Uに一人だけの/ダグバの世界 ◆7pf62HiyTE



MainScene01 天駆ける超人


 時間は少々前後するが、モロトフは先程G-8にある中学校から南下しH-8にある風都タワーへと辿り着いた。
 勿論これ自体には間違いは無い。だが、1つ冷静に考えて見て欲しい。
 その間に位置するG-8からH-8の道中の一点において数人もの参加者が集結しており今まさに戦いが起ころうとしていた、あるいは現在進行形で起こっていた。
 同時に隣接エリアであるG-9では1つの戦いが、それも雷が鳴り響く程の激しい戦いが――

 何が言いたいかおわかりだろうか? モロトフはそれに一切遭遇する事、いや一切認知する事無く迅速に移動し風都タワーへと辿り着いた。
 百戦錬磨かつ自ら完全なるテッカマンを自称するモロトフにしては些か注意が欠けているとは思わないか?

 何故か? 幾つか理由があるがここでは2つ提示しよう。

 1つはこのフィールドの広さにある。
 これに関しては何度か説明はしているものの多くの読者諸兄の中には忘れている方も多いだろうが、今一度思い出して欲しい、
 以前、モロトフはある参加者との戦いで半径数キロのクレーターを作り上げI-5エリアを崩壊させた。
 正確な大きさは明言してはいないが数キロというからには下手をすれば直径にして10キロ強のクレーターが崩壊したと言っても良い。
 最小で考えても直径で5キロ弱は確実に崩壊させたと考えるのが自然だ。

 だが、それだけの大きさであってもI-5エリアの大半に収まっている。もう、何が言いたいかおわかりだろう。

 つまり、1つのエリアは1辺の長さが数キロ(下手をすれば10キロ強)あるという事だ。
 同時にそれは1エリア強程度しか離れていない中学校から風都タワーの距離も数キロあるという事を意味している。
 同一エリアにいたとしても数キロも離れている、それならば早々都合良く遭遇しなくてもおかしくはないしむしろ自然と言えよう。
 戦いの音や雷鳴に関してもそれだけ距離が離れているならば余程感覚が鋭いか、あるいは余程注意していなければ知覚出来なくても仕方が無い――

 そしてここでもう1つの理由が重要となる。
 実はモロトフ自身、出来るだけ早く事に及びたかった。その為できうる限り迅速に向かいたかった。
 と、ここで1つ気になる事もあった。
 それはこれまで何度か戦った中で気づいた事だが――自身の能力が抑えられているらしい。
 それに憤りを感じるがこの際今は良い。重要なのはそれを失念したまま戦えば何れ足をすくわれかねないという事だ。
 そこで、自身にかけられた制限を確かめる為にも――
 モロトフは一旦、テックセットを行いテッカマンランスへと変身しとある事を行ったのだ。

 クラッシュイントルード――クリスタルフィールドを形成し、装甲を変形させた上での超高速による突撃――その衝撃波等により一度に多勢を排除する事も可能なテッカマンの技の1つだ。


「ふむ、やはり何時もよりは威力は抑えられているか……だが脆弱な人間共にはこれだけでも十分だ」


 実際に行った後、ランスはこう口にした。その言葉どおり威力は若干抑えられているのを実感した。
 それでも、並の相手ならば十分武器にはなるし、数キロの距離も極めて短時間で移動できた事に違いはない為さほど大きな問題はないだろう。
 何にせよ、風都タワーまで数百メートルの地点にまで到達した、ランスは一旦テックセットを解除しデイパックからパンと水を取り出しそれを口にしながら歩く。
 このままテックセットしたままでも良かったが、テックセットしている間は消耗が激しい。ここまでの激戦を踏まえても栄養補給は必要だ。
 かといってテックセットしたままでは食事がしにくい(というより全身を装甲で覆っているから当然と言えば当然だがまず不可能)、故に一度テックセットを解いたのだ。
 何しろこれから行う事を踏まえれば、中途半端な力しか出せなかった――ではあまりにも格好が付かない。そう考えたというわけだ。

 かくしてその少し後、モロトフは風都タワーに辿り着き、再びテックセットを行いボルテッカを放ち、風都タワーを瓦礫へと完全崩壊させたのだ――

 が、ここで1つ冷静に考えて欲しい。
 クラッシュ・イントルードはその性質上、非常に目立つ技とも言える。
 他の参加者にそれを知覚されるリスクは考えなかっただろうか?
 結論から述べよう。モロトフは別に構わないと考えていた。元々拡声器で参加者に自身の存在を知らしめるつもりだったのだ。
 自身の姿が見られているのならばむしろ好都合だ、是非来てくれ、返り討ちにしてやると言いたい所だ。

 言ってしまえば――モロトフは自身に絶対的な自信を持っていた。ラダムの中でも唯一無二の実力を持っていると――それ以外の連中など烏合の衆に過ぎないと――
 だからこそ、一見すると無謀で愚かな行動ではあってもそれを迷うこと無く実行できたのだ――

 そして物語は再び本来の時間へと戻る――





SubScene01 焦燥 疾走 振動


「はぁ……はぁ……」


 全身に激痛が奔る――
 それでも沖一也こと仮面ライダースーパー1は警察署へと走る――

 致命的な失策だった、怪人を力の持たない孤門一輝達や子供達のいる警察署方向に向かわせてしまう事になってしまった――
 件の怪人は自分の動向から目的地が警察署だと看破していた様だ。加えて放送でのボーナスを踏まえるならば向かわない理由は無い。
 (注.実際は放送の意味には気付いていないが沖にそれを知る術は無い。また、最悪を考えるならば気付いていると考えるべきである)
 ともかく、可能な限り急ぎ奴よりも先に警察署に向かわなければならない。


「(奴は俺達が考えている以上に危険な存在だ……)」


 その戦闘能力は言うに及ばない。だがそれ以上に恐ろしいのはその思考だ。
 自身の快楽の為だけに強い者と戦いそれを倒す、その為ならば手段を一切選ばない危険な思考だ。
 思い返せば先の戦い、自身の電撃攻撃で強くなった事からスーパー1にも雷を浴びせてきた。その目的はスーパー1を倒す為では無くスーパー1を強化する為――
 勿論、それでスーパー1が強くなるファンタジーがあるわけも無いが、奴は出来れば良いと考えそれを試したのだろう。
 そして自身を見逃したのも自身をより強くなる存在であると願ったからでしかない――

