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団結(Ⅳ)

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団結(Ⅳ) ◆LxH6hCs9JU


 そろそろ、佳境かな。僕のほうも準備を進めようか。

 万人の想いは受け入れがたく、けれども道は選択しなければならない。

 まるで難解な問題集だ。正解なんてものは存在しない、高度すぎる代物だよ。


 ◇ ◇ ◇


 《高槻やよいPROJECT③ キラメキ×ゴーマイウェイ》


 追いついた先は、北方。方向感覚が正しければ、教会の建っていたエリアの東。
 奏が向かう先には、禁止エリアという魔の領域が広がっている。
 踏み込めば、死。力ずくでも引き止めなければと、やよいは駆けて来た。

「っ……は、あ……奏、さん」

 肩で息をしつつ、前方の奏を確認。後ろを振り向けば、誰の姿もない。
 真人とファルが手を取り合うのを確認し、やよいは声をかける間も惜しく、奏を追いかけてきた。
 真人たちは追いかけてこないのだろうか、それとも追いかけてくることが困難なのだろうか。
 もう、奏を仲間とは認めてくれないのだろうか――違う、そんなはずはない。

「ネムさん、ううん。ファルさんとも、わかり合えたんです。だから――!」

 やよいは呼気を強引に落ち着かせ、背筋を伸ばす。
 奏を説得するために、渾身の言葉を搾り出す。

「帰りましょう、奏さん。みんな、待ってます」
「高槻さん……ごめんなさい。お断りします」

 差し伸べた左手は、しかしファルや真人のようにはいかず、言葉で一蹴される。
 やよいの左腕が、だらんと折れた。心を打ちのめされるかのように、奏の眼差しを受け止める。
 毅然とした瞳に、動揺の影はない。決意を固めた色が、やよいの身を中心に据えていた。
 視線の鋭さに、やよいの身は竦まれる。代わりに、プッチャンが前に出た。

「……今さら、神宮司がどうのこうのとは言わねぇ。だがよ会長さん、あんたもりのの声を聞いたんだろう?
 あいつは……りのは、神宮司の力を自覚した。国を動かすその力を、俺たちに言葉を送るために使ったんだ。
 りのらしいっちゃりのらしいけどよ、あんなもので殺し合いは止められない。だから――」

 プッチャンが勇ましく投げる言霊も、

「――私たちが、りのの想いを継がなければならない。わかっています。けど……ごめんなさい」

 奏の心には、響かない。
 あるいは、響いていも――無為に消えてしまうのだ。

「私は、もう……疲れてしまったんです。全てを投げ出して、逃げたいと、心から願ってしまった」
「……それが、会長さんなりの責任の取り方なのかよ。そんなの、無責任じゃねぇか」
「ふふっ、そうですね。私は、ダメダメな生徒会長さんです。みんながいなければ、なにもできない」

 奏はどうして、あんなにも無垢な表情を浮かべていられるのか。
 諦観の果てにある余裕なのか、これが死を受け入れた者の素顔なのか。
 やよいには、まったく理解できなかった。

「その、みんなは! 私や真人さんやファルさんじゃ、ダメなんですか!? 私たちじゃ、奏さんの力にはなれないんですか!?」

 子供っぽい発言が、奏の微笑を誘う。

「みなさんと、みんなは、別物だから。私はやっぱり、宮神学園極上生徒会の会長としてしか、生きていけないみたい」

 自身の失態を誤魔化す風に、奏は朗らかに笑んだ。
 やよいへ安心感を与えようと、せめてこのときだけは、会長らしくあろうと。
 ますます、わからない。

「そんなの、屁理屈じゃないですか!」

 やよいは声を張り上げ、主張を続ける。

「帰りたいのは、誰だって同じなんです! みんながいる場所に、プロデューサーやお父さんが待ってる家に……!
 先生だって、帰る場所を探してた! みなさんでも、いいじゃないですか! みんな、同じ仲間じゃないですか!」

 屁理屈を言っているのはどっちなのだろう、と心の中では疑問を抱いている。
 しかしそれを抱えていては、負けなのだ。
 子供っぽくてもいい。この想いを、奏にもわかってもらいたい。

 たとえ住まう世界は違っても、人と人は分かり合える。
 やよいと宗一郎がそうであったように。
 真ともわかり合える、誠とだってきっとわかり合えた。
 真人やファルやダンセイニやトーニャやウェストとだって、まだまだこれからだ。

「だって、私たちみんな、仲間だから!」

 やよいは、泣きながら叫んだ。
 そこで、奏と目が合う。

「……っ!」

 やよいは、奏の目を直視してしまった。
 そこで、悟ってしまったのだ。

「……やよい。もう、いい」

 右手のプッチャンから、力ない諦観の言葉が漏れる。
 やよいの身も、それに従うしかなかった。
 奏の目を、見れば。

(なにがダメでなにがいいかって、本当は自分が一番、知ってるんだよね……)

