ニアミス ◆gry038wOvE


 対峙し合うは刃と刃。
 割って入るは…………小さな大砲。

 丈瑠の家臣であり、一人の侍でもある流之介はシンケンマルを構え、十臓と対峙しながらも実力差を埋める方法を考えた。
 ────現時点で、おそらくそれは無い。
 回答を出すまでに一秒とかからなかった。それは己の弱さを認めることであり、答えが出るのが早ければ早いほど、屈辱的でもある。
 ならば、奇跡でも祈るか。
 この場に丈瑠や源太がいるのなら、彼らが通りすがる奇跡に頼ることもできる。

 だが、いずれドウコクと戦うことになるであろう自分に、敢えてここで試練を架す……その意味でも、自分ひとりの力で十臓に挑もうと思った。
 このまま独力で十臓を倒したい。
 殿や源太の手を煩わせるまでもない。──いや、彼らを危険に巻き込んではならない。傷を負わせてはならない。
 そのためにも、やはり障害は消しておくべきだ。


 一歩。
 再び、十臓へと向かってシンケンマルを凪ごうと一歩出る。


「やっぱり……戦いを止めてはくれないんですね」


 無論、こう呟いた少女の事も忘れてはいない。
 流之介は、たとえこの少女が流之介に危害を加えようとしても、この少女に危害は加えない。
 罪も無き──それどころか、罪を憎むような少女だ。そんな子に剣を向けることはできない。


 少女もそれを読んでいた。
 ────この人はきっと、私を斬らない
 と。


 先ほど、険しい目つきであっても自分の主張を認めてくれたこの男は悪い人じゃない。
 もう一人の男の人も、きっとわかってくれるだろう。
 殺し合いなんてやめてほしいから。きっと誰も殺し合いなんてしたくないから。
 相手に砲撃を加えても、身を投げ出してでも、この人たちの戦いを止める。


「ぐっ!」


 流之介は困惑した表情で足を止めた。
 この少女・なのはは既に武装を解除している。
 そんななのはが、流之介と十臓の間に割ってはいるように駆けて来るのだ。
 それが流之介にとっては砲撃よりも、足を止めるための理由となってしまうのである。


 ────一方、もう一人の男はそこまで人間らしい感情が機能してはいない。


 いつか人間であった彼も、刃を握れば冷酷非道。
 未来溢れる優しき女の子であっても、斬ることに躊躇はない。
 ゆえに、迷いを持った今の流之介に好機を見て一歩前へと踏み出した。


「危ないっ!」

「きゃぁっ!」


 まるでなのはなど障害物でしかないように直進していく十臓を見て、流之介はなのはの元へと走る。
 十臓の姿、夜叉の如し。なのはという障害物を容赦なく斬り捨てて流之介の元へと走ろうとする十臓の姿に、恐怖を感じずにはいれないが、侍として護るべきものが流之介を動かしたのだ。
 昇竜抜山刀がなのはの頭上に落ちて行くのを、シンケンマルが阻む。

 なのはの頭上でぶつかり合う二つの剣。
 片方はなのはを斬ろうと、片方はなのはを守ろうと。


「……おのれ! こんな小さい女の子までも!」

「邪魔者は斬る。それだけだ」


 ぶつかり合った二つの剣は、地面や虚空を斬った。
 少女の体のどこも傷つけることなく、……しかし流之介の心身に僅かな疲労を作って弾けた。


「君はできる限り遠くへ逃げるんだ! ここは私が引き受けてみせる!」

「駄目です……私は逃げたくありません…………私は、この殺し合いを止めたいんです!」

「ならば、この男は斬るべきだ! 今もこいつは君を躊躇いなく斬ろうとした! そんな男に庇う理由はない!」


 と、そう言った時、理由もわからないまま流之介が崩れるように膝をついた。
 出血多量。
 先ほどの戦いで十臓に斬られた痕を放ったまま激しい運動をしたため、傷口が開いたのである。
 そして、生身で斬られたその痛みが流之介の体を苦しめていく。


