風のR/戦うために生まれ変わった戦士◆gry038wOvE





「…………」

「…………」



 ゴ・ガドル・バの放送から数十秒。
 園咲霧彦は沈黙の中で、その返答を考えていた。山吹祈里は彼が出す回答を待つのみだ。
 祈里は、ガドルの放送に関して、霧彦の判断次第で行動することにしている。
 だだ、彼の出す答えは祈里にも薄々わかっていたのかもしれない。



「……行くしか、……ないだろう」



 ガドルという男は、何をしたか。
 フェイト、ユーノ。二人の男女を殺害し、ヴィヴィオという小さな子供を悲しませた。
 たとえどんなに死者を囃して自分を飾ろうとも、ガドルという男は戦いにしか生きていけない殺人鬼に違いない。
 その行為は子供たちを傷つける…………霧彦にとって、心から許しがたい敵だ。

 これ以上、破壊のカリスマを名乗る男が誰かを傷付けるのを放っておくわけにはいかない。
 霧彦自身が死ぬことにより悲しむ人がいるのはわかっているが、それでも、子供たちが傷つき悲しむとするなら、それは自分の死によるもので最後であってほしい。
 勿論、生きて帰ることができればそれに越したことはないが……。



「あれだけの規模の放送だ。もしかすれば、生き残っている僕たちの知り合いに会える……かもしれない。たとえ、期待は薄くても……」

「ええ!」



 祈里は、知り合いに会えるという言葉に理解を示したのだろう。ガドルという敵を倒し、これ以上の悲しみを生みたくないという気持ちも当然あった。
 だが、近くに同じプリキュアの幼馴染たちがいるというのなら、彼女たちも惹きつけられるだろうし、一緒に会いたいと思うのだ。
 特に、桃園ラブ────彼女ならば、きっと放送を聞けば来る。
 もし、彼女が来た場合は「彼女を助ける」という意味も兼ねなければならないだろう。彼女がいたら絶対にそこに向かおうとするだろうということが、何よりも心配だった。
 祈里の瞳は、心配と決意に満ち溢れているのが、霧彦にもよくわかった。



「ただ……その前に少し準備しておくことがある。祈里ちゃん、背中を向けていてくれないかな?」



 霧彦は、そう言ってデイパックを漁る。特別な支給品があるのだろうか。
 はっきり言えば、彼とは信頼感が芽生えつつあるものの、1パーセントくらいは背後から襲われる可能性を恐れていたかもしれない。状況が状況だから仕方がなかっただろう。
 しかし、言うとおりにしないわけにもいくまい。
 祈里は「はい」と返事をして、後ろを向いた。




 霧彦がデイパックをがさごそと漁る音が聞こえる。
 何か、祈里の前では持てないような支給品があったのだろうか。
 それが見えない分、彼女は不安だったし、気がかりだった。
 ただ、今になって不信感ではないような気がする。彼の「善意」と「悪意」を同時に感じるのだ。その正体のわからない不思議な気持ちに、不安感が渦巻く。


 そして、遂に彼女は霧彦の方を向いてしまう────



「背中を向けていてくれ…………そう言ったはずだよ」



 ビリッ……!

 霧彦は、そんな祈里にスタンガンを向け、彼女の腹で電撃を浴びせた。胸元でないのは、万が一にでも彼女の将来に危険を生まないためだ。
 とはいえ、非常に手荒な手段で、霧彦自身も好まない手だったのだが、この行為が危険な戦いに向かわせない為の彼の優しさだったのだ。
 スタンガンは通常、一瞬激痛が響く程度のものだから、、祈里は一瞬ひるむだけだった。
 しかし、その一瞬で充分だったのだろう。



「うわっ……!」

「すまないけど……少しだけ眠っていてくれないかな? 君を行かせるわけには……未来ある子供を、危険に晒すわけにはいかないんだ」



 霧彦が取り出した、もう一つの支給品が、祈里の前で香りを運ぶ。
 なんだか良い香りがしている。どうやら、お香のようだ。毒ガスの類ではないだろう。それならば、霧彦自身まで死んでしまうだろうし、彼がそういう事をする人間でないのはこれまでの行動でも何となくわかる。
 これも霧彦がこの少女に向けた手荒な優しさなのである。


