かがやく空ときみの声(後編) ◆gry038wOvE
「────乱馬くん」
「乱馬」
「乱馬君!」
霧彦、
シャンプー、祈里。
声が聞えるけど、どこにいるのかわからない。
街を探しても、世界のどこを探しても、その姿が見つからない。
ただ、声だけは聞える。
乱馬の頭の中に、記憶として残っているから、その声だけは何度でも思い出せる。
これもその類だと思っていた。走馬灯っていうやつなんじゃないか、と。
だが、やがてはっきりと姿を見せてきた。
その姿が見えてくることには違和感があった。
乱馬の頭の中が見せる景色は空白同然で、背景や地面さえも無いし、上も下も存在しなかったから、そこに人が立っているなんていうことは無いはずだったのだ。
ただ、「何もない」だと思い込んでいたものが、人のいる世界に変わった。
「立てないかい? 乱馬くん。何なら、僕が力を貸そうか?」
霧彦がそう言ってくる。
うるせえ。
こんな気障な奴に肩を貸してもらいたくはねえ。
一人で立ってやる。
「乱馬、みっともないね。いつもの乱馬なら、あんな奴一ひねりよ。でも、疲れたならこっちに来るよろし。二人で一緒に暮らすある!」
シャンプーがそう言ってくる。
うるせえ。
どこも疲れてねえ。
こんな危ない奴と二人で暮らすなんて御免だ。
「……乱馬君。もしかして、あの敵を倒したらいつも通りに暮らせなくなるって思ってる?」
祈里は、少し心配そうに乱馬を見つめていた。
「違っていたならゴメン。私が言えたことじゃないけど……乱馬君は間違ってないよ」
「あの怪人のせいで、私みたいに人が死んじゃうなら、それを止めたいって……そう思ってるんでしょ?」
「ヴィヴィオちゃんや、あかねさんを守りたい、って」
「だから、ぜったいに倒さなきゃいけないって思ってるんでしょ?」
「でも、乱馬君があの怪人を倒したとしても、乱馬君がそんな事で変わったりしないって……みんな知ってるよ」
「乱馬君は、命を軽く見てるわけじゃないから」
「だから、あの怪人を倒した後も、胸を張ってあかねさんに会いに行って」
「だから、そのために乱馬君が立ち上がるって……」
「私…………ううん、みんな、信じてる!」
「だから────」
うるせえ。
長いんだよ、台詞が。もっと短くまとめろ。
これくらい、簡潔にまとめた方が、場が盛り上がるだろうが……ッ!!
あの常人ならば絶対に立ち上がれないような状態から立ち上がった理由は、たったそれだった。霧彦に肩を貸してもらったからでも、シャンプーと二人きりになるのがいやだったわけでも、祈里の信頼に答えたわけでもない。
彼が早乙女乱馬であることが、全てだった。
らんまの物語を知る者には、それだけで十分だろう。
彼の強さ、熱さ、意地の悪さ、あきらめの悪さ、優しさ────全てはその言葉だけで十分伝わった。
眼前で立ち上がった強敵ダグバにも、いてもたってもいられずに再びその場へと現れたアインハルトにも、ほんの少しだけ眠っていた自分の眠い頭にも、それだけで全てが伝わった。
「……ったく、縁起でもねえ夢見ちまった」
「へえ……どんな夢を見たのかな?」
「ガミガミうるせえ奴らが、俺の耳元で指図してくる夢だ」
乱馬は、一本の蛸糸でつながったような意識の中で、ダグバに向けて冗談を言い放つ。
ダグバに疲弊の様子は見えないが、どうやら彼も相当なダメージを受けてはいたらしい。
人間。
乱馬は、その壁をぶち壊したのだ。
(霧彦。俺はお前みたいなスカした奴に指図されるのが嫌いだった)
そして、その壁の更に上へと向かうために、この男──乱馬は、ナスカメモリを片手に握っていた。
(お前に、「使うな」、って言われた……気に喰わなかったけど、これは俺に向く道具じゃなさそうだった……だけど────)
変身。
──NASCA──
霧彦と同様の姿の青き戦士──ナスカドーパント。
彼は、より体勢を安定させるためにこの姿に変身した。
「アインハルト、使え!」
