BRIGHT STREAM(5) ◆gry038wOvE




【急】




 いよいよ以て、遂に──管理システムを襲撃した全ての怪人が、闇の欠片たちとの協力により、全滅に近づいていた。
 時空魔法陣が呼び寄せる怪人たちもだんだんと数を減らしている。
 アースラ側は、敵の制圧を確信し始めていた。つい一時間前まで、敵がここまで減少している事など信じがたい話だったであろう。これも、闇の欠片という聖遺物の助けがあったお陰である。生前の能力と最後の意思をそのままに宿した彼らの記憶のコピーたちは、今なお、残る敵勢力たちを叩き潰していた。

 だが、同時に、「何故、闇の欠片がここに現れたのか」という疑問も生じる。
 それは別に、アースラ側で手配した物というわけではないらしく、おそらくはニードル側の差し金だ。──ニードルたちは何故、そんな物をわざわざばら撒き、「自分で放った怪人たち」を倒させているのか。
 それは、本当にニードルらしい一つの遊び、なのだろうか。
 それにしては、どうも引っかかるというのが、一部の人間の本心であった。

 そんな時だ。
 そこにいた者たちが何となく忘れかけていた脅威が、彼らの視界に見え始めたのは──。

「奴は……」

 一方的に侵入者を制圧していく戦闘を行っていたエターナル──良牙は、その存在にいち早く気づいた。
 目の前の敵の顔面に拳をめり込ませながらも、彼の視線はその怪物へと向かい始めていた。──友人の仇とでもいうべき、その怪物に。
 だが、それを見た瞬間に彼が感じたのは怒りよりもまずは恐怖に類する感情だった。
 やはり……やはり彼らもいたのか。
 ──そう、もしかすれば、それこそが、自らに敵対する参加者全員を足して、余りあるニードル側のメリットであったのかもしれない。

 四本角。白い体に金の装飾。
 表情さえ視えない、その能面のようなマスク──。

「──」

 管理中枢へと歩みを進めるのは、ン・ダグバ・ゼバであった。
 そして、彼と共に真横を悠々と歩くのは、ニードルだ。まるで付き添うようにダグバの隣を歩いている。何より、彼が隣にいるダグバの事を全く警戒していない事が最も不気味であった。
 ダグバというのは、容易く手なずけられる生物ではない。
 だが、ダグバは一切、ニードルに手を出す様子はなかった。

「ぐっ……グアァッ……!!」

 ダグバが目の前に掌を翳すと、その場に蠢いていた残りの怪人たちに向けて炎を発し、一斉に葬った。超自然発火能力だ。これによって怪人たちは焼けただれ、泡となるか、あるいはただ次元のどこかに消滅した。
 全ての怪人たちが、自らを前には用済みとばかりに彼の前から姿を消していく。──味方とは思えないほどの残虐性であった。
 その場にいた者たちが息を飲み込んだ。

「──」

 誰もが、怪物の再来に気づき、その重大さを理解した。
 いや、それが、「ダグバだけ」ならばまだ良かっただろう。
 更に、そのダグバに加え、ガドル、ガミオと、三体の究極のグロンギが肩を並べて歩いている。本来協力しえないはずのグロンギの怪人たちだ。

「……三体も!」

 それも、どう考えても並び立つ事のありえない「王」の群れである。
 ダグバ、ガドル、ガミオ……いずれも、参加者たちを苦戦させた強敵だった。ガドルに敗れたガミオですら、何人もの集団でかかって遅れを取る程の力を持つ。

「──ダグバ、それにガドル……! 遂に来やがったか」

 そんな異様な光景に、翔太郎は──ジョーカーは、まるで待っていたかのように言った。
 待っていたかのように……と言うと、それこそ待ち望んでいたように聞こえるが、ジョーカーが彼を待っていたのは、蘇っているならば早々に葬りたかったからだ。
 もし倒さなくて済むならば、それこそ蘇らなければジョーカーの望むパターンである。
 逆に、ガドルやガミオまでも引き連れて現れるというのは、考えられる限り最悪のパターンであると言っていい。

「こいつら、まるで意思が感じられない。ニードル……! お前の仕業か……!?」

 零が強い口調で訊く。
 ──この三体のグロンギの王には、邪気さえない。あるいは、良牙が感じる事のできる「闘気」と言い換えてしまってもいいかもしれない。特に強いそれを発するガドルでさえそれを発さないという事を、零と良牙の二人はただ不気味に思った。

「……ええ。全て、私の仕業です」

 ──そう、ニードルが、針を利用して彼らを操っているのである。闇の欠片といえど、彼の洗脳から逃れる事はできなかった。
 そして、洗脳効果が有意に発動した場合、最も心強い味方であるのは彼らだ。ンのグロンギに比べれば、残る敵で脅威となる者は少なく済む。

「死者まで甦らせて、何のつもりだ? どんな野望だろうと、俺たちが必ず打ち砕いてみせるぜ!」
「そのつもりのようですね。しかし──」

 すると、ニードルは頬を引きつらせ、不気味に笑った。
 心底おかしいというよりは、まだ余裕を残した笑みのようでもあった。

「──その程度の戦力で彼ら三人を再び倒すというのは、少し骨が折れるでしょう?」

 ニードルの余裕は、グロンギ三体の力と目の前の戦力を比べた時に必然的に起こる物だと言ってよかった。
 この三人ならば、ここにいる者たちを一掃できると信じ込んでいるのだろう。
 実際、これまで何人もの参加者が束になって倒す事ができなかったダグバやガドルが無傷でここに現われれば、ニードルの言うように相当骨が折れる話かもしれない。魔戒騎士の最高位ですら、苦戦した相手なのだから。
 そして、これがもし、一対一の戦闘ならば、尚更、別だったかもしれないが──改めてこう言われると、その場にいる者たちも苦笑せざるを得なかった。

「その程度の戦力、か……」

 この場にいるのは、ジョーカー、1号、2号、ライダーマン、スーパー1、ゼクロス、クウガ、エターナル、ダミーなのは、シャンゼリオン、ガウザー、零、キバ、ガロ、ウエスター、サウラーのみだ。
 贔屓目に見ても、ガドル、ダグバ、ガミオに勝ち星をあげられるほど、人が揃ってはいないだろう。
 三体の敵はまだ傷一つない真っ新な状態である。こちらも深刻な傷こそないにしても、やはり疲労状態にある。

 だが──。

「……やっぱり、 “この程度”の戦力じゃ歯が立たない相手だったかな? お前らは」

 ニードルに対する、ジョーカーの言葉は、挑発的だった。
 それは根拠のない自信ではなく、聴覚を頼った明確な根拠による自信の芽生え。
 彼の聴覚が既に、ここにやってくる新しい仲間の足音を捉えていたのだろう。
 やがて、ジョーカーだけではなく、そこにいる全員の耳に足音が聞こえ始めていた。

「来るぜ……」

 だんだんと、どこかから聞こえる足音が大きく重なり始めてきた。確かに、ばらばらな足並みがこちらへ近づいて来る。──そして、そうして近づいて来るのは、四人や五人の足音ではない。
 まるで数百人の軍隊のようだが──それにしては纏まりがない音だった。ただ、彼らに唯一共通しているのは、ただ黙ってそこに向かっているという事であった。

