悪魔は笑う ◆LuuKRM2PEg
「お前は、誰でもない……お前はただの人形だ」
夜よりも遥かにどす黒い暗闇の中で、
美樹さやかはその声を聞いた。
辺りを見渡してみるが、そこにあるのは闇だけで他には何も見あたらない。
肌に触れる空気は鉛よりもとても重く、氷以上にとても冷たかった。
声の主を捜すようにさやかは闇の中を見渡すが、そこには誰の気配も感じられない。しかしそれにも関わらず、あらゆる場所から視線を感じていた。それがあまりにも怖くなってこの場から離れようとするが、足が全く動かない。
「誰……誰なの……!?」
「お前は俺の生み出した、美しい人形だ」
「人形……!?」
「そうだ、ファウストという名の素晴らしい人形だ……お前は、俺だけの為に戦う魔人だ」
闇の中から響いてくる声は、笑っているように聞こえる。
「魔人……一体、何を言っているの? あたしは――」
「お前は光を飲み込む闇だ。お前はこの世界に絶望をもたらすだけの存在だ……ただ、それだけを考えていれば良い」
「何よそれ、どういう事……!?」
「お前がそれを知る必要なんか無い。お前はただ、人形として動いていればいい……それで充分だ」
一句一句紡がれる度に、さやかは胸がどんどん締め付けられていくような苦痛に襲われ、呼吸が苦しくなった。魔女が生み出す結界のど真ん中にいても、これほどの苦しみは感じた事が無い。
このままでは、この闇の中に全てを飲み込まれてしまう……本能でそう察した彼女は必死に足掻こうとした。
「ふざけないで! あたしはそんなことの為に生きてきた訳じゃない……! あたしは、あたしは……!」
「だがお前は、闇に心を委ねていた……だからお前はファウストとして選ばれた。見ろよ、今のお前の姿を」
その声と共に辺りの闇が更にどす黒くなりながら、一気に歪んでいった。足元の暗闇はどんどん盛り上がっていき、やがて人の形を作っていく。
やがてほんの一瞬で、
鹿目まどかへと変わっていった。この手で守りたいと願っていた大切な友達の姿へと。
「ま、まどか……!?」
しかしまどかが現れても、さやかは喜ぶことなど出来ない。彼女は死人のように虚ろな表情で倒れていたのだから。
さやかが駆け寄ろうとしたがその直後にまた闇が盛り上がっていき、人の姿へと変わっていく。
巴マミ、
佐倉杏子、
暁美ほむら、志筑仁美、上條恭介……全員、表情から一切の生気が感じられず、瞳から光を失っていた。
「な、何よこれ……どうなってるの……!?」
「これは、みんなお前がやった。ファウスト、お前自身の素晴らしい力でな」
「あ、あたしが……嘘よ、あたしがこんな事するはずない……!」
「そうかな? さっきのお前の姿、最高に生き生きとしていたぞ」
「さっきの、姿……!?」
その直後、闇の中から足音が聞こえてきた。それに思わず顔を上げた瞬間、さやかは目を見開く。
暗闇の中から魔人が現れた。血のような赤と、周囲に溶け込みそうな漆黒に染まっている不気味な魔人。ゆっくりと近づいてくる魔人を前にさやかは言葉を失ってしまい、背筋が恐怖で震える。
しかし、どういう訳かその魔人が他人のようには思えなかった。まるで、初めて会ったような気がしない。そんな疑問に答える者は誰もいなくて、足を進める魔人はゆっくりと腕を伸ばしてきた。
「さあ、闇に身を任せろ」
そして、魔人の指先はさやかの頬をゆっくりと撫でていった。
「嫌あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絹を裂くような悲鳴を発しながら、美樹さやかは目を覚まして勢いよく起き上がる。
制服を纏った身体は酷く汗で濡れていて、風邪でもひいたかのように頭痛がした。
息も絶え絶えなままに辺りを見渡すと、そこは殺風景で荒れ果てた部屋だった。長年手入れがされてないのか、至る所に埃が見える。そして、そんな部屋の中に設置されていた白いベッドの上に横たわっていたようだった。
一体、何がどうなっているのか……そんな疑問がさやかの中で芽生えた途端、木製のドアが勢いよく開かれる。
「えっ!?」
「君、大丈夫!?」
思わず身体をピクリと振るわせたさやかの前に現れたのは、見知らぬ一組の男女だった。
◆
西条凪と共に訪れた教会で
