイことをやらかしたか?と心配になり、最悪の場合、トランスミッションの交換まで覚悟した。その前に、関西のチンク専門のショップ2軒(大阪の「ガレージリトル」さんと「オートマイスター」さん(順不同))に分解整備の依頼をしたところ、よくある症状だそうで、そのまま乗っている人もいるとか。。。そして的確なアドバイスをいただくことができた。
始め、自分の作業ミスでどこかマズイことをやらかしたか?と心配になり、最悪の場合、トランスミッションの交換まで覚悟した。その前に、関西のチンク専門のショップ2軒(大阪の「ガレージリトル」さんと「オートマイスター」さん(順不同))に分解整備の依頼をしたところ、よくある症状だそうで、そのまま乗っている人もいるとか。。。そして的確なアドバイスをいただくことができた。
原因
流石にプロで、お二人とも即座にシャフトとパッドの隙間が大きく、ガタが生じてドライブシャフトが踊っている(つまりサイドギアの嵌合部の壁に当たっている)という見立てだった。最近のドライブシャフトの精度が悪いのが原因だとか。

対処
隙間を埋めるウェーブワッシャーあるいはシムを入れることで解決するだろう。やらかしたわけではないし、分解までやれるのなら難しいことではないから、自分で頑張れば?という励ましまでいただいた。仕事にならないのに丁寧な説明と励ましまでいただき、感謝。
実は以前にYoutube等のネット情報(https://youtu.be/cYg1kNzhOco?t=1278)でウェーブワッシャーを入れるということについては見たことがあったが、上述のように整備書にも書かれていないしすっかり忘れていたのだった。
実は以前にYoutube等のネット情報(https://youtu.be/cYg1kNzhOco?t=1278)でウェーブワッシャーを入れるということについては見たことがあったが、上述のように整備書にも書かれていないしすっかり忘れていたのだった。

ギャップの状態
面倒だがいま一度ミッションを下ろしてデフを分解し、パッドとシャフトのギャップを調べてみた。何も入れずにパッドを組み込みパッドの上面から上面までの距離をノギスで測り、サイドギアの嵌合部の内幅と比べたら、1.2mmプラスアルファもあるではないか!いくらギアオイルが硬いとはいえ、これでは音も出るわ。
ウェーブワッシャーかシムか?
ウェーブワッシャー: アドバイスをいただいたお一方はそのギャップを埋めるのにウェーブワッシャーを勧められた。改めてヨーロッパのパーツ販売サイトとか調べてみたらチンクのそれ用として売られている。またYoutubeの動画も観たら、厚みは判らないがかなり厚めに見える。シャフト1本につき2個あるパッドそれぞれにウェーブワッシャーを入れている動画と、片方のみのものもあった。(片方の場合シャフトのセンターがズレることになるが、所詮その程度の精度だし、元々振動の多いチンクのエンジンだし、それに偏芯したシャフトは遠心力でワッシャーと反対側の壁に押し付けられることになるから、ワッシャーに負担がかかることがない、という理由ではないかと推測する)
シム: もうお一方はウェーブワッシャーで押さえても遊びがあるためにシャフトは動くので。ギャップの間で押し引きを繰り返す内、いずれワッシャーは疲労してスプリングが効かなくなったり最悪の場合は破断してしまうから、フラットなシムでギャップが0.05mmくらいになるよう調整すると良い、とのことだった(ウェーブワッシャーにそれなりの厚みがあったのはそういう理由だったのかもしれない)。0.05mmくらいのギャップならギアオイルの油膜で埋められるだろう。
自分が採った方法: それは上記ふたつ、つま「ウェーブワッシャーとシムを併用」する折衷だった。たまたま入手したウェーブワッシャーは板厚が0.2mmと薄くて、スプリングとしてのバネ定数が小さく強度も心もとない。そこで同じく0.2mm厚のシムでサンドイッチにして片方当り0.6mm少々あるギャップを埋めてしまおうという魂胆。「少々」というプラスアルファはノギスの計測精度を超えているので正確には判らないが、隙間にオイルが入り込むには十分だろう。そしてスプリングワッシャーはほぼ潰れた状態になり、たとえシャフトが踊ってもそのストロークは非常に短いから疲労破断の恐れも少ないし、またオイルの粘性でほとんど動かないだろうという甘い考えもある。ただ、もしも摩擦で摩耗した場合では、分厚いワッシャーやシムと違い、薄いだけにいきなり破断して破片が変速機やベアリングを傷めてしまう恐れは残る。とは言え、たとえシムのみでギャップ埋めたとしても、細かい調整は厚いシムと薄いシムの組み合わせになるだろうし、まあ、リスクテイキングは自己責任ということ。なるようにしかならんだろう。

