First Battle(前編) ◆guAWf4RW62
時は早朝。
降り注ぐ朝日が、夜の終わりを鮮明に報せている。
今からまた、新しい一日が始まるのだ。
だが此処は殺戮の孤島。
きっと今日という一日は、多くの参加者達にとって耐え難い試練となるだろう。
それは、幸先の良い出発を飾った者達にとっても例外では無い。
降り注ぐ朝日が、夜の終わりを鮮明に報せている。
今からまた、新しい一日が始まるのだ。
だが此処は殺戮の孤島。
きっと今日という一日は、多くの参加者達にとって耐え難い試練となるだろう。
それは、幸先の良い出発を飾った者達にとっても例外では無い。
「ひゅう……、こいつは凄いな」
西洋風の建物が連なった街中で、少年――棗恭介が感嘆しきった声を洩らす。
呟く恭介の眼前には、横幅にして五十メートル、高さにして二十メートルは超えるであろう巨大な美術館。
美術館の前面は、波のような美しい曲線状のガラス・カーテンウォールに覆われている。
相当な手間暇を掛けた末に建てられたであろう事は、疑いようが無い。
殺人遊戯の場に不似合いな建物を前にして、トルティニタ=フィーネが訝しげに目を細める。
呟く恭介の眼前には、横幅にして五十メートル、高さにして二十メートルは超えるであろう巨大な美術館。
美術館の前面は、波のような美しい曲線状のガラス・カーテンウォールに覆われている。
相当な手間暇を掛けた末に建てられたであろう事は、疑いようが無い。
殺人遊戯の場に不似合いな建物を前にして、トルティニタ=フィーネが訝しげに目を細める。
「主催者達は一体何を考えてるの? こんな豪華な建物を建てたって、労力とお金の無駄遣いじゃない」
「いや、そうとは限らないぞ。何か重大な秘密が隠されている可能性だってあるさ」
「……調べてみる価値はあるって訳ね。それじゃ、早速中に入ってみましょうか」
「ああ、そうしよう」
「いや、そうとは限らないぞ。何か重大な秘密が隠されている可能性だってあるさ」
「……調べてみる価値はあるって訳ね。それじゃ、早速中に入ってみましょうか」
「ああ、そうしよう」
こんな所で話し込んでいても、何も情報は得られない。
恭介はトルタと共に、美術館の入り口に向けて歩を進めようとする。
しかしもう少しで扉に辿り着こうかという時、視界の端に古ぼけた黒い乗用車を発見した。
直ぐに恭介は車へと歩みよって、運転席の辺りをまじまじと覗き見る。
恭介はトルタと共に、美術館の入り口に向けて歩を進めようとする。
しかしもう少しで扉に辿り着こうかという時、視界の端に古ぼけた黒い乗用車を発見した。
直ぐに恭介は車へと歩みよって、運転席の辺りをまじまじと覗き見る。
「鍵は差しっぱなし、か。やろう思えば、動かせるかも知れないな」
「動くみたいなら、これからは車で移動する?」
「……いや、それは止めておこう。移動速度が上がるのは大歓迎だが、エンジン音が目立ち過ぎる」
「動くみたいなら、これからは車で移動する?」
「……いや、それは止めておこう。移動速度が上がるのは大歓迎だが、エンジン音が目立ち過ぎる」
殺人遊戯の場に於いて、大きな音を立てる行為は極めて危険である。
音を聞き付けた殺戮者が襲ってくる、という可能性も考えられるのだ。
ならば、これ以上車を調べる意味は薄いだろう。
恭介は車を放置したまま、美術館の入口へと振り返って――そこで、大きく目を見開いた。
音を聞き付けた殺戮者が襲ってくる、という可能性も考えられるのだ。
ならば、これ以上車を調べる意味は薄いだろう。
恭介は車を放置したまま、美術館の入口へと振り返って――そこで、大きく目を見開いた。
「――幸か不幸か。治療が終わった矢先に、人と出くわすとはね」
「「…………ッ!」」
「「…………ッ!」」
恭介とトルタは、殆ど反射的に各々の銃へと手を伸ばす。
恭介達が視線を注ぎ込む先には、美術館の扉付近に直立する少女の姿があった。
黒一色の制服姿という装いをした少女は、両手でしっかりと日本刀を握り締めている。
少女は明確な殺気を瞳に湛えたまま、恭介達へと語り掛ける。
恭介達が視線を注ぎ込む先には、美術館の扉付近に直立する少女の姿があった。
黒一色の制服姿という装いをした少女は、両手でしっかりと日本刀を握り締めている。
少女は明確な殺気を瞳に湛えたまま、恭介達へと語り掛ける。
「私は千羽烏月という者だ。貴女達に一つだけ聞きたい事がある。
羽藤桂という女の子を見掛けなかったかい?」
「ギブアンドテイクだ。情報が欲しいのなら、俺達の質問にも答えろ。
直江理樹、棗鈴、クリス・ヴェルティン。この三人の行方を知らないか?