 では奴は次に何をする? どうやって自分を強くするつもりだ?
 心技体の3つの要素から考えてみよう。
 体……まずこれは不可能だ、短時間で肉体を強化する方法など存在しない。電撃で強化されるというのは例外中の例外、またそういう道具があるなら既に使っている筈だ。
 技……戦闘技術が一朝一夕で身につく事などあり得ない。付け焼き刃だけで強化出来るほど甘くは無い。
 となれば――心、それに働きかけるつもりなのだろう。

 そう、奴はスーパー1を精神的に追い詰める事で強化を図ろうとしているのだ。

 先の戦い、奴が『楽しい』という理由で戦う、あるいは人々の命を奪う事を聞いた時、自分は強い怒りともいうべき憤りを感じた。
 それを見て奴はスーパー1を強いと評価しつつ、もっと強くなる事を期待したのだ。

 それを踏まえて考えれば、奴は他の参加者を惨殺する事で自身の怒りあるいは憎悪へと働きかけ強化させるつもりなのだろう。
 憎しみや怒りに囚われるつもりは無いがその感情が強い力を生み出す事は否定できない。奴のやろうとしている事は理にかなっている。
 その手始めとして警察署にいる仲間達を血祭りに挙げるということなのだろう。あくまでもスーパー1といった強者に憎しみを抱かせ強化させる為に――

 その思考故に奴は何としてでも自分が止めなければならない。警察署にいる面々では到底奴には勝てないだろう。
 一応、事前の話し合いで明堂院いつきと蒼乃美希の両名が警察署に向かう手筈にはなっている(ただ、彼女達の性格上、深追いして戻るのが遅れる可能性もある――が、ここではこれ以上は考えない)。
 確かに両名ともにプリキュアでその実力は相当なものなのは沖も理解している。
 だが、彼女達を奴と戦わせるわけにはいかない。彼女達の力では奴には届かない、もちろんそれも大きな理由だ。
 しかし一番に重要なのは彼女達は戦うには余りにも優しすぎるのだ。
 人々を守るという意味では仮面ライダーとプリキュアは非常に似ている。しかしプリキュアはその名の通り、悪意を持った敵すらも癒やし浄化した上で救う、それが最大の特徴だ。
 それ自体はむしろ非常に素晴らしいことだと思う。人々を守るとはいえ仮面ライダーの力の根本は破壊でしかない。
 しかしプリキュアの力はそうではない、彼女達の力は浄化あるいは救済の力だ。
 本当の意味で必要な力はむしろ彼女達の力と言ってもよい。

 が――奴を相手に出来るかどうかは全くの別問題だ。
 恐らく彼女達は奴をも救おうとするだろう。しかし、その願いは確実に奴には届かない、そしてその甘さが――彼女達を殺す事となる。
 そう、哀しい事だが、彼女達の優しさが奴相手には完全に邪魔でしかないのだ。
 優しさが必要無いとは言わない、だが優しさだけでは何も守れない、何も救えないという事なのだ――

 何度も繰り返すがだからこそスーパー1は走るのだ。
 しかし他にも懸念はある。
 確か放送では警察署にいる筈の仲間の1人である早乙女乱馬の死が伝えられていた。
 何故警察署にいる筈の彼が?
 何かの理由で警察署を離れその先で殺されたのか? もしくは警察署で殺されたのか?
 仮に後者だとするならば――自分達が離れた後、何者かが襲撃した事になる。
 そうなると、そこにいる仲間達がそのまま警察署に留まっている保証は何処にも無い。
 いや、仮に前者だったとしても襲撃が無いという確証は何処にも無い。
 放送前に襲撃が、あるいは放送直後現在進行形で襲撃されている可能性は多分にあるだろう。
 何しろ奴の動向関係無く警察署は狙われているのだ。元々自分はそれから守る為に動いていた筈ではなかろうか。

 だからこそ今は急ぐのだ、既にもう手遅れかもしれないが――
 それでも守れると信じて――

 だが、間に合った所で守れるのか――?
 メンテナンス無しでの長時間にして連続した激闘の結果、自身の能力は大分低下している。ファイブハンドの能力は使用不能、素のスピードやパワーにしても低下は避けられない。
 今変身を解除した場合、再度変身が可能という保証すら無い状態だ。
 こんな状態で奴に挑んでも――返り討ちに遭うだけだろう。


「ぐっ……!」


 不安を振り払いながらスーパー1は走る――全身が軋むような痛みを感じながらも――
 何時しかスーパー1の眼前には川が見えてきた。警察署のあるF-9に向かう為にはこの川を越える必要がある。無論、何カ所かに橋はかかっているが――


「橋を探す時間も惜しい……」


 橋の所まで移動する余力は無い。敵は既に橋を越えているかもしれないし、素直に橋を渡る殊勝な奴とも思えない。故に――


「飛び越える……!」


 全速力で駆け高く飛び上がる――幾らスペックが低下したとは言え、十数メートル程度の川ならば十分に越えられる筈だ。



 だが、丁度飛び上がろうとした今まさにその瞬間――



 突如、大気を震撼させる轟音がスーパー1の耳に響く――



「なんだ……この音は……!?」


 音の感触から大分離れた場所から発せられたものだろう。
 それ故に例え同じ距離に他の参加者がいたとしても彼等にも同じ様に聞こえるとは限らない(スーパー1が知覚できたのは改造等によって感覚が強化されているため)。
 だが、この位置にいても大気が震えるほどの振動が響いてくることを踏まえるとその場所で何かが起こったのは確実だ。


「何かが崩れていく……何が……うっ……!」



 その時――急激に力が抜けていくのを感じた――



「そんな……まさか……!」



 チェックマシンによるメンテナンスを怠った事による身体能力の急激な低下、それが最悪のタイミングで起こったのだ。
 偶然? 違う、それはある意味必然だ。
 奴との戦いの後も、持てうる限り全力で走った。それ故にそれでなくても消耗していた体は加速度的に悪化していく。
 それに加えての全力での跳躍、これでは無理が来てもおかしくはなかろう。
 更に――轟く轟音によって一瞬程度ではあったが意識が外れていた――



