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  • 荒城の月

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荒城の月

最終更新:2019年11月01日 04:06

harukaze_lab

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荒城の月
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)寝台《ベッド》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|粁《キロ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)とぼけ[#「とぼけ」に傍点]
-------------------------------------------------------

[#3字下げ]城趾の亡霊[#「城趾の亡霊」は中見出し]

「お早う、まア子、お早う」
「起きてるわ、どうぞ」
 正子は新聞をおいて寝台《ベッド》の上へ起直《おきなお》った。――扉《ドア》をあけて入ってきた若い子爵、平松信之《ひらまつのぶゆき》は健康な腕をまる出しにした袖無し襯衣《シャツ》に半ズボンという姿。
「なんだ、まだそんな事しているのか、御飯前に城を見廻るって約束じゃないか」
「すぐ支度《したく》するわ、三分だけ待って」
「女の子の支度ときたら一分が一時間だからな」
「じゃアそうとして珈琲《コーヒー》を一杯だけ飲まして。ゆうべ汽車で眠れなかったんで、まだ判《はっ》きり眼が覚めないのよ」
「そんな事だろうと思ったよ」
 信之は笑いながら出ていった。
 ここは仙台市から二|粁《キロ》ばかり北西へ入った天城《あまぎ》高原にある平松家の別荘だ。――昔は加多荘藩《かたのしょうはん》といって平松家二万石の城下で、今も神楽山《かぐらやま》の中腹には、広い城跡が荒廃したまま残っている。その城跡を、いま信之は発掘させているのである。
 曾根正子は信之の許嫁《いいなずけ》で、夏のはじめから鎌倉の別荘へ行っていたのを、信之が城阯《しろあと》発掘の監督をするために来たあとを追って、昨夜《ゆうべ》おそくこの山荘へやって来たのである。
 自分で沸かした珈琲《コーヒー》を信之が運んでくると、散歩服に着替えた正子は、急いでヴェランダへ籐|椅子《いす》を持出《もちだ》した。
「有難《ありがと》う、いっしょに飲みましょうよ」
「当り前さ、――」
「威張らないで、お砂糖いくつ?」
「ひとつ」
 向い合って掛けると、正子はさっきまで読んでいた新聞を取りながら、
「ねえ信さん、なんの目的でお城を掘返《ほりかえ》していらっしゃるの? その訳話してよ」
「まだ話さなかったかね」
「猜《ずる》いわ、とぼけ[#「とぼけ」に傍点]て。こっちへ来たら話してやるってお約束じゃないの。――噂によると五百万両の軍用金が埋っているんだって?」
「ははははそれ聞いて、張切《はりき》ってやって来たんだね」
 信之は珈琲《コーヒー》をひと口|啜《すす》って、
「そんな噂は僕も聞いたよ。然《しか》しむろん出鱈目《でたらめ》さ。本当を云《い》うと、埋ってるのは仏像とお経なんだ」
「仏像とお経?」
 正子は眼を丸くした。
「そう云ったって軽蔑してはいけない。僕の先祖に信濃守信則《しなののかみのぶのり》という人がいたんだ。非常な仏教崇拝家で、仏教に関する珍宝を色々集めた中に、天平《てんぴょう》時代の金銅仏が二十体と、前唐時代の経巻が十櫃《じっぴつ》ある。これが城の地下に秘蔵されているという記録が遺っているんだ。――これが若《も》し発見されれば、五百万両どころの騒ぎじゃない、みんな国宝級のもので恐らく金に換算出来ないだろうよ」
「場所は分っているんですの?」
「それが図面と実際とで少し違っているんだよ。僕はすぐ分ると思ったから支配人に任しておいたんだが、来てみると大分むずかしいんだ。なにしろ昔の城なんてものは脱道《ぬけみち》やら隠し穴やら沢山《たくさん》あるんで、ちっと掘方が違っても、飛《と》んでもない方に行っちまうんで厄介だ」
「じゃ未《ま》だ見当がつかないのね。……それなのにこんな評判がたつなんて、あんまり幸先がよくないわ」
「なんだい、こんな評判って」
「ここを読んで御覧なさいよ」
 持っていた新聞の三面記事のところを、折って差出《さしだ》した。――仙台市内で出している地方では一流の新聞で、そこには大体こんな意味の記事があった。

