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  • 鴉片のパイプ

harukaze_lab @ ウィキ

鴉片のパイプ

最終更新:2019年10月31日 19:47

harukaze_lab

- view
管理者のみ編集可
鴉片のパイプ
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)悒鬱《ゆううつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時|凡《す》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#「火+焦」、第4水準2-80-3]
-------------------------------------------------------

 その日私はひどく悒鬱《ゆううつ》でした。
 朝からどうにも救いようのない程絶望的な気持で、家にも街にも身の置場《おきば》のない感じだったのです、それで彼と一緒に酒でも飲んだらばと思って、近田を訪ねたのでした。
 彼は私の顔をひと眼見るなり、どんな気持で私が来たかを直《す》ぐに見抜いたのでしょう、彼独特のねばい微笑を浮かべながら、黙って私をその寝室へ導きました。そして贅沢《ぜいたく》な煙草架《たばこかけ》から、妙な菌形《きのこがた》の陶器の附いているブライヤアの管を取上《とりあ》げて、
「是《これ》を喫《す》ってみないか」と云《い》うのです。
 ひと眼見ると直ぐ、逆《さから》い難い好奇心が私を確《しか》と掴みました。私は与えられた長椅子《ながいす》に腰を下ろしてその管を受取《うけと》り、吸口《すいくち》に口をつけて二三度吸いました。その時――その菌形の円筒の内側で燻《くん》じていたチョコレエト色の粘土のような物が、鴉片《あへん》であろうとは凡《およ》そ私にも想像されたことです。
「余り一度に喫わないで――吐気《はきけ》がくるかも知れぬから」
 彼がそう注意して呉《く》れた瞬間、私は不意にくらくらとひどい眩暈《めまい》を感じ、宿酔《ふつかよい》に似てもっともっと不快な悪心《おしん》が胸を圧《おし》つけました、併《しか》し別に嘔吐するようなことはありませんでした。
 私は近田の家を辞して帰る途中、曾《かつ》て読んだ佐藤春夫の「指紋」や、ゴオチエの「鴉片パイプ」という小品や、それからデクインシイの有名な「鴉片吸喫者の手記」などを想起しました。殊にデクインシイが、適量の鴉片は無害である許《ばかり》か、かえって精神活動を昂《たか》め、霊的能力を煽揚《せんよう》するものであると云っている事を、強く強く思出《おもいだ》しました。
 最初の幻魘《げんえん》は、それから私が家に帰って、書斎で新着の「パリイ・メエル」の封を切っていた時に起りました。突然私は近田の部屋で感じた時のような、けれど遥《はるか》に軽微な眩暈《めまい》の起るのを覚えましたので、紙切小刀《ペーパーナイフ》を擱《お》いて眼を閉じました。すると眼瞼《まぶた》の裏に、微妙な熾烈な色彩を閃発する無数の翅虫《はむし》が、縦横に飛交《とびか》うのを見たのです。
 ――是はどうしたことだ。
 そう呟《つぶやき》ながら眼を明《あ》こうとすると、私の体は重さを喪《うしな》って、ふわりと空に浮上《うきあが》ったのです。その時|凡《す》べての物が私の視界からぐうん! と遠退《とおの》き、感覚の麻痺して行く耐え難い快感が私を恍惚とさせました。
 そこへ妻が入って来たのです。彼女は私を寝間へ誘いに来たのでした。私は紙切小刀《ペーパーナイフ》を取上げて、切りかけの外国雑誌の封を切り、その他読みさしの美術雑誌を二冊抱えて、妻と一緒に書斎を出ました、その時十時が鳴っていたのをはっきり覚えて居ります。
 寝間へ行ってみると、常には離してある私達の寝台が、ぴったり寄せてあるのです、その上に掛蒲団《かけぶとん》は久しく用いなかった紅襦子《くれないしゅす》の方が出してありました。
 振返《ふりかえ》ると、妻はついぞ着たことのない派手な長襦袢に着換えているところです。はだけている衿から小麦色の緊《し》まった肌が見え、かたく盛上《もりあが》った豊な乳房が見えた時、私は突然烈しい愛慾に唆《そそ》られて妻にとびつきました。
「あ……貴方《あなた》!」
 妻の生温《なまあたたか》い息吹を吸いとりながら、私の手は彼女の肌の中に滑り込み、なかば我を忘れて妻の乳房をまさぐるのでした。そして或抑え難い衝動に私が呻《うめ》き声をあげると、妻は私の肌に爪を立てながら、淫蕩的に笑いました。
 ――痛いような快楽。
 私はその夜はじめて、痛いような快楽と云うものを知ったのです。それは実に骨を削られるにも似た感じです、痛さから云っても、亦《また》快感から云っても――。
 妻の指は寝台の掛帛《シーツ》を掻破《かきやぶ》り、側卓子《サイドテーブル》は音高く倒れました。妻は死の苦痛を思わせるような皺を眉間に刻みながら、獣の喘ぐような声で叫ぶのです、
「――頸を絞めつけて、頂戴!」
 凡べてが雲に包まれたようです、私は云われるままに妻の頸を掴み、筋肉の中へ両手の指を鉤《かぎ》の如く突込《つっこ》んだのです。
 緊密な狂おしい接触の中に溶けこんでいる妻の体は此《この》時のけぞり、其《その》顔はたちまち醜く歪み、舌を吐出して白眼を剥出《むきだ》しました。ああ、あの時の彼女の失神した表情が、私にはどんなに美し見えたことでしょう。
 ばりばりと音をたてて、当るに任せて私の肌を掻毟《かきむし》る妻の爪は、私の歓楽を弥増《いやま》しに唆《そそ》るのみでした。やがて私は、まるすぐり[#「まるすぐり」に傍点]の実のようにふつふつと血斑《チアノーゼ》の出来る妻の死面の上へ、快感の絶頂に顫慄《せんりつ》しながらうち倒れ、その儘《まま》気を喪って了《しま》いました。
 この幻魘は非常に現実的で、それから覚醒して後も暫《しばら》くは、それが鴉片の作用による夢であったとは信じきれませんでした。私は茫然として、併し歇《や》み難い慾望を以《もっ》て、熱く熱くあの菌形のパイプに惹かれて行きました。

