ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

The knife in the blue

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The knife in the blue ◆AZWNjKqIBQ氏



朝を向かえ白み始めた街中を疾走する一つの姿がある。

所々に罅割れの見えるアスファルトの上をその少女はただひたすらに逃げ続けていた。
今や唯一の相棒とも言える存在であるところの一台のマウンテンバイクに跨りただ走り続けている。
ものは言わないが決して逆らいもしない彼女の意に正確に応えてくれるそれと共に陽を背に駆け続ける。

陽の光に髪を黄金色に輝かせ、吹く風にそれをなびかせている少女――山辺美希

彼女が逃げる理由は至ってシンプルだ。
殺されそうな相手からは逃げる。
最早これ以上の説明は一切不要だと断じることができるぐらいに簡単で当たり前のこと。
それに従い彼女は左右のペダルを力強くこぎ、ただひたすらに朝の街中を突っ切ってゆく。

走りやすそうな道を選んで右に左に、信号なども守る必要もなく車道も歩道もおかまいなしに走る。
この島に来て初めて乗ったマウンテンバイクだったが、丸一日も付き合っていればもう慣れたもので、
細かい段差もなんのその、背負ったバックを揺らしながら踏破に踏破を重ねる。
小さく寂れた公園を横切りショートカット――少女は更に西へ西へと進んでゆく。

何故、西なのか?
これも至極簡単であり……先刻、鉄橋を崩壊に至らしめた面々より逃げるためだからだ。
その場所には4人の危険人物が存在した。

ユメイ」「吾妻玲二」「深優・グーリア」「九鬼耀鋼

その内3人は諸共に川の中へと転落した。
恐らくは死んだのではないかと想像できる。だが、決して確認しにいこうなどとは美希は思わない。
君子危うきに近寄らず――この言葉を借りるまでもなく、命を賭けるに値する事柄など存在しないと彼女は思っている。

命が、自分が、大事。
だから危ういと察すれば何をおいても逃亡する。
それが、彼女が己の中からAの文字を一つ減らすほどに繰り返された一週間の中で得た教訓だ。
なので、最後の危険人物であるユメイ――彼女からも美希は逃げる。
このゲームはあくまで生き残りを賭けたゲームであって、スコアを競う殺し合いでは断じてないのだから。
決して悪びれることもなく、ただひたすらに、ペダルをこぎ、美希は逃亡するのである――と、


彼女を取り巻く世界が、紅く、染まった。


◆ ◆ ◆


……しかしそれはあくまでほんの少しの時間だけ、
何かに反射したせいなのか朝焼けの赤色がちょっと強く見えただけだった。
それでも、ただのその赤色は美希にペダルをこぐのを休ませる程度には意味はあった。

「――すこし、びっくりしましたです、はい」

冷や汗交じりのひたいをぬぐいながら、美希は冗談めかして一人ごちる。
東を――陽の方を振り向いてももうそこには彼女を驚かせる赤色はない。ただ澄み渡った透明な青色があるだけだ。
そこには追って来る者の姿も見られず、もう十分に距離は稼げたかと……そして、
次の放送が近いことを確認すると美希は自転車を路地の中へと押して入り、影の中に腰を下ろすと人心地ついた。
そして、先の赤色から連想するある疑問を頭の中に浮かべる。

「(ここを生き残れば、次には――来週には何が待っているんだろう……?)」

彼女が過ごしてきた、延々と繰り返される同じ一週間。
それは月曜日の朝から始まり、日曜日の夕方――夕暮れよりもなお赤い、紅い空の出現をもって元へと巻き戻る。
固有の存在である方法を見つけ出し、用い続けていた美希を残して何もかもが元通りに戻っていた。

「(太一先輩は……霧ちんは……、またあの1週間の中に戻ったのでしょうか?)」

細い路地の中から細い線のような青空を見上げ美希は思案し想いを馳せる。
あの繰り返しの1週間にどんな意味があったのか、どういう理屈でそうなっていたのか何も思い当たることはない。
どうして人類と生物は消え去ってしまったのか、最後に残された8人がどうして自分達だったのかそれもわからない。
そして、その行き着く果てにこんな殺し合いが待っている理由なども――

「……地獄、だったり」

まさか――と、美希は自分の考えに苦笑した。
繰り返される1週間の中で数え切れないほどの罪を犯したから、何度もみんなを欺き殺したからこの結果なのかと、
しかしそんなことはやはりわからない。だけど、少しだけ魅力のある説でもあった。

