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化け広告人形
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化け広告人形
山本周五郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)催物《もよおしもの》
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(例)気|仕掛《じかけ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#感嘆符疑問符、1-8-78]
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[#3字下げ]もの云う人形の噂[#「もの云う人形の噂」は中見出し]
東京堂百貨店の六階売場は、今日も朝から詰めかける客でいっぱいだった。その売場では二週間まえから「花嫁衣裳展覧会」という催物《もよおしもの》をやっているが、客の興味を惹いているのは場内中央に飾られている広告人形《マネキン》で、その周囲《まわり》は毎《いつ》も押すな押すなの騒ぎだった。
「まあ凄いわねえ」
「まるで生きてるみたい」
「本当に人形かしら」
そう云《い》う声が彼方《あちら》からも此方《こちら》からも起る。
それは豪華な訪問着姿の若妻の人形で、片手に金唐革《きんからかわ》の手革包《ハンド・バッグ》を持ち、右手をこころもち前へひらくようにして立っている。頭飾《あたまかざり》から草履《ぞうり》まで、ひっくるめて衣裳附属品の価が千二百円、各部分品はどれも正札付で、お望みの向《むき》には売るという仕組みになっている。もう帯と真珠のヘアーピンは契約済みの札がさがっていた。
――然《しか》し客の人気を奪っているのはそんな事ではない、この美しい広告人形《マネキン》は、精巧な電気|仕掛《じかけ》になっていて、身振り手振りは無論のこと、顔の表情まで動くし、玉のような声で色々と説明するのである。
「――皆様結婚は人生最大の祝典でございます。神聖でありますと共に歓喜を、厳粛でありますと同時に典雅を、新しき人生の出発を記念するためには、真と善と美とを籠《こ》めて、教も意義ある調度を備《ととの》えたいと存じます。――けれど唯今《ただいま》のような時期にありましては、唯|贅沢《ぜいたく》であれば宜《よ》いという習慣は無意義でございましょう、なるべく質素にそして……」
なめらかな、それこそ金鈴のような声で云いながら、上体を優美に跼《かが》めたり、右手で軽く一揖《いちゆう》したりする。そして押合《おしあい》いへし合いしている客たちの右に左に、嬌艶な微笑を送る有様《ありさま》は正に生けるが如しと云いたいところだ。
会期も余すところ一週間という或日、――東京堂百貨店の若い副社長|山本五朗《やまもとごろう》は、売場の模様を見るために、織るような人波に紛れて会場へ入って行った。――すると例の広告人形《マネキン》の飾ってある隣の売場で、若い女店員たちが二三人で変なことを囁合《ささやきあ》っているのを耳にした。
「本当なんですって、夜中になると独りでに歩き廻ったり、幽霊みたいな声で哭《のろ》いのような言《こと》を云ったりするんですって、――守衛の人たちが慥《たしか》に見たって話してたわ」
「だって広告人形《マネキン》が独りでに動きだすなんて……」
「そう許《ばかり》も云えないわ、昼間見ていてもあんなに気味の悪いほど人間と同じでしょう? 物があんまり巧妙に出来過ぎると魔がさすっていうじゃないの」
「あたし厭《や》だあ――」
広告人形《マネキン》の噂らしい。
山本五朗は眉を顰《しか》めながら聞いていたが、気付かれぬように其処《そこ》を離れると、六階東側の隅にある副社長室へ入って、秘書の島村勇吉を呼んだ。島村勇吉は今年三十二歳、小学校を出ただけの男だが才気縦横で、経営方面に才腕を認められ、五朗が副社長に就任すると共に抜擢されてその秘書役になったのである。――山本五朗は去年商科大学を出た若者で、この東京堂百貨店が山本一族の合資会社であり、現に父が社長を勤めている関係から、商大を出ると直《す》ぐ入社し、満一年の実務見習を了《お》えて副社長になったのだ。小僧から敲上《たたきあ》げて来た島村勇吉にしてみれば、副社長とは云え五朗などはほんのお坊《ぼっ》ちゃんで、万事の極めどこ[#「極めどこ」に傍点]はみんな彼の責任だと思っていた。
「お呼びでございますか」
「ああ、些《ちょっ》と妙な噂を聞いたのでね、――まあ掛け給え」
五朗は島村に椅子《いす》を与えて、のんびりと煙草《たばこ》の煙を輪に吹いた。――その様子には唯のお坊ちゃんと云うより、何処《どこ》かぼうっとした悪く云うと間の抜けたところがある。
――ちぇっ、確《しっか》りして貰いたいな。
島村は思わず胸の中で呟《つぶや》いた。
「話と云うのは例の広告人形《マネキン》だがねえ」
「はあ、どうか致しましたか」
「あれが夜になると化けると云うんだがね、君は知っているかい」
島村はやりきれないと云う顔をした。
「さあ存じませんが」
「困るねえ、――売場の女の子たちが本気になって噂しているのを聞いたんだよ、折角《せっかく》すばらしい成績をあげている時だから、変な評判を立てられるのは困るんだがねえ」
「然し若い女店員などはつまらぬ事を騒ぐものですから……」
「否《いや》、噂の原《もと》は夜勤守衛から出ているらしいんだ。ひとつ君よく調べてね、そんな噂の拡まらぬように注意して呉《く》れ給え――なにしろ飾棚には五万円の金剛石《ダイヤモンド》もある事だし、どさくさ紛《まぎ》れに何が起るか分らないからねえ」
「承知しました早速調べまして――」
飾棚にある花嫁衣裳の中に、五万円の金剛石《ダイヤモンド》を鏤《ちりば》めた頸飾がある事は事実だ。然しそれと広告人形《マネキン》が化けるなどという馬鹿げた話となんの関係があるのか、――島村勇吉は舌打《したうち》をしたい気持で副社長室を出た。
[#3字下げ]果して人形が歩いていた[#「果して人形が歩いていた」は中見出し]
東京堂百貨店の夜勤守衛詰所は一階北側にある。夜勤員は十名でみんな四十前後の屈竟《くっきょう》な男だが、中に一人、つい半年ほど前に入った成増次兵衛《なりますじへえ》という老人がいた。――成増老人は五十七八であろう。もう鬢髪《びんぱつ》も白いし、世渡りの苦しい波を渡って来たらしく、物腰にどことなく疲れきった風が見え、なんとなく人眼を避けるような素振《そぶり》もあるが、人一倍よく働くうえに、寒い深夜勤務の時などは皆に代って見巡りに行くので、仲間うちでは評判が良かった
