変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE




「──……やっぱり、私から行きます……!
 この人との勝負、まだ終わっていませんから……ッ!」

 それは、強敵を前に、自分だけで攻撃を仕掛けると言う宣言であった。
 再び、先ほどの戦いの続きのように、ファイティングポーズを構えるヴィヴィオ。
 誰もが彼女を見て、ゆっくりと頷いた。彼女の健闘を信じる瞳が、ヴィヴィオを一斉に見つめた。

「──」

 ユートピアには理解不能である。何せ、ユートピアにとって彼らは雑兵なのである。
 今の力を見て、尚も同じ土俵で勝負する気だろうか。
 戦士たちにとってユートピアが一個の門番に過ぎないのと同じく、ユートピアにとっても彼らは理想郷を掴む為に立ちふさがる矮小な壁に過ぎなかった。
 諦める事がないにせよ、てっきり、実力差を理解して全員でかかると思っていたが、こうまで愚かに一人ずつ仕掛けてこようなどとは、ユートピアも思っていなかったのだろう。
 片腹痛い、とはまさにこの事だとユートピアも変な笑いが出そうになる。

「……フン。舐めてくれた物だな……一人ずつ来る気とは……!」
「ううん。一人じゃない……!」
「御託を……。すぐに片づけてやる!」

 ヴィヴィオは、そんなユートピアに向けて駆けだした。
 大勢の仲間が見守る中で、彼女だけが敵に肉薄する。
 それは、さながらストライクアーツの大会のような光景だった。
 たくさんの人が見ている前で、自分の戦いをする事──それが、彼女の誇りであり、彼女の生き方であり、彼女にとって最も楽しい時間だった……。
 その時の気分が、今は少し重なる。

「はぁぁぁぁッ!!!」

 ストレートパンチ──!

 ぱんっ! ──と手ごたえのありそうな音が鳴った。
 だが……。

「ふん」

 ユートピアの肉体は、ヴィヴィオの魔力が籠った一撃を胸に受けても悠然としていた。
 ヴィヴィオからすれば、これだけ心地よい音が鳴ったというのに、鋼鉄の板を殴ったというよりはむしろ、スポンジの塊でも殴ったかのような不気味なほどの感触の無さが伝わっていた。
 やはり、ユートピアは只者ではない。

「能力を使うまでもない……やはり貴様は、子供だ!」

 メンバー最年少。全参加者の中でも幼い部類に入る。
 それがヴィヴィオの立場であった──この殺し合いにおいても、小学生相当の年齢は彼女だけである。
 そこが力の壁を作り出していた。

「子供でも……──小さくても、出来る事があるんだ……!」

 ヴィヴィオの拳が、太鼓の連弾のようにユートピアの体に向けて叩きつけられる。
 小さいが故の反抗──たとえ、一撃が小さいとしても、子供だとしても、それを蓄積させて巨大な敵を打ち破る力にはなりうる。
 ヴィヴィオはその戦いを諦めない。
 自分に出来る精一杯を使いきるまでは、ヴィヴィオも何度だってユートピアに想いを、そして拳をぶつける。
 ユートピアの足が、土の上を滑るようにして少しずつ下がっていく。彼の体重を動かすには充分な力が叩きつけられているらしい。

「──黙れ」

 だが、そんなヴィヴィオの努力もユートピアには無力であった。
 たとえ彼の身体を動かしたとしても、彼自身の身体が一切ダメージを通していない。
 その上に、そんなヴィヴィオの攻撃を煩わしいとさえ感じ、ここから一撃で勝負を決めて見せようと下準備を始めたのだ。

「世間は無情だな……。仲間の技で死ぬがいい!! 高町ヴィヴィオ!!」

 ユートピアの杖の先端に、桃色の魔力光が収束する。
 これまでの戦いで霧散した、「ディバインバスター」のエネルギーやメモリーが、全てこのコアの中に群がっていく。
 強力な引力が、それをユートピアの手に、半ば強制的に集中させるのだ。
 これが、彼の最も悪辣な所である。わざわざヴィヴィオに、この技を使おうと言うのだ。
 あっ、とヴィヴィオが憮然とした表情を見せた。

 ──そして。

「──ディバイン……バスター!」

 ユートピアの叫びと共に現れたのは、高町なのはが何度となく使用した桃色の魔砲であった。ヴィヴィオは、腰を落として両腕を構えたまま、防御の結界の中で、強力な魔力の波動が齎す爆風だけを浴びていた。
 そんなヴィヴィオの体が、すぐに耐えきれず真後ろへと吹き飛んでいく。