 彼が流したお香は「春眠香」というものだった。


 この香りを嗅いだ者は春の間中眠ってしまい、夏になるまで目を覚まさない。しかも眠っている間中、あらゆる攻撃から身を守り、眠りながらでも本来の実力以上に戦うことができるのだ。
 説明書にはそう書いてある。なかなかに強力な武器であった。
 ……とはいえ、やはりこの春眠香には主催者側の施しがある。
 このお香は一時間で、蚊取り線香の匂いが流れ、彼女は起きてしまうのだ。一応、それも説明書に書いてはあった。
 そのため、彼女が眠り続けるということはないし、眠っている間も彼女が敵に奇襲をかけられることもない。


 祈里の目の前で、霧彦は首元のスカーフを外した。
 その意味が、まだ眠ってはいない祈里にはわかってしまった。
 それは、あの時────彼が森に向かおうとした時と、全く同じだ。彼はそれを祈里に託して一人で行こうとしている。
 だから、祈里は必死でそんな霧彦の行動を止めようとしたのである。



「霧彦さ…………」



 更に、そんな彼女に霧彦は当身で気絶させる。
 彼女に対する、彼の最後の優しさだった。



「……ふう」



 霧彦は、完全に眠ってしまった祈里を前に息を吐く。もうこれで彼女に触れようものなら交戦することになる。だから、彼女はベッドに座ったまま眠っており、しっかりと足を伸ばし、布団をかけて寝かせることはできない。
 まあ、できれば誰も彼女に近付かないよう注意書きでもしておきたいが、生憎そんな時間はなかった。ただ、その部屋の前に春眠香の説明書をそっと置いておき、彼女に触れる前に誰かがそれを読むのを期待した。
 霧彦はもうひとつ。余計な時間は使いたくないが、少しだけ書置きをしておいた。



『ガイアメモリを使う参加者がいたら、極力回収して誰も使用できないよう保管してくれ』



 まだ書きたいことは幾らでもあったが、彼女が目を覚ました時に託したいのはその事だけだ。少年少女たちにガイアメモリを使わないでほしいのは、霧彦のできうる限りの願いである。
 また、少年少女という指定も今はいらない。わざわざ書く必要はないし、この場では普通の大人でさえ狂わせ、子供たちを襲うようになる可能性があるくらいだ。
 それに、これからすぐ、霧彦は出かけなければならない。





「冴子のこと、ヴィヴィオちゃんのこと、それに僕のこと……本当にありがとう………………そして、君たちの想いを無駄にしてしまってごめん」



 あの時、ガドルは言った。フェイトやユーノを葬った。二人の戦士は強かった……と。
 そう、たとえ祈里にどれだけの戦力があっても、二人もの強敵を葬れる相手と戦わせるわけにはいかないのだ。
 彼が挑発したクウガ、ダグバも気にかかるし、迂闊なことはさせられない。


 それに彼は、向かえばきっと自分は死ぬのだろうと、どこかで予感していた。


 一度風都で冴子の手により死に、また地獄の業火の中で死に損なった彼は、何処か死を告げるカンというものを手に入れていたのかもしれない。
 ナスカメモリとガイアドライバー以外の全ての道具は祈里のもとに置いていく。
 もし、このまま敗北した場合はガドルに全て奪われてしまうだけだ。それよりは遥かに良いし、もし勝利したならまたここに戻ってくればいいだけの話。


 死を予感しながらも、彼は祈里に言った。



「夢の中で信じていてくれ……僕が必ず帰るとね」



『ナスカ!』



「ぐっ!!」



 体に激痛が走る。
 変身するものの、彼の体は変身によって蝕まれるように傷ついていく。
 ガイアドライバーのフィルター機能が破損した事による、最悪の状態であった。
 だが、それでも彼は中学校の外へ飛び、ガドルのもとへと走り出した。

 満足に戦えないことはわかっている。
 だが、祈里を無闇に強い相手と戦わせることはできないし、ガドルを放っておくことも彼にはできない。
 生きてあの街に帰りたいという願いだって、今は消し去っていいだろう。