島村秘書が副社長から注意を受けた夜、――殆《ほとん》ど夜半のことであったが、定刻見廻りに出掛けて行った吉川守衛が、真蒼《まっさお》な顔をして詰所へ駈戻《かけもど》って来た
「――どうしたんだ?」
皆は驚いて振返《ふりかえ》った。
「マ、マ、広告人形《マネキン》が……」
吉川守衛は恐怖にがたがたと震えている、――みんなは慄然《ぞっ》として立上《たちあが》った。
「また何か変った事でも有ったのか」
「……歩いていた、――はっきり見たんだ、……斯《こ》うやって東側の方へ行くんだ、――俺は夢中で逃げて来た」
「俺の見たのと同《おんな》じだ」
「――矢張《やっぱ》り化けるというのは本当か」
今更《いまさら》のように皆が身震いをした時、扉《ドア》を明《あ》けて秘書の島村勇吉が入って来た。
「何を騒いでいるんだね」
厳しいので有名な秘書が突然現われたので、みんな恟《ぎょっ》としながら顔を見合わせた。
「いま化けるとか何とか云っていたようだが、あれは六階売場の広告人形《マネキン》の事を云っていたのだね、どうだ?」
「は、そうなんです」
「馬鹿気《ばかげ》てる!」
島村は舌打をして、
「男盛りの宜《い》い年齢《とし》をした君たちが、そんな子供みたいな事を云って騒いでは困るじゃないか、お蔭で僕までが副社長から文句を喰わされる、――一体どうしてそんな馬鹿な騒ぎが持上《もちあが》ったのか話してみ給え」
「お話ししても信用なさらないかも知れませんが、実は斯うなんです」
「いや其《それ》は儂《わし》から申しましょう」
吉川守衛を遮って成増老人が進出《すすみで》た。――老人は妙にきらきら光る眼で島村秘書を窃見《ぬすみみ》しながら、
「――もう一週間ほどまえの事ですが、私は午前一時の見廻りに出て、ずっと六階まで参りました。勿論電灯は点けられませんです。手提《てさげ》電灯で点《てら》しながら売場の中を廻ってあの広告人形《マネキン》のところへさしかかりますと、……あの人形が不意に、
『お爺さん、御苦労さまですねえ』
と云ったのです。私は年寄《としより》ですが耳も眼もまだ慥《たしか》です。変な事があるものだと思って振返って見ますと――今度はにっこりと笑うのです……それが昼間の笑い方と違って、はっきり、まるで生きている人間そのままの笑い方なのです」
「馬鹿馬鹿しい、それは君の気の迷いだ!」
島村勇吉は冷笑して、「あの人形は体の中に蝋管式蓄音機があって、電気仕掛の広告の文句を饒舌《しゃべ》るように出来ているのだ、土と針金と胡粉《ごふん》で作った物が自由に口を利《き》いたり笑ったりする道理があるもんか」
「けれど島村様、口を利いたり笑ったりする許《ばか》りでなく、あの広告人形《マネキン》は歩きさえするのですよ。三日ほどまえに其《それ》をちゃんと私が見ました」
「現に今夜、たった今も私が……」
吉川守衛も側から口を挿《さしはさ》んだ。――斯う揃って云われては一概に気の迷いたと圧《おさ》えつける訳にもいかなくなった。
「宜し、そんなに云うなら是《これ》から皆で調べに行ってみよう、たった今歩いていたと云うんなら何処《どこ》か変ったところがある筈《はず》だ」
「宜《よろ》しゅうございますお供致しましょう」
「此処《ここ》には誰か二人ばかり残っていれば宜い、あとみんな来給え」
てきぱきと命じて、島村は自ら先頭に六階へ登って行った。
だだっ広い百貨店の売場、昼のうちは華《はなや》かな人の渦で埋まっているだけに、全く人気《ひとけ》の無い深夜のがらんとした有様は只《ただ》でさえ無気味だ。おまけに化け広告人形《マネキン》という奇怪な事があるので、何となく四辺《あたり》の闇いっぱいに妖気が漂っているかに思われる。――島村秘書は手提電灯をさしつけながら大股に売場の中央へ進んで行った。
「なんだ、人形はちゃんと元の場所に立っているじゃないか」
如何《いか》にも、美しい広告人形《マネキン》は在るべき所にちゃんと立っている。
「慥《たしか》に歩いているのを見たんです」
「若《も》し此処《ここ》から動いたのなら、留めてある足台の鋲《びょう》が外れている筈だ、まさか台のままでは幾ら化けても歩けないからな……」
そう云って手提電灯を人形の足許へさしむけた時、島村秘書は思わず、
「あっ是は※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
と低く叫んだ。
[#3字下げ]老守衛の正体[#「老守衛の正体」は中見出し]
広告人形《マネキン》の両足は黒塗《くろぬり》の台へ四本の鋲で留められてあった、ところが検《あらた》めてみるとそれが四本とも抜落《ぬけお》ちているのだ。
「あ、鋲が抜けている」
「人形が動いたんだ」
守衛たちは殴りつけられでもしたように立竦《たちすく》んだ。――島村は人形を見上げた。命のない木偶《でく》、艶《つや》やかに化粧して高価な衣裳を着けた、美しいその顔が今にもにっ[#「にっ」に傍点]と笑いそうに思われる。
「是は、何かの間違いだろう」
島村秘書はやがて、吃るように云った。
「兎《と》に角《かく》、是は、此処《ここ》にいる者だけの秘密にして置いて貰おう。なに、訳さえ分れば何でもない事だろう――然し、若しこんな噂が拡まっては店の名にも関わる、もう直ぐこの催しは終るのだから、そうしたら広告人形《マネキン》も返して了《しま》うんだ。それまでみんな黙っていて呉れ」
「ですが、どうもこんな様子では、夜更《よふけ》の見廻りがどうも……」
「それは君たちに任せるよ、僅《わずか》な期間の事だから宜しくやっといて呉れ、僕も大目に見るとしよう」
そう云って島村秘書は立上った。――然しその時、彼は守衛たちの中でさっきから、眤《じっ》と此方を覓《みつ》めている者があるのに気付いた。注意して見るとそれは成増老守衛である。
――変な奴だな。
と思って振向くと、成増老人はひどく狼狽した様子で眼を外《そ》らし、妙な咳をしながらこそこそ[#「こそこそ」に傍点]と仲間の蔭へ隠れて了《しま》った。
――怪しい素振だぞ、それに今まで此方《こっち》を窃見《ぬすみみ》していた様子は唯じゃなかった。彼奴《あいつ》には注意しなきゃならん。
島村勇吉は独り頷いて踵《きびす》を返した。
その翌《あく》る日、島村秘書は副社長の室を訪れて昨夜の報告をした。山本五朗は相変らず煙草の煙を輪に吹きながら、
「そうかねえ、矢張りそんな事があるかねえ」
と暢気《のんき》な事を云う許りだった。
「時に副社長、いまお話しした老守衛ですね、どうも素振に変なところがあるので、今朝人事課で調べさしたのですが、あれは殺人未遂事件で十五年も刑務所にいた前科者」
