Hボイルド探偵/ヤクソクノマチ ◆7pf62HiyTE


Passage 01 Sinner's confession



――銀色の巨人、それに変身して俺達と共にダグバと戦った姫矢准と別れた後、杏子の案内の元、姫矢の荷物の回収に向かった。
  その道中にて、杏子が意外な告白をしてきた――



「何だって? それは本当か?」
「ああ……本当はあたしは殺し合いに乗っていた。それでユーノやフェイト、それに兄ちゃんを利用していたんだ」


 左翔太郎が佐倉杏子から受けた告白、それは彼女が殺し合いに乗っていてフェイト・テスタロッサ、そしてユーノ・スクライア及び翔太郎を利用していたというものだった。


「………………なんで殺し合いに乗ってい『た』んだ?」
「別に大した理由じゃないさ、生き残れるのが1人だけだって話だから自分が生き残る為、それだけの話さ」


 翔太郎の頭に広がったのは裏切られたという怒りや失望よりもむしろ困惑だった。
 実の所、翔太郎自身としては杏子に対しては僅かながら疑心――というよりは違和感を覚えていた。

 ここで翔太郎と杏子の出会いがどうだったかを今一度再確認しておこう。
 図書館にてユーノと共に情報収集を行っていた所、気絶していたフェイトを抱えて自身も重傷を負っていた杏子が訪れたのだ。
 幸いユーノとフェイトが知人(注.実際はフェイト視点では知らない人物)という事もありすぐさまユーノは2人を受け入れ、
 そのフェイトを傷つきながらも助けた杏子の姿に翔太郎もその瞬間は特別疑いを持ってはいなかった。

 翔太郎が杏子に対し最初に違和感を覚えたのは自身の身体の事を何事も無かったかの様に語る彼女の態度、

 まだ親にも甘えたい年頃である中学生ぐらいなのに魔女と戦うだけに特化した身体とされ、魔女との戦いを強いられる事になる魔法少女、
 魔法少女という可愛らしい響きに反した過酷な状況、仮面ライダーに似ているとも言えるが中学生という歳、元には戻れないという事からそれよりも酷いと言って良い。
 (注.勿論、これはあくまでも翔太郎の知る仮面ライダーがガイアメモリ等の特殊なツールを使っただけの普通の人間という前提があるからである。
  仮に、翔太郎が本郷猛等の仮面ライダーを知っていたら若干別の表現になっていた事を付記しておく。もっとも、どちらにせよ杏子達魔法少女が翔太郎よりも過酷な運命を背負っている事に違いはない)
 普通ならばその過酷さで精神的に壊れてしまってもおかしくはない。人間の身体を失い、人々を助ける為とは言え自身は傷つくばかりだからだ。
 人を助ける――といえば聞こえは良いが自分を犠牲にするそのスタンスを翔太郎は受け入れる事は出来ないでいる。
 かつて、圧倒的な実力を持ったある人物へ復讐すべく勝ち目のない戦いに赴こうとした照井にこう口にした事がある。


『死んでも構わんだと……思ってんのはお前だけだ! 少しは周りを見ろ……心配している奴がいるだろ……』


 当然これは照井の身を案じての言葉である(もっとも、その後、照井を助けるべく翔太郎自身が無茶をしてボロボロになった為あまり偉そうな事言えない気もする)

 そういう事情もあり杏子達魔法少女を救えるのであれば救いたいとは考えてはいた。
 が、どうも杏子の態度を見る限り、そういった人々を守る為に戦うという自分達仮面ライダーと同じタイプの人物に感じなかった。
 良くも悪くも他人よりも自分、長年の探偵経験もあってそれを僅かながらも杏子の言動から感じたのだ。
 そしてもう1つがフェイトの様子を見に行く時にユーノの同行を断り単身で向かった事だ。
 それを断った理由は調べ物を優先する為、確かに状況を考えればわからなくはない。
 しかし負傷したフェイトの事を考えるとやはり知人であるユーノも向かわせるべきだったと翔太郎は考えていた。(ただ、もし『年頃の女の子だったら傷を見られたく無いだろ』と言われれば流石に納得せざるを得なかっただろう)
 穿った見方をすれば、一時的にでも自分とユーノから離れフェイトに対して何かをした可能性もあっただろう。

 杏子自身はどうということもない言動ではあったが、その僅かな綻びから翔太郎は違和感を覚えたという事だ。
 とはいえ、あくまでもそれはささやかな違和感でしかなく確証が全くなかったし、更に言えばその時点で負傷していた事もあり別段言及する事も無かった。
 更に言えば真意はともかく何処か気負っていた自身を気遣ってくれていた。
 そういった事情もあり、一方で翔太郎は杏子の言動に対して全く真逆の可能性も考えていた。それは――

 もっとも、杏子1人のスタンスを事細かに考察するよりも優先すべき事は多く、その直後に杏子達が交戦したゴ・ガドル・バの襲撃等があり、結局それ以降は共闘した為うやむやになってしまったが――


「………………まぁ色々と言いたい事も無いわけじゃねぇが……別に好き好んで誰かを襲いたいってわけじゃねぇんだな?」
「当たり前だろ、何のメリットもねぇのにそんな悪趣味な真似するわけねぇよ」


