Waiting for a Girl ◆gry038wOvE



 蒼乃美希は時計を見つめていた。時間はまだ九時十五分。彼女は、別室からマットやソファを持ってきて、就寝の準備をしていた。何も美希だけが寝るわけではない。ヴィヴィオやいつきの分も用意していた。
 マットは体操用のやや固い材質だ。少女が寝るには少し乱暴な寝具だが、早朝まで寝続けるわけにもいかない。このまま仮眠を取るには充分だろう。
 それを広げて、掛布団を用意する。警察署というのは、時たま泊りがけになる人間が出てくるような場所であるため、こうして毛布などの簡単な寝具は用意されている。あまり綺麗ではない薄い毛布だが、まあ、せめてこうした物を使う事にしよう。
 時刻は九時十五分。美容のためにはそろそろ寝た方がいい時間だが、そう眠気が出るほどでもなかった。晩飯は軽食とはいえ口に運んだが、風呂には入っていない。……まあ、シャワー程度になってしまうかもしれないが。

「えっと、このくらいかな……うーん」

 孤門の肩幅より少し広げた程度の間隔で、ヴィヴィオは距離を測る。ヴィヴィオは、ソファを運ぶために大人モードに変身している。簡易的な作業に使う程度の魔法だ。骨折した左腕を使わなくても、右腕だけで軽い運搬はできる。
 この警察署で現在、共に眠る事になるであろう人数は、蒼乃美希、高町ヴィヴィオ、孤門一輝、沖一也、佐倉杏子で五名。それに、後から来る人間としては、明堂院いつき、左翔太郎、花咲つぼみ、響良牙、一条薫、冴島鋼牙がいる。とはいえ、せいぜいこの中から二人の見張りを除いた人数で睡眠を取る事になるだろうから、既にいる人数よりも多めに寝られるはずだ。どうやら、一つのマットで三人分のスペースは確保できているようだが、足はおそらく床の上だ。贅沢は言えない。唯一贅沢な寝方が出来るのは、せいぜいソファで寝る一人だけだろう。
 ここまで二十一時間、基本的には睡眠を取る事を知らずに行動してきた。そろそろ頭が少しだけぼんやりとしてきた感じもする。睡眠を取るに越した事はないが、基本的に睡眠を取る必要がない沖一也のような人間は心強いが、孤門や美希も少しずつ寝ていればそのくらいの役割は果たせるだろうし、一人よりは二人以上で見張りをした方がいい。

「だいたい、七人くらいならギリギリ寝られます」

 現状なら七人眠れれば充分だ。睡眠をとらない沖を除いて十名だから、三人はマットやソファからはぐれて、床で寝るか見張りをするかという事になるが、まあ贅沢も言えない。それに、今はあまり探れないだけで、そのうちまだ寝具をどこかから引っ張りだしてくる事ができるかもしれないので、そこで困る事はないだろう。

「まあ、充分かな。……あとは、三十分過ぎに二人が戻ってくるまで、ここでのんびりしていていいよ」

 そう言う孤門は、外の景色を凝視している。
 時間が時間なので、外は暗い。しっかり見ていなければ見過ごす可能性もあるから、目が離せないのだ。こうした力仕事を美希やヴィヴィオがやる羽目になったのも、一重にそこが原因である。
 ヴィヴィオは作業を終えたので、再び子供の姿に戻った。流石に周囲もこの子供と大人の使い分けに慣れたようで、ヴィヴィオが突然子供に戻っても驚く者はいない。

「いつきさんと翔太郎さん、まだかなぁ……。いつきさんに格闘を教えてもらいたいのに……」

 そう呟くヴィヴィオはまだ知らない。
 明堂院いつきは、まだ帰ってこない事を。
 いつきの分も敷かれたマットに、眠る者はない事を。

「もう二時間くらい経つけど、大丈夫かしら?」
「……距離的にも結構遠いみたいですからねぇ」

 心配の声も挙がる。しかし、それはあくまで声だけで、内心ではどこか安心感を持っていた。翔太郎たちは確認に行ったのであって、危険が迫ったら帰ってくるだろうと、そう信じているのだ。
 そこで一波乱あった事も知らないし、なかなか帰ってこないのも、思った以上の距離があったからだろうと考えていた。孤門は、そんな二人の声を背中に、外の景色を見ている。
 外から誰かが来る事はない。
 景色が移り変わる事もなく、退屈な光景を、延々と見続けている。彼とて、それは退屈だった。そして、窓枠の上に首を乗せて寝てしまいそうになる事もあった。