 可憐なフリルの衣装に身を包んだ少女。
 悪魔に乗っ取られた心に再び光に灯せた怪人。
 この世界の科学が得ていない「魔術」で装甲を作りだした男女。
 文字を操る侍。
 不幸な偶然により望まぬ戦いを行う宿命を追った超人。
 ただの格闘少年。



 ────そう、それは殺し合いの参加者たちだ。



 その音を鳴らしているのは、この艦内に乗り戦い抜いてきた者たち、この艦に放たれた闇の欠片たち。そして、いずれも──味方であった。

「──みなさん、少し遅れてしまいました。すみません」

 ジョーカーたちの元に辿り着いたその群れの中央にて、そう告げたのは高町ヴィヴィオであった。
 ヴィヴィオ、ブロッサム、杏子、はやては勿論の事──そこには、プリキュアも、魔法少女も、魔導師も、仮面ライダーアクセルも、仮面ライダーエターナルも、ドーパントたちも……皆、揃っていた。
 ヴォルケンリッターや、元ナンバーズの人員らも、格闘家も、仮面ライダーも、テッカマンも、シンケンジャーも、それに続いている。
 戦死者は、ない。

「──再会の挨拶もしたいけど、どうやら後にしなきゃですね」

 この艦を守り抜いた軍勢は、誰一人欠ける事なく、この場へと揃ったわけだ。
 その中で強いて欠けたといえるなら、ノーザと、アクマロと、ゴオマと、井坂と、十臓ほどだろうか。どうやっても相容れない者が若干名現れるのもまた致し方ない話であろう。
 外道シンケンレッドとして生きている志葉丈瑠や、ニードルにとっても厄介だった三影英介なども除外されている。

 ──が、参加者の大半は、彼らの味方となったのであった。
 大道克己、泉京水、バラゴ、黒岩省吾、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、月影ゆり、ダークプリキュア、パンスト太郎、溝呂木眞也、相羽シンヤ、モロトフ……そんな、これまで肩を並べて戦う可能性が薄かった参加者までもだ。
 単純に心を入れ替えた者もいれば、ベリアルに敵対する意思が強い者、戦う相手としてより強い側と推定される「ベリアル」を選択し快い戦いを求めた者もいる。
 ニードルは、眼鏡の奥で瞳を光らせる。

「なるほど……。やはり、闇の欠片をばら撒いたのは正解だったようですね。贋作といえど、これだけ強い生命力があるならば、後は──」
「何? この状況で何を言ってやがる?」
「──まあ気にしないでください」

 だが、そんな時、闇の欠片たちの中から、一人が前に出て、声をかけた。
 それは、赤いマスクの仮面ライダーである。──忍者の仮面ライダーゼクロスだ。
 少しばかりエターナルよりも大型に見えるゼクロスに一度は威圧される。──考えてみれば、彼にとって「仮面ライダーエターナル」とは、最後に命を削り合った敵対者の姿だ。
 どんな言葉をかけられるかと思ったが、彼は中が良牙だと気づいているようだった。

「おい、ニードル……いや、ヤマアラシロイド。そろそろ観念した方がいいと思うぜ。──な? 良牙」
「お前……まさか、良か?」
「ああ、俺の名は村雨良──又の名を、仮面ライダーゼクロス!」

 ニードルの属するBADANと戦うはずだったのが彼だ。
 記憶喪失で感情が薄かった良は、今ではすっかり記憶を取り戻し、陰のない陽気な好青年となっている。僅かに良牙のイメージする彼とは違っていたが──いや、これこそ本当の彼なのだ。
 そして、たとえ姿は変わったとしても、根底は同じだ。
 ニードルたちを絶対に倒すという意志が彼にはある。

 いや──それを言うなら、「彼らには」か。



「──ガイアセイバーズを甘く見るなよ!」



 ゼクロスのその言葉を合図に、総勢、八十名以上の戦士が身構えた。ある者は変身のポーズを、ある者は名を名乗る時のポーズを、ある者はただ純粋に銃の照準を合わせ、ある者は自分流の格闘技の構えをした。
 仮面ライダー。
 ウルトラマン。
 プリキュア。
 魔戒騎士。
 魔法少女。
 魔導師。
 ただの人間。
 彼らは今、この大集団ガイアセイバーズの一員として名乗りをあげる。
 もはや、そんな姿には、ダグバ、ガドル、ガミオの三人の番人も些か頼りなさすぎるほどだ。──あれほどの強敵が、こんなにも矮小に見える。
 生還者たちに最後に齎されたのは、死者による希望であった。

「アアアアアウォォォォォォォォォオオオオオンッッッ!!!!!!」

 ダグバが掌を翳す。
 ガドルが構える。
 ガミオが吼える。
 そんな動作も──まるで恐ろしくない。
 ニードルは尚も、その後ろでポケットに手を突っ込んだまま、敵を見つめ続けた。

「……そうですね。甘く見たかもしれません。……ただ、そろそろ始まる頃合いでしょう」

 呟くようにニードルは言う。
 そして、臆する事もなく、彼は振り返り、歩きだした。
 彼の行く手には何もない。──しかし、彼は何処かへ向かっていこうとする。

「私はダグバ、ガドル、ガミオ……しばらく彼らと遊んでいなさい」
「待て、ニードル!」

 だが、ニードルの命令を聞きいれたグロンギ怪人は、マシーンのように目の前の敵対者たちを狩ろうと動き出し始めた。前に進もうとした良牙たちであるが、その前を三人は阻んだ。
 ──ダグバが目の前に炎を発生させる。紅煉が床や壁に広がる。
 最前線にいたキバやガウザーにもその炎は燃え広がる。彼らの身体が一瞬で大火に包まれた。

「──くっ!」
「援護するッ!」

 だが、彼らが熱いと感じるよりも早く、シンケンブルーが「モヂカラ」によって水を注ぎこんだ。水流が弾け、この場を燃やし尽くそうとした焔は一斉に蒸発し、煙となる。

「ガァッ!」

 ──ダグバの側方に立っていたガドルとガミオが、隙もなく駆け出した。
 凶暴な爪をいきり立て、ただ前方の敵を狙い、その胸元を抉ろうとする二体のグロンギ。
 しかし、そんな二人に向けて、前線の者たちの背後から、同じように向かっていき、彼らにパンチを叩きつけた者がいた──。

「ハァッ……ッ!」
「フンッ……ッ!」

 ウルトラマンネクサスとダークメフィストであった。
 グロンギの腹部に叩きつけられるウルトラマンたちの拳。──それは、敵の腹の上で跳ねる。
 姫矢准と、溝呂木眞也──。
 仮面ライダージョーカーや杏子の呆然とする姿を置いて、彼らはグロンギの怪物たちに向けて同時に膝蹴りを叩きこんだのだ。
 彼らは、償いの為に──いや、たとえ償えたとしても。
 ──彼らは、その身が戦える限り、闇と戦う。

「おおりゃあッ!!」

 アメイジングマイティフォームに変身した仮面ライダークウガが飛び上がり、ダグバに向けてパンチを叩きこんだ。
 それはまぎれもない五代雄介の姿──彼の戦う様を見て、思わず良牙は後方を振り向いた。五代と縁のある参加者というのを一人知っていた。
 そう、五代を殺した少女──。