 故に、崩れた体勢を整えるのにも間に合わせられず――



 そのまま川の中間へと落ちて行った――



 川の流るる音が響く――



 それ故に、直後響く『声』は仮面ライダースーパー1、あるいは沖一也に届く事は無い――





MainScene02 迫り来る闇


 そこにはほんの数分前まで風の都、すなわち風都を象徴する巨大な建造物風都タワーがあった――
 だが、それは無情にも1人のかつて人間であったテッカマン、テッカマンランスことモロトフによって崩れ去った。

 そして瓦礫に座り、テックセットを解いたモロトフが静かに食事をしていた。
 右手にパンを左手にペットボトルの水を持って。


「恐らくあと30分……いや、15分もしないうちに来るだろう」


 風都タワーの崩壊に加え拡声器による呼びかけ、それを認知出来うる範囲は非常に広い。
 市街地の大体半分に届いていると考えて良いだろう。
 同時に風都タワーの様に明らかに目立つ建物が突然消失すれば流石に異常に気付く。
 参加者はこぞって集結するだろう。

 冷静に考えて見れば、主催者共の思惑に乗っているだけの様な気もするが、集った虫螻共を一方的に蹂躙し自らの力を主催者共に示すのもまた一興。
 本当に上なのか誰なのか思い知らせようではなかろうか。


「確かにプリキュアとか魔法少女とか虫螻にしては強大な力を持つ者がいるのを少しは認めても良い……だが、我らがラダムのテッカマンには遠く及ばない」


 慢心せずに戦えば例え相手がプリキュアや魔法少女であっても負ける事は無い、モロトフはそう断言する。


「唯一の懸念はブレード……」


 最大の問題はブラスター化という高い代償と引き替えに膨大な力を得たテッカマンブレードだ。
 その力が絶大で自らを凌駕するのはモロトフ自身身を以て知っている。流石にそれに対し考え無しに勝てると思う程モロトフは自惚れてはいない。
 だが、歪な進化故に高い代償を得ているのだ。それ故にテッカマンエビルは肉体崩壊によって――死んだ。
 それを踏まえて考えてもブレードも致命的とも言える大きな欠陥を抱えているのは間違いない。
 それはエビルとの戦いの後、何も見えず聞こえない状態で只地を這い回るだけの無様なブレードこと相羽タカヤの姿からも証明されている。
 エビルのものとは若干違うだろうが、戦士としてはあまりにも不完全な状態に違いは無かろう。
 エビルから聞いた話では元々自分達の司令官であるテッカマンオメガからもブラスター化については反対しており、ブラスター化したブレードに関してもそこまで問題視はしていなかったのだろう。
 それ故に、絶対に勝てない相手――ではないとモロトフは考えていた。


「そう……勝つ方法は2つ……1つは持久戦に持ち込む事だ」


 ブラスター化のもう1つの弱点、それは長時間の変身は不可能という事だ。元々ブレードは不完全なテッカマン故に30分しか活動出来ない。
 が、ブラスター化をそれだけの時間行うのは不可能だろう。
 エビルとブレードの戦闘時間はブレードの限界時間と同じ30分、だが最初からブラスター化していたわけではなくその途中、そして戦いが終わり、ブレードは無様な姿を晒したのだ。
 それを踏まえ、ブラスター化出来る時間は10~20分程度だろう。仮にこの読みが間違っていたとしてもどちらにせよ30分の制限時間からは逃れられない。
 要するにそれだけの時間逃げ切れれば勝てるという事だ。凶悪な力を持つボルテッカも回避すれば何の問題も無い。


「………………だが、只逃げ回る事が勝利と言えるのか?」


 勿論、不完全故の弱点を突くという意味では間違ってはいない。しかし余りにも後ろ向き過ぎるやり方は正直モロトフ自身気に入らない。


「私にも気に入る勝ち方と気に入らない勝ち方がある……となるともう1つの方法か……」


 かつてブラスター化したブレードに破れた時の事を思い返す。
 あの時は自身の渾身のボルテッカすら一切の傷を与えられず、圧倒的な力で返り討ちに遭った――正直思い出すのも忌々しい記憶だ。

 ここで重要なのは此方の最強の攻撃力を誇るボルテッカを以てしても全くダメージを与えられなかったという事だ。
 では、ブラスター化したブレードにダメージを与える事は不可能なのか?
 答えはNoだ、例えブラスター化で装甲を強化した所でそれを越える威力を持つ攻撃を放てばダメージは与えられる。
 それはブラスター化した事でパワーを強化したエビルが身を以て証明してくれた。

 が――最大の問題はそこだ、どうやってボルテッカを越える威力を持つ攻撃を放てば良いというのだと。
 ボルテッカは体内で生成されるフェルミオンと呼ばれる反物質を一斉に放つ砲撃だ、例外が無いでは無いが基本的に全てのフェルミオンを一度に放出する性格上、一度のテックセットで放てるのは一回限り。
 唯一の例外が使用者の意志でフェルミオンの起動やエネルギー量を自在にコントロールできるエビルのPSYボルテッカである、当然これは例外なのでランスには不可能である。
 つまり全エネルギーを放出するボルテッカはランス、というよりテッカマンにとっての最強の攻撃なのだ。それ以上の威力を誇る攻撃など可能なのか?


「それ以前にだ。例え幾ら威力が高くても当てる事が出来なければ意味などない……」


 そう、ブラスター化したブレードのボルテッカも回避すれば問題無いと説明した通り、幾ら強力な攻撃でも命中しなければ無意味だ。


「……いや、方法はある筈だ。方法さえわかれば、有能なるこの私に出来ない事などない……」


 だが、未だその方法を見つけ出せないでいた――



 その時――



「君がこの塔を崩したのかな?」



 その声にモロトフが振り向くと、



「ふぅん……君なら僕を笑顔にしてくれるのかな?」



 白服の優男が静かに立っていた。外見上は只の優男にしか見えない。
 それ故、何時ものモロトフならば只の虫螻の1人としか認識できないだろう。
 だが――その優男が放つ異様な雰囲気がそうさせてくれなかった――



