ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

sola (前編)

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sola (前編) ◆UcWYhusQhw



ただ。

ただ空が広がっていた。

蒼い

蒼い空が。

この絶望が広がる島で。

憎たらしいぐらいに。

こんな空の下で。

必死に生き続ける人。

ヒトはただソラを見続ける。

見据えるのは

未来か

それとも

終焉か

それは誰にも分からないけど。

でも。

それでも。

ただ

ただ

見続ける。

その先に何があるか分からないけど。

何があると信じて見続ける。

空の向こうに。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







はあ。
なんでこんなことになってるのだろう?

あの後僕達は普通に食事を取る事になった。
その前に浴衣を脱いで着替える事にしたんだけど。
ユイコ曰く

『これは日本の伝統の服だ……うむ実に似合う』

らしい。あんまり浴衣と変わらない気がするのだけど……。
まあ気にしたらいけない。
そして昼食に。

なのに。

なのにどうして……

どうしてこんな事になっているのだろう?



「ほらクリス君……」
「いや、だからさ……」
「なに、できないといったクリス君だろう?」
「いや、一応できるよ。一応」
「……」
「いや……すいません」

出された食事は日本の伝統食らしく見たこともないスープ。
不思議なぐらいねばねばした豆
その他諸々の料理が並べられていた。
……のだけど。

食べる為に使う道具……ハシといったか。
それが僕には上手に使えなかったのだ。
だからフォークなどがあるかユイコにきいたのだけど。

なのに……

なのに……



「ほらクリス君……あーん」



どうしてこんな事になってるのだろう?
どうしてユイコが僕に母親のようなことをしているのだろう?

微妙に……
いや、すごく……

恥ずかしいです……

なのに!

どうしてユイコは普通なんだ。
慣れてるというかなんというか。
……なんかそれも寂しいな。

……はあ。
何言ってるんだ僕は。

「ほら……クリス君いい加減諦めたまえ、私の腕も痛くなってきたよ」
「……はぁ……わかったよ」
「はっはっは! 相変わらずクリス君は面白いなあ! ここまでうぶな反応を見せるとは」
「……どうでもいいよ」

やっぱりそういう事か。
なんというか……はぁ。

僕は諦めて口をあけた。
ユイコは納得かしたかのように頷き卵焼きなるものを僕の口を運ぼうとする。
そして食べようとした瞬間

「ふーん、唯ちゃんそんな事言ってけど実はクリス君が気になるからじゃないの?」

ミドリがそれを言った瞬間ユイコは真っ赤になって

「な! な、何を言ってるんだ碧君!」

否定して。
卵焼きを落として。
ハシが口からずれて。

結果。

「~~~~~~~~~~!?」

鼻に。

「ん? ああ!? だ、大丈夫か! クリス君!?」


ああ……

なんというか。

はぁ……

目の前には珍しくあたふたするユイコ。
大笑いのミドリ。

そして痛む鼻。
ミドリがユイコに言った言葉を忘れてただ痛みだけが広がっていた。

……はぁ

その時だった。


『――さて、放送の時間だ。早速死者の発表といこう。


2回目の放送が流れ始めた。
僕にとって一回目だったけど。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





若杉葛

この名前が聞こえた瞬間ミドリは震え。

藤林杏

僕とユイコはやはりと思いまた僕は哀しくなって。


ミドリはふぅと息を洩らして。

そして

『棗鈴』

ユイコがビクッと大きく肩を震わせた。

続けて禁止エリアの発表があり放送が終わった。

それは余りにも短く。
哀しく響いてた。

人の死を告げるには。

ただ短かった。

しばしの静寂。

誰も口をあけることもなく。

ただ

ただ

散っていた者に思いをはせていた。


やがてユイコが口をあける。

「さて……これからどうしようか?」
「……うん、取り敢えずは少し落ちつこっか? もう少ししたら出発しましょ」
「……了解した」

ユイコとミドリがそうはなすとまた無言。
なんかとても寂しい雰囲気が流れていた。
僕はそれに耐え切れずそして気になったことを口にする。

「……ねえ、ユイコ。ウェストさん呼ばれなかったよね」
「ああ……おそらく杏君の勘違いとなるな」
「……そんな」
「……」

ほんの少しのすれ違い。
それがキョウを狂わせ、死なせ、シズルの道まで変えさせた。
それは……

何て悲しい事。

言葉がでない。
どうしてこんなことばかり続くのだろう?