「声が大きいよ島村君」
「然し事実です。奴はそれを隠して雇われていたんです。――どうも大切な守衛にあんな人間を使って置くのは危険だと思いますが」
「なあに、本当に改心した前科者なら、猫を被っている偽善者より安心さ。だが勿論充分注意をして貰わなくては困る。君の責任だと思ってそこは宜しく頼むよ」
「お言葉ですがそう何も彼《か》も私独りで眼は届き兼ねますな。なにしろ五万円の頸飾という大切な品もあることですから、――若し成増を解雇なさらないのでしたら、頸飾は今夜から地下室の大金庫の方へお納《しま》い願いたいと思います」
「なに此室《ここ》の金庫で大丈夫さ。どうやら君も化け広告人形《マネキン》ですっかり脅《おび》えたとみえるね」
そう云って五朗はにやにや笑った。
五万円の金剛石《ダイヤモンド》を鏤《ちりば》めた頸飾は、閉店と同時に副社長室の金庫へ納《しま》うのである。重要品は凡《す》べて地下室の大金庫へ納める規定ではあったが、五朗はそれを面倒臭がって自分の金庫で間に合せていた。
――お坊ちゃんの暢気さには手がつけられない。
島村は忌々しさに思わず舌打が出てはっ[#「はっ」に傍点]としたが、相手は気付かなかった様子なので急いで室《へや》を出て行った。――殆どそれと入違《いれちが》いに売場主任が入って来た。
「彼《あ》の広告人形《マネキン》の持っている手革包《ハンド・バッグ》が売れましたのですが」
「それは結構だね」
「それで、買主《かいぬし》が直ぐ持って帰りたいと云っていますんですが」
「いかんよ、催物が終ってからでなくてはお渡し出来ないと、ちゃんと断り書《がき》が出してあるじゃないか、――御常客かね」
「いえそれが、実は」
と売場主任は苦笑して、「半年ほどまえに解雇した根岸という女店員なので」
「女店員の根岸……?」
「ひどく立派な様子をして居ります」
五朗は何か暫《しばら》く考えていたが、
「兎に角規定だから催しが済むまで待って貰おう、それから君」
そう云って、売場主任に何か耳打をした。主任は何度も頷いて出て行った。
花嫁衣裳展覧会もあと一日で終るという、前日の夜のことであった。――あれ以来夜勤守衛たちは、店内巡回に当ってみんな六階を素通りしていた。島村勇吉は副社長からの命令もあり、薄々守衛たちの臆病な巡廻振りも知っているので、毎晩宿直しつつ自ら六階の見廻りをやっていた。
[#3字下げ]深夜の非常警報[#「深夜の非常警報」は中見出し]
午前二時十分頃だった。――詰所で守衛たちが茶を喫《の》んでいると、突如として全館を震わす非常警報の電鈴《ベル》が鳴りだした。
「あ、何か起ったぞ」
「何処《どこ》だ」
警報配置板を見ると六階売場である。
「六階だ、あの化け広告人形《マネキン》の……」
「行こう!」
恐怖の中から吉川守衛が叫んだ。
護身用拳銃や棍棒を持って、みんなが六階へ駈けつけた時、其処《そこ》には意外な光景が展開していた、――非常の場合だから全電灯を点けた。その明るい電灯の下で見渡すと、副社長室の扉《ドア》の前に、老守衛成増次兵衛が血まみれになって倒れている。そしてその側には……例の広告人形《マネキン》が妖しい微笑をうかべながら、あたかも老人を覗込《のぞきこ》むような姿勢で立っていた。
「マ、広告人形《マネキン》が、成増を殺した」
守衛たちは恐怖の叫びをあげた。――其処《そこ》へ島村秘書が、寝衣《ねまき》の上へ寛衣《ガウン》を着ながら走《は》せつけて来た。
「どうしたんだ、退《の》き給え」
「ああ島村様、御覧なさい広告人形《マネキン》が成増を殺したのです」
「まあ待て……」
島村は跼《しゃが》みこんで老人を抱起《だきお》こした。成増はひどく頭を打たれて失神していたらしく、島村に起されると低く呻声《うめきごえ》をあげた。
「おい成増、確りし給え」
そう云って体を揺すったとたん、成増老人の右手からばらり[#「ばらり」に傍点]と何か落ちた物があった、――見ると驚く可《べ》し、それは例の五万円の頸飾である。島村は仰天して立上ると、急いで副社長室へ行ってみた、果して……金庫の扉《ドア》がこじ開けられている。
「そうか、凡べてが成増の仕組んだ狂言だったのか、要心《ようじん》をして置いたのが仕合せだ、――吉川君、済まんが直ぐ副社長を呼んで来て呉れ給え」
「承知しました」
吉川守衛が駈けだそうとすると、当の副社長山本五朗が不意に皆の前へ現われた。
「お迎えには及ばないよ」
「あ! 副社長」
皆が呆れて眼を瞠《みは》った、五朗は例の通りのんびりした調子で、
「島村君御苦労さま、実は僕も化け広告人形《マネキン》を一度見て置きたいと思ったものだから、今夜は内証《ないしょう》で残っていたんだ、――ところで今の非常警報はなんだね」
「御覧下さい、この成増が金庫を破って例の頸飾を盗出《ぬすみだ》したのです。――実は、私はどうしてもこの老人が怪しいと睨んだので、副社長室の金庫と非常|電鈴《ベル》の線を繋ぎ、無法に金庫を開ける者があれば直ぐ警報が鳴るように仕掛をして置いたのです。果して此《この》通りでした。今にして思えば、化け広告人形《マネキン》の事件も、此奴《こやつ》が守衛たちを六階から遠ざけ、そのあいだに仕事をしようとして企んだトリックに違いありません。矢張りあのとき此奴《こいつ》は解雇すべきでした……此上は直ぐ警察へ引渡《ひきわた》すと致しましょう」
「そ、その通りです副社長さま!」
成増老守衛が突然、呻くように叫んだ。
「わ、私は、頸飾を盗みましたです。金庫に仕掛のしてある事を知らず、悪い量見を起して了《しま》いました。どうか私を警察へお引渡し下さいまし、悪うございました」
「殊勝らしく今更なにを吐《ほ》ざく」
島村は憎々しげに呶鳴《どな》った、「そんな哀れっぽい声を出して同情を惹こうと思っても駄目だぞ、――誰か警察へ電話を」
「いや待ち給え」
五朗は静かに制して、手に持っていた頸飾を島村に渡しながら云った。
「警察へ渡すのは成増老人では無さ相《そう》だよ、何故《なぜ》って……此頸飾は偽造品だ」
「え※[#感嘆符疑問符、1-8-78] な、なんですって」
島村秘書は愕然として頸飾を検めた、如何《いか》にも! 巧《たくみ》に出来てはいるが、それは明《あきら》かに偽造品であった。
「あっ――」
「君がそれに気付かなかったのは些《いささ》か迂闊《うかつ》だね、随分よく出来ているが正に偽造品だ」
「では、では本物はどうしたのでしょう、恐らくこの成増が……」
急きこんで云う島村を抑えて、
「吉川君、広告人形《マネキン》の持っている手革包《ハンド・バッグ》を取って呉れ給え」
「は、――」
何をするのかと不審に思いながら、吉川守衛が人形の手から手革包《ハンド・バッグ》を取って渡すと、五朗は無雑作にそれを開いて、中からずるずると一連の光輝燦爛たる頸飾を取出《とりだ》した。
