生成り姫 ◆DiyZPZG5M6
烏月が最初に彼女――柚原このみを見たのはあの始まりの場所だった。
無残にも首から上を吹き飛ばされた少年の亡骸の傍らで泣きじゃくる彼女。
このみの悲劇はそれに留まらない。神父は無慈悲にもこのみの首輪を作動させた。
誰も止められない、止めようもない。
彼らに歯向かえば自分達もまた少年と同じように頭を砕かれてしまう。
誰も電子音を響かせるこのみを助けようとする人間は現れなかった。
ただ一人……向坂環を除いては。
環は目の前で幼なじみを殺されたのにも関わらず、神父に対して一片たりとも物怖じせず取引をした。
このみの首輪の電子音が止まると同時に鳴り響く環の首輪。
彼女の美貌が砕かれ、顔を失った胴体が床に崩れ落ちる。
それが烏月が見たこのみの最後の姿だった。
無残にも首から上を吹き飛ばされた少年の亡骸の傍らで泣きじゃくる彼女。
このみの悲劇はそれに留まらない。神父は無慈悲にもこのみの首輪を作動させた。
誰も止められない、止めようもない。
彼らに歯向かえば自分達もまた少年と同じように頭を砕かれてしまう。
誰も電子音を響かせるこのみを助けようとする人間は現れなかった。
ただ一人……向坂環を除いては。
環は目の前で幼なじみを殺されたのにも関わらず、神父に対して一片たりとも物怖じせず取引をした。
このみの首輪の電子音が止まると同時に鳴り響く環の首輪。
彼女の美貌が砕かれ、顔を失った胴体が床に崩れ落ちる。
それが烏月が見たこのみの最後の姿だった。
ゲームという名の殺戮遊戯が始まってはや12時間。
すでに二十人以上の人間の尊き命が失われた。
烏月が最初に出会った、いや襲った少年――向坂雄二はすでに死んでいた。
たった半日で幼なじみ全てを失ったこのみの絶望は図り知れない。
理不尽な世界に対する憎しみが魂と魄を変容させる。
烏月が再び出会ったこのみは鬼に変貌していたのだ。
すでに二十人以上の人間の尊き命が失われた。
烏月が最初に出会った、いや襲った少年――向坂雄二はすでに死んでいた。
たった半日で幼なじみ全てを失ったこのみの絶望は図り知れない。
理不尽な世界に対する憎しみが魂と魄を変容させる。
烏月が再び出会ったこのみは鬼に変貌していたのだ。
「…………」
小休止を取る烏月とこのみとフカヒレ。
烏月は無言でこのみを見つめる。
愛くるしい姿にも関わらずその内から発せられる禍々しい気。
彼女が人で無くなったことの証拠である。
「? このみの顔に何かついてるのかな」
烏月の視線に気がついたこのみは彼女を見つめ返す。
烏月は左眼を細め右眼を大きく見開いた左右非対称な表情で、このみを凝視していた。
ぞわりと身体の内がざわめく。
烏月の右眼はほのかに青白く光っていた。
まるで自分の中を見透かされているのような眼の輝きだった。
小休止を取る烏月とこのみとフカヒレ。
烏月は無言でこのみを見つめる。
愛くるしい姿にも関わらずその内から発せられる禍々しい気。
彼女が人で無くなったことの証拠である。
「? このみの顔に何かついてるのかな」
烏月の視線に気がついたこのみは彼女を見つめ返す。
烏月は左眼を細め右眼を大きく見開いた左右非対称な表情で、このみを凝視していた。
ぞわりと身体の内がざわめく。
烏月の右眼はほのかに青白く光っていた。
まるで自分の中を見透かされているのような眼の輝きだった。
「やはり君はまだ完全に鬼に成ってはいないようだね」
「鬼……おとぎ話に出てくる鬼。わたしがなった鬼って一体何なんですか?」
烏月とこのみのやりとりをひどくつまらなそうな表情で眺めるフカヒレ。
自分はお呼びでないことが腹立たしいが口を挟まず黙っていた。
下手なこと言ってこのみの怒りに触れることはしたくない。ひたすら卑屈な姿勢だった。
「鬼……おとぎ話に出てくる鬼。わたしがなった鬼って一体何なんですか?」
烏月とこのみのやりとりをひどくつまらなそうな表情で眺めるフカヒレ。
自分はお呼びでないことが腹立たしいが口を挟まず黙っていた。
下手なこと言ってこのみの怒りに触れることはしたくない。ひたすら卑屈な姿勢だった。
「鬼と一口に言ってもいろんな鬼がある。例えば河童、頭に皿を乗せたあれだ。
元々は水神が零落した姿とも言われている。河童のような魑魅魍魎……いわゆる妖怪も鬼と呼べるし、
まつろわぬ化外の民も鬼と呼ぶ」
元々は水神が零落した姿とも言われている。河童のような魑魅魍魎……いわゆる妖怪も鬼と呼べるし、
まつろわぬ化外の民も鬼と呼ぶ」
一旦話を切る烏月、その表情が微妙に翳る。浅間サクヤのことを思い出したからだ。
烏月とサクヤは知己の関係ではあるが、その仲は微妙な関係である。
それは烏月が属する千羽党とサクヤの出自には浅からぬ因縁があった。
サクヤは人とは種族を異にする観月の民、ゆうに数千年を生きる長命種の出自。
だが烏月が生まれるずっと昔に時の鬼切り頭に率いられた千羽党によって、
サクヤ一人を除いて観月の民は全て滅ぼされてしまったのである。
千羽党の一員として烏月はサクヤに負い目を持っており、それが彼女達の関係に水を差していた。
そして唯一の生き残りであったサクヤの死で観月の民は完全に終焉を迎えてしまったのである。
烏月とサクヤは知己の関係ではあるが、その仲は微妙な関係である。
それは烏月が属する千羽党とサクヤの出自には浅からぬ因縁があった。
サクヤは人とは種族を異にする観月の民、ゆうに数千年を生きる長命種の出自。
だが烏月が生まれるずっと昔に時の鬼切り頭に率いられた千羽党によって、
サクヤ一人を除いて観月の民は全て滅ぼされてしまったのである。
千羽党の一員として烏月はサクヤに負い目を持っており、それが彼女達の関係に水を差していた。
そして唯一の生き残りであったサクヤの死で観月の民は完全に終焉を迎えてしまったのである。
「そして人間が絶望・憎悪・妄執などあらゆる負の感情によって鬼に転じた生成りと呼ばれる鬼だ」
「生成り……」
「今のあなたは生成りと呼ばれる状態なんだ。人であって人でない、鬼であって鬼ではない。
まだ鬼としては不完全な状態だからまだ間に合う。だけど……あの娘は」
烏月達を襲った蛆虫の少女、あの少女はもはや正気を失い鬼に呑まれてしまっていた。
あそこまで身も心も悪鬼に成り果ててしまった彼女を救う術はもはや無い。
だが烏月はあの少女について不可解な物を感じ取っていた。
鬼とはまた別種の異形の力、受けた銃弾も傷口に蛆が集まり傷を癒す、
確かに鬼は多少の傷も自力で治癒する力を持っている。だが彼女の力は鬼とは違った異質の物。
身体に沸いた蛆が傷を治す。
鬼切り役として幾多の鬼・妖を切ってきた烏月にとっても初めて相手する、異形の鬼だった。
「生成り……」
「今のあなたは生成りと呼ばれる状態なんだ。人であって人でない、鬼であって鬼ではない。
まだ鬼としては不完全な状態だからまだ間に合う。だけど……あの娘は」
烏月達を襲った蛆虫の少女、あの少女はもはや正気を失い鬼に呑まれてしまっていた。
あそこまで身も心も悪鬼に成り果ててしまった彼女を救う術はもはや無い。
だが烏月はあの少女について不可解な物を感じ取っていた。
鬼とはまた別種の異形の力、受けた銃弾も傷口に蛆が集まり傷を癒す、
確かに鬼は多少の傷も自力で治癒する力を持っている。だが彼女の力は鬼とは違った異質の物。
身体に沸いた蛆が傷を治す。
鬼切り役として幾多の鬼・妖を切ってきた烏月にとっても初めて相手する、異形の鬼だった。
「烏月さん……まさかあの人を助けるつもりじゃないですよね?