雨が強くなっていくのが感じる。

哀しい連鎖。

カナシミがカナシミを呼んで。

どうして。

どうして。

そんな連鎖の為に。

誰かが涙を流さないといけないのだろう。

止める事はできるのだろうか?

……わからない。



「……さて、トイレにいって来るよ、クリス君達はそこで待っていてくれ」
「……ん、わかった」

ユイコがそういって立ち上がって部屋から出て行く。
残されたのは僕とミドリだけ。

ぼやーと外を眺める。
雨は強くそして延々と振り続けている。
何故かそれがとても哀しく感じられて。
ずっと。
ずっと眺め続けていた。

「……はぁ、駄目だなあクリス君は」

「……え?」

ミドリが突然溜め息をつき僕に言う。
何がだろう?

「唯ちゃん……寂しそうだったよ?」
「……そう?」
「そうだよ、ほらいってやりなよ?」
「僕が?……はぁ」

何故僕が?
分からない。

「クリス君じゃなきゃ駄目なのよ?」
「……はぁ」
「ほらいってきなさい男の子でしょう?」
「まあ……一応」
「ああ、もう! いってきなさい! しっかり男の子見せなさい!」

そういわれてはんば無理矢理追い出されるように部屋から出る。

やれやれ……

そして僕は旅館を歩き続けてユイコの方へ向かう。
そしていた。

「……ユイコ」

何処か寂しそうに。

ただ、

ただ

窓から見える雨を見続けながら。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「……ふぅ。しっかりいいとこ見せなよ、クリス君」

渋々と出て行ったようなクリス君を見送ってそう思う。
唯ちゃん見せてなかったけど君の助けが必要だと思うから。
多分この島で一番信頼してるんじゃないかな。
想像でしかないけど。

ここでかっこいい所を見せなよ。

に、しても

「何やってるんだろうなぁ……私」

唯ちゃんやクリス君を護る。
それは変わらない。
でも何をやってるんだろう。

スバルって葛ちゃんが探してた人が呼ばれた。
葛ちゃんが探してたかもしれない人。
その人を見つけることが出来なかった。
私は無力なのか。
せいぎのみかたといってるのに。

私は誰も救えないのか……

無力でしか……


パンッ!!



「弱気になっちゃ駄目よ! 私!」


そういって頬を叩く。
弱気になっちゃ駄目だ。
力がないかもしれない。
でも。
それでも常に全力でいこう。

私でも助けられる人がいる。

だから

「頑張ろう! あたし!」

そう

頑張ろう。

そう誓って。

「……クリス君は美味くやってるかな……それまでにもう一回温泉でも入ろうか」

そう考えてあたしは温泉に向かった。

その時まさかあんな事がおきるとは思っても見なかったけど。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……ユイコ」

ユイコはただそこで空を眺めていた。
雨が降り続ける空を。

そのたち続けてる姿は何処か寂しげで。
おぼろげで。
何故かつなげ止めたいとも思った。
僕に気付いたのか。

「……ああ、クリス君か」
「……うん」

なにか声をかけようと思った。
でもそうじゃない。
今はユイコに任せるべきだ。
おそらくユイコがそこにいるのは
名前が呼ばれた子のことだと思うから。
そっとユイコの話を聞くべきだと思った。

「さっき鈴君の名前が呼ばれた」
「……うん」
「……子猫のような子でとても愛でがいのある少女だった」

ぽつりぽつりと思い出を語りだす。
淡々と。
思い出すように。
ユイコの顔は窓の方を向いてるから分からないけど。
やはり儚い。

「全く分からないものだ……人生とは」
「……」
「死に逝く者が生きて生きるべき人が死んでいったのだから」

違う。
ユイコは死に逝く運命だったかもしれない。
でもだからっと言って今の生を自嘲しちゃいけない。

「なあ……クリス君?」
「うん?」
「なんだったのかな? 私たちは……滑稽だよ。必死に必死に死すら抗ってあの二人に強く生きてほしいと願い続けて
 そして強く生きるようにする為倫理すら捨てて……その結果がこれだ……なんだったのだろうな……これは」

