変身─ファイナルミッション─(1) ◆gry038wOvE











「ねえ、おばあちゃん……昔の話、教えてくれますか?」















 ──────────また、誰かが突然ドアを叩く。





 しかし、その低調なノックの音に応じる者はその一室の中にはいなかった。
 このドアは、何年、何十年も前のこの風都において、横行するガイアメモリ犯罪に巻き込まれた人間が警察を頼れずに最後に縋る駆け込み寺となっていた探偵事務所のドアだ。今日まで何人の悩める人間がこのドアを潜った事だろう。
 とはいえ、既にそれから幾許かの歳月が過ぎ去っている。今ではその手口の犯罪もすっかりなくなり、この事務所は、より多種多様な事件の依頼を受けるようになった。
 それこそ、そこらの萎びた探偵事務所と全く変わらない。
 浮気調査、人探し、犬探し、猫探し、亀探し……。

 この日も、また、本当にそんな、ちょっとした事情を持つ者が来たようだった。
 依頼人は、しばらくドアの前に立ってノックを繰り返し、返事を待った。
 しかし、返事はない。
 やはり、どうやら事務所の一室には誰もいないらしいと気づき、やがて諦めて、背中を向ける。
 その人の後ろ姿は、ドアからゆっくりと遠ざかっていった……。

 もしかすれば、この帰路でばったりとこの事務所の主に会う事を期待しているかもしれないし、その依頼を果たせる他の宛てを探しに行くのかもしれない。
 その人は再び来るかもしれないし、既に常連であるかもしれないし、二度とこない一見かもしれない。それはわからない。
 とにかく、まるで、その部屋そのものがその人間に見捨てられたかのように、一人の人間に置き去られた。

 ──この、がらんと空いている部屋。

 あの「鳴海探偵事務所」のロビー。
 誰もこのドアを開けてはくれなかった。

 ……事務所の内側は、すっかり無人であった。
 奥に進めば、古い探偵小説や、寂しいほど整ったデスクがあるのだが、これらも蜘蛛たちが巣を張る為の優良物件となりつつあるようだ。
 クラシックな品質で出来上がった家具や壁のレイアウトも、いくつもの帽子のかけられた壁も、少し前まではそこに誰かがいたかのような気品を漂わせるが、この時には誰もいなかった……。
 何日か、あるいは、何週間か。──それがここから誰かがいなくなってから経過した時間はそれくらいだ。ただ、依頼人が来るところを見ると、何年という単位ではないだろう。
 人の匂いのしない渇いた空気がその場に流れる。床板の匂いだろうか。少しだけ黴臭く、それでもどこか懐かしい物が鼻孔を擽る。下町の匂い。

 隅のデスクには、ある意味では過去の重大事件の調査報告書とも取れる一冊の本と、それに関する記録(メモリー)と呼ぶべき数葉の写真があった。
 ……これは、もう既に人々が忘れ去るほどに遠い過去のものだ。誰がここにこの本と写真の束を置いていたのだろう。
 だが、それだけが、ここに誰か人の通った形跡を示す手がかりだった。

 写真はもう、すっかり色褪せて、そこに映る人々の笑い顔さえも、どこか古めかしく見えるほどだった。そもそも、こうして写真を紙媒体に印刷する文化自体が、この時代からすると古めかしい物であるかもしれない。黴の臭いがする。
 中には、幼い少女も映っているが、この人ももう、本当の大人だろう。
 この、帽子を被っている気の良さそうな男は、生きていれば、もう老人かもしれないし、もしかしたらとうの昔に亡くなっているかもしれない。
 ──帽子?
 これは、よく見ると壁に飾ってあるのと同じブランドの帽子だ。

 ──年代ものだ。

 時代は、大きく変わっていった。
 街並みも変わり、この事務所で働く人々も変わっていく。
 仮面ライダーとドーパントが戦う時代はとうに終わったくらいだ。

 ……だが、それでも。この街に吹く風だけは変わらない。
 いつまでも懐かしく、善と悪とが混ざり合い、そして、何より、良い風だった。
 きっと、かつてこの街で暮らした人々が愛した物が、この時代の人たちにも吹き続けているのだろう。

 ──窓の外の隙間風が、ぱらぱらと本のページをめくり、写真を床に散らばらせた。

 この本のページを巻き戻す者はいない。
 写真を拾う者は誰もいない。
 そこに映っている人たちも、もうおそらく……。





 世界の歴史の一つの記録を記した、その本の題名が大きく開かれる。





【変身ロワイアル】










 ──広大なる宇宙。
 本来、この限りなく広い宇宙というのは、それこそ数えきれないほどの人々が寄り添い合って暮らす場所であり、全ての命の故郷であるはずだった。少なくとも、ゼロが旅した幾つもの宇宙は全てがそうだった。だからこそ彼は宇宙を愛したのだ。
 しかし、この青い戦士──ウルトラマンゼロが今、辿り着いた宇宙は、そんな宇宙たちとは全く違うと一目でわかった。