「あっ」「あっ」
人々は驚嘆の声をあげる、然し五朗は依然として暢気な態度、
「本物は是だ、島村君。――犯人が化け広告人形《マネキン》のトリックを使ったのは、守衛たちを遠ざけるため許《ばかり》じゃない、この手革包《ハンド・バッグ》へ頸飾を隠す必要もあったからさ」
[#3字下げ]告白[#「告白」は中見出し]
「では犯人は矢張り成増なのですね」
「そ、そうです、犯人は私です」
成増老人か叫んだ、その叫声《さけびごえ》には人の胸をうつ悲痛な響きが籠っていた。――然し五朗は静かに、
「まあ聞き給え、犯人は予め偽造品を作り、化け広告人形《マネキン》のトリックを使って、守衛の近寄らなくなったのを見済《みすま》して秘《ひそ》かに本物とすり変えたのだ。そして偽造品を金庫の中へ納めて置き、本物はこの手革包《ハンド・バッグ》の中へ隠して置いた。――実に奸智さ、誰だって大勢の客の眼に曝《さら》されている手革包《ハンド・バッグ》の中などに、五万円の頸飾が入っていようとは思うまいからな。ところで……此処《ここ》まで話せば犯人の見当は諸君にもつくだろう」
「…………?」
「犯人はこの手革包《ハンド・バッグ》の中へ隠した。それは偽造品が発見された場合、一列一体に調べられる事を予想したのと、最も安全に店外へ運出《はこびだ》せるからだ、――つまりこの手革包《ハンド・バッグ》を買いさえすれば宜い、『花嫁衣裳展覧会』は明日で終る、そうすればこの手革包《ハンド・バッグ》は五万円の頸飾を入れたまま、ちゃんと買主の手へ届けられるのだ」
「すると犯人はその買主でしょうか?」
「そうだ、少《すくな》くとも犯人の同類と見ることは出来るだろうね。――そこで諸君、僕はその買主を此処《ここ》へ呼んで置いたよ」
そう云って五朗が振返ると、向うから二人の刑事に守られて、悄然と一人の若い婦人が近寄って来た。とたんに、島村秘書が、
「あっ、畜生!」
と叫びざま、身を翻えして逃げようとする、それより疾《はや》く、五朗の右手が彼の寛衣《ガウン》の衿首にかかった。
「えい、騒ぐな!」
と云う声と共に、島村秘書の体は宙で一回転しながらどうっ[#「どうっ」に傍点]と其処《そこ》へ投げ出された。――強《したた》か脾腹を打ったとみえて起き上ることも出来ず、倒れたまま苦しそうに呻いている島村勇吉の顔を、冷やかに見下ろしながら五朗が云った。
「君のトリックはすっかり曝露したよ。此処《ここ》にいるのは、半年まえに解雇した女店員の根岸花江君だ――君はこの根岸君をうまく騙《だま》してアパアトの一室に住《すま》わせ、自分の手先に使いなから今日まで随分店の品物を盗出していたね。――いや今更隠しても無駄だ、アパアトを捜索させたら五千円ばかりの品が出て来たんだ。今度の仕事も二人の馴合《なれあ》いさ、君はいま僕が説明した通りの手段で頸飾をすり変えこの手革包《ハンド・バッグ》の中へ隠して置いて、外から根岸花江に買わせたのさ……ところが、悪いことに根岸の顔を知っている売場主任がいて僕に話した。僕はその時ぴん[#「ぴん」に傍点]と頭へ閃《ひら》めいたので、主任に命じて根岸君の後を跟《つ》けさせた、――本当の住所を云う筈がないからなあ。そして……アパアトの隠家《かくれが》を発見したのさ、是で何も彼も分ったろう、根岸君は何も彼も白状したよ。広告人形《マネキン》が口を利いたのは君の作声《つくりごえ》だし、歩いたというのは君が持って動かしたのさ、ただ暗闇の中で守衛たちによく分らなかっただけの話なんだ、ふふふふ化物の正体見たり枯尾花ってね、分ってみればつまらぬ悪戯《いたずら》だよ」
乱麻《らんま》を断つ名刀の如き解決振りである。遉《さすが》に奸智の島村勇吉も、今は返す言葉さえなく、ただ苦しげに呻きながら歯噛みをする許《ばかり》であった。
その翌《あく》る朝のこと。――副社長室では、五朗と老守衛成増次兵衛が対座していた、成増はいま驚くべき告白をしている。
「何故《なぜ》あんな真化をしたと仰有《おっしゃ》いますか、――宜しゅうございます、何も彼も申上《もうしあ》げましょう。実は、あの島村勇吉というのは私の実の子供なのでございます」
「――本当かね、それは」
五朗も意外な言葉に眼を瞠《みは》った。
「本当でございます。私は若い頃から犯罪者の仲間に入り、悪事の限りを尽しまして、遂《つい》に十五年という重刑を受けましたが、そのまえに勇吉という子供があったのです。――十五年の刑が終って出ると直ぐ、子供の行衛《ゆくえ》を捜しました。すると勇吉は母親にも死なれて、島村という家の養子になり、今では東京堂の副社長秘書にまで出世している事が分りました。……然し今更|父子《おやこ》の名乗りをする訳には参りません。私は出世した倅《せがれ》の姿を見たいためにこの百貨店の守衛に雇われたのでございます。――ところが、見ていると倅の眼つきは挙動に不審な点が見えるのです。犯罪者同志の勘とでも申しましょうか、慥《たしか》に倅は何か悪事を働いているという気がし始めたのです」
成増老人はひと息ついて云った。
「ところへ化け広告人形《マネキン》の事件が起りました。私は直ぐに倅が何か悪企《わるだく》みをしているなと知ったので、よく注意してみると、例の五万円の頸飾に眼をつけているのだという事に見当がついたのです、――私は苦しみました。倅だけはどうか真人間にしてやりたい、自分のような犯罪者にしたくない、そう思って幾晩も考えた結果、最後の手段として、倅が手を出すまえに自分が頸飾を盗み……態《わざ》と捉《つかま》って、悪事は決して成功するものではない、という事をそれとなく倅に教えようと思ったのでございます」
「そうか、それで熟《よ》く分った」
五朗はそっと涙を拭って、
「――親の愛というものはそんなにまで強いかなあ。いや、お蔭で僕も今まで気付かなかった親の恩というものを知らされたよ……勇吉君も是を聞いたら真人間になるだろう」
「有難う存じます。私の力だけでもきっと真面目な奴にして御覧に入れます、どうか今度だけは警察へお渡し下さいませぬように」
「ああその方はもう諒解が出来ている、勇吉君は階下《した》にいる筈だよ、行って僕の言葉を伝えて呉れ給え、――勇吉君は直ぐ根岸花江と結婚する事、お父さんを引取って孝養をつくす事、そして僕の秘書として今後もよく精勤するようにと」
「有難う存じます。有難う……」
老人はわっ[#「わっ」に傍点]と噎《むせ》びあげながら卓上の上へうち伏した。――五朗は窓の外へ眼をやった、晴れあがった小春日の碧空《あおぞら》に、数十羽の伝書鳩が嬉々と群飛《むれと》んでいるのが見えた。