オマケ
今回、ドライブシャフト交換のプロセスで判ったことの一つに、最近の部品は工作精度や質の悪いものがあるということがある。ドライブシャフト端部とパッドの隙間もそうだが、新しく購入したシャフトは太いタイプなのだが、フレキシブルジョイントに嵌るスプラインのガタが大きいように感じた。そして、聞いたところではスプライン部分の焼入れが不十分な(あるいはまともに焼入れしていない?)ものがあるという。そもそもその部分が舐めそうなので交換を決断し、プロのアドバイスを頂きながら苦労して取り替えたのに、またぞろその部分がイカレる心配が出てきてしまった。以前の細いドライブシャフトと比べて太いのを見て頼もしく思ったのに、がっかりじゃん。。。
今回、ドライブシャフト交換のプロセスで判ったことの一つに、最近の部品は工作精度や質の悪いものがあるということがある。ドライブシャフト端部とパッドの隙間もそうだが、新しく購入したシャフトは太いタイプなのだが、フレキシブルジョイントに嵌るスプラインのガタが大きいように感じた。そして、聞いたところではスプライン部分の焼入れが不十分な(あるいはまともに焼入れしていない?)ものがあるという。そもそもその部分が舐めそうなので交換を決断し、プロのアドバイスを頂きながら苦労して取り替えたのに、またぞろその部分がイカレる心配が出てきてしまった。以前の細いドライブシャフトと比べて太いのを見て頼もしく思ったのに、がっかりじゃん。。。

あと、トランスミッションのギアオイルは、マニュアルではSAE90(あるいはそれに準じる80〜85W90等)が指定されているが、硬いのが良いとのアドバイスを得たので、1リッターほどの少量単位で一般に入手できる120〜140番くらいのを探した。エンジンオイルもそうだけど、合成油などでシールやOリングにトラブルが出る(ふやけたり縮んだりするとか、いや平気だとか、いろいろ言われているが、、、)のが嫌で、石橋を叩いて鉱物油を選んだ。レースするわけじゃないので「比較的」お安いこれ↓。(と言っても格安の80W90の倍くらいするが、、、)
必要量は1.1リッターなので、100ccほどは通常の硬さのギアオイルをブレンドした。確かに粘度は相当高いが、走ってみて特段ギアシフトがしづらいとかいう感じはない。ちょっとでもトランスミッションとディファレンシャルに長持ちしてもらいたい一心だが、果たして吉と出るか凶と出るか、、、?

必要量は1.1リッターなので、100ccほどは通常の硬さのギアオイルをブレンドした。確かに粘度は相当高いが、走ってみて特段ギアシフトがしづらいとかいう感じはない。ちょっとでもトランスミッションとディファレンシャルに長持ちしてもらいたい一心だが、果たして吉と出るか凶と出るか、、、?
さいごに
自己解決出来ずプロに泣きついたくせに、自分なりの判断でいただいたアドバイスを勝手に折衷するという暴挙は果たしていかがなものか、という自責のような感じが心に残らないでもないが、今の所は完全に異音が消えてチンク嬢自信はご機嫌に走っている。後はウェーブワッシャーなりシムなりが長持ちシてくれることを祈るばかりだ。せめて数万キロの単位で。。。
元々リスキーなデフ分解の上に実験的な組み合わせを選んだから、その意味では本稿は「人柱」にカテゴライズされるべきかもしれないが、まあ全般的にあディファレンシャルの分解とドライブシャフトの交換についてなので「整備その他」の下に分類しておく。
元々リスキーなデフ分解の上に実験的な組み合わせを選んだから、その意味では本稿は「人柱」にカテゴライズされるべきかもしれないが、まあ全般的にあディファレンシャルの分解とドライブシャフトの交換についてなので「整備その他」の下に分類しておく。
アドバイスをいただいた大阪の「ガレージリトル」さんと「オートマイスター」さん(順不同)にお礼申し上げ、改めて感謝の意を表させていただきたい。(ただし、本稿の文責は私にあり、かつこれを読んで整備をされる方は自己責任でお願いすることはこのWikiのお約束であり、言うまでもないがプロの方々にご迷惑がかからないようお願いする次第。そこんとこヨロシク)
by okapon
添付ファイル
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