三人の外見的特徴は……」
羽藤桂という女の子を見掛けなかったかい?」
「ギブアンドテイクだ。情報が欲しいのなら、俺達の質問にも答えろ。
直江理樹、棗鈴、クリス・ヴェルティン。この三人の行方を知らないか?
三人の外見的特徴は……」
緊迫した状況であろうとも、恭介は決して選択を誤らない。
『情報を武器にする』という自分達のスタンスを考えれば、一つでも多くの情報が欲しい所。
故に、先ずは最低限の情報だけでも引き出そうとする。
恭介は理樹、鈴、クリスの外見的特徴についての詳細を話した。
烏月は少し考え込んだ後、やがて大聖堂での一件に思い至る。
『情報を武器にする』という自分達のスタンスを考えれば、一つでも多くの情報が欲しい所。
故に、先ずは最低限の情報だけでも引き出そうとする。
恭介は理樹、鈴、クリスの外見的特徴についての詳細を話した。
烏月は少し考え込んだ後、やがて大聖堂での一件に思い至る。
「クリスという少年なら、恐らく会った事があるな」
「え、クリスを!? それは何処で!? 一体何時の話よ!」
「今から二時間程前に、この街の大聖堂でだ。……もう良いだろう、次は私の質問に答えて貰うよ。
貴方達は桂さんの行方を知らないか?」
「え、クリスを!? それは何処で!? 一体何時の話よ!」
「今から二時間程前に、この街の大聖堂でだ。……もう良いだろう、次は私の質問に答えて貰うよ。
貴方達は桂さんの行方を知らないか?」
トルタが凄まじい剣幕で問い詰めて来たものの、烏月は目撃場所と時間を答えるだけに留めた。
烏月からすれば、大聖堂での一部始終を話してやる義理など無い。
直ぐに話題を切り換えて、羽藤桂の行方を聞き出そうとする。
恭介は僅かばかり逡巡した後、牽制するかのように問い掛けた。
烏月からすれば、大聖堂での一部始終を話してやる義理など無い。
直ぐに話題を切り換えて、羽藤桂の行方を聞き出そうとする。
恭介は僅かばかり逡巡した後、牽制するかのように問い掛けた。
「見た、と云ったらどうする?」
「先に云っておくが、嘘は意味が無いよ。桂さんの行き先を教えて欲しければ見逃せ、と云われても応じるつもりはない。
そんな事をしていたら、良いように踊らされてしまうだけだからね」
「……なら正直に答えよう。俺達は、羽藤桂の行方について一切心当たりが無い」
「そうか。じゃあ話は此処までだ」
「先に云っておくが、嘘は意味が無いよ。桂さんの行き先を教えて欲しければ見逃せ、と云われても応じるつもりはない。
そんな事をしていたら、良いように踊らされてしまうだけだからね」
「……なら正直に答えよう。俺達は、羽藤桂の行方について一切心当たりが無い」
「そうか。じゃあ話は此処までだ」
烏月は短く答えると、地獄蝶々の刃を恭介達へと向けた。
それに対抗して、トルタが回転式拳銃――Sturm Ruger GP100を強く握り締める。
それに対抗して、トルタが回転式拳銃――Sturm Ruger GP100を強く握り締める。
「私達としては、出来れば戦いは避けたいんだけど……。穏便に済ませるって訳にはいかないの?」
「残念だけどそうは行かないよ。私は桂さんを生還させる為、他の参加者達を皆殺しにすると決めたんだ」
「残念だけどそうは行かないよ。私は桂さんを生還させる為、他の参加者達を皆殺しにすると決めたんだ」
これ以上、交渉の余地など無い。
烏月から放たれる殺気は、最早臨界点にまで膨れ上がっている。
一触触発の状況下で、先に行動を起こしたのは恭介達だった。
烏月から放たれる殺気は、最早臨界点にまで膨れ上がっている。
一触触発の状況下で、先に行動を起こしたのは恭介達だった。