「な、何故…………」


 戦うことができそうにない。
 シンケンマルを杖代わりに立ち上がろうとするが、それも精一杯の行動であった。
 このまま前進することも、できそうにない。


「ははは、そんな体で俺に挑むつもりかシンケンブルー」


 その声さえ歪んで聞こえてくるようだった。
 あざけ笑う十臓がどこに立っているのかさえぼやけて見えない。
 闘気はあるのに、体や感覚は衰弱していた。

 十臓。
 彼が自分に近付いているのか、足音が聞こえている。
 このまま自分は殺されるのか……?
 何もできないままに。
 殿の役にも立てないままに。


「シンケンブルーさん!」


 耳を打つ、泣いているような少女の声。
 足音は彼女のものだった。
 しかし、その時既に流之介の意識ははっきりとはしておらず、その声さえ聞いたかはわからない。


「…………その様では俺の邪魔はできないな、シンケンブルー」


 流之介は知らなかったが、既に十臓などこの場にはいない。
 流之介にも、なのはにも、既に興味は失ったからである。
 シンケンレッドとの勝負を邪魔するであろう男。────十臓が斬ろうとしたのはそんな男であり、シンケンブルーには興味がない。
 もはや邪魔をする力さえないあの男に、戦う価値はないのだ。


 このホテルの前には、激痛を前に意識の消えた男と、その体をどうにかしようとする少女の姿だけがあった。



★ ★ ★ ★ ★



「…………では、改めて! シンケンゴールド、梅盛げんグアアアアッ!!」


 再び名乗りをあげようとした金色の戦士に、ダークプリキュアの容赦ない拳の一撃が与えられ、名乗り口上は派手に妨害される。
 地面を転がるシンケンゴールドの滑稽な姿を眺めながら、よろよろと起き上がるのを待とうとしていた。


「な……何? 一体何がどうなってるの!?」


 謎の黒服少女。金の戦士に変身した屋台の男。異常な轟音。目の前で繰り広げられる二人の戦い。
 いくら奇怪な戦いを見てきたあかねであっても、その光景には混乱していた。
 先ほどの轟音を考えると、近くでも戦闘が起こっており、目の前ではシンケンゴールドとダークプリキュアの戦いがあり…………要するに色々と大変らしいということはよくわかった。
 しかし、あかねがこの場でどう動けようはずもない。
 あかねは運動神経も高く、父の道場を任されるだけあって、格闘能力もある。
 だが、それさえ無意味なほどの高次元の戦い。…………乱馬や良牙の戦いに匹敵すると言っていいほどの。


「おい! 名乗ってる間に攻撃なんて卑怯だぞ!」

「たかが自己紹介に時間をかけすぎだ」


 起き上がって文句を言うシンケンゴールドに、ダークプリキュアは再び突くが、流石に二度目は避ける。
 ……しかし、そうして立ち上がったシンケンゴールドにも攻撃の隙はない。
 蹴り。突き。蹴り。突き。
 凄まじい速さで繰り出される攻撃に、シンケンゴールドの回避は追いつかない。
 せいぜい受身を取るのがやっとで、シンケンゴールドの体にダメージが蓄積されていくのみだった。


「……俺、侍なのに……」


 結局名乗りもせずに戦いをしてしまったことに侍として少し罪悪感のようなもの感じたが、もうこれ以上名乗るチャンスはないと見て、サカナマルを構えて三度立つ。
 家臣、殿様────そんな言葉と無縁だったとはいえ、一応源太も一人の侍だ。
 ダークプリキュアに攻撃されないよう、大振りながらも柔軟に体を動かして起き上がる。


「寿司ディスク!」


 シンケンゴールドは相手が攻撃してこないのを見て、一枚のディスクを取り出した。
 ゴールドが口上したとおり、このディスクの名は寿司ディスク。
 これをサカナマルの鍔として装着し、光の電子モヂカラをチャージする。