 ……十五分間、何をしていれば良いのか、彼女たちはわからなかった。

 ただ、静寂が起こると、死者が遺した何かを見て、涙が出そうになるので、唇を口の中に引っ込めて、強く噛みしめた。
 美希の手の中にある、リンクルン。それは美希が普段使っていた者ではなく、祈里が使っていたキュアパインの変身用。もう変身機能はなく、いわば「思い出」の為の品になってしまった。「キルン」はまだこの中に存在し続けている。祈里がいなくなった事を、キルンはどう思っているのだろうか。
 彼女は、それをまたそっと、胸の中にしまった。

「にゃー」

 そして、もし祈里が生きていれば、この動物語の読解でキルンを役に立てる事ができただろう。アインハルト・ストラトスが遺したアスティオンはたまに鳴いているのだが、何を言っているのか全くわからない。
 アスティオンの言葉は、基本的にアインハルト以外にはよくわからず、ヴィヴィオでさえその聞き取りには四苦八苦する。ただ、セイクリッド・ハートはアスティオンの言葉を理解しているようなので、「アスティオン→セイクリッド・ハート→高町ヴィヴィオ」の順で翻訳されて、伝言ゲーム式で伝わってくる。
 これが、祈里の持つキルンの力があればもう少しまともに会話できるのかもしれないが、残念ながら美希はキルンの能力を使えない。

「え、えっと……怪獣が現れたから南本願寺まで逃げろ……。え? そんな事は言ってない?」

 今もまた、ティオとクリスとヴィヴィオをめぐる伝言ゲームが繰り広げられている。何やら深刻な表情のティオが何かを言っているのに対して、クリスは物凄く慌てたように身振り手振りを激しくしている。
 仲介役のクリスもいっぱいいっぱいで、あまりヴィヴィオに伝わっていかないようだ。

「にゃー、にゃー!」
「(ビシッ! バシッ! バタタタタタ!)」←ものすごくはげしいどうさ
「こんにゃくがスーパーで30円!? あーもう! 何を言ってるのか全然わからないー!」

 何が何だかわからずに肩を落とすヴィヴィオだが、その隣で美希が少し前に出た。
 ヴィヴィオたちのやり取りが少し和ましく見えて、何とか二人の前で涙を流すのを堪えた美希であった。彼女は、少し遅れながらもティオに向けて言う。

「ゆっくり……ゆっくり言ってみて」

 ティオは、そんな美希の言葉を理解して、すぐにまた口を開いた。
 今度は、一斉に言葉を伝えるような事はなかった。ゆっくりと言い直す事にしたのだ。

「にゃー」
「(ビシッ!)」←しんけんなひょうじょう
「三人とも」(訳:ヴィヴィオ)

 細かい文節で区切っているので、ティオの言葉は素早くクリスのもとへ、クリスの動作はそのままヴィヴィオに伝わった。どうやら、正しく訳されたらしく、ティオ自身も安心の表情を浮かべている。
 ティオは続けた。

「にゃあ」
「(バシッ!)」←あついまなざし
「疲れているから」
「にゃーん」
「(ガシッ!)」←むだのないうごき
「少し回復させてあげます」

 ……どうやら、ティオなりの気遣いをしていたようだ。それがこの伝言ゲームのせいで全く違う言葉にさせてしまったらしい。
 ティオは、主人の死に直面をしながらも、ヴィヴィオを支えるための行動をしようとしていたのだ。

「ええーっ! でも、ティオだって疲れてるのに……」

 アスティオンはダメージ緩和と回復補助の能力に特化したデバイスだ。アインハルトもその補助を受けながら戦っていたのだろう。ティオ自身の精神的な負担も大きく、その効果は時間を置くごとに減少気味になっていたようである。
 しかし──

「にゃあにゃあ」
「(ビシッ!)」←かなしみをこらえるしぐさ
「もう誰かが傷ついていくのは」
「にゃあ」
「(バシッ!)」←けついをかためたようす
「見たくないんです」

 アスティオンの涙混じりな表情が、ヴィヴィオにも伝わってきた。
 主人であるアインハルトを喪い、自分の言葉をわかってくれる人間もいなくなった。ティオが懐く事ができる相手もいない。大事なマスターの不在は、当然ティオの心を強く痛めている。それは、ティオ自身が無茶を禁じられたがゆえの話だが、ティオも多少の無茶をしなければ誰も救えない。
 それを強く認識したのだろうか。