 なにかの歌のワンフレーズを思い出しながら、やよいは視線を固定する。
 奏の笑顔は、曇りのない穏やかさで、同時に晴れやかでもあった。
 それが作り笑顔ではない、彼女にとっての紛うことなき極上なのだと理解して、哀しくなる。

 全部、わかっているのだ。
 やよいの言葉は、想いも含め、全部奏に届いていた。
 届いて、それでも――奏は、この選択をしたのだ。

「……や、だ……やだよっ、奏さん――」

 理解が追いついてしまった、ちょっと大人な頭脳を呪いつつ、やよいは走り出した。
 手を引っ張ってでも、奏をこちら側に引き戻すために。
 やよいの中にある子供の部分が、暴走する。

「極上生徒会会長、神宮司奏として命じます」

 奏は一歩後退し、最後の言霊を発する。
 首輪からは、警告の電子音が漏れ始めた。
 やよいの手は短く、奏に届くまでにはまだ距離がある。
 それでも、やよいは足を止めなかった。

「トーニャさん――よろしく、お勤めを」
「ダー、ボス」

 やよいの背後から、一本の糸が伸びる。
 何重にも編まれた糸の集合体は、太めの管として、やよいの細い体をがっしりと絡め取る。
 捕獲されるバッファローのように、やよいの体は前進する意図と外れ、宙を浮いた。
 それが、トーニャの人妖能力であるキキーモラによるものだと知ったと同時、

「あ……」

 禁止エリアの渦中にあった奏の首が、爆ぜる。
 盛大な爆発音は、少女に現実を突きつける。
 血の赤が視界に飛び込んできて、やよいはたまらず泣きじゃくった。
 キキーモラに身を捕縛されながら、回避できなかった喪失感に打ち崩された。

「……やっぱばかやろうだよ、会長さん。後でりのに説教されることくらい、わかんだろうが」

 地に下ろされても、やよいはすぐ立ち上がることができなかった。
 爆心地を眺めながら、首から盛大に出血する奏の体を凝視しながら、言葉を失った。
 プッチャンも、やよいと視線を同じくして、言葉を失った。
 二人揃って、心で泣いた。

「立ちなさい」

 潰されそうになった二人を、トーニャの厳格な声が奮い立たせる。
 彼女は奏の死を受け止めながら、涙の一つも浮かべてはいなかった。

「あなたが奏さんの死を悼む場は、ここではありません。強くなりなさい。強引にでも、強く。
 子供の部分を騙してでも、いいえ殺してでも、大人になりきりなさい。本当に、数分程度でいいから……」

 いや、違った。
 彼女もまた、堪えているだけなのだ。
 それを知っても、やよいは毅然と振舞うことはできなかった。
 トーニャに腕を引っ張ってもらい、教会への家路を歩いた。
 そこにみんなが待っているから、まずは報告しよう、と。

 恥ずかしいくらいに、子供だった。
 やよいも、プッチャンも、トーニャも。
 けれど一番子供だったのは、奏だったのかもしれない。


 ◇ ◇ ◇


 《井ノ原真人PROJECT② 仲間×ありがとう》


 真人とファルとダンセイニは、逸早く教会に帰りついた。
 なぜかドクター・ウェストも、彼らについていった。
 集合の地を礼拝堂に定め、やよいとプッチャンとトーニャと奏が帰って来るのを待つ。
 しばらく経って、やよいたちは帰って来た。
 トーニャがやよいの腕を引きながら、やよいの手にプッチャンが嵌って、奏の手を繋ぐ者はいなかった。
 みんな、悲しんだ。ファルは切なげに萎れ、ダンセイニは力なく鳴き、やよいは号泣していた。
 そんな中、真人が静かに言う。

「じゃ……俺もそろそろいくわ。後のことは任すからよ」

 その言葉に、ウェストが驚き瞠目する。他の者たちの反応は鈍かった。
 みんな、薄々感づいてはいたから。それは医学を知るウェストも同じだろうが、彼は性分として驚いただけだろう。

「懺悔室……いつの間に書き換えられたの?」
「さあな。大方、俺たちがこうなることをわかってた誰かさんがいたずらしたんだろうぜ」
「いたずらねぇ……それにしたって悪趣味だぜ。邪悪すぎて、俺ぁ吐き気がするよ」
「そう言うなよプッチャン。これで、懺悔室の扉は開くんだ。後はおまえらで、ゆっくりきな」