「サカナマル・百枚下ろし!」


 本来、生身に近い体をしたダークプリキュアのような戦士は下ろしたくないが、どう考えても相手は人間ではない。外道衆かどうかもわからないが、ともかく人にとって脅威。
 か弱き少女を守らねばならない。
 ────護りたい気持ち。
 それが源太にとっての侍の心。
 その心に殉じる為、いま僅かな一秒に幾度もの斬撃を残していく。


 そして、サカナマルの刃が百度、ダークプリキュアの体を斬った。
 百枚下ろしの名の通り、一度も逃すことなく刃はダークプリキュアを捉えていた。


「やったか!?」


 勢いで駆け抜けたシンケンゴールドは、背後にあるダークプリキュアの姿を確認した。
 黒い塊が立っている……ただ、そういう風にしか見えない。
 その塊が意識があるのか、意識がないのか──それもわからない。
 ただ、先ほどと違い、ダークプリキュアの片翼が彼女自身の体を包んでいたのが気がかりだった。


 まさか────


「その程度の攻撃で私に勝てると思ったか?」


 片翼が百度にわたるシンケンゴールドの攻撃を全て防いでいたのである。
 そのため、ダークプリキュアの体にはほぼ傷がない。
 シンケンゴールドは自らの攻撃が全く効いていなかった事実に唖然としており、次の攻撃の体勢に入るのが遅れた。
 振り向いた瞬間、黒き光弾がシンケンゴールドの体を数メートル近く吹き飛ばした。


「うごぁっ!」

「大丈夫!?」


 いくら強化スーツの戦士といえど、不意を突かれて直撃すればかなりのダメージを負う。
 そう、その強化スーツさえ強制的な使用不能を食らうほどに。

 シンケンゴールドとしての姿から、人間・梅盛源太への姿へと戻る。
 倒れたまま、立ち上がろうと土を掴むが、衝撃が強すぎたためかすぐには立ち上がれなかった。
 …………おそらく、立ち上がれたころにはもう死んだも同じだろう。
 ダークプリキュアの足音が聞こえていた。


「このっ!」


 先ほどまで戦闘をシンケンゴールドに任せてたあかねも、力の限りダークプリキュアに突進し、パンチをかます。
 だが、拳に痛みが伝わるのみで、ダークプリキュアの動きに変動はなかった。
 いずれあかねも殺すが、起き上がる前にシンケンゴールドを殺してしまおう、と。そのために無感情な顔を晒して、前へ前へと歩いていた。


(今度こそ、あれを使う……?)


 T2バードメモリ。あれは今尚、あかねの手に握られている。
 あのパンチにはこれを握る力も加わっていたというのに、微動だにしなかったというのだから恐ろしい。
 しかし、あかねにとってもっと恐ろしいのはこのメモリを使うことだ。

 加頭のような怪物になるということ……。
 それを考えればパンダ、猫、アヒル……あれらの動物がどれだけマシか。
 たとえ一時的にでもあんな醜い姿には、なりたくない。


(でも、ここで使わなかったらあの人は……)


 そう思った時、あかねは何かが吹っ切れたように表情を強張らせ、思い切りメモリの持ち方を変えた。
 スタンプを押すかのように、真下へと振り下ろしていく。
 押しやすい左腕めがけて。


(くっ……)


 しかし、寸止めだった。
 異形になることへの恐れも確かにある。
 だが、それ以上に先ほどから何かの危険を感じる。
 迷っている暇はないのに……。迷っていれば、あの寿司屋は傷つくのに……。
 得体の知れない道具への躊躇が、自分を異形に変えさせてはくれない。


 その躊躇の時である。
 ────ダークプリキュアの様子が変わった。
 源太を標的としていたはずのダークプリキュアの足が不意に止まった。
 そして、まるで何かに気づいたかのように、ダークプリキュアは一点を見つめたまま動かなくなった。


(どうしたの……? こいつ、一体……)


 あかねは警戒しつつも、体の筋肉の硬直を解いた。
 攻撃を中断している。
 どうやら、様子がおかしいように感じられる。
 彼女の目的を考えれば、誰であっても等しく攻撃するはずなのに。