「──」

 すると、おそらく、彼に「許された」であろう少女がエターナルに頷く。五代が許さぬはずがなかった。何せ、最後まで彼女をかけていたのだから。
 そして──彼女も、美樹さやかもまた、溝呂木を「許した」のだろう。
 許されぬままだったのは少数の、正真正銘の悪徳の塊たち──今はそれを倒す為に全員が助け合うように戦っている。
 つぼみの言った「助け合い」が、もう始まりかけているのかもしれない──。

 そう、巡っていくはずの因果が断ち切られようとしている。
 誰かが我慢する事で──いや、誰かが許す事で、回り続けるはずの怨念の連鎖は断ち切られようとしているのだ。
 キュアブロッサムが、かつてキュアムーンライトに言ったはずの言葉を思い出し、ぐっと唾を飲み込んだ。

「サカナマル!!」
「バルディッシュ!!」
「ロープアーム!!」

 あらゆる攻撃が三体のグロンギにぶつけられていく。
 この艦を守る為の最後の仕事としてか──、彼らはひたすらに拳を握り、武器を取る。
 ほとんどの攻撃はグロンギたちには効いていなかった。──しかし、それらが微弱ながらも彼らにダメージを与える。
 それを繰り返せばいいだけの話だった。

「──猛虎高飛車!!」

 そして、その時、ダグバを攻撃する声は、まぎれもない早乙女乱馬そのものであった。
 エターナルは──良牙は、彼を見ながら呆然とする。
 かつて彼が戦ったダグバ……だからこそ、乱馬は己を勝負で圧倒した(敗れたとは口が裂けても言わないだろう)相手に、再度勝利を収める為に立ち向かっているのだろう。
 つくづく彼は負けず嫌いで恐れを知らない人間らしい……。

「──乱馬!」
「良牙、何やってやがる!! お前もさっさと手伝えよ!!」
「あ、ああ……!」

 死人の癖に、まるで普通に接してくる乱馬だ。
 彼がそう叱咤する声は確かに耳に入っていたが、嬉しさか、悲しさか、何かが邪魔をして良牙の身体を動かさなかった。
 しかし、闘志がないわけではない。ただ、彼の姿を見た時に何故か動けなくなった。
 この場で生還者たちの動きがどこか鈍いのは──彼と同じ気持ちかもしれない。
 誰もが、ここで戦う死者に知り合いがいる。そして、その人の死を受け入れ、今、また死者と別れようとしている。

「……」

 死人還り。──そう、儚い夢の如し。
 このただひとときの幻想の中で──動きが止まってしまうのも無理はないかもしれない。
 そんな時、良牙の前を、クウガと似た──しかし、微かに意匠の異なる戦士が横切った。

「……あかねさん」

 プロトタイプクウガの仮面に身を包んだ少女は、エターナルを見て立ち止まると、ただ、頷いた。そして、エターナルの前を通り過ぎて行った。
 彼女もまた──本当に、最後に良牙の名を呼んだように。
 この、僅かな命の再来の機会に、罪を償う為に──。

(これが最後のチャンス、か……)

 そうか──。
 これが、乱馬たちと共に戦える最後のチャンスだ。
 乱馬とはまたいずれ、雌雄を決する時が来るだろう……だが、その前に。
 また、一度、パンスト太郎たちと戦った時のように──やってやる!

「猛虎高飛車!!」
「獅子咆哮弾!!」

 乱馬と良牙──二人の放った気弾が、ダグバの身を一瞬で包んだ。それは彼の放つ炎よりも速かった。
 強敵の体躯は、その二人の合わせた気弾によって、一瞬にして数十メートル後方まで吹き飛んだのである。

「────ッッ!?」

 正と負のスパイラルがダグバの身体に深刻なまでのダメージを与える。
 勝利への確信と、悪への怒り──この二つが混ざり合った結果であった。

「「「「「「「「「「プリキュア・ハートキャッチ・フォルテウェイブ!!!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「オールライダーキィィィィック!!!」」」」」」」」」」

 そんな強さを持って敵に立ち向かったのは彼らだけではない。──まるで圧倒的な力が壁を押しのけていくかのように、ガドルとガミオの身体も後退し、やがて誰かの手によってダグバのように遥か後方まで転げまわった。
 よもや、これだけの圧倒的な力があれば、あの三体を相手にしたとしても、ガイアセイバーズの勝利は確定的であるといえるだろう。
 一人一人では小さいとしても、これだけの数が一つになれば、もはやこれまでの強敵も敵の内に入らなかった。

「よし、今だ……! 全員の力を合わせるぞ!」
「みんな、エネルギーを結集させるんだ!!」

 仮面ライダー1号と仮面ライダー2号が叫んだ。
 ダグバ、ガドル、ガミオを除き、その場にいた全員が頷く。
 倒れたまま起き上がろうとするダグバ、ガドル、ガミオの目の前で、八十余名の人間が円陣を組んだ。
 ──そして、彼らの指示通りにそれぞれがエネルギーを解放し、叫んだ。





「「「「「「「「「「ヒーローシンドローム!!!!!」」」」」」」」」」





 邪を滅するべく心を一つにした彼らのエネルギーが解放される。
 仮面ライダーたちのタイフーンが回転し、魔を持つ者の魔力が湧きあがる。エナジーコアが激しく光、モヂカラは最大まで発動される。
 そして、オーバーヒートせんばかりの変身エネルギーや魂が渦を巻く。
 彼らが力を合わせる事により、全てのエネルギーが一つになり、巨大な力へと変わっていくのである。

 ──刹那。
 彼らを中心にして、艦内全てを包む巨大な光の風が駆け巡った。

「……ッ!!?」

 ダグバ、ガドル、ガミオは、光の風に触れた瞬間、自らの両手から粒子が上っていくのを垣間見た。──視界もぼやけ始めていた。
 攻撃は受けていないはずだ。
 だが、彼ら三人の身体は消滅を始めている──。
 全身の力が抜け、僅かな痛みがそれぞれの胸を引っ掻いた。

「……ガッ……ガァァァァァァァァァァァッ!!!」

 そして──、最初一瞬の堪えようのない苦しみと、最後一瞬の安らかな気持ちと共に、三人の身体は一斉に光へとあっけなく消えた。
 まるでそこには最初から何もなかったかのように。
 強敵たちの闇の欠片は完全消滅し、目の前に敵はいなくなった。
 彼らは、力の発動を終え、闇の欠片の浄化を確信する事になった。

「──やったぜ!」

 ダグバ、ガドル、ガミオの三体の怪人を倒した彼らの内、誰かがそう叫んだ。
 しかし、誰の言葉であれ変わらないだろう。
 残ったのは、勝者たちのサムズアップであった。






 ──そして、そんな時に、再び奇妙な邪魔が入り始めた。

≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫
≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫
≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫≪WARNING!!≫

不意に、また突然あの警告音が鳴り響いたのである。
 それは、ブリッジから発された警告──つまり、クロノ・ハラオウンによる物だろうと誰もが思った。テッカマンによる援護が功を奏し、ブリッジの状態も復元されていたのだ。

 しかし、何故今更こうして警告が鳴り始めたのだろうか。
 危機的状況は終わりを告げ、今更こんな警告を鳴らす必要はまるでないかに思われた。






 ──警告と共に、放送が始まった。
 それは、六時間に一度だけ殺し合いを誘発する悪魔の放送とは違う。ここに搭乗している者に、安全を──そして、脱出を促す為の声である。
 ブリッジからの通達であるが、その放送を担当した人物の声に、ヴィヴィオや翔太郎は少しばかり驚いた事だろう。

