復讐の美学 ◆gry038wOvE



「Who are you?」


 その問い、その言語。バラゴは、それが英語圏の女性の言葉であるのをすぐに理解する。名簿には、カタカナで書かれた外国人らしき名前もあったので、バラゴは英語が聞こえたこと自体には納得していた。
 ただ、その周囲に人らしい気配はない。
 バラゴは一時、周囲に人影を探したが、そこに人の気配は一切なく、クレーターを見回すだけだった。そこには人らしいものは一切ない。
 気配を消されているとも思わないし、バラゴがそう簡単に翻弄されるわけがないと思っていた。
 バラゴは、少し荒げた声で問う。


「My name is Barago. Where are you?(我が名はバラゴ。貴様はどこにいる)」

「Plese in Japanese.(日本語で構いません)」


 それなら、何故英語で話すのか……と思ったが、バラゴはとりあえず、日本語で返した。


「わかった。……それで、お前はどこにいるんだ?」

「Plese see the center of the crater.(クレーターの中央を見てください)」


 そう言って、バラゴはクレーターの中央に目をやる。
 何かが光っている──太陽に反射して、そこに落ちている何かが赤く光り、バラゴの瞳孔を刺激していた。
 人、ではないのだろうか……?

 近づいてみると、バラゴの目に、赤と青の珍妙な宝石が映った。 
 もしや、参加者ではなく、この宝石から声が発されているのだろうか。バラゴは、クレーターの中央まで歩き、その宝石をどちらも拾い上げた。
 青い宝石には、既に罅が入っているようで、赤い方が放つ不思議な光を失っていた。
 形状は微妙に違うが、おそらく、同種のものだと思われる。


「……お前か」

「Yes.(はい)」


 バラゴは、すぐにどちらが自分に話しかけたのかを理解し、赤い宝石に顔を向けて話していた。
 一瞬、魔導具であることを考えたが、どうやら魔導具とは違うものらしい。形状や色合いは全く別物だ。バラゴやシルヴァのような魔導具とは、明らかに別種である。
 魔戒騎士の世界には、確かにこれに似たようなものは幾つもあったが、それらとは明らかに違う。
 バラゴは、そんな物体に対して、僅かな不審に思いながらも、問いかける。


「一体、ここで何があったんだ?」


 この宝石に対する興味もあるが、ここで何が起こったかがまず重要であると思った。
 この破壊跡……明らかにここで戦闘があった証である。
 流石のバラゴも、この場ではこれだけ派手な戦闘はしていない。
 しかし、どうやらここではかなり派手な戦いが行われたらしいのだ。
 バラゴは問う。


「It will be a long story.(長い話になります)」

「構わない。ここで何があったのかを聞かせてもらおう」


 バラゴは、そのクレーターに座すると、その赤い宝石の話を聞いた。
 彼女は、バラゴの返答を聞いて、数秒ほど気分を落ち着かせるように沈黙した後、語りだした。


 ──この宝石の名前がレイジングハート・エクセリオンであること。破損した青い宝石がマッハキャリバーという名前であること。いずれもインテリジェントデバイスという道具であること。

 ──自らのマスターである高町なのはや、その友人であるフェイト・テスタロッサユーノ・スクライアのことや、彼女がこの会場で出会った人間や、その人物たちから得た情報。

 ──ここで起こった凄惨な戦い、そして、その首謀者でもある筋殻アクマロ、ノーザのこと。スバル・ナカジマが操り人形として戦わされたこと。

 ──レイジングハート自体も、なのはとともに吸収されてからの記憶や意思がなく、いつの間にかここに吐き出されてしまったため、流ノ介やいつきや本郷やアインハルトが一体どうなったのかわからないということ。

 これで全ての話が終わった。
 バラゴは、それを頭の中でメモライズする。特別、筆記する必要などはなかった。
 バラゴが時間を確認すると、確かにレイジングハートがそれを話し始めてから話が終わるまで、一時間もの時が経っていた。