駄目だよ、あの人はこのみが絶対に殺さないといけないんだよ。あの人のせいでこのみは……ッ!」
このみの憎しみの炉に炎が再び灯される。
自分を騙したファルも憎いが蛆虫の少女はもっと憎い、人の名前まで騙る下衆を生かしておくものか。
内なる悪鬼が鎌首をもたげ彼女を殺して八つ裂きにして喰らえと囁く。
駄目だよ、あの人はこのみが絶対に殺さないといけないんだよ。あの人のせいでこのみは……ッ!」
このみの憎しみの炉に炎が再び灯される。
自分を騙したファルも憎いが蛆虫の少女はもっと憎い、人の名前まで騙る下衆を生かしておくものか。
内なる悪鬼が鎌首をもたげ彼女を殺して八つ裂きにして喰らえと囁く。
「あの人はもう手遅れだよ……彼女は完全に鬼と成ってしまった。
ああなったからには私は鬼切り部千羽党鬼切り役、千羽烏月として人に仇なす鬼を斬る」
ああなったからには私は鬼切り部千羽党鬼切り役、千羽烏月として人に仇なす鬼を斬る」
その魂の一欠けらも鬼に喰われてしまった彼女はもう助からない。
彼女は際限なく人を喰らう鬼と成ってしまったのだろう。
もはや捨て置く存在ではない、千羽党鬼切り役として人に仇なす鬼を斬る。
それが千羽烏月の使命なのだから。
彼女は際限なく人を喰らう鬼と成ってしまったのだろう。
もはや捨て置く存在ではない、千羽党鬼切り役として人に仇なす鬼を斬る。
それが千羽烏月の使命なのだから。
◆ ◆ ◆
休憩を終えた三人はあてもなく森を彷徨う。
時刻は正午を過ぎて数刻が過ぎたころだろうか?
太陽は中天にあり、ほどよく暖かげな光で深緑の森を照らしていた。
「道……迷っちゃったね……」
「逃げるのが精一杯だったからじょうがないよ」
「烏月さんでもわからないんだ……フカヒレさんは――聞くだけムダだよね」
「――っ!」
まずい……これはまずい状況だ。フカヒレに不安の暗雲が立ち込める。
このみのフカヒレに対する興味が薄れてしまっている。
彼女は自分よりもずっと烏月のほうに信頼を置いていた。
(くそっ……このままじゃ俺は用済みにされてしまう……何とかしないと)
役立たずをいつまでも置いておけるほどこのみは寛容では無い。
いずれ自分は用済みとして始末されてしまうかもしれない。
(でも烏月がいるんだ……あいつの前ではそうそうヘンな気は起こさないだろ……へへっ。
鬼切り役とか言って邪気眼丸出しの女という事を除けば、烏月は比較的まともな人間だ。
このみが俺を殺そうとしたら絶対止めに入るだろ、常識的に考えて……
大丈夫、あいつがいるかぎり俺の安全は万全だ。ツいてるぜ……ふひひっ)
相変わらず浅はかな根拠で最悪の出来事を想定することから逃避するフカヒレだった。
時刻は正午を過ぎて数刻が過ぎたころだろうか?
太陽は中天にあり、ほどよく暖かげな光で深緑の森を照らしていた。
「道……迷っちゃったね……」
「逃げるのが精一杯だったからじょうがないよ」
「烏月さんでもわからないんだ……フカヒレさんは――聞くだけムダだよね」
「――っ!」
まずい……これはまずい状況だ。フカヒレに不安の暗雲が立ち込める。
このみのフカヒレに対する興味が薄れてしまっている。
彼女は自分よりもずっと烏月のほうに信頼を置いていた。
(くそっ……このままじゃ俺は用済みにされてしまう……何とかしないと)
役立たずをいつまでも置いておけるほどこのみは寛容では無い。
いずれ自分は用済みとして始末されてしまうかもしれない。
(でも烏月がいるんだ……あいつの前ではそうそうヘンな気は起こさないだろ……へへっ。
鬼切り役とか言って邪気眼丸出しの女という事を除けば、烏月は比較的まともな人間だ。
このみが俺を殺そうとしたら絶対止めに入るだろ、常識的に考えて……
大丈夫、あいつがいるかぎり俺の安全は万全だ。ツいてるぜ……ふひひっ)
相変わらず浅はかな根拠で最悪の出来事を想定することから逃避するフカヒレだった。
「フカヒレ君? さっきから何一人でぶつぶつ言ってるのかな」
「申し訳ございませんこのみ様! このみ様の気分を害させるようなことをして!」
少しでもこのみの気分を害させないようにとフカヒレは徹頭徹尾卑屈な態度を見せていた。
「申し訳ございませんこのみ様! このみ様の気分を害させるようなことをして!」
少しでもこのみの気分を害させないようにとフカヒレは徹頭徹尾卑屈な態度を見せていた。
◆ ◆ ◆
「……血の臭いがする。たぶん誰かが死んでるみたい」
森を歩いていたこのみの足が止まりそう呟いた。
「私にはよくわからないけど本当かい?」
「このみ様のおっしゃる通りならきっと間違いないですっ!」
悪鬼に侵食されつつあるこのみは常人離れした身体能力と五感を持ち合わせている。
通常の人間では感じ取れない臭いも今のこのみは嗅ぎ取ることが出来ていた。
「こっちだよ!」
このみはその先を指差して駆け出した。
続いて烏月も走り出す。
「ちょっ……待ってこのみ様!」
幼い頃から姉に追われて逃げ回っていたせいで脚力にはそれなり自信があったフカヒレだが、
このみの足は彼を遥かに凌駕するスピードで見失わないように走るのが精一杯だった。
一方、烏月はさすが鬼切り役と言った所だろうか卓越した身体能力で、
全くと言っていいほど息を切らさずこのみについて行っていた。
「これは……」
フカヒレよりも先に現場に辿り着いた烏月は絶句した。
そこは凄惨を極まった場所。鬼切りとしてある程度この手の惨状は耐性があったのだが、
あまりにも惨たらしい場に声を失った。
森を歩いていたこのみの足が止まりそう呟いた。
「私にはよくわからないけど本当かい?」
「このみ様のおっしゃる通りならきっと間違いないですっ!」
悪鬼に侵食されつつあるこのみは常人離れした身体能力と五感を持ち合わせている。
通常の人間では感じ取れない臭いも今のこのみは嗅ぎ取ることが出来ていた。
「こっちだよ!」
このみはその先を指差して駆け出した。
続いて烏月も走り出す。
「ちょっ……待ってこのみ様!」
幼い頃から姉に追われて逃げ回っていたせいで脚力にはそれなり自信があったフカヒレだが、
このみの足は彼を遥かに凌駕するスピードで見失わないように走るのが精一杯だった。
一方、烏月はさすが鬼切り役と言った所だろうか卓越した身体能力で、
全くと言っていいほど息を切らさずこのみについて行っていた。
「これは……」
フカヒレよりも先に現場に辿り着いた烏月は絶句した。
そこは凄惨を極まった場所。鬼切りとしてある程度この手の惨状は耐性があったのだが、
あまりにも惨たらしい場に声を失った。
その場所には男女の死体が放置されていた。
男の方は腹部と胸部から血を流して死んでいた。
だが女の方は一言で言って『女の死体だった物の残骸』だった。
まるで獣に食いちぎられたように散乱した頭部と四肢。
生前は美少女だっただろう転がった頭部は、その片側の頬をごっそりとこそぎ取られ、白骨が露出していた。
「獣の歯型じゃない……間違いなく人の歯型だ……」
そして何よりもその死体の猟奇度を体現していたのは胴体部分だった。
まるで内側から食い破られたかのように腹部は大きく裂かれており、
事もあろうに内臓が、胃も心臓も腸も肝臓も肺も腎臓も膀胱も膵臓も脾臓も……そして子宮も、全ての内臓が失われていた。
男の方は腹部と胸部から血を流して死んでいた。
だが女の方は一言で言って『女の死体だった物の残骸』だった。
まるで獣に食いちぎられたように散乱した頭部と四肢。
生前は美少女だっただろう転がった頭部は、その片側の頬をごっそりとこそぎ取られ、白骨が露出していた。
「獣の歯型じゃない……間違いなく人の歯型だ……」
そして何よりもその死体の猟奇度を体現していたのは胴体部分だった。
まるで内側から食い破られたかのように腹部は大きく裂かれており、
事もあろうに内臓が、胃も心臓も腸も肝臓も肺も腎臓も膀胱も膵臓も脾臓も……そして子宮も、全ての内臓が失われていた。
ふと烏月はこのみの方に向く。このみは死体を妖しく光る瞳でじっと見つめ……
―――舌なめずりをしていた。
「このみさん!」
「えっ……あっ……えへへ~このみちょっとぼ~っとしていたでありますっ」
びしっと敬礼のポーズを取るこのみ。
「……あの人の臭いがする。あの腐ったようなにおい。このみ達と出会う前にここにあの人はいた」
「やはり……」
蛆虫の少女はやはり人を喰らっていた。
少女の死体に残る歯型は人間の物、食人の禁忌を犯し鬼へと堕ちた証拠だった。
一度人を喰らってしまえばそれが最後、どんな肉を口にしても満たされない。