「……!」



 口調こそ穏やかではあるが雰囲気だけで理解した。
 目の前の優男は想像を絶する程の危険人物だ。
 モロトフは見ただけでそれを理解したのだ。


 故に――


「何者だ……貴様?」


 虫螻の名を問う事などまずあり得ない。それでも問わずにはいられなかった――


「ダグバ……ン・ダグバ・ゼバ……リントからは未確認生命体第0号と呼ばれているけど……うん、好きに呼んで構わないよ」





SubScene02 転換


 読者諸兄はこの展開に少々疑問を感じている事だろう。

 電撃や冷気を操るリントとの戦いを終えた後、ン・ダグバ・ゼバは警察署方面に向かっていた。
 そのリントが最初自身に構わずそこに向かった為、その場所には何かがあると考えていたからだ。

 つまり、何故警察署方面に向かった筈のダグバが真逆の方向にある風都タワー跡に現れたのかという事だ。
 風都タワーの崩壊、そしてランスの呼びかけを聞いたから? いや、それにしてはあまりにも早すぎる――

 そう、そこにはある理由が存在していたのだ。


「あのリントが向かったのはあの方向……」


 ダグバは早足で歩きながら考える。件のリントが向かおうとした方向に何があったのか? その方向には警察署がある。
 警察署といえば、自分達グロンギのゲゲルからリントを守る為に戦うリントが集まっている場所だ。
 確かクウガもまた彼等と組んでいた筈だ。
 戦うリントやクウガが戦う理由、それはリントを守る為、それはダグバも理解している。
 そして――リントが死ぬ事で彼等はより強い力を発揮する事も理解していた。
 ゲゲルが進む度に戦うリント(警察)は新たな武器を投入し、クウガもまた新たな力を得ていた。
 更にそれを裏付ける事例があった。
 ゴ・ジャラジ・ダのゲゲルがそれだ。
 流石に冗長化する為、細かい内容についての言及は避けるが、要点を纏めると、割と力押しによる手段の多いグロンギの中でも極めて陰湿な手段を取っていた。
 その結果、比較的スマートな戦い方をするクウガにしては非常に珍しく、オーバーキルとも言える攻撃を叩き込んでいた。
 つまり、リントを守れなかった絶望がクウガに力を与えていたのだ。

 思えば、自身のベルトのバックルを破壊したリントもそれで力を発揮していた。
 それを踏まえて考えれば、警察署に集まっているリントを殺すところを見せれば件のリントもきっと怒りでより強くなってくれるのではなかろうか?
 だからこそダグバは地図を広げながら足を進めていた。


「……そういえば……どうしてあそこに僕達がいたあの思い出の場所があるんだろう?」


 今更ながらにD-6にあるグロンギ遺跡の存在が気になった。何故あそこに自分達の遺跡があるのか?


「まぁいいや」


 が、本当に少し疑問に感じただけなので深く考えるつもりはない。そんな中、


「ん?」


 ふと振り向くと何かの光が飛行しているのが見えた。中学校から飛んでいる様に見受けられる。


「あんなリントもいるんだ……」


 その光は風都タワー方面へと向かい――消えた。
 もうおわかりだと思うが光の正体はクラッシュイントルードを使用したランスの事だ。
 中学校からダグバの現在位置は大分離れていたが、ダグバの極めて鋭い感覚ならば十分に捕捉できる範囲だ。ダグバは運良くそれを捉えたという事だ。


「どうしようか……」


 このまま警察署に向かっても良かったが、今の光も気になった。
 が、ほんの数秒考え、ダグバは進行方向を逆に向け走り出した。

 確かに警察署に向かいそこにいるリントを惨殺すれば先程のリントを強化出来るかもしれない。が、それが自分を笑顔にさせるのは難しいのではと考えていた。
 それよりも先の光の方が気になった。あれは明らかに未知の力を持ったリント、先程のリント以上の力を持っている可能性も否定できない。それはすなわち、自分を笑顔にしてくれるクウガに負けるとも劣らない存在かも知れないという事だ。

 どちらを選ぶか――考えるまでもないだろう?

 ダグバにしてみれば警察署にいるリントを殺す事に執着するつもりはない。他に選択肢が浮かばないならばそれでも構わないが重要なのは強い相手と戦って笑顔になる事だ。
 その過程で死ぬリントが1人だろうが3万人だろうが大した違いは無い。
 そして目の前には先程のリントを越える力を持っているであろうリントがいた。目的地を変えるのには十分過ぎる理由だ。

 故にダグバは駆ける、問題のリントの動きは速い、見失って戦いに間に合わないのでは興醒めも良い所だ。
 だからこそ怪人態へと姿を変え、更に先程の戦いで得た電撃態へと変化し戦場を駆け抜ける。
 その速度は速い――数キロある距離であっても短時間で走破出来るのだ。

 目的地は十中八九風都タワー、そして後数百メートルの地点まで来た所でタワーが崩れ去るのを見たのだ。


「ふふふふふ……」


 ダグバは笑う、


『愚かな蟻どもよ!この私の偉大なるショーを見てくれたかな?私の名はテッカマンランス!たった今この風都タワーを破壊してやった!』


 タワーを崩した男が声を放っている。そうか、このリントが中学校からタワーまで移動しタワーを崩壊させたリントだったのか。


『ふははは、驚いているか?これこそがテッカマンの力!テッカマンの前には、いかなる抵抗も反抗も無駄だと分かってくれただろう!』


 そのリントは自身の力に絶対的な力を持っている。これは期待出来るだろう。


『それでもなお、私に逆らおうというのなら…H-8、風都タワー跡へとやってくるがいい!』


 そしてそのリントは戦いを望んでいる。願ったり叶ったりとはこのことだ。
 しかも都合良い事にその呼びかけは確実に他のリントを招く。
 わざわざ警察署に出向く必要なんて無かったのだ。


 思えば何時も自分は待つ側だった――


 だが今回は違う、出向く側なのだ。だからこそこう答えよう。一旦変身を解き――


「待っててよ」





MainScene03 前哨



「ダグバ? 未確認なんとか? 待て、その名前……貴様、ゴ・ガドル・バとかいう小物の仲間か?」
「リントはみんな僕達を仲間だと思っているのかな……まぁ知り合いである事は否定しないよ……ふふっ……」