ナスカドーパントは、もうひとつのメモリを投げる。
ヒートメモリだ。奇しくも、以前、ヴィヴィオが一度だけ使ったメモリだったが、この二人は知る由もない。
ともかく、魔力消費と関係のないその戦闘道具をアインハルトは受け取る。
常人である
鹿目まどかも同様のものを使っていたはずだ。おそらく、アインハルトも問題なく変身ができる。
「ここに来たっていうことは、お前も相当な意地っ張りだよな……。霧彦はコレが子供の手に渡るのが何トカ言ってたけどな、俺はお前もヴィヴィオも、ただのガキとは思ってねえ」
「……はい!」
──HEAT──
アインハルトの体が、ヒートドーパントのものへと変わる。
ナスカドーパントとヒートドーパントが、ダグバを睨んだ。
二人のドーパントが、強敵を前に構える。
「いくぜ!!」
そう言うなり、ナスカは、乱馬であったとき以上の加速を開始する。
ただでさえ並大抵のものではなかった乱馬の身体能力に、ドーパント化による肉体強化上乗せされた。
それゆえ、ナスカはレベル2並のスピードで加速を始めた。
「はぁっ!!」
真横から、ナスカウイングで飛翔し、ナスカブレードでダグバを切り裂く。
刃は深くは通らなかった。しかし、すれ違いさまに、確かにダグバの体を傷つけていた。
それがたとえどんな小さな傷でも、次に繋ぐ活路だった。
「行きますっ!!」
ヒートドーパントによる火炎弾が放たれる。
一見するとランダムに放たれているようだったが、そのうち二つはベルトのバックルを狙って放たれていた。
不規則に放つことで、安易に弱点狙いであることを悟られないようにしたのだ。
そして、その火炎弾を放つと同時に、その炎に追いつかんばかりのスピードで駆け出した。
「はぁっ!!」
熱を帯びたパンチが、ダグバの前方から何度も何度も放たれる。
羽原レイカの得意技が足技だったのに対し、彼女は拳だった。
拳は熱を帯びたまま、何度も何度も────ほとんど恣意的に見せかけながら、重い拳はて的確にベルトのバックルに叩きつけた。
「おらああああっ!!!!!!」
その隙に、背後からナスカドーパントはナスカブレードでダグバの背中を突き刺す。
ダグバの筋肉に刺さった。骨に刺したのかと思ったが、肉だった。
あまりに硬すぎるため、ナスカブレードにも皹が入っていく。
それを見た瞬間、ナスカは剣を突き刺したまま後方に下がった。
「────猛虎、高飛車ぁぁぁっ!!!」
先ほどまで放てなかった必殺技がダグバの背中に向けて放たれ、ダグバの背中は綺麗に沿った。
Uの字型に沿った結果、お腹の部分が突き出ている。
そう、バックルの部分が、狙えとばかりに突き出ているのだ。
「やれ、アインハルト!!」
「覇王────」
魔力を帯びる、そして炎も帯びる。
ドーパントになっても、覇王としての力も使えるのは好都合だった。
より強い、より重い一撃が放てるのだ。
「────断空拳!!!!!!」
ダグバは、今度は逆方向に吹き飛んだ。
慣性の法則に抗い、ダグバは自分がどちらに吹き飛んでいるのかもわからなかっただろう。
ただひとついえるのは、
ダグバにとってそれが楽しいひと時だったということだ。
「あははははははは」
ダグバは、空中から落ちていく瞬間、笑っていた。
しかし、簡単には落とさせてくれない。
ダグバの体へと到達せんとする、もう一人の戦士────早乙女乱馬、ナスカドーパント。
ナスカの力を使い飛翔した彼は、再び上空へ飛び上がっていた。
その手には握り拳が作られている。
剣は、ダグバの背中に刺さったままだった。痛くも痒くもないので気がつかなかったが、だから乱馬は拳で戦おうとしているのだろう。
まだ、ダグバのバックルに与えるダメージは不十分だと思ったのだろうか。
ダグバは不敵に微笑んだ。
「でも、狙いがわかってたら、意味がないよ」
本来自由を奪われるはずの、空中というバトルフィールドにあって、
彼は簡単にその手を動かしてみせた。
そして、ナスカの腕を掴んで、振り回してみせた。