底本:「山本周五郎探偵小説全集 第三巻 怪奇探偵小説」作品社
2007(平成19)年12月15日第1刷発行
底本の親本:「新少年」
1937(昭和12)年12月
初出:「新少年」
1937(昭和12)年12月
※表題は底本では、「化け広告人形《マネキン》」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
山本周五郎
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東京堂百貨店の六階売場は、今日も朝から詰めかける客でいっぱいだった。その売場では二週間まえから「花嫁衣裳展覧会」という催物《もよおしもの》をやっているが、客の興味を惹いているのは場内中央に飾られている広告人形《マネキン》で、その周囲《まわり》は毎《いつ》も押すな押すなの騒ぎだった。
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そう云《い》う声が彼方《あちら》からも此方《こちら》からも起る。
それは豪華な訪問着姿の若妻の人形で、片手に金唐革《きんからかわ》の手革包《ハンド・バッグ》を持ち、右手をこころもち前へひらくようにして立っている。頭飾《あたまかざり》から草履《ぞうり》まで、ひっくるめて衣裳附属品の価が千二百円、各部分品はどれも正札付で、お望みの向《むき》には売るという仕組みになっている。もう帯と真珠のヘアーピンは契約済みの札がさがっていた。
――然《しか》し客の人気を奪っているのはそんな事ではない、この美しい広告人形《マネキン》は、精巧な電気|仕掛《じかけ》になっていて、身振り手振りは無論のこと、顔の表情まで動くし、玉のような声で色々と説明するのである。
「――皆様結婚は人生最大の祝典でございます。神聖でありますと共に歓喜を、厳粛でありますと同時に典雅を、新しき人生の出発を記念するためには、真と善と美とを籠《こ》めて、教も意義ある調度を備《ととの》えたいと存じます。――けれど唯今《ただいま》のような時期にありましては、唯|贅沢《ぜいたく》であれば宜《よ》いという習慣は無意義でございましょう、なるべく質素にそして……」
なめらかな、それこそ金鈴のような声で云いながら、上体を優美に跼《かが》めたり、右手で軽く一揖《いちゆう》したりする。そして押合《おしあい》いへし合いしている客たちの右に左に、嬌艶な微笑を送る有様《ありさま》は正に生けるが如しと云いたいところだ。
会期も余すところ一週間という或日、――東京堂百貨店の若い副社長|山本五朗《やまもとごろう》は、売場の模様を見るために、織るような人波に紛れて会場へ入って行った。――すると例の広告人形《マネキン》の飾ってある隣の売場で、若い女店員たちが二三人で変なことを囁合《ささやきあ》っているのを耳にした。
「本当なんですって、夜中になると独りでに歩き廻ったり、幽霊みたいな声で哭《のろ》いのような言《こと》を云ったりするんですって、――守衛の人たちが慥《たしか》に見たって話してたわ」
「だって広告人形《マネキン》が独りでに動きだすなんて……」
「そう許《ばかり》も云えないわ、昼間見ていてもあんなに気味の悪いほど人間と同じでしょう? 物があんまり巧妙に出来過ぎると魔がさすっていうじゃないの」
「あたし厭《や》だあ――」
広告人形《マネキン》の噂らしい。
山本五朗は眉を顰《しか》めながら聞いていたが、気付かれぬように其処《そこ》を離れると、六階東側の隅にある副社長室へ入って、秘書の島村勇吉を呼んだ。島村勇吉は今年三十二歳、小学校を出ただけの男だが才気縦横で、経営方面に才腕を認められ、五朗が副社長に就任すると共に抜擢されてその秘書役になったのである。――山本五朗は去年商科大学を出た若者で、この東京堂百貨店が山本一族の合資会社であり、現に父が社長を勤めている関係から、商大を出ると直《す》ぐ入社し、満一年の実務見習を了《お》えて副社長になったのだ。小僧から敲上《たたきあ》げて来た島村勇吉にしてみれば、副社長とは云え五朗などはほんのお坊《ぼっ》ちゃんで、万事の極めどこ[#「極めどこ」に傍点]はみんな彼の責任だと思っていた。
「お呼びでございますか」
「ああ、些《ちょっ》と妙な噂を聞いたのでね、――まあ掛け給え」
五朗は島村に椅子《いす》を与えて、のんびりと煙草《たばこ》の煙を輪に吹いた。――その様子には唯のお坊ちゃんと云うより、何処《どこ》かぼうっとした悪く云うと間の抜けたところがある。
――ちぇっ、確《しっか》りして貰いたいな。
島村は思わず胸の中で呟《つぶや》いた。
「話と云うのは例の広告人形《マネキン》だがねえ」
「はあ、どうか致しましたか」
「あれが夜になると化けると云うんだがね、君は知っているかい」
島村はやりきれないと云う顔をした。
「さあ存じませんが」
「困るねえ、――売場の女の子たちが本気になって噂しているのを聞いたんだよ、折角《せっかく》すばらしい成績をあげている時だから、変な評判を立てられるのは困るんだがねえ」
「然し若い女店員などはつまらぬ事を騒ぐものですから……」
「否《いや》、噂の原《もと》は夜勤守衛から出ているらしいんだ。ひとつ君よく調べてね、そんな噂の拡まらぬように注意して呉《く》れ給え――なにしろ飾棚には五万円の金剛石《ダイヤモンド》もある事だし、どさくさ紛《まぎ》れに何が起るか分らないからねえ」
「承知しました早速調べまして――」
飾棚にある花嫁衣裳の中に、五万円の金剛石《ダイヤモンド》を鏤《ちりば》めた頸飾がある事は事実だ。然しそれと広告人形《マネキン》が化けるなどという馬鹿げた話となんの関係があるのか、――島村勇吉は舌打《したうち》をしたい気持で副社長室を出た。
[#3字下げ]果して人形が歩いていた[#「果して人形が歩いていた」は中見出し]
東京堂百貨店の夜勤守衛詰所は一階北側にある。夜勤員は十名でみんな四十前後の屈竟《くっきょう》な男だが、中に一人、つい半年ほど前に入った成増次兵衛《なりますじへえ》という老人がいた。――成増老人は五十七八であろう。もう鬢髪《びんぱつ》も白いし、世渡りの苦しい波を渡って来たらしく、物腰にどことなく疲れきった風が見え、なんとなく人眼を避けるような素振《そぶり》もあるが、人一倍よく働くうえに、寒い深夜勤務の時などは皆に代って見巡りに行くので、仲間うちでは評判が良かった
島村秘書が副社長から注意を受けた夜、――殆《ほとん》ど夜半のことであったが、定刻見廻りに出掛けて行った吉川守衛が、真蒼《まっさお》な顔をして詰所へ駈戻《かけもど》って来た
「――どうしたんだ?」
皆は驚いて振返《ふりかえ》った。
「マ、マ、広告人形《マネキン》が……」