麻薬の切れた中毒者のように次の獲物を追い求める悪鬼羅刹の誕生だ。
「…………」
烏月は再びこのみを向く、この様子だとこのみはまだ人を喰らってはいない。
まだ元の人間に戻せる可能性は十分にある。
だがこのみは先ほど無意識にだが死体を見て舌なめずりをしていた。
いつ食人の衝動に駆られるかは時間の問題だった。
「えっ……あっ……えへへ~このみちょっとぼ~っとしていたでありますっ」
びしっと敬礼のポーズを取るこのみ。
「……あの人の臭いがする。あの腐ったようなにおい。このみ達と出会う前にここにあの人はいた」
「やはり……」
蛆虫の少女はやはり人を喰らっていた。
少女の死体に残る歯型は人間の物、食人の禁忌を犯し鬼へと堕ちた証拠だった。
一度人を喰らってしまえばそれが最後、どんな肉を口にしても満たされない。
麻薬の切れた中毒者のように次の獲物を追い求める悪鬼羅刹の誕生だ。
「…………」
烏月は再びこのみを向く、この様子だとこのみはまだ人を喰らってはいない。
まだ元の人間に戻せる可能性は十分にある。
だがこのみは先ほど無意識にだが死体を見て舌なめずりをしていた。
いつ食人の衝動に駆られるかは時間の問題だった。
「はぁっ……はぁ……おまえら……速すぎなんだよ……くそっ……」
二人からかなり遅れてやってくるフカヒレ。完全に息が上がってバテていた。
息を落ち着かせたフカヒレは死体にまだ気がつかないのか周囲の様子をきょろきょろと見回していた。
(あれ……この景色……どこかで見たような……)
見覚えのある景色。
そう確かこの場所は――
視線を下に移す地面に横たわる男の死体。
赤みが掛かった茶髪、そして固まった血で染まったエプロン。
自分が見捨てたために命を落としたかつての同行者――古河秋生の死体だった。
二人からかなり遅れてやってくるフカヒレ。完全に息が上がってバテていた。
息を落ち着かせたフカヒレは死体にまだ気がつかないのか周囲の様子をきょろきょろと見回していた。
(あれ……この景色……どこかで見たような……)
見覚えのある景色。
そう確かこの場所は――
視線を下に移す地面に横たわる男の死体。
赤みが掛かった茶髪、そして固まった血で染まったエプロン。
自分が見捨てたために命を落としたかつての同行者――古河秋生の死体だった。
「秋生のオッサン……じゃねえか……」
思わず声を出していた。
その声を烏月が見逃すことがあるはずも無く、フカヒレに質問した。
「フカヒレさん、この男の人を知ってるのかい?」
当然の質問だ。烏月はフカヒレについての情報をあまり知らない。本名すら知らないのだ。
知っていることはこのみからフカヒレと呼ばれているのと、
彼がとても小心者で卑屈な人間であることぐらいだ。
「それは――」
秋生を見捨てて逃げ出したことを烏月が知ったらどんな顔をするだろうか?
口ごもるフカヒレだったが……
「言えないよねフカヒレ君? だからこのみが代わりに言ってあげるよ。烏月さん、
この男の人が秋生って人ならフカヒレさんはこの人を見捨てて逃げ出したどうしようもない卑怯者なんだよ」
「……そうなのかい?」
烏月の冷たい目線がフカヒレを射抜く。
フカヒレは何も返事を返せなかった。
「じゃあ……こっちの人は誰か知ってるのかな?」
フカヒレはこのみの言葉の意味が解らなかった。
ここにあるのは秋生一人じゃないのか? と。
フカヒレは無意識の内に凄惨な状態のもう一人を意識の外に追いやっていたのだ。
思わず声を出していた。
その声を烏月が見逃すことがあるはずも無く、フカヒレに質問した。
「フカヒレさん、この男の人を知ってるのかい?」
当然の質問だ。烏月はフカヒレについての情報をあまり知らない。本名すら知らないのだ。
知っていることはこのみからフカヒレと呼ばれているのと、
彼がとても小心者で卑屈な人間であることぐらいだ。
「それは――」
秋生を見捨てて逃げ出したことを烏月が知ったらどんな顔をするだろうか?
口ごもるフカヒレだったが……
「言えないよねフカヒレ君? だからこのみが代わりに言ってあげるよ。烏月さん、
この男の人が秋生って人ならフカヒレさんはこの人を見捨てて逃げ出したどうしようもない卑怯者なんだよ」
「……そうなのかい?」
烏月の冷たい目線がフカヒレを射抜く。
フカヒレは何も返事を返せなかった。
「じゃあ……こっちの人は誰か知ってるのかな?」
フカヒレはこのみの言葉の意味が解らなかった。
ここにあるのは秋生一人じゃないのか? と。
フカヒレは無意識の内に凄惨な状態のもう一人を意識の外に追いやっていたのだ。
「この人だよフカヒレさん」
そう言ってこのみはやや小ぶりの西瓜のような物体をフカヒレに差し出した。
「え――? ひっひぃぃぃぃぃぃ!!!」
フカヒレはそれの正体を見て情けない声を上げて地面に尻餅を付く。
なぜならこのみが差し出した物は西瓜であるはずがなく。
無残に喰い千切られた。自分が殺した古河渚の頭部だった。
そう言ってこのみはやや小ぶりの西瓜のような物体をフカヒレに差し出した。
「え――? ひっひぃぃぃぃぃぃ!!!」
フカヒレはそれの正体を見て情けない声を上げて地面に尻餅を付く。
なぜならこのみが差し出した物は西瓜であるはずがなく。
無残に喰い千切られた。自分が殺した古河渚の頭部だった。
「うぐっ……うぇ…おぇぇぇ……」
渚の死体の惨状を認識して地面に吐瀉物をぶちまける。
(なんで……なんでだよぉぉぉぉ……)
こんな所に渚の死体があるなんて有り得ない。
だって渚は自分が別の場所で――
渚の死体の惨状を認識して地面に吐瀉物をぶちまける。
(なんで……なんでだよぉぉぉぉ……)
こんな所に渚の死体があるなんて有り得ない。
だって渚は自分が別の場所で――
「なんで俺が殺した古河渚がここでバラバラになってるんだよぉぉぉぉぉ!!!!」
◆ ◆ ◆
「そっか……フカヒレさんはこの人を殺した上に、お父さんまで見殺しにしたんだね」
「フカヒレさん……君は……」
蔑みとも哀れみともとれる視線で烏月はフカヒレを見下ろしている。
「やめろよぉ……そんな目で俺を見るなよぉぉぉぉ」
このみに事実を告げた時におしおきと称して受けた暴力とは別種の痛みがフカヒレを刺し貫く。
「フカヒレさん……君は……」
蔑みとも哀れみともとれる視線で烏月はフカヒレを見下ろしている。
「やめろよぉ……そんな目で俺を見るなよぉぉぉぉ」
このみに事実を告げた時におしおきと称して受けた暴力とは別種の痛みがフカヒレを刺し貫く。
「し、仕方……仕方なかったんだよ! だってこいつは俺を騙そうとしてたと思ってたんだ!
こいつは古河渚を騙ったニセモノだって! 知らなかったんだよぉぉナギサという名前の人間が二人いた事なんて!
お、俺は悪くねえっ! な、名前が悪いんだっ。渚なんて名前だから俺に間違われたんだ!
せ、正当防衛だ! 確かにあの時俺はこいつに殺されるかもと思ったんだ! そう! 正当防衛なんだよ!
だから俺は無罪なんだよっ! へ、へへへ……」
こいつは古河渚を騙ったニセモノだって! 知らなかったんだよぉぉナギサという名前の人間が二人いた事なんて!
お、俺は悪くねえっ! な、名前が悪いんだっ。渚なんて名前だから俺に間違われたんだ!
せ、正当防衛だ! 確かにあの時俺はこいつに殺されるかもと思ったんだ! そう! 正当防衛なんだよ!
だから俺は無罪なんだよっ! へ、へへへ……」
半ば薄ら笑いを浮かべ必死に自己弁護に勤しむフカヒレの姿。
烏月は彼に対して軽蔑の感情は抱かなかった。
ただひたすら彼が哀れだと思った。
自分は鬼切りとして多数の修羅場を潜り抜けている。常に死と隣り合わせにいる世界の住人。
だけど彼は違う、こんな事が起きなければ普通のごく一般的な学生生活を送っていた人間なのだ。
そんな人間がこんな世界に放り込まれまともな倫理観を保てるのは難しい。
それでも自分を見失わずに行動できる人間は少なくない、だが彼はあまりにも心が弱すぎた。
烏月は彼に対して軽蔑の感情は抱かなかった。
ただひたすら彼が哀れだと思った。
自分は鬼切りとして多数の修羅場を潜り抜けている。常に死と隣り合わせにいる世界の住人。
だけど彼は違う、こんな事が起きなければ普通のごく一般的な学生生活を送っていた人間なのだ。
そんな人間がこんな世界に放り込まれまともな倫理観を保てるのは難しい。
それでも自分を見失わずに行動できる人間は少なくない、だが彼はあまりにも心が弱すぎた。
「なんだよお……その目は……まるで可哀相なものを見るような目で見るなよぉぉぉぉぉぉ!