バックルが狙いであるのは目に見えていたから、ナスカの腕を掴むのは簡単だった。
乱馬は、もうダグバには、もうほとんど動く力もないのだと思っていた。
……が、非常に残念なことに、違った。
ダグバの体は、まだ少しだけ元気だったのだ。確かに、全身は古代のクウガと戦ったとき以上に悲鳴をあげていたけど。
「ちっ……くしょう……」
ナスカの体を弄ぶのに飽きたダグバは、適当な場所に向けてナスカを放り投げた。
空中でこんな動作をするなど、ダグバにしか出来ない芸当だろう。
ナスカの体が、地面に激突する。
その後で、ダグバは、背中のナスカブレードを抜いて、ナスカに「お返し」してみせた。
「リントも、随分強くなったね」
ダグバがようやく、長い航空を終えて、着陸した。
ヒートドーパントは、その姿に違和感を覚える。
ダグバの体が、先ほどのものとは異なった姿になっていた。
着地を果たしてから、ダグバはそれに気がついたようである。自分の体の装飾品が消え、体色も茶色っぽい色に変わっていた。
「やってくれたね……」
ダグバは静かに怒った。
ようやくベルトの修復が済んだのに、こんなに簡単に破壊されてしまうとは。
ダグバのベルトの欠片が、地面に落ちて割れる。
それを寂しそうに見つめるダグバ。笑顔が消えている。
第一に、アインハルトの知るダグバとは顔が違った。
もじゃもじゃした髪の毛のようなものが生えていて、これまでの姿に比べて、豪奢ではなくなっていた。
アインハルトの一撃は、ベルトに確かなダメージを与えていたのだ。ベルトも壊れまいと必死で踏ん張ったが、その力は、ついに切れた。
剣を抜いた瞬間、役目を終えたように力がなくなったのだ。
ダグバ、中間体。
それは、これまでのダグバに比べると、能力が圧倒的に劣る存在だった。
乱馬の命を枯らした奮闘が、ダグバの力を弱めたのだ。
それでも、殺人には差し支えがなく、「ゴ」集団に匹敵する能力は持っているのだが、そんな小さな傷に見えても、それは十分な活路となりえた。
「……楽しみだったな、ザギバルゲゲル」
そう呟いて、ダグバはひどくつまらなそうに去っていく。
ダグバも今の戦闘では相当ダメージを受けていたし、アインハルトとこれ以上戦えそうにないと思ったのかもしれない。
アインハルトも限界だった。だから、少し安堵した。
ただ、ひとついえるのは……
(私は、乱馬さんの役に立てたんだ……)
そんな暖かい気持ちがアインハルトをかろうじて立たせているということだろうか。
そして、すぐにアインハルトは乱馬を探しに向かおうとした。
乱馬は、ダグバに投げ飛ばされて近くで倒れているはずなのだ。
アインハルトはヒートドーパントと覇王形態の変身を解いて、近くに放置されていた乱馬のデイパックを拾い上げた。急に大人モードでなくなったため、視点の高さに、少しだけ違和感があった。
最後に、これは忘れちゃいけない役目だ。
(……乱馬さん、最後までしっかり助けます)
アインハルトは、誓って走り出した。
【1日目/昼】
【H-8/街】
※完成型獅子咆哮弾による気柱が立ちました。周囲のエリアから観測できた可能性があります。
※一部の建物が、完成型獅子咆哮弾によって押しつぶされています。
※クモジャキーの剣@ハートキャッチプリキュア!が錆びた状態で放置されています。
※ダグバのベルトの破片が放置されています。
【
アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:魔力消費(大)、ダメージ(大)、疲労(極大)、背中に怪我、極度のショック状態、激しい自責、大人モード変身中
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ、T2ヒートメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[思考]
基本:???????????