 モロトフの問いに対しダグバは笑みを浮かべたままだ。


「何がおかしい?」
「君がガドルを小物と称した事さ、ゴオマをそう呼ぶならばまだわからないでもないけどね」
「事実を述べただけだ。有能かつ完全なるテッカマンであるこの私から見ればあんな虫螻、自信過剰の小物でしか無い」
「はっはっは……言うね」
「ほう、仲間を侮辱されて怒るかと思きや……笑うとは何を考えている?」
「いや、別に仲間ってわけじゃあない……それに別にガドルを侮辱されて怒るつもりなんてないよ……むしろ嬉しいんだ」


 その言葉の意味をモロトフは理解出来ないでいる。


「どういう意味だ?」
「そうだろう、ガドルより強いってことは、僕を笑顔にしてくれるかもしれないじゃないか。それが楽しいんだ」


 あまりにも意味不明な発言をするダグバにモロトフも戸惑う。


「その口ぶり……さぞかし貴様はあの小物よりも強いのだろうな?」
「そうだね、確かに僕はガドルよりも強い……さて、君は僕を笑顔にしてくれるかな?」
「それはひょっとしてギャグで言っているのか? 私はコメディアンでも大道芸人でもない。貴様を笑顔にする趣味も義理もない。むしろ貴様の顔を恐怖で歪ませる者だ」


 そう言ってクリスタルを構える。


「もうやるのかい?」


 ダグバとしてはもう少し待って他のリントが来てからでも構わないつもりだった。しかしモロトフはそうではないらしい。


「ふん、これからやってくる虫螻共に見せしめを用意する必要があるからな……テック・セッタァァァァァ!!」


 その意味はダグバを血祭りに挙げやってくる他の参加者共に見せつける為だ。故にモロトフはテッククリスタルを作動させ自らの姿をテッカマンとしての姿、テッカマンランスへと変える。


「……まぁいいけど」


 そう言ってダグバもまた怪人態へと姿を変える。


「ほう、それが貴様の本来の姿か、随分とみすぼらしいチンケな姿だな、そんなチンケな姿で何が出来るというのだ?」


 今のダグバはバックルを破壊された事により本来の姿への変身が不可能である。それゆえ今の姿は言うなれば中間体とも言える。


「否定はしないよ……まぁこれはあるリントにやられたからだけど」


 その言葉からランスはダグバは他の参加者によって弱体化させられた事を察する。


「ほう、どうやら貴様の底が見えたな。虫螻如きにしてやられているわけだからな」


 同時にそれは目の前の相手が自身の敵では無いと判断させるものであった。そんなランスの挑発に対してもダグバは表情を変えることは無い。


「ところで、テックセッターだったかな? そんな言葉で姿を変えるリントにさっき……大体6時間ぐらい前にこのタワーで会ったけど」
「このタワー? 6時間前? まさか貴様もあの時タワーに来ていたのか?」


 実の所、この両名が直接会うのは初ではあるが、大体6時間ほど前、彼等はこの風都タワーを訪れている。但しニアミスはしたものの直接相対したわけではない。


「君も来ていたんだ。まぁいいや。そのリントも君と同じ……テッカマン? なのかな?」


 ダグバはその時同じフレーズで姿を変えるリントと遭遇した。その時の彼等の会話から判断してそれはテッカマンと呼ぶべきものなのだろう。


「まさか貴様もブレードに会ったというのか!?」
「君の仲間だったの? 安心していいよ、殺してはいないから。でも残念だな、殺していれば君も怒ってくれただろうに」
「何を勘違いをしている。奴は裏切り者にして不完全なテッカマン、我々ラダムのテッカマンの敵だ! 仲間などでは無い!!」


 流石にブレードを同類と扱われた事について全力で否定するランスであった。


「リント同士でつぶし合うなんて変わっているね。まぁいいや、その口ぶりからすると君は完全ってことだね」
「その通りだ。私こそが完全で有能なテッカマン、そして貴様を殺す者だ」
「そう……それは楽しみだ」
「フフ……ブレードとの違いを見せてやる、貴様の命もここまでだ」
「期待しているよ、僕を笑顔にしてくれる事をね」


 その言葉を皮切りに――ランスが動いた――




SubScene03 「何も考えずに泳げ!」


「がはっ!」


 流されていく、スーパー1、いや変身を解除された事で沖一也の姿に戻った沖は川の中で藻掻く。


「ぐっ……変身が……ここまで機能が落ちていたとは……」


 変身が解除されるほどの機能の低下にショックを隠しきれないでいる。
 だが、今すべきなのはすぐにでも岸に上がる事だ。問題の奴が迫っているからだけではない。
 このまま流される事自体が大きな問題なのだ。
 流された先は海、警察署から離れてしまう事は言うに及ばない。
 しかしむしろ問題なのは河口自体はG-9にあるが、少し流れた所にあるH-9は13時に禁止エリアとなる場所だ。
 つまり、このまま岸に上がれず流され続ければ最悪禁止エリアに突入しそのまま自滅する事となるというわけだ(勿論、まだ13時ではないが時間の問題である)


「がぁっっ……」


 川の流れが強い中、何とかして岸へと向かう。しかし度重なる激闘によるダメージとメンテナンス不足による不調による悪化は酷く、体を動かしても動かしても岸に近づけないでいる。
 万全な状態であればこの程度の川などどうという事は無い。しかし今の沖には川を越える事すら難しい状態だったのだ。


「俺は……このまま……」


 諦めたくなどない。しかし身体が言う事をきいてくれないのだ。このまま流されてしまうしかないのか――


「すみません、本郷さん……貴方との約束も果たせず……」



 その時であった――



「え……」



 遙か岸の向こう側に1人の男が立っているのが見えた。それは沖がよく知る人物だ――



「本郷……さん……」



 世界で一番最初の仮面ライダー、仮面ライダー一号、本郷猛の姿がそこにあったのだ。



「どうして貴方が……死んだはずの……」



 実は死んでいなかった、確かにそういう解釈も出来なくは無い。だが、今の本郷はあの激闘から生き延びたにしては余りにも傷の痕跡がなさ過ぎるのだ。そう、無傷の状態だったのだ。