俺は普通だ! オッサンの時だって勝てるわけの無い奴に挑んで死ぬなんてバカバカしいだろ。
だってオッサン、俺達を襲った奴を必死に説得しようとしてたんだ! ンなもんやってられねーよ!
逃げないオッサンが悪い! 俺は悪くない! 誰だって自分の身が可愛いんだっ!
自分の命が一番大切だろ!? 誰かのために自分の命を投げ出すなんてバカにも程があるに決まってる!」
俺は普通だ! オッサンの時だって勝てるわけの無い奴に挑んで死ぬなんてバカバカしいだろ。
だってオッサン、俺達を襲った奴を必死に説得しようとしてたんだ! ンなもんやってられねーよ!
逃げないオッサンが悪い! 俺は悪くない! 誰だって自分の身が可愛いんだっ!
自分の命が一番大切だろ!? 誰かのために自分の命を投げ出すなんてバカにも程があるに決まってる!」
一瞬、空気が凍りついた。
烏月はその感覚に冷や汗を流す。
フカヒレはそれに気がつかずひたすら自己弁護を繰り返す。
フカヒレはまだ気づいていない。彼がこのみに対する最大級の地雷を踏んでしまった事を。
烏月はその感覚に冷や汗を流す。
フカヒレはそれに気がつかずひたすら自己弁護を繰り返す。
フカヒレはまだ気づいていない。彼がこのみに対する最大級の地雷を踏んでしまった事を。
「ねえ……フカヒレさん……このみが何で生きているか知ってるかな?」
「へっ?」
「本当ならあの時、首輪が爆発して死んじゃったのはわたしなんだよ。フカヒレさんも見てたよね?」
「ひっ……」
このみの右手がゆっくりとフカヒレの首に伸ばされる。
人間離れした怪力がフカヒレの首を締め上げる。
「ぐっ……あがっ……」
「誰かのために犠牲になる事ってそんなに馬鹿なことなのかな?」
首を掴んだ腕がゆっくりと持ちあがる。
それにつられてフカヒレの身体も持ち上がり、
今やフカヒレの身体は首に掴まれたこのみの右腕一本で宙に浮いている状態だった。
「か……ぐげ……ぐるじ……」
腕一本で宙に吊るされ呼吸もままならない。
このみは肉食動物のような縦に割れた瞳でフカヒレを睨みつけていた。
「本当ならあの時、首輪が爆発して死んじゃったのはわたしなんだよ。フカヒレさんも見てたよね?」
「ひっ……」
このみの右手がゆっくりとフカヒレの首に伸ばされる。
人間離れした怪力がフカヒレの首を締め上げる。
「ぐっ……あがっ……」
「誰かのために犠牲になる事ってそんなに馬鹿なことなのかな?」
首を掴んだ腕がゆっくりと持ちあがる。
それにつられてフカヒレの身体も持ち上がり、
今やフカヒレの身体は首に掴まれたこのみの右腕一本で宙に浮いている状態だった。
「か……ぐげ……ぐるじ……」
腕一本で宙に吊るされ呼吸もままならない。
このみは肉食動物のような縦に割れた瞳でフカヒレを睨みつけていた。
「このみのために犠牲となったタマお姉ちゃんはそんなに馬鹿だったの? 答えてよ」
さらに殺気を膨らませるこのみ。
殺気と共に周囲の気温が二、三度下がったような感覚をフカヒレはようやく覚える。
フカヒレの脳裏に昔プレイしたゲームが浮かび上がる。
確か鬼の血を引く四姉妹がヒロインの登場するゲーム。
その中に鬼の力を開放したヒロインの描写に『周囲の気温が下がったような気がした』とあった。
まさか自分がリアルでこの感覚を味わうとは思いもよらなかったのである。
殺気と共に周囲の気温が二、三度下がったような感覚をフカヒレはようやく覚える。
フカヒレの脳裏に昔プレイしたゲームが浮かび上がる。
確か鬼の血を引く四姉妹がヒロインの登場するゲーム。
その中に鬼の力を開放したヒロインの描写に『周囲の気温が下がったような気がした』とあった。
まさか自分がリアルでこの感覚を味わうとは思いもよらなかったのである。
「フカヒレさんにあの時のタマお姉ちゃんの気持ちなんか分かるわけないよね。君みたいな卑怯者に」
ぎちぎちと指が深く食い込んでいく。
彼女の力をもってすればフカヒレ程度の人間の首を折る事など造作もないだろう。
割り箸を折るよりも簡単に彼の頚椎は砕かれてしまうだろう。
彼女の力をもってすればフカヒレ程度の人間の首を折る事など造作もないだろう。
割り箸を折るよりも簡単に彼の頚椎は砕かれてしまうだろう。
「やめるんだこのみさん! これ以上したら彼が死んでしまう!」
見るに見かねた烏月がこのみを静止させる。
烏月の声でこのみから急速に殺意が消え失せる。
否、もはやこのみにとってフカヒレは殺す価値も無い人間だった。
見るに見かねた烏月がこのみを静止させる。
烏月の声でこのみから急速に殺意が消え失せる。
否、もはやこのみにとってフカヒレは殺す価値も無い人間だった。
「うげっ……ごほっ……ぐっぁ……」
ようやくこのみの手から解放されたフカヒレは大きく咳込みする。
その様子を冷ややかな目線で見下しこのみは言った。
ようやくこのみの手から解放されたフカヒレは大きく咳込みする。
その様子を冷ややかな目線で見下しこのみは言った。
「ぱんぱかぱーん! 現時刻をもってフカヒレさんには戦力外通告を言い渡すでありますよ~」
「あ――!?」
「このみにとってフカヒレさんはもう用済みですよー。どこへでも行っちゃってください」
それはフカヒレにとって死刑宣告に等しい物だった。
このみに頭を下げていれば命だけは何とかなる、なのに今見捨てられたら……
「こ、このみ様! 今の発言取り消しますから! お願いします! 何とかご慈悲を!」
「だーめ! フカヒレさんみたいな卑怯者は要りません! このみに殺されないだけありがたいのですよー」
「そ、そんなこのみ様! 烏月! いや烏月さん! 烏月様! あなたからも何とか言ってあげて下さい!」
プライドをかなぐり捨ててまで慈悲を乞う彼の哀れな姿に烏月は何も言えなかった。
「だってフカヒレさんは戦力にすらならないもん。このみは鬼、烏月さんは鬼切り役。じゃあフカヒレさんは?」
「そ、それは……」
「それ以前に自分が不利となった真っ先に逃げる卑怯な人と一緒に行けないのですよ~」
「もうそんな事はしませんから! あの女がまた襲ってきたら自分は真っ先にこのみ様の盾となる所存であります!
このシャーク鮫氷! やればできる漢として地元では名を馳せていました! だから平に平に!」
「このみにとってフカヒレさんはもう用済みですよー。どこへでも行っちゃってください」
それはフカヒレにとって死刑宣告に等しい物だった。
このみに頭を下げていれば命だけは何とかなる、なのに今見捨てられたら……
「こ、このみ様! 今の発言取り消しますから! お願いします! 何とかご慈悲を!」
「だーめ! フカヒレさんみたいな卑怯者は要りません! このみに殺されないだけありがたいのですよー」
「そ、そんなこのみ様! 烏月! いや烏月さん! 烏月様! あなたからも何とか言ってあげて下さい!」
プライドをかなぐり捨ててまで慈悲を乞う彼の哀れな姿に烏月は何も言えなかった。
「だってフカヒレさんは戦力にすらならないもん。このみは鬼、烏月さんは鬼切り役。じゃあフカヒレさんは?」
「そ、それは……」
「それ以前に自分が不利となった真っ先に逃げる卑怯な人と一緒に行けないのですよ~」
「もうそんな事はしませんから! あの女がまた襲ってきたら自分は真っ先にこのみ様の盾となる所存であります!
