それは渦巻く混沌のように ◆WAWBD2hzCI
「……時間がもったいないな」
さて、と誰もいない電車で九鬼曜鋼は呟いた。
今後の方針を決める必要があり、それと同時に情報の整理もしなければならないからだ。
駅に着くまでの数分間、時間を無駄にはできないからだ。
今後の方針を決める必要があり、それと同時に情報の整理もしなければならないからだ。
駅に着くまでの数分間、時間を無駄にはできないからだ。
最優先事項に彼女たちを救いに行くことか、否か。
稀代の魔導書、高名なる『ネクロノミコン』の名を持つ精霊アル・アジフと、その契約者である羽藤桂。
彼女たちがもしも、この殺し合いにおいて脱落……つまりは死亡してしまうのは痛手と言わざるを得ない。
出来得る限りは救い出し、戦力の確保を図りたい。
稀代の魔導書、高名なる『ネクロノミコン』の名を持つ精霊アル・アジフと、その契約者である羽藤桂。
彼女たちがもしも、この殺し合いにおいて脱落……つまりは死亡してしまうのは痛手と言わざるを得ない。
出来得る限りは救い出し、戦力の確保を図りたい。
とは言え、九鬼の最終目標は二度とこのゲームを開催させないことにある。
主催者、管理人の撃破が最低にして絶対条件だ。
どの道、今から追いかけてもなるようにしかならないのならば……九鬼自身は新たな戦力を捜し出すほうが効率が良いのかも知れない。
主催者、管理人の撃破が最低にして絶対条件だ。
どの道、今から追いかけてもなるようにしかならないのならば……九鬼自身は新たな戦力を捜し出すほうが効率が良いのかも知れない。
(……問題は、この首輪か)
自分たちを縛る枷、殺し合いを強要するための爆弾。
引いては神父たちの言うとおりにせざるを得ないという脅し……これを外されないこと自体が、二人組勝利の最低条件となる。
ならば逆に考えよ。思考は一定化させるな。
九鬼自身が主催する人間ならば、首輪を外す技術を持つ人材を参加させるだろうか?
万が一にでも敗北しないために、それこそ自分のように腕に覚えのある者たちを用意するのではないだろうか?
引いては神父たちの言うとおりにせざるを得ないという脅し……これを外されないこと自体が、二人組勝利の最低条件となる。
ならば逆に考えよ。思考は一定化させるな。
九鬼自身が主催する人間ならば、首輪を外す技術を持つ人材を参加させるだろうか?
万が一にでも敗北しないために、それこそ自分のように腕に覚えのある者たちを用意するのではないだろうか?
(――――首輪を外せる人材、か。本当にいるのか……?)
そもそも、この首輪は機械に精通しているというだけで外せるようなものだろうか。
魔導書『アル・アジフ』ですら用意するほどの用意周到さ、彼女らのような者を縛るのは工学だけだろうか。
そう、機械に魔術を加えて見てはどうだろうか。
魔術に精通している者、そして工学に詳しい者……彼らが揃わなければ外せない仕組みと考えれば、周到性は増す。
魔導書『アル・アジフ』ですら用意するほどの用意周到さ、彼女らのような者を縛るのは工学だけだろうか。
そう、機械に魔術を加えて見てはどうだろうか。
魔術に精通している者、そして工学に詳しい者……彼らが揃わなければ外せない仕組みと考えれば、周到性は増す。
そうなると、益々として道筋は遠い。
魔術に詳しい人間がそう何人もいるわけではなく、工学に詳しい人間もまた数多いはずがない。
最悪、機械類については一人もいないという最悪の展開も考えられるのだ。
魔術に詳しい人間がそう何人もいるわけではなく、工学に詳しい人間もまた数多いはずがない。
最悪、機械類については一人もいないという最悪の展開も考えられるのだ。
(……そこは考えていても止むを得ないな)
がたんごとん、がたんごとん。