「……逃げるぞ、トルタ!」
「ええ、分かってる!」
「ええ、分かってる!」
恭介達の決断は素早かった。
此処でリスクを冒す意味は薄い。
二人で一発ずつ威嚇射撃を行った後、直ぐに背を向けて走り始めた。
しかし烏月とて、敵が逃亡を試みる可能性くらい当然考慮している。
烏月は牽制の銃弾を事も無げに凌いだ後、凄まじい走力で追撃へと移った。
此処でリスクを冒す意味は薄い。
二人で一発ずつ威嚇射撃を行った後、直ぐに背を向けて走り始めた。
しかし烏月とて、敵が逃亡を試みる可能性くらい当然考慮している。
烏月は牽制の銃弾を事も無げに凌いだ後、凄まじい走力で追撃へと移った。
「ハ――、フ……ハァ、ハァ……」
トルタは街の大通りを懸命に駆けながら、呼吸を酷く荒ぶらせる。
心臓が早鐘を打ち鳴らし、肺はズキズキと痛みを訴えている。
それでも決して、駆ける足の勢いだけは緩めない。
正しく全力の逃避行。
だがそんな彼女の努力は、何の意味も為さなかった。
心臓が早鐘を打ち鳴らし、肺はズキズキと痛みを訴えている。
それでも決して、駆ける足の勢いだけは緩めない。
正しく全力の逃避行。
だがそんな彼女の努力は、何の意味も為さなかった。
「無駄だ、貴女では私から逃げ切れないよ」
追う烏月の表情には、ある種の余裕すらも見て取れる。
それも当然だろう。
唯の女子高生と鬼切りの剣士では、身体能力に圧倒的な差がある。
見る見る内に、トルタと烏月の距離は縮まっていった。
それも当然だろう。
唯の女子高生と鬼切りの剣士では、身体能力に圧倒的な差がある。
見る見る内に、トルタと烏月の距離は縮まっていった。
「トルタ……ッ、糞!」
先行していた恭介が、足を止めてトルタ達の方へと振り返った。
自分はともかく、トルタと烏月の走力差は明白。
逃げ切るのは最早不可能。
そう判断した恭介は、烏月に向けて自動式拳銃――SIG SAUER P226を構えた。
しかし恭介がトリガーを引き絞る寸前、烏月は素早く左方向に跳躍する。
銃弾は目標を外れ、大通り沿いにある民家の壁面へと突き刺った。
自分はともかく、トルタと烏月の走力差は明白。
逃げ切るのは最早不可能。
そう判断した恭介は、烏月に向けて自動式拳銃――SIG SAUER P226を構えた。
しかし恭介がトリガーを引き絞る寸前、烏月は素早く左方向に跳躍する。
銃弾は目標を外れ、大通り沿いにある民家の壁面へと突き刺った。
「遅いっ……!」
「――――っ」
「――――っ」
烏月は直ぐに標的を恭介へと切り替えて、上体を屈めた態勢で疾駆する。
迎撃に放たれた銃撃を悉く掻い潜り、一息で刀が届く距離まで侵入した。
突撃の推進力を上乗せして、地獄蝶々の刃を一直線に突き出す。
迎撃に放たれた銃撃を悉く掻い潜り、一息で刀が届く距離まで侵入した。
突撃の推進力を上乗せして、地獄蝶々の刃を一直線に突き出す。
「シッ!」
「このっ……」
「このっ……」
恭介が横にステップを踏んで逃れたが、烏月は即座に左肩口を突き出して、そのまま体当たりを繰り出した。
密着に近い状態から放たれた一撃は、恭介の胸部を確実に捉え、後退を余儀無くさせる。
続けて烏月は左足を軸に半回転して、旋風の如き中段蹴りを打ち放った。
正に息も吐かせぬ連続攻撃だが、恭介とて並外れた運動神経の持ち主であり、このままやられたりはしない。
密着に近い状態から放たれた一撃は、恭介の胸部を確実に捉え、後退を余儀無くさせる。
続けて烏月は左足を軸に半回転して、旋風の如き中段蹴りを打ち放った。
正に息も吐かせぬ連続攻撃だが、恭介とて並外れた運動神経の持ち主であり、このままやられたりはしない。