『──乗員のみんな、よく聞いてくれ。この艦の存在が消滅し始めている!』

 吉良沢優の声であった。
 クロノもおそらくその場にいるはずなのだが、放送の声はまぎれもなく、あの殺し合いの主催者側に協力した吉良沢である。そういえば、翔太郎は──「艦が沈む」という予言を彼から聞いていたのを思い出した。
 こちらが優勢に立ち、すっかり失念しかけていたが、考えてみれば、この艦が沈められるリスクがあったという事。
 それと何らかの関係があるのではないかと翔太郎は勘ぐる。

『この艦がこの時代で再び存在していたのは、高町なのはたちの「過去の死」が原因だ。……だが、ここで彼女たちが生命力を発揮しすぎた。──そんな彼女たちの存在がこの世界線上に認められ、同時にこの艦が消えようとしている』

 人々の視線は、なのはに向けられた。──彼女に限らず、フェイト・テスタロッサやユーノ・スクライア、スバル・ナカジマやティアナ・ランスターも同じなのであるが、こうして名指しされると、皆そちらに目をやってしまう。

「えっ……?」

 当のなのはも全くの無自覚であった為に、そう言われてもどうしようもなかった。
 ただ、レイジングハートを握りながら、当惑するのみである。
 自分が現れた事が原因──と言われても、それはどうしようもない話だ。闇の欠片として再誕した者は、当然ながら自分の境遇と照らし合わせ、彼女を責める事は出来なかっただろうし、なのはの仲間が多くいるこの艦の人間も同じく彼女を責めなかっただろう。
 この艦自体が、元々、彼女のお陰で保たれたようなものなのだから。

「まさか……ニードルが闇の欠片を使ってなのはたちのデータを再生したのは──」
「そうか……この艦の存在を消滅させる為の作戦の一つだった!」
「闇の欠片そのものが、ニードルによる妨害工作だったんだ!」

 そんな誰かの言葉で、ニードルがわざわざ闇の欠片を使った事の真意の一部を汲み取った。彼にしてみればゲーム感覚でもあったのだろうが、それに限らず、彼は着実にベリアルの側に利益を齎している。
 なるほど、闇の欠片騒動や怪人騒動は囮であり、それによって艦を沈めるのが狙いの一つだったのだ。

『──この艦は間もなくここで消滅してしまう。載っているみんなは一刻も早く脱出を! 外の世界の救援が間もなくそちらに向かう』

 放送はそれで終わり、警告音も止んだ。
 ただ誰もが呆然と立ち尽くすのみであった。──この艦が消える。
 そうなれば、ベリアルの世界へと向かう術はなくなってしまう。ディケイドたちが個人の力で開く事はできない。
 いわば、この艦こそが最後の要なのだ──。
 そして、その連絡とほとんど同時に、もう一つ不測の事態が発生しようとしていた。

「……えっ!?」

 ──それは、まさしく不意のタイミングだった。
 かねてより言われていた事であったが、よもや、この艦が消滅すると同時に──。

「アインハルトさん……!?」
「ヴィヴィオ、さん……」

 ヴィヴィオの前にいる者たちの身体が、だんだんと粒子の粒になっていた。粒子の粒は、滴が逆さに上るように空へと舞い上がり、彼らの頭上で消えていく。
 そうだ、先ほど倒されていった敵たち──ダグバ、ガドル、ガミオもそうであった。
 いわば、それは彼ら、「闇の欠片」が消える前の合図──。
 まるで、祭りの終わりが近づいてきたような感覚だ。

「……まさか闇の欠片が──消滅し始めている……?」

 ──アースラの消滅とほとんど同時に、そこにいた闇の欠片たちも自動的に消滅を始めようとしていたのである。
 そう、確かに──闇の欠片にも限界がある。
 しかし、まさか、この瞬間に来る事になるとは、誰も思いもよらなかっただろう。

「そんな……!?」
「────時間だ」

 割り切ったように、エターナル──大道克己がそう言った。
 そして、彼らの誰も、自身の身体と心がここから先、遂に消えてしまう事への恐れが、全くないかのようだった。
 死神の代表格としてここに支援を行った彼であるが、どうやら、もう消え時のようである。
 すると、誰かが言った。

「そうか……短い間だったが、また、共に戦えてよかった。俺たちの誇りだ」
「みんな、必ず悪い奴らを倒してね!」
「元気でな、元の世界に帰ったらあいつらによろしく頼むぜ」
「大丈夫です、私のせいで艦が沈むって言ったけど……この艦は沈みません!」

 五十人以上の言葉が、同時に重なった声──それを全て聞けるはずもない。
 だが、それぞれが言いたい事は誰にもわかった。「ベリアルを倒してほしい」、「共に戦えてよかった」、「元の世界の仲間を頼む」──まるで寄せ書きのようだ。円になっている字面を見れば、だいたい何が書いてあるのか予想もついてしまうほど単純な言葉で飾られるが、その言葉の一つ一つが胸を打つ、そんな感覚。
 それでも、そんな寄せ書きを遮り、誰かが口を開いた。

「──待って!」

 ヴィヴィオだ。彼女の闇の欠片たちを呼び止める声が響いた。
 彼女にもまだ、挨拶をしたい人がいる──。たくさんの人に何かを伝えたい。
 だが、それが出来る時間は残されていなかった。

 ヴィヴィオが手を伸ばすと、その先には、消えゆく人たちの──変身を解除した際の、人間としての笑顔である。
 彼らは生者を見送ろうとしていた。

 ──そう、そこにあるのは、五十名の笑顔。

「あっ……」

 そして──、次の瞬間、闇の欠片たちは、一斉に泡と消える。狭かったその場所が、あまりにも大きく、広くなった。
 ──ヴィヴィオの手は空を掴んだ。あまりに儚く。
 残ったのは、左翔太郎、響良牙、高町ヴィヴィオ、花咲つぼみ、佐倉杏子、涼邑零、涼村暁、レイジングハート、八神はやて、ウエスター、サウラー……それから、残りのクルーたちだけだ。

「そんな……」

 敵がいなくなり、味方もいなくなった場所は、まるで全ての屋台が片づけられた祭りの跡のように広々としていた。手を伸ばしても誰のぬくもりにも届かない。
 せめて、告げたかった別れの挨拶も結局告げる事はできなかったのだ。
 何かを返す事はできなかったのだろうか──。

「……!」

 だが──「闇の欠片」の想いは、決して、それだけに終わらなかった。

「これは──」

 次の瞬間、分解した闇の欠片は、一つの場所に自ずと集合して、一筋の風として吹き始めたのだ。
 それは、空中で八俣に分かれ、レイジングハートを含む八人の身体に結合した。
 まるで意思を持っているかのように、ただ正確に生還者にだけ力を託していく。

「まさか……闇の欠片が……俺たちに……風を……!?」

 仮面ライダージョーカーのロストドライバーに闇の欠片が遺した力が注ぎ込まれる。
 ジョーカーの全身が突如として光り始め、やがて、彼の身体はだんだんと、別の姿に変わり始めていた。
 そう、これは八人を支える為に闇の欠片が与える最終決戦の為のエネルギーであった。
 黄金の風となった死者の魂である。
 全員の身体に、闇の欠片の最後の意思が宿り始めていたのだ。