「あれは、キュアムーンライトの仲間……!」


 ダークプリキュアは森の奥に、自らの宿敵の仲間を見つけたのである。
 青色の髪の少女────彼女は確かキュアマリンだ。

 ダークプリキュアにとっての最優先事項は、キュアムーンライトを倒して殺し合いから生還することである。
 そのキュアムーンライトとの決着を終えるためにも、彼女を知る者に話を聞くのは手っ取り早い。
 それを考えれば、今自分が優先すべきはシンケンゴールドと小娘か、プリキュアか──この二択はすぐに答えが出せる。


「喜べ、今は見逃してやる」


 上機嫌にダークプリキュアが言う。
 もはや、二人への関心など皆無で、この言葉も一応添えた程度であった。
 源太もあかねも助かったという気持ちでいっぱいである。とりあえず安心はしたが、またいつ彼女がここに来るのかはわからない。


「ともかく、逃げましょう。私は天道あかねって言います」


 体を起こすのが精一杯な源太を、無理やり屋台に乗せ、あかねはそれを引っ張って走っていく。

 ──ダークプリキュアが少女に気づいて見逃したということを知っていれば、彼や彼女はその少女を助けただろうが、彼女たちはそれを見ていなかった。

 二人は少女からも、ダークプリキュアからも離れて逃げていく。


★ ★ ★ ★ ★


 来海えりかがキュアマリンの姿で歩いている理由はひとつ。
 プリキュアという正体は秘密だが、この殺し合いの中で人を救うためにはこの姿が必要となる。
 プリキュアとしての秘密を守ることと、人を護ることを両立するには、変身しながら行動するのが一番良いと考えたのである。
 ここぞという時に、人の前でプリキュアに変身できずに、その人が大怪我をしてしまったり、死んでしまったら大変だ。


(許さないよ、あいつ……! つぼみたちと一緒にぜ~ったい、この殺し合いを止めるから!)


 無論、そのプリキュアとしての心は加頭という男を許さない。
 えりかは花咲つぼみ明堂院いつきといったプリキュア仲間と共に絶対、殺し合いを止めようと考えていた。
 そうして怒りを燃やす彼女ではあるが、この暗い森を一人歩くのは少し恐ろしくもある。
 実を言うと、仲間を捜す心には不安という理由も大きかった。
 ここで新しい友達ができる……それもいいが、やはりまずは同じプリキュアと合流したい。彼女たちはえりかにとって何よりの親友なのである。


 ────ドゴオオオオオオオオオン!!


 どれくらい歩いた頃か、えりかの耳を轟音が打った。
 その音に当然えりかは驚き、動揺した。えりかの胸にあった恐怖は尚更大きくなった。

 ──この音は何?

 当然、それは気になったし、そこに向かいたい気持ちはかなり大きかった。
 少なくとも祝砲ではない。むしろ、人が傷つく音だ。
 イヤだ。
 それは絶対。助けに行かなきゃ。


「…………今の音は!?」


 キーンとした耳に入ったのは、友達の声である。聞き間違うわけもない。
 この声、明堂院いつき──キュアサンシャインだ。
 ただ、少し声が小さく感じた。耳に少し先ほどの轟音の余韻が残っていたのと、実際距離がそこそこ離れていたことからだろう。
 正義感の強いいつきは、そちらに向かって恐れることも無く走っていったのだろう。誰かが地を駆け、えりかから離れていく音が聞こえた。


「待って! いつき!」


 えりかの声は聞こえていないようだった。
 えりかは必死で親友を追った。
 だが、走力や体力において、武道の心得の有無がある二人には大きな差があったのだ。
 そもそも、声と足音がどちらに向かったか────ただそれだけを頼りに追っていて、いつきの姿が見えるわけでもない。
 半ば見失っているのではないかという不安を胸に、わけもわからず一直線に走っていただけだ。
 すぐに追いつくはずも無い。


「はぁ……はぁ……ちぇっ、折角合流できると思ったのになぁ……」


 息も切れ切れになり、えりかは追うのを諦めた。
 一度立ち止まり、息を整える。
 すごく近くにいたのに、こうしてすれ違ったことはとても残念で惜しかった。
 せめてあの轟音がなければ、二人はあのまま森の中で互いの姿を見つけたかもしれない。
 あの轟音は何だったのだろうか?


