源千華留は大いに語り大いに推理を披露する ◆awaseG8Boo
「じ……じゅう……の、音?」
蘭堂りのは肺の中に溜まった空気を押し出すかのような語調で思わず呟いた。
聞こえた、確かに何かが爆発するような特徴的な音がしたのだ。
聞こえた、確かに何かが爆発するような特徴的な音がしたのだ。
それは、映画やドラマの中などで見かける『銃』という物体の奏でる発射音と酷似していた。
あくまで作り物の知識としてしか持ち合わせてはいないものの間違ってはいない、りのはそう思った
千華留も、先程小屋から出て行った恭介もトルタも同じ物を持っていた。
あくまで作り物の知識としてしか持ち合わせてはいないものの間違ってはいない、りのはそう思った
千華留も、先程小屋から出て行った恭介もトルタも同じ物を持っていた。
つまり、この空間では拳銃という道具は有り触れたアイテムなのかもしれない。
まるで放課後の学校のようにシン、とした空気が保たれている世界だけに、銃の音は不思議なくらいよく響いた。
まるで放課後の学校のようにシン、とした空気が保たれている世界だけに、銃の音は不思議なくらいよく響いた。
(あれ?)
そこまで考えて、りのは一つの疑問へとぶち当たる。
涙がポロポロと流れ落ち、未だに両の瞳は真っ赤だ。鼻水も出ているし、瞼の周辺は擦り過ぎて若干赤くなっている。
意識も朦朧として、俊敏な思考など出来る訳もない。
彼女はそれほど頭の回転が速いタイプではないがそれを差し置いて、でもだ。
涙がポロポロと流れ落ち、未だに両の瞳は真っ赤だ。鼻水も出ているし、瞼の周辺は擦り過ぎて若干赤くなっている。
意識も朦朧として、俊敏な思考など出来る訳もない。
彼女はそれほど頭の回転が速いタイプではないがそれを差し置いて、でもだ。
(なんで、銃が撃たれるんだろう?)
そうだ。銃はむやみやたらに使用される武器ではない。
加えて音が聞こえて来たのは相当近くだ。これらの材料から判断出来る事実、それはすなわち――
加えて音が聞こえて来たのは相当近くだ。これらの材料から判断出来る事実、それはすなわち――
「ち……ちかる、さん! こ、これって……!」
目の前で俯いたままの源千華留へと、りのは声を荒げて事の重大性を告げる。
「…………近い、わね」
「もしかして、恭介さん達が……誰かに……ッ!」
「……かもしれないわね」
「もしかして、恭介さん達が……誰かに……ッ!」
「……かもしれないわね」
曖昧に千華留は低い声でりの仮説を肯定した。千華留は目元に袖を当て、流れ出した涙を拭った。
しかし、未だ気分が優れないのだろうか。彼女本来の陽気さがまるで感じられない。
突然の出来事に対応する、という点に関しても、どこか動きが緩慢としている。
しかし、未だ気分が優れないのだろうか。彼女本来の陽気さがまるで感じられない。
突然の出来事に対応する、という点に関しても、どこか動きが緩慢としている。
が、事態に混乱したりのは千華留のそんな異常に気付く事は出来なかった。
りのの思考は当然の如く、今この場にいない恭介達へと向けられる。
『彼らが誰か殺し合いに乗った人間に襲われたのではないか』という考えが湧き上がる。
彼らが慌ただしく、この空間から退出してから大して時間が経っている訳ではない。
二人は必ず近くにいる……そして、銃の音も近い。導き出される結論はたった一つだけだ。
『彼らが誰か殺し合いに乗った人間に襲われたのではないか』という考えが湧き上がる。
彼らが慌ただしく、この空間から退出してから大して時間が経っている訳ではない。
二人は必ず近くにいる……そして、銃の音も近い。導き出される結論はたった一つだけだ。
「た、大変です! 助けにいかないと!!」
「…………」
「千華留……さん?」
「…………」
「千華留……さん?」
ここまで来て、ようやくりのは千華留の反応が妙な事を察知した。
(千華留さん……? どうして、何も言わないんだろう。さっきまでの千華留さんだったら、すぐに行動に移していた筈なのに……。
顔を上げないで下ばかり見て……どうして……?)
顔を上げないで下ばかり見て……どうして……?)
千華留は銃声を聞いた後、身体をぴくりと動かさずジッと床を見つめていた。
震えている訳ではない。まるで石の彫像にでもなったかのように、ひたすら彼女は『止まっている』のだ。
震えている訳ではない。まるで石の彫像にでもなったかのように、ひたすら彼女は『止まっている』のだ。
何を言う訳でもない。何をする訳でもない。微動だにせず、一切の動きを停止している。
りのはそんな千華留の行動がまるで分からなかった。
彼女は恭介達が襲われている、という可能性を肯定したのだ。つまり、彼らに危険が訪れている事は理解している筈。
ならば、自分達がやらなければならない事は決まっているではないか。
りのはそんな千華留の行動がまるで分からなかった。
彼女は恭介達が襲われている、という可能性を肯定したのだ。つまり、彼らに危険が訪れている事は理解している筈。
ならば、自分達がやらなければならない事は決まっているではないか。
それは『二人を助けるために救助に向かう』事だ。
他の解答はありえない。
他の解答はありえない。
「千華留さん! 千華留さん!!」
「…………」
「…………」
もはや、小さな反応すら返って来なかった。
千華留はりのの声など耳に入っていないかのように、俯き続ける。
千華留はりのの声など耳に入っていないかのように、俯き続ける。
通じ合った心も、触れ合った指先さえ記憶から消え去ってしまったかのように。
長い髪で隠され千華留の表情をりのは確認する事が出来ない。
長い髪で隠され千華留の表情をりのは確認する事が出来ない。
りのは千華留が何を考えているのかまるで分からなかった。
▽
――ゆっくりと終わっていく世界の中で、私は一人きりだった。
――ゆらぐ空、消えていく月。山向こうに沈む遥かなる赤い光。