「鋼牙の金色……そして、キバの魔の力……」
『そうか、キバの奴……お前に最後の魔力を託したんだ! これで今のお前は魔力が切れるまでは、無制限に鎧を装着できるぞ!』

 零の双の魔戒剣に、それぞれ、「金」と「黒」の力が注ぎ込まれた。
 一方は、光の力──黄金の風、そしてもう一方は、陰我と闇の力──黒い炎。
 この二つが絶えず吹き荒れ、騎士とホラーとの戦いが生まれる。そのいずれもが、零に力を与えているという事か。

 ならば、この鎧を装着する時が来たようだ。
 ──零は、頭上に魔戒剣を二つ並べ、それで魔界に繋がる円を描いた。
 彼の真上に、天使たちが鎧を運ぶ。銀色のパーツを零の身体に装着し、黄金の力と魔の力とが、彼の鎧に重なった。

──黄金・絶狼!!──

 そう呼ぶに相応しい、黄金の光の力を借りた新たな銀牙騎士・絶狼がここに誕生する。

「スーパープリキュア……!」

 キュアブロッサムの身体を包んだのは、再びのスーパープリキュアの勇姿であった。デバイスの力を受けてただ一度だけ変身したこの姿であるが、どうやら、本当のプリキュア並の力が彼女に向かっていったらしい。
 プリキュアたちの力を借りたがゆえに──そして、杏子にもまた魔力が取り戻っていた。
 ガイアポロンにも、レイジングハートにも、同様に注がれる力──。
 そして。

「ゴールドエクストリーム……!」

 ジョーカーの身体は完全な進化を遂げたのだ。
 ジョーカーではなく、仮面ライダーダブルの姿に──その背には金色の羽根が生え、半身が緑色の風の力に包まれている。中央には金色のクリスタルサーバーが出現していた。
 かつて、風の力を借りて変身した仮面ライダーダブル最強の姿なのである。
 しかし、そこには、「ダブル」を構成する相棒がいない──

『──やあ、翔太郎』
「フィリップ……?」

 ──はずだった。
 それでも、確かに翔太郎の元には、今、フィリップという相棒の声が届いた。
 幻聴であろうか? と、周囲をきょろきょろと見回すダブル──杏子が、呆然としたままこちらを見ていた。
 いや、しかし、そうではなかった。次の瞬間、確かに、右目が光り、仮面ライダーダブルの口からは、フィリップという少年の声が聞こえた。

『今度の僕は、闇の欠片が作ったデータの結晶だ。──ただ、肉体は無いから、いつかみたいに変身を解除したら僕も消えてしまうけどね』
「フィリップ……本当にお前なのか?」

 そう問うと、ダブルの中に存在する少年は答えた。

『ああ。最後だけ、また力を貸すよ。だって、僕達は──』
「……ああ。ああ、お前がフィリップなら──言わなくてもわかるぜ。──そうだよな……! やっぱり、俺たちはこれでこそ……二人で一人の仮面ライダーだ!」

 照井、霧彦、克己、京水……四人との別れを終えた後の翔太郎の口調はどこか寂し気でもある。これがまた、最後の仮面ライダーダブルとなる事を知っているからだ。
 見下ろせば、やはりそこにあるのは幻のように儚いエクストリームメモリの姿と、ロストドライバーには欠けていた「右側」が再構築されている。

「金の腕のエターナル、か……! やっぱり、あいつらが力を貸して……!」

 仮面ライダーエターナル、響良牙の両腕は、金色に変わっている。
 言うならば、それはただ一人、良牙だけにしか変身できないエターナルの姿であった。
 赤き炎は青へ、青き炎は黄金へ──そう、ゴールドフレア。
 その瞳に輝いている色と同じであった。

「凄い……パワーが溢れてきます……! それに、みんなの想いを感じる……!」

 ヴィヴィオが両腕を見つめる。
 自分の中にかつてないほどの力を感じた。──そこには、アインハルトや、高町なのはや、フェイトや、ユーノや、スバルや、ティアナや、乱馬や、霧彦や、祈里たちの力が込められているような気がした。
 ただ一度だけ、世界を救う為にあらゆる物が力を貸してくれている。
 ベリアルを倒し、今度は殺し合いではなく、助け合いの世界に変身させる為に──。

「──まさか、あんたたち、脱出、せんのか?」

 警告音をバックに、はやては、不安そうに訊いた。
 今、彼らの元に力が宿ったのはわかっている。だが、だからといって、この艦にいれば、ベリアルの世界に辿り着く事もなく、次元の狭間に置き去りにされてしまうかもしれない。何せ、この艦はこのまま消えてしまうのだ。
 生還者たちは、お互いに顔を見合わせた。──それぞれの決意は固まっているが、誰かが別の解答を望んでいるならば、巻き込むべきではないと思ったのだろう。
 だから、八人は、全員、残る七人の顔色を見た。

「……」

 しかし、あくまでそれはちょっとした確認であった。
 既に、お互いが何を考えているのかは、誰にでもおおよその察しがついている。──そう、ここしばらくの戦いや冒険が互いのパーソナリティをしっかりと教えてくれた。
 真っ先に口を開いたのは、ダブルであった。

「ああ……俺たちは、この艦に最後まで付き合う。今は、ディケイドの力じゃベリアルの世界に渡れない……アースラじゃなきゃ渡れないんだろ?」

 その通りである。
 生還者が世界を渡る方法は、今のところ、これしか見つかっていない。例外的に存在するのが、時空を超えられるウルトラマンゼロと合体し、参加者の「変身ロワイアルの世界に行ける力」と、ゼロの「時空を超える力」を相互的に補完する方法だが、これも既に不可能だ。
 ディケイドやラビリンスの人間のように、ただ世界を越えられる力を持っていても意味はない。
 最後に賭けられるのは、こうしてこの艦に残り続け、ベリアルの世界に向かう事。
 出なければ、どちらにせよ宇宙は消滅し、すぐにでもお互いが消滅してしまう。

「──そうですね。この力を無駄にするわけにはいかないですし」

 ヴィヴィオが、力強くそう言った。
 おそらく、この力が彼らにあるのは一時的な奇跡のような物だ。長くは続かない。
 仮に一週間以内に再び別の艦が来るとしても、この力を使う事は二度とできなくなってしまうだろう。
 折角得た力を無碍にしてしまうわけにもいかない。

「言った通り。この艦は、フェイトやユーノが力を貸した艦だ。きっと、あたしたちを最後まで乗っけてくれる」

 杏子がそう言った。
 いま名前を出した二人にまた会い、──そして、許しを得た為か、彼女の心は晴れやかだった。

「そうか……。それなら仕方ないな」

 はやても、彼らを自らの元に連れて行く事は出来なかった。
 それはある種、冷酷な事でもあるのだが──その判断が、指揮官として正解であるのも彼女は理解していた。
 彼女たちを異世界に連れていける方法はこの艦しかない。そして、彼女たちが戻ったところで、彼女たちを異世界に連れていく方法は心当たりもない。
 いつ沈むかわからない泥船であっても、彼女たちをこの船に乗せて送るのが正しい手段なのだ。──それでも、はやては、今度は、先ほどとは逆に彼女たちを連れ戻したいと思っていた。
 しかし、いま、はやてはその考えを続けるのをやめた。
 この賭けこそが、彼女たちの方が選んだ選択なのだから──。