 翔太郎は困惑している。確かに自分達を利用していたとするならばガドルとの交戦までの杏子の行動にも説明がつく。
 強敵がひしめく状況ならば集団に潜り込んで利用する事は常套手段だからだ。
 だが、それはあくまでも真意を伏せていなければ成立しない。露呈してしまえば信用を失い瓦解してしまう。絶対に自分からカミングアウトすべき事では無いのだ。


「それに……信じてもらえるかはわからねぇけど、あのガドルって奴以外とは誰も戦って…………」


 と、ここまで考えて杏子はある人物の存在を今更ながらに思い出した。


「………………悪い兄ちゃん。あたし嘘ついていたわ、1人いた……殺し合いを止めようとしている奴と戦ったわ……それも兄ちゃんの知り合いだ」
「ちょっと待て、俺の知り合いといえば……照井に霧彦に冴子……京水の野郎は違うとして……まさか大道克己か……?」


 翔太郎は驚愕しつつ殺し合いを打破しようとする知り合いを頭に浮かべる。
 照井と園咲霧彦は言うに及ばず、園咲冴子は主催陣の1人加頭順との関係や彼女の性格を考えれば乗らず打破しようとする可能性も決して低くはなく、
 打破しようとする泉京水のスタンスを考えれば大道克己も打破しようとする可能性は0とは言えなかった。


「いや、そういや名前は聞いてなかった……けど正直思い出したくねぇなぁ……あんな気持ち悪い変態のおっさん……」
「気持ち悪い変態のおっさん……なぁ、そいつ医者じゃなかったか?」


 翔太郎の脳裏にピンポイントで思い当たる人物がいた。


「ああ、なんかガイアメモリの技術を持っているとか言っていたな……力になりたいなんて言ってあたしやフェイトを丸め込もうとした……乗っていた……というのもあったけどあまりにも気持ち悪ったから……」
「井坂ぁぁぁぁぁぁ!!!」


 そうだ、コイツがいた。
 井坂深紅朗、己が欲望の為に風都に住む数多の人物、更には照井の家族を惨殺し、多くの人々を泣かせてきた男だ。
 その性格を踏まえれば素直に主催に従い殺し合いに乗るとはどう考えても思えない。むしろ連中を出し抜き全てを手に入れようと目論む筈だ。
 仮に対主催とマーダーつまりは従主催という2つのスタンスでしかくくれないというのであれば井坂は間違いなく対主催と言えよう。
 だが、井坂と翔太郎及び照井達は決して相容れない。勿論、この地でのスタンスがわからない以上、断定は仕切れなかったが杏子による断片的な証言だけでも確信した。
 井坂はこの地でも普段と変わらず危険人物であると。


「なぁ、そのおっさんが言っていたんだけどそういう技術持っているんだよな? やっぱまずかっ……」
「いや杏子……確かに井坂は自力でガイアメモリを強化していたからそれは可能だ……だが、奴はその為に多くの人々を泣かせてきた……恐らく、フェイトや杏子も自身の強化だけの為に利用したんだろう……」
「あたしが喰われる側になっていたかも知れなかったわけか……」
「ああ、だから井坂相手じゃ流石にとやかくは言えねぇよ……照井が聞いたら間違いなくブチキレるな……」
「まぁ、あたしが偉そうな事言える立場じゃねぇけどな……」


 杏子自身、使い魔が人々を襲って魔女になるのを放置してきた事もあり井坂の行動の全てを否定する事は出来なかった。
 勿論、杏子が魔女になるまで放置していたのは魔女を倒さなければグリーフシードを入手出来ないという事情、つまりは死活問題であった為、実際は井坂とは似て非なるわけだが杏子視点では大差は無いと考えている。


「ん、なんか言ったか?」
「いや、要するにあたしは兄ちゃんやユーノ、それにフェイトと違って善人じゃなくそのおっさんと同類な他人を利用するだけ利用してボロ雑巾の様に捨てる極悪人って事さ」


 やや自虐的に口にする――余談だが、杏子は1つ重要な嘘を吐いている。
 そう、フェイトが殺し合いに乗っていたという事実だ。翔太郎達を利用する際にもフェイトには口裏を合わせる様に根回しをしていた――もっともそれはフェイト自身殺された今とはっては無意味な話である。
 何故その事を話さないのか? 勿論、前述の通り無意味でしかないからだ。だがそれ以上に――フェイトの存在を穢したくなかったのだろう――
 汚れ役は自分だけで十分――杏子自身無意識の内にそう考えてしまったのかも知れない――


「……俺にはそうは見えねぇな」
「どういう意味だ?」
「俺には杏子がそこまで悪い奴には……街を泣かせる様な奴には見えねぇって事だ」
「数え切れねぇぐらい罪を犯してきたって言ってもか?」
「………………だったら、なんで今更それを俺に打ち明けたんだ? 本当に極悪人なら最後まで黙っていれば良かっただろう?」
「さぁ……なんでだろうな」