五代雄介が見た光景は、凄惨の一言に尽きた。
壁や窓は無茶苦茶に破壊されているだけでなく、血塗れになった男性や普通の中学生にしか見えない少女が倒れている。男性の方はもう息を引き取っていたが、少女の方はまだ息があったので奥のベッドに寝かせた。
それから男の人を埋葬した後、少女は悲鳴と共に目を覚ます。
美樹さやかと名乗った彼女に雄介は何があったのかを尋ねている。彼女は随分と酷い目に遭っていたのかその表情はあまりにも暗く、聞き出すのに時間がかかってしまった。
「それじゃあ、さやかちゃんはその虎の化け物に襲われてからの事はあんまり覚えてないんだよね?」
「……うん」
雄介の問いかけにさやかは弱弱しく頷く。
詳しい事はわからないが、魔法少女という存在である彼女はこの殺し合いに巻き込まれた人達を助けようと頑張っていたが、その矢先に出会った虎の怪人に変身する男に理想を否定されたようだ。
この世界にいる人間は皆、自分達にとって都合の悪い『悪』という存在を排除する為に『正義の味方』という存在を生み出したとその男は騙る。そして、その『悪』が消え去ったら『正義の味方』は切り捨てられてしまう……要するに、正義の味方とは都合のいい生贄でしかない。
信じていた理想をこうも残酷に切り捨てられてしまうのは、どんなに辛いことか。それもこんなにも若い少女が背負うなんて、とてもやりきれない気持ちが胸に広がってしまう。
虎の怪人を許すことが出来ない。だがそいつへの怒りを沸き上がらせる前に、やらなければならない事があった。
「あたしって、何の為に戦ってたのかわからないの……あたしみたいなゾンビ、みんなから必要されてないのかな……あたしってただの都合の良い、生け贄なのかな……」
「いいや、そんな事はないよ」
幽鬼のように生気が感じられない淡々としたさやかの言葉を、雄介は己の言葉で遮る。その顔に、いつもみんなに向けている朗らかな笑顔を作りながら。
「その怪物の言ってたように、確かに世の中には悪い事をする人はたくさんいるかもしれない……でも、みんながみんなそうじゃないと思うよ。君を生んでくれたお父さんとお母さんは、さやかちゃんが生け贄だなんて言ったことがあるかい?」
「それは、ないけど……でも、そんなの綺麗事じゃないの!?」
「確かに綺麗事かもしれない。でも、だからこそ俺は現実にしたいと思ってるんだ。だって、その方がみんな幸せになれるよね。さやかちゃんも、さやかちゃんの友達みんなも!」
「だけど、あたしは幸せになる権利なんてないのよ! だってあたし、化け物なんだもん!」
「さやかちゃんはゾンビなんかじゃない!」
悲痛なさやかの叫びを、雄介は無理矢理遮った。
「確かに君の身体は普通の人とは違っちゃったかもしれない。でも、君の心は君のままだ! もしもさやかちゃんが本当に化け物だったら、俺達とこうして話していないからね」
魔法少女の身体はゾンビだとさやかは言っていたが、雄介にはそう思っていない。
ソウルジェムという宝石が砕かれない限り、どれだけの傷を受けようが戦うことが出来る。確かにそんな身体にされたら誰だって嫌になるだろうが、それでも元々の心だけは変わらないと信じたかった。
雄介が希望を取り戻させようとする一方で、凪がさやかの前に立つ。
「美樹さやか。私はあなたがどんな存在であろうと、誰かに危害を加えるならば容赦をしないわ」
「えっ……?」
「ただし、その力で人類に牙を向けないのであれば私はあなたを保護するわ……それを肝に銘じておきなさい」
鋭い目つきと高圧的な声は相変わらずだが、さやかに銃を突きつけていないから雄介は安心する事ができた。
凪は厳しいのだろうが、その根底には人を思うが故の優しさがあるからこそ、敢えてこのような態度を取っているのだろう。だから、雄介も凪を信頼する事ができた。
思わず礼を言いそうになったが、凪はすぐさま踵を返して纏めていた荷物を手に持つ。その中には異様に重そうな剣――エンジンブレード――も含まれていたが、たくさんの訓練をしてきたらしい彼女はそれを何の苦もなく持っていた。
「あまりここでのんびりしていられないわ……そろそろ北の村に向かいましょう。そこなら、誰かいるでしょうから」