「そして、たとえ僕の死で誰かが悲しむとしても…………やるしかない。できるなら、その悲しみを力に変えてくれ、みんな…………!
 誰かがやらなきゃならないのなら、……………それを君たちに押し付けることは、やはりできないんだ」



 園咲霧彦は、想いを乗せて戦場へ走る。





★ ★ ★ ★ ★





 軍服の男────ゴ・ガドル・バの前に一人の怪人が現れた。
 青色の剣の戦士……ナスカ・ドーパント。



「……一人来たか。思ったよりも早い」



 そう吐きながらも、正直言えば、ガドルは待ちくたびれていた。
 数分間。そこそこ待ったつもりだが、来た参加者はまだ彼のみ。
 その勇敢な戦士を前に、ガドルは悠然と立ち構えていた。



「まだ、来たのは僕一人だったのか…………」



 ナスカの様子はよろよろとしており、危なっかしかった。どうにも不自然で、既に傷つき死にかけているようにさえ見える。
 このまま独力で戦うのは明らかに不可能。
 せめて、仮面ライダーなどの仲間が来ていてくれれば助かったのだが、そうもいかなかったらしい。
 この体で限界まで戦うしかないのだ。


 やっと来た敵が、傷物であったのは痛手だったが、ガドルには関係はない。戦う意思のある者と戦うこと────それがあの放送の目的だったし、折角の来客を無碍にするような真似もしない。
 戦力を持つ者と戦うのが好きなだけで、別に戦力の無い者を虐殺することに抵抗があるわけでもないのだ。
 まあ、どうするかは戦ってから決める。
 勝者には、彼の末路を選ぶ権利があるのだ。逃がすか殺すかはその時になってから決めればいい。



 ガドルの姿がカブトムシの怪人のものへと変身する。
 メモリを使ったわけではないらしいが、その姿に霧彦は何となく見覚えがあった。
 いや、厳密には見覚えがある部分は彼のベルトである。そう、彼の持つそのベルトは……。



「!? お前は、あの白い怪人の仲間か!」

「…………ダグバと会ったのか」



 白い怪人で、自分と同族と勘違いされる者といえばン・ダグバ・ゼバしかおるまい。
 彼がダグバと会ってどれくらい経ったのかはわからないが、まだ近くにいる可能性はある。放送が聞こえたのなら、ここで彼を待った方がいいだろう。



「そうか。あの白い怪人が『ダグバ』っていう奴なのか」



 ダグバと少なからず因縁のある霧彦は、あの白い怪人の名を知ったことだけで少しの達成感を感じてしまう。倒してさえいないのに、それだけで充分とまで感じるようになってしまったのだろうか。
 ただ、できるのならこの男は倒したかった。
 ヴィヴィオの体を傷つけたダグバの仲間であり、フェイトやユーノを殺害しヴィヴィオの精神をこれからも傷付けるであろうこの男を、刺し違えてでも倒したかった。
 だから、その刃を確かにガドルに向ける。



「わかった。せめて、お前だけは倒す……! 私がこの手で!」

「面白い」



 ナスカは傷ついた体でガドルに向かっていった。
 体中が痛む。
 加速して一瞬でガドルの前にたどり着いた彼は、その刃をガドルの肩に向けて振り下ろす。
 しかし、その攻撃もガドルは微動だにせずに受け止めてしまう。



「フンッ。他愛も無い」



 近付いたナスカ・ドーパントの顔面にガドルの強烈なパンチが飛ぶ。
 ナスカの体はかなり後方まで吹き飛ばされてしまう。
 力の差は歴然だった。運によって埋まるものでもない。
 何せ、ナスカの全てをガドルは上回っているのだ。



「……クッ!」

「少し前に戦った戦士はもっと強かったが」



 クウガ、一条、フェイト、ユーノ、ダブル、杏子。
 あらゆる戦士がガドルと戦い、時には勝利し、時には死亡した。
 ガドルとしては、彼にもそれだけの実力が欲しかったし、できれば万全な彼と戦いたかった。
 ナスカはそのうちの二人が倒されたということだけ知っていたので、問う。