このシャーク鮫氷! やればできる漢として地元では名を馳せていました! だから平に平に!」
頭を擦り付けて土下座するフカヒレにこのみは無慈悲な一言を言い放つ。
「やればできる? どうせやらないくせに、やろうともしないで言い訳して逃げてるくせに。
やれるんだったら最初からしてよ。どうせ最初からやる気なんてこれっぽっちもないくせに」
「ああ――――」
フカヒレはがっくりとうなだれる。
彼の安っぽく矮小なプライドの象徴だった言葉は完膚無きまでに打ち砕かれた。
やれるんだったら最初からしてよ。どうせ最初からやる気なんてこれっぽっちもないくせに」
「ああ――――」
フカヒレはがっくりとうなだれる。
彼の安っぽく矮小なプライドの象徴だった言葉は完膚無きまでに打ち砕かれた。
「行こう烏月さん」
「あ、ああ……」
困惑する烏月、だけどこのみの言葉は完全に的を射ているものだった。
この男は確実に足手まといになる。
足手まといなら足手まといでどこかに隠れていれば良いのだが、
彼は変なところでプライドが高いのか、間違いなく戦闘にしゃしゃり出て味方の足を引っ張るタイプなのだ。
「無能な味方はどんな強敵よりも厄介だって、誰かが言ってたのであります!」
「ああああああああ……お願いします俺を見捨てないで……このみ様、烏月様……」
フカヒレを置いていこうとする二人、フカヒレはこのみの足にすがり付いて許しを乞う。
「だったら他の頼りになる人に泣きついてお願いすればいいいよ、僕を助けて僕を守ってって
でも君みたいな卑怯者は誰も相手してくれないと思うよ。フカヒレさんは誰からも見捨てられて寂しく死ぬの」
「嫌だ……嫌だ……死にたくない……俺を助けて下さいお願いします……このみ様……」
「あ、ああ……」
困惑する烏月、だけどこのみの言葉は完全に的を射ているものだった。
この男は確実に足手まといになる。
足手まといなら足手まといでどこかに隠れていれば良いのだが、
彼は変なところでプライドが高いのか、間違いなく戦闘にしゃしゃり出て味方の足を引っ張るタイプなのだ。
「無能な味方はどんな強敵よりも厄介だって、誰かが言ってたのであります!」
「ああああああああ……お願いします俺を見捨てないで……このみ様、烏月様……」
フカヒレを置いていこうとする二人、フカヒレはこのみの足にすがり付いて許しを乞う。
「だったら他の頼りになる人に泣きついてお願いすればいいいよ、僕を助けて僕を守ってって
でも君みたいな卑怯者は誰も相手してくれないと思うよ。フカヒレさんは誰からも見捨てられて寂しく死ぬの」
「嫌だ……嫌だ……死にたくない……俺を助けて下さいお願いします……このみ様……」
「うるさいなあ……さっさとこのみの前から消えてくれないかな。あんまりしつこいと本当に殺しちゃうよ?」
このみの目が見開かれフカヒレへの殺意が増大する。
それがフカヒレの限界だった。
ただの一般人ですらも感じ取れる殺気。本気で殺される。
このみの目が見開かれフカヒレへの殺意が増大する。
それがフカヒレの限界だった。
ただの一般人ですらも感じ取れる殺気。本気で殺される。
「うっ……うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっ!!!!」
フカヒレは逃げた。デイパックを抱えて脇目もふらず逃げ出す。
殺される殺される殺される。
何も考えずにただこのみの前から逃げ出した。
フカヒレは逃げた。デイパックを抱えて脇目もふらず逃げ出す。
殺される殺される殺される。
何も考えずにただこのみの前から逃げ出した。
「……ほら、やっぱり逃げた」
ぽつりと漏らしたこのみの言葉はどこか寂しさを含んでいた。
ぽつりと漏らしたこのみの言葉はどこか寂しさを含んでいた。
◆ ◆ ◆
烏月は逃げ出したフカヒレを追う事はしなかった。
このみの言った事はまさしく彼の本質を見抜いた物だったから。
だけど蔑みはしない、あれがありふれた日常を送る者の当然の反応なのだから。
自分とは住む世界が違う住人なのだから。
「追わないんだね、烏月さん」
「追ったところでどうにもならないよ……」
「不公平だよ……このみはこんな姿になってしまってもまだ頑張ろうとしてるのに……どうしてフカヒレさんは……」
「彼はあまりにも心が弱すぎた。いや、あれが普通の反応なんだ……」
このみの言った事はまさしく彼の本質を見抜いた物だったから。
だけど蔑みはしない、あれがありふれた日常を送る者の当然の反応なのだから。
自分とは住む世界が違う住人なのだから。
「追わないんだね、烏月さん」
「追ったところでどうにもならないよ……」
「不公平だよ……このみはこんな姿になってしまってもまだ頑張ろうとしてるのに……どうしてフカヒレさんは……」
「彼はあまりにも心が弱すぎた。いや、あれが普通の反応なんだ……」
このみはフカヒレに対して少しだけ希望を持っていた。
あまりにもしつこいフカヒレを本気で殺そうと殺意を向けた時、
逃げ出さないような気概を見せてくれれば一緒に行動するつもりだった。
だが結果は見ての通り、このみの殺気に当てられたフカヒレは一目散に逃げてしまった。
結局フカヒレはフカヒレだった。
「心配なのかい、彼が」
「別に……きっとああいう人はゴキブリのようにしぶとく生き残るよ」
あまりにもしつこいフカヒレを本気で殺そうと殺意を向けた時、
逃げ出さないような気概を見せてくれれば一緒に行動するつもりだった。
だが結果は見ての通り、このみの殺気に当てられたフカヒレは一目散に逃げてしまった。
結局フカヒレはフカヒレだった。
「心配なのかい、彼が」
「別に……きっとああいう人はゴキブリのようにしぶとく生き残るよ」
二人だけとなった森にざあっと吹き抜ける。
充満した血臭と死臭が風に吹かれて雲散霧消していった。
「この人達のお墓を作ってあげたいな……」
このまま野ざらしにされるのはあまりに不憫だった。せめてもの供養をしてあげたい。
「気持ちはわかるけど生憎私達は穴を掘る道具をもっていないよ、できる限り余計な体力の消耗は抑えたほうがいい」
「そうだね……ごめんね、もっと落ち着いたらお墓作ってあげるからそれまで少し待っててね」
このみは散乱した渚の遺体を秋生の遺体の側にきれいに並べてあげた。
ぱっと見は寄り添うように眠る二体の遺体に見えるだろう。
それが今のこのみに出来るせめてもの供養だった。
「行こうよ烏月さん」
このみと烏月は二人に軽く黙祷を捧げこの場を後にした。
充満した血臭と死臭が風に吹かれて雲散霧消していった。
「この人達のお墓を作ってあげたいな……」
このまま野ざらしにされるのはあまりに不憫だった。せめてもの供養をしてあげたい。
「気持ちはわかるけど生憎私達は穴を掘る道具をもっていないよ、できる限り余計な体力の消耗は抑えたほうがいい」
「そうだね……ごめんね、もっと落ち着いたらお墓作ってあげるからそれまで少し待っててね」
このみは散乱した渚の遺体を秋生の遺体の側にきれいに並べてあげた。
ぱっと見は寄り添うように眠る二体の遺体に見えるだろう。
それが今のこのみに出来るせめてもの供養だった。
「行こうよ烏月さん」
このみと烏月は二人に軽く黙祷を捧げこの場を後にした。
森の中を歩く二人。このみは何やら考え事をしながら歩いている。
古河秋生と古河渚の死体についてだ。
フカヒレは渚を殺した。それは前に本人から聞いたので知っていた。
だがフカヒレは渚の死体が移動していたことに驚愕していた。
答えは単純。彼が渚を殺したと思った時にはまだ彼女には息があった。
動かなくなった渚を見て死んだと思っていたフカヒレはその場を立ち去る。
まだ辛うじて息のあった渚は最後の力を振り絞って歩いたのだろう。
そして、父親の死体の側で力尽き息を引き取った。
最期に父親の傍らで天に召されて彼女は幸せだったのだろうか? だけど――その後に……
あの蛆虫の少女が現れたのだ。あの独特の匂いは彼女に物に間違いない。
だけど解せない、なぜ彼女は渚だけを喰らったのか?
側にはもう一体屍が放置されていたのだ。なのに秋生の死体には全く手がつけられていなかった。
単純に腹が膨れて満足して食べなかったのか、それとも別の理由が――?
古河秋生と古河渚の死体についてだ。
フカヒレは渚を殺した。それは前に本人から聞いたので知っていた。
だがフカヒレは渚の死体が移動していたことに驚愕していた。
答えは単純。彼が渚を殺したと思った時にはまだ彼女には息があった。
動かなくなった渚を見て死んだと思っていたフカヒレはその場を立ち去る。
まだ辛うじて息のあった渚は最後の力を振り絞って歩いたのだろう。
そして、父親の死体の側で力尽き息を引き取った。
最期に父親の傍らで天に召されて彼女は幸せだったのだろうか? だけど――その後に……
あの蛆虫の少女が現れたのだ。あの独特の匂いは彼女に物に間違いない。
だけど解せない、なぜ彼女は渚だけを喰らったのか?
側にはもう一体屍が放置されていたのだ。なのに秋生の死体には全く手がつけられていなかった。
単純に腹が膨れて満足して食べなかったのか、それとも別の理由が――?
(ん……この匂いは……?)