車両の大部分を失った電車が、それでも負けるものかと走り続ける。
さて、もうしばらくの時間を要するか――――とにかく、首輪を外せる人材をまだ捜せない以上、これは保留にしておこう。
駅に到着するまで、もう間もなく。思考はさらに深みへと。
車両の大部分を失った電車が、それでも負けるものかと走り続ける。
さて、もうしばらくの時間を要するか――――とにかく、首輪を外せる人材をまだ捜せない以上、これは保留にしておこう。
駅に到着するまで、もう間もなく。思考はさらに深みへと。
(双七への合流、これもか)
自身の考察を裏付ける存在として必要なのが、如月双七―――己の愛弟子だ。
確か九鬼の記憶では、最後に双七と自分は殺し合い……そして、自分が敗れたことは憶えていた。
当然、それは武部涼一という過去の彼との交流ではない。
確かに九鬼曜鋼は『如月双七』と殺し合い、互いを九鬼と双七として呼び合っていた。
確か九鬼の記憶では、最後に双七と自分は殺し合い……そして、自分が敗れたことは憶えていた。
当然、それは武部涼一という過去の彼との交流ではない。
確かに九鬼曜鋼は『如月双七』と殺し合い、互いを九鬼と双七として呼び合っていた。
だというのに双七と再会したとき、我が馬鹿弟子は師匠を知らないという。
ここから導き出される仮定、本来はドミニオンの隊長である飯塚薫の仕事である考察だが、今回はお株を奪わせていただこう。
結論、如月双七は九鬼曜鋼―――髪を白くしてしまったかつての悪鬼である九鬼とは、面識のなかった如月双七である。
ここから導き出される仮定、本来はドミニオンの隊長である飯塚薫の仕事である考察だが、今回はお株を奪わせていただこう。
結論、如月双七は九鬼曜鋼―――髪を白くしてしまったかつての悪鬼である九鬼とは、面識のなかった如月双七である。
(……ドミニオンを知らない少女、俺の世界にはない魔導書の意味)
この島は狂っている。
世界を混ぜ合わせ、価値観の違う者たちを混ぜ合わせた世界。
恐らくは全ての可能性という可能性が、この島を支配しているのだ。
魔導書、契約者、魔術、贄の血、人妖、悪鬼――――その他、まだ九鬼も知らぬ常識がまかり通る混沌の島。
世界を混ぜ合わせ、価値観の違う者たちを混ぜ合わせた世界。
恐らくは全ての可能性という可能性が、この島を支配しているのだ。
魔導書、契約者、魔術、贄の血、人妖、悪鬼――――その他、まだ九鬼も知らぬ常識がまかり通る混沌の島。
「そう、混沌だ……この島には、俺ですら知らない狂気が混ざっている」
合点がいったように九鬼は一人頷いた。
がたんごとん、がたんごとん――――やがて一車両になった電車は、一時的な休憩地点へと辿り着く。
寂れた駅だった。周囲に人の気配は……分からない。
赤い布を巻いた男、衛宮士郎の襲撃にすら感づいた九鬼でも、今は周囲に気を配っていられない。
がたんごとん、がたんごとん――――やがて一車両になった電車は、一時的な休憩地点へと辿り着く。
寂れた駅だった。周囲に人の気配は……分からない。
赤い布を巻いた男、衛宮士郎の襲撃にすら感づいた九鬼でも、今は周囲に気を配っていられない。
先の考察が正しければ、この首輪を解除するには魔術師、もしくはそれに類する存在が必要だろう。
ならば魔導書の精霊であると自称するアル・アジフだけでも確保しなければならない。
羽藤桂のほうも出来れば、だが……果たして電車を爆撃できるほどの火力を持った襲撃者を相手に、何処まで戦えるだろうか。
ならば魔導書の精霊であると自称するアル・アジフだけでも確保しなければならない。
羽藤桂のほうも出来れば、だが……果たして電車を爆撃できるほどの火力を持った襲撃者を相手に、何処まで戦えるだろうか。
なればこそ、九鬼曜鋼は走った――――!