「……なるほど」


 しかし、長い時間をかけた甲斐もあって、彼女から得た情報は、なかなか興味深かった。
 彼女は、バラゴの知らない情報をかなり多く話してくれたのである。


 まず、魔導師の情報だ。
 魔術に精通する者──というと、バラゴの世界にあった魔戒騎士や魔戒法師に少し近い。
 問題となるのは、それを扱う者である。
 レイジングハート・エクセリオンの話から考えると、高町なのはやフェイト・テスタロッサは年端もいかぬ少女だ。確かに、この殺し合いが始まった広間にも、非常に幼い少女の姿があった。
 バラゴの世界でいえば、この年齢なら、本来、魔戒法師の世界では修行をしている年齢だし、女は魔戒騎士になることさえも許されない。
 しかし、レイジングハートのいる世界では十歳にも満たぬ少女が、力を有し戦っているという。その齢と性別の幼女が力を得て戦うというのはバラゴには興味深いものだ。
 レイジングハート・エクセリオンからはまだその世界の情報を引き出し切れていないが、レイジングハートが未だにバラゴに話していないことであっても、後々重要な情報となることもあるだろう。


 仮面ライダーという存在についても、より詳細に知れた。
 本郷猛──仮面ライダー1号の話から、仮面ライダーが改造人間であり、悪の組織と戦ってきたことなども詳しく知ることができた。
 本郷、一文字、結城、沖、村雨。五人もの仮面ライダーの存在を知り、そのうち四人がバラゴと接触していたことを知った。
 すなわち、既にバラゴは本郷以外の仮面ライダー全員と会っていたのである。
 何らかのデバイスを使って変身した石堀光彦はともかく、改造人間という出生である仮面ライダーたちのことは把握できた。
 プリキュアについてもより詳しく知り、シンケンジャーという存在についても知ることができた。


(こいつの力、そして情報は後々、使えるかもしれん……)


 バラゴは思う。
 このレイジングハートの持つ魔力という力や、今彼女が持っている情報を、何らかの形で利用できるかもしれないと。
 魔力とやらも気になるし、レイジングハートも彼女の世界の全てを話したわけではない。だが、その情報が必要とされる局面も、後々出てくる可能性があるだろう。
 そして、彼女を利用する方法も、レイジングハートの話を聞きながら考えていた。


(それに、こいつは何も知らない。それだけ利用しやすい)


 彼女を利用できる隙、それはノーザ、筋殻アクマロ──この二人のことだ。
 放送は首輪を通して行われるため、首輪のない者は放送を聞くことさえできない。上空にあるホログラフィを見つめるだけに終わってしまうのだ。
 そのため、レイジングハートは、放送を全て聞いておらず、情報らしい情報を一切得ていない。
 バラゴが知っている、ノーザとアクマロの死、本郷や流ノ介やスバルの死。いずれも、彼女はまだ知らない。
 彼女がたとえ機械であっても、これだけ感情の起伏が激しいならば、ノーザやアクマロに対して何らかの恨みを抱いていてもおかしくはないだろう。
 そんな風に、彼女が把握し切れていない情報は利用しやすく、彼女を利用する良い手段となる。


「レイジングハート────」


 バラゴは、小さな宝石の名前を呼んだ。
 彼女の異世界に関する知識や経験を利用し、他の参加者への対策や罠を張るために、レイジングハートに、かなりストレートに訊く。
 言ってみれば、それは典型的な「悪魔のささやき」というやつだった。


「残念だが、高町なのはも、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアも、スバル・ナカジマも、ティアナ・ランスターも、本郷猛も、池波流ノ介は死亡が確認された。……放送というやつで、首輪を通して教えられた」


 レイジングハートは、悲しそうに


「Oh, reary……I feel sad.(本当ですか……とても悲しいです)」


 と、呟いた。
 どの死も、まだレイジングハートが知る由もないものだったが、幾つかは予感できていた。本郷や流ノ介は、あのまま死んでしまったという。


「私の目の前で、フェイト・テスタロッサは、冴島鋼牙によって葬られ、ティアナ・ランスターは、涼邑零によって葬られてしまった」


 厄介な相手の名前を、バラゴは仇としてレイジングハートに教える。フェイトとユーノの組み合わせだと上手く行き過ぎている感じがしたので、あえてレイジングハートがよく知らないティアナの名も交えた。
 今後、彼女たちの死に際に会った人間と会えば厄介だが、しばらくはごまかすこともできるだろう。