(まぁ、またすぐに見つかるよ……きっとすぐ……)


 疲労を抱えながらも、ポジティブな思考は忘れない。
 そう、これだけ近くにいるのだからえりかといつきはすぐにまた会えるだろう。
 えりかが向かった方向といつきが向かった方向はそう大きく違わないはずだ。
 同じく轟音が聞こえた方向に向かったはずなのだから。


(はぁ……でもちょっと疲れたなぁ……ちょっとひとやすみ)


 えりかはそのまま地面に座ろうとした。
 なるべくこんな森の中で地べたに直接座りたくないが、疲れた体がそれを許す。
 腰を落としていく。
 足の疲れを少しでも癒そうと、体が小さくなる。


 ────が、座れない。


 体を低くした時、自分の体が強い力で押さえつけられて座ることができないと気がついたのである。
 自分の周りに人の気配がなかったため、自分の周りに力が加わる心配など微塵もしなかった。
 そう。誰かに体を掴まれている。


「誰!?」


 そう言って振り向こうとした時、えりかは首筋を強い力で打たれ、気を失った。
 そこでようやく体が力を抜き、座ったような体勢になることが許される。
 気を失う直前に見えたのは、確かな黒。


 ダークプリキュアの姿であった。


 キュアマリンを手元に置いた理由は簡単である。
 キュアムーンライトに関する情報を得るため、そしてキュアムーンライトをおびき出すための餌となってもらうため。
 一人で行動していたということは、おそらくまだキュアムーンライトとの合流は果たしていないだろうが、それ以外の情報を得ることもできる。
 ともかく、寿司屋や格闘娘よりもキュアムーンライトに近い存在である。


 殺してもいいが、それはキュアムーンライトをおびき出してからだ。
 まずは彼女を預かっていることをキュアムーンライトに伝えねばならないが、そのための手段も簡潔に考えておこう。
 ダークプリキュアはキュアマリンを引きずるようにして歩き始めた。


★ ★ ★ ★ ★


「いつきさんが運んでくれたお陰で助かりました……」


 ホテルの一室。
 なのはは目の前の少女に感謝の言葉を口にする。
 目の前の少女の名前は明堂院いつき。あの轟音に気づき、こちらに駆けてみれば一人の男が倒れ、それを何とかして運ぼうとする小さな少女の姿があったため、いつきは男を運ぶのを手伝ったのである。
 流石に少し重かったが、武道をやっているいつきならばホテルの一室まで運ぶのにそう苦労はしない。普段だってけが人を運んだり、自分の倍もの体重の男を持ち上げることがあるのだ。


「……いいよ。それにしても、この人の怪我は深刻そうだね。明らかに、大きな刃物で斬られた痕だ」


 応急処置はしたが、刃物による深い切り傷はこの年代の少女にはえげつない印象を与える。
 包帯の上ににじむ赤色から目を反らしたくなるほどだ。
 おそらく、あのままいつきが通り過ぎることもなく一時間ほど経過すれば出血多量にでもなって死んでいただろう。
 なのはが流之介をどこかへ運べたとも思えない。


「……この人、戦ってたんです。ずっと……」

「え?」

「ここには、殺し合いに乗ってる人がいました。その人に斬られて、それでもこの人は私を守ろうとして……」


 なのはは動揺しながらも話していく。
 自分の行動も、流之介が怪我を悪化させる一因を作っていたこともあり、なのはの顔は泣きそうにもなっていた。
 そんななのはに、いつきは優しい声で答える。