 杏子自身、何故ここにきて真意を告白したのだろう?
 それは自分達を守る為に散っていったフェイトやユーノ、自身に大事な物を託して逝った東せつなや姫矢准達の想いに応えるべく、これ以上騙す――いや、もう乗っていない以上これは違うか――
 騙していた事を黙っている事に耐えられなかったのだろうか――


「それに、今は乗っているわけじゃねぇんだろ? 大体、そんな極悪人だったらあの時俺も見捨ててドライバーとメモリだけ確保しておけば良かったんじゃねぇか?」


 翔太郎視点では杏子が乗っていたのは事実だとしてもその理由は彼女自身が語ったとおり自分が生き延びる以上の意味は無かったと思っている。
 つまり善悪云々ではなく単純に1人しか生き残れないから他人を蹴落とそうとしただけの話だ。状況を考えればその選択をとったとしても仕方の無い部分はある。
 それを良いというつもりは当然無いが、彼女自身が口にしたとおりそれだけで極悪人という事にはならないだろう。
 それ以前に自分だけ助かるつもりだったなら極悪人云々を別にしてもあの時気絶していた自分を見捨てなかった事に説明がつかない。あの時の翔太郎は完全に足手纏いだからだ。
 ドライバーやメモリを含めた道具を持ち逃げしたって良かった筈だ、事情を把握できないフィリップには後で何とでも言い訳がつく。
 にも関わらず――


「そうしなかったって事は……」
「……れなかっ……」
「あ、何だって?」
「見捨てておけなかったんだよ!! 理由なんか知るか!! 何度も言わせんなよ恥ずかしい!!」
「いや……なんで俺キレられているんだ?」








Passage 02 Partner's counsel



 ――とまぁ、そんなやりとりもあって俺達は姫矢の荷物が置いてある場所に辿り着いた。
   だがそこで突きつけられたのはせつなの死という残酷な現実だった――


 思い返せば、せつなはタワーを去って行った杏子を追いかける為に姿を消していた。
 どういう原理かはともかく順調にいけば杏子と合流出来ていた可能性は高い。
 だが、ガドルの所で杏子と再会した時せつなの姿はなかった。あの時は目の前の戦いに対処する関係上詳しく追求できなかったがせつなの姿がないのは少々奇妙な話だ。
 とはいえ、幾つか考えられる展開はある。単純に合流出来なかった、合流したけど杏子1人で戦いに向かう為一端別れたという可能性もあっただろう。
 その中でもあくまでも可能性の1つでしかなかったが、合流はしたが何者かの襲撃に遭いせつなが殺される展開も考えられた。
 つまり結局の所、十分過ぎる程推測はできたという事だ。


「俺達がタワーでダグバと戦っていた時か……」
「ああ……確かモロトフって奴だった……」
「Dボゥイから聞いた……確かラダムのテッカマンか……」


 実は翔太郎は放送前後辺りで京水及び相羽タカヤことDボゥイと互いに情報交換を行っていた。
 余談だが、相羽シンヤやモロトフの事をDボゥイが説明する度に京水が色々やかましかった事を付記しておく。


「奴の話が確かならマミをやったのもあいつらしい……仇を取るなんて粋がっておきながらこのザマさ……」
「ん? マミ?」
「ああ、そういや言ってなかったっけ。巴マミ、魔法少女の先輩って所さ」
「ちょっと待て、知り合いいたのか!?」
「いや黙っていたのは悪かったけどあたしだって放送で名前が呼ばれて初めて知ったんだって。大体……あたしの知る限りもうとっくに魔女と戦って死んでいた筈だったし……」
「何……杏子もなのか?」
「……って兄ちゃんもか?」
「ああ……俺の知る限りだと霧彦、井坂、冴子、大道に京水……それにあの加頭も1年以上も前に死んでいた筈だ」
「どういう事だよそれ……確かあの霧彦の兄ちゃんは蘇ったとかどうとか言っていたけどよ……マミだけだったらキュウべぇが騙していただけかも知れねぇけど……そんなにいるんだったらその線はねぇしなぁ……」
「キュウべぇ……確か杏子達を魔法少女にした奴か……」
「ああそうだ。もしかしたらその加頭って野郎の背後にそいつがいるかも知れねぇよ。魔法少女について一番詳しいのはそいつだからな」
「言われて見りゃ、ソウルジェムに首輪なんて発想、魔法少女の情報を知らなきゃ出来ねぇからな……」


 ――その後、俺達は姫矢の残した支給品……何故か2つあったデイパックの中身の確認をしつつ姫矢を待つ事にした。
   その傍ら俺はドライバーを装着し相棒と連絡を取り合う事にした。
   こうして相棒とやり取りできる機会は少ない。だが僅かな機会を無為には出来ない、こちらが得た情報、あるいはキーワードをフィリップに伝え、この状況を打開する術を――