「──ッ!!」

 しかし……。

「──ッッ!!」

 しかし……。

「──ッッッ!!!」

 しかし……それは、全くヴィヴィオへのダメージとはならない。

「────ッッッッ!!!!」

 先ほどのヴィヴィオの攻撃がユートピアに全く届かなかったと同じように、それはヴィヴィオの体にかすり傷さえもつけなかった。

『────っ!!』
『にゃあああああああああああっっ!!!!!』

 ──クリスとティオが魔力を尽くして張ったバリアがあるからだ。
 二つのデバイスの想いは一つ。
 ──この技でヴィヴィオを傷つけさせてやるもんか、という想い。

『──Go!!』

 レイジングハートの声が高鳴る。
 彼女は、インテリジェントデバイスとしての待機形態へと「変身」し、その姿に羽を生やしていた。その羽を用いた自立移動によってヴィヴィオの下に一瞬で飛翔すると、その体へと触れていく。
 彼女に力を貸す為に──寄り添うように。

「レイジングハート……! それに、クリス、ティオも……!」

 共に戦う相棒、セイクリッドハード……。
 アインハルト・ストラトスが遺したアスティオン……。
 若き日の母の相棒だったレイジングハート……。
 三つのインテリジェントデバイスの力がヴィヴィオの魔力に重なり合う。

 魔術師とデバイスの調和こそが、彼女たちの戦い。──そう、一対一の戦いでも、常にデバイスという相棒が自らを支えてくれた。
 それを忘れない。今も──そうやって戦う。

「──バリア!!」

 ──障壁!

 そして、彼女の身体を一片も傷つけさせない為に、額に汗さえも浮かべて、三つのデバイスは、魔力を張る。三つの力が重なり合ったバリアは、偽りのディバインバスターの力を全く通さなかった。
 ディバインバスターの力でだけは、ヴィヴィオを傷つけさせない、と──。
 そんな願いだけが、ヴィヴィオを守護する。

「──こっちも反撃っ!」

 そんなヴィヴィオの掛け声とともに、三つのデバイスが彼女の意思に肯いた。
 デバイスたちに頷く事が出来たのなら、おそらくその時、三つのデバイスが同時に首肯しただろう。──しかし、仕草で息を合わせる必要はなかった。
 それぞれが、今は想いを一つにしているのだ。

『ヴィヴィオ……力を貸します!』

 ──ヴォヴィオの全身を、更に包む白いバリアジャケット。
 それは、レイジングハートが変身能力でヴィヴィオの体を包むバリアジャケットへと変身した物であった。──胸元でリボンが結ばれ、その姿は完成する。

「これは……」

 高町なのはが装着したバリアジャケットと同様の物であるに違いない。
 そして、気づけばヴィヴィオの手には、レイジングハート・エクセリオンの杖が握られている。
 レイジングハートが気を利かせてくれたのだという感慨の中、ヴィヴィオはただ、彼女に向けて頷いた。

「──うん!」

 防御結界のエネルギーは、そのままヴィヴィオの身体の中へと収束していく。
 時に、それはユートピアの持っていたエネルギーさえも、反対にヴィヴィオの中に吸収されていった。

「いこう……!」

 桃色のオーラがヴィヴィオの身体を輝かす。
 まるで全身に温かい光が雪崩れ込むようだった。

「──ディバイン」

 ヴィヴィオの全身を覆った桃色のオーラ──これが、これまでに高町なのはたちが放ったディバインバスターの力だったから。
 誰かとわかりあう為に、誰かと本音をぶつけあう為に、──常に誰かを傷つける以外の目的の為に使われたのが、このディバインバスターだったから。
 それは、ヴィヴィオの鎧となり、剣となる。

「──ッ!!」

 次の瞬間、ディバインバスターはヴィヴィオの身体から、ユートピアの方に、何の合図もなしに向かっていった。
 それはまさに、一瞬の切り替えしだった。
 流星のように、感知が出来ても祈る事が出来ないほどのスピードで、ユートピアの身体へと叩きこまれた桃色の魔法力。
 それは、ユートピアドーパントが目にしてきたあらゆるデータとは根本的に異なっていた。
 ──ただの一撃ではない実感。

「──何!?」

 ユートピアは、痛みを受けない魔力の放出を前に、ヴィヴィオの方を見た。
 まだ、この魔法の力を最大限に開放する、呪文の最後の一声は発していない。
 しかし──。

「……!!」

 彼女の闘気が自らに向けて放たれている。彼女の瞳は、にらみつけるようにユートピアの身体を掴んで離さなかった。
 その瞳は、何かを訴えかけるでもなく、ただ目の前の敵に食らいついていた。
 それが、彼女が一人の格闘家である証だった。





(……そう、大丈夫……! 私の後ろには、みんながいるんだ……!)