 今、目に見えている星は全て模造品で、そこに芽吹く温かい生命までは再現されていない。
 緑の息吹や文明のある惑星は恐ろしいほどに少なく、隕石の欠片のような星ばかりが無数に浮いている。そんな、おそろしいほどに音と空気のない深淵だった。
 どこを何度見渡しても、やはり、生命の反応は……ない。強いてそこにある物を挙げるならば、「永遠の孤独」とでも呼ぶべき虚無感だけだ。
 まるでブラックホールにでも飲み込まれたかのように見渡す限りの全てが無音で、それこそ、ゼロには、直感的にその空気に恐怖感を覚えざるを得ないほどの場所である。

『どうしたの? ゼロ』
「……ああ、いや、なんでもない」

 ゼロは自分と同化している少女──蒼乃美希の言葉に、思わずそう空の返事をしてしまった。
 辛うじて、ゼロが平静を保って居られるのは、いわばこの「美希」のお陰でもある。もし、彼女がいなければ、ゼロはすぐにでもその宇宙の齎す永遠の孤独に敏感に反応し、正気を失ったかもしれない。
 自分と共にそこに誰かがいてくれる事が、ゼロの心を安堵させた。この不気味な宇宙の孤独からゼロを守れるのは彼女の存在だけだ。

 ふと思う。
 孤門は──この感覚を数日、その身で味わっているのだろうか。
 ベリアルは──こんな感覚に身を震わせながら、全世界を手玉に取って満足なのだろうか。

 一刻も早く、この宇宙の中でただ一人彷徨う「ウルトラマンノア」のスパークドールズを探さなければならないし、彼の時間を取り戻し、ベリアルも倒さなければならない。
 しかし、やはり、この視界に広がる無限を前に、ゼロですら一瞬心が挫けそうになる気がした。
 これから行う作業は、言ってみるなら──地球中から、一粒の塩を探し出すよりも困難な事であるという実感が湧いてきたのだ。

(まずいな……この世界に来てから、俺の力も弱まっちまった……)

 この世界に飛び込むのが初めてだったゼロは、更なる問題として、このエネルギーの枯渇も挙げられた。体に何トンかの鉛の分銅でも装着されたかのようにゼロの身体が重くなり、これまでのようなパワーも発揮できない状態が続いている。
 この分だと、モードチェンジも出来ないどころか、先ほどまでのようにノアイージスを発現して別世界を渡る事さえできない。
 たとえば、今すぐにゼロの力で引き返す事などは絶対に不可能な状態である。

(帰る方法は後で考えるか……それより──)

 もとより、ゼロに後退の意志はない。勿論、元の世界に帰らなければならないのも一つだが、それに関しては比較的楽観的に考えている部分もあった。この世界にいれば耐性が出来るだろうし、それならば地球時間で一週間ほどでも充分だ。
 それはこれまでの美希たちの事を考えれば自ずとわかる事で、ベリアルを倒した後ならば一週間ここにいるというのも一つの手段である。
 ……だが、問題はその事ではない。

(──これじゃあ、ベリアルと戦う力が無さすぎるぜ……っ!)

 そう、パワーの低下による、戦闘力への影響だ。
 ベリアルの実力は、元々ゼロと殆ど互角だと言っていい。
 どちらかが強い力を得てもう一方を圧倒し、そうなれば今度は負けた方が強くなりもう一方を倒す……という繰り返しが、これまでのゼロとベリアルとの間に生じていた力関係だった。
 いわば、それが二人の終生のライバルたる因縁を作り上げていたのだ。

 その能力がほとんどリセットされたこの世界では、圧倒的にベリアルの方に分がある。
 まず、一対一の決闘でゼロがベリアルを相手に戦うのは不可能と言っていいだろう。
 いかにして対策すべきか考え、宇宙空間の一点にとどまっていた時、美希の声がゼロの脳裏に反響した。