――理想はクルクルと螺旋を描きながら堕ちていく。鮮明な残像を残しながら。
――月色の花。ぼんやりと光を放つ槐。そして銀色の刃。滴る鮮血。
――蛮勇は消え去り、私は闇の中に沈んでいく。
ガタガタと車体を揺らしながら、ユメイは虚ろな眼で誰も居ない向かい側の席を見つめていた。
深い藍色の髪の毛、そして藍色の着物。
着衣の乱れは何とか正し終わったが、早鐘を打ち鳴らすように身体を揺さぶり続ける心臓の鼓動は今も彼女を蝕み続ける。
深い藍色の髪の毛、そして藍色の着物。
着衣の乱れは何とか正し終わったが、早鐘を打ち鳴らすように身体を揺さぶり続ける心臓の鼓動は今も彼女を蝕み続ける。
誰もいない車内はヒンヤリとしていて、少しだけ冷たい。
とはいえ、空はゆっくりと太陽が顔を出し始めている。おそらく、今日は暑くなるのだろう。
季節も分からない、この騒々しい島を照らす唯一の光源だけが彼女を見ていた。
とはいえ、空はゆっくりと太陽が顔を出し始めている。おそらく、今日は暑くなるのだろう。
季節も分からない、この騒々しい島を照らす唯一の光源だけが彼女を見ていた。
「……はぁ」
少しずつ天へと近付いていく熱を背に受け、ユメイはただ眼の前の状況を整理する事に満身する。
散らばっていた道具も、ひとまず回収し、デイパックの中に入れた。
流石に大十字九郎を切り付けた刀だけは手付かずのまま、置いてある。
散らばっていた道具も、ひとまず回収し、デイパックの中に入れた。
流石に大十字九郎を切り付けた刀だけは手付かずのまま、置いてある。
実は自分のデイパックの中に入っていた道具を確認してもみたのだ。
しかし、入っていたのはまたしても重火器。説明書には『RPG-7V1』と書いてあった。
ロシア軍が正式採用している正真正銘のロケットランチャー……である。
しかし、入っていたのはまたしても重火器。説明書には『RPG-7V1』と書いてあった。
ロシア軍が正式採用している正真正銘のロケットランチャー……である。
が、戦車をも吹き飛ばすような恐ろしい武器を持ち歩く事などユメイには耐えられなかった。
思わずデイパックごと、放り投げてしまったのだ。
しかし、さすがに基本的な支給品がないのは不安だったため、残されていた別のデイパックを今は背負っている。
思わずデイパックごと、放り投げてしまったのだ。
しかし、さすがに基本的な支給品がないのは不安だったため、残されていた別のデイパックを今は背負っている。
(胸が……痛い)
途切れる事なく響き続ける不可解なノイズに鼓膜が麻痺してしまいそうだ。
ちらり、と左腕に付けた時計の時間を確認する。
気絶していた男性へと切り掛かる直前に行ったのとまるで同じ行為。胸の奥で何かが軋むように痛んだ。
ちらり、と左腕に付けた時計の時間を確認する。
気絶していた男性へと切り掛かる直前に行ったのとまるで同じ行為。胸の奥で何かが軋むように痛んだ。
「もう……こんな時間」
時計の短針は八。長針は丁度十二の位置を差している。
つまり、八時だ。車内のダイヤを確認した所、もう少しで列車はG-4の駅に到着する筈だ。
一度F-7の駅に止まりはしたのだが、どうしても腰を上げる事が出来なかった。
それは、自分が…………臆病だからだ。
つまり、八時だ。車内のダイヤを確認した所、もう少しで列車はG-4の駅に到着する筈だ。
一度F-7の駅に止まりはしたのだが、どうしても腰を上げる事が出来なかった。
それは、自分が…………臆病だからだ。
『もしも、降りた駅に殺し合いに乗った人間がいたらどうなるだろう?』
泡のように浮かんで来たその不安を押し潰す事が、ユメイにはどうしても出来なかった。
誰かと戦う事が怖い訳ではない。
自分が自分でなくなって……そして、罪のない人間を殺めてしまう事が何よりも恐ろしいのだ。
誰かと戦う事が怖い訳ではない。
自分が自分でなくなって……そして、罪のない人間を殺めてしまう事が何よりも恐ろしいのだ。
ほんの数分前、自分はいったい何を考えていたのか。
一片の揺るぎもなく、その解答は溢れ出す。
いかに精神が薄弱になっていても、決して消えない烙印として先ほどの思考はユメイの中に刻まれていたのだから。
一片の揺るぎもなく、その解答は溢れ出す。
いかに精神が薄弱になっていても、決して消えない烙印として先ほどの思考はユメイの中に刻まれていたのだから。
眼の前に倒れていた裸の男と髭の老人を――――どうやって、殺せばいいのか必死に頭を捻っていた。
自分は、殺人鬼に進んでなろうとしたのだ。
誰よりも大切に思う相手――羽籐桂を守るためでも何でもなく。
ただ、眼の前の危険を摘み取るため、刀を取ったのだ。
誰よりも大切に思う相手――羽籐桂を守るためでも何でもなく。
ただ、眼の前の危険を摘み取るため、刀を取ったのだ。
(桂ちゃんは……どうしているのかな。誰か……信頼出来る人と一緒にいるなら……桂ちゃんが無事でありさえすれば……。
私みたいな事に……なっていなければ……いいな……)
私みたいな事に……なっていなければ……いいな……)
ユメイの頭の中に浮かぶの彼女の従妹であり、何を犠牲にしてでも守りたいと思う羽藤桂の笑顔だった。
そして同時に不安な黒い感情も脳裏をチラつく。
桂はこんな殺し合いに乗ってしまう……そんな弱い人間ではない。
彼女は強い人間だ。確かに戦う力はない。だけど、その小さな身に秘めた意志の力は、何よりも力強く自分を後押ししてくれる。
決して諦めない芯の強さ。それこそが桂が持つ最大の魅力なのだから。
そして同時に不安な黒い感情も脳裏をチラつく。
桂はこんな殺し合いに乗ってしまう……そんな弱い人間ではない。
彼女は強い人間だ。確かに戦う力はない。だけど、その小さな身に秘めた意志の力は、何よりも力強く自分を後押ししてくれる。
決して諦めない芯の強さ。それこそが桂が持つ最大の魅力なのだから。
(なんで……どうして、私はあんな事を……?)