「だが、まだ希望はある」


 希望──本来、バラゴとは「希望」という意味だったが、なんと皮肉なことだろうか。
 今の彼の口からは他人を利用するために吐き出された言葉であった。


「……明堂院いつきアインハルト・ストラトス高町ヴィヴィオなどは生きている。……が、またいつ奴らによって命を狙われるかはわからない」


 本来、死んだはずであるノーザや筋殻アクマロの名前も、生きているものとして明かす。
 情報の多くを事実を交えながら話し、この二人の名前だけは吐くべき嘘として残した。
 何故ならば、レイジングハートとの共通の目的を持っていた方が、やりやすいからだ。
 そう、この名を利用して、恨みを助長するのである。


「────レイジングハート。ノーザや、アクマロ、冴島鋼牙や涼邑零たちを共に倒したくはないか?」


 その言葉は、いまや戦うことができないレイジングハートの復讐心を煽った。
 誰か、協力してくれる人間がいなければ、今のレイジングハートは戦うことができない。
 しかし、悲しいことに、知り合いであるなのはやフェイト、ユーノは死んでしまったし、あの場にいた人間の多くも死亡した。
 ノーザやアクマロを倒し、主やスバルの無念を晴らすことも、当然今の彼女ではできない。
 誰かが協力してもらわなければならないのだ。
 彼女の返答は決まっていた。
 自分から、誰かに協力を願いたいくらいだった。



「Yes.(はい)」


 今更拒絶する理由はない。
 何にせよ、悪鬼であるノーザやアクマロを倒さなければならないのである。
 なのはの無念もあるし、殺し合いを止めるために絶対的に倒さなければならない存在であるためでもある。
 しかし、レイジングハートは機械ながら、少しだけ二人に対する恨みも持っていた。
 その感情が、レイジングハートに肯定を許した。


「そうか。……なら、力を貸してくれ。レイジングハート」

「Sure.(もちろんです)」


 勿論──そう答えるしかなかった。
 レイジングハートの目に、彼の邪気が映ることはなかった。


「それじゃあ、まずは幾つか契約を交わさせてもらう」


 レイジングハートが見ると、バラゴの顔は、先ほどの醜悪(といったら失礼だが)なものから、まったく別の姿に変貌していた。
 優男のようで、どこか心強い美青年。
 かつて、バラゴが御月カオルを利用するために使った偽りの姿──


「──名簿ではバラゴとなっているが、僕の名前は龍崎駆音だ。これから先は、全てその名で呼んでほしい。……あの名前は好きではないんだ」


 声色さえも全く別の──言ってしまえば、先ほどより数段綺麗なものに変わっていたが、レイジングハートはそれについて深く詮索することはなかった。


「Yes, sir──Karune(わかりました。駆音)」


 バラゴにしてみれば、こうして他人を利用する以上、人を襲撃したバラゴの姿であるのは危険だったのだ。
 もしかすれば、バラゴの名を知っている者が何人もいるかもしれない。
 レイジングハートにその名で呼ばせることを強要すれば、その危険は低くなる。
 バラゴは、元の世界ではまだ鋼牙や零に正体を発覚させてはいなかったので、心配はないだろうと思った。
 時間軸の差というやつが心配ではあったが、零の様子を見た彼は、まだ龍崎駆音の名に危険はないだろうと考えていた。。

 また、先ほどバラゴの名を名乗ってしまった以上、レイジングハートが他の参加者からその名前を聞いて全てが発覚してしまう可能性も否めない。
 早い段階で封じておかなければならない。


「……それから、僕の指示なく余計な話はしないでくれ。人前では極力、顔を出さず、話をしないほうがいい」

「Why?(何故ですか?)」

「今までのように、道具だと思われていれば、命を狙われる心配もない。だが、中にはこのように意思ある者すべての命を破壊する者もいる」


 バラゴは、破損している青い宝石を見せた。
 マッハキャリバーである。──本来、スバルがつけていたはずのものが何故ここにあるかはわからなかったが、おそらくスバルがあの後ここで死んだであろうことを告げていた。


「……物のふりをしていれば、僕が死んだとしても、君は生き残れるだろう」

「Sure. But dont die on me.(わかりました。しかし、私を残して死なないでください)」

「無論、そのつもりだ。僕が危険な時、または僕が情報を得たい時は、君に協力してもらいたい」


 これで、レイジングハートが余計な発言をするのを塞ぐ。
 それも、彼女に対する好印象を残したうえでだ。
 契約は終了……といきたいところだったが、バラゴは一つ大事なことを思い出す。