『──なんでもないのね。じゃあ、早く孤門さんを探して、ベリアルを倒しましょう!』
「お、おう……!」

 ふと、美希の言葉が聞こえたので、ゼロもベリアル以外の事に意識を向ける事ができた。……そう、今は、彼女がここにいるのだ。
 蒼乃美希。……あの殺し合いの生還者が。

 まあ、確かに──今の孤門は、かつてゼロに力を与えたウルトラマンノアと同化しているのだから、彼がいれば現在の形勢は大きく逆転する事になる。しかし、そのノアを探し出すのにも、これだけ広い宇宙が広がっているようでは心が折れそうなのも事実だ。
 美希もそれは、ここに来た瞬間に察しただろう。地平線すらもない無限の黒には、余程目が悪くない限りは恐怖を覚えるに違いない。──ましてや、彼女のように宇宙に行く機会の少ない地球人の少女となれば尚更だ。
 だが、そんな美希が、ゼロに向けて──あるいは、これからの旅路を遠く見据えている自分自身に対して、ある意識を飛ばした。

『──諦めるな! ──』

 美希の胸にあるのは、その言葉だけだった。
 たとえ挫けそうになった時も、それを食い止めるのは、その単純な激励である。その言葉が持つ意味を噛みしめる。
 長い講釈や説教と違い、言葉そのものが奇妙な力を発するのだった。
 強い語調でもなく、かといってそっと支える風でもなく、その声がそもそも他人から向けられているような気がしない──そんな一言。

「──」

 そして、それは、ゼロにとっても、最も好きな地球人の台詞だった。
 孤門が何度となく使っていた口癖のような呪文。そして、ゼロもかつて、ある宇宙で──今思えば孤門に少し似た面影を持った──少年に言われ、ウルトラマンダイナ、ウルトラマンコスモスと共に胸に刻んだはずの言葉である。
 確かに、こんな若い地球人の少女にこれを言われては、ゼロも立つ瀬がない。

「よしっ」

 本来の彼らしい調子を、本格的に取り戻すには充分だった。こうして、無謀に近い状況に立たせられてこそ燃えるのが本当の自分ではないか、と。
 ゼロは、その一言で奮い立つ。

「じゃあ、いくぜ、美希!」
『うん!』

 ゼロは、スピードを上げて宇宙の果てに飛び立っていった。
 願わくは、追い風が彼らに届くように……。
 彼が飛び去った後には、青い残像が光っていた。






 ──別の宇宙。
 時空移動船アースラの壁は、だんだんと消滅を始め、ガイアセイバーズの視界に広大なブラックホールの姿を映していた。
 目の前にある深い闇が、これから自分たちの身体と意思とを飲み込む事になる「宇宙」だという。
 アースラは、無力にも、その直前で消えかかろうともしていた。──だが、これが、正しい歴史におけるアースラのあるべき姿なのだ。とうに消えているはずものが、奇跡的に駆動し、そして志半ばに消えかかっている。
 しかし、最後の任務を終えたアースラを、今、ベリアルの野望が生み出した死者の力で再生し、今、無に帰る為に最後の力を振り絞ろうとしている姿でもあるのだ。
 もしかしたら、それだけでは足りないかもしれない。
 あとほんの少し、風が吹けば──この艦を動かしてくれた者の想いも、この艦を守ってくれた死者たちの想いも、この艦の為に命を亡くした者の想いも、全てが無にならなくなる。
 インキュベーターの言った通りに、「出動」ができる。

 きっと、風は、──届く。
 ──そう、あと、もう少しで。
 あの変身ロワイアルの世界へ──。

(届け……届け……!!)

 彼らは、祈った。
 人が祈れば風が吹くわけでもないが、かつて、左翔太郎はそんな経験をした事がある。人々の祈りは時として黄金の風を巻き起こす事もある。
 せめてこの先にある世界に自分たちを届けてほしいと。

(届け……届け!!)

 そう思いながら──

 八人は、ただ祈った。
 彼らと同化している魂や、共に戦ったデバイスたちも祈り続けた。
 このままでは、数々の人々が、数々の死者が、美国織莉子が、吉良沢優が、インキュベーターが、動かしてくれたこの船が沈んでしまう。

 運命は、彼らだけの力では不足だというのか。
 このまま辿り着かなければ、その全てが無駄になり、同時に、全てが終わる。
 ここにいる者たちが最期を迎えた時、遂に世界の希望は潰えてしまう──。

(──届け!!!!!!)