 その時であった。
 今度は、備え付けられたスピーカーから声が聞こえる。

『──君たちの覚悟を受け取った。この艦は目的地まで辿り着かせる。……そう、僕達が運命を変えてみせる』

 吉良沢は、こちらを見ているのか、そう放送したのである。
 生還者八名は、その言葉を聞いて、頷いた。──吉良沢優を知っている者もいれば、知らない者もいる。しかし、それが味方であるのは誰にもわかっただろう。

 やがて、はやてたちの元に、ある男──オーロラを使って異世界を繋ぐ事ができる男が現れ、ベリアルの世界に耐性のない者たちだけを、安全な異世界へと運んでいった。
 そうして、遂にこの艦に残ったのは僅かな人間だけになった。
 たった八人の生還者と、これまで主催を補佐してきていた者たち──。
 彼らには余りにも広すぎる。

 しかし──目の前に迫っている決戦の地に彼らが目を背けるはずはなかった。
 この広い船の中でで、ただ、彼らは待つ。

 最後の戦いを────そして、新しい「助け合い」の時を。






 ブリッジの操舵は吉良沢が行っていた。
 残ったのは、彼と織莉子だけだった。アリシアとリニスは、少し嫌がったが──クロノに任せた。意識の幼い少女を巻き込むわけにはいかないという、吉良沢と織莉子の計らいである。
 それに、彼女たちには、織莉子や吉良沢のように、“罪”はない。
 ──幸いにも、吉良沢はこの艦に来た時にその構造を解し、その操縦方法や修理方法は一通り頭に入っている。プロメテの子としてのあまりに高すぎる知能がそれを可能にしていたのだ。

 ただ、複数のオペレーターがいた心強さに比べると、いやはや、どうも心細さもある物だ。
 たった一人が舵を握る船と言うのは、ミラーのない車両運転に似ている。
 視界不良のまま、不安定な道を行く──そんな、安定とは無縁に前に進んでいく心理。
 それに加えて、今は少しでも早く目的の座標に辿り着かなければならないだけに、スピードも出る。

「──くっ」

 艦内のエネルギーがだんだんと下がっていた。燃料不足でも何でもなく、ただこの艦が消えかかっているからだろう。
 ある意味、生命力が消えかかっていっていると言ってもいい。

「まだだ……まだ、大丈夫……運命は変わる!」

 織莉子のビジョンによると、この艦は沈むらしい。
 これと同じシチュエーションかはわからない。ただ、この艦は沈み、ベリアルの世界に辿り着く事なく、滅びるという。
 ──そうなれば、世界は終わってしまう。この艦が世界の最後の希望なのだから。
 そんな運命を変えなければならない。

「……吉良沢さんっ!」

 ただ、何て事のないように、世界の裏側で数十名が巻き込まれた殺し合いも、いつの間にか、世界全土を巻き込む最後の戦いへと変わっていた。
 そして、彼らは、それをもう一度もっと身近な物へ──「助け合い」へと変えようとしている。
 運命を変えようともがいているのだ。
 それを吉良沢はどう見たのか──。

「憐……」

 吉良沢は、ただ拳を握った。
 絶対脱出不可能な監視された施設から抜け出し、海に行ってタカラガイを持ってきた彼の事が、吉良沢には思い出せた。
 ここにいるのは、そういう者たちばかりだ。
 この艦は沈むと──左翔太郎には、そう教えたはずなのに、彼はここに残ろうとしている。
 運命が変えられると、彼も信じているのだ。

「僕も……僕も、命に替えても……運命を変えてみせる……! 僕達にはその為の勇気がなかったんだ……! ただ、それだけなんだ……! 人間は誰でも光になれる!」

 自らの世界の運命に絶望し、それを阻止する為に他人を頼った吉良沢と織莉子であったが、その他人の口車に乗せられ変わった世界も、結局は束の間であった。
 もしかすると、ただ平和に生きる人間たちを殺しあわせてまで勝ち取るような──そんな世界は、いずれにせよ崩れ去っていく運命だったのかもしれない。

 彼らは──自分たちの力で、自分たちの居場所を守ろうとしてきた。その勇気があったのが、デュナミストとなった者たちや、円環の理だったのだ。
 二人は、このしばらくの時で、それを痛いほどに教えられた。
 最後に変える──この運命を変えて見せる。

「──償いましょう、一緒に」
「ああ……。彼らを絶対に連れて行く……!」

 ──そんな時、吉良沢の握る拳が、ふと、何かの感触を掴んだ。
 彼の右の拳に、暖かい光が結集していく。
 掌を解くと、やはりそこにあったのは、「光」だった。
 しかし、その形がだんだんと吉良沢の手には見えてきた。

「見える……あの時のタカラガイが。──そうか、これが光……!」

 憐が海で取って来た光。
 運命を変えた彼の見せた希望。
 それが、今、──吉良沢の手に形作られてきたのだ。
 吉良沢は、そっとそんなタカラガイの貝殻を包み、睨むように目を見開いた。

「これが、僕達の絆……!」

≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫
≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫
≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫

 だんだんとテンポを上げていくブリッジの警告音。
 しかし、それよりも早く──辿り着く。
 そう、この光が見えたのだから。
 運命は変えられると、かつて憐が教えてくれたように。
 自分も運命を切り開いてみせる。

「──させませんよ」

 と、そんな時、吉良沢の腹部に厭な感触が過った。
 内臓が裂かれたかのようで──冷たくもなく、ただ、どちらかといえば熱いような痛みが、後ろから突き刺さった。
 吉良沢の着用していた真っ白な服が、次の瞬間、鮮血に染まった。

「え……? ──……ゴフ、ッ!」

 吐き出された血は、喉一杯分ほどに見えた。
 吉良沢が、そんな状態でも恐る恐る背後を見ると、そこには、「腕」と「槍」だけがあった。
 そう──その腕が、槍を持ち、その槍が、吉良沢の腹を突き刺していたのだ。
 腕は、見覚えのある術式──時空魔法陣から発されていた。

 他ならぬ、ニードルである。
 彼は、ダグバやガドルが時間稼ぎをしている間に、外の世界に脱出を試みていたのだろう。──そして、ヒーローシンドロームによる消滅を免れ、吉良沢の腹にその槍を突き刺した、という事だ。

「ニー、ドル……!」
「吉良沢さん……!」

 織莉子もそれに気づいたようで、吉良沢を呼びかける声を発する。
 だが、吉良沢の腹を貫いた槍はあまりに太く、そして、先端の複雑な形ゆえに、「完全に貫かない限り外れない」という形状の槍であった。
 裏切り者の始末というには、あまりに遅すぎ──しかし、タイミングだけは完璧な殺戮であった。

「くっ……!! お前っ……!!」
「この艦を行かせるわけがないじゃないですか。確かに、面白い物を見る事ができるとはいえ……このまま、ベリアルたちの支配する世界の終焉をただ見守る方がずっと面白い……!」
「──ッ!」

 血まみれの腕で、ブリッジのシステムを発動する。
 もうすぐだ──あと僅かな距離で、辿り着ける。
 目的の座標は間もない。
 ベリアルの世界への扉はもう、すぐそこなのだ。
 そうすれば、生還者たちは、アカルンの力であの世界に転送される。
 そして、──きっと、勝ってくれる。