 ヴィヴィオは、その時、あらゆる人の事を思い返していた。
 二人の母の事を。
 共に戦ったライバルの事を。
 ここで助けてくれた人々の事を。





『大丈夫だよ、ヴィヴィオ……』





 そんな人々が、ヴィヴィオの身体と精神を支えていく。そして、次の一声に至るエネルギーを貸してくれる気がした。
 そっと、微笑みかけながら……。
 ヴィヴィオの体を包んでいる温かさは、レイジングハートだけではなく、母のなのはから齎されているような気がした。
 魔力杖を彼女の真横で支える、なのは、フェイト、アインハルト、スバル、ティアナの姿……。



「──バスター!!!!!」



 ──────炸裂!



「ぐっ……!!」

 ユートピアの全身を飲み込みながら、爆ぜるようにして威力を増すディバインバスターの魔力。それが、彼の全身の自由を奪った。
 彼の身体に確かに駆け巡った痛み。
 だが、この程度ならばユートピアも耐えられた。──データにないトリッキーな「ディバインバスター」の使い方であったが、彼の肉体も魔力に屈服するレベルではない。
 それでも、絶対の力を得たはずの自分の中に湧きあがる不安のような感情に、ユートピアは襲われつつあった。

「……何──だとッ!!」

 ──負けるのではないか?
 この瞬間、再び、ユートピアの中にそんな考えが浮かび、打ち消した。

「はあああああああああああああああああーーーーーーー!!!!!!!!!」

 そして、そんな桃色の粒子の中を駆け巡る一つの影。
 いや……一つ、には見えなかった。

「……うぐっ……! バカな……!? がはぁッ……!!」

 ユートピアの目は、何人もの、「死んだはず」の幻影が自らを襲う姿が見えていたのだろう。──これが、ただのコピーの技と、本当の技との決定的な違い。

「この程度の攻撃……ッ!」

 高町なのは。
 フェイト・テスタロッサ。
 アインハルト・ストラトス。
 スバル・ナカジマ。
 ティアナ・ランスター。
 プレシア・テスタロッサ。
 利用してきたはずのこの殺し合いの駒たちの姿が……。

「一閃必中──ッッッ!」

 ディバインバスターの粒子の中を駆け巡る一陣の風は、真っ向勝負を挑んでいた。
 ──気づけば、それは黒いバリアジャケットに戻っている。ヴィヴィオはヴィヴィオとして、最後の一撃をユートピアにぶつけに来ているのだ。

「──アクセル」

 今度は小細工もなく、ただ、普段と同じように拳を構え、向かっていく。
 その中に込められた想い。怒り。悲しみ。……それらは、これまでとはまた少し色合いの異なる物であったが、拳の一撃は常に変わっていく。
 ヴィヴィオの拳には、今、彼女を想う母や友たちの想いが乗せられている。
 ユートピアは、そんな事を知りもせず、ディバインバスターのエネルギーが消えていく中で、そんなヴィヴィオの拳を、これまた真っ向から迎え打とうとしていた。

 この程度の攻撃ならば、まだ受けられる。──そんな自信があったのかもしれない。
 避ける暇があるかないかよりも、力を持った故の慢心が大きくそれを左右した。
 強すぎる力は、時として、その人間の危機回避能力を麻痺させる。──プライドと自信が、「回避」という判断と頭の中でせめぎ合い、結果として勝利してしまうのだ。
 だが、その自信は──次の瞬間、打ち砕かれる。



「────スマーーーーーッッッシュ!!!」



 ヴィヴィオの拳は、ただユートピアの胸に叩きこまれただけだというのに。
 その魔力に、彼は胸を抉るような強烈な痛みを覚えた。
 心臓から血液が駆け巡っていくように、痛みは波紋となって頭のてっぺんまで伝播した。
 脳髄が揺れる。彼の中で何かが罅割れる。
 ユートピアにとって意表の一撃にして、ヴィヴィオたちにとって会心の一撃であった。

「ぐっ……」

 ぴきっ……。
 罅割れたのは、「魔力」のコア──即ち、リンカーコアだ。
 ベリアルから受け取ったユートピアの幾つものコアは、一つが拒絶を始めた。
 それはユートピアに骨折にも似た強い苦しみを与える。

「ぐあああああああああああああああああッッ――――!!」

 まるで、これ以上、ユートピアに力を貸す事を拒んでいるかのようだった。
 ユートピアの再生能力よりも早く──リンカーコアは亀裂を走らせていく。
 ──そして。

「くっ……!!」

 ぱりんっ……! と。
 暗闇に染まったリンカーコアが、その直後には音を立てて崩壊する。ユートピアの中に埋め込まれた無数の一つが──世界最高の硬度を持つ打撃を受け手も崩れないような力が、この一撃で……。

(こんな……バカなっ……!?)