『ハーフボイルド……』



 相棒の返答は余りにも辛辣だった。


「なんだよフィリップいきなり……」
『結局殺し合いに乗っていた彼女をそのまま信用すると……』
「悪いかよ……」
『彼女がフェイト・テスタロッサとユーノ・スクライア、それに君を騙していたのは事実だ。そして危険人物とはいえ殺し合いを打破しようとしていたであろう井坂深紅朗と交戦していたんだろう』
「けどな、わざわざそれを話したって事はもう……」
『それすらも君達を騙す方便かも知れない、その可能性を全く考えていないわけではないのだろう?』
「それはねぇんじゃねぇか……?」
『また感情に流されて……』
「そうじゃねぇよ……確かにあのマッチョメン……ガドルと戦う前の杏子だったらそうかも知れなかったが……何か違うんだよ……今の杏子には何かが……」
『………………確かに僕も杏子ちゃんの様子には気になる所があった……何故あの時一人タワーから出て行った事を考えるとね……本当に利用するならばそのやり方は得策じゃあない……もしかすると本当に君の言う通りかも知れないが……』
「それにそれでなくても杏子がそこまで悪い奴には思えねぇんだ……」
『どういう事だい?』
「確か魔法少女になる為にはキュウべぇと契約する必要があるらしい……少女の願いを叶える代償として魔法少女としての力を得る……」


 余談だがこれは図書館で確保した本から得た情報である。


『君の話通りならば、割に合わない契約だと僕は思うよ』


 その年頃の少女の願いのレベルを考えるならば、その為に人間の身体を捨てさせられ延々と命懸けの魔女との戦いを強いられるのは少々割に合った契約とは言いがたい。
 魔法少女という甘美な響きに反した過酷な運命――ある種の悪徳商法と言っても良いだろう。
 勿論、魔女が人々を脅かすならばある程度は必要悪かも知れない。だが、それを何も知らない少女に背負わせて良いという理屈になり得ない。


「そうだろうな、魔女と戦い続ける宿命を背負わされるわけだからな……だが俺が今気にしているのはそこじゃねぇ……」
『というと?』
「言っただろ、『少女の願いを叶える代償として』と……つまり、杏子が魔法少女になったのは当然前提となる願いがあるという事だ」
『それで?』
「誰かを助ける為に願いを叶えようとする奴が、他人を泣かせる真似をすると思うか?」
『私利私欲の為に契約したとは?』
「あのなフィリップ……そんな自分の為だけに願う奴が魔女と延々と戦えると思うか?」
『もっともだね……だが……それは君が彼女達の境遇に対して同情しているだけじゃないのかい?』
「……同情だと?」
『彼女達が自分から進んでその過酷な運命を選んだのは事実だ、後から話が違うって言われてもそれはその道を選んだ彼女達の自業自得……そういう事にもならないかな?』
「わかっているさ……だがな……」
『………………煮え切らないか……やはり相変わらずの半熟卵……ハードボイルドじゃないね』
「んだとぉ?」
『………………だが翔太郎、それが君の良い所だ。君のその甘さと優しさこそ必要だ……前にも言ったと思うけど、それが弱さだとしても僕は受け入れる……』
「フィリップ……」
『何より、僕自身も少し気になっているしね……』
「そういやフィリップ、さっき伝えた……」
『……検索は一応はしてみた……が……』
「キーワードが足りな……」
『いや、それ以前の話だ……残念だけど君の言っていた魔女や魔法少女の情報は地球の本棚にはなかった。キュウべぇに関する情報もね』
「本当かよ?」


 密かに翔太郎はフィリップと連絡を取った際にキーワードを伝えて検索を依頼していた。
 殺し合いの打破のヒントを掴む為――というのもあったがそれ以上に何とかして杏子達を助ける方法を探したかったのだ。
 だからこそフィリップにその関係のキーワードを伝えたわけだが――御覧の有様という事だ。それどころか――


『ああ、それどころかミッドチルダ、ベルカ、ジュエルシード、闇の書、それからテッカマンにプリキュア、それらの情報についても全く情報が得られなかった』
「どういう事だ?」
『『地球の本棚』は僕達の地球の記憶が収められている……つまり、別の地球の出来事に関する情報は管轄外という事なのだろう』
「つまりフィリップの力をもってしても打つ手無しという事か……」
『一応美少女仮面とかそういうのは見つかったけど……君の探しているのはそういうのじゃないんだろう?』
「ああ……つか美少女仮面って何だよ……魔法少女と全然関係ねぇじゃねぇか?」
『だが……仮面ライダー1号と仮面ライダー2号に関する情報ならあった』


 フィリップの検索が使えず落胆する所だったが意外な糸口が見つかり歓喜する翔太郎だったが、


『ただ……彼等が存在したという都市伝説がある……それ以上の情報は掴めなかった』
「まぁそもそも俺達が仮面ライダーって呼ばれているのも風都の皆がそう呼び始めた事が切欠だからな……案外その都市伝説に倣って……かもしれねぇなぁ……」


 そもそも自分達が仮面ライダーと名乗っているのは風都の人々がそう呼び始めそれを気に入ったからだ。
 という事は当然風都の人々が呼ぶ理由というのが存在する。


『翔太郎、だが逆にこうは考えられないかい。僕達の活躍に倣って新たな仮面ライダーが現れる……そういう事も何れはあるんじゃないかな?』
「そうかぁ?」
『ともかく……もしかするとあの場にいた仮面ライダー1号達も僕達の世界とは違う仮面ライダー1号かもしれない。そう……かつて出会ったもう1人のスカルの様に』
「ディケイドと2度目の共闘をした時か……そういや……ディケイドがスカルやWのカードを持っていたな……まさかとは思うが別の世界にも俺達の力の宿った……」
『それを使う事で僕達を呼び出す事も出来るかも知れないね……もしかすると僕達の世界にも似た様なものがあるかも知れないよ』