「(優勝すれば、望みが叶えられる…………ほんとかわかりませんけど)」

この地獄の様な場所で己の罪を清算できるのだとすれば、生き残ることでやりなおしの機会が与えられるならば、
それは決して悪いことばかりではない。
繰り返しの1週間の中で固有の時間を生きる美希だけは、成長する。いつかは露見し破綻する時が来るのだ。
黒須太一はAの一文字が失われていることを訝しがっていたし、支倉曜子はもっと細かい差異に気付いていたかもしれない。
遠からずより厳しい局面に立たされる……と考えれば、このゲームとやらは渡りに船だったとも言える。


「――”来週”を、望んでもいいのかな」


本来あるべき時の流れの中に戻れたなら、あの1週間の先へと進むことができるのならばそれは――
決して幸せがあるとは限らない。そんな安易にハッピーエンドを迎えられるような人間達ではなかったけど――
みんなが、同じ時を、生きられるというのならば――

空を見上げる記憶を思い出として共有できるのならば、それは――


 ◆ ◆ ◆


「ははは。やだな、なんでだろう? ここに来てからどうしてか涙もろいです」

笑ってはいたが、泣いてもいた。
とりつくろうのは得意でも、しかし本当はそんなに強くもなかった。
だから――

「――がんばりましょう。美希が優勝できる目もそろそろ見えてきたところです」

グ、と涙をぬぐい美希はほがらかな笑顔を見せる。
強さを持たない彼女が繰り返しの1週間を生き抜けたのは運もあるが、ひとえに弛まぬ努力の結果だ。
故にこの場においても彼女は固有の自分を守るためにそれを繰り返す。

そして、実際にも現状は彼女にとっては有利であるとそう見えた。
美希はゲームの参加者の名前が連ねられたメモを取り出し、それを今一度確認する。


 ○ 大文字九郎 ←使えない 変態 隠せ!
 ○ 源千華留 ←めんどーみのいいおねーさん
 ○  玖我なつき    ←おこりっぽい けっこう弱い
 ○ 杉浦碧    ←つかえないー 別にうらやましくなんかない
 ○ 高槻やよい ←すなおな生徒さんだとか? byくずきせんせい
 ○ 菊池真     ←やよいさんのお友達 あんまりアイドルっぽくないかと思ったり
 ○ 羽藤桂    ←安全? byそーひちふろーむある
 ○ 千羽鳥月  ←うえに同じく
 ○  アントなんとか←そーひちさんのお友達だそうで
 ○ アルアジフ  ←変態の仲間 ロリ趣味? やっぱ変態かも
 ○  ドクターウエスト ←変態の仲間 これも変態っぽい 首輪を外せるとかくきさんが
 ○  神宮寺奏 ←いい人? byそーひちふろむアル
 ○   クリスヴェルディン   ←上に同じ なごみさんの敵らしいので
 ○   ファルシ~タフォーセット←上に同じ なのかな?
 ○    西園寺世界    ←(変な名前)
 ○  藤乃静留   ←りきさんから綺麗な人だと なつきさんからと深優さんからも
 ○  来ヶ谷唯湖  ←くるがやと読むとりきさんから教えてもらいました
 ○  井ノ原真人  ←筋肉だとか? いーひと
 ●  九鬼  ←お亡くなりになられたでしょうか
 ●  ユメイ  ←変態をころそーとしてたのはこの人でした 怖いちょうちょ
 ●   吾妻玲二 ←川に落ちるのを見ましたです
 ●   衛宮士郎 ←手からミサイルをうつそーです ロボットですか?
 ●    深優グリーア←さつじんマシーンです 川に落ちるのをみました


美希が●をつけた危険人物はもう残り少ない上に、そのうち3人(九鬼、玲二、深優)が死亡か重傷を期待できる。
残った片方である士郎にしても、双七、深優との交戦があった以上、同様の結果に陥っている可能性は大だ。
そうなると、残った●はユメイ一人となる。

「もいっかい、なつきさんや碧さんと会えると都合がよいのですけど……」

ゲームは終盤。この先は長く守ってもらう盾よりも、ほしいのは危険人物と相殺できる戦える愚者。
先に出会った、大文字九郎や杉浦碧、玖我なつきあたりがこれに相当する。
また他の何人かの戦う力を持ったもの――例えば九郎のパートナーであるらしいアル・アジフなどを扇動できれば儲けものだろう。
そして残った○の人物のうち、ほとんどは自身と変わらない普通の少年少女ばかり――と、そうなれば美希にも勝ち目は十分にあった。
適度に情報を集めつつ逃げに徹してきた成果がここにきて表れてきたのだ。