[#ここから2字下げ]
 城趾《しろあと》の怪
二週間前より、ある埋蔵宝物を発掘中の平松家旧城趾では、数日来人夫が続々と逃出《にげだ》すので工事がはかどらず、関係者は困惑の態であるが、本社の探知するところに依《よ》れば、同城趾の地下には亡霊が現われ、人夫たちの工事を妨げるとの事、現在その亡霊を見たる人夫より事実を聞くに、それは鎧武者と白衣《びゃくい》の婦人との二人で、両者とも血まみれのうえ首が無く、地下の闇を跫音《あしおと》もなく歩き週るという――云々
[#ここで字下げ終わり]

「面白い記事だね」
「だって信さんの仕事のことじゃないの。面白がってる場合じゃないじゃないの」
「城趾の亡霊か」
 信之は新聞をおいて立上《たちあが》った。
「僕もちら[#「ちら」に傍点]と聞くには聞いたがね、……まあ宜《い》いさ、そんな御伽話みたいな事は新聞屋に任せておいて、とに角《かく》城を見に行こう」
「参りましょう子爵《バロン》」正子は元気に立上った。
「亡霊の出る城趾見物なんて、とても伝奇的《ロマンティック》だわ」

[#3字下げ]脱穴の怪![#「脱穴の怪!」は中見出し]

 白鷹《はくたか》城趾は神楽山の中腹にあった。
 むろん天守も櫓《やぐら》もない、遺っているのは空壕《からぼり》と三重の城壁で、その石垣も多くは崩壊しかかっているし、年古《としふ》りた松、苔むした[#「むした」に傍点]巨石《おおいし》、城門の名残りなど、見るからに輿亡の夢おどろ[#「おどろ」に傍点]なるものがある。
「あそこが外廓、こっちが二の丸、天守閣はあの高い処にあったんだ」
「世が世なら信さんもこの城のお殿様として、立派なお大名だったのね」
「そして君が御台様《みだいさま》か」
「あら! 厭《いや》だわ」
 正子はぼっと頬を染めて、
「こんなお転婆《てんば》、それこそ忠臣たちの反対ですぐ追出されて了《しま》うに定《きま》ってるわ。そしたらあたしお壕へ身投げをして化けて出るからいい」
「いま評判の亡霊もそんな事で――」
 云いかけた時、向うから大股に支配人の和田垣又作が近寄ってきた。――和田垣は代々平松家の家老を勤めた家柄で、又作はまだ三十そこそこの若者だが、家扶《かふ》をしていた父の後を継いで、今は平松家の支配人だった。
「――何かあったのかい」
「困ったことが出来ました若様」
 又作は少し顔色が蒼白《あおざ》めている。
「今朝の新聞をお読みになりましたか」
「読んだよ」
「実は、――ゆうべまた変な事があったんです。簡単に申上《もうしあ》げると、人夫の一人が怪我《けが》をしたのですが、それがどうも……」
「判《はっ》きり云い給え。どうしたんだ」