「──邪魔は、させない……! そう、命を賭けても……!! この艦は落とさせない……!!」

 吉良沢の口から、より多くの血が吐き出される。
 バケツから降ったような血の塊が彼の口より下に、まるで血液の川が流れたような跡を作った。システムにもそれが降り注いだようだが、幸いにも機器に影響はない。
 だからこそ、確信をもって彼は告げた。

「僕達は──!!」

 そう──それは、彼の最後の願い。
 いわば、最後の悪あがきの言葉。
 それでも、最後にそれだけの言葉を残せるのなら、やはり偉大であった。

「運命を変える」



【吉良沢優@ウルトラマンネクサス 死亡】






 美国織莉子は、その直後に魔法少女の姿へと変身した。
 かつてないほどの怒りを胸に──しかし、戦闘の方法だけは、至極冷静に。

「オラクルレイ」

 織莉子のスカートの裾から、「爆発する宝石」が投じされる。
 オラクルレイ。
 それらは、織莉子の任意で動き、敵に叩きつけられる事になるだろう。
 普段は予知魔法の為の魔力が膨大すぎる為に、殆ど使われる事はないのだが──彼女は、戦闘においても一級である。
 彼女の放ったオラクルレイは、時空魔法陣を通って、敵のヤマアラシロイド──ニードルの元に叩きつけられる。

「──何ッ!?」

 時空魔法陣を通して、「向こう側」の声が漏れた。
 そして、鳴り響いたのは爆音。ヤマアラシロイドの身体に、見事オラクルレイが命中したようであった。
 向こう側からの爆風が、吉良沢の身体を揺らした。
 だが、──彼はもう、死んでいた。それは既に彼の遺体である。彼の遺体に爆風がかかるのは厭であったが、残酷な言い方をすれば、もうそれは物でしかない。生きる者にこういう形でしか力を添えられないのかもしれない。
 これ以上攻撃を受ける事を拒んだのか、その直後に、時空魔法陣が消えた。

「吉良沢さん……ゆっくりお休みください。あとは私が、あなたの分を補います」

 織莉子は、吉良沢の遺体の近くに恐る恐るよると、そう告げた。

 彼とは、運命を変えようとする者同士だ──。
 吉良沢優という男には、目的が同じであるという繋がりがあった。それゆえに、共に行動しても大きな思想の違いや違和にぶつかる事はあまりなかったのだろう。
 吉良沢ほどではないが、織莉子も頭の悪い方ではない。彼の話に何とかついていく事も出来た。あまり差はなかった。
 友人、と呼べるほどではないが、同じグループの仲間として──吉良沢には、いくつか共感できたし、思う所が多すぎた。
 そして、共に罪を償うと決め、運命に抗おうとする二人だった。
 そんな彼に言葉をかけた後に、織莉子は構えた。

(──ニードル、どこからでも出てきなさい)

 おそらく──ニードルは、先ほどの騒動で、この艦の要となるこのブリッジの位置を完全に把握し、怪人騒動の中でこの場の魔力結界を解いたのだろう。
 いずれにせよ、殆どの人間が脱出した時点でここは手薄になり、魔力による守護の恩恵もなくなる。
 ゆえに、狙われるのは、ほぼ間違いなくこの場所で、ニードルはまだここを狙っているはずだ──。だが、どこから敵が来るかはわからない。

「……」

 織莉子は息を飲んだ。
 瞬きすらも許されない、切迫した瞬間──。

「……」

 敵が来るのは、どこか。
 織莉子の後ろか。上か。──それとも、機器を狙いに来るのか。
 それがまだわからず、呼吸を落ちつけながら、そこら中を見回す。緊張の糸というのが心の中でぴんと張っているのがわかった。しばらくはほどけそうもないだろう。
 吉良沢は、死して尚、機器の最重要部のスイッチを押している。あれを押している限り、艦は目的地に向かって進行し続ける。
 狙われたのはあそこだろうか……?
 そして──

「──!」

 ──視えた。
 織莉子の今の狙い通り。吉良沢の遺体の近くから──。
 血の池が出来た吉良沢の元に、織莉子が駆け出す。
 ヤマアラシロイドの右腕を掴み、彼が余計なボタンを押す前に──。

「させない……っ!」

 織莉子の腕は、ヤマアラシロイドの腕を掴んだ。
 魔力が込められた両腕は、格闘のプロにも引けを取らないほど強く怪人の腕を握る事が出来る。あとは根競べだ。
 ヤマアラシロイドの腕が勝つか、織莉子の両手が勝つか。

「……っ!」

 力をぐっと込めた。
 絶対にこの艦は目的地に辿り着かせて見せる。──そう心に誓いながら。
 しかし、そんな織莉子の胸が、次の瞬間──目の前から、無情にも、貫かれた。
 織莉子の目の前に突如現れた時空魔法陣。──そこから、手と槍が、現れたのだ。

「え……?」

 織莉子は、思わず真下を見下ろした。
 二つ目の時空魔法陣──そこから、ヤマアラシロイドの左腕が、槍を持って織莉子の胸を貫いていたのだ。
 右腕は確かに織莉子が掴んでいる。
 しかし、左腕は、また別の場所から時空魔法陣を通して織莉子を襲っているのだ。
 織莉子の身体は、吉良沢の遺体の真隣で、胸を貫かれ、血をふきだしていた。彼女の身体から垂れていく朱色は、吉良沢の零した同じ色の液体と混ざっていく。

「……見事に読み通りの行動を取ってくれましたね、美国織莉子」
「わ、罠……?」

 ──最初の右腕は囮。
 その上で、織莉子が来るタイミングと位置に合わせ、攻撃を仕掛けたというわけだ。
 それも、確実に息の根を止める為に、胸部を──。
 しかし、ニードルにとっては残念ながら、織莉子は魔法少女であった。
 彼女を殺すならば、それこそソウルジェムが必要である。

(──読み通り、か……。悔しい……わね……。でも、それが一番、甘いって……っ!!)

 織莉子は、ヤマアラシロイドの右腕を掴んでいた両腕を同時に離した。
 そして、次の瞬間、──

(ここまでは読めたとしても……ここから先は……っ!!)

 ──織莉子は、胸を突き刺す針山の元に、敢えて突き進むように、踏み出したのである。
 勢いを持って、自分の身体をわざわざより太い方へと叩きこむ。
 痛みは広がる。だが──こうしなければどうしようもない。

(──読み通りにはさせないっ!)

