変身─ファイナルミッション─(4) ◆gry038wOvE




 ──宇宙。

 こちらでは、ウルトラマンゼロと蒼乃美希が、尚もウルトラマンノアの探索を続行していた。
 これまでと決定的に違うのは、二人の間にわずかばかりの希望が芽生えており、ある手がかりを持って宇宙の旅を続けている点だろう。
 無数の星を通り越し、ゼロは飛ぶ。

「おい美希……! 確かにこっちから声が聞こえたってのか?」
『ええ……!! 今、向こうから……!!』

 美希の感覚を頼りに、ゼロがマッハ7のスピードで進行する。
 そう──確かに美希の耳には、あの孤門一輝の声が届いたのである。
 ──美希がダークザギとの戦いで憎しみに没した時、孤門がかけたあの一言が、確かに「自分の居場所」を教えていたのだ。
 それこそが、二人の合図だ。



──諦めるな!──



 孤門の口癖であり、信念だった言葉。
 どんな苦難に直面した時も、その言葉一つで全てを晴らしてくれるそんな意味が込められた──とても大事な言葉。
 美希の脳裏に、それが直接届いたかのようだった。
 いや……これは、おそらく──あの時の言葉が、「忘却の海レーテ」を介して、時空を超えて届いた一言なのではないだろうか。

 そう、思った。
 あの時、かけてくれた言葉が、再び……孤門を助け出そうとしている。
 誰も真相を知る事はないが、かつて、孤門一輝という少年を助けた手と、その一言が──また、今度はそれより未来……そう、今の孤門を助けようとしている。
 そんな連鎖が、奇しくも孤門一輝の運命を支えている。
 ただのどこにでもいる優し気な男に見えて、実に奇妙な因果の集中している人間だ。

「──……わかった。美希、俺はお前を信じるぜ!」

 そんなゼロは、自分の持つ残りのエネルギーを全て使いかねない勢いで邁進する。
 どの道、手がかりなどないのだ。力を出し惜しみ、小出しにしながら探すよりも、美希の自信を信じるしかない。
 彼女は、孤門の声が幻聴だとも思っていないし、美希の確固たる自信だけは感覚としてゼロの中にも伝わってくる。
 これが、人間を信じるという事なのだ。

(ああ……親父……ほんとに、地球人って奴は……!!)

 ゼロの父は、かつて──何度となく、地球人を信じる事が出来なくなったらしい。
 しかし、醜さを知る一方で、多くの地球人のやさしさや温かさも知っていた。誰よりも地球人を愛したウルトラマンと自称する事もあった。

 ──アンヌ、アマギ、ソガ、フルハシ、キリヤマ……時として彼は、絆の芽生えた地球人の名をゼロに語った。
 そして、忘れてはならない……モロボシ・ダンの姿の元になった、薩摩次郎という男の名さえも。

 彼と同じ地球人への愛情は、あらゆるウルトラマンたちも持っているが、ウルトラセブンは特別だった。もし地球人たちが暴走し、宇宙の敵に回ったとして、彼はそれでも地球人の味方をするのではないかとさえ思う。
 自分の父は、正義より、愛を選ぶだろう。

 ……それは、ゼロも同じかもしれない。
 父親から受け継いだ、地球人との絆。──それを今、実感している。

 そして、ゼロは今から二人の地球人の名前を、己が信じる地球の名前として刻む。

 蒼乃美希、それから、孤門一輝だ。
 まだ直接会ったわけではないが、美希に声を届かせようとしているその男の名を──。
 ゼロは、自分とベリアルを再び会わせてくれる男の名として──そして、いかなる時も諦めない男の名として刻んだ。

「──」

 周囲の景色はめまぐるしく変化している。
 幾光年はるか彼方までも、ゼロは飛び続ける。
 美希が声を聞いた所まで……。

『──もうすぐ……』



 ──諦めるな!──



『うん……!』

 美希の中に聞こえる声は次第に大きくなっていく。
 地上では、遂にユートピアドーパントに向けて一斉攻撃が放たれた頃だった。
 その頃には既に美希の中で、孤門一輝の心の声が巨大に膨らんでいる。

『私は諦めない……!! ここに希望がある限り──』

 諦めるな……。
 美希がここに来て──仲間が死ぬかもしれない恐怖に挫けそうになった時、孤門がかけてくれた言葉だ。
 結局、桃園ラブも、山吹祈里も、東せつなも……たくさんの友人は死んでしまった。
 そして、そんな美希を常に支えるのは、孤門が放った言葉なのである。
 単純ゆえに。
 その言葉は、決して重圧にもならず、美希に追い風を吹かせている。

 今も、どこかで──ラブの両親や、祈里の両親や、せつなの仲間や、学校の友達が……きっと悲しんでいるのだろう。
 立ち直る事は出来ないかもしれない。
 だが、後を追う事だけは絶対にしてほしくない。
 ──希望は、必ず、どこでも失われないのだから!

『──来た!!』



 ──瞬間。





「!?」





 ──白い光が周囲を包んだ。



 無限の暗闇の中にあるはずの宇宙に、星々の煌めきではない、何か神々しいとさえ思える白い光が広がっていく。
 それは、ウルトラ戦士の中でも神と言われるような存在が放つ光であった。

「あれは……!!」

 そこには、ただ……ウルトラマンゼロと、その中にある蒼乃美希と、視認するのが難しいほどの小さな人形だけがあるのだった。
 しかし、それがウルトラマンノアの形をしたスパークドールズであるのが、すぐにわかった──。

「見つけたのか! 美希!!」

 ゼロの歓喜の声が響いた。
 しかし、今、この宇宙に声を轟かせるのは彼だけだった。
 美希はゼロに向けて何も言わなかった。

≪────美希ちゃん……!≫

 スパークドールズの声が聞こえる。──この数日間、この宇宙の暗闇の中を彷徨い続けていた孤門一輝の声だ。
 彼はずっと唱え続けたに違いない。「諦めるな」という言葉を自分に言い聞かせ、助けが来るのを待ちながら、この絶対の孤独を、挫けずに乗り切ったのだ。

「……ああ。ほんと、すげえよな……お前ら!!」

 そして──。諦めるな、という言葉が二人を繋いだのだ。
 ウルトラマンノアは、ここで、孤門と美希の絆が宇宙の距離を縮めるのを待っていたかのように見えた。
 ゼロは、唖然とした表情ながら、全く敵わないといった様子であった。
 しかし、直後には、熱い声で美希に呼びかける。



「────行けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! 美希!!」



 ゼロが伸ばした掌の先から、蒼乃美希の腕が現れた。
 腕だけを分離し、スパークドールズに合わせたサイズへと変わるのだ。そして、その腕に強く握られたギンガライトスパークがウルトラマンノアのスパークドールズに向けて届いていこうとしていた。
 ギンガライトスパークがノアのライブサインと反応する時、遂にウルトラマンノアは復活する事が出来る……。

「孤門さん……!!」

 ──届け。
 そんな願いと共に、ギンガライトスパークがライブサインへと、届く。
 そこから再び光が放たれる。



 ────レーテの時と同じように、美希と孤門は、手を取り合った。





──ULTRA LIVE!!──



「絆……ネクサス……!」



──ULTRAMAN NOA!!──





【孤門一輝@ウルトラマンネクサス 再臨】






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最終更新:2016年01月06日 17:27