「訊《き》いてみますと、また亡霊が出てきて、逃げる拍子に城壁から墜《お》ちたと云うのですが、むろん私は新聞記事などを信じてはおりません。誰か為にする奴の悪宣伝だと思いますが、――然しゆうべ怪我をしたのは五郎太と云って、若様も御承知の正直な人夫頭です」
「五郎太か、そいつは……」
 信之は眉をひそめて、
「あれなら馬鹿な嘘をつく筈もないだろうが、然し――いま何処《どこ》にいる?」
「向うの小屋に寝かしてあります」
「ちょっと見舞ってやろう」
 信之は大股に歩きだした。
 工事小屋の中には十四五人の人夫たちがいたが、信之の姿を見ると急いで出ていった。――五郎太は五十余りの小男で、頭の繃帯《ほうたい》に血を滲ませ、ぐったりと横になっていた。
「どうした五郎太。ああ起きなくても宜いよ、ちょっと見舞いに来たんだ。――いま和田垣に聞いたが、変な事があったって?」
「若様……若様、――」
 五郎太はまだ恐怖に戦《おのの》いている声で、舌をもつれさせながら云った。
「あっし[#「あっし」に傍点]は見やした、この眼で見やした。あの、抜穴《ぬけあな》の角のところで」
「何か見違えたのじゃないのか」
「五郎太がそんな臆病者でねえ事は、若様がよく御存じだと思いやす。恐ろしい恰好でした。白い血だらけの着物で、首のない女がすうっ[#「すうっ」に傍点]と……ああ!」
 五郎太が体を震わしながら両手で顔を蔽《おお》った。――信之はその有様を暫《しばら》く覓《みつ》めていたが、やがて静かに又作の方へ振返《ふりかえ》って、
「だいぶ神経が参ってる、すぐ病院へ運んで行ってやり給え。工事は二三日休むことにするから」
「――畏《かしこま》りました」
「大事にしてやって呉れ」
 そう云って、正子を促しながら工事小屋を出た。
 外はいささか、山上から吹降《ふきお》りてくる濃霧で乳色に霞んでいた。――信之は側に正子のいる事も忘れた様子で、深く考えこみながら、本丸跡の方へ大股に登って行ったが、ふと石段の途中で立止ると、
「ねえまア子[#「まア子」に傍点]」と振返って云った。
「君には信じられるかい。――例えば人殺しをした奴が殺した者の幽霊を見る、是《これ》はあり得るよ、強烈な印象を受けた精神の描きだす幻覚で、少しも超自然のものじゃない。然し今度のように何の関係もなく、原因も分っていないのに、何人《だれ》も同じような亡霊を見るなんて、とても僕には信じられない」
「一番良い方法は」
 と正子が答えた。
「あたし達が自分で慥《たしか》めてみる事よ。人夫たちに見えるならあたし達にだって見える筈《はず》だわ」
「むろん、僕はやってみるさ」
「まア子[#「まア子」に傍点]だってそのくらいの勇気あるわ」
「よし、――」
 信之は頷いて、
「君にその元気があるなら一緒にやろう、一人の眼より二人の方が誤りはない。幸い二三日工事を休む事にしたから、そのあいだに徹底的に調べよう」