未だ震えの収まらない両の掌をユメイは虚ろげな瞳で見つめる。
カタカタ、
カタカタ、
と意志とは無関係の振動は収まる気配はまるでなくて。
カタカタ、
と意志とは無関係の振動は収まる気配はまるでなくて。
殺し合いの場が持つ空気、という奴は言葉では言い表す事が出来ない。
人が死ぬ。殺さないと自分が死ぬ。押し殺した息遣い。握り締めた凶器。高鳴る鼓動。
恐怖心が茨のように心を絡めとり、殺人空間が意識を後押しする。
人が死ぬ。殺さないと自分が死ぬ。押し殺した息遣い。握り締めた凶器。高鳴る鼓動。
恐怖心が茨のように心を絡めとり、殺人空間が意識を後押しする。
だから彼女は意識を白い靄の掛かった海に投げ捨て、思考を放棄した。
何もない世界にその身を預けたのだ。
殺し合いが始まってから六時間。人が死んでいる、という実感はいまいち湧かない。
確かに妙に話の長い男がクドクドと話し続けていた放送も記憶には残っている。だけどソレだけだ。
何もない世界にその身を預けたのだ。
殺し合いが始まってから六時間。人が死んでいる、という実感はいまいち湧かない。
確かに妙に話の長い男がクドクドと話し続けていた放送も記憶には残っている。だけどソレだけだ。
スピーカーを通して行われる電気信号など、実際に肉を裂く感触や鮮明な血の赤に比べれば圧倒的に現実味が足りない。
そして、彼が告げた名前の中に聞き覚えのある人間は一人もいなかった。
故に彼女はたゆたい続ける。血と狂気に染まった記憶の中を。
そして、彼が告げた名前の中に聞き覚えのある人間は一人もいなかった。
故に彼女はたゆたい続ける。血と狂気に染まった記憶の中を。
(私は……何をして来たんだろう。何も覚えていない。変な男の人に襲われて……それで……。
何一つ……進んでさえいない。私はずっと足踏みをしていただけ、殺されていないのが不思議なくらい……)
何一つ……進んでさえいない。私はずっと足踏みをしていただけ、殺されていないのが不思議なくらい……)
足早に過ぎ去っていく景色を眺めながら、ユメイは小さくため息をついた。
灰色の街に嵌め込まれた硝子が光を反射する。星のように瞬く世界の中で、彼女は孤独だった。
灰色の街に嵌め込まれた硝子が光を反射する。星のように瞬く世界の中で、彼女は孤独だった。
桂……の次に頭に浮かぶのは他の自分の知り合い達の顔だった。
千羽烏月、浅間サクヤ、若杉葛……彼女達はいったい、今何をしているのだろうか。
それほど付き合いが長い訳ではない。だから彼女達がどのような思考で動いているかはいまいち想像が付かない。
だが、少なくとも、彼女たちが生き抜くために必死に戦っている事だけは分かる。
千羽烏月、浅間サクヤ、若杉葛……彼女達はいったい、今何をしているのだろうか。
それほど付き合いが長い訳ではない。だから彼女達がどのような思考で動いているかはいまいち想像が付かない。
だが、少なくとも、彼女たちが生き抜くために必死に戦っている事だけは分かる。
弱い人間なんて自分の仲間達の中には一人もいない。
一人、桂がいなくなってしまう事に誰よりも恐怖を覚えている人間、ユメイ――いや、羽藤柚明だけが震えているのだ。
こんな無様な状態では、桂を守る事など出来る訳がない。
今は自らの心と折り合いを付けるので精一杯だった。
一人、桂がいなくなってしまう事に誰よりも恐怖を覚えている人間、ユメイ――いや、羽藤柚明だけが震えているのだ。
こんな無様な状態では、桂を守る事など出来る訳がない。
今は自らの心と折り合いを付けるので精一杯だった。
(桂ちゃん……桂ちゃんは……今、どこに……?)
そして、彼女の後悔は募る。
▽
「千華留さん、どうして何もしないんですか!? このままだと恭介さん達が――」
りのが声を荒げて千華留を叱咤する。
千華留はそんな彼女の台詞を聞きながら、内心苦笑いを浮かべていた。
つまり、このような醜態を晒していては彼女に文句を言われるのも仕方がない、と。
千華留はそんな彼女の台詞を聞きながら、内心苦笑いを浮かべていた。
つまり、このような醜態を晒していては彼女に文句を言われるのも仕方がない、と。
渚砂ちゃんの死――それは、心の中で大きな楔となり、心臓を磔にした。
何もかもが分からなくなり、気丈に振舞う事も出来なくて……一瞬、全てがどうでもよくなり掛けた。
もしも、この場所にりのちゃんがいなかったとしたら、自分はどうなっていたか分からない。
何もかもが分からなくなり、気丈に振舞う事も出来なくて……一瞬、全てがどうでもよくなり掛けた。
もしも、この場所にりのちゃんがいなかったとしたら、自分はどうなっていたか分からない。
『希望はあるんじゃないか』
『精一杯頑張ってみようと思う』
『精一杯頑張ってみようと思う』
そう黒き神父と直接言葉を交わした筈の自分が、いとも容易く心が折れ掛けた。
やはり、彼らが言っていたようにこの「ゲーム」とやらは一筋縄ではいかない。
血と惨劇の匂いが心を、そして精神を蝕んでいく。時間が導火線となり、少しずつ、参加者の心へと迫るのだ。
やはり、彼らが言っていたようにこの「ゲーム」とやらは一筋縄ではいかない。
血と惨劇の匂いが心を、そして精神を蝕んでいく。時間が導火線となり、少しずつ、参加者の心へと迫るのだ。
――ありがとう、りのちゃん。おかげで……目が醒めた。
「りのちゃん。今から私の言う事をよく聞いて」
「えっ?」
「……ごめんなさいね、しばらく黙り込んでいて」
「えっ?」
「……ごめんなさいね、しばらく黙り込んでいて」
千華留は立ち上がり、呆然としていたりのを優しく抱き締めた。
先程彼女が自分にやったように、あらん限りの想いを込めて、だ。
数秒間、りのの柔らかな感触を堪能した後、千華留はゆっくりと腕を緩める。そして、
先程彼女が自分にやったように、あらん限りの想いを込めて、だ。
数秒間、りのの柔らかな感触を堪能した後、千華留はゆっくりと腕を緩める。そして、
「ねぇ、りのちゃん。私がりのちゃんと初めて会った時、なんて名乗ったか覚えてる?」
「…………え。その『怪盗ル・リム』ですか?」
「…………え。その『怪盗ル・リム』ですか?」
被った帽子の唾を弄びながら、小さく微笑んだ。
怪盗ル・リム――それは千華留の小さな遊び心から生まれた架空の泥棒の名前だ。
支給品との兼ね合いから誕生した、特に意味のない存在に過ぎない。
とはいえ、皮肉なものだ。
何気ない感慨から生まれたこの"怪盗"という立場が、今の彼女には見事に当て嵌まるのだから。
怪盗ル・リム――それは千華留の小さな遊び心から生まれた架空の泥棒の名前だ。
支給品との兼ね合いから誕生した、特に意味のない存在に過ぎない。
とはいえ、皮肉なものだ。
何気ない感慨から生まれたこの"怪盗"という立場が、今の彼女には見事に当て嵌まるのだから。
自分が渚砂ちゃんの死を容易く振り切る事など出来る訳がない。
受け入れる事も忘れ去れるのも不可能だ。
それでは何も出来ず、肩を震わせているだけなのか? 無力なまま死を待つのか?
どちらも間違いだ。自分には決して譲る事の出来ない一線がある。
受け入れる事も忘れ去れるのも不可能だ。
それでは何も出来ず、肩を震わせているだけなのか? 無力なまま死を待つのか?
どちらも間違いだ。自分には決して譲る事の出来ない一線がある。
怪盗とは盗む者――それでは、怪盗が何か大切なものを盗まれた場合は?