「ティオ……」

 ティオの鳴き声にこめられたメッセージに、ヴィヴィオはぐっと表情を硬くして拳を握る。不意打ちに敗れたアインハルトの血だまりを、ティオはその肌で感じたのだ。
 誰かが死んでいく不快感がまだティオの中にあるはずだ。

「ティオ、心配しなくていい。僕はまだ大丈夫だ。やるなら、今はこの二人を頼むよ」

 孤門が言った。孤門は疲労こそしているものの、戦闘によるダメージはない。長距離移動でも、間に何度も休憩を挟んだので、そこまで大きな疲れを感じる事はなかった。これは自分の力でどうにでもなる疲労だ。
 孤門は変身能力を持たないため、これまでも直接的な戦闘は基本的に避けるような形にされている。戦闘を重ねた二人を優先すべきなのはよくわかっている。
 美希は美希で、自分のダメージがヴィヴィオほど深刻でないと自負しているので、その回復能力は全部ヴィヴィオに注がれるべきだと思っていた。だから、続けて美希も同じ事を言った。

「私も大丈夫。もしできるなら……全部、この子にお願い」
「にゃあ!」

 孤門と美希の言葉に頷き、アスティオンはヴィヴィオの胸へと飛びかかる。どうやら、それで納得したらしい。
 ヴィヴィオは自分の胸元に飛び込んできたアスティオンの瞳を見つめた。
 お互い、その瞳は真剣そのものであった。いつもの悪戯子猫のアスティオンの瞳とは、全く違った色をしている。

 この子の本気を受け止める──。

「ティオ……! お願い……!」
「にゃああああああっっ!!」

 ヴィヴィオの体に小さな風が舞う。ヴィヴィオの中を、全身を回復させるよう、ティオは全開の力を使う。アインハルトに対してのダメージ緩和や回復を繰り返してきたティオも、殆ど限界に近かったが、それでもある限りの力を振り絞る。
 それが誰も傷つかぬための道だと、ティオは確かに認識していた。

「くっ……」

 あらかじめ治療を受けていた左腕は、その風に包まれながら、少しだけ回復する。クラッシュエミュレートとは違い、実際の骨折である以上、それを全て回復させる事はできない。……だが、痛みは緩和され、少しだが全身の疲労も消えていくのがわかった。
 ヴィヴィオがこれまで抱えていた火傷の損傷も少しだが色が薄くなり、体全体が癒えていく魔法の力を確かに感じていた。回復能力に関してはクリスをも超える。アインハルト用に最適化されていったとはいえ、回復はヴィヴィオにも充分な力を与えた。
 少しだが、戦いやすい体になったと思う。

「はぁ……ありがとう、ティオ……」
「にゃあ……」

 それだけ聞くと、ティオは安心したように瞼を閉じ、もう一度深い眠りについた。かねてより精神的疲労度が高く、本来の能力である回復も本領発揮とまでは行かなかったようだが、それでもティオなりの全開は僅かばかりでもヴィヴィオの体を癒した。
 そんなティオの頭をヴィヴィオは撫でる。ヴィヴィオの体も先ほどより少し良くなっている。熱心に看病してくれた人間のお陰もあるだろうし、そこに相乗してティオの力が使い込まれたのは、ヴィヴィオにとっても大きな力となった。

「ティオのお陰で……私ももう少し、みんなの役に立てる気がします!」

 ヴィヴィオはガッツポーズを決めた。
 アインハルトを喪った悲しみにあるはずのティオが、こうしてヴィヴィオに力を託した事。アインハルトが持つべき力が、ヴィヴィオにその全力全開を注いだ事。
 それが、ヴィヴィオの血をたぎらせる。
 これからもまだ、充分に戦える喜びがある。ヴィヴィオは、その拳をより強く握った。






 三人が会議室で待っていると、沖一也の方がそこに顔を出してきた。
 どうやら、制限解除の時間を終えたらしい。時刻は9時3X分であった。
 佐倉杏子の姿は見えなかったが、別の部屋にいるのだから、同時にやって来る事もないだろう。どっちにしろすぐに帰ってくると踏んでいた。