時間がないのなら、素早く。
まだ敵の襲撃から十分も経過していない。
仮にも『ネクロノミコン』なら持ちこたえられると信じるしかない。
なら助かる可能性を少しでも引き上げるために疾走する。それは彗星のように、流れ星のように。
まだ敵の襲撃から十分も経過していない。
仮にも『ネクロノミコン』なら持ちこたえられると信じるしかない。
なら助かる可能性を少しでも引き上げるために疾走する。それは彗星のように、流れ星のように。
『5%』
可能性を上昇させる。
取り返しのつかない状態になるまで、自分が間に合う可能性を。
取り返しのつかない状態になるまで、自分が間に合う可能性を。
『10%』
保護者の捜索、切り離された電車を探し出すために線路を併走する。
脱線してしばらくは走ったのかも知れないが、さすがに大破しているだろう。加えて爆撃の影響は必ずある。
だとするならば、すぐ近く。何処かに異変があるはずだ。
必ず線路の何処か、この続く道に手がかりがあると確信して、死を超えたかつての鬼は地面を蹴る。
脱線してしばらくは走ったのかも知れないが、さすがに大破しているだろう。加えて爆撃の影響は必ずある。
だとするならば、すぐ近く。何処かに異変があるはずだ。
必ず線路の何処か、この続く道に手がかりがあると確信して、死を超えたかつての鬼は地面を蹴る。
『20%』
確立はどんどんあがっていくような気がした。
少なくとも最悪の事態だけは避けられそうな、そんな淡い望みくらいは抱いていた。
長らく人妖と殺し合ってきた九鬼が培ってきた直感。
戦場において重要な意味を持つ感性が、九鬼に告げる。急げ、急げ、急げ、急げ、と……立ち止まれば間に合わない、と。
少なくとも最悪の事態だけは避けられそうな、そんな淡い望みくらいは抱いていた。
長らく人妖と殺し合ってきた九鬼が培ってきた直感。
戦場において重要な意味を持つ感性が、九鬼に告げる。急げ、急げ、急げ、急げ、と……立ち止まれば間に合わない、と。
(電車が大破したなら、あの二人はどうする? 一人は重傷で動けない、ならば踏みとどまって戦うか……?)
されど、銃撃や剣戟の音は未だ九鬼には届かない。
アルが桂を抱えて逃亡を選択したとすれば、もう九鬼の予想が追跡できる段階ではない。
それでも急がなければ可能性が潰えると勘が訴え続けている。
アルが桂を抱えて逃亡を選択したとすれば、もう九鬼の予想が追跡できる段階ではない。
それでも急がなければ可能性が潰えると勘が訴え続けている。
『30%』
(さあ、何処だ――――?)
立ち止まることない。
九鬼の脚力は地面を蹴るに留まらず、地面を破砕せんと踏みしめた。
たとえ桂たちと合流できずとも、同じ方向には弟子である双七がいるはずだ。
必ず意味のあることと信じて。
九鬼の脚力は地面を蹴るに留まらず、地面を破砕せんと踏みしめた。
たとえ桂たちと合流できずとも、同じ方向には弟子である双七がいるはずだ。
必ず意味のあることと信じて。
『35%』
駆ける。
『40%』
ずっと駆け続けるつもりだった。
九鬼自身、疲労など問題ではないと信じていた。
だからこそ、その瞳が凄惨に見開かれたのだ。決して止まらぬと意気込んだ両足が―――
九鬼自身、疲労など問題ではないと信じていた。
だからこそ、その瞳が凄惨に見開かれたのだ。決して止まらぬと意気込んだ両足が―――
「………………グッ――――――ッ!?」
止まった。
『0%』
◇ ◇ ◇ ◇
足を止めてしまった。
疲労では断じてなかった。
そんなものでは絶対になかった。
疾走していた九鬼の視界に飛来してくるものがあったのだ。
疲労では断じてなかった。
そんなものでは絶対になかった。
疾走していた九鬼の視界に飛来してくるものがあったのだ。
(銃弾―――? いや、それにしては遅い……いや、それよりも不覚だったか……!)