0:乱馬を探す。
1:乱馬を助ける。
[備考]
※スバルが何者かに操られている可能性に気づいています。
※
高町なのはと鹿目まどかの死を見たことで、精神が不安定となっています。
※午後12時までに中学校で
孤門一輝達と合流する予定です。
※
フェイト・テスタロッサと
ユーノ・スクライアの死の原因は、自分自身にあると思い込んでいます。
【
ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[状態]:全身に極大のダメージ、ベルトの装飾品を破壊(それにより、完全体に変身不可)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×4(食料と水は3人分、祈里:食料と水を除く、霧彦)、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、スタンガン、ランダム支給品(ほむら1~2(武器ではない)、祈里0~1)
[思考]
基本:この状況を楽しむ。
0:完全体に変身できなくなったことへの苛立ち。
1:警察署側に向かう。
2:市街地を適当に歩いて、リント達を探す。
3:強い変身能力者たちに期待
[備考]
※参戦時期はクウガアルティメットフォームとの戦闘前です
※発火能力の威力は下がっています。少なくとも一撃で人間を焼き尽くすほどの威力はありません。
※ベルトのバックル部を破壊されたため、中間体にしか変身できなくなりました。
★ ★ ★ ★ ★
俺の左腕がない。
それが、乱馬が起き上がって最初に気がついたことだった。
ダグバが放ったあの剣は、見事に乱馬の左腕に吸い寄せられるように突き立てられたのだ。結果、乱馬は左腕を失うことになった。
しかし、あまりにも見事に斬られていたせいで、痛みを感じるということもなかった。それより、体の方が痛いと感じる。
むしろ、立てないくらい体が重かったから、腕一本くらい落としたほうが、丁度釣り合いが取れて良かったのではないだろうか。
(……悪いな……霧彦。約束は守れなかった)
結局、メモリを使ってしまったし、使わせてしまった。
ナスカメモリは、残った左腕にしっかり握っている。本来、これは霧彦の所持品とは別物なのだが、乱馬には結局同じようにしか思えなかった。
ナスカメモリは、服が半分燃えているため、左腕で握るしかない。
意識が朦朧としてくる。これまで腕を繋いでいた場所から流れ出る血。骨はどれだけ折れただろう。
(俺は嘘つきだ……だけど、これだけは……この約束だけは破るわけにはいかねえよな……)
ダグバが倒せたかどうかわからない。
でも、ダグバに致命的な攻撃を与えたのは確かだ。空中で振り回されたときに、ダグバの消耗を感じた。
それにダグバは、剣をおそらく乱馬の「心臓」につきたてるつもりだったはずだ。
それが、手元が狂い、左腕に刺さった。すなわち、彼も限界だったということだ。
(あかね、どこにいるかな……)
先ほど見た自分の左腕。祈里のリンクルンを握った左腕。
これまでずっと、乱馬と共に生きていたはずなのに、いつの間にか体の一部ではなくなってしまった、あの腕。
今まで、自分が思っていたよりもずっと細かった。散々鍛えたから、もっと太いと思っていた。
あのか細い腕で、何を守れたのだろう。
あかねを守ることはできただろうか。
「乱馬、男らしくなったわね」
後ろから母親の声が聞えた。
嬉しい一言だった。
振り向いても、そこには早乙女のどかはいない。
「乱ちゃん、カッコよかったで!」
幼馴染の声が聞えた。
誇らしい一言だった。
振り向いても、そこに久遠寺右京はいない。
「乱馬」「乱馬くん」「乱馬さま」「乱馬」「早乙女乱馬」
ムース。「乱馬、そんなところで何をしとるか。次はオラと勝負だ!」
妖怪ババア。「婿どの、これまた随分と強くなったものだな」
なびき。「あんたが勝つに、5000円賭けてたわ。ありがとね」
おじさん。「さあ、早くあかねのもとへ行くんだ、乱馬くん」
ジジイ。「わしの修行の賜物じゃー!」