 2人が話題にしているのは死人帰りの一件の時に逃走したダミー・ドーパントを追跡した先で仮面ライダーディケイドと共闘した時の事だ(ちなみにその前にも1度共闘している)。


「そういやフィリップ、その前に一緒に戦った時、さっさと帰ったよな。確か銀ピカ倒してさっさと……」
『銀ピカ……そんなのいたかな……それにそんな事はどうだって良いよ』
「それもそうだな」


 それが1度目の共闘時の話である。なぜ彼等がその戦いに介入したか、そして何をしたのかは敢えて語る事はしないでおこう。


『ともかく仮面ライダー1号達も僕達の世界の彼等とは違うかもしれないという事だ。それから砂漠の使徒や外道衆についての情報も見当たらなかった』
「つまり実際に会って確かめるしかねぇって事か……」


 フィリップの検索でも調べられないのは難儀な話ではあるがそれがわかっただけでも仰の字と言えよう。


『それより翔太郎、気になることがある。ナスカのドライバーについてだ』
「ああ、アレがどうかしたのか?」
『単刀直入に言うよ、僅かながらだが破損の形跡がある』


 フィリップが指摘しているのは先のガドル及びダグバ戦の最中で回収した霧彦のメモリとドライバーについてだ。


「使えねぇのか?」
『それはわからない……使えるが何かしらの負荷がかかる可能性もある……だが仮に壊れて使用出来なくてもメモリそのものは無理矢理にも使う事自体は可能だ』
「ああ、霧彦と最後に戦ったバードの時か……」
『……とはいえ、君自身使うつもりも他の誰かに使わせるつもりもないんだろう?』
「当たり前だろう、それだけか?」
『……実は僕が気にしているのはそこじゃない。何時、誰によってそれが成されたかだ』
「そりゃガドルの野郎と戦って……」
『あの男が壊したにしては破損が小さすぎる……』
「言われてみりゃ……」
『言い方を変えよう……ドライバーを直接攻撃して破損させた形跡があった……』


 その言葉で翔太郎も何が言いたいのかに気付いた。


「おいつまりそれは……」
『ああ、誰が壊したが分からないがその人物はドライバーを破壊するつもりで攻撃を仕掛けた』
「つまり俺達の弱点を突いたと……確かにガドルならそんな必要はねぇな……」
『そう、そしてその人物は……僕達の味方になり得る可能性もある』
「なんでだよ、そりゃ元々はミュージアムの幹部だったが……」
『そんな事は問題じゃない、彼が加頭と同じドライバーを持っていた事が問題だ』
「そうか事情を知っている俺達ならともかく何も知らない奴がそれを見たら……」
『主催関係者の可能性を疑い……誤解による戦いが起こるというわけだ』
「……なるほどな、霧彦にしてみれば災難だったが、霧彦を加頭の仲間であると考えるなら……」
『逆を言えば僕達の味方……それも僕達の弱点を突ける事を踏まえれば強力な味方になり得るかもしれない……勿論仮説に過ぎないけど……』
「いや、それが聞けただけでも十分だ」
『ただ、今更言うまでも無いがドライバーは僕達にとっても弱点だ、メモリとドライバー、そのどちらかを失っても僕達は力を失う』
「ああ、わかっているさ……そういやあのガドルやダグバは……」
『確かに特徴的なバックルではあったがそう結論づけるのはまだ早い。そもそも僕達のドライバーはベルトの形をしているが、必ずしもベルトである必要はないだろう?』
「それもそうだな……わかった、また暫くしたら頼む」
『了解』








Passage 03 左翔太郎の原点



 そう言ってフィリップとの交信を終え一端ドライバーを外す。
 支給品の確認もあらかた終え、姫矢が少し移動させたらしいせつなの死体も戦いに巻き込まれるのを避ける為ビルの内部へと移し、後は姫矢の到着を待つだけだ。
 しかし一向に現れる気配はない――状況から考えあの後現れた危険人物に襲われそのまま――という可能性もある。


「まさか姫矢……俺達を逃がす為に……」
「(流石に何時までも隠せねぇか……)」


 姫矢の死を薄々察している(もっとも現実の理由そのものは杏子の推測とは違うが)杏子はやきもきする翔太郎をどうすべきか考える。
 何れはわかることと言えばそれまでだ。だが、自分達の為に死んだ事を知ればまた翔太郎は自分を責める。できればもう少し時間が欲しい――
 だが、時間稼ぎもそう出来ないだろうし状況的にあまり良くはない。
 どうしたものか――と、ふと頭に1つの疑問が浮かんだ。

「なぁ兄ちゃん……姫矢の兄ちゃんもあたし達を守る為に……」
「まだそうと決まったわけじゃねぇよ……何時までも待っていられねぇがその内来て……」
「1つ聞いていいか?」