 しかし、ヴィヴィオが叩きこんだのは、簡単な一撃ではなかった。
 ユートピアの持っていた力は、僅か一日と保たれず、「本物」に敗れたのである。──そう、それは彼の持つコアの力の全てにおいて変わらない事である。
 彼は、遥か後方に吹き飛ばされ、土の上をのたうち回る。

「そんな……馬鹿な……ありえない!」

 だが、自分がいとも簡単に膝をつくという事実が、彼には信じる事が出来なかった。真実は今自分が置かれている状況とは異なる物だと言い聞かせる為か、彼は全身全霊をあげて立ち上がる。
 胸から火花を散らし、全身にダメージを受けながらも……。

「クソッ……」

 想定外だ、とユートピアは内心で想った。
 ──逆風は吹いたはずだ。
 ベリアルは新たな力を授けてくれた。それは絶対無敵の力だった。彼らを確かに圧倒しうるエネルギーを持っていた。
 しかし……──それを、一瞬でも超える力を、彼らは持っているというのだ。
 まさか、このコアが一つでも破壊され、ユートピアが地面をのたうち回る事になるなどとは、彼自身全く思わなかったのである。

「ナイス、ヴィヴィオちゃん! 次は、俺だぜ!」

 そして、そんなユートピアにすかさず立ち向かっていくのは、超光戦士シャンゼリオンであった。
 又の名を、涼村暁。
 ──ユートピアの双眸には、そもそもここに来るはずのない戦士の姿が映っていた。
 先ほどからこの場にいたのはわかっている──だが、何故、我先にと自分を攻撃しに来るのか、ユートピアにはわからずいた。

「涼村……暁ッ……!」

 彼がこちら側につかなかったのは、ユートピアにとって小さな誤算だった。
 暁という男のデータを見る限り、彼は酷く利己的な人間であるはずだ。何の人の運命を狂わせたかわからないどうしようもないクズ男。
 そんな彼がベリアルに立てつくはずがない。
 自分や、自分の世界を犠牲にしてまで──ベリアルと戦おうとするはずがない。
 彼がベリアルを倒すという事は、即ち、それは彼自身の手で自らの世界を壊すスイッチを入れる事と同義だ。
 彼はこの戦いに勝利したとしても、消えるのだ。NEVERとは異なり、彼がその死を恐れぬはずがないだろう。

「貴様……!」

 だというのに。

「ぐっ……!!」

 ……今、ユートピアの胸に“突き刺さっている物”は何か──。
 この固い刃物。既に、ユートピアに食い込んだ、光の刃。
 それはまさしく、反逆の証ではないか。

「シャンゼリオンめ……!」

 テッカマンのコアに突き刺さっているのは、シャンゼリオンが構えるシャイニングブレードだった。
 それは、左肩ごとユートピアの「コア」を貫いている。
 彼は、ユートピアがひるんでいる隙に、便乗するようにしてコアを一つ破壊しに来たのだ。

「卑怯な……!」

 濛々と吹きだす大量の火花の群れ。
 赤く光るそれは、血液のようにシャンゼリオンの身体へと浴びせられた。
 しかし、彼はユートピアの一言に何も返す事なく、冷徹なバイザーで見下ろしながら、ユートピアに次の一撃を叩きつける。

「一振り!」
「ガァッ!」

 シャンゼリオンのシャイニングブレードは、満身創痍ながらもまだ力の残るユートピアが片手で掴んで防ぐ。刃がユートピアの掌を痛める。
 次の瞬間、シャンゼリオンの身体に向けて、ユートピアはもう片方の掌を翳す。

「喰らえェッ……──オーバーレイ・シュトローム!」

 ウルトラマンの力を持つコアが、シャンゼリオンのディスクがあるはずの胸を至近距離から貫いた。
 クリスタルの結晶が砕け、シャンゼリオンの身体にダメージがフィードバックしていく。
 ぼろぼろと零れるクリスタルの欠片。それは、暁の胸骨を折り、心臓まで攻撃が叩きこまれたのを意味していた。

「ぐあああああああああああああ────ッ!!」

 結局のところ──ユートピアにとっても、先ほどのヴィヴィオよりも、遥かに戦い慣れないシャンゼリオンが相手である。
 懐まで潜り込めば、反撃を受けた時に自分もただでは済まないと知らないのかもしれない。ただ悪運だけで生き残った男だ。
 しかし、シャンゼリオンがあまりその死にも等しい痛みを受けた実感がない。

「……クソォォォォォッ!! 痛えなちくしょうッ!!」

 と、軽い様子でユートピアを咎めるだけである。
 今の一撃が効いていない……?
 いや、そんなはずはない。
 このシャンゼリオンたちの金色のオーラが原因か?