 本郷は静かに沖を凝視するだけ――
 叱咤することも助言することも手を伸ばすことも川に飛び込むことも無く――
 余りにもお粗末な自身に何かするという事も無い――


「何故……何も言ってくれないんですか……?」


 只、見ているだけの本郷に対し流されながら沖はそう口にする。
 結局、本郷との約束であるこれ以上殺し合いの犠牲者を増やさない、全ての命を守るという約束を果たせないでいたのだ。
 罵倒してくれても構わないのに――


「メンテナンス不足で限界を迎えた俺には出来なかった……もし、あの時貴方を助ける事が出来たなら……」


 正直、沖自身何を言っているのかわかっていない状態だ。
 だが、本郷の願いを裏切った故にあふれ出る言葉は止ま――


「貴方がいてくれたな――」



 だが、言葉は此処で止まる。
 ふと気が付いたのだ。何故、本郷がいるならば打開できると考えたのだ?
 冷静に考えて見よう。本郷は確かに仮面ライダー1号だ。その実力は後発のライダーに決して劣っていない。
 だがそれは何故だろうか?
 単純なスペックだけならば後発のライダーの方が、極端な話スカイライダーやスーパー1の方が上だ。
 特殊な能力面においても自在に飛行ができるスカイライダー、ファイブハンドによる多彩な能力を扱えるスーパー1の方が秀でている。
 素の姿としての能力にしても確かにIQ600にしてスポーツ万能ではあるが、体力面だけなら幼き頃から野生で育ったアマゾンの方が上であり、知識面においてはライダーマンこと結城丈二等も決して負けていない。

 つまり、本郷がここまで秀でているという事は決して無いのである。にもかかわらず、何故本郷ならばと考えてしまったのだろうか?


「待てよ……確か本郷さんはずっとその身1つで俺がドグマやジンドグマと戦う前から戦っていた筈……」


 繰り返すが本郷こと仮面ライダー1号が特別優れているという事は無い、単純ならスペックが上である沖達が苦戦していたならば、当然本郷も苦戦してしかるべきはずだ。
 本郷が一番に優れているのは経験の数。確かにそれはある。
 だがそれだけでは説明がつかない事がある。そう、本郷を改造したショッカー相手の時だ。
 当時は一文字隼人以外の仮面ライダーはおらず、日本を一文字に任せた後は世界各地のショッカーに対し本郷はたった1人戦っていた筈だ。
 頼れる味方など殆どおらず、特殊な能力も無い1号が何故その戦いをくぐり抜ける事ができたのであろうか?


「そうだ……本郷さんの一番の武器は改造された身体でも、熟練された技でも、膨大な知識でも、深い経験でも無い……一番の武器は……魂だ!」


 魂つまりはSpirit、人間の自由の為に戦うその精神の強さ、それこそが仮面ライダーの真の強さであり、本郷がここまで頼れる最大の理由なのだ。
 そして、それに気付いた時、沖は全力で川岸へと身体を進めていく。


「俺は心の何処かで頼り切っていたのかもしれない……スーパー1の改造された身体や赤心少林拳の技に……本当に重要な事はそれを扱う俺自身の精神である事を……俺自身が忘れていた……」


 身体の痛みが消えたわけではない。だが、全く動かないわけではないのだ。この命が消えていない限りは何の問題も無い。
 身体に宿るこの魂は未だ健在、それだけあれば十分だ。
 流れの強い川を渡る事は容易ではない、しかし特別な力が必要というわけではない。
 何も考えず、強き意志のままに泳げば十分に渡りきれる。


 そして――沖の手が川岸を掴んだ。





MainScene04 ダグバの世界



 大きな瓦礫が壁の様に立っている――そしてそこに、





「がはっ……」





 テッカマンランスが磔にされていた――




 恐らく、読者諸兄の中にはこう思っている方もいるだろう。





『ランスがダグバに挑んだと思ったらいつの間にか磔にされていた』





 その過程が描かれていない為、衝撃を受けた方も多いだろう。
 だが、別にこれは大した問題では無い。
 そう、金の力だけでは勝てなかったガドルに対し、さらなる電気ショックで金の力を強化し黒の金の力を得てガドルを打ち破ったクウガ、
 にもかかわらずダグバに対しては何が起こったのか知り得ないぐらいに完全敗北した様に――


 要するに、それだけ圧倒的な結果だったという事だ。


 本当に簡単に説明するならば、


 ランスの攻撃はことごとくかわすあるいは防がれ、
 空中戦を仕掛けようとも起こされた突風でバランスを崩された所に雷を落とされ、
 そのまま壁に叩き付けられ奪われたテックランサーで刺され磔にされた。


 事細かに説明する必要がないぐらい簡単な話だ。不思議なことなど何も起こっていない。


「バカな……」


 有能なテッカマンである筈の自分が何も出来ずにこの体たらく、ランスは強いショックを隠しきれない。


「ふぅ……つまらないね」


 見下した様にダグバが口にする。


「貴様……」


 睨むランスに構うこと無くダグバはランスから距離を取る。


「おい……貴様……トドメはどうした?」


 このまま殺されるのかと思いきや仕掛けてこない事に疑問を感じたランスはそう問いかける。


「後でね……君を殺す所をこれからやってくるリント達に見せつけないといけないからね、それまでは生かしておいてあげるよ」
「!?」


 ランスにはダグバの言葉が理解できないでいる。


「君が殺される所を見たらリントはどう思うかな、きっと怒りに震え……強くなってくれるだろうね……」


 どうやらダグバの目には自分も人間共も同じ『リント』にしか見えていないらしい。それがランスにとっては屈辱的だった。


「巫山戯るな、この私が虫螻共に哀れまれるぐらいなら今殺せ! そんな屈辱耐えられん!!」
「君じゃ僕を笑顔に出来ない……そんな君をただ殺したぐらいじゃ退屈なだけでつまらないよ……それに言われなくても殺してあげるよ。リント達の目の前でね、君が呼んでくれたリント達のね……」


 ダグバはマイペースに近くに落ちているランスのデイパックを拾い上げる。


「ところで……さっきガドルを小物って呼んだけど、ガドルと戦ったのかい?」
「ふん、戦う必要などない、奴程度などこの有能な私の敵では……」
「なんだ戦ったわけじゃないのか、その様子じゃクウガとも戦っていないだろうね」
「クウガだと……何者だ、そいつは?」
「僕を笑顔にしてくれる最高の存在さ、君なんかじゃ足下も及ばないぐらいのね」