滑稽なんかじゃない。
ユイコがやったことはそんな訳ないんだ。
とても尊いものだよ。
そう伝えたい。

「そして私はやはり人形だ」
「……え?」
「なにも感じない。鈴君が死んで。ただ心がざわつくだけで落ち着かないだけだ。でもそれだけ。泣いたり落ち込むことすらしない。
 あんなに救いたかった少女で、ただそれだけで終わる自分がなんか腹が立って。よくわからない」

違う。

違うよ。

それこそが哀しみだよ。
それこそが感情だよ。
それこそがユイコが人形でない証だよ。

だって。
こんなにもユイコは思ってる。
彼女の事。

ただ。

ただ。 

だからそれは哀しみなんだよと伝えたい。

でもそれじゃ意味がないんだ。
ユイコが自分自身で知らなきゃいけないんだ。

ユイコは人形じゃないって。

ユイコはしっかりとした感情があるって。

自分自身で。

でも。

ユイコをこのままにしてはいけない。
だから僕は。

あえて言葉じゃなくて。

言葉じゃなくても伝わるものがあると思って。

「ユイコ……」
「ん?……わあ!? クリス君?」

ユイコの背をそっと押し椅子に座らせる。

伝えたくて。

ユイコに。

ただ。

僕の気持ちを。

彼女にやすらいでほしくて。

「ク、クリス君?」
「……いいからそっとしてて」

僕はそういって彼女の髪をそっと梳き始める。
これが選んだ事だった。

彼女のとても長く綺麗な髪を。

優しく

そっと

そっと

梳き始める。

音楽と一緒で。

言葉よりも雄弁に語るものだと思って。

そっと。

ただそっと

「……ふむ」

ユイコはそっと眼を閉じる。
伝わるかなんて解る訳がないけど。

それでも僕の気持ちを乗せて。

届けと。

ただ

梳いた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






ふむ。
クリス君も大胆だな。
いきなり梳き始めるとは。

……しかし

……しかし

心地よい。

やすらぐ。

不思議だ。

本来だったら殴り飛ばしてる所だが。
それでも心がやすらいで仕方がない。

クリス君だからだろうか?
わからない。

でもまあいいかとも思う。

ふむ。

しばらくはこのままでいようか。

何故か荒立った心が落ち着く。

クリス君の気持ちが伝わってくるような。

ふむ。

暖かい。

不思議だ。
人形でもこれが温かいと思えるとは。

実に不思議だ。

クリス君。

やはり君は面白い。

さあ暫くは包まれていよう。

ふむ

……まあ一応は言っておこうか。


「……ありがとう、クリス君」






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






―――それは突然やってきた。私の意志とは関係なく。それは運命だって? そんな運命嫌だああああああああ――――





「んー……やっぱ温泉は落ち着くわ」

私はそう呟く。
ふーと息をつき空を見上げる。
きらきら太陽が輝いて。
みなもを照らし私の裸体をも照らす。

しかし唯ちゃんには負けたけど地味にプロポーションには自信がある。
唯ちゃんは元々背が高いから胸が大きいのは当然なわけで。
私は背のわりに胸が大きいのだ!

密かな自信だ。
ふにふにと自分の胸を触りつつもう一度空を見上げる。

空は変わらず青くて。
とても殺し合いの場所には見えないほどだった。
綺麗で。
ただ青くて。

「止めなきゃね……絶対」

そう思った。
ただ何となくだけど。

だが空に何か黒い点が。

「うおぉおぉぉおおおお!? 落ちる!?」

なんか空から声が?

そして遠くから何が落ちた音が。

なんか空から声が?

そして遠くから何が落ちた音が。
ここから見えるのはあれは電信柱?

なんで?

不審に思いまた空を見上げる。

が、空は黒かった。

そこにあったのは

「ぬわぁああああああああああ!?」

人だった。

って。

ひとおおぉぉぉおおおおおおぉおお!?

「えええぇぇええええええええぇえええええ!?」

やだ!?

避けられない!?