吉川守衛は恐怖にがたがたと震えている、――みんなは慄然《ぞっ》として立上《たちあが》った。
「また何か変った事でも有ったのか」
「……歩いていた、――はっきり見たんだ、……斯《こ》うやって東側の方へ行くんだ、――俺は夢中で逃げて来た」
「俺の見たのと同《おんな》じだ」
「――矢張《やっぱ》り化けるというのは本当か」
今更《いまさら》のように皆が身震いをした時、扉《ドア》を明《あ》けて秘書の島村勇吉が入って来た。
「何を騒いでいるんだね」
厳しいので有名な秘書が突然現われたので、みんな恟《ぎょっ》としながら顔を見合わせた。
「いま化けるとか何とか云っていたようだが、あれは六階売場の広告人形《マネキン》の事を云っていたのだね、どうだ?」
「は、そうなんです」
「馬鹿気《ばかげ》てる!」
島村は舌打をして、
「男盛りの宜《い》い年齢《とし》をした君たちが、そんな子供みたいな事を云って騒いでは困るじゃないか、お蔭で僕までが副社長から文句を喰わされる、――一体どうしてそんな馬鹿な騒ぎが持上《もちあが》ったのか話してみ給え」
「お話ししても信用なさらないかも知れませんが、実は斯うなんです」
「いや其《それ》は儂《わし》から申しましょう」
吉川守衛を遮って成増老人が進出《すすみで》た。――老人は妙にきらきら光る眼で島村秘書を窃見《ぬすみみ》しながら、
「――もう一週間ほどまえの事ですが、私は午前一時の見廻りに出て、ずっと六階まで参りました。勿論電灯は点けられませんです。手提《てさげ》電灯で点《てら》しながら売場の中を廻ってあの広告人形《マネキン》のところへさしかかりますと、……あの人形が不意に、
『お爺さん、御苦労さまですねえ』
と云ったのです。私は年寄《としより》ですが耳も眼もまだ慥《たしか》です。変な事があるものだと思って振返って見ますと――今度はにっこりと笑うのです……それが昼間の笑い方と違って、はっきり、まるで生きている人間そのままの笑い方なのです」
「馬鹿馬鹿しい、それは君の気の迷いだ!」
島村勇吉は冷笑して、「あの人形は体の中に蝋管式蓄音機があって、電気仕掛の広告の文句を饒舌《しゃべ》るように出来ているのだ、土と針金と胡粉《ごふん》で作った物が自由に口を利《き》いたり笑ったりする道理があるもんか」
「けれど島村様、口を利いたり笑ったりする許《ばか》りでなく、あの広告人形《マネキン》は歩きさえするのですよ。三日ほどまえに其《それ》をちゃんと私が見ました」
「現に今夜、たった今も私が……」
吉川守衛も側から口を挿《さしはさ》んだ。――斯う揃って云われては一概に気の迷いたと圧《おさ》えつける訳にもいかなくなった。
「宜し、そんなに云うなら是《これ》から皆で調べに行ってみよう、たった今歩いていたと云うんなら何処《どこ》か変ったところがある筈《はず》だ」
「宜《よろ》しゅうございますお供致しましょう」
「此処《ここ》には誰か二人ばかり残っていれば宜い、あとみんな来給え」
てきぱきと命じて、島村は自ら先頭に六階へ登って行った。
だだっ広い百貨店の売場、昼のうちは華《はなや》かな人の渦で埋まっているだけに、全く人気《ひとけ》の無い深夜のがらんとした有様は只《ただ》でさえ無気味だ。おまけに化け広告人形《マネキン》という奇怪な事があるので、何となく四辺《あたり》の闇いっぱいに妖気が漂っているかに思われる。――島村秘書は手提電灯をさしつけながら大股に売場の中央へ進んで行った。
「なんだ、人形はちゃんと元の場所に立っているじゃないか」
如何《いか》にも、美しい広告人形《マネキン》は在るべき所にちゃんと立っている。
「慥《たしか》に歩いているのを見たんです」
「若《も》し此処《ここ》から動いたのなら、留めてある足台の鋲《びょう》が外れている筈だ、まさか台のままでは幾ら化けても歩けないからな……」
そう云って手提電灯を人形の足許へさしむけた時、島村秘書は思わず、
「あっ是は※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
と低く叫んだ。
[#3字下げ]老守衛の正体[#「老守衛の正体」は中見出し]
広告人形《マネキン》の両足は黒塗《くろぬり》の台へ四本の鋲で留められてあった、ところが検《あらた》めてみるとそれが四本とも抜落《ぬけお》ちているのだ。
「あ、鋲が抜けている」
「人形が動いたんだ」
守衛たちは殴りつけられでもしたように立竦《たちすく》んだ。――島村は人形を見上げた。命のない木偶《でく》、艶《つや》やかに化粧して高価な衣裳を着けた、美しいその顔が今にもにっ[#「にっ」に傍点]と笑いそうに思われる。
「是は、何かの間違いだろう」
島村秘書はやがて、吃るように云った。
「兎《と》に角《かく》、是は、此処《ここ》にいる者だけの秘密にして置いて貰おう。なに、訳さえ分れば何でもない事だろう――然し、若しこんな噂が拡まっては店の名にも関わる、もう直ぐこの催しは終るのだから、そうしたら広告人形《マネキン》も返して了《しま》うんだ。それまでみんな黙っていて呉れ」
「ですが、どうもこんな様子では、夜更《よふけ》の見廻りがどうも……」
「それは君たちに任せるよ、僅《わずか》な期間の事だから宜しくやっといて呉れ、僕も大目に見るとしよう」
そう云って島村秘書は立上った。――然しその時、彼は守衛たちの中でさっきから、眤《じっ》と此方を覓《みつ》めている者があるのに気付いた。注意して見るとそれは成増老守衛である。
――変な奴だな。
と思って振向くと、成増老人はひどく狼狽した様子で眼を外《そ》らし、妙な咳をしながらこそこそ[#「こそこそ」に傍点]と仲間の蔭へ隠れて了《しま》った。
――怪しい素振だぞ、それに今まで此方《こっち》を窃見《ぬすみみ》していた様子は唯じゃなかった。彼奴《あいつ》には注意しなきゃならん。
島村勇吉は独り頷いて踵《きびす》を返した。
その翌《あく》る日、島村秘書は副社長の室を訪れて昨夜の報告をした。山本五朗は相変らず煙草の煙を輪に吹きながら、
「そうかねえ、矢張りそんな事があるかねえ」
と暢気《のんき》な事を云う許りだった。
「時に副社長、いまお話しした老守衛ですね、どうも素振に変なところがあるので、今朝人事課で調べさしたのですが、あれは殺人未遂事件で十五年も刑務所にいた前科者」
「声が大きいよ島村君」
「然し事実です。奴はそれを隠して雇われていたんです。――どうも大切な守衛にあんな人間を使って置くのは危険だと思いますが」
「なあに、本当に改心した前科者なら、猫を被っている偽善者より安心さ。だが勿論充分注意をして貰わなくては困る。君の責任だと思ってそこは宜しく頼むよ」