「わかった。この人が良い人だっていうこと……それに、強い人だっていいうことも」


 できるなら、目が覚めているときに言ってあげたい言葉だ。
 まだ声さえ聞いてないが、なのはの話だけでもだいたい、この男が良い人間だとわかる。
 傷を負いながらも女の子を庇う……か。
 この殺し合いをやめさせてくれる仲間になってくれるかもしれない。絶対そんな人にこんなところで死んでほしくないけれど、共に加頭と戦ってほしいと思った。


「……だから、キミと、この人と、ボクと……みんなでこの殺し合いを止めようよ」


 まだ出会ったばかりの少女だが、励ますつもりで声をかける。
 殺し合いを止めたい。
 その願いだけは、きっとなのはも同じだと信じていた。


「はい!」


 なのはも答える。
 それこそが、なのはの望みだったから。
 流之介も十臓も、聞き入れてくれなかったなのはの望みだったから。
 その返事ははっきりとした大きな声であった。


★ ★ ★ ★ ★


 一方その頃、源太は自力で屋台が引けるほど回復していた。
 あの時吹き飛ばされた衝撃は既にかなり和らいでおり、楽しそうに屋台を引いている。
 寿司の屋台を引いている源太の生き生きとした姿は、あかねにとってお好み焼屋の右京を彷彿とさせた。


「……で、あなたが作ったその妙な機械で変身したのがシンケンゴールドねぇ……」


 屋台を引きながら先ほどのシンケンゴールドへの変身メカニズムを聞き、あかねはとりあえず納得する。
 独力でそんなものをつくり、地球を護るために戦うとは何というお節介か。ちょっと変わった人だとは思ったが、あかねは呆れつつも少し関心する。


「こんなものを作れるってことは、もしかしてこの首輪を解除できたり……」

「さあ、それはまだわかんねぇ。やってみてドカ~ン! ときたら洒落になんねえもんなぁ……」


 スシチェンジャーを作るような高い機械技術はあるが、この首輪のような爆発物に関してはわからないらしい。
 まあ、仕方がないといえば仕方ないか。
 この首輪は、あらゆる生物を容赦なく殺せるだけの殺傷力を持つ。迂闊に触ることも躊躇われるほどだ。

 源太の顔は少し落ち込んでいるというか、考え込んでいるように見えた。
 どうすればこの首輪を解除できるのか。
 他人の首輪で実験できるわけもないし、ましてや自分の首輪を解除するなど至難の技。
 それに、解除するにも道具がない……。


「まあ、そのうちなんとかなるわよ。梅盛さん以外にも機械に詳しい人はいると思うわ」


 あかねはこの点では完全にダメだ。こういう繊細な作業は苦手で、おそらくあかねがやれば三秒で爆発する。
 助手すらできないだろう。格闘しかできないのに、その格闘ですらこの場では劣る……。
 よく考えれば自分の知り合いの乱馬、良牙、シャンプーパンスト太郎はみんなあかねより強いわけで、先ほどの黒服の女やシンケンゴールドも明らかにあかねより強い。
 で、あかねより不器用な人間がいるとは思えないし…………


「ん? 姉ちゃん、何で慰めたくせに落ち込んでんだい? 寿司食うか?」


 源太は既に平気そうな顔をしており、寿司を振舞おうと腕をまくっている。
 落ち込んでいる人にはとりあえず寿司を食べてもらう。それこそ幸せだ。


「もらおうか」


 …………だが、返ってきた返事はあかねのものではなく、太い男の声である。
 源太が背後を見ると、粗末な白服を着た、長髪と無精ひげの汚らしい男が立っていた。
 普通は一目で妖しい印象を受けるが、源太の場合、客を差別はしない。


「へいらっしゃい!」


 あかねの目の前でその男が屋台に座る。本当に寿司を食いに来ただけらしい。
 彼らは知る由もないが、彼の名は腑破十臓。──源太の敵・外道衆なのだが、まだ彼らは会ったことがなかった。
 それゆえ、寿司屋と客としてこの場で邂逅したのである。


「うまい!」


 十臓は源太の出したマグロを美味しそうにほおばっていく。
 その姿を見て、源太は得意げだった。


(そんなに美味しいかしら……?)