 ──そして、その時である。



『──』

『──!』

『──!!』



 彼らの耳に、幾つもの────「声」が聞こえた。



 この時空の狭間には、無数の世界や宇宙──あるいは時空に繋がる扉が存在している。
 それらの扉から、無数の声と、そして力が一陣の黄金の風となり、彼らのもとへと寄り集まっていったのである。
 彼らに力を貸す意図もなく──ただ、混ざり合って風となって。

『──蒸着!』

 なにものか、の声。

『赤射!』
『ムーン・プリズムパワー・メイク・アーーーップ!!』

 ……それは、無数の時空に存在する彼ら以外の変身者の声に違いなかった。
 遠き日、その変身者たちの姿を見守った子供たちならば、その声を聞き分け、それが誰の言葉であるかも、きっと思い出す事も出来るだろう。

『焼結!』
『デュアル・オーロラ・ウェーーーブ!!』

 その変身者たちが発した魔法、科学、超能力など……あらゆる形で発現された変身エネルギーの塊。ベリアルさえも利用の方法を模索し、首輪という媒体を使わなければ得る事が出来なかった膨大な力たち──。
 それが、彼らの船を包み、巨大な追い風へと変わっていったのである。

「!?」



 ──この戦いの為に利用された、「変身エネルギー」たちである。



「これは……」

 それは時に正義の力となり、時に悪の力となる。
 それを使うのは使い手次第。
 ガイアメモリが仮面ライダーにも、犯罪者にも使われたように。
 光の巨人を模したウルティノイドがダークザギとなったように。
 改造人間やテッカマンとなった者が時に本能に従順になり、時に理性で打ち勝ったように。
 同じ遺伝子から生まれた少女が光と闇に分かたれたように。──そして、それがある時入れ替わったように。
 使い手の心は、力の形さえも捻じ曲げる。
 善にも悪にも。光にも闇にも。



 ────そして、その力には決して罪はない。



『重甲!』『邪甲!』
『怒る!』
『風よ、光よ、忍法獅子変化!』『ゴースンタイガー!』
『チェインジ!スイッチオン!ワン、ツー、スリー!』
『大・変・身!』『アポロチェンジ!』
『ガイアーーー!』『アグルーーー!』
『『『『『クロスチェンジャー!』』』』』
『『『『『トッキュウチェンジ!』』』』』
『『『『『シュリケン変化!』』』』』
『瞬着!』
『凱気装!』
『ハニーフラッシュ!』
『ピピルマピピルマプリリンパ、パパレポパパレホドリミンパ!』
『パンプルピンプルパムポップン!』

 変身者たちの風の中には、時に冷徹な悪の戦士の声や、戦いを行わないただの魔法少女の声までも混じった。そんな混沌の理由を察する事は誰にも出来なかった。
 あらゆる時空から吹き荒れた「変身」の力には、意思という物はない。

 だが、強いて言うならば、変身者たちの意識のほとんどがベリアルを倒す方に傾き、善悪問わず──あの外道衆たちさえも含め──彼らに味方しようとしている想いが、こんな奇跡を起こしているのかもしれない。
 誰もが他者による支配を望まない。
 故に、それらは一斉に彼らに向けられて力を発していたのだ。

『まさか……』

 その果てにあるのがどんな目的であろうと、それは同じ「変身エネルギー」には違わず、そして、意思の伴わない力が偶然船に向けて放たれただけである。
 アースラに乗っていた者たちは、全員、目を丸くした。

「何だよ、これ……」
『絶えず吹き荒れる、善と悪の風だ……!』

 そう……かつて、翔太郎たちに力を貸した祈りの風は、決して正しい者たちだけが齎した物ではないのだ。
 はした金の為に争い合った者も、園咲家も、風都の仲間も……あらゆる人間の想いが寄り添い合う場所が「街」であり、「風」なのである。
 善と悪──人間が持つ二つの性質が混ざり合い、だからこそ巨大な風になりえた物だった。そして、それは今もそうだった。

 そう、世界には、絶えず善と悪の風が吹き続ける……。

「英霊たちの力……ってやつだな」
『ああ、俺がこれまで、色んな時空で共に戦った黄金騎士たちの力も少しだが感じるぜ』

 零とザルバもまた、冷静に力の正体を見極めていた。
 歴代の黄金騎士たちが、過去も、未来も、時空さえも超えて、文字通りの「力」を届けている。──それをザルバは感じ取っていた。
 その称号を受け継ぎ続ける彼らだからこその直感であろう。

「──変身という“力”そのものが……何かを変えようとする“力”が、私たちを、導いてくれているんですね……!」

 それを起こしたのが誰であろうと関係はない。
 彼らに力を貸す事が出来るのは、この時、個々人の思想ではなく、共通の「エネルギー」だったのだ。
 それが最後のパーツとなって、エンジンは動いて行く。
 徐々にプロペラが回っていくように、アースラも再び飛び上がっていった。