[#3字下げ]地下の闇[#「地下の闇」は中見出し]

 その夜、二人は軽装して城趾へ出かけた。
 信之は拳銃《ピストル》を持ち、正子は閃光電球附のライカを胸に提げていた。亡霊が現われたらその瞬間を撮影しようと云うのである。――すばらしい月夜で、二人の行く道は夕立の降るような蟲《むし》の声だった。
 城趾は死んだように静寂《しん》として、月光が鮮かであるだけ、老松の影、崩れた城壁などが凄《すさま》じく見える。
「怖くないか、まア子[#「まア子」に傍点]」
「女っていざ[#「いざ」に傍点]となれば男より度胸の出るものよ。こんな夜中に廃墟の中へ亡霊の探検に行くなんて、小説みたいで面白いくらいだわ」
「しまいまで面白ければ幸せだ」
 発掘口は天守台の横手にある。昔は城外へぬける隠し道であったろう。左右を石で畳んだ隧道《トンネル》で、すっかり苔に包まれ、下りて行くにしたがって何百年となく年を経た陰惨な空気が、噎《むせ》っぽく鼻をおそってくる。
 隧道《トンネル》は幾曲りも曲っていた。気圧のせいか、それとも余りに静かなためか、二人は耳の底がじいん[#「じいん」」に傍点]と鳴るのを感じ始めた。
「ここが天守閣へぬける梯子《はしご》口だ」
 信之が懐中電灯を上へさし向けた。――そこには方三|呎《フィート》あまりの四角い縦穴が、暗くぽっかりと上へぬけている。
「あそこからお姫様や若侍たちが、逃げだしたこともあるのね」
「逃げようとして殺されたかも知れない」
「厭アよ、気味の悪い……」
「やはり怖いんだね」
 そう云いながら信之は立停った。――二三間先で道が行止《ゆきどま》りになっている。本当ならそこで右へ曲ると、発掘している場所へ出る筈なのだ。
「――変だな」
「どうしたの?」
「慥《たしか》にここの筈だ。いま天守閣へのぬけ穴があったし、ここから右へ曲るんだが」
「突当《つきあた》りじゃないの」
「待て待て、考えてみる」
 信之は腕組をして黙った。――その時である。冥府のように静かな隧道《トンネル》の彼方《むこう》から、
「ひひひひひひ」
 と低い含笑《ふくみわら》いの声が聞えてきた。
 正子は思わず信之の腕へ縋《すが》った。笑声《わらいごえ》はすぐ途絶えた。然し暫くすると又しても、深い井戸底から響くように、とても人間のものとは思えない声が、へらへらと弱々しく断続して聞えてきた。
「――信さん」
「黙って、大丈夫だよ」
 信之は拳銃《ピストル》を取出《とりだ》し、正子の手を曳《ひ》きながら静かに戻り始めた。――十間ほど行くうちに笑声は聞えなくなったが、それが却《かえ》って不気味さを増した。信之は油断なく拳銃《ピストル》を構え、足早に二三十間戻ると、不意に立止って四辺《あたり》を見廻した。
「どうしたの、信さん」
「変だ、道が違ってる」
「――厭だわ」
「ここで左へ曲る筈なんだが……」
 さっき来た時にはそこで曲った筈の道が、今は妙に狭くなり、然も下の方へと降りているのである。――信之は焦り始めた。今日までに四五回もきて一度も迷わなかった。発掘場所までは一本道だから、眼をつむっても間違える筈がない。
「とに角、行ってみましようよ」
「うん、――」
 二人は降りている狭い道を、注意しながら進んで行った。すると、――全く不意に、二人の前方《まえ》へぼうっ[#「ぼうっ」に傍点]と青白い光が浮上《うきあが》って、白いものの形が煙のようにあらわれた。
「あッ」正子が叫びながら抱きついた。
 白いものは静かに通路を横切って消えた。それは血みどろの白衣を着た、首のない女の姿であった。――信之は戦いている正子を引摺《ひきず》るようにして、亡霊の後を追って行った。然し不思議なことには、そこは右も左も岩壁で、人の通るような道はない。
「こっちから来て、こっちへ……」
 と信之が遉《さすが》に茫然としながら呟《つぶや》いた時、
「ひひひひひひ」
 あの不気味な笑声が聞えてきた。
「帰りましょう!」
 正子が震えながら云った。
「あたしもう沢山、出さしてよ信さん」
「そう思うんだが、……道が分らないんだ。こんな筈はないんだけれど」
「出さして、気が狂いそうだわ」
「確《しっか》りするんだ。僕がついてるじゃないか※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 信之は正子の肩を掴んで強く揺《ゆす》ぶりながら叫んだ。――とそのとたんに、
「若様、若様ア……」と呼ぶ声が近づいて来た。
「あ、和田垣だ」
 信之が振返るところへ、カンテラを振り振り和田垣又作が走って来た。
「助ったよ、まア子[#「まア子」に傍点]」
 信之はほっと息をついて、
「おーい、こっちだ此方《こっち》だ」
 と叫んだ。

[#3字下げ]疑問の男は[#「疑問の男は」は中見出し]