「……そうだ、それからもうひとつ確認させてほしいことがある」


 バラゴは、それだけ言ってデイパックから容器を取り出し、彼女をその中の水につけた。
 一つ試したいことがあったのである。
 この水はただの水ではなく、先ほどバラゴが回収した呪泉郷の水の一つである。
 若い女の姿になってしまう女溺泉の水だ。
 レイジングハートには、あくまでモノであってもらったほうが便利だったが、どうせお湯をかければ元に戻る。


 しかし、そこからは、一切変化がないレイジングハートが取り出された。
 困惑するレイジングハートを見つめながら、バラゴは考える。


(なるほど……これも制限か)



 参加者以外は、あくまでモノでしかないらしい。
 レイジングハートが人工知能であり、生物ではないからかもしれないが、おそらく制限の力だろうと思われた。
 呪泉郷の力がどの程度なのか実験したかったが、制限の力は相当大きいらしい。


「What?(何か?)」

「いや、なんでもない」


 バラゴはそれだけ言うと、それらをデイパックに戻し、レイジングハートを首からかけて隠した。
 自らのペンダントと共に、龍崎の首元にレイジングハートがかけられる。
 マッハキャリバーも念のために、デイパックに入れておいた。


(この辺りには、まだ幾つか道具が散らばってるな。レイジングハートのように使えるものもあるかもしれない……拾っておこう)


 バラゴは、その辺りにあったものを全て拾っていくと、トライチェイサーに跨り、どこかへ消えていった。



【1日目/午後】
【B-7/ホテル付近・戦場跡】
※バラゴの行先は不明。

【バラゴ@牙狼─GARO─】
[状態]:胸部に強打の痛み、ダメージ(中)、顔は龍崎駆音
[装備]:ペンダント、魔戒剣、ボーチャードピストル(0/8)@牙狼、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式×6、バラゴのランダム支給品0~2、顔を変容させる秘薬
バラゴ未確認物{冴子のランダム支給品1~3、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!}、ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ、呪泉郷の水(種類、数は不明。本人は確認済み。女溺泉あり)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、双眼鏡@現実、ランダム支給品0~2(シャンプー0~1、ゴオマ0~1)、水とお湯の入ったポット1つずつ、バグンダダ@仮面ライダークウガ、マッハキャリバー(破損済)@魔法少女リリカルなのは
[思考]
基本:参加者全員と加頭を殺害し、元の世界で目的を遂行する
1:冴島鋼牙と出会ったら、この手で葬る。
2:レイジングハートを利用し、力や情報を得る。
3:石堀に本能的な警戒(微々たるものです)
4:一文字隼人とキュアピーチは再び出会うことがあれば、この手で殺す。(ただし、深追いはしない)
[備考]
※参戦時期は第23話でカオルに正体を明かす前。
※顔を変容させる秘薬はバラゴの変身アイテムの一つとして支給されたようです。
※冴子と速水の支給品はまだ確認していません。
※つぼみ達の話を立ち聞きしていました
 そのためプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について知りました
※雷剛や閻魔斬光剣の召喚はできません。
 バラゴはこれを制限の影響だと考えています。
※零は放っておけば心滅獣身で闇に堕ちると考えています。
※呪泉郷からいくつかの泉の水を拝借しました。種類およびその数については後続に任せます
ニードルの出したヒントによりワープ装置の場所及び使用条件を知りました。
※レイジングハート・エクセリオンから、なのはの世界やその仲間、流ノ介、いつき、本郷、アインハルトなどからの会話で得た情報、ホテルでの戦闘などを知りました。


【レイジングハート・エクセリオンについて】
※レイジングハート・エクセリオンはバラゴと「これからはバラゴのことを龍崎駆音と呼び、余計なことは喋らずモノのフリをする」という契約を交わしました。おそらく滅多なことでは破らないかと思われます。
※レイジングハート・エクセリオンは、ソレワターセの体内での記憶を有しておらず、なのはより後の死者については知りません。
※レイジングハート・エクセリオンは、バラゴによって以下のように虚偽の混じった情報を得ています。
  • 高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライア、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、本郷猛、池波流ノ介は死亡している。
  • フェイトは冴島鋼牙、ティアナは涼邑零によって殺害されている。
  • ノーザ、筋殻アクマロは生存している。そのため、バラゴは彼女たちを倒そうとしている。



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最終更新:2013年09月10日 01:28