「わかりました、西条さん! さやかちゃん、もう大丈夫?」
「……うん、何とか大丈夫」
「そっか、でもあんまり無理をしないでね」
ゆっくりとベッドから立ち上がるさやかの手を、雄介は優しく支える。彼女はこれまで魔法少女として精一杯頑張ってきたのだから、これ以上無理をさせたくはない。それにさやかと同じ魔法少女だって、危険な目に遭わせたくなかった。
もう、ここで殺されてしまった男の人や見せしめにされた人達のような犠牲は出したくない。その決意を胸に雄介は足を進めるのだった。
◆
(まどか達まで、こんな事に巻き込まれる……それにどうして、マミさんの名前が書いてあるの?)
五代雄介や西条凪の二人と共に歩きながら、美樹さやかはぼんやりと考えていた。
参加者全員に配られた名簿の中には、大切な友達の鹿目まどかや知っている魔法少女達の名前が書かれている。しかもその中には、あの巴マミの名前もあった。
同姓同名なのかと一瞬だけ思った直後、
加頭順は優勝したらどんな願いでも叶えると言っているのを思い出す。もしかしたらそれは本当なのかと思ったが、死人が生き返るなんてあり得るわけがない。あのキュウべぇと契約でもしない限り出来るわけがないだろう。
(……とにかく、あたしの知っているマミさんにせよ同姓同名の他人にせよ、守らないといけないよね……)
ここに書かれているみんなが、自分の知っているみんなであって欲しくないとさやかは願う。みんな、こんな事に巻き込まれていいわけがないのだから。
(五代さんや西条さんだって、あたしを励ましてくれたから……頑張らないといけないよね……?)
何の為に戦えばいいのかはわからないが、それでも二人はこんな自分を諭してくれたのだから力を尽くさないといけない。半分自棄になってしまい話してしまった、一般人から見れば現実味が感じられない魔法少女の事を全て信じていた。だから、今はグリーフシードを使う。
正直、変な化け物が出てくる悪夢に魘されてしまうくらいに辛いけど、まだ倒れてはいけない気がした。雄介と凪の二人がいる限り。
(あんな化け物は、ただの夢よ……そうよ、ただの悪い夢なんだから)
自分自身にそう言い聞かせているが、美樹さやかはまだ気づいていなかった。彼女の背後に生まれている影が、不気味に笑っている事を。
そして、彼女の中に宿る魔人(ファウスト)という名前の闇は、ようやく生まれた微かな希望や光も飲み尽くそうとしている。それに気付く事の出来る者は、ただ一人しかいなかった。
◆
(人類に牙を向けるなら、か……やっぱりお前は面白いな、凪)
既に三人が去った廃教会の中で、
溝呂木眞也は凄惨な笑みを浮かべている。
やはり、どれだけ綺麗事を言おうとしても、西条凪の心からは溢れ出んばかりの憎しみを感じた。それでこそ、仲間にする価値がある。
凪はあの美樹さやかとかいう小娘を守ると嘯いているが、もしもその中にいるファウストの存在に気付いたら、一体どうなるか? そして、自身が諭した少女が化け物であると知った五代雄介はどんな闇を見せるのか? 考えれば考えるほど面白くなってしまう。
あの三人はこれから北にある村に向かおうとしている。もしもそこに別の参加者が居るなら、このデスゲームは更に面白くなるはずだった。しかも、先程殺した二人組の荷物をわざわざ回収してくれたのだから、かさばる事もない。何から何まで都合が良かった。
(そしてファウスト、お前は俺の人形だ……だからもっと多くの希望を持ってくれよ)
二人に支えられた事でさやかの瞳に希望や光が宿っている。
今はまだ、それが生きる力となっているだろうが再び絶望に触れれば、強い暗闇へと変わるに違いない。その時が来るのを待っている方が、ファウストとクウガで潰し合わせるよりずっと面白かった。既に完成されている暗闇だろうと、使い方次第ではどうにでもなる。
(俺がお前を面白くしてやったから、その期待に応えてくれよ……待っているからな)
そんな期待を胸に宿らせながら、悪魔は誰にも気付かれないように足を進めたのだった。
【一日目・早朝】
【F-2】
※
照井竜の遺体は五代雄介によって埋葬されました。
※また、照井竜と
相羽ミユキの支給品は西条凪が回収しています。