周囲への気配の探索はアルと桂、そして双七の捜索に全力を尽くしていた。
故に襲われることへの対応に意識を傾けてはいなかった。
かと言ってその程度で九鬼が傷つけられる、というほど彼に慢心はなかった。
ただ、飛来してくる物体が分からないままに回避行動を取らざるを得なくなったという事実のみがそこにある。
故に襲われることへの対応に意識を傾けてはいなかった。
かと言ってその程度で九鬼が傷つけられる、というほど彼に慢心はなかった。
ただ、飛来してくる物体が分からないままに回避行動を取らざるを得なくなったという事実のみがそこにある。
「ちっ――――!」
舌打ちがひとつ、足を止めたところで時間は再び動き出す。
もはや桂たちを救い出せる可能性は0%である、と確証もない確信のみが胸に残るだけだった。
飛来したのは銃弾でも爆弾でも、はたまた本来投擲するためにあるものですらないと九鬼は知る。
それは何の変哲もない木刀だったのだ。
もはや桂たちを救い出せる可能性は0%である、と確証もない確信のみが胸に残るだけだった。
飛来したのは銃弾でも爆弾でも、はたまた本来投擲するためにあるものですらないと九鬼は知る。
それは何の変哲もない木刀だったのだ。
(なに……?)
投擲されたものを見て凍りつく。
当たれば痛いのは理解できるが、それだけだ。殺傷力は皆無、警戒する意味さえ見出せない。
当たれば痛いのは理解できるが、それだけだ。殺傷力は皆無、警戒する意味さえ見出せない。
何を焦っている――――九鬼曜鋼は内心で己の焦燥を恥じた。
数時間前の放送を思い出していた。六時間で九名、もしかしたら管理人打倒のために必要な人材の名が呼ばれたら。
なればこそ急がねば手遅れになる、と思った。
その思考が焦りに繋がり、焦りは絶好の隙を生み出す口実を与え、そして絶対なる隙を襲撃者は見逃さない。
数時間前の放送を思い出していた。六時間で九名、もしかしたら管理人打倒のために必要な人材の名が呼ばれたら。
なればこそ急がねば手遅れになる、と思った。
その思考が焦りに繋がり、焦りは絶好の隙を生み出す口実を与え、そして絶対なる隙を襲撃者は見逃さない。
「シッ―――――!」
「ぬっ……ッ!!」
「ぬっ……ッ!!」
意識をそらされた九鬼の背後から、精悍な青年が刀を振るおうとしていた。
一閃、隙を晒した愚か者を確実に容赦なく葬り去るために。
振り下ろされたのは名刀、古青江。
そして、かつての悪鬼を容赦なく切り殺そうと襲撃するのは……殺し合いを肯定した者、一乃谷愁厳である。
一閃、隙を晒した愚か者を確実に容赦なく葬り去るために。
振り下ろされたのは名刀、古青江。
そして、かつての悪鬼を容赦なく切り殺そうと襲撃するのは……殺し合いを肯定した者、一乃谷愁厳である。
木刀を囮として放り投げ、その隙に背後から牛鬼の力で骨ごと叩き切る予定だった。
肩には渚砂によって切り裂かれた傷はあるが、問題ない。
心の内には妹である刀子が身体を交代する機会を今か今かと窺っているが、問題にはならない。
肩には渚砂によって切り裂かれた傷はあるが、問題ない。
心の内には妹である刀子が身体を交代する機会を今か今かと窺っているが、問題にはならない。
(殺った――――!)