「のわぁあああああああああああ!?」
「きゃあああああああああああ!?」

ジャパーンと

人が温泉に落ちる。
あたしもまき沿いにして。

そしてあたしを強く抱きしめごろごろ転がってるらしい。

視界があけないのでどうなってるか分からないけど。
強く抱きしめられてよく分からない。

温泉から上がったみたいでそれで動きは止まった。

そして眼を開ける。


が。

「んーーーーー!?」

目の前には親父。
声がでない。
いや唇を塞がれてる。

目の前の親父に。

……え゛

……あ゛

……い゛

「むお?」
「………………い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」


なんで

なんでえええええええええええええええええ!?


ふにっ


んあ?

音が鳴ってるところを見る。

それは


思いっきりぐっしゃりと。

握られている。

はえ゛

「わあッああああぁぁあぁぁあああぁああああぁあああぁああああ!?!?!?」

もう

もういや……

ん……?

あたし全身をみらてれいるって事だよね? 裸を

……

そしてさらに冷静に考える。

これは私が上。
親父が下。

つまり。

これは……

他者から見ると……


「どうしたんだ!? 碧君!……って」
「どうしたの? ミドリ!……あれ」

その、

これは

あの


「何故か知らないがお邪魔だったようだ……クリス君戻ろうか」
「……そうだね……なんか悪いね」

ちょ

ちょっと


「「お楽しみに~~~♪」」

勘違いだ!

ああ、

いかないで。

あたしのせいじゃない!

どうして

どうして

こんな事に。


――くすっ、運命だからさ。



そんな

そんな運命


「嫌だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「そか……なつきは呼ばれへんかったか……そして藤林杏は……」

短い放送が終わった。
なつきの名前は呼ばれ変かった
せやけど……
呼ばれた

藤林杏が

つまりうちが殺したのは変えらへんということ。
何処か生きてる思うふしがあったんかもしれん。
せやけどこれで確実になった。

散々遠回りして。

「……そか……やれへんとあかんか……人殺しを」

やろう。

「今度こそ……誰でもや……なつきの為に」

もう誰でもええ。
哀しいけど。
苦しいけど。

殺しましょか。

誰でもや。

やらんとあかへんから

遠回りは終わりや。

いつまでもからわんわけいかへんもんね


哀しいなあ
切ないなあ
苦しいなあ

せやけど

なつき

なつきをまもりたいんや

修羅にならんばならん。

いきまひょ修羅道を。


「……声?」

すぐ近くからなんや騒がしい声がした。

「いってみまひょか……」

うちは歩を声の聞こえる方に向けた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……あはは、結局呼ばれてるじゃないですか」

私は短い放送を聴いて桂言葉の名前が聞こえた時つい声がでてしまった。
あんなたいそうな事をいって。
結果はこれだ。
笑える。
とても笑える話だ。

藤林杏も死んだがどうでもいい。
所詮そこまでだった話で。

というより放送自体余り興味があるわけでもなかった。
先輩が呼ばれた以上は……

私はすぐ気を取り戻して次に何処に向かおうか決めようとする。
その時何処か聞いた声がした。

「……あの声は」

腹が立つ声である事は間違いない。
私はそこへ向かう事にした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「くくっ……大丈夫かい? 碧君」
「うるさい……唯ちゃん」

ユイコがミドリをからかう。
あの後空から降ってきたというヘイゾウさんとはなした。
今は温泉のロビーにいる。
ミドリは終始ばつが悪そうだったが。

とはいえたいして事を聞いてない。
傷がまだ治っていなかったのだ。

聞いたことはオトメという人が殺し合いに乗っているということだけ。

今は温泉に入って傷を癒してるという。

ミドリはオトメのことを聞いたとき凄く悔やむようにしてたけど。
よくは分からない。

兎も角はヘイゾウさんが上がるまでまとうとしたその時だった。

「……久しぶりやね……クリスはん」

入り口から姿を現したシズルを見たのは。
手には鞭を持って。

「シズル……やっぱり変わらなかったの」
「……せや。結局戻ることは出来へんかったよ」

ああ。
シズル変えられないのかな。
キョウはやはり死んでいた。
だから戻る事はできないかな。

でも、それでも

「……最初はな……人殺してるもんだけと思ったけど……けど……そんなこといってたらかわらへん……せやからもう躊躇はせえへんよ」
「そんな! 変わる必要なんてないよ。シズル! ナツキは望まない……変わらないシズルでいてほしいと願うはずだよ!」