 それから三日経った。
 あの日以来、信之は独りで家を外に何か活躍している。今日も朝から留守だ。――正子はあの晩の恐ろしさを繰返《くりかえ》し考えながら、ヴェランダで一人物思いに耽《ふけ》っていた。
「あの和田垣が怪しいわ。あたし達が中々帰らないので探しに来たと云うけど、亡霊が出たすぐ後で来るなんて……若しかしたらあの亡霊は和田垣が扮装したのかも知れない。あの人なら隧道《トンネル》の地理にも精《くわ》しいし、そうやって工事を中止させた後で、そっと宝物を盗出《ぬすみだ》すという企みじゃないかしら」
 そう思うと色々な事が符合して来る。
「そうだわ、あの晩あたしと信さんが検《しら》べにいった事を知っているのは和田垣だけだし、信さんの迷った道を雑作もなく捜しあてた事だって怪しいわ」
「何をぶつぶつ独言《ひとりごと》いってるんだい」
 庭から信之があがって来た。
「あらお帰んなさい」
「暑い暑い、水を一杯くんないか」
「何か分った事あって?」
「まず一杯の水だよ」
 正子は走って行って、筧《かけい》から引いた氷のような山水をコップに満《みた》して来た。――信之は息もつかずにあおりつけて、
「ああやっと生返《いきかえ》ったよ」
「早く話してよ、何か手懸りがあったの」
「何もない。五郎太が今日退院したし、人夫の寄合《よりあい》があってみんな工事には出ないという相談が決ったそうだ」
「亡霊を怖がっているのね」
「まア子[#「まア子」に傍点]でさえ悲鳴をあげたじゃないか」
「だってエ」
「閃光電球《フラッシュランプ》を附けたライカなんど持出しながら、撮影どころか気が狂いそうだなんて云うんだから驚いたよ」
「意地悪、信さんだって震えてたわよ。――それで工事は中止になったのね」
「否《いや》、――」
 信之は断乎と云った。
「僕は人夫たちに云ってやった。君たちが来なくとも僕はやるよッてさ」
「ねえ信さん」
「――?」
「あたし考えたんだけど、――こんなこと云って宜いかしら」
「まア子なら何を云ったって宜いさ」
「じゃ云うけど、あの和田垣って人怪しいと思わない。色々考えてみるとあの人が宝物を横取りするために」
「――叱《し》ッ」信之が慌てて制した。
「和田垣が来るよ」
 事実、又作が玄関の方からやって来た。
「なんだ?」
「五郎太が参りまして、人夫たちの賃銀を頂きたいと申しますが」
「払ってやり給え」
「それから、彼も工事にはもう出たくないと申して居りますが」
「結構だ。僕は自分でやるよ」
「……若様、――」
 又作は何か云おうとしたが、そのまま黙って戻って行った。
 正子は信之に眼で合図をした。信之は黙っていろという身振をしてそっと椅子から起《た》ち、自分の部屋へ行って古びた図面を持ってきた。
「亡霊の事は後にして、ひとつ重大な発見があるんだ。と、云うのはだね、今まで一本道だと思っていた隧道《トンネル》が三つに岐《わか》れている。是はこないだの晩迷った道、ここにもう一つ隠し道があるんだ。そして仏像や経巻の埋蔵してある場所はここなんだ」
「こないだの晩の道ね」
「僕はそう思う。――いいかい、僕たちが亡霊を見たのはここだぜ」
 信之は図面を指しながら云った。
「五郎太が見たのはここだ。その前に人夫たちが見たのもここだ。この三ヶ所を繋いでみると、殆《ほとん》ど一直線になるだろう、つまりここから奥へ人を近づけないように亡霊が出るのだと云えるじゃないか」
「そして誰がそうしたかと云えば――」
「待ち給え、今夜こそ我々はそいつを慥《たしか》めてやる。亡霊の正体を見届けてやるんだ」
 そう云って信之はぴしッと指を鳴らした。
 その夜十時過ぎてから、信之と正子は再び城趾へ出かけていった。――その夜も月が冴えて、風のない静夜だった。この前と違って今夜の正子は冗談を云うゆとり[#「ゆとり」に傍点]もなく、殆ど無言で本丸の城壁の下まで来た。
「少しここで休もう」
 信之は城壁の下で立止った。

[#3字下げ]荒城の月[#「荒城の月」は中見出し]

「佳《い》い月だね、まア子[#「まア子」に傍点]歌わないか」
「歌うの? ――ここで」
「崩れた石垣、古《ふ》りたる松、月光、……荒城の月の歌そのままじゃないか、元気があるなら歌ってごらんよ」
「歌詞を忘れたかも知れないわ」
 正子は松の枝越しに冴えている月を見上げながら、歌いだした。

[#ここから2字下げ]
春高楼《はるこうろう》の花の宴
めぐる盃影さして
千代の松《まつ》ヶ枝《え》分け出《い》でし
昔の光いまいずこ、

秋陣営の霜の色
鳴き行く雁の……
[#ここで字下げ終わり]