 妻は私のひどく変った事に気が附いたようです。
 その時私か近田のところから帰って、既に幻魘が始まるように思われましたので、真直《まっす》ぐに寝室へ入って行きますと、妻が足早に追って来て、
「今夜は私もこのお部屋で寝かせて頂きますわ」
 と云うのでした。
 誰にも煩《わずら》わされることなく、鴉片の幻魘に耽《ふけ》り度《た》いため、既にその時私は寝室を別べつにしていた事を申上《もうしあ》げましたかしらん。私は妻の申出を拒む積《つも》りでしたが、彼女は否応なしに寝室へ入って来てそこに停まりました。
 勿論それでも私の快楽には支障はなかったのです。妻は朝まで私を看視し、絶えず寝息を窺っていたようですが、そんな事で私は自分を見透かされはしません、私は蝸牛《かたつむり》のように自分の殻の中に籠《こも》り、秘密の快楽に耽溺しました。
 明け方近く、妻は遂《つい》に疲れて眠りこんで了《しま》いました、そこで私はそっと寝台を下りようとしたのですが、ふとして妻の片脚が、掛蒲団からはみ出ているのを見つけました。それは肥えてじっとりと脂の浮いた太腿でした。シェエドを透いて来る薄紅色の枕灯の光で、内股を走っている太い静脈が見えます、私は妻の上に腹這《はらばい》になって、その静脈の透いて見える温かい内腿へ唇をつけようとしたのです。するとその気配で眼を覚ました妻が、怖ろしい声で喚き、怯《おび》えたように寝台を跳び下りて夢中で部屋の隅へ身を竦《すく》めました。
 乱れた衿、捲くれ上った裾から、逞しい裸の肌が挑むようにこぼれて見えます。膝を固めて蹲《かが》んだ腰の曲線が、裸の足が、※[#「火+焦」、第4水準2-80-3]《かがや》くように私の慾情に襲い掛って来るのです。何とも知れぬ惨忍な衝動が私の手足にのたうち始めました。私は妻に跳びかかり、その頸を掴んで引起《ひきおこ》しました、その時私は不意に、
 ――是は矢張《やはり》、鴉片の幻魘であろうか、それとも現実の出来事であろうか。
 と云う疑問を感じて慄然としました。
 併しその反省はほんの一瞬にして消え去りました。そして既にその時妻の露わな裸体は寝台の上で、私の節くれだつ腕に絞めつけられながら、刺された蜥蜴《とかげ》のようにのたうっていたのです。
 それは実に身顫《みぶる》いの出る幻影でした、妻は嚇《かく》と充血した両眼を剥出して私を睨みなから毛物《けもの》のようにはあはあと喘ぎ、舌を吐きだすのです、涎《よだれ》は泉の如くに端をぬめぬめと濡らしていました。雲が私達を包み、強烈な色彩の翅虫《はむし》が、妻の顔の周囲を、ちらちらと無数に飛交うのです、妻の喉から吐き出される喘音《ぜんおん》は、荒あらしく寝室の壁に反響し、何か音高く倒れる物の気配がしました。そしてそれらの物音の遥にはるかに遠くで、静かな妻の声が私に斯《こ》う呼びかけているようでした。
「あなた――あなた、夢に魘《うな》されていらっしゃるんですわ」