絶好の機会、最善のタイミングと自負していた。
名も知らぬ相手ではあったが、やられたことすら気づかせずに殺害できたと確信していた。
だからこそ、一乃谷愁厳の表情は凍りつく。
狙い通り、木刀に九鬼の拳が叩き付けられた。それと同時に、その長い右足が―――愁厳の腹へと襲い掛かっていた。
名も知らぬ相手ではあったが、やられたことすら気づかせずに殺害できたと確信していた。
だからこそ、一乃谷愁厳の表情は凍りつく。
狙い通り、木刀に九鬼の拳が叩き付けられた。それと同時に、その長い右足が―――愁厳の腹へと襲い掛かっていた。
「甘いな」
「っ――――ぐっ!?」
「っ――――ぐっ!?」
木刀は男の掌によって粉砕された。
その一撃の破壊力から鑑みて、彼の拳が本気だったことは理解できる。陽動は成功したのだ。
だと言うのに、同時に繰り出された後ろ回し蹴りの威力もさして変わらなかった。
その一撃の破壊力から鑑みて、彼の拳が本気だったことは理解できる。陽動は成功したのだ。
だと言うのに、同時に繰り出された後ろ回し蹴りの威力もさして変わらなかった。
「経験の差がものを言ったな。筋は悪くないが、それではまだ及第点はやれん」
まるで出来の悪い弟子に教えてやるように、余裕の表情で九鬼は笑う。
愁厳は一撃で昏倒しそうになった意識を繋ぎ合わせて、どうにか自我を保つことに成功する。
刀はまだ握ったまま。その事実が、まだ彼と戦う意思があることを示していた。
愁厳は一撃で昏倒しそうになった意識を繋ぎ合わせて、どうにか自我を保つことに成功する。
刀はまだ握ったまま。その事実が、まだ彼と戦う意思があることを示していた。
ふむ、と九鬼の瞳が細まった。
黒須太一、とはこの島に放り込まれたばかりの頃、佐倉霧によってもたらされた情報のひとつ。
それによれば『黒須太一』は銀色の髪をしているという。
かなりの危険人物であることは承知済みではあるし、それが黒須太一と確証があると聞かれれば首を傾げざるを得ない。
黒須太一、とはこの島に放り込まれたばかりの頃、佐倉霧によってもたらされた情報のひとつ。
それによれば『黒須太一』は銀色の髪をしているという。
かなりの危険人物であることは承知済みではあるし、それが黒須太一と確証があると聞かれれば首を傾げざるを得ない。
「そうか、黒須太一か。なら、ひとつ聞いておく必要があるな」
確認は取っておこう、と九鬼は思った。
目の前の自称『黒須太一』と最初に出逢った『佐倉霧』……どちらが嘘を付いているのか、確かめなければならない。
故に九鬼は口元を歪ませながら、それこそ世間話のように問いかけた。
目の前の自称『黒須太一』と最初に出逢った『佐倉霧』……どちらが嘘を付いているのか、確かめなければならない。
故に九鬼は口元を歪ませながら、それこそ世間話のように問いかけた。
「ドミニオンに聞き覚えはあるか?」
「っ……!」
「っ……!」
愁厳がはっと息を呑むのを九鬼は見逃さなかった。
刀を構えた青年は無言を貫いたまま、語ることはないと告げている。
刀を構えた青年は無言を貫いたまま、語ることはないと告げている。
「俺は九鬼曜鋼。ドミニオン、第十七戦闘隊、副隊長だ」
だが、九鬼は構うことはない。
自然体のまま、スーツ姿に眼帯の男は笑いかける。嘘を見破った子供を見る大人のように。
自然体のまま、スーツ姿に眼帯の男は笑いかける。嘘を見破った子供を見る大人のように。
「知っているな? 知っているようだな? ならばお前は『黒須太一』にはなりえんよ」
「…………」
「本物の黒須太一は恐らく、人妖が何かであるかすら知らないはずだ。お前は知っていた、ならば……俺の世界の住人だ」
「…………」
「本物の黒須太一は恐らく、人妖が何かであるかすら知らないはずだ。お前は知っていた、ならば……俺の世界の住人だ」
黒須太一のことを知っていた佐倉霧は、人妖もドミニオンも分からない。
ならば必然的に黒須太一も同じく、九鬼の世界の事柄については無知でなければならないのだ。
こうして愁厳の偽装は剥げた。
ならば必然的に黒須太一も同じく、九鬼の世界の事柄については無知でなければならないのだ。