「フェイトさんと、ユーノさんという人のことか……」

「ああ。だが、他にもいたな」



 霧彦の怒りにも、ガドルは一切動じない。
 戦い果てた者の死に思うところはあったのだが、霧彦のような強い怒りまで出てくる感情を知らない。仲間が散ったことにも、これまで深く何かを感じることはなかったのだ。
 ただ、彼の覇気は本物である────それだけはガドルも認めていた。



「その二人の死に悲しんだ少女の為にも…………そしてお前がこれから泣かせる人や町の為にも、私は負けるわけにはいかないんだ!」



 そんなナスカが立ち上がり、剣を取る。
 無駄だとわかっても、ガドルにせめて少しのダメージでも与える為に、ナスカは戦おうとするのだ。
 先述した勝利は無理かもしれない。だが、それでもせめて……。



「はぁぁぁっ!!」



 剣が凪ぐ。
 剣が斬る。
 剣が舞う。
 ガドルの体表を前に、全ての攻撃は弾けて消えてしまう。
 そして、あっさりと、ナスカの握力は尽き果て、剣が宙から地面に落ちていく。



「クッ…………!」



 ナスカは、圧倒的な戦力を前に武器を失っても尚、拳で彼に挑んでいた。
 危険な怪人ダグバを倒さなければならない。
 炎の中で聞いた殺し合いの様子を繰り返してはならない。
 フェイトとユーノを殺害しヴィヴィオを悲しませたガドルを野放しにしてはならない。

 だから、無様でも何でもいいから、せめてガドルに微量でもダメージを与えたかったのだ。


 だが、その時既にガドルが全く別の剣を持っていた。
 それは、ガドルが胸の装飾品を変質させたものである。
 その大剣を前には、今のナスカは無力同然である。




「剣とは、こう使うんだ」



 それが振り下ろされると、ナスカ・ドーパント────園咲霧彦の体は左腕を切り裂かれてしまった。
 あまりに一瞬の出来事で、痛みなどは伴わない。
 これは自動車ですれ違い様に腕を持っていかれた人間にも言われることである。
 ナスカ自身は、自らの左腕がなくなっていることに気づいて、ようやく血の気が引くような感覚に陥る。…………が、それでも右腕だけは戦うのをやめようとしなかった。



「まだ退かないか、リントの戦士」

「無論…………死ぬまで退くつもりはないさ。もし、死んだとしても、私の想いが仲間たちへの追い風となり、殺し合いを行うお前たちの逆風となる存在を育て上げる……!」

「面白い……ならば、試してやる。刀を取れ。どちらかが死ぬまでの一騎打ちだ」



 ガドルはそう言って、ナスカが刀を取るだけの時間を開け渡した。
 その間に、ガドルは傍らの拡声器のスイッチを入れ、ナスカは刀を取りに行く。



「聞け! 今から勇敢で無謀な戦士と決戦する!」



 再び、ガドルの拡声器のスイッチが入り、大きな音をあげた。
 彼は、園咲霧彦の意志が誰かの胸に届き、その者を強くするというのなら、試してやりたかったのだ。
 それは片腕をなくしても戦おうとする男の意志を賞賛し、彼の想いを多くの人に伝える行為ともなりうる。
 ナスカが刀を取るまでの時間は早かった。本来ならば、彼はもう少しゆっくりして死期を延ばすこともできたはずだ。
 だが、それをしない。



「お前も、言い残すことがあるか」

「…………ああ! だが、それは戦いながら言わせて貰う。それは私の仲間たちだけじゃない……哀れな君やダグバへの言葉でもあるのさ!」

「全て言い切る前に殺してやる!」



 ガドルとナスカが対峙する。ガドルとしては、気に入らない部分もあった。
 何が気に入らないかというと、この程度の実力で戦いながらおしゃべりをしようという神経だ。
 本来、それは余裕あるものが行う行為。ガドルに対する大きな侮辱だ。
 だが────



「!?」



 右手だけで必死に刀を振るうナスカは、先ほどより強かった。
 メモリが彼の想いに答えたのか? 一体、弱弱しかったはずの彼が何故、これだけの剣さばきを見せるのか、ガドルにはわかるまい。
 一撃一撃は弱くとも、目で追うのは困難なほど速くなっている。
 背負うもの、託すものが霧彦にはあるのだから、言い終えるまでは簡単に死ぬわけにはいかないのだ。