「そう。怪盗ル・リムはりのちゃんみたいな可愛い女の子をお持ち帰りするだけじゃないの。もっと……大きな物を盗むわ」
「大きな……もの? それは……?」
「それはね、私がこのふざけた殺し合いを止めて見せる、って事」
「止めるって……! でも、よく分からない力を持った人もいっぱいいますよ!」
「大きな……もの? それは……?」
「それはね、私がこのふざけた殺し合いを止めて見せる、って事」
「止めるって……! でも、よく分からない力を持った人もいっぱいいますよ!」
決まっている。
断固、その相手に復讐を、いや『仕返し』をする。
渚砂ちゃんの死を無駄にしないためにも……そして、新しい犠牲者を出さないためにも。
例えば――目の前であどけない笑顔を浮かべる少女を守るためにも。
断固、その相手に復讐を、いや『仕返し』をする。
渚砂ちゃんの死を無駄にしないためにも……そして、新しい犠牲者を出さないためにも。
例えば――目の前であどけない笑顔を浮かべる少女を守るためにも。
「私達に出来るのは戦う事だけじゃないわ。
同じ意志を持った人達とのパイプになることだって出来るし、情報を集める事だって出来る。
初めから諦めたりしては駄目。いくらでも可能性はあるの。だから――」
同じ意志を持った人達とのパイプになることだって出来るし、情報を集める事だって出来る。
初めから諦めたりしては駄目。いくらでも可能性はあるの。だから――」
千華留は外していたアイマスクをもう一度付け直し、フッと口元を歪ませた。
「まずはさっきの銃声について、ね。私の推理を話そうかな」
▽
「まず、あの銃声は妙……としか言いようがないわ」
「どうして……ですか? あ、そ……それよりも! 千華留さん、早く恭介さん達を助けに行かないと!」
「どうして……ですか? あ、そ……それよりも! 千華留さん、早く恭介さん達を助けに行かないと!」
ようやく、千華留が元の千華留に戻ってくれた。
りのはそれだけで嬉しくて踊りだしそうな気分だった。
しかし、現状は切迫している。謎の銃声、出て行ったっきり帰ってこない恭介とトルタ。
二人は助けを求めているのでは……?
りのはそれだけで嬉しくて踊りだしそうな気分だった。
しかし、現状は切迫している。謎の銃声、出て行ったっきり帰ってこない恭介とトルタ。
二人は助けを求めているのでは……?
「いいえ――ここだけの話、おかしな事だらけなの」
「おかしな……事?」
「そう。疑問点として、まず挙げられるのは……『どうして銃声は一発しか聞こえないのか』という事」
「……あっ」
「おかしな……事?」
「そう。疑問点として、まず挙げられるのは……『どうして銃声は一発しか聞こえないのか』という事」
「……あっ」
小さな声がりのの唇から漏れた。
「二人が他の参加者に襲い掛かる訳はないし、銃声がしても帰って来ない。殺し合いに乗った人間と接触した、と考えて間違いはない筈なの。
でも銃声は一発だけ。おそらく襲撃者のもの……ここで次の疑問が発生するの」
「次の疑問、ですか? あ……確かに二人が撃ち返さないのは変です!」
「その通り。恭介さんもトルタちゃんも銃を持っていたわ。
誰かに襲われ、銃で撃たれたのならば確実に反撃する筈……なのに聞こえた銃の音は一回だけ。
未だに、最初の一発目だけ……どう考えても変じゃないかしら」
でも銃声は一発だけ。おそらく襲撃者のもの……ここで次の疑問が発生するの」
「次の疑問、ですか? あ……確かに二人が撃ち返さないのは変です!」
「その通り。恭介さんもトルタちゃんも銃を持っていたわ。
誰かに襲われ、銃で撃たれたのならば確実に反撃する筈……なのに聞こえた銃の音は一回だけ。
未だに、最初の一発目だけ……どう考えても変じゃないかしら」
りのはハッとしながら、つい先ほどまでの千華留の行動を思い出す。
アレはもしかして『次の銃声が聞こえるかどうか、耳を澄ませていた』のではないだろうか。
だとすれば千華留が全く言葉を話さなかった理由も分かる。彼女は一瞬でここまで考えていたという事……?
アレはもしかして『次の銃声が聞こえるかどうか、耳を澄ませていた』のではないだろうか。
だとすれば千華留が全く言葉を話さなかった理由も分かる。彼女は一瞬でここまで考えていたという事……?
「考えられる可能性は二つ。まず、一発の弾丸だけで二人は死亡した、というケース。
これは常識的に考えてありえない……だからパスするわね。
つまり、自然と『現れた人間が音の出ない武器に持ち替えた』という仮説が力を持つの。……でも、」
「……やっぱり、恭介さん達が撃ち返さない……ってのはおかしい……です」
「そこなのよね。何故、撃たないのかしら。だから、こうも考えられる――既に二人は死んでいるじゃないか、って」
「……それって!!!」
これは常識的に考えてありえない……だからパスするわね。
つまり、自然と『現れた人間が音の出ない武器に持ち替えた』という仮説が力を持つの。……でも、」
「……やっぱり、恭介さん達が撃ち返さない……ってのはおかしい……です」
「そこなのよね。何故、撃たないのかしら。だから、こうも考えられる――既に二人は死んでいるじゃないか、って」
「……それって!!!」
思わずりのは自分の口元を抑えて、驚きを露にする。
千華留が何気なく呟いた一言は最悪の可能性を示唆していた。
千華留が何気なく呟いた一言は最悪の可能性を示唆していた。
「そりゃあ、二人が銃を撃たない……もしくは『撃てない』ケースなんていくつだって考えられる。襲われたのは他の人間かもしれない。
他に何かアクシデントがあったのかもしれないわ。この推理は所詮、穴だらけの極論に近い」
「……でも、それにしては、遅い……ですよね」
「ええ。二人が出て行ってからもう、何分経つかしら……。それに荷物は持って行ったから、ここに帰って来る必要もない」
他に何かアクシデントがあったのかもしれないわ。この推理は所詮、穴だらけの極論に近い」
「……でも、それにしては、遅い……ですよね」
「ええ。二人が出て行ってからもう、何分経つかしら……。それに荷物は持って行ったから、ここに帰って来る必要もない」
千華留が髪を掻き上げ、遠い眼をしながら窓の外を一瞥した。つられてりのも外を見やる。
誰かが近づいて来るような気配はまるで感じられない。
が、それ以上にりのの胸を騒がせるのは、千華留の妙に思わせぶりな一言だった。
誰かが近づいて来るような気配はまるで感じられない。
が、それ以上にりのの胸を騒がせるのは、千華留の妙に思わせぶりな一言だった。
「千華留さん」
「どうしたのかしら、りのちゃん。何か分からない事でもあった?」
「いいえ……その、あの……今の、千華留さんの台詞……」
「何、かしら」
「まるで…………恭介さん達を疑っているように聞こえました」
「……あら」
「どうしたのかしら、りのちゃん。何か分からない事でもあった?」
「いいえ……その、あの……今の、千華留さんの台詞……」
「何、かしら」
「まるで…………恭介さん達を疑っているように聞こえました」
「……あら」
しまった、とでも言いたげな表情で千華留は小さく嗤った。
ジッとこちらの眼を見つめる彼女に、りのは胸が竦むような感覚を覚えた。
自分は、もしや彼女が隠蔽しようとしていた領域に踏み込んでしまったのだろうか……?
ジッとこちらの眼を見つめる彼女に、りのは胸が竦むような感覚を覚えた。
自分は、もしや彼女が隠蔽しようとしていた領域に踏み込んでしまったのだろうか……?