 真人の体は、当に限界を迎えていた。
 トーニャのキキーモラによる傷は浅い。が、数時間前に刺された胸は、間違いなく致命傷だった。
 肉体の中が損傷していることがわかる。失血のし過ぎで血が足りていないというのもわかった。
 もうすぐ死ぬ。筋肉ではどうにもこうにも抗えない。諦めるしかないのだと。

「まったく……どうしてすぐ治療しなかったんですか? 筋肉が勝手に止血してくれるとでも?」
「へっ、いつもならそれでオーケーなんだがな。今回ばかりはとちっちまった。筋肉もたまにはあてが外れるさ」
「今からマッハで病院に走れば、助かるやもしれんぞ。今なら出血大サービスで我輩が執刀するがどうする?
「よせやい。話の腰を折るんじゃねぇよ。どの道、俺はこの扉を潜らなけりゃなんねぇんだ……それが俺の役目だからな」

 真人の眼前に聳える、黒の扉。入店証が必要とされていた、懺悔室の開かずの扉。
 そこに下げられたプレートには、今はこう書かれている。
 入店証は、『仲間の命』。
 いつの間に文面が変わったのか、逐一見張りをつけていたわけではないのでわからない。
 ただ、今となってはどうでもよいことだ。どちらにせよ、扉は開く。

「死に損ないの男と、究極の筋肉が門を叩いてやるんだ……どこの神様が文句を言えるよ」

 真人はドアノブに手をやり、軽く捻った。
 たったそれだけで、押しても引いてもビクともしなかった扉が開く。
 その先は、闇。果てしなく、どこまでも続いているかのような、真っ暗な回廊が見えた。

「行っちゃうんですか、真人さん?」
「ああ。やよいも、プッチャンと仲良くな」
「へっ、言われるまでもねぇさ」

 やよい、プッチャンと言葉を交わす。
 この二人は、きっと大丈夫だろう。

「ファル。こいつら頼もしいぜ。思い切り利用してやんな」
「そうね。そうするわ。きっと……みんなで、帰ってみせる」

 ファルと言葉を交わす。
 これだけの仲間に囲まれていれば、彼女も大丈夫だ。

「ダンセイニ。俺がいなくなっても、筋肉の鍛錬を怠けるんじゃねぇぞ」
「てけり・り」

 ダンセイニと言葉を交わす。
 相変わらずの返事が、旅立ちに安心感を齎した。

「ウェスト。一度あんたの筋肉と俺の筋肉、ガチでぶつけてみたかったぜ」
「ふん。天才の筋肉と凡才の筋肉を同じと思うなよ? いつだって返り討ちなのであ~る」

 ドクター・ウェストと言葉を交わす。
 強力な筋肉の代役もできた。このチームの筋肉成分は彼に譲ろう。

「トーニャ。なんか、いろいろすまなかったな」
「よしてください気色悪い。あなたは筋肉筋肉騒いでるほうが、らしいですよ」

 トーニャと言葉を交わす。
 久しぶりの毒舌が、なぜか心地よかった。

 真人の足が、暗闇の回廊へと踏み込む。
 その先はもう、闇しかない。
 扉の先に古書店があるのかどうか、それはわからない。
 ただ、真人は仲間たちから逸脱し、先人となる。

「ありがとよ……こんな馬鹿に最後までつきあってくれて。いい筋肉でまた会おう!」

 最後に、一言。
 多くの仲間たちに感謝の意を示し、大きな背中を誇示した。
 屈強な筋肉が、衆目の視線を独り占めにする。
 誰もが見定める究極の筋肉を、真人はようやく手に入れたのだった。


 ◇ ◇ ◇


 《プッチャンPROJECT② ダイナミック×言霊》


 真人の姿が闇に没し、しばらくの時間が経った。
 決意ある離別は、止められたものではなく。
 奏の一件と重なり、真人の意向を無碍にする気にはなれなかった。

「……けれど、やっぱり。こんなのおかしいわ」

 それがプッチャンを含めた、皆の総意であるはずだった。
 しかし決断を撤回するようにして、ファルが懺悔室に足を向ける。
 気勢ある歩みで、どんどん前進。自ら闇を目指そうと、真人の行く道を辿った。

「ならぬ! ならぬぞファルシータ・フォーセットよ!」

 ファルの行く道を、ドクター・ウェストが大の字になって立ち塞がる。

「貴様にはわからんのか!? 井ノ原真人は男として、仲間のために命を賭したのだ!
 ここで追いかけるのは得策ではない。扉は開かれようとも、我々がこの道を行く時はまだ訪れていないのである!」

 進行を阻害するウェストに構うことなく、ファルは速度を緩めない。
 迫力に満ちた歩みはウェストの前で停止し、視線と視線がぶつかり合った。
 ファルも思うところがあるのだろう。瞳の色は濃く、眼差しだけでウェストを威圧した。
 さらにウェストが怯んだところを見計らい、その頬を平手で打つ。