 幻魘から醒めると、私はひどい疲労と渇きを覚えるのが常でした。
 ふと我にかえって、枕元の側卓子《サイドテーブル》をさぐりましたが、どうしたのか毎《いつ》もそこに置いてある水|壜《びん》がありません。仕方なく石のように重い体を起して寝台を下り、洗面台――それは寝室の内に備えてあるのです――へ行きました。栓を捻《ひね》って迸《ほとばし》り出る水を掌で掬《すく》って、貪《むさぼ》るように飲んで居りますと、扉をすっと明けて妻が入って来ました。そして恨めし相《そう》に、
「昨夜は何処《どこ》へ行っていらしったのですか、私は一晩中門の外へ出て、あなたの帰って来るのを待っていたのですよ。ごらんなさい、私の手はまだこんなに氷のように冷《つ》めたいんです!」
 そう云うと、つかつかと近寄って来て、掌を私の頬へ打《うち》つけました、それは実に冷めたくて身慄《みぶる》いの出るほどこたえました。私が驚いて後ろへ退《さが》りますと、妻は尚《なお》も詰寄《つめよ》って来て頬打をくれるのです。私は出し放しにしてある洗面台の水の迸る音を聞きながら、執念《しつこ》く打続ける妻の、妖しく昂奮して、燃えるような眸《ひとみ》を覓《みつ》め飽きませんでした。
 私が黙もくとして抗わぬのを見ると、妻は私に獅噛《しがみ》つき、私の頸を両手で掴んで豹のように爪をたてました、息苦しさに首を振りながらも、私は別に妻の手から※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56]《のが》れようとは思いませんでした。
 妻の爪がぐんぐんと喉頸に喰込《くいこ》んで来るとき、私は新しい眼の眩《くら》むような快楽がそこから全身に弘《ひろ》がるのを感じました。彼女は私の上にのし掛り、惨忍に唇を歪め、絞《しめ》つける努力の為にひどく涎を垂らしていました。
 併しその時私は再び、突然として、あの怖ろしい疑問に呼覚《よびさま》まされたのです、
 ――是は本当に鴉片の魘夢であろうか。
 私は一瞬間意識を取戻したのでしょう、思わず恐ろしさに顫えあがりました。そして極度にすり寄せられた妻の、余りに生なましい悪の面を、縦横に飛交う美麗な翅虫《はむし》の、ちかちかと閃発する光の輪に眼が眩んで、窒息してゆく官能の激動に溺れながら失神して了《しま》いました。
 洗面台で迸る水の音が、どうしていつまでもあんなに耳について離れなかったのか、今でも私には分りません。

 私は全く理智を喪ってしまいました。私はその後何度、近田を訪ねたのでしょう。それとも最初の日一度だけしか訪ねていないのでしょうか。鴉片のパイプは、私の現実感と幻魘との境界を消し、私を雲で包み、凡べての概念から私を切離《きりはな》して了《しま》いました。
 私はいつ幻魘が始まるかを怖れながら、然《しか》も既に幻魘の中にいるのです。どうかすると、自分はまだ書斎にいて「パリイ・メエル」の封を切りかけているのではあるまいか? 否それよりも、初めに近田を訪ねて、彼の寝室で鴉片のパイプを喫った儘、かの長椅子の上で幻魘を見続けているのではあるまいか。