久能。「早乙女乱馬。
天道あかねを守ってくれたことだけは感謝する」
小太刀。「惚れ直しましたわ、乱馬さま!」
かすみさん。「らんまくん、夕飯には帰ってくるのよー」
ひな子先生。「らんまくん、さっすがー」
東風先生。「君も毎回毎回、よくこんなに無茶をするね」
親父。「流石はワシの息子だ! 乱馬、父は誇らしいぞ!」
「……おめーら」
彼の周りは、どういうわけか自然と人が集まった。常に騒ぎがあった。鬱陶しいくらいに感じることもあったが、それは、彼が愛されているからに違いなかった。
彼の死を惜しむ者は、いくらでもいた。
彼を愛する女性もいっぱいいたし、彼がいなくなることで心に靄ができるような男性がいっぱいいた。
良牙も、シャンプーも、
パンスト太郎も。
そいつらが、今乱馬を激励している。
会いたいんだ。
乱馬が帰りたい世界の人々がやって来るのは、きっと乱馬がそこに早く戻りたいからだ。
けれど、帰れないことがわかっているから。
もう、ここで果てることを知っているから。
乱馬は、あの日常で支えてくれた人々のことを思い出しているんだ。
これで、見納めだから。
(あかね…………)
先ほど、たった一人の少女だけが乱馬の近くに現れなかった。
ビルにもたれていた乱馬の体が、そのまま地面に転がる。
足の力がない。
もう、体全体が消耗し切っていた。全身も地面に強打して、どうしようもないくらい体が痛かった。
やはり、ダグバの最後の一撃が効いたのだ。
だが、このまま眠ったら負けたことになる。
乱馬はまだ、ダグバが先に眠っている姿を見ていないから────。
(俺は格闘と名のつくものでは負けねえ。たとえ、敵がドーパントやらプリキュアやら、とんでもねえ奴らだとしてもだ……)
毛虫のように無様に這いながら、必死で乱馬は前へ前へと進んでいく。
右手の力もないのだ。顎を地面にくっつけて、その力だけでほんの少しだけ前に進む。
早く、アイツの──ン・ダグバ・ゼバの──死に顔を見てやらねえと。
まさかあのヤロー。笑いながら死んでるってことはねえよな。
それを知るまでは、俺は………
………………笑顔、か。
乱馬の、最後の意地がふと切れた。
もういいか。勝負なんて、もういい。無敗にこだわるのも、もういい。
乱馬は、ダグバを確かに倒したのだ。命までは奪わなかった。それだけのこと。
もう、それでいい。あかねを守れたのなら、それで。
だから、最後に彼女の笑顔が見たい。
(あかね……おまえ、かわいくねー女だけど……)
戦いしか知らなかった男は、そうしてたった一つの愛によって事切れた。
長い長い戦いだった。
彼は、名も知れぬビルの傍らで、驚いたような顔で眠っていた。安らかさとは無縁だ。
きっと、彼はどんな静かな場所にいても、喧騒を起こす才能の持ち主だったのだろう。
だから、こんな顔をしているのだ。
────いつか、天道あかねの笑顔を見たときの、ドキッ、とした表情。
(笑うと、可愛いよな)
それは、あの日常の──────延長戦。
【早乙女乱馬@らんま1/2 死亡】
★ ★ ★ ★ ★
あかねが乱馬の腕を見つけたのは、乱馬の意識が切れてしばらくした後だった。
乱馬が落ちた場所に向かったあかねが見つけたのは、一本の腕。早乙女乱馬の衣服を腕時計のように巻いた、太い太い腕だった。これまであかねを守ってきた腕は、今まで、もっと細いものだと思っていたが、思っていたよりずっと太かった。
その後、その近くの血の痕を辿り、乱馬の死体を、あかねと源太は見つけた。
「────嘘」
受け入れられるはずなんてない。
ここで倒れているのが乱馬だなんて、あかねは認めない。
だって、今まで乱馬は一度だって負けたことはなかったし、死ぬような状況を何度だって潜り抜けてきたんだから。
乱馬は、ずっと死なないのだ。
死なないはずなのだ。ずっと一緒にいられるはずなのだ。
「……おい」
「ねえ、源太さん! 嘘だよね! こんなのって……絶対に無い、よね……」
あかねは、乱馬の右腕をそっとなぞった。そこには、ガイアメモリが握られている。