 あかねはそんな疑問を浮かばせつつ、男の隣でマグロを食べていた。


【1日目/黎明 B-7/ホテル】


池波流ノ介@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:気絶、左脇腹に重度の裂傷(応急処置済み)、体力消費(大)、モヂカラ消費(小)
[装備]:ショドウフォン@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
※あくまで気絶前の思考です
基本:血祭ドウコクの撃破および、殺し合いの阻止
1:十臓を倒す
2:丈瑠の封印の文字を用いてドウコクを倒す
3:2のため、丈瑠に極力負担をかけないよう障害は自分の手で取り除く
[備考]
※参戦時期は、第四十幕『御大将出陣』から第四十四幕『志葉家十八代目当主』までの間です。
 丈瑠が志葉家当主の影武者であることは知りません。
※ドウコクの撃破を目指すのは、単純に避けられない戦いであることにくわえ、他の参加者の安全確保のためという意味合いが強いです。
 殺し合いの阻止よりも、ドウコク撃破を優先しているというわけではありません。


【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[装備]:レイジングハートエクセリオン(待機状態)、バリアジャケット
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを止め、皆で助かる方法を探す
0:この人が目を覚ますのを待つ
1:いつきやこの人(流之介)と行動する
[備考]
※参戦時期はA's4話以降、デバイスにカートリッジシステムが搭載された後です。
※流之介の名前は知りませんが、シンケンブルーと呼ばれたことは知っています。


【明堂院いつき@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康
[装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを止め、皆で助かる方法を探す
0:この人が目を覚ますのを待つ
1:なのはやこの人(流之介)と行動する
2:仲間を捜す


【1日目/黎明 D-7/森】

【腑破十臓@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:健康、体力消費(小)
[装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:強い者と骨の髄まで斬り合う
0:寿司を喰う
1:裏正を探す
2:2を達成した後、丈瑠と心行くまで斬り合う
3:他にも興味を惹かれる強者が存在するなら、その者とも斬り合う
4:邪魔者は容赦なく斬る
[備考]
※参戦時期は、第九幕『虎反抗期』以降、丈瑠を標的と定めた後です。
※流ノ介を斬るのは、丈瑠との戦いを邪魔してくるのが明らかなためです。
※他の参加者の支給品に裏正が紛れていると考えています。


【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:ダメージ(小)、背中に痛み
[装備]:T2バードメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム0~2個
[思考]
基本:乱馬たちと合流して殺し合いから脱出する
1:源太と行動し、首輪を解除する
2:バードメモリを使うかどうか悩んでいる
3:自分が役に立ちそうに無いので落ち込み中
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前で、少なくともパンスト太郎とは出会っています


【梅盛源太@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:全身に軽度の痛み
[装備]:スシチェンジャー、寿司ディスク、サカナマル@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式、寿司屋の屋台、ランダムアイテム0~2個
[思考]
基本:殺し合いの打破
0:今は客に寿司を振舞う
1:より多くの人を守る
2:自分に首輪が解除できるのか…?
3:ダークプリキュアへの強い警戒
[備考]
※参戦時期は少なくとも十臓と出会う前です(客としても会ってない)


【1日目/黎明 C-8/森】

【ダークプリキュア@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム1~3個
[思考]
基本:キュアムーンライトを倒し、優勝してサバーク博士のもとへ帰る
1:キュアマリンに情報を得る
2:キュアマリンを餌にキュアムーンライトを捜し出す
3:キュアムーンライトは最優先に探し出し、倒す
[備考]
※参戦時期は46話終了時です

【来海えりか@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:気絶、疲労(中)、キュアマリンに変身中
[装備]:プリキュアの種&ココロパフューム
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム1~3個
[思考]
※あくまで気絶前の思考です
基本:仲間を集めて殺し合いを止める
1:いつき……
2:さっきの音は一体!?
[備考]
※参戦時期は少なくともキュアサンシャインが仲間になってから


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最終更新:2013年03月14日 22:27