『みんな、遂に辿り着けるんだ……! 世界中の人の祈りを背負って……僕達は!!』

 そして──そんなフィリップの声を聞いた後、彼らの意識はだんだんと曖昧になっていった。
 次に目覚めた時、彼らにとって、無数のヒーローの声が真実であったのか、夢であったのか、既にわからないほど、遠い記憶のような出来事に思えていた。
 変身エネルギーの概念を詳しく知らない彼らには些か、その原理がわかりかねる物であっただろう。
 だが、結局のところ、どちらであれ──彼らは、世界の節々で繰り広げられていた自分たちと同じ境遇の者たちの力を感じて、再び殺し合いの世界に突入する事になった事実は変わらない。



 ────そう、彼らの行き着いた先は、かつて殺し合いの舞台となった場所だった。


 そして、彼らがそれを変えようとする場所だ。






 ──変身ロワイアルの世界。
 加頭順が城の上から眺めていた空には、アースラの半身が浮かび始めていた。
 頭上に出来あがったブラックホールにその先端を突っ込もうとしている巨大な戦艦を眼に焼き付ける。
 粒子に消えながらこの世界に突入するアースラの最期は、今まで見たどんな満月や流星群よりも美しい光景だと、加頭は思った。
 いや、この言い方は妙か。……初めて「美しい」と思った光景だと言っていい。景色や世界の色使いに感動する気持ちが少しわかった気がする。
 散華の美、とでも言おうか。

 ──どうやら、彼らを妨害する事は出来なかったらしい。

 ……となれば、結局、やはり、直接、戦闘によって勝ち得るしかないわけだ。
 この手で敵と渡り合う。
 どの道、あのアースラは消えてなくなるのだ。今更、労力を割いてまで撃墜する必要はない。

 加頭はここで、彼らとの最後の戦いを待つだけだった。
 降り立った彼らを真正面から向かい打ち、そして勝てるだけの実力が今の自分にはある。卑怯な手は使わない。使う必要はどこにもないからだ。
 昨日までとは違う。新しい力が己に味方した以上、手負いの彼らくらいはきっと越えられる。──そんな自信があった。
 己の手に固く握ったユートピアのメモリを一瞥し、加頭は微笑んだ。

「……来い。貴様らの最後を見届けてやる」

 ああ、そして、彼らに──ガイアセイバーズに風が吹くのは、加頭にもわかっていた。
 そう、今は彼らに追い風が吹いている。外からの力がこちらへと戦士を誘ったのだと。

 しかし、この世界に立ち入ったからには、その風は突如、反対に吹いてもおかしくはないという事である。
 冴子と暮らす為のこの世界を守るのが、加頭の最後の役目だ。
 その役目の為にも、今度は逆風に変わってもらわなければ困る。
 いや、自分自身のこの手で変えるのだ。──それこそが、加頭順として証明する冴子への最大の愛であり、最も価値のある婚約指輪になるだろう。
 加頭は強く拳を握った。

「この世界から……排除する! ガイアセイバーズ!」

 ガイアドライバーに周囲の「闇」が吸収されていく。
 貯蓄された闇は更に加頭の感情を刺激し、彼の身体を強化し、NEVERに要される酵素に近い生命の延長を計った。
 ベリアルが彼に与えた力が覚醒し、新たな力が「起動」し始める。






 ──仮面ライダーの世界。
 ──プリキュアの世界。
 ──魔法少女の世界。
 ──テッカマンの世界。
 ──らんま1/2の世界。
 ──魔戒騎士の世界。
 ──ウルトラマンの世界。

 ──スーパー戦隊の世界。

 あらゆる者が、戦いの終わりを見守った。
 たとえ、ベリアルほどの実力を持つ者たれども、今この時ばかりは、彼らに戦いの行く末を任せるしかない。
 大人たちもまた、子供のような心を胸に、勇士が立ち上がり、関門に辿り着く姿を見守り──その勝利を祈った。

「──やっとたどり着いたか。てめえらも」

 この世界に住む血祭ドウコクは、少しばかりその中では異端だった。
 六門船の揺れる船の上で、三途の川面に浮かんだ映像を、骨のシタリと共に眺めて、彼らが辿り着いた事実をさも当然のように受け入れ、そして、そこにガイアセイバーズがいるかのように、彼は呟いた。
 シタリは、彼の方をちらりと見る。

「見せてみろよ……。──貴様らが勝つ姿を」

 血祭ドウコクの言葉を聞き、その横顔を眺めた後で、シタリは再び、何も言わずに三途の川の方に視線を落とした。
 彼が今、こんな事を言う友人を見て何を想ったかはわからない。
 ただ、シタリもこんなご時世、ドウコクと同じ物を観たがっているという事だけは同じだった。






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最終更新:2017年07月02日 08:52