ふと発達した嗅覚が常人では嗅ぎ取ることのできない匂い再びを捉える。
さっきの死体の血の匂い? いやそれしてはひどく不思議な匂い。
まるで熟れ切った果物をいくつもミキサーで混ぜたような甘ったるい匂い。
ショートケーキに塗りたくられた生クリームみたいな匂い。
世界中のありとあらゆるお菓子よりもおいしそうな甘い匂いが幽かに漂ってくる。
「烏月さん……また血の匂いがするよ。なんだろう……血の匂いのはずなのに……すごく甘い匂いが」
「このみさん? どうしたんだ」
このみはマタタビの匂いを嗅いだ猫のようにふらふらとした足取りで匂いの元に歩いていった。
ふと発達した嗅覚が常人では嗅ぎ取ることのできない匂い再びを捉える。
さっきの死体の血の匂い? いやそれしてはひどく不思議な匂い。
まるで熟れ切った果物をいくつもミキサーで混ぜたような甘ったるい匂い。
ショートケーキに塗りたくられた生クリームみたいな匂い。
世界中のありとあらゆるお菓子よりもおいしそうな甘い匂いが幽かに漂ってくる。
「烏月さん……また血の匂いがするよ。なんだろう……血の匂いのはずなのに……すごく甘い匂いが」
「このみさん? どうしたんだ」
このみはマタタビの匂いを嗅いだ猫のようにふらふらとした足取りで匂いの元に歩いていった。
(甘い匂いに混じってあの人の匂いもする……)
仄かに香る蛆虫の少女の匂いと甘い血の匂いがする中心点にこのみ達はやって来た。
あたりは何も変哲のない森、特に異常はないように見える。
このみは注意深く周囲の様子を探る。
「烏月さんは何か解らない? 良い匂いに混じってあの人の匂いもするよ」
「私は特に何も匂わないが……」
「ん……? あれは……」
このみは木の根元に転がる小さな瓶があることを確認した。
ちょうどそこがあの少女と甘い匂いの発生源であるようだ。
このみはその瓶を拾い上げる。
栄養ドリンク剤の瓶に見えるそれは封が開けられすでに中身は空っぽだ。
瓶の口部分にわずかに付着する茶褐色に固まった物体から強烈な匂いが立ち込めていた。
「あ……何これ……?」
ひどく芳しい匂い。
このみはとろんとした目で瓶の口に舌を伸ばしそれを舐め取る。
「ん……」
鉄臭い血の味、なのにどんなものよりも美味しい味。
こんな味は初めてだった。
「このみさん……何を……?」
一心不乱に瓶を舐めまわすこのみの様子は明らかにおかしい。
「あ……烏月さん……この瓶、中身は多分血なのにすごくおいしいの」
差し出された瓶に貼り付けられたラベルを見て烏月は驚愕する。
仄かに香る蛆虫の少女の匂いと甘い血の匂いがする中心点にこのみ達はやって来た。
あたりは何も変哲のない森、特に異常はないように見える。
このみは注意深く周囲の様子を探る。
「烏月さんは何か解らない? 良い匂いに混じってあの人の匂いもするよ」
「私は特に何も匂わないが……」
「ん……? あれは……」
このみは木の根元に転がる小さな瓶があることを確認した。
ちょうどそこがあの少女と甘い匂いの発生源であるようだ。
このみはその瓶を拾い上げる。
栄養ドリンク剤の瓶に見えるそれは封が開けられすでに中身は空っぽだ。
瓶の口部分にわずかに付着する茶褐色に固まった物体から強烈な匂いが立ち込めていた。
「あ……何これ……?」
ひどく芳しい匂い。
このみはとろんとした目で瓶の口に舌を伸ばしそれを舐め取る。
「ん……」
鉄臭い血の味、なのにどんなものよりも美味しい味。
こんな味は初めてだった。
「このみさん……何を……?」
一心不乱に瓶を舐めまわすこのみの様子は明らかにおかしい。
「あ……烏月さん……この瓶、中身は多分血なのにすごくおいしいの」
差し出された瓶に貼り付けられたラベルを見て烏月は驚愕する。
(馬鹿な――なんでこんな所に贄の血が!?)
もしや桂が? 違うまだ桂は生きている。だったらなぜここにあれが存在する?
可能性は一つ、予め贄の血が支給品として渡された事。それ以外に考えられなかった。
そしてもう一つ、このみはここにもあの人の匂いがすると言った。
あの人はもちろん蛆虫の少女において他ならない。
だとすると……この瓶の中の贄の血を飲んだのは彼女なのだろうか……
もしや桂が? 違うまだ桂は生きている。だったらなぜここにあれが存在する?
可能性は一つ、予め贄の血が支給品として渡された事。それ以外に考えられなかった。
そしてもう一つ、このみはここにもあの人の匂いがすると言った。
あの人はもちろん蛆虫の少女において他ならない。
だとすると……この瓶の中の贄の血を飲んだのは彼女なのだろうか……
そう考えると辻褄が合う。彼女の動きそのものは素人の物、だけど異常なまでに身体能力が強化されている。
彼女は元はこのみと同じくただの女子高生だ。
成り立ての鬼があそこまでの力を発揮することが出来るだろうか? いや出来ないはず。
しかも鬼に成ったばかりの人間がよりにもよって贄の血を摂取したのだ。
鬼にとって極上の食料である贄の血の味を覚えた彼女は人を襲い続けるだろう。
だけどただの人間の味では決して満足できない、必ずや贄の血を持つ桂を襲うだろう。
もし桂が彼女に襲われることになったら――
そして桂の血を全て飲み干してしまったらあの鬼は――
(桂さん――!)
彼女は元はこのみと同じくただの女子高生だ。
成り立ての鬼があそこまでの力を発揮することが出来るだろうか? いや出来ないはず。
しかも鬼に成ったばかりの人間がよりにもよって贄の血を摂取したのだ。
鬼にとって極上の食料である贄の血の味を覚えた彼女は人を襲い続けるだろう。
だけどただの人間の味では決して満足できない、必ずや贄の血を持つ桂を襲うだろう。
もし桂が彼女に襲われることになったら――
そして桂の血を全て飲み干してしまったらあの鬼は――
(桂さん――!)
「足りないよ……こんだけじゃ足りないよ……」
このみの声に烏月は急速に現実に引き戻される。
このみは虚ろな目でぶつぶつ独り言を唱えていた。
「もっと……食べたい……赤い血が肉が……烏月さん……さっきの所にいけば」
「このみさん!」
瓶にこびり付いた血だけでもすでにこのみは人の血と肉を欲していた。
鬼に成りたての人間にとって贄の血は強力な麻薬に等しい存在。
このままでは完全に人を喰らう鬼に成ってしまう。
「なんで、あの血を舐めたら急に、人を、食べ――死体だから別にいいよね?」
「それだけは絶対に駄目だ! 食べたら最後このみさんは二度と人間に戻れなくなる!
今のうちに私に鬼切りを使わせるんだ! そうすれば人間に――」
「ダメぇ! だめだよ烏月さん、このみまだ何にも目的を果たしてない!
このみがここで人間に戻ってしまったらタマお姉ちゃんとの約束が守れなくなる!」
このみの声に烏月は急速に現実に引き戻される。
このみは虚ろな目でぶつぶつ独り言を唱えていた。
「もっと……食べたい……赤い血が肉が……烏月さん……さっきの所にいけば」
「このみさん!」
瓶にこびり付いた血だけでもすでにこのみは人の血と肉を欲していた。
鬼に成りたての人間にとって贄の血は強力な麻薬に等しい存在。
このままでは完全に人を喰らう鬼に成ってしまう。
「なんで、あの血を舐めたら急に、人を、食べ――死体だから別にいいよね?」
「それだけは絶対に駄目だ! 食べたら最後このみさんは二度と人間に戻れなくなる!
今のうちに私に鬼切りを使わせるんだ! そうすれば人間に――」
「ダメぇ! だめだよ烏月さん、このみまだ何にも目的を果たしてない!
このみがここで人間に戻ってしまったらタマお姉ちゃんとの約束が守れなくなる!」
『頑張って生きてね』
向坂環がこのみと交わした約束。
それが今のこのみを織り成す大本の存在。
なぜこのみは鬼に成りながらも危うい所で人の心を保ち続けていられるのだろうか?
おそらく環の言葉が言霊となってこのみを支配しているから、
環の想いが死してなおこのみを人の領域に踏み止まらせているのだ。
向坂環がこのみと交わした約束。
それが今のこのみを織り成す大本の存在。
なぜこのみは鬼に成りながらも危うい所で人の心を保ち続けていられるのだろうか?
おそらく環の言葉が言霊となってこのみを支配しているから、
環の想いが死してなおこのみを人の領域に踏み止まらせているのだ。
(くっ……どうすればいい?)
このままこのみが吸血・食人衝動を抑え続けるのは不可能だ。
ならどうすればいい?