 と、共通の食料であるサンドイッチを1つ頬張りつつ話題を切り出す。


「なんだ?」
「もし、今ここでどうしようもないぐらい強い敵……」
「ガドルやダグバの様な奴か?」
「まぁそんな所、そいつが現れ全滅しそうになるとするだろ……」
「もしも何も殆どさっきと同じ状況じゃねぇか」
「しょうがねぇだろ、他に浮かばねぇんだから!」
「わかったわかった、その状況がどうしたんだ?」
「その状況で自分を犠牲にすれば他の皆を助けられる方法があるとするだろ……」
「あの時のユーノとフェイトと同じか……」
「兄ちゃんも進んで自分を犠牲にするつもりなのか?」


 勿論時間稼ぎという目的もある。だが杏子自身気になっていたのだ。
 翔太郎自身もユーノやフェイト、それにせつなや姫矢の様に他人の為に平然と自分の命を投げ出せるのかどうかが。
 それはそう遠くない未来の杏子自身の姿なのだろう。だからこそユーノ達と同じタイプである翔太郎にも聞いてみたのだ。
 とはいえ杏子自身返答はわかっている、大体ユーノ達と同じタイプと判っているなら返答など聞くまでも無い。
 それでも翔太郎自身の口から聞いてみたかったのだ。


「……まぁ、俺も杏子達を守る為ならば同じ事をしていただろうな……」


 予想通りの返答だ。


「やっぱそうか……」


 だが、翔太郎を犠牲にするつもりはない。どちらが先に犠牲になるかでいうならば自分の方が先だろう、杏子はそう考えていた。しかし――


「だがその前に俺自身も含めた全員が助かる方法を探すさ」
「え?」
「杏子……何か根本的な所で勘違いしてねぇか? 俺達が他人の為に平然と自分の命すらも投げ捨てる奴等だって思ってねぇか?」
「違うのかよ? 他人を助けるためだったら自分なんてどうなったって良いって……」
「そんなわけねぇよ、俺だって死にたくなんかねぇよ。フェイトやユーノだって同じだ、最初から死ぬつもりだった……なんて事は絶対にねぇよ」
「じゃあなんであいつらは……」
「あいつらにとっては自分が死ぬ事よりも仲間達が死ぬ事の方がよっぽど辛かったって事じゃねぇか?」


 そういえばと思い返す――
 気絶した翔太郎と共に離脱する際、ガドルを拘束していたユーノだけが残る必要があった。
 だがフェイトにしろ杏子にしろそれは受け入れがたい話だった。しかし、


『でもこのままここに残ったって、君達二人が犠牲になる! 君達はそれでもいいの!? 僕は……僕はそんなの嫌だ!』


 そう言って2人の反論を押し切りユーノは残ったのだ。
 また離脱直後フェイトがユーノの所に戻ろうとしていた。杏子はそんなフェイトの暴走に反対するが、


『でも、やっぱりユーノがいた方が杏子も私も助かるかもしれないから』


 とよくわかるようなわからないような返答で杏子の反論を押し切り戻っていった。


 フェイトの方は彼女自身もよくわかっていなかったのでひとまず置いておくが、ユーノに関してはほぼ間違いなく自分達が犠牲になる事の方が自分が死ぬよりも嫌だという事がわかる。
 それを踏まえてフェイトの言葉を振り返ろう、状況的にはユーノを助けられる可能性は限りなく低いのはフェイト自身も判っていた筈だ。
 それ以前にそもそもフェイトは優勝狙いだった筈だ。幾ら一時的な戦力としてユーノが必要とはいえ、フェイト自身が助けに戻るのはリターンに対し余りにもリスクが大きすぎる。
 ――が、そもそもの話、確かフェイトとユーノは仲間だった筈だ。その割にはフェイトの言動には引っかかる所があるもののユーノの様子を見る限りは相当に信頼のおける仲間である事に違いない。
 更に言えば出会ったときから感じていたがフェイトの言動はどこかはっきりしていなかった。
 平然と襲ってきながら謝罪してきたり、変態のおっさん(翔太郎が名前を言っていたが覚える気はない)の言葉にあっさり動揺した辺り(それは杏子にも若干あったが)からもそれは明らかだ。
 だが、曖昧な部分はあろうともフェイト自身はちゃんと真意を口にしていたのではなかろうか? 謝罪はしていたが目的の為に殺す事を明言していたし、動揺していても母の為に戦っている部分は決してブレてはいなかった。
 となるとあの時の言葉の真意は結局の所は――
 『ユーノがいれば自分が助かる』、裏を返せば『ユーノがいなければ自分が助からない』ではなかろうか?
 つまりフェイトとユーノは全く同じ理由だったという事だ。


 更に思い返す。せつなが死ぬ時の事だ。自身が死ぬ時だというのに助けた杏子を友達と言ってこう口にしていたのだ。


『だってあなたは……モロトフさん、から……私を助けて、くれたでしょ……あのままじゃ、ラダムに支配されて望まない戦いを、させられているあの人を……もっと、悲しませるかも、しれなかった……』