「私はかつて、街を愛しながらも、数え切れない罪を重ねた! 私が売ったメモリが未来を担う子供たちさえ傷付けたんだ! その報いか、私は愛した人に裏切られ、彼女に殺された!!」



 その剣さばきに一定の法則を感じたガドルは、ある一点で剣の切っ先を掴み、そのまま跳ね返す。彼の攻撃は確かに届いていたが、圧倒的な防御力を前にはダメージにはならなかった。
 後方に吹き飛んだナスカに、ガドルは刀を投げ返す。



「くっ……! だが、私はどういうわけか、そのまま死ぬことさえ許されないまま、此処に召喚された!!」

「成る程。貴様も死の雪辱を果たす為に蘇ったのか」

「いや、違う!! 私はきっと数えられる限りの罪を全てを償い、再び街を綺麗にする為に蘇ったんだ!!」



 ナスカは剣をキャッチして、そのままガドルに向かっていく。
 だが、その剣を体表へと斬りつけようとするなり、今度はガドルの剣がガードする。
 体表にダメージがないとはいえ、剣を相手には剣、そういう戦い方をしたのだ。



「だが、私は……冴子を、なのはさん、フェイトさん、ユーノさんを…………誰も守れず、この街を、人々を泣かせてしまった!! 目の前で殺し合う人たちを止めることさえできなかった!!」



 ガドルが、腕力でナスカの剣を跳ね返して、地面に倒れる彼に斬りかかった。
 だが、ナスカは咄嗟に刀を盾に必死で押し返そうとする。
 ガドルの圧倒的な腕力を前に、必死で持ちこたえていた。



「そのうえ、親しい人の死に悲しむ少女にかける言葉さえ見つけられなかった!! だから、彼女を傷付けた貴様を倒すことで、その罪を償う!! はぁっ!!」



 重力と腕力でナスカを殺そうとするガドルの体を押し返すと、ガドルがよろけた隙にナスカは真横に転がって立ち上がる。
 片腕で立ち上がるのはバランスが悪く、慣れない分非常にやりにくい。
 そのうえ、今になって左肩から遅れて痛みがやってくる。傷ついた内臓も悲鳴をあげる。



「………ッ…………もしかしたら、貴様の命を奪うこと……それ自体は罪かもしれない……。だが、それならそれでいい。
 仮面ライダー君や祈里ちゃんと僕は違う……僕はドーパントとして、僕のやり方で街を綺麗にすることができる。
 だから、もう迷いはない……メモリよ…………私の体を、心をどれだけ蝕もうと構わない。私の想いに答えろ!!」



 そう言った彼の姿に異変が生じる。

 ────彼の姿は、その言葉に返答するように、青きナスカのものから、赤色のナスカのものに変身していた。

 風が吹き、新たな彼の姿が、白色のマフラーを靡かせた。
 左腕はないが、右腕だけでも両手分の力が刀を支える。


 左翔太郎の仮面ライダーが罪を制裁する戦士を貫くのなら、園咲霧彦はドーパントとして戦う。
 それが、かつてミュージアムだった彼の意地である。
 彼はかつての自らの行動は罪だと知りながらも、今はその罪よりも、この新しい命で生んだ悲しみを断ち切ろうとしている。
 そのうえ、メモリ自体が元々レベル2まで進化していたうえに、ここに来てから二度も変身している。
 霧彦もナスカメモリも、互いに意地を張り、戦おうとしていた。
 その結果、彼はより強いドーパントと変わっていったのである。



「……それがお前の本当の姿か!」

「さあね! だけど、さっきより力が沸きあがるのを感じるよ! これならお前を倒せるかもしえれない!」



 電撃で強化したガドルと、レベル3に達したナスカ。
 二人の準備が整った以上、これは二人の最後の決戦であった。
 二人の戦士は遠く離れ、間合いを取る。
 すると、彼らは剣をより強く構えた。そのまま右方へとじりじりと歩く。
 ガドルとRナスカは、右手だけで剣を構え、敵を睨む。