 もやもやとした雲が、私の意識を混沌《こんとん》の中から浮びあがらせる。すると軽微な快い眩暈《めまい》が起って、体全体がふわっと浮上るようです。私は寝返りをうって壁の方へ向きました、そして其処《そこ》にぐっすり眠っている妻をみつけました。
 私は静かに妻の寝息を窺いました、するとなま温かい体臭がむっと私の鼻を蔽《おお》ったのです、幻魘の中ではっきり匂《におい》を意識したのはその時が最初で、また最後だったと思います。尚よく顔を近づけて見ると、暑いかして鼻の頭や頬にうっすら汗が滲出《しみで》ています、私は薄い紫色の掛蒲団を、静かに静かに剥いでゆきました。
 寝衣がはだかっていたので、掛蒲団の下からは弾力のある彼女の裸の肌が現われました。妻は肌には白いもの[#「もの」に傍点]しか着ません、併し彼女の体にはその白いもの[#「もの」に傍点]が、どんなに淫蕩な色であったでしょう。抗い難い慾望に唆《そそ》られて、私が尚もその蒲団を彼女の腹の上まで捲くって行った時、ふっと妻は眼醒めました。
「まあ……どうなすって」
 審《いぶか》し相に些《ちょ》っと眉を寄せたかと思うと、直ぐに事情が分ったらしく、安心したように微笑し、両腕を伸ばして温かく私を抱擁するのでした。妻のなよやかな動作に反して、私は例の如く、その時既に彼女の体から肌の物を剥ぎ奪《と》りながら、狂おしい淫虐慾に襲われていたのです。妻は今|迄《まで》にない驚きの眼を以て私を見あげ、羞耻《しゅうち》のためにさっと赧《あか》くなって私の手から身を退こうとします、そこで私は妻の上にのしかかり、柔かいむっちり肥えた胸の上に股がって、毎《いつ》もの如く両手でその喉を掴みました。
 彼女は裂け相にまで眼を瞠り、何か奥くように唇をぱくぱくさせましたが、声にはならないで、壁穴をもれる風のような喘音しか出ませんでした。私はその時両の拇指《おやゆび》の下で、彼女の喉仏がごくごく二三度、強く上下に動くのを感じました。妻は恐ろしい力で乗り出し乗り出しします、そこで私は両腿で妻の体を圧《おさ》えつけ、両手の指を夢中で彼女の喉頸へ突込み続けました。
 妻の顔はひどく充血して歪み、唇を垂れ、だらだらと涎をだし始めるのです、半ば我を忘れて私は自分の唇を妻のに押当《おしあ》て、妻の裸な肌に自分のをすり寄せました、すると強いあくど[#「あくど」に傍点]い色彩を閃発する無数の蝶が、妻の口と眼と鼻とからひらひらと飛び出しては、空間に充満しながらくるくると非常な速度で廻転し始めるのでした。次《つい》で眩暈《めまい》が私を襲い、雲がもやもやと私の意識を渾沌の中へ沈めて了《しま》うのです。そして快い官能の弛緩を味《あじわ》いながら私は失神して行くのでした。

 ああ、私はこの幻魘からいつ醒めることが出来るのでしょう。
 誰か私に「お前は自分の妻を殺害したのだ」と云ったように覚えていますが、あれも鴉片の夢の中のことでしょうか。私は早く「パリイ・メエル」の封を切って読まなければならぬ、私はその批評を書くように頼まれているのですから。妻は此頃すっかり冷淡になって、私の前に姿も見せません、それは勿論私が鴉片などに耽溺している故でしょう。否、若《も》し斯うして話している事が既に、鴉片の夢の一部ではないかしらん。ああ、譬えようもなく美しい翅虫《はむし》が、さんらんと光を閃発しながら、無数に舞狂《まいくる》っています。眠い、大層眠い、どうか私を眠らせて下さい。

 検事は起立して云った。
[#ここから2字下げ]
検事 被告は斯《か》く虚妄を構えて、事件の本質を晦《くら》まそうとしているが、実に明瞭な詐略である。即ち彼は妻に恋人のある事を知るや、之《これ》を殺害する目的を以て、予《かね》て鴉片吸飲の前科ある友人を訪《おとな》い、これに乞うて鴉片のパイプを喫する如く見せ――この場合彼は喫飲の必要はなかったのである――之を反復しつつ、心神喪失者を装って遂に妻を絞殺したものである。要するに被告は法律の不備な条件、即ち「心身喪失時の犯罪は犯罪を構成せず」と云う穴を狙って殺人を犯したのである。併し被告は最初に於《おい》て最もばかげた失策をしていた、厳密なる検証の結果判明した事実に因《よ》ると、被告が喫飲したパイプには、初めから鴉片などは詰まっていなかったし、それに類する何物も詰まっていなかったのである。而《しか》して――、
[#ここで字下げ終わり]



底本:「山本周五郎探偵小説全集 第六巻 軍事探偵小説」作品社
   2008(平成20)年3月15日第1刷発行
底本の親本:生前未発表、「小説新潮」
   1996(平成8)年2月
初出:生前未発表、「小説新潮」
   1996(平成8)年2月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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