 先程から目の前のダグバはランスを見下してばかりだ、


「そんな君でも、クウガやリント達の目の前で殺せば……彼等を強くするのに役立つと思うよ……そうだ、確かブレードっていう仲間のリントも来るかな」
「何を言うかと思えば……さっきも言ったが奴は裏切り者だ、仲間などではない」
「確か不完全とか言っていたけど……君が目の前で死んだら完全になってくれるかも知れないね」
「そんなメルヘンあるわけなかろうが!!」
「まぁ、実際僕も戦ったけど……でも大した事ない相手だったよ。つまらないね……」


 ダグバは風都タワーで戦ったブレードの強さを取るに足らないものだと評価していた。実際、あの場ではブレードを含めた3人の参加者と戦ったが一番興味を惹かれたのは仮面ライダーWである。


「ブレードすらも……」


 かつてのランスならばブレードを見下すこと自体に異論は無い。しかし今となってはその戦闘力だけは評価している故にブレードすらも見下すダグバに憤りを隠せない。


「でもおかしいな……」
「何がが?」
「不完全なテッカマンだから君よりも弱いってことだろうけど……その割には……君の方がずっと弱いね」
「!!」


 例えそれが現実的な事実であっても、不完全なテッカマンであるブレードよりも下に見られる事は屈辱である。


「もしかして……テッカマンって弱いのかな? 完全なテッカマンである君がこの程度だから」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」


 それがランスの逆鱗に触れた。優良種たるラダムのテッカマンが下に見られる事などあってはならない。
 それ故にランスは激昂しめり込んでいる壁から抜け出そうとしている、しかし。


 その直後、ランスに雷が落ちた。


「がばっ……」
「これで強くなってくれるんだったら良かったけど……君も違うみたいだね」
「貴様は何を言っているんだ……」
「僕もさっき偶然気付いたんだけど……どうやら僕やクウガ、それにガドルはこの力で強くなれるらしいんだ……」


 そう言って今度は自分に雷を落とす。


「うん、何となく力を感じるよ」
「この男……」


 余りにも規格外なダグバの言動に絶句してしまう。そんなランスに構うこと無くダグバはランスのデイパックからあるものを取り出す。
 それはグリーフシードと呼ばれるものだ。


「ふうん、君もコレ持っていたんだ」
「それが何だというのだ」


 モロトフ自身、支給品は確認しており、説明書きも呼んでいたが特別役に立つものでもなかったので今の今まで存在を忘れていたものだ。


「ソウルジェムの穢れをどうとか……たしか首輪の無いリントがそれを持っていたから、そのリントにとっては大事なものだと思うけど」
「首輪の無い……待てよ、確か……あの魔法少女……」


 ランスは思い返す、確か先に戦ったマミと呼ばれる魔法少女の首には首輪が付いていなかった様な気がする(至近距離で嬲っていた為、そこまで確認出来ていた)。


「ふうん、魔法少女っていうんだ、まぁどうだって良いけど……そうだね……あの時戦った黒い服の女の子のリント……彼女との戦いの方が面白かったね」
「何!?」


 ダグバの口ぶりから察するにダグバにとってはテッカマンよりも魔法少女の方が強いという事になる。
 実際、ダグバは黒服の魔法少女との戦いでは完全な奇襲攻撃を受けたこともあり、その対応に少々頭を使っている。それ故に、ランスよりも楽しめたという評価なのだ。


「それにそのリントを助ける為に現れたキラキラした鎧を纏ったリント、僕を見ても平然と笑っていたあのリントも惹かれたなぁ。
 それからタワーでの戦いの後、ガドルの所で戦った銀色のリントとの戦いも面白かった……」
「もう良い……やめろ……」


 これ以上、ダグバの言葉を聞きたくは無い。だが、


「そしてこのベルトをほんのちょっぴりだけど壊してくれたリント達……彼等との戦いの方が君との戦いよりずっと面白かったよ」
「止めろと言っているのが聞こえんのか! 優秀なるこの私が……そんな虫螻共に劣る事など断じてあり得……!!」


 次の瞬間、文字通りランスに雷が落ちた。


「えなぁぁぁ……」
「リントの言葉にこういうのがあるらしいね……イノナカノカワズ……君のことかな?」

 その言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか――ランスは力無く項垂れた。




MainScene05 みつめてランス


「ううっ……」


 屈辱だ――
 完全なるテッカマンにして有能であるこのテッカマンランスモロトフが何も出来ず一方的に嬲られるなど――
 かつてブラスター化したブレードにしてやられた時は気が付けば一瞬でしかなかった。
 だが今は違う、真綿で首を絞めるが如く、じわりじわりと辱められている。
 本来ならばそれは自身の側だった筈だ、下等生物を一方的に蹂躙するのは――
 だが、今は完全に立場が逆転している。自分の方が見下され一方的に陵辱されている。


「この私が……この私が……」


 何より許せないのは奴が自分を虫螻共と同レベルと扱い、虫螻共を本気にさせる為だけの為に自分を生かし連中の目の前で惨殺するつもりだという事だ。
 つまり、完全に奴の都合の良い玩具という事だ。
 本当ならば、自分が奴をそう扱うつもりだったのに――これではあべこべではないか。

 最後に奴は言った、自分が『井の中の蛙』だと
 井戸の中を全て知り尽くしている蛙ではあっても、その外には広く大きな海が広がっている事を知らないという事柄から生まれた言葉だ。
 その意味はつまるところ狭い見識に囚われ、他に広い世界を知らず、自分の世界が絶対だと思う様である。

 認めたくは無いが、そうだったのだろう。
 思えば人間共を舐めていたからこそブレードのブラスター化を許し返り討ちに遭った。
 また、自分より完璧な存在などいないという思い込みがブラスター化したブレードに対する油断を産んだ。
 そして今――自分はこの有様だ。
 無論、テッカマンこそが最良という考えは変わらない。しかし、あまりにもそれに慢心しすぎてはいなかっただろうか?
 だからこそこの体たらくではなかろうか?