「……覚えて、いるかしら。食事をしていた時の恭介さん達の行動を」
「食事…………」
「食事…………」
りのは数十分前、放送が始まる直前の光景を脳裏に思い浮かべる。
数秒間の逡巡。しかし、思わせぶりな千華留の言葉を証明するような要素はまるで見つからない。
数秒間の逡巡。しかし、思わせぶりな千華留の言葉を証明するような要素はまるで見つからない。
(何も思いつかない……です。トルタさんのミネストローネがとても美味しくて、恭介さんと凄く仲が良さそうで……それで……)
なにしろ、あの時自分達はただトルタが作った料理を食べていただけなのだ。
怪しむべきポイントが一体何処にあるのか、まるで見当が付かない。
怪しむべきポイントが一体何処にあるのか、まるで見当が付かない。
「うーん……分からないです。別に普通だったような……」
「あら、りのちゃん。あったじゃない面白いイベントが。例えば……『あーん』とか」
「あら、りのちゃん。あったじゃない面白いイベントが。例えば……『あーん』とか」
チッチッチと小さく千華留が指先を振り、淀みの無い動作でビシッとりのの眉間の辺りを指差しながら告げた。
りのは流石に、彼女のあまりにも予想外の一言にきょとん、とした顔で眉を顰めることしか出来なかった。
りのは流石に、彼女のあまりにも予想外の一言にきょとん、とした顔で眉を顰めることしか出来なかった。
「確かに『あーん』はありましたけど……アレから何が……!?」
「……りのちゃんは、恭介さん達がどんな関係に思えたかしら?」
「えっと…………その、仲の良いカップルだなぁ……って」
「――あの二人は、恋人でも何でもないわ」
「え……!」
「……りのちゃんは、恭介さん達がどんな関係に思えたかしら?」
「えっと…………その、仲の良いカップルだなぁ……って」
「――あの二人は、恋人でも何でもないわ」
「え……!」
それは、あまりにも意外な一言だった。
まずりのが驚いたのは完全に千華留がその言葉を言い切った事だ。
寸分の躊躇も戸惑いもなく、武士が刀で要らない物を切って捨てるかのように流麗に、だ。
まずりのが驚いたのは完全に千華留がその言葉を言い切った事だ。
寸分の躊躇も戸惑いもなく、武士が刀で要らない物を切って捨てるかのように流麗に、だ。
「トルティニタ=ファーネ……多分、ヨーロッパの……イタリア出身の方だと思うのだけれど。
彼女が料理をする時、明らかに不自然な部分がいくつかあったわ。
例えば、電子レンジ、IHヒーター、ピューラー、冷蔵庫……同じ時代の方とは思えないくらい、彼女は『何かに戸惑っている』ように見えた」
「……言われてみれば」
彼女が料理をする時、明らかに不自然な部分がいくつかあったわ。
例えば、電子レンジ、IHヒーター、ピューラー、冷蔵庫……同じ時代の方とは思えないくらい、彼女は『何かに戸惑っている』ように見えた」
「……言われてみれば」
りのにも確かに、いくつか思い当たる節があった。
慣れない場所で食事を作る場合、料理人が最も苦労するのは必要な調理器具を探索する事である。
特に複雑な行程を経る料理であれば在るほど、その影響は顕著に現れる。
慣れない場所で食事を作る場合、料理人が最も苦労するのは必要な調理器具を探索する事である。
特に複雑な行程を経る料理であれば在るほど、その影響は顕著に現れる。
そして、トルタが何故か電気やガスを必要とする道具を使う際に、妙な態度を露にしていた事を。
「……詳しくは言及出来ないわ。時間も無いしね。ただ二人が知り合ったのがおそらく、この"ゲーム"が始まって以降であるのは確か。
吊橋効果、という言葉がどれほどの力を発揮するのか正直、私にはよく分からない。
だけど、一つだけ言える事があるわ……」
吊橋効果、という言葉がどれほどの力を発揮するのか正直、私にはよく分からない。
だけど、一つだけ言える事があるわ……」
千華留は深刻な顔付きのまま、スッと引き締まった顎のラインを白魚のような指先で撫でる。
艶やかな黒い髪が窓から差し込んでくる朝日と反射してとても綺麗だ、りのはぼんやりとそんな事を思った。
艶やかな黒い髪が窓から差し込んでくる朝日と反射してとても綺麗だ、りのはぼんやりとそんな事を思った。
「それは、ね。トルタちゃんが無理をしていたって事――まるで『しなくちゃいけない』って感じていたのかしら」
「……無理、ですか?」
「ええ。こう見えても私は母校のル・リムで相当な数『あーん』を経験しているわ。もちろん、して貰うのもする方もね。
赤らんだ頬。プルプルと震えるスプーン……慣れない事はするものじゃないわね。
あまりに初々しくて、思わず私もトルタちゃんに『あーん』してあげたくなってしまったけれど」
「……無理、ですか?」
「ええ。こう見えても私は母校のル・リムで相当な数『あーん』を経験しているわ。もちろん、して貰うのもする方もね。
赤らんだ頬。プルプルと震えるスプーン……慣れない事はするものじゃないわね。
あまりに初々しくて、思わず私もトルタちゃんに『あーん』してあげたくなってしまったけれど」
「まぁ流石に恭介さんがいる手前、そこは自重したけどね」と千華留は苦笑しながら呟いた。
りのは、あまりに何気なくそう言い切る彼女にツッコミたくなったが、そこは我慢。
そもそも、トルティニタ=ファーネがあんな事をしたのは、彼女が自分の顔の前にスプーンを突き出したからではなかったか……?
まさか嗾けた……? いや、そんな馬鹿な。アレは明らかに千華留がやりたいからやっていた、そうとしか自分には見えなかった。
りのは、あまりに何気なくそう言い切る彼女にツッコミたくなったが、そこは我慢。
そもそも、トルティニタ=ファーネがあんな事をしたのは、彼女が自分の顔の前にスプーンを突き出したからではなかったか……?