「甘い!」
「――――!?」
「――――!?」
恭介は驚異的な反応速度で上体を後ろへと反らし、顔に迫る一撃を回避した。
そのまま間髪置かず、銃口を烏月の頭へと向ける。
放たれた銃弾は、烏月が首を横に傾けた事で空転に終わったが、既に恭介は大きく前へと踏み込んでいる。
恭介は前進する勢いのまま、烏月の腹部に拳を突き刺した。
そのまま間髪置かず、銃口を烏月の頭へと向ける。
放たれた銃弾は、烏月が首を横に傾けた事で空転に終わったが、既に恭介は大きく前へと踏み込んでいる。
恭介は前進する勢いのまま、烏月の腹部に拳を突き刺した。
「ガッ…………!」
内臓まで響く強烈な衝撃に、烏月が上体を丸める。
しかし烏月の動きを止めるまでには至らず、日本刀が横凪ぎに一閃された。
恭介も咄嗟に後方へと飛び退いたものの、完全には躱し切れず、脇腹を浅く切り裂かれる。
しかし烏月の動きを止めるまでには至らず、日本刀が横凪ぎに一閃された。
恭介も咄嗟に後方へと飛び退いたものの、完全には躱し切れず、脇腹を浅く切り裂かれる。
「ぐ、があぁっ……」
「ハアァァァァ――!」
「ハアァァァァ――!」
烏月は腹部の激痛を噛み殺して、即座に追撃を仕掛けようとする。
恭介は大きく反応が遅れており、回避行動へと移れない。
だがそこで真横から銃弾が飛来して、烏月の前方数十センチにある地面が弾け飛んだ。
恭介は大きく反応が遅れており、回避行動へと移れない。
だがそこで真横から銃弾が飛来して、烏月の前方数十センチにある地面が弾け飛んだ。
「私も居るんだって事、忘れないでよね!」
銃撃を放った張本人、トルタが叫びを上げる。
トルタは尚も攻める手を緩めず、続け様にトリガーを引き絞った。
銃を扱い慣れていないトルタの攻撃は、決して正確であるとは言い難い。
しかしどれだけ拙い銃撃であろうとも、万一急所に当たれば致命傷となるのは確実。
烏月は舌打ちと共に後退せざるを得なかった。
トルタは尚も攻める手を緩めず、続け様にトリガーを引き絞った。
銃を扱い慣れていないトルタの攻撃は、決して正確であるとは言い難い。
しかしどれだけ拙い銃撃であろうとも、万一急所に当たれば致命傷となるのは確実。
烏月は舌打ちと共に後退せざるを得なかった。
「大丈夫、恭介?」
「お陰様で何とかな。けど気を抜くな、敵は手強いぞ……!」
「お陰様で何とかな。けど気を抜くな、敵は手強いぞ……!」
銃弾を装填しているトルタの横で、恭介は戦慄に染まった声を上げる。
恭介とて自らの身体能力にはそれなりに自信があった。
だが先程烏月が見せた動きの鋭さは、そんな恭介すらをも更に上回っている。
ほんの僅かでも気を抜けば、確実に斬り殺されてしまうだろう。
そして相手の実力に驚愕を覚えてのは、烏月もまた同じ。
恭介とて自らの身体能力にはそれなりに自信があった。
だが先程烏月が見せた動きの鋭さは、そんな恭介すらをも更に上回っている。
ほんの僅かでも気を抜けば、確実に斬り殺されてしまうだろう。
そして相手の実力に驚愕を覚えてのは、烏月もまた同じ。
「私の攻撃を凌げる人間が、まさかこんなにも居るなんてね……」
『制限』された環境下でも、烏月が繰り出す斬撃は十分過ぎる鋭さを誇っている。
しかし桂言葉達との戦いでも、大聖堂に於ける一戦でも、烏月は敵を仕留める事が出来なかった。
この島には、烏月に対抗し得る程の猛者が数多く集められているのだ。
そして今目の前に居る男も、間違いなくその一人。
烏月はこれまで以上に気を引き締めて、再び突撃を仕掛けようとする。
だが、その刹那。
烏月の心臓が、どくんと強く脈打った。