 だが──。

「そうだ……! 攻撃を受けるのが嫌ならば……何故、我々の所へ来た!」

 まるで虚勢を張るかのように、ユートピアはシャンゼリオンに問うた。
 本当は、シャンゼリオンが何故ダメージをろくに受けていないのか、訊きたかったのかもしれない。だが、まともに戦って勝てない相手を前にした者が、本能から相手の戦う理由を咎めるように──ユートピアは、シャンゼリオンを批難する。

「俺はな……こういう遠足について行くのが大好きなんだよ!」
「ふざけるな……!」

 その愚かな様のまま、シャンゼリオンにまた一言、叫ぶ。
 負け犬の遠吠えとまではいかぬものの、ユートピアの放つ一言はそれにもよく似ていた。
 一度の敗北が彼のプライドを折り、自身を喪失させたに違いない。

「……勝ったとしても消えるというのにィッ……どこまでも愚かな奴ッ!」
「俺だって気に食わないんだよ……あんたらの言いなりになるのが!」
「何故だ……!」
「そんな事、俺が知るかっ!」

 強力な打撃を受けたはずのシャンゼリオンの胸に、クリスタルパワーが充填されていく。
 そして、彼は叫んだ。
 そう、「懐まで潜り込めば、反撃を受けた時に自分もただでは済まないと知らないのかもしれない」──ユートピアという怪人は、それを忘れていたのかもしれない。



「──シャイニングアタック!」



 もう一人のシャンゼリオンが、ユートピアに向けて右腕を突きだして貫いていく。
 ユートピアの持つコアに向けて進行した必殺の一撃──シャイニングアタック。
 彼ことシャンゼリオンがそう叫ぶと同時に──。

「……ごぉっ!」

 ──ユートピアの全身を貫く痛み。
 しかし、ユートピアの力は彼自身の肉体を瞬時に再生させていく。──問題はコアだ。
 破壊されたコアのデータはガイアメモリ同様、「ブレイク」と共に完全消失する。
 対して、先ほどユートピアが貫いたはずのシャンゼリオンの胸の痛みは、たとえどれだけユートピアが蠢いても消えていないはずだ。

「シャンゼリオン……ッ!」

 彼は何故戦う……?
 自分の命も、自分の世界も、自分の仲間も……何もかもが消えるといのに!
 彼自身は、本当にそれを知っているのか──!?

「……はぁ……はぁ……俺って、やっぱり……はぁ……はぁ……」

 やはり、このザマだ! ──決め台詞さえ言えていない。
 回復し、シャンゼリオンの方を見つめるユートピアは、最早疑問を浮かべるよりも、相手が理屈で対処できない狂人だと思うよう、思考を切り替えた。
 涼村暁も少なからず自分の損得を勘定に入れて行動できると思っていたが、その考えは大きな過ちであったらしい。

「決まりす……! ぐぁっ……!!」

 ……そうだ。
 彼は、ただの狂人なのだ。

 本来守らなければならぬはずの自分の世界さえ捨て去って、その他多くの世界の平穏を掴む為に──ベリアルを倒そうとするなどと。
 加頭順からすれば、異常だとしか思えない。
 しかし、そう思う事で、加頭の気持ちは少し楽になったようであった。相手が格下であるという認識を再度持つ事で、敵に対する言い知れぬ不安からは解放される。

「無様だな……シャンゼリオン……ッ! ──決め台詞ひとつ言えないとは!」

 傷つき倒れかけているシャンゼリオンを前に、ユートピアは叫んだ。
 しかし、自分の声も断末魔のように掠れており、頭に血が上ったかのように意識も朦朧としているのをユートピアは実感している。
 だからこそか、彼は無計画に攻撃を続けた。
 ──たとえ無計画であっても、少しの優位を実感してはいたが。