こうして愁厳の偽装は剥げた。
「………………」
目の前で愉しげに謡う九鬼の言っていることは、愁厳には理解できなかった。
ただ偽名がバレたことだけは納得はいかないまでも、理解できた。
関係ない、と愁厳は思う。
ならば新しい名前を名乗ればいいだけのことだし、たとえ一乃谷の名前が漏れても問題にはならない。
ただ偽名がバレたことだけは納得はいかないまでも、理解できた。
関係ない、と愁厳は思う。
ならば新しい名前を名乗ればいいだけのことだし、たとえ一乃谷の名前が漏れても問題にはならない。
(全員、俺たち以外は生きて帰れないのだから)
愁厳は改めて刀を構え、向き直る。
もはや桂のこともアルのことも双七のことも、九鬼は捨て置いて愁厳と向き合った。
殺し合いを肯定する存在の撃破、もまた九鬼の仕事のひとつなのだから。
もはや桂のこともアルのことも双七のことも、九鬼は捨て置いて愁厳と向き合った。
殺し合いを肯定する存在の撃破、もまた九鬼の仕事のひとつなのだから。
「ああ、最後にひとつ――――」
腰を落として迎え撃つ。
己に支給されたものすら手に取らず、ただ両腕と両足のみで堕ちた剣士と相対する。
己に支給されたものすら手に取らず、ただ両腕と両足のみで堕ちた剣士と相対する。
「―――――お前、死んだことはあるか?」
【F-6 線路沿い/1日目 午前】
【九鬼耀鋼@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1~3、日本酒数本
【状態】:健康、肉体的疲労中
【思考・行動】
基本:このゲームを二度と開催させない。
0:目の前の男を倒す。
1:首輪を無効化する方法と、それが可能な人間を探す。
2:制限の解除の方法を探しつつ、戦力を集める。
3:自分同様の死人、もしくはリピーターを探し、空論の裏づけをしたい。
4:如月双七に自身の事を聞く。
5:主催者の意図に乗る者を、場合によっては殺す。
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1~3、日本酒数本
【状態】:健康、肉体的疲労中
【思考・行動】
基本:このゲームを二度と開催させない。
0:目の前の男を倒す。
1:首輪を無効化する方法と、それが可能な人間を探す。
2:制限の解除の方法を探しつつ、戦力を集める。
3:自分同様の死人、もしくはリピーターを探し、空論の裏づけをしたい。
4:如月双七に自身の事を聞く。
5:主催者の意図に乗る者を、場合によっては殺す。
【備考】
※すずルート終了後から参戦です。
双七も同様だと思っていますが、仮説にもとづき、数十年後または、自分同様死後からという可能性も考えています。
※自身の仮説にある程度、自信を持ちました。
※今のところ、悪鬼は消滅しています。
※主催者の中に、死者を受肉させる人妖能力者がいると思っています。
その能力を使って、何度もゲームを開催して殺し合わせているのではないかと考察しています。
※黒須太一、支倉曜子の話を聞きました。が、それほど気にしてはいません。
※別荘の一角で爆発音がありました。
※アルとの情報交換により、『贄の血』、『魔術師』、『魔術』、『魔導書』の存在を知りました。
情報交換の時間は僅かだった為、詳細までは聞いていません。
※一乃谷愁厳を黒須太一ではない、と見破りました。
※首輪には『工学専門』と『魔術専門』の両方の知識が必要ではないか、と考えています。
※すずルート終了後から参戦です。
双七も同様だと思っていますが、仮説にもとづき、数十年後または、自分同様死後からという可能性も考えています。
※自身の仮説にある程度、自信を持ちました。
※今のところ、悪鬼は消滅しています。
※主催者の中に、死者を受肉させる人妖能力者がいると思っています。
その能力を使って、何度もゲームを開催して殺し合わせているのではないかと考察しています。
※黒須太一、支倉曜子の話を聞きました。が、それほど気にしてはいません。
※別荘の一角で爆発音がありました。
※アルとの情報交換により、『贄の血』、『魔術師』、『魔術』、『魔導書』の存在を知りました。