「お言葉ですがそう何も彼《か》も私独りで眼は届き兼ねますな。なにしろ五万円の頸飾という大切な品もあることですから、――若し成増を解雇なさらないのでしたら、頸飾は今夜から地下室の大金庫の方へお納《しま》い願いたいと思います」
「なに此室《ここ》の金庫で大丈夫さ。どうやら君も化け広告人形《マネキン》ですっかり脅《おび》えたとみえるね」
そう云って五朗はにやにや笑った。
五万円の金剛石《ダイヤモンド》を鏤《ちりば》めた頸飾は、閉店と同時に副社長室の金庫へ納《しま》うのである。重要品は凡《す》べて地下室の大金庫へ納める規定ではあったが、五朗はそれを面倒臭がって自分の金庫で間に合せていた。
――お坊ちゃんの暢気さには手がつけられない。
島村は忌々しさに思わず舌打が出てはっ[#「はっ」に傍点]としたが、相手は気付かなかった様子なので急いで室《へや》を出て行った。――殆どそれと入違《いれちが》いに売場主任が入って来た。
「彼《あ》の広告人形《マネキン》の持っている手革包《ハンド・バッグ》が売れましたのですが」
「それは結構だね」
「それで、買主《かいぬし》が直ぐ持って帰りたいと云っていますんですが」
「いかんよ、催物が終ってからでなくてはお渡し出来ないと、ちゃんと断り書《がき》が出してあるじゃないか、――御常客かね」
「いえそれが、実は」
と売場主任は苦笑して、「半年ほどまえに解雇した根岸という女店員なので」
「女店員の根岸……?」
「ひどく立派な様子をして居ります」
五朗は何か暫《しばら》く考えていたが、
「兎に角規定だから催しが済むまで待って貰おう、それから君」
そう云って、売場主任に何か耳打をした。主任は何度も頷いて出て行った。
花嫁衣裳展覧会もあと一日で終るという、前日の夜のことであった。――あれ以来夜勤守衛たちは、店内巡回に当ってみんな六階を素通りしていた。島村勇吉は副社長からの命令もあり、薄々守衛たちの臆病な巡廻振りも知っているので、毎晩宿直しつつ自ら六階の見廻りをやっていた。
[#3字下げ]深夜の非常警報[#「深夜の非常警報」は中見出し]
午前二時十分頃だった。――詰所で守衛たちが茶を喫《の》んでいると、突如として全館を震わす非常警報の電鈴《ベル》が鳴りだした。
「あ、何か起ったぞ」
「何処《どこ》だ」
警報配置板を見ると六階売場である。
「六階だ、あの化け広告人形《マネキン》の……」
「行こう!」
恐怖の中から吉川守衛が叫んだ。
護身用拳銃や棍棒を持って、みんなが六階へ駈けつけた時、其処《そこ》には意外な光景が展開していた、――非常の場合だから全電灯を点けた。その明るい電灯の下で見渡すと、副社長室の扉《ドア》の前に、老守衛成増次兵衛が血まみれになって倒れている。そしてその側には……例の広告人形《マネキン》が妖しい微笑をうかべながら、あたかも老人を覗込《のぞきこ》むような姿勢で立っていた。
「マ、広告人形《マネキン》が、成増を殺した」
守衛たちは恐怖の叫びをあげた。――其処《そこ》へ島村秘書が、寝衣《ねまき》の上へ寛衣《ガウン》を着ながら走《は》せつけて来た。
「どうしたんだ、退《の》き給え」
「ああ島村様、御覧なさい広告人形《マネキン》が成増を殺したのです」
「まあ待て……」
島村は跼《しゃが》みこんで老人を抱起《だきお》こした。成増はひどく頭を打たれて失神していたらしく、島村に起されると低く呻声《うめきごえ》をあげた。
「おい成増、確りし給え」
そう云って体を揺すったとたん、成増老人の右手からばらり[#「ばらり」に傍点]と何か落ちた物があった、――見ると驚く可《べ》し、それは例の五万円の頸飾である。島村は仰天して立上ると、急いで副社長室へ行ってみた、果して……金庫の扉《ドア》がこじ開けられている。
「そうか、凡べてが成増の仕組んだ狂言だったのか、要心《ようじん》をして置いたのが仕合せだ、――吉川君、済まんが直ぐ副社長を呼んで来て呉れ給え」
「承知しました」
吉川守衛が駈けだそうとすると、当の副社長山本五朗が不意に皆の前へ現われた。
「お迎えには及ばないよ」
「あ! 副社長」
皆が呆れて眼を瞠《みは》った、五朗は例の通りのんびりした調子で、
「島村君御苦労さま、実は僕も化け広告人形《マネキン》を一度見て置きたいと思ったものだから、今夜は内証《ないしょう》で残っていたんだ、――ところで今の非常警報はなんだね」
「御覧下さい、この成増が金庫を破って例の頸飾を盗出《ぬすみだ》したのです。――実は、私はどうしてもこの老人が怪しいと睨んだので、副社長室の金庫と非常|電鈴《ベル》の線を繋ぎ、無法に金庫を開ける者があれば直ぐ警報が鳴るように仕掛をして置いたのです。果して此《この》通りでした。今にして思えば、化け広告人形《マネキン》の事件も、此奴《こやつ》が守衛たちを六階から遠ざけ、そのあいだに仕事をしようとして企んだトリックに違いありません。矢張りあのとき此奴《こいつ》は解雇すべきでした……此上は直ぐ警察へ引渡《ひきわた》すと致しましょう」
「そ、その通りです副社長さま!」
成増老守衛が突然、呻くように叫んだ。
「わ、私は、頸飾を盗みましたです。金庫に仕掛のしてある事を知らず、悪い量見を起して了《しま》いました。どうか私を警察へお引渡し下さいまし、悪うございました」
「殊勝らしく今更なにを吐《ほ》ざく」
島村は憎々しげに呶鳴《どな》った、「そんな哀れっぽい声を出して同情を惹こうと思っても駄目だぞ、――誰か警察へ電話を」
「いや待ち給え」
五朗は静かに制して、手に持っていた頸飾を島村に渡しながら云った。
「警察へ渡すのは成増老人では無さ相《そう》だよ、何故《なぜ》って……此頸飾は偽造品だ」
「え※[#感嘆符疑問符、1-8-78] な、なんですって」
島村秘書は愕然として頸飾を検めた、如何《いか》にも! 巧《たくみ》に出来てはいるが、それは明《あきら》かに偽造品であった。
「あっ――」
「君がそれに気付かなかったのは些《いささ》か迂闊《うかつ》だね、随分よく出来ているが正に偽造品だ」
「では、では本物はどうしたのでしょう、恐らくこの成増が……」
急きこんで云う島村を抑えて、
「吉川君、広告人形《マネキン》の持っている手革包《ハンド・バッグ》を取って呉れ給え」
「は、――」
何をするのかと不審に思いながら、吉川守衛が人形の手から手革包《ハンド・バッグ》を取って渡すと、五朗は無雑作にそれを開いて、中からずるずると一連の光輝燦爛たる頸飾を取出《とりだ》した。
「あっ」「あっ」
人々は驚嘆の声をあげる、然し五朗は依然として暢気な態度、
「本物は是だ、島村君。――犯人が化け広告人形《マネキン》のトリックを使ったのは、守衛たちを遠ざけるため許《ばかり》じゃない、この手革包《ハンド・バッグ》へ頸飾を隠す必要もあったからさ」