「きゃふぅん!?」

 ウェストがオーバーリアクションを取り、なよなよとその場に倒れこんだ。
 ファルはそんなウェストを足蹴にしてまで、懺悔室の扉を潜ろうとする。

「真人さんは、この私をここに繋ぎ止めた張本人よ。あの人には、私を幸せにする義務がる。
 それを……こんな形で。これしきのことで責任を果たしたと思ったのなら、大間違いよ」

 ファルは地べたのウェストを見下し、毒舌と睨みと氷の表情でもって、強烈に牽制した。
 ウェストは子犬のように震え上がり、ファルが扉を潜るのを容認してしまう。
 それを見たプッチャンが、

「やっぱなぁ……そうだよな。そうなるよな。よ~し、やよい。俺たちも行こうぜ!」

 どことなく嬉しそうに、宿主であるやよいに行動を促した。

「はい! 真人さんを追うんですね? よ~し!」

 やよいもプッチャンの意に同調し、駆け出す。
 血気盛んな若者の歩みは、正道を外れた科学者を足蹴にすることも厭わず、踏み越えていく。

「ぐ、ぐえぇ……ま、待つのである。貴様らではまだレベルが足りな……」
「それ以上ほざくと、キュッとやりますよ。キキーモラでキュッ、と」
「てけり・り」

 ファルに続いて扉を潜り抜けた背後、トーニャとダンセイニの援護が確認できた。
 トーニャもついてまでは来ないものの、プッチャンたちの背中を押してくれるつもりらしい。
 諍いはあったが、雨降って地固まる。帰るところは、ちゃんと用意されているのだと、プッチャンはまた嬉しくなった。

「ねぇ、やよいさん。あなた、私のことを仲間だと言ってくれたわよね?」

 延々と続く暗闇の回廊を、直感だけで突き進むファルとやよい。
 道中、ファルがファルシータとして、初めてやよいに話を持ちかけた。

「あれは、ネムに対しての言葉? いまでも、私はあなたたちと一緒で……いいのかしら?」
「はい、大丈夫です!」
「いつか、私のせいで痛い目を見ることになるかもしれないわよ?」
「そんなの、へっちゃらです! 私だって、ファルさんと一緒だから!」
「一緒?」

 互いに走りながら、併走する者の顔を見やりながら、言葉を放り合う。
 健康的でいて、子供っぽくもあり、だからこそ希望が持てる。
 プッチャンは、やよいの右手に嵌っていることを誇らしく思えた。

「私だって、アイドルだから! またみんなと一緒に、歌って踊りたいんです!」
「……ふふっ、そう。なら、やよいさんも私と一緒ね。歌のために、上を目指して……」

 疾走する若さが、互い互いに笑顔を齎した。
 朗らかな表情に、暗黒面は一切ない。
 このときばかりは、二人とも純粋な少女なのだと、プッチャンはたまらなくなった。

(りの。会長さん。俺の役目はまだ終わらない。このままもうちょっと、ここで頑張ってみるよ)

 まだ、蘭堂哲也として死人に戻る時期ではない。
 プッチャンは、新たな生き甲斐を見つけた。
 せめて、このゲームが終わるまでは。
 より多くの人たちに、極上の素晴らしさを伝えようと誓った。

 その、矢先。

 やよいとファルが足を止める。
 急な停止に釣られて、プッチャンも気づいた。
 前方の道とも壁とも判別のつかない暗闇に、少女が一人、立っている。
 胸元が肌蹴、素足が露出する、男物のワイシャツ一枚着込んだ、金髪の少女だった。

 見知らぬ人物の到来に、誰もが言葉を見失う。
 彼女は誰なのだろう、という疑問が脳内を駆け巡る内に、

「命ずる。引き返せ」

 ――気づくと、やよいたちの体は懺悔室の扉の前にあった。
 見慣れたステンドグラスが彼女らの帰還を知らせ、謎を呼ぶ。
 道を間違えたのだろうか……違う。
 意識して、彼女らは道を引き返したのだ。

「てけり・り?」

 懺悔室の前にいたダンセイニが、プッチャンと共に首を傾げる。
 トーニャやウェストの姿はない。

「ここ……礼拝堂だよな?」
「うう~、あ、あれぇ?」
「私たち……戻ってきてしまったの?」

 自らの意思で道を引き返してきたはずなのに、三者の心には疑問が蟠っていた。
 まるで引き返してきたこと自体が一種の気の迷いであったかのように、困惑する。

 覚えているのは、暗闇の回廊の先にいた、金毛の少女。
 首輪を嵌めていなかった、おそらくはゲーム参加者の中には含まれていない、イレギュラー。
 見覚えのない少女が発した言霊が、プッチャンたちの意識を支配したとでも言うのだろうか。