「……みんな、待たせたね」
「沖さん!」

 三十分、どうやら何かの成果があったらしく、沖は少し自信に満ちた表情を浮かべていた。

「どうやら制限解除の話は本当らしい。第二回放送を行ったニードルが、俺の使者だった。制限はパワーハンドの能力強化と、レーダーハンドの使用だ。俺たちの戦力も大幅に強化される」

 メリットしかないような条件だが、それで誰かの顔が明るくなるような事はなかった。敵対している人間も、同様に制限の解除を行われているとなると、やや響くものがある。
 とはいえ、殺し合いに乗っている人間の方が少ないような現状では、主催に仇なす人間たちの何割かが強化されれば充分に損をしない寸法だ。

「よかった……それじゃあ、これまで以上に戦えますね!」
「……しかし、だからこそ気がかりだ。俺は首輪の解除も行っていたが、どういうわけかそれに対する文句もなければ、危害を加える様子もない。むしろ、妙に落ち着いた様子まで見せていた。これが敵からの施しである事も考慮に入れておいた方がいい」

 沖が見たニードルは、文句をつけないどころか、超然とした──もしかしたら、優越感や自信を織り込んだような表情と態度で、消えていったのである。
 彼らが対抗をして来る事が一切ないのを好都合と割り切る事ができない。
 まだ何か、奥の手やたくらみがあるのかもしれないと、沖は考えていた。

「……あの、ちゃんと相手との会話は成立していたんですか? もしかしたら、収録された映像である可能性も……」
「会話は、成立していた。だから、少なくとも収録された映像である事はありえない」

 あるとすれば、既に主催者など存在しておらず、ニードルも加頭も、ホログラムの存在なのではないか──という可能性。ショッカーやデストロンといった悪の組織の首領が通過点に過ぎず、全てはデルザー軍団の「大首領」と呼ばれる存在の傀儡であったように、悪の元凶と思しき存在が、ほんの末端に過ぎないという事もありうる。
 沖は少し、考え込む。

「……この戦い、俺たちの想像以上に長引くかもしれないな」

 残り二十一人の現状にあって、それ以上の大きな力を感じる。
 その敵に立ち向かうには、果たしてここにいる参加者だけで事足りぬのだろうか。
 たった一人でも悪の組織と戦ってきた仮面ライダーたちは、かつても同じ想いをした。
 強敵への不安。──それがまだ、沖の中には僅かながら存在している。

「それにしても、杏子ちゃん遅いな……。もう彼女の方も戻って来ておかしくない頃なんだけど」

 沖が考え途中ながら、孤門がそう口にした。
 そう、沖とほぼ同時刻に同じ行動をしたはずの佐倉杏子がまだ戻らない。誤差といえば、ほんの数分程度に収まってもおかしくないが、その数分というのが間もなく過ぎ去ろうとしている。
 場合によっては、警察署内に何かが潜伏している──という恐ろしい想像を張り巡らせずにはいられない。
 仮面ライダーが戦ってきた悪の怪人たちも、周囲に見張りがいる密室のうえで人間を誘拐する事など容易い。壁を抜け、泡となって現れるような連中だ。
 それを思った時、やはり沖も少し不安になった。──「様子を見に行こう」と、沖が口に出そうとした時。

「様子を見にいきましょう!」

 先に口を開いたのは、美希であった。
 やや折り合いが合わない部分を持ちながらも、懸命に互いを理解しようとし合っている二人だ。お互いを心のどこかで心配しているのだろう。
 無論、誰もがそれに頷いた。

「……そうだな。二人とも、ここで見張りを頼む。俺たちは杏子ちゃんの様子を見に行く」
「わかりました!」

 警察署の出入り口を筒抜けにしているこの場所で、見張りをする人間が一応は必要だ。
 見張りは一人で充分だが、この警察署内でも単独行動が心配になる昨今だ。杏子の身に何かがあるのだとすれば、単独行動が危険であるのは明らかだと言えよう。
 やはりここでもチームを分ける形で、大げさな言い方だが、別行動をとる事になった。






 美希と沖が辿り着いたその部屋には、一枚の置手紙が残されていた。

『24時を過ぎたら2体の魔女を倒せ』

 置手紙では、3体と書いてあるはずの部分を二重線で消して、2体と上書きされている。紙の随所にある消し痕から、それがただの書き間違いではないのがよくわかった。
 何度も何度も上書きの痕。ちゃんと消しゴムで消さないあたりが、杏子らしくもある。
 3の上から2を書いている部分は二重線で雑に消しているが、他はもう少し慎重な消し方がされている。