 余りにも無様である。

 しかし、遅かれ早かれこの結末は訪れるべき筈だったのも事実。
 先に述べた通りダグバとモロトフは約6時間ほど前にニアミスしている。様々な運命の巡りあわせから相対する事は無かったがそれは偶然に過ぎない。
 本来ならば6時間前にこの現実を突きつけられても不思議は無いのだ。
 そして、ここで出会わなくともランスが拡声器を駆使し無節操に参加者を集め蹂躙しようとしていれば何れ強者との遊びを求めるダグバとの遭遇する事になる。
 タイミングこそ偶然かもしれないが、起こる事だけは必然だったという事だ。


「情けない……あまりにも情けない……!!」


 オメガに知って貰いたかったのだ、自分の有能さを――


「私は!!」


 その時、


「無様だな、ランス」


 目の前に見知った男が現れた。


「貴様は……エビルか!」


 その男はブレードことタカヤの双子の弟、相羽シンヤまたの名をテッカマンエビルである。
 だが先に述べた通り、ブラスター化の副作用による限界を迎え死んだ筈である。


「ふん……あの世から私を迎えに来たつもりか?」
「もしくは笑いにきたとかか?」
「ぐっ……」


 目の前のシンヤはどことなく穏やかな表情だ。


「冗談だ、大体死んだ男がのこのこ現れるなんて幻想あると思うか? 大方ランス、お前自身の心が生み出した幻かもしれないんじゃないか」
「私自身が貴様を……? それこそあり得ん話だな」
「だが理にかなっているだろう、俺の性格を考えてみろよ。ランスの所なんかに行くよりもブレード……タカヤ兄さんの所に顔を出した方が自然だろう」
「そもそもいる筈の無い人間が現れている時点で不自然だろうが……」
「まぁ俺が何故ここにいるのかなんてどうでも良い話だ。あの世からやって来た死神の使者と捉えても構わない」


 そんなシンヤに対し、


「それで、貴様は私に何を求めているのだ?」
「どういう意味だ?」
「とぼけるな、原因など知ったことではないが貴様がこうして目の前にいるのには何か意味がある筈だ、答えろエビル!」
「………………まぁ、確かに言いたい事が無いわけじゃあない……」
「ならば!」
「だがランス……お前だってわかっているだろう、お前が素直に俺の言う事聞くのか?」
「それは……」


 まずあり得ない。確かにモロトフとシンヤは同じラダムのテッカマンではある。それ故に共同作戦の時は共に戦うこともあろう。
 だが、別段仲良しこよしというわけではないのだ。仲間と言えば仲間だがなれ合いの関係ではない。


「お前が何を求めているのか……そして何がしたいのか……それはお前自身の中にあって、既に決めていることじゃあないのか?」
「私自身が……?」
「まぁ俺から言わせて貰えば……奴に……ダグバに負けるなよ、ランス」


 意外な言葉だった。まさかエビルから応援をしてもらえるとは。


「気持ち悪いな……」
「失礼な事を言うな……だが本心だ。アイツは俺達の事を何も見てはいない。アイツにとっては『クウガ』以外の奴は全て『リント』とかいうものだ……」
「そうだな……」
「俺達テッカマンが何かをアイツは何一つわかっていない、それを思い知らせてやれ……いやテッカマンの力じゃ無いか……ランス……いやモロトフ、お前の力をな!」
「私の……力……」
「出来る筈だ、お前が完全にして有能なるテッカマンならな……アイツにテッカマンランス、そしてモロトフの存在を思い知らせてやれ、リントとか呼ばれる有象無象じゃないこの宇宙にたった一人の存在である事を……」
「エビル……いや、シンヤ……」
「本音を言えば……俺だって悔しいんだ……アイツが兄さんを取るに足らない存在と言った事を……兄さんがあんな奴に負けるなんてこと無いのに……だからこそ兄さんの分までアイツに思い知らせてくれないか……」


 そう言って頭を下げるシンヤであった。それに対し、


「ふん……貴様が言った事だ、私が貴様の頼みを聞く義理は無い……」


 そう答えたものの、


「だが、奴に対しこのまま終わるつもりはない……そのついでならばやっても構わん」


 再び立ち上がる事を口にした。


「感謝するよ……それから、もう1つ頼みがあるが聞いてくれるか?」
「聞くだけ聞いてやる。従うかどうかは別問題だ」
「大丈夫だ、きっと聞いてくれるさ……もし、兄さんが死んでこのままお前が生き残ったら……元の世界にいるオメガ……ケンゴ兄さんの事を頼む……」


 それはオメガことシンヤ達の兄相羽ケンゴの力になってくれという事だ。


「言われずともそのつもりだが……何のつもりだ?」


 勿論、ケンゴことオメガは司令官故に守るべき存在である事に違いは無い、それ故頼まれるまでもない事だ。
 だが、それはシンヤ自身もわかっている筈だ、何故それを今更頼むのか?


「大した事じゃ無い、家族を守りたいと思う……それだけの話さ。結局俺はタカヤ兄さんの事ばかりでケンゴ兄さんには迷惑をかけた……ブラスター化にしてもケンゴ兄さんの反対を押し切って……俺は裏切り者さ……
 だが、それでも俺にとってはケンゴ兄さんも大事な家族さ、だからこそ……モロトフ……お前に託す……俺にはもう出来ない事だから……」
「………………お前がどう思っているか知った事では無いが……オメガ様を守るのは私の使命でもあるからな、言われるまでも無い……まぁついでに貴様がそう言っていた事を伝えておいてやろう」
「すまないな……」


 そしてゆっくりとシンヤの姿が遠ざかっていく、


「もうそろそろ俺も行かなきゃならないか……さっきも言ったが負けるなよ、ランス……」
「当然だ……」
「そしてもう無様な姿を見せるなよ……それじゃ行くよ……」
「一人で行って来い……そして、もう帰って来るな……」


 その会話を最後にシンヤの姿は消えた。


 結局の所、シンヤが何故現れたのかは不明瞭だ、
 死に近づいていたモロトフの元に死後の世界から現れた幻だったのかも知れない、
 もしくは、モロトフの弱い心がシンヤという形を成して現れた幻だったのかも知れない、
 だが、どちらにしてもシンヤの言葉如きでモロトフの心が揺らぐ事は無いだろう。

 そう、答えなど最初から、モロトフの心の中にあったのだ――シンヤの言葉はその心に炎をともす小さな火だったのだろう――


 故に――


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最終更新:2013年05月17日 21:21