 後ろを振り向けば、懺悔室の先は変わらぬ暗闇で満たされていた。
 再びこの道を走り抜ける気には……不思議となれなかった。


 ◇ ◇ ◇


 《トーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナPROJECT③ これまで×これから》


 教会の外。
 未だ太陽は沈んでおり、夜ならではの寒気が心身を震えさせる。
 火照ったからだにはちょうどいい、熱冷まし代わりの外気が、ひどく気持ちよかった。

「……まったく、とんだ茶番に巻き込まれてしまったものです」

 疲れ果てたように、トーニャが夜空に愚痴る。
 推測に従って、ほんの気持ち程度に教会を調べるだけのはずだった。
 それが奏と再会したことにより、とんだ大事に発展して、新しく妙な縁もできてしまった。
 これが幸か不幸か、トーニャにはもはや、判断がつかない。

「てけり・り」

 トーニャが一人星空を眺めていると、教会の中からダンセイニが出てきた。
 マッチョスーツ型防弾チョッキをそのままに、デイパックを持ってトーニャへと促す。

「ダンセイニ。それはグッピーのデイパックですか?」
「てけり・り」
「荷物はちゃんと置いていったんですね。まったくご苦労なことです」
「てけり・り」

 トーニャは真人と違い、ダンセイニの言っていることなど欠片も理解できない。
 だからダンセイニが用いるジェスチャーから、おおよその真意を推理して会話を成す。
 その整合性は、ようするに慣れなのだろう。尽力する他ない。

「長い付き合いになりそうですからね……あなたとも、教会の中の人たちとも」
「てけり・り?」
「戻って来ているんでしょう? 強制的に送り返された、というほうが適切でしょうか」

 教会の中から、声が聞こえる。女の子の声が三つ分だ。

「簡単な説明は聞きましたが、どうやら主催者の本拠地に繋がっているようですからね。
 うそかまことか、はたまたなんの意図があってそんな構造にしたのか、甚だ理解しかねますが。
 殺し合いと銘打たれたゲームを放棄し、無闇に突入するのは感心しないということなのでしょう。
 入店の資格を得ても、店主が不在では意味がありませんからね。時期を待つべき、ということです」

 教会の懺悔室から繋がるという謎の古書店。
 話に聞くだけでも疑わしいが、そこに神の如き力が介入していることは事実だ。
 まだこの殺し合いの目的もシステムも判明していない現状、不足した経験値でのショートカットは成功しない。

「だから当分は……お守りにつき合ってあげますよ。これからは私も一緒です。ご苦労様、ダンセイニ」
「てけり・り」

 記憶喪失の少女に、純真すぎる子供に、大人ぶった子供に、筋肉バカ。
 それらの面倒を見てきたダンセイニを労うように、トーニャは微笑んだ。
 この笑みを、真人にも向けるべきだったのだろうか、と刹那の瞬間思う。

「……うへぇ」

 一瞬湧いた想いを払うように、トーニャは首を振る。
 真人は古書店への道を開いた。もう戻ってはこれないだろう。
 死に体だったとはいえ、彼は自ら、生け贄の役割を担ったのだ。

「まったく、馬鹿ばっかり」

 トーニャは自嘲気味に笑い、踵を返した。
 教会の中で燻っている二人と、再度コミュニケーションを取る必要もあるだろう。
 奏に、真人に、無責任にも二人分の任を丸投げされてしまったのだ――やるべき仕事は山とある。

「さーて、気合入れますかー!」
「てけり・り!」

 トーニャは軽く腕を回し、ダンセイニに空元気を見せ付ける。
 まったくウォッカの一杯でもなきゃやっていけませんわ~、とぼやきながら。

「あ、そういえば」

 教会の扉を潜ろうとした寸前、トーニャは思い出したように立ち止まる。

「なにやら妙に静かですが……そういえば、あの自称天才科学者はどこへ?」
「てけり・り?」


 ◇ ◇ ◇


 《ドクター・ウェストPROJECT② 疾走×暴走》


「のぉわぁーっはっはっは! ドォクタァァ――――ッ! ウェェェストッッ!!」

 漆黒の道を、馬鹿みたいに甲高い声が突っ走る。

「一度はダメよと言っておきながら、当の本人が一目散! これぞワルの諸行!
 そこに未知への扉があるというのなら、探求せずしてなにが科学者か!
 いーっひっひっひ! 我輩を追い返せるものなら追い返してみせませぇぇぇい!!」

 やよいとファルが引き返してきてすぐ、ドクター・ウェストは懺悔室から続く回廊へと特攻した。
 青春を謳歌するような若者の汗を迸らせ、激情的に、衝動的に、探求へとひ走る。