「N」のガイアメモリだった。以前あかねが手に持っていたのは、「B」のガイアメモリだった覚えがある。
しかし、どうでもいい。
今は、そのメモリという武器があることが大事なのだ。
「……ほら、乱馬も起きてよ! ねえ! もしかして、あれでしょ、私が乱馬を死んだと思って恥ずかしい事言ったときに起きて、私がカァーッてなるのを見て、それでまた意地悪なこと言って……そういうつもりなんでしょ!」
源太は逃げ出したい気持ちになった。
だが、これが自分の行動によって起きた結果なのである。
源太は、乱馬に頼まれて、アインハルトとあかねを戦いから遠ざけた。
それを言い訳にして、源太は侍として戦うべき場所を逃げてきたのだ。
たとえ、乱馬がどれだけ必死に頼んだとしても、シンケンゴールドの力で彼を助けるべきだったのだ。
「……ねえ、」
あかねの声は、本当に聞かせたい場所に届かない。
今、初めて、この馬鹿みたいに広い世界で、この声がたった一人届けばいいって思ったのに。
何を言えば、乱馬は起きてくれるだろう。
好きといえば、真面目な顔して起きてくれるのか。
バカとかオカマとかいえば、怒って飛び起きてくれるのか。
「…………源太さん、言ったわよね」
「……」
「乱馬を信じてやれって。でも、やっぱり乱馬は嘘つきだった」
乱馬は、帰ってくるという約束は、果たしてくれなかった。
あかねたちが来るまで、こんなところで止まっていて──歩んできてはくれなかった。帰ってきてはくれなかった。
結局、残される側の気持ちなんて彼は考えないのだ。
だから、平気で約束を破る。
「乱馬は約束は守らなかったわ。…………だけど、」
あかねは、ナスカのメモリを握り締めたまま、少し黙った。
考えていることを、源太に悟られるようにだ。
この時、あかねはこの先どうするかを二択で考えたのである。
それは、悲しい二択だった。あかねの人生さえ左右する、究極の選択。
──NASCA──
「私の事は、こんな風になっても守ってくれた」
あかねが変身したナスカドーパントは、ナスカブレードを握り締めて言った。
そう、天道あかねは、選んだのである。
乱馬の姿を見たら、こう決めないわけにはいかなかった。
この傷は、あかねたちを逃がすために作ったのだ。そう思うと、乱馬に申し訳なかったのだ。
それだけじゃない。あかねは、もう一度乱馬と話したかったし、喧嘩がしたかった。
許婚。その関係の先にある、二人の未来を、体感したかった。
たとえ、どんなに血で汚れたとしても、あの場所に帰りたい。
あの騒がしい日常が、こんなにあっさり崩れるなんて、あかねは思ってもいなかった。
「……今度は、私が乱馬を守る」
『────或いは、人の命を蘇らすことなども可能です』
今まで、詭弁としか思っていなかった言葉が、およそ十二時間の時を経て、あかねの心の響いた。
奇跡も魔法もあるのなら──いや、無いとしても、あかねはそれに縋る。
「どうして変身した──?」
「乱馬を、守るため」
「それはつまり、俺たちを殺すってことか?」
「かもしれない」
あかねは、曖昧に答えた。
はっきり、殺すなんて言いたくなかったのだ。
乱馬を守るという尤もらしい理由を振りかざし、これから優勝を目指して戦う。
「……そんな事、乱馬の兄ちゃんが望むって思ってんのか?」
あかねは、源太がこう言うと思った。
二時間ドラマで聞いたことのある台詞だった。
こういう時、ドラマか何かでは周囲はとにかくこう言う。
サスペンスで、犯人に「被害者に恋人を殺されていた」とかそんな悲しい動機があったときの、刑事の常套句。
あまりにテンプレートで、飾り気も工夫もない言葉に、あかねは少しだけ苛立った。
あかねは反論はできないが、源太の言葉が、とってつけたような言葉にしか思えなかったから、ナスカブレードを振り上げた。
こんないい加減なことを言って、本当に、大切な人を失う辛さがわかっているのか。
それさえも知らないくせに、偉そうに、ただ格好をつけるためだけに、自分をよく見せるポーズのつもりで、こんなことを言っているんじゃないのか?