まさか嗾けた……? いや、そんな馬鹿な。アレは明らかに千華留がやりたいからやっていた、そうとしか自分には見えなかった。
しかし、千華留の緊張感を欠くような一言を聞いてりのは安心していた。
先程泣きじゃくり、顔を真っ青にしていた頃の彼女ではなく、もはや源千華留は元の姿に戻ったのだ。
気高く、朗らかに笑い、時には冗談を言って周りを和ませる……そんな聖母のような女性に。
先程泣きじゃくり、顔を真っ青にしていた頃の彼女ではなく、もはや源千華留は元の姿に戻ったのだ。
気高く、朗らかに笑い、時には冗談を言って周りを和ませる……そんな聖母のような女性に。
「ま、とにかく私達に必要なのはいますぐ行動する事かしらね。ここは危険……二人も戻ってくるとは限らない。
書置きだけ……残しておきましょう。
トルタちゃんの不可解な行動……まぁ、仮説は色々あるけれど安全な場所に行ってから考えましょう」
「あれ……、その、千華留さんは大体の想像が付いているんですか?」
「ん。ああ、一応はね」
書置きだけ……残しておきましょう。
トルタちゃんの不可解な行動……まぁ、仮説は色々あるけれど安全な場所に行ってから考えましょう」
「あれ……、その、千華留さんは大体の想像が付いているんですか?」
「ん。ああ、一応はね」
そこまで言うと彼女はクッ、と唇の端を持ち上げ不敵な笑みをこぼした。
そして、音もなくりのの耳元に接近し囁くように告げた。
そして、音もなくりのの耳元に接近し囁くように告げた。
「――トルタちゃん、きっと恭介さんの事が"本当に"好きなのよ」
りのは千華留の言葉に目を丸くする。
吐息が耳元に触れて、少しだけくすぐったかった。唇と耳が触れてしまいそうな、超近距離。
彼女が自分の知る千華留に戻ってくれた事は確かに嬉しいのだが……。
身体の中で火でも焚いているかのように、体温が上昇していくのを感じる。
吐息が耳元に触れて、少しだけくすぐったかった。唇と耳が触れてしまいそうな、超近距離。
彼女が自分の知る千華留に戻ってくれた事は確かに嬉しいのだが……。
身体の中で火でも焚いているかのように、体温が上昇していくのを感じる。
「そ、それは……ど、どういうことですか!」
「うーん……そうね、要はトルタちゃんは乙女なの。彼女は何らかの原因で恭介さんに好意を持ってしまった。
だけど、それを彼に伝えるのは恥ずかしい……そんなもどかしい状態だった。
あの『あーん』は私達に刺激されたトルタちゃんが勇気を振り絞った結果――そう考えれば辻褄が合わないかしら?」
「な――ッ!!」
「うーん……そうね、要はトルタちゃんは乙女なの。彼女は何らかの原因で恭介さんに好意を持ってしまった。
だけど、それを彼に伝えるのは恥ずかしい……そんなもどかしい状態だった。
あの『あーん』は私達に刺激されたトルタちゃんが勇気を振り絞った結果――そう考えれば辻褄が合わないかしら?」
「な――ッ!!」
まるで予想だにしない言葉。
つまりトルタの行動は恋人同士のソレ――ではなく、恋人同士になるための努力、という事だったのか。
確かに、殺し合いが始まってからこんな短時間で人を好きになる――普通は頭を疑われる思考だ。
つまりトルタの行動は恋人同士のソレ――ではなく、恋人同士になるための努力、という事だったのか。
確かに、殺し合いが始まってからこんな短時間で人を好きになる――普通は頭を疑われる思考だ。
だが、彼女は恋をした。
このような状況だからこそ、生まれる感情もあるのではないか、りのにはそんな事を思った。
季節と共に訪れる春風にも似た爽やかで瑞々しい新芽のような胸の高鳴りを覚えたのだろう。
そして、まさか自分達の(仮にも女同士である)さり気ない行為が一人の少女の背中を後押しした結果になったとは。
このような状況だからこそ、生まれる感情もあるのではないか、りのにはそんな事を思った。
季節と共に訪れる春風にも似た爽やかで瑞々しい新芽のような胸の高鳴りを覚えたのだろう。
そして、まさか自分達の(仮にも女同士である)さり気ない行為が一人の少女の背中を後押しした結果になったとは。
知らず知らずの内に、他人の恋路へと影響を与えていたのである。
差し詰め、自分はキューピットのような物だろうか。まさに『感激』以外の一言で表す事は出来ない事態だ。
差し詰め、自分はキューピットのような物だろうか。まさに『感激』以外の一言で表す事は出来ない事態だ。
「……す、凄いです千華留さん! 名推理です! 怪盗ル・リムは推理もするんですね!」
「ふふふ……りのちゃん止めてちょうだい。そんなに褒められたら照れちゃうじゃない」
「ふふふ……りのちゃん止めてちょうだい。そんなに褒められたら照れちゃうじゃない」
すっと身体をりのから離した千華留が頬を紅潮させながら、思わず髪の毛を弄った。
りのも興奮を抑え切れず、声が大きくなってしまう。
が、そんなりのを宥めながら彼女は優しげな声色で告げる。
りのも興奮を抑え切れず、声が大きくなってしまう。
が、そんなりのを宥めながら彼女は優しげな声色で告げる。
「さてと……いいかしら、りのちゃん。こんな――二人が死ぬ訳ないわ。だから今から、私の言う通りに……ね? 心配はいらないから」
▽
「……う」
電車から降りて、G-4の駅から一歩外へ足を踏み出す。燦燦と輝く太陽の光がユメイの皮膚へと突き刺さる。
神木の「オハシラサマ」であるユメイは、本来は実体化するだけで自らの力を大きく消費する。
同様に日光の下で活動する事も彼女に負担を掛ける訳だ。
しかしこの「ゲーム」の盤上において受肉し、羽藤柚明の頃の身体に近い存在へと戻った彼女にそのような誓約は存在しない。
精神体としては生を受けて二十六年になる訳だが、身体は「主」の復活を止めるために山頂の槐へとその身を沈めた時のままである。
少しだけ、妙な感触だった。
神木の「オハシラサマ」であるユメイは、本来は実体化するだけで自らの力を大きく消費する。
同様に日光の下で活動する事も彼女に負担を掛ける訳だ。
しかしこの「ゲーム」の盤上において受肉し、羽藤柚明の頃の身体に近い存在へと戻った彼女にそのような誓約は存在しない。
精神体としては生を受けて二十六年になる訳だが、身体は「主」の復活を止めるために山頂の槐へとその身を沈めた時のままである。
少しだけ、妙な感触だった。
が、どちらにしろ、彼女が太陽の光に若干の忌避の感覚を覚えてしまうのも無理はない事。
ここは結界に覆われた聖域などではないのだから。
ここは結界に覆われた聖域などではないのだから。
(どうすれば……いいんだろう。桂ちゃんを探すにしても……また、変な人に会ったら……)
ユメイが自らの状況の悪さを再確認する。
周りの風景はいまいち頭の中に入ってこない。
ある程度舗装された区画を歩いている事だけは確かなのだが……。
周りの風景はいまいち頭の中に入ってこない。
ある程度舗装された区画を歩いている事だけは確かなのだが……。
(自分の身を守る事は……出来る。でも、ダメ……)
オハシラサマとしての力――月光蝶の行使は問題なく出来るようだが、鬼でない存在に対して進んでこの力を奮うのは難しい。
仮面の男のように、殺し合いに乗っている人間が向かって来ても思う存分力を使う事など不可能だ。
それ以上に、今の自分が他人に敵意を持って攻撃を加える行為など出来る訳がないのだ。
仮面の男のように、殺し合いに乗っている人間が向かって来ても思う存分力を使う事など不可能だ。
それ以上に、今の自分が他人に敵意を持って攻撃を加える行為など出来る訳がないのだ。
その時、
「――あら、あなた……?」
ユメイの眼の前に二人の少女が突如姿を現した。
「えっ…………!!」
完全に、気付かなかった。
ユメイはハッとして視線を上げるが、なんとコチラとの距離は既に数メートル。