「教会の奥に隠された謎の施設! 禁忌への扉! その先に待つのはいったいなんなのか!?
 解明するは我輩ドクター・ウェスト! 全力疾走中ゆえ、フラッグを振る観客が欲しいところである。
 しかしながら広大な古書店やら謎の声やら地下の磔男やら主催本拠地行きエレベーターやら、どうにも信じがたい!
 否、信じがたければこの目で確かめてみるのが我輩ドクター・ウェストのやり方。
 それには危険も伴うであろうが、危険など恐れていては天才科学者は語れない、と我輩は主張する!
 失敗は成功の母という言葉があるが、我輩が素直に母ちゃんの言いつけを守ると思う、なよ!
 ぜ、はぁ……はぁ……ここらで、ちょい……小休止……ぜはっ、なので、ある…………ひぃー。
 ………………………………まっくろくろすけ出ておい……げふんげふん…………すーはーすー。
 ええいいつまでもこんな暗闇の中で休んでいられるかぁー! 我輩、暴走再開リフトオーフッ!」

 誰も存在しない虚無の空間で、ウェストは絶叫を上げ続ける。
 この先に待ち構えているのはいったいなんなのか?
 挑戦的な謎が、彼の探求者としてのツボを刺激する。
 未来、ウェストの前に現れるのは狐の少女か、それとも――


 ◇ ◇ ◇


 《井ノ原真人PROJECT③ 真相×終幕》


 カツ、カツ、カツ、と奏でられる足音。
 寺で調達したはずの僧衣は、いつの間にか元の学ランに変わっている。
 夢から覚めたゆえの格好か、神の粋な計らいか、自身の姿が懐かしく感じられた。

 井ノ原真人の辿り着いた先。
 背の高い本棚がいくつも立ち並ぶ、図書館のような広間。
 並べられている本を見てみれば、値札がついている。図書館ではなく書店のようだ。

 古書店のちょうど中央。
 設けられた読書スペースの一部に、場違いな丸テーブルが置かれていた。
 備えられた椅子は二脚、一つは空席で、もう一つには何者かが腰掛けている。
 瀟洒な眼鏡をかけ、胸元が盛大に開いたスーツを着込む、豊満な体を持った女だった。

「いらっしゃい。本をお探しかい?」
「いいや、ただの冷やかしだよ。で、あんたが黒幕さんかい?」

 正体の知れぬ女に対して、真人は警戒しながら接した。
 記憶を辿っても、この女の素性は知れない。
 だが、心のどこかでは気づいている。
 この女が何者なのか。
 ひょっとしたら、曖昧な前回の記憶に眠っているのかもしれない。

「そうだね……最後の機会だ。そうだよ、と答えようか」
「ちっ……まさかこんな姉ちゃんだったとはな。やられたぜ」
「意外かい?」
「いや、そうでもねぇさ。案外驚いてねぇ自分がいる。なんでだろうな」

 真人はもう一脚の椅子に腰をつけ、女と対峙する。

「それを知るために……君はここにやってきた。そうだろう?」
「ああ。一切合体話してもらうぜ」
「それを言うなら、一切合切じゃないかな?」
「一切合切話してもらうぜ!」
「言い直すんだ……フフ。おもしろいねぇ、君は」

 女の艶笑が、鼻につく。
 初めて会ったはずなのに、どうにもいけ好かない。
 やはり前回の記憶に起因しているのだろうか。
 真人は解を求めるべく、女を睨み据えた。

「そんなに怖い顔をしないでおくれよ。答えは示すさ……ほら」

 突如、テーブルの横に置かれていた本棚に映像が映し出される。
 不可思議な現象に疑問を持つ以前に、真人は映像の舞台を見て驚愕した。
 豪奢なステンドグラスと十字架が背景に映る、惨劇。
 答えとして示された映像の舞台は、先ほどまで身を置いていた教会だった。

『うっうー! 違います、私じゃありません! 信じてください!』
『騙されては駄目よ、真人さん。あの場でウェストさんを殺害できたのは、やよいさんしかいない』
『畜生……そうは言うがよ、ファル! なにも殺すことなんて……』
『なにを言っているんですかグッピー! 彼女は銃を持っています。ここで始末しなければいつかやられますよ!?』
『てけり・り!』
『おまえら、なんでやよいのことが信じられねぇんだよ!?』
『違います……ちがう……わたしじゃ、ないのに……』
『くっ……くそ……ちくしょおおおおおお!!』

 ダンセイニが、甲高く、鳴き声をあげる。
 トーニャが、厳しく、やよいを糾弾する。
 真人が、銃で、やよいを撃つ。
 やよいが、銃で、真人に撃たれる。
 プッチャンも、やよいと共に、果てる。
 ファルが、にたり、と笑っていた。