「何よ、これ……」

 美希の声が震えた。
 杏子がここの部屋にいたのは明白だ。これは確かに杏子の字。
 しかし、杏子はもうここにはいない。いや、おそらく警察署にもいないだろう。その理由はわからない。何かが彼女を全員の前から消し去った。手品のようにではない。杏子自身の気持ちを利用して、杏子自身がここから消えるように、仕組む「理由」という敵が存在した──。
 きっと、制限解除の際に何かがあり、それが彼女を狂わせたのだろう、と美希はすぐに理解する事ができた。

『ごめん、こんな形で別れる事になって』

 手紙に残された、誠意のない謝罪の言葉。その字から感じ取れるのは後悔と迷い。本当は別れたくはないが、それでも何かの理由があって別れねばならない決意をしたのだと、その言葉は継げている。消し痕から微かに見えるのは、読み取れた二文とは全く無関係の文字だった。
 『のソウ』──佐倉杏子が消そうとした、本文と無関係な消し残し。
 ここに書き残した事とは別の事を、彼女はそこに書こうとしたはずだ。しかし、何かの迷いがそれを消させた。誰かに伝えるべきか、伝えぬべきか迷っていたのだ。

「ごめんじゃないでしょ……。そういうのは……ちゃんと口で言いなさい!」

 美希の手が、一枚の紙を握りつぶす。
 冷静に考えれば、その紙から読み取れるはずのデータはある。消された文字を解読すれば、何か糸口が見つかる可能性もある。
 しかし、美希は今、そう思うよりも怒りに任せてそれを握りつぶすほどに感情的だった。
 握った直後に後悔して、ばつが悪そうに沖の方を見た。重要な手がかりを判別させにくくしてしまったのだ。だが、そんな美希の不安もかき消すだけの能力を沖は持っている。

「美希ちゃん。俺の目はペンで塗りつぶされた箇所も視認、判別する事ができる。今の文も少し見せてもらえればわかるよ」
「本当ですか?」
「……貸してくれ」

 しわくちゃになってしまった紙を、美希は少し気恥ずかしそうに手渡した。
 一時的に高ぶった感情の証なのだ。冷静さを欠き、こうして手がかりになるかもしれない物をつぶしてしまった自分が情けなくも恥ずかしい。しかしそれが人間らしい姿なのだと、彼女は自覚していなかった。

「魔女の正体は、魔法少女の……」
「魔法少女の?」
「……そこから先は書いていない」

 魔女というのは、杏子のいた世界を脅かす怪物である。
 杏子からは、異世界に結界を張って暗躍し、人々を操り殺す不可解なモンスターだと聞いている。その正体については杏子が言及する事もなかったし、おそらくは誰も知らなかったのだろう(状況によってはアインハルトや沖にまどかを通じてその情報が伝わったかもしれないが、そうならなかった)。
 それが、今回の制限解除によって何者かに明かされた可能性は高い。
 このタイミングで杏子が魔女の正体を伝えようとしたのはその証明だ。「魔女の正体」──それが今回、杏子が姿を消した理由に関わるキーワードである。

「もし次にあったら、あたしのソウ……これも書きかけだ」

 他に読み上げられる文章を沖は読み上げた。
 似たり寄ったりな内容や、字を変えただけのものがいくつかあるが、際立って目につくのはこの二つの文章。
 ソウ──その言葉から続く言葉、何か心当たりはないだろうか。

「ソウ……ソウ……ソウルジェム、か……? しかし、何をすればいいのか」

 杏子に関わる言葉で、ソウで始まるのは「ソウルジェム」だ。
 しかしながら、「ソウ」という言葉の意味がわかったところで、文全体の意味は全く理解できない。次に会った時に杏子のソウルジェムをどうすればいいのか──。
 結局、沖では何もわからなかった。

「……結局手がかりなし!?」
「この書置きだけでは、直接聞かない事にはどうにもならないな……」
「全く、本当に仕方がない子なんだから! もうちょっとわかりやすく書きなさい!」

 美希は、そう悪態をつくと、気合を入れたように眉を顰めた。
 少しだが冷静な気持ちで、美希はぐっと表情に怒りを蓄えた。
 相変わらず、杏子は美希の価値観とは違う。自分だけで何かを背負い、こんな不完全──いや、不完璧な手紙でイライラさせる。
 勿論、こんな別れ方では美希の気が済まない。
 杏子が何を伝えたかったのかはわからないが、いずれにせよもう一度会う必要ができたのである。