気が抜けている、などという言葉では生温い。まるで――死を望んでいるかのようだ。
ユメイはハッとして視線を上げるが、なんとコチラとの距離は既に数メートル。
気が抜けている、などという言葉では生温い。まるで――死を望んでいるかのようだ。
「あれ……千華留さん。この方、もしかして……」
「……そう、ね、りのちゃん。多分、りのちゃんの予感で正解だと思うわ」
「あっ……!」
「……そう、ね、りのちゃん。多分、りのちゃんの予感で正解だと思うわ」
「あっ……!」
相手は二人。長い黒髪に左右の赤いリボン、黄色をベースにした制服を身に纏った少女。
頭には白いふんわりとした帽子を被り、同じ色のマントを羽織っている。
そして、傍らに寄り添うように茶色い髪色の少女。こちらは何故かメイド服に袖を通し、片手にはドリル?のような物を嵌めている。
……まさか、あれで攻撃するのだろうか。
頭には白いふんわりとした帽子を被り、同じ色のマントを羽織っている。
そして、傍らに寄り添うように茶色い髪色の少女。こちらは何故かメイド服に袖を通し、片手にはドリル?のような物を嵌めている。
……まさか、あれで攻撃するのだろうか。
「ユメイ……さん、でいいのかしら」
千華留、と呼ばれた少女がこちらに向けて言葉を投げ掛けた。
ユメイは怯えた眼で二人を見つめ、小さく身じろぎしながら、一歩後退。
どう見ても彼女達は殺し合いに乗っているようには見えない……だが――――それなのに、恐ろしいのだ。
ユメイは怯えた眼で二人を見つめ、小さく身じろぎしながら、一歩後退。
どう見ても彼女達は殺し合いに乗っているようには見えない……だが――――それなのに、恐ろしいのだ。
そして――どうして、こちらの名前を知っているのだろう。
思わず、この場から逃げ出しそうになった時、千華留が小さく笑った。
思わず、この場から逃げ出しそうになった時、千華留が小さく笑った。
「あ……ゴメンなさいね。浅間サクヤ、さん……分かるかしら。彼女からあなたの事は聞いているの」
「サクヤさん!?」
「ええ。ちょっと前に……この辺りで出会ったのだけれど」
「サクヤさん!?」
「ええ。ちょっと前に……この辺りで出会ったのだけれど」
辺りをキョロキョロと見回しながら、千華留がスッと右手を差し出し、そして、
「そして……出て来たばかりで悪いんですが――」
ユメイの手首をガッチリと掴んだ。
「もう一度、電車に乗って貰ってもよろしいでしょうか」
▽
「え……その、千華留さん!?」
「大丈夫です。痛くしませんから。ここは……私達を信じてください」
「大丈夫です。痛くしませんから。ここは……私達を信じてください」
ユメイが慌てふためきながら、何かを呟くも千華留の耳にはまるでその言葉は届いていなかった。
――自分達は一刻も早くこの場所を離れなければならない。
りのには冗談を交えて面白おかしく小屋から離脱する事を説明したが、ユメイに対して事情を話している時間はなかった。
(……逃げなくては)
千華留は内心、舌打したい気持ちを必死で押し殺していた。
当然、察している――恭介達が誰かに襲われた事実に。
当然、察している――恭介達が誰かに襲われた事実に。
少し席を外す……と言った人間がアレだけ長い時間帰って来なければ馬鹿でも気付くというものだ。
しかも追い討ちを掛けるように銃声。もはや、疑いようが無い。
自分達の戦力は明らかに脆弱であり、戦列に加わったとしても役に立つ保障は皆無。それ所か足手まといになり兼ねないのだ。
故に千華留は銃声を確認しまるで恭介達が帰って来る様子がなかった時点で小屋からの離脱を決心していた。
しかも追い討ちを掛けるように銃声。もはや、疑いようが無い。
自分達の戦力は明らかに脆弱であり、戦列に加わったとしても役に立つ保障は皆無。それ所か足手まといになり兼ねないのだ。
故に千華留は銃声を確認しまるで恭介達が帰って来る様子がなかった時点で小屋からの離脱を決心していた。
しかし、その際問題として立ちはだかったのがりのの存在だ。
そして彼女に混乱を与えないように、納得させるために用いたのが例の推理である。
推理――確かに、アレは半分くらいは本当の事だ。
トルタが恭介に好意を持っているような気がするのは当てずっぽうではあるが、それほど間違っているとは思えない。
が、それ以上に彼らの関係には疑問が残る。
そして彼女に混乱を与えないように、納得させるために用いたのが例の推理である。
推理――確かに、アレは半分くらいは本当の事だ。
トルタが恭介に好意を持っているような気がするのは当てずっぽうではあるが、それほど間違っているとは思えない。
が、それ以上に彼らの関係には疑問が残る。
(……やっぱり、こんなに短時間で成立し掛かっているカップルにはちょっと違和感があるわね)
もちろん、二人を信じたいという気持ちが大半を占めている。
自分達の目的地(ひとまずF-2の駅)に関するメモ書きは残して来た。二人を置いて家を離れる謝罪文も添えて、だ。
複数存在する民家……その一つ。虱潰しに探されなければ、他の以外の人間には見つからない筈である。
自分達の目的地(ひとまずF-2の駅)に関するメモ書きは残して来た。二人を置いて家を離れる謝罪文も添えて、だ。
複数存在する民家……その一つ。虱潰しに探されなければ、他の以外の人間には見つからない筈である。
ユメイに関しては、サクヤからある程度の情報は得ていた。
殺し合いに乗る事はないであろう人物――信用に足る人間であるとのお墨付きで。
殺し合いに乗る事はないであろう人物――信用に足る人間であるとのお墨付きで。
考えようによっては……いや、自分達が恭介達を見捨てた事は否定しない。
薄情と罵られても仕方がないと思う。
薄情と罵られても仕方がないと思う。
だけど、自分にはやらなければならない事があるのだ。
絶対に……こんな場所で死ぬ訳にはいかない。
蒼井渚砂――あの子が命を落とす原因となったこのゲームへの反逆だ。
そして、蘭堂りの。戦う力など持たないか弱い存在……でも、それと同じくらい強い、少女。
絶対に……こんな場所で死ぬ訳にはいかない。
蒼井渚砂――あの子が命を落とす原因となったこのゲームへの反逆だ。
そして、蘭堂りの。戦う力など持たないか弱い存在……でも、それと同じくらい強い、少女。
りのにも大切な相手(確か神宮司奏という名前だ)がいると聞いた。
そして何故か、自分には彼女達の関係が他人のようには思えないのだ。
そして何故か、自分には彼女達の関係が他人のようには思えないのだ。
後輩に慕われる先輩、そして生徒会長という立場。知り合いが一人しか参加していないという環境。そっくりだ。
だから――
(渚砂ちゃんを失った私が……見ず知らずのあなたに共感を覚えている……妙なものね。
でも、あなたの大事な後輩は私が守ってみせる。だって……私と同じような悲しみは誰にだって味わって欲しくはないから……)
でも、あなたの大事な後輩は私が守ってみせる。だって……私と同じような悲しみは誰にだって味わって欲しくはないから……)
渚砂の面影をりのに重ね合わせ、千華留は前へと進んでいく。
太陽は輝き、疎らな白雲と真っ青な空が彼女達を照らす。
大切な少女を失った心の悲しみは消えない。
それでも、彼女の存在を決して忘れないため――千華留は自分に出来る事をやるだけだった。
太陽は輝き、疎らな白雲と真っ青な空が彼女達を照らす。
大切な少女を失った心の悲しみは消えない。
それでも、彼女の存在を決して忘れないため――千華留は自分に出来る事をやるだけだった。
【G-4/駅/1日目/午前】
【源千華留@Strawberry Panic!】
【装備】:能美クドリャフカの帽子とマント@リトルバスターズ!、スプリングフィールドXD(9mm×19-残弾16/16)