 ――全てが重なる。
 真人が抱えていた、前回の記憶。
 信心の浅さが招いた、愚挙の連鎖。
 どこか儚げで元気だった少女の、死。
 真人が引き金を引いた、死。
 信じていれば訪れなかった、死。
 繋がって、謎は消化される。

「――これが、全容さ。君が信じたファルシータ・フォーセットは、こういう人間だったのさ」

 本棚に灯った映像の残滓が、ぷつりと消えていく。
 焼きついた光景は、彼になにを齎したのか。
 真人は女と顔を合わせず、黙りこくる。

「君は前回、信じなかったからああなった。けれど今回は、信じすぎたがためにこうなるだろうね。
 そうやって、物語は繰り返すのさ。何度も、何度も、違う展開をなぞり――最後は、全て同じ結末に」

 選択を誤ったのだという、予言。
 女が誇示する陰険な自信に、真人は鼻を鳴らした。
 口元を緩やかに、綻ばせることも忘れずに。

「おめぇ、なに言ってんだ? ひょっとしてあれか、頭がちょっとかわいそうな人か」

 まったく堪えてないといった調子で、真人は尊大に腕組みをした。
 豪気な態度を普段のままに、物怖じせず。一分の動揺も見せずに。
 真人は、熱く語る。

「今、やっとわかったぜ。俺の中にあった前回の記憶……こんなもんは、単なる作りものだったんだってな」

 心臓に手をあてがい、自嘲気味に笑う。
 チープなトリックに翻弄され続けたものだ、と自らの失態を省みる。

「だいたいよ、俺があんな記憶力いいわけねぇだろうが。初めっからおかしかったんだよなぁ。
 知らず知らずの内に、黒幕様のおもちゃにされてたってわけだ。はっ、自分の馬鹿さ加減に笑えてくらぁ」

 前回の断片的な記憶など、作りものに過ぎない。
 どころか、おそらくは前回などというものも存在しなかった。
 たったいま見た真実の光景も、てんでデタラメ。
 死に逝く男への手向けか、絶望を背負わせて死ぬことを望む、悪趣味な道楽か。

「あいつらなら大丈夫だよ。ずっと見てたんだろ? なら、わかりきったもんじゃねぇか」

 女の趣味などどうでもいい。真実が知れた今、この場に長く留まっている理由もないだろう。
 残してきた仲間たちへの憂いも、まったくない。
 彼女たちは、立派にやり遂げる。
 幸せへの歩みを、やめず。

 互いに、手を取り合いながら。

 ゴールを目指して、頑張り続ける。

「覚えとけ。馬鹿は信心深いんだ。めいいっぱい、馬鹿感染させてやったからな。あいつらはもう、馬鹿やらねぇさ……」
「……フフ……ははは……あはははは……あははははははははははは!」

 気勢を削がれていく、真人の言霊。
 無色、感情の窺えぬ、女の高笑い。
 生と死の転換が、訪れては消える。

(バックミュージックにしちゃ悪趣味だが……贅沢言える身分でもねぇか)

 真人の腕組みが解かれ、だらん、と力を失う。
 椅子に凭れながら、こくり、と首が垂れる。
 血走っていた目は、すすっ、と落ちていった。

「…………ありがとな。こんな馬鹿に、つきあってくれて」

 最後にもう一度、別れを告げて。
 井ノ原真人は、燃え尽きた。


【神宮司奏@極上生徒会 死亡】
【井ノ原真人@リトルバスターズ! 死亡】


【B-1 教会/二日目 黎明】


【ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン】
【装備】:パジャマ
【所持品】:支給品一式、リュックサック、救急箱、その他色々な日用品、デッキブラシ
      ピオーヴァ音楽学院の制服(スカートが裂けている)@シンフォニック=レイン、
      ダーク@Fate/staynight[RealtaNua]、イリヤの服とコート@Fate/staynight[RealtaNua]
【状態】:精神疲労(小)、頭に包帯
【思考・行動】
 基本:元の世界に帰る……『仲間』と『利用し合って』。
 0:ここが―――私の居場所。
 1:教会で休憩。みんなと話をしたい。
【備考】
※ファルの登場時期は、ファルエンド後からです。


【高槻やよい@THEIDOLM@STER】
【装備】:プッチャン(右手)、シスターの制服
【所持品】:支給品一式(食料なし)、弾丸全種セット(100発入り、37mmスタンダード弾のみ95発)、
      かんじドリル、ナコト写本@機神咆哮デモンベイン、木彫りのヒトデ10/64、
      エクスカリバーMk2マルチショット・ライオットガン(4/5)@現実
【状態】:元気
【思考・行動】
 1:ファルやトーニャともっと仲良くなりたい。
 2:真と合流したい。
 3:古書店の店主をどうにかして味方に引きずり込む。
 4:暇ができたら漢字ドリルをやる。
【備考】
 ※博物館に展示されていた情報をうろ覚えながら覚えています。
 ※死者蘇生と平行世界について知りました。
 ※教会の地下を発見。とある古書店に訪れました。
 ※古書店の店主は黒幕、だけどそんなに悪い人じゃないと睨んでいます。