 そして、走り出す。



 互いの剣を互いの体にぶつけるために、真っ直ぐ駆け出す。
 この剣を敵の体に当てるため。───────霧彦はきっと、刺し違える為に。



「はあああああああああああ!!!」



 二人が取った距離の中央で、二つの刀と剣がぶつかり合う。
 すれ違いさまに斬り合う二人の姿はあまりに速すぎたため、傍から見ればどちらがその戦いを制したのかわからなかっただろう。



「…………グッ」



 ガドルが、駆け抜けた先で膝を突いた。
 彼の右沸きには、先ほどまでの攻撃からは想像もつかない事だが────斬傷が残っていたのである。
 肉が数センチ削げており、怪人体にはグロテスクな傷跡を作っている。
 これまでの攻撃やグロンギの特性も原因で、そこからは火花が散るような音が鳴っていた。





 しかし────








「僕の、負け、か………………」



 そう小さな声で呟いて倒れるのはガドルでなく、R・ナスカドーパントの方であった。
 彼の方が、傷が深かったのである。
 彼は今の殺し合いで全てを言い尽くしたらしい。



「だが…………………………よか、った…………………」



 彼の体が腹から上下半分に裂け、変身が解ける。「メ」のとある怪人と同じく、あまりに早すぎる攻撃が一瞬、自分の死を気づかなくさせたのだ。
 しかし、それが、彼に最後の安堵を齎した。

 当然、彼が生きているわけもない。


 やがて、直挿しと同じ状態でナスカメモリを使用していた霧彦の体は切り落とされた腕も含め、灰になって消えていった。


 果たして、敗因は何だっただろうか。
 傷ついた体で戦ったことだろうか?
 元からあった戦力の圧倒的な差だろうか?
 他を頼らず独力で戦いを挑んでしまったことだろうか?


 だが、少なくとも彼は独力で戦ったことは後悔していない。
 彼は体が裂ける直前、こう思ったのではないかと思う。



 ────やはり、祈里を置いて来て良かった、と。



 彼女を連れたところで、やはり死人が一人増えていただけなのではないだろうか。
 いや、それはほぼ確実だっただろう。実際、ガイアドライバーの故障によって霧彦自身が戦力になるには少し不十分だったし、少女であろうとガドルは一切の容赦をしない。
 そして、何より自分はあの時、祈里がいたら完全な「ドーパント」となり散る事さえ躊躇っただろう。仲間が誰もいないからこそ、悪としての散り方を考えることができた。
 ならば、死人となるのはやはり自分だけでよかったのだ。
 どうせ一度死んだ身である。



「思ったほど強くはなかったか……」



 一方のガドルは、彼から受けた傷を撫でる。あまり痛みはなかった。
 だが、その男の死にはやはり何かを感じていた。
 この男はおそらく、万全であればもっと強かったし、このまま生かして傷の再生を待つこともできただろう。
 そう、今のナスカはそれが原因で殺す価値のない相手だったはずなのだ。あろうことか、この破壊のカリスマに傷だらけの姿で挑んだ愚か者である。



 だが、────ガドルの「思ったほど強くなかった」という感想は、彼を強いと錯覚してしまった証である。
 あの時の覇気は、弱者にはありえないし、その覇気が体さえ強くする事は通常ありえない。
 あの叫びは遠吠えなどとは違う。絶対に敵対をやめず、絶対に勝利するという野望に満ちた瞳であった。
 その言葉と瞳に、ガドルは確かに強者の「それ」を感じていたのである。だから、強者と戦うような時の気持ちで戦い、彼を殺した。





 それに彼は、最後に「良かった」と呟いた。
 それは、果たして何のことだろうか。
 ガドルの価値観からすれば、彼は強者と戦い散ったことに喜んだのか。
 それが彼の誇りだったのか?
 彼の目的が、フェイトとユーノの敵討ちだったというのだから、それはやはり違うように思う。彼は何の目的も果たせていないことになってしまう。
 とにかく、死に際にそんな言葉を呟けるというのだから、彼は大した器だったのだろう。