「こちらもだ! ──シャイニングアタック!」

 一陣の風は、先ほどシャンゼリオンがユートピアに行ったように、ユートピアからシャンゼリオンに向けて放たれる。
 クリスタルパワーの粒子複合体がユートピアの姿を形成し、シャンゼリオンに向けて一直線に飛んでいく。
 シャンゼリオンもまた、再びユートピアに向けて叫んだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおりゃあああッッ!!! シャイニングアタック・セカンドォォォォッッ!!!!」

 二つのシャイニングアタックは空中で激突する。
 クリスタルパワーによって形成されたシャンゼリオンの力と、まがい物が作り出したユートピアの力は同時に敵の懐に食らいつこうと牙を剥く。
 シャンゼリオンの体力からすれば、他の連中と違い、ここで負ければ死は確実だ。
 死にもの狂いの声をあげ、ユートピアを威嚇する。



 そして──二つの力は爆発する。






 ──ゼロと美希は、宇宙の星空の中を彷徨っていた。

 自分がどこにいるのかは、はっきりとは認識していなかった。
 ウルトラマンノアを探す旅は過酷を極めている。未だ、似たような景色の中で、塵のような小惑星をノアのスパークドールズと見紛うばかりである。
 外部世界の介入がなく、この宇宙が模造品の無人の世界である以上、誰かからの導きや案内は、頼れなかった。
 信じられるのは己の勘だけだった。

「クソッ……! 見つからないぜ……!」

 時の概念も、二人にとっては無意味だ。
 あるのは、擦り減っていく体力と、散漫になっていく集中力。この二つが時間の役割を果たしているかのようである。
 空を泳ぎながら思うのは、果たしてこの不安定な距離を縮める奇跡はどうすれば起こるのかという事だ。

 諦めるな、という言葉を信じる。
 それしかない。
 だから、何度も心の中で唱える。

 諦めるな。

 諦めるな。

 諦めるな。

 諦めるな────!

 そして、ふと……そんな声は、ゼロ達の中で反芻する言葉となってきた。
 無限を捜索する中で、彼ら二人の中で重なるようにして、ずっと、息をするように反響していく言葉。
 それが何度繰り返された頃か──。
 二人以外の誰かが、同じ言葉を口にした。



──諦めるな!──






 ──炸裂した!

 シャイニングアタックとシャイニングアタックのせめぎ合いは、相応のエネルギーが耐え切れずにオーバーヒートを起こし、二人の身体を吹き飛ばすような猛烈な爆風と、炸裂弾のような衝撃だけを残した。
 しかし、その余波に倒れたシャンゼリオンに対し、同じく吹き飛ばされているはずのユートピアは痛く上機嫌に、シャンゼリオンのほぼ眼前に立っていた。
 彼の身体には微塵の傷さえ見当たらない。

「……ふふふ」

 冷静沈着に、ユートピアは嗤う。
 何故彼があの攻撃の衝撃を回避する事が出来たのか……それは、ユートピアが自由に全ての戦士の力を利用する事が出来るのを踏まえれば簡単であった。
 ユートピアの側も、些か冷静さを取り戻したようである。

「ふはははははッ!!! 残念だったな、シャゼリオン……!!!!!」
「何……!?」
「見るがいい……これが、魔法少女のコアの力だ……!!」

 これまでに砕かれたコアの中に、魔法少女のコアは無かった。
 今使われたのは、時間停止能力──暁美ほむらが使用した能力である。
 加速の記憶を持つ仮面ライダーアクセルトライアルがここにいたとしても、ほむらの時間停止の中では、物言わぬオブジェになるのである。
 それだけの能力により、ユートピアは時間を停止できる数秒の時を移動に費やした。

「──そして!」

 次いで、────爆音!

「うわあああああああああッ!!」

 その爆音は、時間停止の中でユートピアが「エキストラ」どもに向けて放った膨大なエネルギーの結晶である。
 シャンゼリオンの救出に駆け出そうとしていた彼らの仲間の存在を察知し、時間停止中に攻撃を仕掛けたのだ。
 目の前にいるシャンゼリオンを除き、全員が予期せぬ攻撃に吹き飛ばされる。
 どうやら、ヴィヴィオの際の劣勢とは違い、今は形勢逆転に成功したようだ──ユートピアはそう確信した。

「くっ──!」
「……思ったよりも使い勝手が良いらしいな、この力も。
 そう、今の私は魔法少女なのだ──!」
「ほむらの力を……使ったのか!」

 シャンゼリオンも、どうやら感づいたらしい。

 ──時間停止。
 それがいかなる能力であるのかは、彼も、ほむらとの共闘を経て、今もよく知っている。
 あれに関する制限がより緩和された今、かつてシャンゼリオンが見たほむら以上に悠々とそれを使う事が可能なのである。
 ソウルジェムが濁らない以上、彼にはそんな制限さえ無力であり──そして、今は、止まった時間の中で、ほむら以上の高エネルギーの技さえも使う事が出来る。