そして、少しの間を置いてから──それを真下に振り下ろす。
「一貫献上!」
間一髪、シンケンゴールドに変身した源太は、サカナマルを盾にしてナスカブレードを防いでいた。
「……姉ちゃん。俺は絶対に認めねえ。あんたが外道になれるなんて、俺は思えねえよ」
────勝手に思ってろ。
だんだんと、あかねの精神はどす黒いものに染まっていく。
ただでさえ混乱して、麻痺して、疲弊している精神に、ここぞとばかりにメモリの毒素が進入していくのである。
あかねは、源太の話すひと言ひと言に苛立ちを覚え始めた。
振り返ってみれば、源太の発言は全てが──。
「……駄目」
だが、完全に殺意へと昇華する前に気づく。
これじゃあ、駄目だ。
このままじゃ、いけない。
こんな事をしていても、乱馬は喜んでくれない。
このまま戦っていても、乱馬は守れない。
”こんな相手に、剣を防がれているようじゃ駄目だ”
このゲームでたった一人の勝者となるには、強さが必要だ。
より強いガイアメモリが必要となる。
ガイアメモリでなくてもいい。とにかく、強くなるためのすべを全て使う。
そうだ、呪泉郷。
あそこがいい。パンスト太郎のように巨大な怪物になることもできる。
自らあの泉で溺れて、より強い怪物になるのだ。
それから、あのアップリケが支給されていたことだし、もしかしたら強い装備が支給されているかもしれない。
たとえば、そう──道ちゃん。伝説の胴着があれば、乱馬より強くなれる。
乱馬を守るのに丁度いい武器だ。
今はシンケンゴールドの相手をしている場合ではない。
まずは呪泉郷に向かおう。
そして、ダグバや仮面ライダーエターナル、
ダークプリキュアやシンケンゴールド、
腑破十臓やアインハルトよりも強くなって────乱馬を守る。
「……このままじゃ、駄目」
ナスカは、ナスカウイングで羽ばたき、その場を去っていった。
その小脇には、切り離された乱馬の左腕を抱えていた。
既に硬くなってしまったその左腕で、何度でも乱馬の残滓を感じるために。
乱馬への想い──それがあまりに純粋すぎたために、あかねの感情はメモリによって暴走しやすかったのだ。
(────ふざけんなよ)
残された源太は、変身を解きながらそう思った。
あかねに対する言葉でも、ダグバに対する言葉でも、乱馬に対する言葉でもない。
この悲劇のゲームを起こした男と、その仲間に対して。
加頭や
サラマンダー男爵。このゲームの主催者を、絶対に倒すという決意。
そして、あかねを救い出したいという希望も確固たるものだった。
【1日目/昼】
【H-9/街(中学校・風都タワー側)】
【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、とても強い後悔、とても強い悲しみ、精神的疲労、ガイアメモリの毒素により精神不安定、ナスカドーパントに変身中
[装備]:T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、乱馬の左腕+リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:”乱馬たちを守る”ためにゲームに優勝する
0:呪泉郷に向かい、更なる強さを得る
1:乱馬を守るために、もっと強くなる
2:この場にあるならば伝説の胴着を手に入れる
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前で、少なくともパンスト太郎とは出会っています
【
梅盛源太@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、後悔に勝る決意
[装備]:スシチェンジャー、寿司ディスク、サカナマル@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、スタングレネード×2@現実、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン 、 ショドウフォン@侍戦隊シンケンジャー、丈瑠のメモ
[思考]
基本:殺し合いの打破
0:あかねを元のあかねに戻したい…
1:警察署に戻ったら、また情報交換会議に参加する
2:より多くの人を守る
3:丈瑠と合流し、事情を聞く
4:自分に首輪が解除できるのか…?
5:ダークプリキュア、仮面ライダーエターナル、ン・ダグバ・ゼバへの強い警戒
[備考]
※参戦時期は少なくとも十臓と出会う前です(客としても会ってない)
※乱馬から、丈瑠の様子について聞き、メモを受け取りました
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最終更新:2013年03月15日 00:39