 そう、万が一彼が万全だったのなら、ガドルは傷を負っていた可能性だってある。
 よくよく考えてみれば、彼はあのダグバと遭遇したのに生存しているのだ。



 ガドル自身も、それに薄々気づいていたが、所詮既に霧彦は灰。
 元に戻すこともできないし、彼を成長を待たずして殺した事や何が良かったのか問わなかった事への後悔もない。
 これから、幾らでも強者はここに来る。
 彼が言った通り、彼の意思を継ぐという者たちが来るというのなら、それを待つのも良い。
 拡声器のスイッチを切ると、彼は再び誰かがここに来るのを待った。


 もしかすれば、ダグバだって来るかもしれないのだ。


 しかし、ここで彼らを待たなければならないが、園咲霧彦だった灰が風に吹かれてどこかに行ってしまうのを見ていたくないという想いも少しはあった。
 決着がついたとはいえ、彼ともう戦えないのは寂しくもある。互いが平等な条件での戦いではなかったので、不本意にさえ思ったのだ。



 ────だが、そんなことを思っているガドルは何もわかっていない。



 その風は、彼をあの街に運んでいるのだ。



【園咲霧彦@仮面ライダーW 死亡】






【1日目/朝】
【H-7 市街地】
※霧彦の死体は灰化して消滅しました。メモリの状態は不明(残っていればレベル3まで進化済)、ガイアドライバー(フィルター機能破損)はこの場に置いたままです。

【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(中)(回復中)、右脇に小さな斬傷(回復中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ガドルのランダム支給品1~3(本人確認済み、グリーフシードはない) 、フェイトのランダム支給品1~2、ユーノのランダム支給品1~2個 、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、拡声器@現実
[思考]
基本:ダグバを倒し殺し合いに優勝する
0:己の呼び声に引かれた猛者と闘う。
1:クウガ(五代)と再び戦い、雪辱を果たす。
2:強者との戦いで自分の力を高める。
※死亡後からの参戦です
※フォトンランサーファランクスシフトにより大量の電撃を受けた事で身体がある程度強化されています。
※フォトンランサーファランクスシフトをもう一度受けたので、身体に何らかの変化が起こっている可能性があります。(実際にどうなっているかは、後続の書き手さんにお任せします)

※H-7で拡声器を使い、他の参加者へと呼びかけを行いました。
 周囲1~2マスの範囲に、聞こえている可能性があります。
※更に、同じ場所でナスカ・ドーパントとの戦闘の一部が放送されました。
 霧彦の最後の言葉などは小さな声だったので、おそらく拡声器に通っていません。





【1日目/朝】
【G-8/中学校】
※春眠香が置かれたままです。春眠香は一時間弱で蚊取り線香の匂いを発します。
※祈里がいる保健室の前には、春眠香の説明書が置いてあります。

【山吹祈里@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康、体操服姿、春眠香によって睡眠中
[装備]:リンクルン
[道具]:支給品一式×2(祈里:食料と水を除く、霧彦)、ランダム支給品0~1 、制服、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、 T2ヒートメモリ@仮面ライダーW、スタンガン、霧彦の書置き
[思考]
※あくまで気絶前の思考です。
基本:みんなでゲームを脱出する。人間と殺し合いはしない。
1:ガドルの所へ向かいたい。
2:桃園ラブ、蒼乃美希、東せつなとの合流。
3:一緒に行動する仲間を集める。
[備考]
※参戦時期は36話(ノーザ出現)後から45話(ラビリンス突入)前。なお、DX1の出来事を体験済です。
※「魔法少女」や「キュゥべえ」の話を聞きましたが、詳しくは理解していません。
※ガドルの呼びかけを聞きました。
※春眠香によって一時間後、蚊取り線香の匂いがするまで眠り、場合によっては近寄ってくる敵と眠りながら戦います。
 万が一、彼女が何らかの理由で蚊取り線香の匂いを嗅がなかった場合、どれくらいで目覚めるのかは不明です。



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Back:no more words 園咲霧彦 GAME OVER
Back:no more words 山吹祈里 Next:せめて 輝きと ともに
Back:Gの咆哮/破壊の呼び声 ゴ・ガドル・バ Next:Nのステージ/罪─ギルティ─


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最終更新:2018年02月04日 19:57