(やはり……ああするしかないか)
このみの衝動を一時的にも引き伸ばす方法が一つだけあった。
だがそれは所詮一時しのぎ、時間がたてば再び衝動が沸いてくるだろう。
今ここで鬼切りを使ってしまうほうがよほど安全だ。
だが烏月は彼女の思いを尊重してあげたかった。
大切な人を全て奪われてしまって絶望し、鬼に囚われてしまっても、
その本質は純粋でひたむきに生きる一人の心優しい少女。
どこか似ているのだ。烏月の大切な人、羽藤桂に――――
「このみさん、私の血を飲むんだ。それでいくらかは落ち着くはず」
「烏月さんの血を……?」
烏月は地獄蝶々を抜き、切っ先を自らの指の押し当て軽く引く。
「……ッ」
軽い痛みと共に指先に赤い筋が走り血液がじんわりと滲み出す。
「烏月さん何を……!?」
「指を切ってしまった。黴菌が入ったら破傷風になってしまう。このみさんが舐めて消毒してくれいか?」
「で、でも……勢いで烏月さんを……」
「大丈夫、このみさんを信じてる」
このままこのみが吸血・食人衝動を抑え続けるのは不可能だ。
ならどうすればいい?
(やはり……ああするしかないか)
このみの衝動を一時的にも引き伸ばす方法が一つだけあった。
だがそれは所詮一時しのぎ、時間がたてば再び衝動が沸いてくるだろう。
今ここで鬼切りを使ってしまうほうがよほど安全だ。
だが烏月は彼女の思いを尊重してあげたかった。
大切な人を全て奪われてしまって絶望し、鬼に囚われてしまっても、
その本質は純粋でひたむきに生きる一人の心優しい少女。
どこか似ているのだ。烏月の大切な人、羽藤桂に――――
「このみさん、私の血を飲むんだ。それでいくらかは落ち着くはず」
「烏月さんの血を……?」
烏月は地獄蝶々を抜き、切っ先を自らの指の押し当て軽く引く。
「……ッ」
軽い痛みと共に指先に赤い筋が走り血液がじんわりと滲み出す。
「烏月さん何を……!?」
「指を切ってしまった。黴菌が入ったら破傷風になってしまう。このみさんが舐めて消毒してくれいか?」
「で、でも……勢いで烏月さんを……」
「大丈夫、このみさんを信じてる」
烏月は指をこのみの口の前に持ってくる。
ぽたりと血の雫が地面に落ちた。
このみはゆっくりと舌を伸ばして地面に落ちようとする血の雫を受け止める。
「ん……っ」
そのまま口内に指を滑り込ませ傷口を優しく舐める。
赤い鉄の香りが口の中一杯に広がっていく。
ぽたりと血の雫が地面に落ちた。
このみはゆっくりと舌を伸ばして地面に落ちようとする血の雫を受け止める。
「ん……っ」
そのまま口内に指を滑り込ませ傷口を優しく舐める。
赤い鉄の香りが口の中一杯に広がっていく。
ちゅぱ……ちゅぱ……
乳飲み子のようにこのみは烏月の指を吸い続ける。
恍惚の表情でひたすら傷口を舐める。
血は形のある肉体の一部でありながら最も形の無い魂に近い存在。
血液はとは魂の通貨、意志の銀板。
ゆえに肉よりも命の本質に近いもの、いうなれば肉は不純物の多い原油であって、血は精製されたガソリンのような物。
このみは今、烏月の命の一部を飲んでいるのだ。
やがて満足したのか、このみはゆっくりと指を口から放した。
「ぷは……っ」
指と舌の間に伸びた唾液が橋を作り地面に消える。
「どう……少しでも落ち着いたかい?」
「うん……だいぶ楽になったかな」
「でもこれは所詮一時しのぎに過ぎないんだ。いずれまた吸血衝動が現れる。
もし、あなたが完全に鬼と成った時は……私は鬼切り役としてこのみさん、あなたを――殺す」
乳飲み子のようにこのみは烏月の指を吸い続ける。
恍惚の表情でひたすら傷口を舐める。
血は形のある肉体の一部でありながら最も形の無い魂に近い存在。
血液はとは魂の通貨、意志の銀板。
ゆえに肉よりも命の本質に近いもの、いうなれば肉は不純物の多い原油であって、血は精製されたガソリンのような物。
このみは今、烏月の命の一部を飲んでいるのだ。
やがて満足したのか、このみはゆっくりと指を口から放した。
「ぷは……っ」
指と舌の間に伸びた唾液が橋を作り地面に消える。
「どう……少しでも落ち着いたかい?」
「うん……だいぶ楽になったかな」
「でもこれは所詮一時しのぎに過ぎないんだ。いずれまた吸血衝動が現れる。
もし、あなたが完全に鬼と成った時は……私は鬼切り役としてこのみさん、あなたを――殺す」
烏月の青白く輝く右眼がこのみを凝視する。
形を持たない鬼を見抜く見鬼の瞳、鬼切りとして必須の能力。
その瞳はこのみの鬼を真っ直ぐ見据えていた。
形を持たない鬼を見抜く見鬼の瞳、鬼切りとして必須の能力。
その瞳はこのみの鬼を真っ直ぐ見据えていた。
その身に鬼の心と人の心を宿した少女と、魔を打ち払う鬼切りの少女。
彼女達に数奇な縁が結ばれる。
運命の歯車がゆっくりと廻りだした。
彼女達に数奇な縁が結ばれる。
運命の歯車がゆっくりと廻りだした。
【C-3 森・南部/一日目 午後】
【千羽烏月@アカイイト】
【装備】:地獄蝶々@つよきす -Mighty Heart-
【所持品】:支給品一式、我 埋葬にあたわず@機神咆哮デモンベイン
【状態】:身体の節々に打撲跡、背中に重度の打撲、脇腹に軽傷、右足に浅い切り傷(応急処置済み)
【思考・行動】
基本方針:羽藤桂に会う。守り通す。
1:桂を守り共に脱出する、不可能な場合桂を優勝させる。
2:このみと行動を共にする。
3:トルタ、恭介に対する態度保留。
4:クリス、トルタ、恭介、鈴、理樹は襲わないようにする。
5:なつきを探す。
6:このみの鬼を斬ってやりたい。
7:このみが完全に鬼になれば殺す。
8:ウェストからの伝言を大十字九郎に伝える。
【備考】
※自分の身体能力が弱まっている事に気付いています。
※烏月の登場時期は、烏月ルートのTrue end以降です。
※クリス・ヴェルティン、棗鈴、直枝理樹の細かい特徴を認識しています。
※岡崎朋也、桂言葉、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています。
※恭介・トルタが殺し合いに乗っている事を知りません。
※ドクター・ウェストと情報を交換しました。
※蛆虫の少女(世界)を警戒しています。
【装備】:地獄蝶々@つよきす -Mighty Heart-
【所持品】:支給品一式、我 埋葬にあたわず@機神咆哮デモンベイン
【状態】:身体の節々に打撲跡、背中に重度の打撲、脇腹に軽傷、右足に浅い切り傷(応急処置済み)
【思考・行動】
基本方針:羽藤桂に会う。守り通す。
1:桂を守り共に脱出する、不可能な場合桂を優勝させる。
2:このみと行動を共にする。
3:トルタ、恭介に対する態度保留。
4:クリス、トルタ、恭介、鈴、理樹は襲わないようにする。
5:なつきを探す。
6:このみの鬼を斬ってやりたい。
7:このみが完全に鬼になれば殺す。
8:ウェストからの伝言を大十字九郎に伝える。
【備考】
※自分の身体能力が弱まっている事に気付いています。
※烏月の登場時期は、烏月ルートのTrue end以降です。
※クリス・ヴェルティン、棗鈴、直枝理樹の細かい特徴を認識しています。
※岡崎朋也、桂言葉、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています。
※恭介・トルタが殺し合いに乗っている事を知りません。
※ドクター・ウェストと情報を交換しました。
※蛆虫の少女(世界)を警戒しています。
【柚原このみ@To Heart2】
【装備】:包丁、イタクァ(3/6)@機神咆哮デモンベイン、防弾チョッキ@現実
【所持品】:支給品一式、銃弾(イタクァ用)×12、銃の取り扱い説明書、鎮痛剤(白い粉が瓶に入っている)
【状態】:悪鬼侵食率25%、リボン喪失、右のおさげ部分が不ぞろいに切り裂かれている、倫理崩壊
【思考・行動】
基本行動方針:何を犠牲にしても生き残り、貴明と環の仇を討つ。
0:柚原このみのまま、絶対に生き残り、主催者に復讐を遂げる。
1:ファルと世界に"復讐"をする。
2:気に障った人間は排除する。攻撃してくる相手は殺す。
3:烏月と共に行動し、羽藤桂を捜索。その後に人間に戻してもらう。
4:最悪、一日目終了時の教会でファルを殺す。
【備考】
※制服は土埃と血で汚れています。