「仕方がないから行ってくるわ!」
「あ、ちょっと!」

 沖が止めるのも聞かずに、美希は警察署の廊下を走り出してしまった。

「待つんだ、美希ちゃん! 杏子ちゃんの居場所なら──」

 沖が彼女を止めるために何かを言いかけた。その言葉は、美希の背中に届いた。


【1日目 夜中】
【F-9 警察署 杏子がいた部屋の前】


【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労
[装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ガイアメモリに関するポスター、杏子からの500円硬貨
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
0:杏子を探しに行く。
1:警察署内では予定通りに行動する。
2:プリキュアのみんな(特にラブが)が心配。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。
※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0~2、首輪(祈里)、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます)
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:美希を追う。
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:この命に代えてもいつき達を守る。
4:先輩ライダーを捜す。結城と合流したい。
5:仮面ライダーZXか…
6:ダークプリキュアについてはいつきに任せる。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の呪いである可能性を聞きましたが、流石に信じていません。
※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。






 警察署の窓から、変な音が聞こえてきた。
 ピーーーーーーーーーーー。
 外で何かが鳴っているのだ。低音だが、何かを必死に訴えかけている機械の音。孤門は耳を澄ませて、その音の正体を探った。

「何の音だ……?」

 訝しげにその音の在りかを探る孤門。
 空、……そう、それが聞こえるのは空からだ。上空に何かあるのだろうか──と考えたところで、孤門は、すぐにその音の意味を知る。

「……もしかして、デンデンセンサーが!?」

 それに気づき、孤門は慌てた。誰かが警察署の屋上の時空魔法陣に現れたという事。──二人以上殺害した誰かだ。
 孤門は、ディバイトランチャーを構えた。

「……孤門さん、私も行きます」

 ヴィヴィオが言う。孤門は頷いた。沖と美希は警察署内のどこに向かったのかわからない。
 そして、逆にヴィヴィオをここに一人にしてしまうのも危険だというのはすぐにわかる話だ。二人でいるならば、二人三脚で向かうのが一番良いのは当然だ。
 孤門は緊張で鼓動を速めながらも、屋上へ向かおうとしていた。






 しかし──

「……誰も、いない」

 孤門が屋上のドアを開けて、ディバイトランチャーを構えると、鳴りやまぬデンデンセンサーが待っていた。──デンデンセンサー「だけ」が待っていた。
 ここには誰もいない。誰かが来た形跡もない。到底、二人以上殺した人間がここを踏み荒していったような痕もないし、階段の途中で誰かに会う事もなかった。
 飛び降りたのだろうか、と孤門は警戒しながら真下を見る。

「時空魔法陣は消えています……」
「一体、どういう事だ……?」

 孤門は、デンデンセンサーを拾い上げて音を止ませる。
 時空魔法陣に何かあったのだろうか。──孤門は、そんな疑問を浮かべずにはいられなかった。
 ……とにかく、この屋上にいても仕方がない。
 消失した時空魔法陣については、また後ほど沖たちとともに考える事にして、孤門は会議室に戻る事にした。



【1日目 夜中】
【F-9 警察署 屋上】

【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:上半身火傷(ティオの治療でやや回復)、左腕骨折(手当て済+ティオの治療でやや回復)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化
[装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式(アインハルト(食料と水を少し消費))、アスティオン(疲労・睡眠中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:会議室に戻る。
1:生きる。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:時空魔法陣が消えた理由を考える。
[備考]
※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です
※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。
※ガドルの呼びかけを聞いていません。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。
※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。

【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ダメージ(中)、ナイトレイダーの制服を着用 、精神的疲労
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0~2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3、ガンバルクイナ君@ウルトラマンネクサス、デンデンセンサー@仮面ライダーW
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
0:会議室に戻る。
1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:警察署内では予定通りに行動する。
3:副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
4:溝呂木眞也が殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
5:時空魔法陣が消えた理由を考える。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。
※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。
※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。


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Back:壊れゆく常識 孤門一輝 Next:のら犬にさえなれない(前編)
Back:壊れゆく常識 蒼乃美希 Next:のら犬にさえなれない(前編)
Back:壊れゆく常識 沖一也 Next:のら犬にさえなれない(前編)
Back:壊れゆく常識 高町ヴィヴィオ Next:のら犬にさえなれない(前編)


最終更新:2018年02月27日 01:48