そうに決まってる。
だから僕は必死に言葉をつむぐ。
なれない言葉で。

「シズルだってわかってるはずだよ……」
「何や?」
「大切な人を護る為に誰か大切な人を奪うという連鎖を」
「……それは」

それはとても。
とても悲しい連鎖。
誰か止めなきゃ永久に止まらない連鎖。
全ての人を止める事なんかできないししたくもない。
でも、今目の前の迷ってる少女。
彼女だけは止めたい。
そうおもったから。
ひっしに。
必死に言葉をつむぐ。

「だからやめようよ……こんな哀しい連鎖。シズルはそれを誰よりもわかってるはず。ナツキも皆、皆それを望むだろうから」
「せやけど……」
「ねえ……戻れる。シズルはきっと戻れるから」

手をさしのばす。
とってほしい。
でもシズルは涙を一筋流しながら。

「ダメなんやよ……不安で仕方ないんよ……なつきが知らないうちに酷い目にあったり、殺されたりしたら……怖いんよ」
「それは皆一緒だよ……だから他の手段をとろうよ」
「堪忍なぁ……それしかしらへんのよ……不器用やからそれしか思いつかん……せやから」

彼女は全てを降りしきる様に

「堪忍なぁ」

鞭を振るった。
泣きながら。

迫りくる鞭。
それをはじき返す者がいた。


「はーい。そこまで。簡単に殺させないよ!」
「……杉浦先生?」

でてきたのはミドリ。
斧やらなにやらよく分からない武器を出しシズルと相対している。

「静留ちゃんもHiMEだったんだ……」
「せや……」
「静留ちゃん……意志は変わらない?」
「…………なつきの為なら」
「……そっか」

ミドリはふーと溜め息を洩らしそしてもう一度武器を構え叫ぶ。

「なら! やらせないよ! クリス君と唯ちゃんは護ると決めたんだ!」
「……ミドリ」

「……クリス君や唯ちゃんは逃げて。きっと強いと思う」
「……ふむ、碧君。さっき親父と絡んでた割にはカッコイイな」
「いわないでよ……それ」
「はっはっはっ! 冗談だ……了解した、無事でな」
「そっちこそ」

ちょっと待ってよ。
シズルは戻れる。
逃げるの? ミドリをおいて?

「ちょっと待ってよ……ミドリをおいていくの? シズルをこのままで。僕もたたか……」
「クリス君、任せてよ……ぶったおしてきっちり説教するから……はいこれ餞別に……私使えないみたいだからさ」
「……うん……でも」
「男の子でしょ! 唯ちゃん護ってやりなさい!」
「……ん一応」
「ああ……もうしっかりしなさい」

ミドリに背中を押される。
渡されたのはあのロイガーツァールとい同じような不思議な感じのものだった。
ミドリは笑い任せろといってるけど。
やっぱり僕はダメなのかな。
何も出来ないかな。
シズルを戻すことも。
戦う事も。

「何しなくさい顔してるの! 唯ちゃんを護るのはクリス君の役目でしょ! ならしっかりしなさい!」
「……うん、わかったミドリ……シズルまだ戻れるから……きっと……きっと戻れるから諦めないで……行こうユイコ……川岸の辺りにいるから」
「……わかった」

……うん。
……力も何もないけど。

でも。
それでも行こう。
僕らしくなんかない。
でもそれがきっとリセの為になるんだ。
そう思って。
ユイコの手を持って駆け出す。

ミドリは笑って送り。
シズルは哀しそうにでも、何処かほっとしたようにこっちを向いて。
ユイコは僕の顔を見て頷き。

空に変わらずの雨だった。


147:明日への翼 (後編) 投下順 148:sola (後編)
147:明日への翼 (後編) 時系列順
127:雨に煙る クリス・ヴェルティン
127:雨に煙る 来ヶ谷唯湖
127:雨に煙る 杉浦碧
129:想い出にかわる君~Memories Off~ (前編) 橘平蔵
137:例えば孤独なら傷つくのは、一人ぼっちの自分だけだと 藤乃静留
121:戦う理由は人それぞれ、戦う方法も人それぞれ (後編) 椰子なごみ

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