「とりあえずは誰かに会わないと……ですね」

害がないと思っている人間の中に自身の様な殺意を隠している者が紛れている可能性はゼロではない。
例えば先ほど見たばかりのユメイや深優も、ある者からは安全だと判断されていたりしたのだ。
とはいえ、ここで引き篭もりを始めてことの推移を見守り続けるのもよくはない。

重要なのは、生き残った自分以外のもう一人が自分にとって殺せる相手なのか? ということである。

人数も程よく減ってきて、そしてそれなりの情報も集まっている。
何より危険で強力な、決して自身の力では殺せそうもなさそうな人間のほとんどが消耗状態にあると推測できるのだ。
この期を逃すという選択はない。

自分よりも強い駒を他の駒を当てて落としてゆく――そして全体のグレードを下げ、最終的には自身が最強の状態を作り出す。

今はそれを押し進める絶好の機会であり、
それは山辺美希が固有であった1週間の中で、そしてこの殺し合いの中で繰り返したきたことだ。


彼女に個としての強さはない。だがしかし、彼女はここに残った誰よりも生き残ることに長けてるのだ。


 ◆ ◆ ◆


「さて……、では次は”教会”ですかね」

地図を一瞥すると美希は次の目的地を教会と定めた。
先に述べたように東へと戻る選択肢は存在しない。加えて山を越えて南に向かうというのも目的を考えると重要度は下がる。

「誰か……できれば集団でいてくれると美希は助かるのですけど」

今、美希が出会いたいのは安全かつ消極的……しかし他人との接触を望む無害な人間の集団だ。
ただ隠れたり逃げたりするというのならば、何も地図に記された建物の中にいる必要はない。
そこら中にあるどこか民家の中にでも飛び込めばいい、よっぽどのことがない限りは見つかったりしないだろう。
しかし誰かに会いたい人間は地図上の施設に必ず立ち寄る。なぜならば、そこにしか誰にとってもの当てが無いからだ。

「かくれんぼするならここだと思うのですよね」

それらを考慮するならば、他者と安全に合流したいという者は端っこの普通だと立ち寄らない場所を使う可能性が高い。
例えば北東の端にある”ツインタワー”や、北西の端にある”教会”など、だ。
つまりは――誰もこなさそうな場所を安全地帯として使おうとしている人間を探しに行く――となる。



「できればそこで、ご相伴にあずかれると美希としては嬉しいのですが……」


く~となるおなかをさすり、美希はもう一度青い空を見上げる。



暗い路地の影の中を切り裂く、青いナイフの様な、まるで誰かの様なそんな空を、ただ見上げている――





【C-2 ダウンタウン/二日目 早朝(放送直前)】
【山辺美希@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備】:イングラムM10(31/32)、投げナイフ(×4)
【所持品】:支給品一式×3
 イングラムM10のマガジン(32/32×3)(9ミリ弾)、コルト・パイソン(6/6)、.357マグナム弾(×10)、スタンガン
 木彫りのヒトデ(×7)@CLANNAD、ノートパソコン、MTB、『全参加者情報』と書かれたディスク@GR2オリジナル
【状態】:疲労(弱)、銃の擦過傷(右肩)、擦り傷(左膝)、空腹(弱)
【思考・行動】
 基本方針:自身の生存を最優先。集団に紛れながら優勝を目指す。
 0:放送を聞く。
 1:教会へと向かい、人がいれば慎重に接触。
  -使えると判断すれば、ユメイ他の危険人物に当てるよう画策する。
 2:教会に人がいなければ南西へと向かい、そこで人を探す。
 3:自分より強い者(特にHiMEなどの異能者)を警戒し、脱落するよう仕向ける。

【備考】
 ※参加者が違う平行世界から来ている可能性を考えています。
 ※バトルロワイアルにおける固有化した存在がいるのではと想像しています。
 ※詳細名簿のデータを一通り閲覧しました。


230:構図がひとつ変わる 投下順 232:第5回放送
229:反逆の狼煙、そして受け継がれる遺志 時系列順 230:構図がひとつ変わる
227:この大地を残酷に、美しく照らす 山辺美希 237:THE GAMEM@STER SP(Ⅰ)


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