※世界が使う“清浦刹那”という名前を偽名だと知りました。
※ファルの解毒剤の嘘を看破しました。見つけ出して殺害するつもりです。
※第一回放送内容は、向坂雄二の名前が呼ばれたこと以外ほとんど覚えていません。
※悪鬼に侵食されつつあります。侵食されればされるほど、身体能力と五感が高くなっていきます。
※制限有りの再生能力があります。大怪我であるほど治療に時間を必要とします。
また、大怪我の治療をしたり、精神を揺さぶられると悪鬼侵食率が低下する時があります。
※フカヒレのここまでの経緯と知り合いや出会った人物について把握済み。
※烏月と行動を共にすることにより、精神状態はやや安定に向かっています。
【装備】:包丁、イタクァ(3/6)@機神咆哮デモンベイン、防弾チョッキ@現実
【所持品】:支給品一式、銃弾(イタクァ用)×12、銃の取り扱い説明書、鎮痛剤(白い粉が瓶に入っている)
【状態】:悪鬼侵食率25%、リボン喪失、右のおさげ部分が不ぞろいに切り裂かれている、倫理崩壊
【思考・行動】
基本行動方針:何を犠牲にしても生き残り、貴明と環の仇を討つ。
0:柚原このみのまま、絶対に生き残り、主催者に復讐を遂げる。
1:ファルと世界に"復讐"をする。
2:気に障った人間は排除する。攻撃してくる相手は殺す。
3:烏月と共に行動し、羽藤桂を捜索。その後に人間に戻してもらう。
4:最悪、一日目終了時の教会でファルを殺す。
【備考】
※制服は土埃と血で汚れています。
※世界が使う“清浦刹那”という名前を偽名だと知りました。
※ファルの解毒剤の嘘を看破しました。見つけ出して殺害するつもりです。
※第一回放送内容は、向坂雄二の名前が呼ばれたこと以外ほとんど覚えていません。
※悪鬼に侵食されつつあります。侵食されればされるほど、身体能力と五感が高くなっていきます。
※制限有りの再生能力があります。大怪我であるほど治療に時間を必要とします。
また、大怪我の治療をしたり、精神を揺さぶられると悪鬼侵食率が低下する時があります。
※フカヒレのここまでの経緯と知り合いや出会った人物について把握済み。
※烏月と行動を共にすることにより、精神状態はやや安定に向かっています。
◆ ◆ ◆
「ハァッ……ハァ……なんで俺ばっかり畜生……畜生ぉ……」
このみの下から情けなく逃げ出したフカヒレは膝をついて息を落ち着かせる。
周りを見ると森を抜け出して街に出ていたようだ。
西洋建築物が並ぶ綺麗な街並み、だけどフカヒレにとってそんな事はどうでもよかった。
「何でみんな俺ばっかり攻めるんだぁぁ……俺は悪くねぇ……」
そうだ誰もが自分の身が可愛いに決まっている。
誰かの為に命を投げ出すなんてカッコつけてるだけだ。
その行為をする自分に酔っているだけなんだ。
このみの言う『タマお姉ちゃん』だって死ぬ事が怖かったに違いない。
「内心チビりそうになってたに決まってる……バカだぜ自己犠牲に酔った末に首を爆破されるなんてな、へへ」
このみが聞いたら一万回は殺されそうな台詞をひとりごちる。
「くそっ糞ッくそぉ……誰か俺を助けろよ……畜生……」
彼の内には自省という考えは存在してなかった。
自分の行為は当然のことであって文句言われる筋合いなって一片もない。
このまま野たれ死ぬなんて真っ平ごめんだ。
すぐに誰か頼りになりそうな人間と合流するのだ。
「へへ……良い事考えた。お、俺をコケにしてくれたあいつらにし、仕返ししてやるぜ」
このみの下から情けなく逃げ出したフカヒレは膝をついて息を落ち着かせる。
周りを見ると森を抜け出して街に出ていたようだ。
西洋建築物が並ぶ綺麗な街並み、だけどフカヒレにとってそんな事はどうでもよかった。
「何でみんな俺ばっかり攻めるんだぁぁ……俺は悪くねぇ……」
そうだ誰もが自分の身が可愛いに決まっている。
誰かの為に命を投げ出すなんてカッコつけてるだけだ。
その行為をする自分に酔っているだけなんだ。
このみの言う『タマお姉ちゃん』だって死ぬ事が怖かったに違いない。
「内心チビりそうになってたに決まってる……バカだぜ自己犠牲に酔った末に首を爆破されるなんてな、へへ」
このみが聞いたら一万回は殺されそうな台詞をひとりごちる。
「くそっ糞ッくそぉ……誰か俺を助けろよ……畜生……」
彼の内には自省という考えは存在してなかった。
自分の行為は当然のことであって文句言われる筋合いなって一片もない。
このまま野たれ死ぬなんて真っ平ごめんだ。
すぐに誰か頼りになりそうな人間と合流するのだ。
「へへ……良い事考えた。お、俺をコケにしてくれたあいつらにし、仕返ししてやるぜ」
合流した人間にこのみと烏月の悪評をバラまいてやる。あいつらは殺人鬼だって。
これで奴らも終わり、包囲網の出来上がりだ。
これで奴らも終わり、包囲網の出来上がりだ。
「お、俺って天才じゃね? ふひひ、や、やっぱ俺ってやればできる子だぜ、
お、俺は、あ、あいつらに勝てないけど、たた、戦わずして勝てる方法じゃんこれ? ふ、ふひひ」
お、俺は、あ、あいつらに勝てないけど、たた、戦わずして勝てる方法じゃんこれ? ふ、ふひひ」
決して自分の非を認めず自分勝手な未来予想図を描く。
この後に及んでこんな稚拙な発想しかできないのがフカヒレがフカヒレたる所以だった。
この後に及んでこんな稚拙な発想しかできないのがフカヒレがフカヒレたる所以だった。
【E-3 中世西洋風の街/一日目 午後】
【鮫氷新一@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:ビームライフル(残量70%)@リトルバスターズ!
【所持品】:シアン化カリウム入りカプセル
【状態】:このみへの恐怖心、疲労(極めて大)、全身打撲、顔面に怪我、鼻骨折、奥歯一本折れ、
口内出血、右手小指捻挫、肩に炎症、内蔵にダメージ(大)、眼鏡なし
【思考】
基本方針:死にたくない。
0:誰か俺を助けろよぉ……
1:頼りになる人間を見つけ守ってもらう、そしてこのみと烏月の悪評を広める
2:知り合いを探す。
3:蛆虫の少女(世界)、ツヴァイ、ドライ、菊地真、伊藤誠を警戒
4:強力な武器が欲しい。
【備考】
※特殊能力「おっぱいスカウター」に制限が掛けられています?
しかし、フカヒレが根性を出せば見えないものなどありません。
※自分が殺した相手が古河渚である可能性に行き着きましたが、気づかない不利をしています。
※混乱していたので渚砂の外見を良く覚えていません。
※カプセル(シアン化カリウム入りカプセル)はフカヒレのポケットの中に入っています。
※誠から娼館での戦闘についてのみ聞きました。
※ICレコーダーの内容から、真を殺人鬼だと認識しています。
【装備】:ビームライフル(残量70%)@リトルバスターズ!
【所持品】:シアン化カリウム入りカプセル
【状態】:このみへの恐怖心、疲労(極めて大)、全身打撲、顔面に怪我、鼻骨折、奥歯一本折れ、
口内出血、右手小指捻挫、肩に炎症、内蔵にダメージ(大)、眼鏡なし
【思考】
基本方針:死にたくない。
0:誰か俺を助けろよぉ……
1:頼りになる人間を見つけ守ってもらう、そしてこのみと烏月の悪評を広める
2:知り合いを探す。
3:蛆虫の少女(世界)、ツヴァイ、ドライ、菊地真、伊藤誠を警戒
4:強力な武器が欲しい。
【備考】
※特殊能力「おっぱいスカウター」に制限が掛けられています?
しかし、フカヒレが根性を出せば見えないものなどありません。
※自分が殺した相手が古河渚である可能性に行き着きましたが、気づかない不利をしています。
※混乱していたので渚砂の外見を良く覚えていません。
※カプセル(シアン化カリウム入りカプセル)はフカヒレのポケットの中に入っています。
※誠から娼館での戦闘についてのみ聞きました。
※ICレコーダーの内容から、真を殺人鬼だと認識しています。
151:羊の方舟 | 投下順 | 153:ハジマリとオワリへのプレリュード |
151:羊の方舟 | 時系列順 | 155:無法のウエストE区 |
145:人と鬼のカルネヴァーレ (後編) | 千羽烏月 | 162:すれ違うイト |
145:人と鬼のカルネヴァーレ (後編) | 柚原このみ | |
145:人と鬼のカルネヴァーレ (後編) | 鮫氷新一 | 168:深きに堕ちる者 |