[#3字下げ]告白[#「告白」は中見出し]
「では犯人は矢張り成増なのですね」
「そ、そうです、犯人は私です」
成増老人か叫んだ、その叫声《さけびごえ》には人の胸をうつ悲痛な響きが籠っていた。――然し五朗は静かに、
「まあ聞き給え、犯人は予め偽造品を作り、化け広告人形《マネキン》のトリックを使って、守衛の近寄らなくなったのを見済《みすま》して秘《ひそ》かに本物とすり変えたのだ。そして偽造品を金庫の中へ納めて置き、本物はこの手革包《ハンド・バッグ》の中へ隠して置いた。――実に奸智さ、誰だって大勢の客の眼に曝《さら》されている手革包《ハンド・バッグ》の中などに、五万円の頸飾が入っていようとは思うまいからな。ところで……此処《ここ》まで話せば犯人の見当は諸君にもつくだろう」
「…………?」
「犯人はこの手革包《ハンド・バッグ》の中へ隠した。それは偽造品が発見された場合、一列一体に調べられる事を予想したのと、最も安全に店外へ運出《はこびだ》せるからだ、――つまりこの手革包《ハンド・バッグ》を買いさえすれば宜い、『花嫁衣裳展覧会』は明日で終る、そうすればこの手革包《ハンド・バッグ》は五万円の頸飾を入れたまま、ちゃんと買主の手へ届けられるのだ」
「すると犯人はその買主でしょうか?」
「そうだ、少《すくな》くとも犯人の同類と見ることは出来るだろうね。――そこで諸君、僕はその買主を此処《ここ》へ呼んで置いたよ」
そう云って五朗が振返ると、向うから二人の刑事に守られて、悄然と一人の若い婦人が近寄って来た。とたんに、島村秘書が、
「あっ、畜生!」
と叫びざま、身を翻えして逃げようとする、それより疾《はや》く、五朗の右手が彼の寛衣《ガウン》の衿首にかかった。
「えい、騒ぐな!」
と云う声と共に、島村秘書の体は宙で一回転しながらどうっ[#「どうっ」に傍点]と其処《そこ》へ投げ出された。――強《したた》か脾腹を打ったとみえて起き上ることも出来ず、倒れたまま苦しそうに呻いている島村勇吉の顔を、冷やかに見下ろしながら五朗が云った。
「君のトリックはすっかり曝露したよ。此処《ここ》にいるのは、半年まえに解雇した女店員の根岸花江君だ――君はこの根岸君をうまく騙《だま》してアパアトの一室に住《すま》わせ、自分の手先に使いなから今日まで随分店の品物を盗出していたね。――いや今更隠しても無駄だ、アパアトを捜索させたら五千円ばかりの品が出て来たんだ。今度の仕事も二人の馴合《なれあ》いさ、君はいま僕が説明した通りの手段で頸飾をすり変えこの手革包《ハンド・バッグ》の中へ隠して置いて、外から根岸花江に買わせたのさ……ところが、悪いことに根岸の顔を知っている売場主任がいて僕に話した。僕はその時ぴん[#「ぴん」に傍点]と頭へ閃《ひら》めいたので、主任に命じて根岸君の後を跟《つ》けさせた、――本当の住所を云う筈がないからなあ。そして……アパアトの隠家《かくれが》を発見したのさ、是で何も彼も分ったろう、根岸君は何も彼も白状したよ。広告人形《マネキン》が口を利いたのは君の作声《つくりごえ》だし、歩いたというのは君が持って動かしたのさ、ただ暗闇の中で守衛たちによく分らなかっただけの話なんだ、ふふふふ化物の正体見たり枯尾花ってね、分ってみればつまらぬ悪戯《いたずら》だよ」
乱麻《らんま》を断つ名刀の如き解決振りである。遉《さすが》に奸智の島村勇吉も、今は返す言葉さえなく、ただ苦しげに呻きながら歯噛みをする許《ばかり》であった。
その翌《あく》る朝のこと。――副社長室では、五朗と老守衛成増次兵衛が対座していた、成増はいま驚くべき告白をしている。
「何故《なぜ》あんな真化をしたと仰有《おっしゃ》いますか、――宜しゅうございます、何も彼も申上《もうしあ》げましょう。実は、あの島村勇吉というのは私の実の子供なのでございます」
「――本当かね、それは」
五朗も意外な言葉に眼を瞠《みは》った。
「本当でございます。私は若い頃から犯罪者の仲間に入り、悪事の限りを尽しまして、遂《つい》に十五年という重刑を受けましたが、そのまえに勇吉という子供があったのです。――十五年の刑が終って出ると直ぐ、子供の行衛《ゆくえ》を捜しました。すると勇吉は母親にも死なれて、島村という家の養子になり、今では東京堂の副社長秘書にまで出世している事が分りました。……然し今更|父子《おやこ》の名乗りをする訳には参りません。私は出世した倅《せがれ》の姿を見たいためにこの百貨店の守衛に雇われたのでございます。――ところが、見ていると倅の眼つきは挙動に不審な点が見えるのです。犯罪者同志の勘とでも申しましょうか、慥《たしか》に倅は何か悪事を働いているという気がし始めたのです」
成増老人はひと息ついて云った。
「ところへ化け広告人形《マネキン》の事件が起りました。私は直ぐに倅が何か悪企《わるだく》みをしているなと知ったので、よく注意してみると、例の五万円の頸飾に眼をつけているのだという事に見当がついたのです、――私は苦しみました。倅だけはどうか真人間にしてやりたい、自分のような犯罪者にしたくない、そう思って幾晩も考えた結果、最後の手段として、倅が手を出すまえに自分が頸飾を盗み……態《わざ》と捉《つかま》って、悪事は決して成功するものではない、という事をそれとなく倅に教えようと思ったのでございます」
「そうか、それで熟《よ》く分った」
五朗はそっと涙を拭って、
「――親の愛というものはそんなにまで強いかなあ。いや、お蔭で僕も今まで気付かなかった親の恩というものを知らされたよ……勇吉君も是を聞いたら真人間になるだろう」
「有難う存じます。私の力だけでもきっと真面目な奴にして御覧に入れます、どうか今度だけは警察へお渡し下さいませぬように」
「ああその方はもう諒解が出来ている、勇吉君は階下《した》にいる筈だよ、行って僕の言葉を伝えて呉れ給え、――勇吉君は直ぐ根岸花江と結婚する事、お父さんを引取って孝養をつくす事、そして僕の秘書として今後もよく精勤するようにと」
「有難う存じます。有難う……」
老人はわっ[#「わっ」に傍点]と噎《むせ》びあげながら卓上の上へうち伏した。――五朗は窓の外へ眼をやった、晴れあがった小春日の碧空《あおぞら》に、数十羽の伝書鳩が嬉々と群飛《むれと》んでいるのが見えた。
底本:「山本周五郎探偵小説全集 第三巻 怪奇探偵小説」作品社
2007(平成19)年12月15日第1刷発行
底本の親本:「新少年」
1937(昭和12)年12月
初出:「新少年」
1937(昭和12)年12月
※表題は底本では、「化け広告人形《マネキン》」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