 なんとせつなは自分を殺した相手であるモロトフの身を案じていたのだ。その一方で生きて一杯やりたい事があるとも語っていた。


 つまり、彼女達にとっては自分が死ぬ事よりも他の人が悲しむのが辛かったという事だ。他人を犠牲にして自分が生き残っても自分自身が満たされないと――


「そういうもんか……」
「だからと言って犠牲になって良いわけもねぇよ。ユーノ達にだって……いやそれだけじゃねぇ、死んでいった奴等みんな心配してくれる奴等がいただろうからな……杏子にだっているだろ?」
「いや、あたしにはそういうのはいないよ」
「何?」
「家族はみんな死んじまったし、こうやって自分だけの為に戦っていりゃ友達だって出来るわけもねぇしな」
「それは寂しくねぇか?」
「寂しいかも知れねぇけどさ……もう慣れたよ……」


 と、せつなから託されたリンクルンに視線を向け――ほんの少し心が痛んだ。


「待てよ? なぁ、魔法少女の知り合いとか仲間とかはいなかったのか?」
「知り合いはいない事もねぇけど……仲間と呼べるのは……」


 首を振る杏子を余所に翔太郎は名簿を広げる。


「……なぁ、今更かも知れねぇがマミって子以外にも杏子の知り合いが巻き込まれていなかったか?」
「いるにはいる……けどもう手遅れだよ」


 今更ながらに杏子はマミ以外の知人3人の名前を挙げる。何れもそこまで親しい関係でもなく名前を知っている程度のレベルのものだと付け加えた上で。
 それを聞いた翔太郎は落胆する。なにしろ鹿目まどか及び暁美ほむらの名前は既に放送で呼ばれているからだ。杏子が手遅れと言ったのも頷ける。


「そのまどかって奴はよく知らないけど、ほむらって奴はキュウべえが極めつけのイレギュラーって言う辺りあたし達の知らない事も知っていたと思う……アイツが素直に兄ちゃん達に協力するとも思えねぇけど」

 最後の方は聞こえないぐらい小声で口にした。

「何か言ったか?」
「いや、別に」
「ちょっと待て……なぁさやかって奴はまだ……」
「あーアイツ……うーん……」


 現時点で唯一名前が呼ばれていない美樹さやかの話になったが妙に歯切れが悪い。


「まさか殺し合いに乗りそうな……」
「それはねぇよ、アイツ人助けとか正義とかの為に魔法少女になったらしいしな……そういう意味だったら兄ちゃん達とも合っていたと思うけど」
「おいおいちょっと待てよ……」


 確かに性格だけで言えば味方であろう。
 だが、魔法少女の過酷な運命をそんなあっさり受け入れられるものだろうか? 翔太郎にとってはそこが引っかかっていた。


「そういう意味じゃあたしよりもずっと心配すべきかもな」
「ん、じゃあなんで……」


 だが逆に引っかかる。何故、杏子はさやかに対して妙に歯切れが悪かったのか?
 が、落ち着いて考えてみよう。もし、正義感の強いらしいさやかが唯々自分勝手に振る舞う杏子を見てどう思うだろうか?
 決して良く思いはしないだろう。


「まさかとは思うが……杏子から何かしたって事は……」
「いや、現実知らない甘っちょろい後輩にちょーっとお灸を……」
「やってんじゃねぇか!!」
「兄ちゃん達だって遊び半分で首ツッコまれたらムカツクだろ」
「そりゃそうだけどよ……どうすんだよ……」
「いや、今更あたしからやりあうつもりはねぇよ」
「当たり前だ!! 無用なトラブル起こさねぇでくれよ……」
「うん……アイツについては……本当にゴメン……」


 以上が杏子の知り合いである。


「……というわけで元の世界に帰ったって待っててくれる奴なんて誰もいねぇよ」
「そんな事はねぇんじゃねぇか?」
「じゃあ誰かいるっていうのかよ?」
「確かに杏子は自分の為だけに魔女と戦っているかも知れねぇよ。でもな、魔女によって泣いている人達を助けた事に違いはねぇんじゃねぇのか?」
「そんな奴いるかなぁ……」
「いるさ、杏子の帰りを静かに待っている人がな……」


 翔太郎はそう言うが杏子には全く見当もつかない――


 だが――ある1つの可能性の話、いやむしろ1つの現実として起こった出来事だ。
 それは極めつけのイレギュラーと評した少女、たった1人の少女を救う為に何度も時を繰り返し永遠にも近い長い時間を駆け抜けた1人の少女が経験した1つの時間――
 杏子は魔女に襲われていた1人の少女を助けていた――その後、その少女と杏子は行動を共にする事になる――
 当然の話ではあるが、その少女あるいは杏子にとってそれぞれが大事な存在である事は言うまでも無い。

 勿論、その杏子とここにいる杏子がそのまま重なるというわけではない。
 だが、思惑はどうあれ魔法少女が魔女から人々を守っている事に違いは無い。助けられた人々の中には感謝する人もいる筈だ――
 そしてその人々はその魔法少女の身を案じる――

 これは机上の空論でも何でも無い。杏子の知り合いが実際にそうなのだから――
 そもそもまどかやさやかが魔法少女に憧れる事となったのはマミに助けられたからだ。
 更に言えばほむらにしても魔法少女となったのは自身を助けてくれたまどかを助ける為である。