「その通り……貴様には、この力に打ち勝つ能力などありはしない……!」

 実のところ、エターナルローブを纏っていた仮面ライダーエターナルこと響良牙のみがその時間の中で移動が可能だったのである。
 しかしながら、それも一瞬だけだ。すぐにベリアルの力に無効化される。──ユートピアにとっては、先ほどの爆破を回避できれば充分であった。

「暁美ほむらの力がいかなる物か──お前ならばわかるはずだろう?」
「そうか……ほむらの……」
「そう……お前の敗北は、絶対的だ」

 シャンゼリオンも、些かショックを受けて項垂れるように見えた。
 仲間の力が仇になった事が原因だろう。
 ユートピアは、そんな彼の姿を嘲笑う。ショックを受けている間にもユートピアは、シャンゼリオンに接近していく。

「……ぷっ」

 ──が。
 それと同時に、シャンゼリオンも吹きだすように笑った。
 涼村暁が、目の前の敵を逆に嘲笑っていたのだ。
 ユートピアは、少し顔を顰めた。



「──ははははははは!! とんでもない馬鹿だな!! お前……!!」



 シャンゼリオンは、顔を上げ接近するユートピアに向けて瞳を光らせた。
 そのマスクの下に、涼村暁の自信に満ちた表情がある事など、ユートピアは知る由もない。
 顰めた顔を元に戻して、理想郷の杖を彼に向けて振るおうとする。──所詮は、シャンゼリオンの一言など戯言だと信じて。

 それは、ユートピア自身が彼を狂人と認識しているからだった。
 彼が何を言おうとも、まともに耳を貸さず、ただ嘲笑い続けるしかできない。

「──知ってるか! このインケン野郎……!
 そいつは、ほむらの……──終わる世界を終わらせたくないっていう……そんな願いの力なんだぜ……?」

 シャンゼリオンの身体が、理想郷の動きに合わせて浮き上がっていく。──杖が持つ引力に弾きつけられているのだ。
 まるで、先端から見えない糸が伸びて、シャンゼリオンの身体をマリオネットとして動かしているようだった……。

「だったら……だったら……──」

 威勢の良い言葉とは裏腹に、シャンゼリオンが攻撃を仕掛けられる様子はない。
 ふっ、と笑ったユートピア。電撃を彼に浴びせようとする──。



「今誰よりもそれと同じ願いを持っている俺がァッ──。
 お前のそんなニセモンの力に負けるわけ、ないだろォッ……!!」



「ほざけッ!」
「ほざく……ッ!!」

 直後、シャンゼリオンの全身を駆け抜ける電撃──。
 ユートピアは、ちらりとエターナルの方を見た。こちらに急いで向かっているようだが、まだこちらに到達する距離にはない。
 シャンゼリオンの命を吸いつくすレベルまでこの一撃を続けるのは容易だ。
 他の連中は、今はまだ先ほどの一撃に倒れ伏して、起き上がるのに苦労している。
 一人ずつ消していけば充分こちらに勝機があるのは確実だった。

「──ぐあああああああああああああああああッッッ!!!!」

 シャンゼリオンの悲鳴が轟いた。
 あと一瞬──それだけ力を籠めれば、彼の全身は墨になり、全身のクリスタルは硝子細工のように砕け散っていくだろう。
 ユートピアが勝利を確信した瞬間だった。
 所詮、シャンゼリオンの言葉など──戯言だと、そう思ったに違いない。

「──がっ!」

 しかし。
 ──次の瞬間。

「……なっ」

 ユートピアの真後ろから砕かれる魔法少女のコア。
 それは、彼の腹が鋭い刃に貫かれたという事であった。

「……な、なぜ……!!」

 衝撃によって、ユートピアが理想郷の杖を振るう右腕を自然と下ろし、シャンゼリオンもまた地面に叩きつけられる。しかし、彼を襲っていた苦痛からは解放されていた。
 シャンゼリオンの変身は、他の連中よりもいち早く解けて、そこにあるのは涼村暁の半分焼けこげたような黒みがかった身体だった。
 彼は、立ち上がり、鼻の上の煤を払うと、ユートピアを睨んだ。

「……ふっ」

 そして、暁は、少し押し黙り、ユートピアを見てから、笑った。
 馬鹿のくせに、まるで嘲るように──。ピエロを見つめるように……。
 いや、馬鹿だと自覚していたからこそ、そんな暁に敗れたエリートを笑っているのかもしれない。