【溝呂木眞也@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~2個(確認済)
[思考]
基本:より高きもの、より強きもの、より完璧なるものに至り、世界を思うままに操る。
0:西条凪達を追跡する。
1:
姫矢准からウルトラマンの力を奪う。
2:その他にも利用できる力があれば何でも手に入れる。
3:弱い人間を操り人形にして正義の味方と戦わせる。
4:西条凪を仲間にする。
5:ファウスト(さやか)の様子を見るのも面白い。
[備考]
※参戦時期は姫矢編後半、Episode.23以前。
※さやかをファウストにできたのはあくまで、彼女が「魔法少女」であったためです。本来、死者の蘇生に該当するため、ロワ内で死亡した参加者をファウスト化させることはできません。
※また、複数の参加者にファウスト化を施すことはできません。少なくともさやかが生存している間は、別の参加者に対して闇化能力を発動することは不可能です。
※ファウストとなった人間をファウスト化及び洗脳状態にできるのは推定1~2エリア以内に対象がいる場合のみです。
【西条凪@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:コルトパイソン+執行実包(6/6)、T2ガイアメモリ@仮面ライダーW、アクセルドライバー@仮面ライダーW、ガイアメモリ(アクセル、トライアル)@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×8)、照井竜のランダム支給品1~3個、相羽ミユキのランダム支給品1~3個、テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
基本:人に害を成す人外の存在を全滅させる。
1:五代雄介、美樹さやかと共に教会に向かう。
2:バイオレンスドーパントを倒す。
3:孤門、石堀と合流する。
4:相手が人間であろうと向かってくる相手には容赦しない。
5:五代雄介、美樹さやかの事を危険な存在と判断したら殺す。
[備考]
※参戦時期はEpisode.31の後で、Episode.32の前
※所持しているメモリの種類は後続の書き手の方にお任せします。
【五代雄介@仮面ライダークウガ】
[状態]:胸部を中心として打撲多数
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3個(確認済)
[思考]
基本:出来るだけ多くの人を助け、皆でゲームを脱出する。
1:西条凪、美樹さやかと一緒に北の村へ向かう。
2:西条凪と共に協力者を集める。
3:バイオレンスドーパントを止める。
4:人間を守る。その為なら敵を倒すことを躊躇しない。
5:虎の怪人(タイガーロイド)を倒す。
[備考]
※参戦時期は第46話、
ゴ・ガドル・バに敗れた後電気ショックを受けている最中
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、裏にファウストの人格があります
[装備]:ソウルジェム
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:自分の存在意義が何なのかを教えてほしい
0:今は五代さんや西条さんについていく。
1:とにかく今は二人と一緒に頑張りたい。
2:どうして、まどか達の名前が……?
[備考]
※参戦時期は8話、ホスト二人組の会話を聞く前です。
※『癒し』の魔法の効果で回復力が高まっており、ある程度ならば傷の自然回復が可能です。
※正義の味方として戦う事が本当に正しいのかと絶望を覚えていますが、少しだけ和らいでいます。
※溝呂木によってダークファウストの意思を植えつけえられました。但し、本人にその記憶はありません。
※溝呂木が一定の距離にいない場合、彼女がファウストとしての姿や意思に目覚めることはありません(推定1~2エリア程度?)。ただし、斎田リコのような妄想状態になる可能性はあります。
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最終更新:2013年03月14日 23:08