しかし桂言葉達との戦いでも、大聖堂に於ける一戦でも、烏月は敵を仕留める事が出来なかった。
この島には、烏月に対抗し得る程の猛者が数多く集められているのだ。
そして今目の前に居る男も、間違いなくその一人。
烏月はこれまで以上に気を引き締めて、再び突撃を仕掛けようとする。
だが、その刹那。
烏月の心臓が、どくんと強く脈打った。
「…………ッ!?」
鬼の主と対峙した時をも上回る、圧倒的な死の気配。
迫り来る重圧、絶望的な予感に手足の先端までもが痺れてゆく。
全てを押し潰すような殺気を撒き散らしながら、ソレは現れた。
迫り来る重圧、絶望的な予感に手足の先端までもが痺れてゆく。
全てを押し潰すような殺気を撒き散らしながら、ソレは現れた。
「フフ……随分と愉しそうな事をしておるな」
烏月や恭介達の横方向、大通りの端辺りに佇む黒い影。
闘争に飢えた、黒装束のサムライ。
それはこの島で一秒でも長く生き延びようと思うのなら、決して出会ってはいけない存在だった。
闘争に飢えた、黒装束のサムライ。
それはこの島で一秒でも長く生き延びようと思うのなら、決して出会ってはいけない存在だった。
「拙者の名はティトゥス。『黒き聖域』の信徒にして、『逆十字』の末裔に名を連ねる者也。
此度の死合、拙者も混ぜて貰おうぞ」
此度の死合、拙者も混ぜて貰おうぞ」
絶対零度の声。
ティトゥスの両手に握り締められた双身螺旋刀が、朝日を受けて禍々しく光り輝く。
猛禽類の如き鋭い目が、烏月の心臓を一直線に射抜いた。
ティトゥスの両手に握り締められた双身螺旋刀が、朝日を受けて禍々しく光り輝く。
猛禽類の如き鋭い目が、烏月の心臓を一直線に射抜いた。
「……これは、不味いね」
烏月の喉奥から、動揺した声が零れ落ちる。
数多くの異形と戦った経験がある烏月だからこそ、即座に理解出来た。
アレは、化け物だ。
人のような姿形こそしているものの、放たれる威圧感の桁が違い過ぎる。
こうやって向かい合っているだけでも、背後から銃口を突き付けられているような錯覚に襲われる。
数多くの異形と戦った経験がある烏月だからこそ、即座に理解出来た。
アレは、化け物だ。
人のような姿形こそしているものの、放たれる威圧感の桁が違い過ぎる。
こうやって向かい合っているだけでも、背後から銃口を突き付けられているような錯覚に襲われる。
「クッ――――」
本能的に危険を察知した恭介が、問答無用でSIG SAUER P226のトリガーを引き絞った。
放たれた銃弾は、音速にも匹敵する速度でティトゥスを貫かんとする。
そして銃弾がティトゥスの身体に突き刺さる直前。
ブン、という音がした。
放たれた銃弾は、音速にも匹敵する速度でティトゥスを貫かんとする。
そして銃弾がティトゥスの身体に突き刺さる直前。
ブン、という音がした。
「……マジ、かよ」
恭介はそんな呟きしか漏らせなかった。
ティトスの足元には、真っ二つに両断された銃弾が転がっている。
恐るべき勢いで振るわれた螺旋刀が、銃弾を一瞬で切り裂いたのだ。
余りにも常識外れな光景を目にしたトルタが、焦燥に染まった声を絞り出す。
ティトスの足元には、真っ二つに両断された銃弾が転がっている。
恐るべき勢いで振るわれた螺旋刀が、銃弾を一瞬で切り裂いたのだ。
余りにも常識外れな光景を目にしたトルタが、焦燥に染まった声を絞り出す。
「……逃げよう、恭介。こんな怪物、相手にしてられないよ」
「俺だって出来ればそうしたいけどな。そう簡単に逃がしてくれそうもないぜ?」
「左様。闘争の機会をみすみす逃しはせぬ」