 そこまで歌いかけた時、信之がいきなり正子に跳掛《とびかか》って、ひっ掠《さら》うように、横へ二三間とんだ。――刹那! がらがらがら[#「がらがらがら」に傍点]ッ、と凄じい地響きを立てながら、いま二人のいた場所へ恐ろしく大きな巨岩が転落した。
「……信さん――」
「黙って、僕はこれを待っていたんだ。……こっちへ隠れていよう」
 信之はぴったり城壁へ身を寄せ、右手に拳銃《ピストル》を取出してじっと息をひそめた。
 暫くはなんの気配もなかった。然し凡《およ》そ十分もした頃石段を下りてくる跫音《あしおと》がして、月光の中へ人影が現われた。――彼は覗込《のぞきこ》むようにして、巨岩の墜ちたあたりをすかし見していたが、やがて恐る恐る近寄って来た。とたんに信之の拳銃《ピストル》が火を吹いた。
 だん! だん! だん※[#感嘆符二つ、1-8-75]
「きゃアーッ」凄じい悲鳴。
「動くなッ」
 叫んだ信之、飛鳥のように馳寄《かけよ》ると、射たれたと思ってそこへへたばっ[#「へたばっ」に傍点]ている怪漢をむずと捻伏《ねじふ》せた。
「まア子、明りを見せて」
「はい!」
 正子は震えながら近寄って、懐中電灯の光をむけた。
「顔を見せろ!」と信之が首を掴んで捻向ける。見るとそれは五郎太であった。
「あ、五郎太、貴様か」
「わ……若様――」
「貴様か、貴様だったのか」
 茫然と呟くところへ、石段の方に遽《あわただ》しい跫音《あしおと》がしたと思うと、
「若様、若様――ッ」と狂気のような叫声《さけびごえ》が聞えて、和田垣又作が走って来た。
「和田垣、僕はここにいるぞ」
「ああ御無事ですか」
 又作は肩で息をつきながら、
「間に合わないのではないかと思って死ぬほど走って来ました。――そいつは五郎太ですね」
「どうして君に分ったのだ」
「それは帰ってからお話し致します。済みませんが五郎太を放してやって下さいませんか。宝物も取返しましたから」
「宝物だって?」
「五郎太の家にあったのです。この男の女房がすっかり白状しました。後の始末は私にお任せ願います」
 信之は押えていた手を放した。――五郎太は死んだように動かなかった。
「私は若様やお嬢さまが私を疑っていらっしゃるのを存じていました」
 山荘へ帰ってから、冷たい飲物《のみもの》を前にして和田垣又作が話しだした。
「それで私は早く犯人を捉《つかま》えたいと色々苦心したのですが、まず新聞記事がどこから出たかを調べたのです。社へ行って訊《き》きますと、初めは社員の調査だといい張っていましたが、ようやく読者の投書だと打明《うちあ》けてくれました。そこでその投書を見せて貰うと、小学生の書いたような下手な字です。私はその投書を預って帰って、工事に使っている人夫の賃銀受取りの字と照合《てらしあわ》せてみましたら、それがどうも五郎太の筆跡と似ているんです」
「それはいつの事だね」
「今日午後です、五郎太に賃銀を払ったあとの事です。――それで私は五郎太の家を調べてみました。彼は城跡の後の一軒家に住んでいますが、家族は妻と十八になる娘が一人、その娘が白痴なのです――。
 原因はその白痴の娘でした。――五郎太は以前に城趾の中へ入って、恐らく金目な物でも掘出す積《つもり》だったのでしょう。彼方此方《かなたこなた》を掘返している中《うち》に、例の仏像と経巻を発見しました。彼は然しそれが国宝になるような貴い物だという事は知らず、家の仏間へ安置して、娘の白痴が直るようにと祈っていたのです。
 ところが今度の工事で、若様がそれを捜しに来られた事を知ると、自分の仕業《しわざ》が露顕するのを怖れる余り、白痴の娘を亡霊に扮させて、人夫たちを怖れさせ、工事をやめさせようと計ったのです。――そして自分までがさも[#「さも」に傍点]亡霊を見たように、態《わざ》と怪我までして私たちを騙《だま》したのでした。若様が迷った道は、五郎太が前から掘抜いてあったもので、普段は石で塞いであったために分らなかったのです。
 私は若様がたが出かけた後で、五郎太の家を訪ね、女房を責めてすっかり白状させました。――女房は何も彼《か》も話したうえ、五郎太が城趾へ出かけて行ったと云うので、是は何か悪企《わるだく》みがあるに違いないと思ったものですから、大急ぎで馳《か》けつけたという訳です」
「――危いところだった」
 信之は呻《うめ》くように云った。
「僕もこのまア子[#「まア子」に傍点]も、てっきり君の仕業だと思っていたよ、――然しこれで安心した」
 三人はふと眼をあげた。――月は皎々《こうこう》と照り、城趾の松は、墨絵のように美しい影を見せていた。



底本:「山本周五郎探偵小説全集 第四巻 海洋冒険譚」作品社
   2008(平成20)年1月15日第1刷発行
底本の親本:「少年少女譚海」
   1939(昭和14)年9月
初出:「少年少女譚海」
   1939(昭和14)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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