【所持品】:支給品一式、エクスカリバーの鞘@Fate/stay night[Realta Nua]、怪盗のアイマスク@THE IDOLM@STER
【状態】:健康、強い決意
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。りのちゃんを守る。殺し合いからの生還。具体的な行動方針を模索する。
0:ひとまず電車に乗りF-2の駅へと退避。
1:りのちゃんと一緒に行動。何としてでも守る。
2:奏会長、プッチャン、桂ちゃん、クリス、リトルバスターズメンバーを探す。
3:恭介とトルタに若干の違和感。
4:神宮司奏に妙な共感。
【備考】
※浅間サクヤと情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、【F-7】の駅に戻ってくる予定。
※恭介からの誤情報で、千羽烏月を信用に足る人物だと誤解しています。
※G-4の民家に千華留とりのがF-2の駅に向かう、というメモが残されています。
【装備】:能美クドリャフカの帽子とマント@リトルバスターズ!、スプリングフィールドXD(9mm×19-残弾16/16)
【所持品】:支給品一式、エクスカリバーの鞘@Fate/stay night[Realta Nua]、怪盗のアイマスク@THE IDOLM@STER
【状態】:健康、強い決意
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。りのちゃんを守る。殺し合いからの生還。具体的な行動方針を模索する。
0:ひとまず電車に乗りF-2の駅へと退避。
1:りのちゃんと一緒に行動。何としてでも守る。
2:奏会長、プッチャン、桂ちゃん、クリス、リトルバスターズメンバーを探す。
3:恭介とトルタに若干の違和感。
4:神宮司奏に妙な共感。
【備考】
※浅間サクヤと情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、【F-7】の駅に戻ってくる予定。
※恭介からの誤情報で、千羽烏月を信用に足る人物だと誤解しています。
※G-4の民家に千華留とりのがF-2の駅に向かう、というメモが残されています。
【蘭堂りの@極上生徒会】
【装備】:メルヘンメイド(やよいカラー)@THE IDOLM@STER、ドリルアーム@THE IDOLM@STER
【所持品】:支給品一式、ギルガメッシュ叙事詩
【状態】:健康
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。ダメ、絶対。
1:千華留さんと一緒に行動。
2:奏会長、プッチャン、桂ちゃん、クリス、リトルバスターズメンバーを探す。
【備考】
※浅間サクヤと情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、【F-7】の駅に戻ってくる予定。
※恭介からの誤情報で、千羽烏月を信用に足る人物だと誤解しています。
【装備】:メルヘンメイド(やよいカラー)@THE IDOLM@STER、ドリルアーム@THE IDOLM@STER
【所持品】:支給品一式、ギルガメッシュ叙事詩
【状態】:健康
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。ダメ、絶対。
1:千華留さんと一緒に行動。
2:奏会長、プッチャン、桂ちゃん、クリス、リトルバスターズメンバーを探す。
【備考】
※浅間サクヤと情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、【F-7】の駅に戻ってくる予定。
※恭介からの誤情報で、千羽烏月を信用に足る人物だと誤解しています。
【ユメイ@アカイイト】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式x3、地方妖怪マグロのシーツ@つよきす -Mighty Heart-、
不明支給品×2(九郎確認済。一つは不思議な力を感じるもの))
【状態】:健康、強い後悔
【思考・行動】
基本方針:桂を保護する
0:え、ちょ、ま……!?
1:桂を捜索する
2:烏月、サクヤ、葛とも合流したい
3:誰かを傷付けるのが怖い
【備考】
※霊体化はできません、普通の人間の体です。
※月光蝶については問題なく行使できると思っています。
※メガバズーカランチャーを行使できたことから、少なからずNYPに覚醒していると予想されます。
※仮面の男(平蔵)が殺し合いに乗っていると思っています。
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式x3、地方妖怪マグロのシーツ@つよきす -Mighty Heart-、
不明支給品×2(九郎確認済。一つは不思議な力を感じるもの))
【状態】:健康、強い後悔
【思考・行動】
基本方針:桂を保護する
0:え、ちょ、ま……!?
1:桂を捜索する
2:烏月、サクヤ、葛とも合流したい
3:誰かを傷付けるのが怖い
【備考】
※霊体化はできません、普通の人間の体です。
※月光蝶については問題なく行使できると思っています。
※メガバズーカランチャーを行使できたことから、少なからずNYPに覚醒していると予想されます。
※仮面の男(平蔵)が殺し合いに乗っていると思っています。
※以下の物が車内(モノグラムのEの列車)に落ちています
物干し竿@Fate/stay night[Realta Nua]、
ユメイのデイパック(メガバズーカランチャー@リトルバスターズ!、RPG-7V1(1/1)@現実、OG-7V-対歩兵用弾頭x5、ランダム支給品x1)
※九郎のデイバッグは破壊されました。四次元機能が失われています。
物干し竿@Fate/stay night[Realta Nua]、
ユメイのデイパック(メガバズーカランチャー@リトルバスターズ!、RPG-7V1(1/1)@現実、OG-7V-対歩兵用弾頭x5、ランダム支給品x1)
※九郎のデイバッグは破壊されました。四次元機能が失われています。
【RPG-7V1@現実】
RPG-7 は、ソ連の開発した歩兵携行用対戦車擲弾(ロケット弾)発射器。
名称は、ロシア語で「対戦車擲弾発射筒」を意味する「ручной противотанковый гранатомёт(ルチノーイ・プラチヴァターンカヴィイ・グラナタミョート)」の頭文字をとった略称から作られた。
英語でRocket-Propelled Grenade(ロケット推進擲弾)と綴られ、対戦車擲弾が砲身から射出後に弾体の固体ロケットに点火し飛翔する。
RPG-7 は、ソ連の開発した歩兵携行用対戦車擲弾(ロケット弾)発射器。
名称は、ロシア語で「対戦車擲弾発射筒」を意味する「ручной противотанковый гранатомёт(ルチノーイ・プラチヴァターンカヴィイ・グラナタミョート)」の頭文字をとった略称から作られた。
英語でRocket-Propelled Grenade(ロケット推進擲弾)と綴られ、対戦車擲弾が砲身から射出後に弾体の固体ロケットに点火し飛翔する。
104:Worldend Dominator | 投下順 | 106:これより先怪人領域-another-/ランチタイムの時間だよ |
103:それは渦巻く混沌のように | 時系列順 | |
093:これより先怪人領域(前編) | 源千華留 | 119:騎英の手綱 |
蘭堂りの | ||
095:アリス・イン・ナイトメア | ユメイ |