情報交換の時間は僅かだった為、詳細までは聞いていません。
※一乃谷愁厳を黒須太一ではない、と見破りました。
※首輪には『工学専門』と『魔術専門』の両方の知識が必要ではないか、と考えています。
【一乃谷愁厳@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備:古青江@現実】
【所持品:、支給品一式×2、ラジコンカー@リトルバスターズ!、ランダム不明支給品×1(渚砂)、ナイスブルマ@つよきす -Mighty Heart-】
【状態】:疲労(中)、右肩に裂傷、腹部に痣、白い制服は捨てた状態
【思考・行動】
基本方針:刀子を神沢市の日常に帰す
1:生き残りの座を賭けて他者とより積極的に争う
2:今後、誰かに名を尋ねられたら「黒須太一」を名乗る
【装備:古青江@現実】
【所持品:、支給品一式×2、ラジコンカー@リトルバスターズ!、ランダム不明支給品×1(渚砂)、ナイスブルマ@つよきす -Mighty Heart-】
【状態】:疲労(中)、右肩に裂傷、腹部に痣、白い制服は捨てた状態
【思考・行動】
基本方針:刀子を神沢市の日常に帰す
1:生き残りの座を賭けて他者とより積極的に争う
2:今後、誰かに名を尋ねられたら「黒須太一」を名乗る
【備考1】
【一乃谷刀子@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【状態:精神体、気絶中】
【思考】
0:……
1:優勝を目指す愁厳を止める
2:主催者に反抗し、皆で助かる手段を模索する
【一乃谷刀子@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【状態:精神体、気絶中】
【思考】
0:……
1:優勝を目指す愁厳を止める
2:主催者に反抗し、皆で助かる手段を模索する
◇ ◇ ◇ ◇
「………………くだらないですね」
始まったのは剣士と拳士の殺し合い。
それを若干離れたところから、冷めた瞳で見つめる存在がいた。
椰子なごみ。唯一の居場所だった先輩であり、恋人である対馬レオのために殺し合いに乗った乙女だ。
そして、対馬レオを失い、全ての人間に八つ当たりをしようとする者である。
それを若干離れたところから、冷めた瞳で見つめる存在がいた。
椰子なごみ。唯一の居場所だった先輩であり、恋人である対馬レオのために殺し合いに乗った乙女だ。
そして、対馬レオを失い、全ての人間に八つ当たりをしようとする者である。
「勝手に殺し合っててください。そのほうが楽ですから」
九鬼と愁厳の戦いを冷めた瞳で見つめる。
いや、もはや彼女の目には世界全てが冷めてしまっている。
燃え上がるような情熱はもう彼女の中にはない。せいぜい、憎悪だけが心の淵に澱として溜まっているのみだ。
さて、あの二人はどうやって殺そうと思案する。
いや、もはや彼女の目には世界全てが冷めてしまっている。
燃え上がるような情熱はもう彼女の中にはない。せいぜい、憎悪だけが心の淵に澱として溜まっているのみだ。
さて、あの二人はどうやって殺そうと思案する。
(幸い、こっちのことは気づかれてないようですし、殺し合って生き残ったほうを遠くから撃たせてもらいますか)
そのほうが楽だから、と無気力になごみは考えた。
対馬レオはもういない、そんな喪失感が彼女の心に空洞を空けてしまっていた。
放送を聴いた当時、すぐに立ち直ったわけではない。
愛しい人の死に嗚咽を漏らしたし、吐きかけた。自分の存在価値、アイデンティティーすら失ったのだ。
対馬レオはもういない、そんな喪失感が彼女の心に空洞を空けてしまっていた。
放送を聴いた当時、すぐに立ち直ったわけではない。
愛しい人の死に嗚咽を漏らしたし、吐きかけた。自分の存在価値、アイデンティティーすら失ったのだ。
そんな彼女は世の中への憎悪を吐き出すために殺し合いを続けることにした。
レオを殺した奴を殺してやる、とその一途な憎しみだけで。
レオを殺した奴を殺してやる、とその一途な憎しみだけで。
(…………放送?)