「俺だって出来ればそうしたいけどな。そう簡単に逃がしてくれそうもないぜ?」
「左様。闘争の機会をみすみす逃しはせぬ」
ティトゥスはそう云うと、口元を笑みの形に歪めた。
彼の心を占めるのは、闘争への渇望のみ。
戦いに生きる怪物が、折角出会えた獲物達を見逃す筈も無い。
恭介は恐怖に塗り潰されそうな心を奮い立たせて、生存への道を探ろうとする。
彼の心を占めるのは、闘争への渇望のみ。
戦いに生きる怪物が、折角出会えた獲物達を見逃す筈も無い。
恭介は恐怖に塗り潰されそうな心を奮い立たせて、生存への道を探ろうとする。
「……烏月。一つ提案がある」
「何だい?」
「今この場だけ共闘しないか? 俺達にはもう、争ってる余裕なんて無い筈だ」
「何だい?」
「今この場だけ共闘しないか? 俺達にはもう、争ってる余裕なんて無い筈だ」
余りにも突拍子な提案。
それは烏月だけでは無く、トルタにとっても寝耳に水の話だった。
それは烏月だけでは無く、トルタにとっても寝耳に水の話だった。
「ちょっと恭介、正気なの!?」
「正気に決まってるさ。相手は銃弾すら切り裂く化け物なんだぜ?
他に俺達が生き延びる方法は無いだろ」
「正気に決まってるさ。相手は銃弾すら切り裂く化け物なんだぜ?
他に俺達が生き延びる方法は無いだろ」
答える恭介の声に迷いは無い。
彼は誰よりも早く、正確に、現状がいかに厳しい状況なのかを理解しているのだ。
烏月は僅かの間だけ思案を巡らせたが、直ぐ一つの結論に達した。
裏切られる可能性も勿論あるが、選択の余地は無い。
三人で力を合わせない限り、この死地は決して乗り越えられないだろう。
彼は誰よりも早く、正確に、現状がいかに厳しい状況なのかを理解しているのだ。
烏月は僅かの間だけ思案を巡らせたが、直ぐ一つの結論に達した。
裏切られる可能性も勿論あるが、選択の余地は無い。
三人で力を合わせない限り、この死地は決して乗り越えられないだろう。
「……確かに、それしか選択肢が無いようだね」
短く答えた後、烏月は地獄蝶々を正中段に構えた。
それに合わせて、恭介とトルタも各々の銃をティトゥスに向ける。
ほんの数分前まで争っていた三人が、今だけは同じ目的の為に意識を統一させていた。
三つの殺意、三つの凶器を向けられたティトゥスは、何処までも愉しげに口の端を吊り上げる。
それに合わせて、恭介とトルタも各々の銃をティトゥスに向ける。
ほんの数分前まで争っていた三人が、今だけは同じ目的の為に意識を統一させていた。
三つの殺意、三つの凶器を向けられたティトゥスは、何処までも愉しげに口の端を吊り上げる。
「面白い。掛かってくるが良い、勇敢なる戦士達よ」
ティトゥスが手にするは螺旋状に捻じ曲がった妖刀、双身螺旋刀。
その特殊な形状の為扱い方こそ難しいが、恐るべき強度と切れ味を誇る魔剣だ。
高まる緊張感。
朝日に包まれた西洋の街中で、四人の戦士達が睨み合う。
痺れるような重圧が場を支配する中、恭介は死闘の開幕を告げる。
その特殊な形状の為扱い方こそ難しいが、恐るべき強度と切れ味を誇る魔剣だ。
高まる緊張感。
朝日に包まれた西洋の街中で、四人の戦士達が睨み合う。
痺れるような重圧が場を支配する中、恭介は死闘の開幕を告げる。
「行くぞ皆、ミッション・スタートだ!」
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038:降り止まない雨などここにはないから(後編) | トルティニタ=フィーネ | |
040:蒼い鳥に誘われて | 千羽烏月 | |
049:胸には強さを、気高き強さを、頬には涙を、一滴の涙を。 | ティトゥス |