 助けられた人々にとって魔法少女は希望――希望だからこそその身を案じるのだ――翔太郎はそう考えている。


「そういう兄ちゃんには待っている奴は……」
「ああ……亜樹子……おやっさんの娘で探偵事務所の所長をやっているアイツがな……」
「兄ちゃんの彼女?」
「むしろ照井……そうだ、照井の事をなんて言えば……」
「彼女じゃねぇんだったら……大家?」
「いや、それ自体は間違ってねぇ(実際権利者である)が……つか所長って言ったよな? ……むしろ……俺はアイツの父親代わり……だな……」
「父親って歳には見えねぇけど」
「当たり前だ。俺もまだ若ぇよ」


 そう話している内に杏子のサンドイッチも丁度尽きた頃だ。


「そういやずっとあたしの事ばっかり気にしているけどそういう兄ちゃんはどうなんだよ?」
「ん?」
「いや、兄ちゃんだって仮面ライダーなんだろ? どうして仮面ライダーになったかって」


 それは何気なく浮かんだ疑問ではある。


「やっぱり人々や平和を守る為なのか?」


 考えてみればさやかもそんな理由であっさり魔法少女になっていた。杏子自身その時はさやかの事をバカにしていたが今となっては流石にそんなつもりはない。


「………………少し違うな」


 だが、翔太郎の返答はまたしても予想外のものだった。


「ん、違うのか?」
「ああ……あんまり語る様な事じゃねぇが……」


 翔太郎は自身がWになったいきさつを語る――
 元々翔太郎はおやっさんこと鳴海荘吉の元で探偵の助手をしていた――
 そんな中、ある依頼――ミュージアムからフィリップの救出に向かった時の事、自身のミスにより荘吉を死なせてしまう。
 悲しみに暮れる間もなく自身とフィリップに迫るミュージアムの連中、そして――


『悪魔と相乗りする勇気、あるか?』


 それが全ての始まり、ビギンズナイトであった――


「なんか聞いてみれば殆ど成り行きだな」
「そうだな……おやっさんの後を継いだと言えなくもねぇが……そもそもおやっさんが仮面ライダーだった事自体その時まで知らなかったからな……」
「じゃあさ、人々を守るのは仮面ライダーとか関係……」
「ああ……実は関係ねぇんだ……」


 そういって遠くに見える風都タワーへと視線を向ける。


「俺はこの風都という街が好きだ……この街で誰一人泣いて欲しくねぇんだ……ガキの頃からずっとそれは変わらねぇ……」
「1つわかんねぇんだけど……だったらなんで探偵なんてやっているんだ? 別にそれだったら警察でも役人とかでも良くないかな……」


 杏子視点から見た場合、探偵というのは調べ物をする仕事であり人々を守る仕事――というものからは若干ズレている。


「いかなる事態にも心揺るぎない、男の中の男の生き方……それが……俺の憧れるハードボイルドだからだ……」
「……答えになってねぇよ、それに兄ちゃん見ても全然そんな風に見え……」


――確かに杏子の言う通りだ。本当のハードボイルドなら一々語りはしない。
  だがどことなく思い詰めている様に見えた杏子を見て語らずにはいられなかった。
  いや、本当は俺自身の為だったのかも知れない。
  そう、この殺し合いに対して殆ど何も出来ないでいる俺自身が原点に立ち返る為に――


 翔太郎は静かにあの日の事を思い出す――
 幼馴染みである津村真里奈と共にある女性歌手のショーを見に行った時の事、その女性歌手(今にして思えばどことなく亜樹子を彷彿とさせる)が謎の怪人(今にして思えばドーパントだったのだろう)によって襲われた。
 警官が駆けつけようとも怪物には全く歯が立たず、女性歌手に怪人が迫ろうとしたが――


 そこに颯爽と現れたのだ――


『俺の依頼人に手を出すな』


 怪人に対しても全く引かずそう言い放った1人のハードボイルド探偵――


 幼き翔太郎はその姿に唯々見とれていた――


 超格好良いと――


 荘吉を死なせ、フィリップと共に初めて変身したあの夜が仮面ライダーWとしてのビギンズナイトならば――
 あの日何処までもハードボイルドな探偵を魅入られたあの夜こそが探偵としてのビギンズナイトだったのかも知れない――



 あれからどれぐらい時間が経過しただろうか? 姫矢が現れる気配はない――
 これ以上待つわけにもいかない、そう考えていたその時――

 風都タワーの見える方向に大きな柱の様なものが打ち上がったのだ――


「何だありゃ!?」
「兄ちゃん!?」


 既に杏子の方は動ける状態になっている。


「わかっている!! 姫矢の事も気になるが今は……!」


 翔太郎もすぐさま走り出した。





――俺は何処か忘れていた、今現在も殺し合いは着々と進行している事を。
  危険人物が何の罪もない人々を脅かそうとしている事を
  立ち上がった何かの柱はそれを俺に思い出させてくれた――





――だが、それは余りにも遅すぎた。それ故に俺はこの後余りにも悲しい出来事と遭遇する事になる――




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最終更新:2013年03月15日 00:40