ふと、何か愉しいことがなごみの頭に閃いた。
確かにレオの名前を呼ばれたことで茫然自失となったが、その前に禁止エリアを発表してくれたのは僥倖だった。
憶えている、禁止エリアの対象地点を。
確かにレオの名前を呼ばれたことで茫然自失となったが、その前に禁止エリアを発表してくれたのは僥倖だった。
憶えている、禁止エリアの対象地点を。
8:00よりE-2。
10:00よりF-6。
10:00よりF-6。
そしてあの二人が殺しあっている地点は、紛うことなく禁止エリア区内なのだ。
面白い、となごみは素直にそう思っていた。
面白い、となごみは素直にそう思っていた。
(じゃ、首輪が何秒で爆発するかとか、どれぐらいの火力か、とか……色々教えてもらいますか)
なごみには意味のない情報ではある。
だが、それでも自分の命を曲がりなりにも縛り続けている、この首に装着された爆弾。
これについての興味は捨てきれないし、何かの役に立つかもしれない。
何より禁止エリアから慌てて退避しようとすれば、それこそ絶好の的ではないかと……そう思うと笑いが止まらなくなりそうだった。
だが、それでも自分の命を曲がりなりにも縛り続けている、この首に装着された爆弾。
これについての興味は捨てきれないし、何かの役に立つかもしれない。
何より禁止エリアから慌てて退避しようとすれば、それこそ絶好の的ではないかと……そう思うと笑いが止まらなくなりそうだった。
なごみは空虚な心のまま、優越感に浸って狩人の気分を楽しむ。
眼下には二人の獣が争っている。
さあ、さあ、さあ、どちらの獣が勝つかお立会い―――――もちろん、最後に残るのは人間だよ?
眼下には二人の獣が争っている。
さあ、さあ、さあ、どちらの獣が勝つかお立会い―――――もちろん、最後に残るのは人間だよ?
【F-7 線路沿い/1日目 午前】
【椰子なごみ@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M37 エアーウェイト(5/5)、スタンガン】
【所持品:支給品一式、S&W M37 エアーウェイトの予備弾24
コルト・パイソン(1/6)、357マグナム弾19】
【状態:軽度の肉体的疲労、右腕に深い切り傷(応急処置済み)、全身に細かい傷】
【思考・行動】
基本方針:他の参加者を皆殺しにして、レオの仇を討つ
0:首輪を検証しつつ、争っている二人の男を闇討ちする
1:殺せる相手は生徒会メンバーであろうと排除する
2:状況さえ許せば死者蘇生の話を利用して、他の参加者達を扇動する
3:クリスは次に会ったら絶対に殺す
4:赤毛の男(士郎)とブレザー姿の女(唯湖)、日本刀を持った女(烏月)も殺す
5:伊藤誠を殺してから、桂言葉を殺す
6:出来るだけ早く強力な武器を奪い取る
7:死者の復活は信じないようにするが、若干の期待
【装備:S&W M37 エアーウェイト(5/5)、スタンガン】
【所持品:支給品一式、S&W M37 エアーウェイトの予備弾24
コルト・パイソン(1/6)、357マグナム弾19】
【状態:軽度の肉体的疲労、右腕に深い切り傷(応急処置済み)、全身に細かい傷】
【思考・行動】
基本方針:他の参加者を皆殺しにして、レオの仇を討つ
0:首輪を検証しつつ、争っている二人の男を闇討ちする
1:殺せる相手は生徒会メンバーであろうと排除する
2:状況さえ許せば死者蘇生の話を利用して、他の参加者達を扇動する
3:クリスは次に会ったら絶対に殺す
4:赤毛の男(士郎)とブレザー姿の女(唯湖)、日本刀を持った女(烏月)も殺す
5:伊藤誠を殺してから、桂言葉を殺す
6:出来るだけ早く強力な武器を奪い取る
7:死者の復活は信じないようにするが、若干の期待
【備考】
※なごみルートからの参戦です
※なごみルートからの参戦です
102:どうする? | 投下順 | 104:禽ノ哭ク刻-トリノナクコロ- |
100:洗脳・搾取・虎の巻 | 時系列順 | 105:源千華留は大いに語り大いに推理を披露する |
098:Steelis my body, and fireis my blood/絡み合うイト(前編) | 九鬼耀鋼 | 121:戦う理由は人それぞれ、戦う方法も人それぞれ (前編) |
075:一乃谷 | 一乃谷愁厳・刀子 | 121:戦う理由は人それぞれ、戦う方法も人それぞれ (前編) |
087:復讐者 | 椰子なごみ | 121:戦う理由は人それぞれ、戦う方法も人それぞれ (前編) |