 そう──この槍は、一度貫いたが最後、完全に貫かない限り抜く事ができない。
 それならば──「その通り」でいいのだ。
 逆に考えるのだ。この槍は、「完全に突き刺すまで抜く事ができない」のではない。「完全に突き刺してしまえば抜く事ができる」、と。

 織莉子の前には、時空魔法陣がある。
 これが、ヤマアラシロイドの居所へ繋がっている──。
 織莉子は、槍に貫かれたまま、一瞬でその時空魔法陣の中に飛び込んだ。両腕を話してしまった以上、与えられた時間は一瞬だけ。
 そこで片づけなければ、ニードルの右腕が機器に余計な攻撃を仕掛けるだろう。
 まさに、一か八かの賭けであった。

「ぐっ……ぐぉぇっ……!!」

 胸部の痛みは貫かれ、やがれそれは確実に心臓に損傷を来す場所まで広がっていく。
 心臓が大きく破れ──大量の血液が口だけではなく、目からも噴出した。痛みと呼ぶには、あまりに凄絶すぎる物が上半身を支配する。
 そう、たとえ今すぐにここで今すぐ誰かが回復したとしても、彼女の命が助かる事はありえない。
 幸いなのは、彼女が魔法少女であった事だ。そう、たとえ心臓を貫かれたとしても、そこにあるのは痛みだけで済む。──ソウルジェムが砕かれない限り、彼女はまだ生きてはいられる。
 これほどのダメージを受けながら、辛うじて生命があるのは、その性質がゆえだ。
 しかし、それも間もなく終わる。

「オラクルレイ!」

 彼女は、自分の生命活動が終わる前に、ヤマアラシロイドの居場所へ──この艦の外に辿り着き、そう叫んだ。
 ヤマアラシロイドはぎょっとした顔で織莉子を見つめたが、もう遅い。

「何ッ!?」

 彼の身体は、織莉子によってぐっと抱きしめられた。
 それこそ、針の筵とでも言うべきヤマアラシロイドの全身を包み込んだのは、この聖母が初めてであっただろう。
 だが、それも一瞬だった。
 織莉子の身体を飾っていた無数の宝石は、彼女の身体から離れる事もなく、光った。

 ──そして、轟音とともに、爆ぜる。

 彼女の身体も、ニードルの身体も巻き込んで。
 そう、艦ではない、ニードルのいたどこかで。
 しかし、──それがきっと、微かにでも艦の運命を変えた。



 本来、ニードルの手によって押されるはずだったボタンは押される事もなく──。
 そして、ニードルという一人の男の未来と、美国織莉子という一人の少女の未来を巻き込んで、消え去った。


【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ 死亡】
【ニードル@仮面ライダーSPIRITS 死亡】






≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫
≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫
≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫≪PULL UP!!≫

 艦が警告音を鳴らし続けるブリッジ。
 ニードルの腕はボタンを押す事もなく、吉良沢の遺体が押し続けているボタンだけがただ、艦を進ませていた。
 だが──そんな彼の遺体と血だまりの元に、一匹の小さな獣が寄り添った。

「……君たち人間は、本当にわけがわからないね。変えられるかもわからない運命の為に、自分の命さえ賭けるなんて……。まあ、でも、今度ばかりはお礼を言うよ」

 情報を共有している彼らインキュベーターの端末である。
 彼はこのままアースラに乗っていても肉体が滅びるだけなのだが、その最後の瞬間を記録するのに丁度良い役割を持っている。
 彼の持つデータは、また別のインキュベーターの元に転送されるので、丁度良いのだろう。
 この艦に関するデータを最後まで有する事が出来るのは、彼らのように意識や情報を共有している特殊な生命体だ。──そして、彼だからこそ、ある意味、死を恐れずにここに載っていられる。

「──ただ……このままだと、アースラに残っている彼らも、いつベリアルのいる世界に旅だっていいのかわからなくなってしまうんだよね。……じゃあ、美味しい所を持って行くようで悪いけど──最後に、この言葉だけは僕が言わせてもらおうか」

 そう言うと、キュゥべえは、そっと吉良沢の手を退かした。
 艦は間もなく完全に消滅しようとしている。そして、既に座標は、この艦が人間を転送できる近くまで来ていた。ボタンを押し続けては通りすぎてしまう。
 ──ブリッジから目の前を見れば、キュゥべえの視界に広がっているのは、「イレギュラー」な映像。ブラックホールのような果てのない暗闇がこの艦の視界を覆っている。
 あらゆる世界線の枠から外れた、正真正銘のダークマター──それが、あの世界だ。

 そして、ここまで来たならば、キュゥべえはこれを告げるしかない。
 館内放送のスイッチを押し、キュゥべえは、彼らへの指示を告げた。






「なあ、みんな……一つだけ聞いてくれ」

 ──そう突然に切りだしたのは、超光戦士シャンゼリオンならぬガイアポロンであった。
 彼らしくない湿っぽい語調に、誰もが違和感を持った事だろう。
 しかし、彼の口から出た言葉で、誰もが納得した。

「最初に謝っておく事がある。──ニードルは、俺を追って艦に来てしまったかもしれないっていう事だ」

 彼らしくない──謝罪の言葉だ。
 隠すつもりはなかったのだろうが、確信も持てなかったので、今まで何となく黙っていたのだろう。

「言えなくて……悪い」

 涼村暁の普段の態度が態度なだけに、これには何人かも辟易した。
 しかし、だからこそ却って、その誠意は誰にでも伝わったのかもしれない。普段、謝りそうもない性格なだけに、いざ本当に謝ると、その誠意も人一倍よく伝わる物だ。
 翔太郎とヴィヴィオが、そんな暁に言った。

「……んな事気にするなよ。結果的に、俺たちは新しい力を得られたんだ」
「そうですよ。……むしろ、本当にそうだって言うなら、暁さんに感謝します」

 彼らの総意であろう。
 結果的に、死んだはずの仲間と再び出会え、そしてこうして彼らの助けを得られたのは、他ならぬニードルが闇の欠片をばらまいたお陰である。
 それもニードルの作戦のようだったが、今の放送を聞く限りでは、そんな野望も無駄であったに違いない。
 だが、暁が言いたい事はそれだけではなかった。

「……それからもう一つ」

 暁はまた、口を開いた。
 それから、また目をきょろきょろさせて、少し躊躇ったが、口を開いた。

「──俺も、あいつらみたいに……このゲームが終わったら消えるかもしれないらしいんだ」
「えっ!?」

 今度の言葉は、そこにいた人間全員を驚かせた。
 暁が、消える──?
 それは、どういう事なのだろう。だが、暁はその理由を話そうとまではしなかった。

「ベリアルを倒したら、今度は俺も消えちまう。……あっ、だけど、ベリアルの野郎を叩き潰すのに遠慮はいらないからな」

 それから、すぐにまた、いつもの暁のような調子で、軽く、笑みが含まれているようにさえ感じられる言葉で、付け加えたのだった。
 だが、それにつられて笑える者などいない。
 暁は仲間だ。──ベリアルを倒す事が、暁を消してしまう事に繋がるというなら、それは
 それで、また、暁は少し声のトーンを落とした。

「こういう事は、あらかじめ言っておいたほうが、後味悪くなくて済むだろ?」
「お前……それをずっと隠してたのか! なんでもっと早く俺たちに言わなかったんだよ……!」
「それはいいだろ? 言うなら、俺の気まぐれだ」

 声のトーンは低かったが、そこだけは何故か普段の暁の調子のように聞こえた。
 誰もがじっと彼を見つめていた。その視線が統一されている中、暁はじっと、目の前の一人一人の顔を見つめた。
 すると、ある想いが湧きあがり、柄にもなく、目頭が熱くなりかけそうになる。
 ──消えたくない。
 いや、しかし、瞼に力を籠め、一度だけ瞳を閉じると、再び彼らに言った。

「──じゃあ、そういうわけだからさ。言った通りだ。……こう言っちゃなんだけど、俺はもう充分人生を楽しんだし、太く短くが俺のモットー。ふんわか行こうよ、ふんわか……」

 そして、暁が、叫ぶように言った。

「……そう、ふんわか行って、最後に世界を変えて見ちゃったりしようぜ!」

 そんな時に──艦内に、キュゥべえの指示が流れる。







『ガイアセイバーズ、出撃!!』








【────次回、変身ロワイアル 最終回!】



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最終更新:2016年01月06日 16:58