【プッチャン@極上生徒会】
【装備】:ルールブレイカー@Fate/staynight[RealtaNua]
【状態】:元気
【思考・行動】
 基本:りのの想いを受け継いで――みんなに極上な日々を。
 1:やよいと一緒に行動。
 2:古書店の店主をどうにかして味方に引きずり込む。


【アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ@あやかしびと-幻妖異聞録-】
【装備】:ゲイボルク(異臭付き)@Fate/staynight[RealtaNua] 、マッチョスーツ型防弾チョッキ@現実【INダンセイニ@機神咆哮デモンベイン】
【所持品】:支給品一式×2、不明支給品0~2、スペツナズナイフの刃、智天使薬(濃)@あやかしびと-幻妖異聞録-、
      レトルト食品×11、スラッグ弾30、予備の水×2、SPAS12ゲージ(6/6)@あやかしびと-幻妖異聞録-、
      大山祈の愛読書@つよきす -Mighty Heart-、首輪探知レーダー(残り約X時間)、単三電池袋詰め(数十本)、
      餡かけ炒飯(レトルトパック)×3、制服(破れかけ) 、銅像、弥勒@舞-HiME 運命の系統樹、
      超高性能イヤホン型ネゴシエイター養成機@極上生徒会
【状態】:健康
【思考・行動】
 基本方針:打倒主催。ダンセイニと共に仲間のお守りを引き受ける。
 0ドクター・ウェストはいずこへ?
 1:まずは交流……ですかね。
 2:首輪の情報を吟味する。
 3:藤乃静留を探し出し、主催者(神崎黎人)の情報を絞り取る。
 4:主催者への反抗のための仲間を集める。
 5:地図に記された各施設を廻り、仮説を検証する。
 6:クリスを警戒。ツヴァイも念のため警戒。
 7:時期が来たら、懺悔室の先に踏み込むことを検討する。
【備考】
 ※制限によりトーニャの能力『キキーモラ』は10m程度までしか伸ばせません。先端の金属錘は鉛製です。
【トーニャの仮説】
 ※八咫烏のような大妖怪が神父達の裏に居ると睨んでいます。ドクターウェストと情報交換をしたことで確信を深めました。
 ※地図に明記された各施設は、なにかしらの意味を持っている。
 ※禁止エリアには何か隠されているかもしれない。
【ダンセイニの説明】
アル・アジフのペット兼ベッド。柔軟に変形できる、ショゴスという種族。
言葉は「てけり・り」しか口にしないが毎回声が違う。
持ち主から、極端に離れることはないようです。
皆のリーダー役であろうという使命感に満ちています。


【B-1 教会・懺悔室の扉の奥?/二日目 黎明】


【ドクター・ウェスト@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:なし
【所持品】支給品一式 、首輪(岡崎朋也)、
     九鬼の置き手紙、スーパーウェスト爆走ステージ『魂のファイアーボンバー』の鍵
【状態】:疲労(大)、左脇腹に二つの銃創(処置済み)
【思考・行動】
基本方針:我輩の科学力は宇宙一ィィィィーーーーッ!!!!
1:この道をひた走る。はたしてそこに待っているものとは――!?(次回につづく)
2:ま、なにもなかったらとっとと戻るのである。凡才共を待たせるのも悪いであるからな!
3:知人(大十字九郎)やクリスたちと合流する。
4:ついでに計算とやらも探す。
5:霊力に興味。
6:凡骨リボン(藤林杏)の冥福を祈る。
【備考】
※マスター・テリオンと主催者になんらかの関係があるのではないかと思っています。
ドライを警戒しています。
※フォルテールをある程度の魔力持ちか魔術師にしか弾けない楽器だと推測しました。
※杏とトーニャと真人と情報交換しました。参加者は異なる世界から連れてこられたと確信しました。
※クリスはなにか精神錯覚、幻覚を見ていると判断。今のところ危険性はないと見てます。
※りのの伝心、第四回放送を聞き逃しました。


214:団結(Ⅲ) 投下順 215:吊り天秤は僅かに傾く
時系列順 218:DEAT SET/イグニッション
ドクター・ウェスト 221:知己との初対面
アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ
高槻やよい
ファルシータ・フォーセット
井ノ原真人
神宮司奏
ナイア 230:構図がひとつ変わる
すず 221:知己との初対面


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