「ふっふっふっ……へへへへへ……!! はははははははは……────!!!!」

 腹を抱えた彼の笑いは、静かなその場所にただ一人響いた。
 誰もつられて笑う事はなかったが、暁はただ一人でも、そこで──まるで本当に狂ったように笑う事が出来るだろう。
 目の前の強敵のおかしさが堪えきれなかったのだ。
 それから、思う存分笑った彼は、ユートピアに言った。

「だーかーらー!
 言っただろうが……バーカ……!
 いくらあんたがほむらの力を使おうが……そいつはあんたには味方しないってな!」
「何を……馬鹿な……! この力に、意思などない……!!」
「だが、幸運の女神ってやつはな……他でもない、この俺についているんだ……!!」

 ユートピアの背中で、刃がそっと引き抜かれていく。
 それは、「槍」だった。ユートピアの固い体表を貫いたのは、長いロッドの先端だけに取り付けられた小さな三角の刃である。
 それが誰の仕業なのか、背後を観ずともユートピアにはわかった。



「──って言っても、全部あたしのお陰だけどな!」



「だーかーらー、幸運の女神でしょーが!」



 ──そう、ユートピアの真後ろから突き刺したのは、“佐倉杏子”であった。

 彼女の槍の金色に輝く切っ先が、ユートピアの背中から取り出される。それど同時にユートピアの身体は再生を行う。痛みはない。
 ただ、あるのは、何故、彼女がそこにいるのかという疑問だけだ。

(なん、だと……?)

 確かに、一対一、などというやり方をシャンゼリオンがするはずがない。それはわかっている。勝てば官軍というやり方であるのは承知済だ。
 一対一をやろうとしたのは、実際のところ、試合と言う形式に拘ったヴィヴィオだけである。──ユートピアにもそれはわかっていたはずである。
 だからこそ、ユートピアは周囲のエキストラを全員、攻撃して無力化したのだ。
 そして、その時、倒れ伏していたはずの彼女が“そこにいるはずがない”のである。ユートピア自身も、確かに全員が倒れた事を確認してシャンゼリオンに止めを刺そうとしていたはずである。

「何故だ……!」
「へへっ……魔法少女の力ってのは、オッサンには似合わないっつー事だよ」

 そして、杏子がそう答えた直後、もう一つの声が聞こえた。

『僕達が教えたんだよ……。
 次にお前が時間停止やトライアルを使って一斉攻撃を仕掛けた時──!!』

 真後ろを見る。──そこにいたのは、仮面ライダーダブルだ。金色に光り輝くボディを見ても、それを見紛うはずがない。
 彼らもまた、何故かこの閉鎖された時空の中で平然と動いていた。
 何故か……。



「ロッソ・ファンタズマの分身を消して、一気に飛び込もうぜってな!!」



 翔太郎の、自信に満ちた声が反響した。

「──!」

 そうか、その手があったか──と、ユートピアは、驚きながらも納得する。
 少なくとも、先ほど倒したはずのダブルと杏子に関しては「幻術」により生まれた存在だったのである。

 ロッソ・ファンタズマ。
 把握していたはずの能力だった。加頭自身も、ついさっきまで──コアを破壊される瞬間までは、使用が可能であった技の一つだ。
 ドーパントに喩えるならば、ルナドーパントに近いあの幻惑に近い。

「ロッソ・ファンタズマだと……!」

 しかし、彼女たちにそれを使う隙がどこかにあったとは到底思えなかった……。
 彼女たちは、かなりの長時間──シャンゼリオンが戦う前の時点で幻影と化し、本体はユートピアの死角に隠れていたはずである。
 最近、ロッソ・ファンタズマを取り戻したはずの彼女が、そんな長時間、魔力を行使できるはずがない。

 いつからか、と言われれば──かなり前から使用していなければ計算が合わない。
 だから、加頭はその可能性はあらかじめ除去していた。
 これまでも、伏兵として使われていた事は殆どなかったはずだ。

「貴様ら……この瞬間を、ずっと……!」
「その通り──。この時を、ずっと待ってたのさ!」

 よもや、杏子がそれだけ上手にその技を使いこなしているとは予想がつかなかった。
 そ加頭順がここで主催を代行した時点でも、「ロッソ・ファンタズマ」という技は、杏子が使う事の出来ない技であったからだ。彼女は既にその技の使い方を忘れている。
 彼女の精神が既に使用を拒んでいる状態にあったはずだ。

「……なんというッ……!」

 綿密な下準備を行って殺し合いを開いた中でも、杏子の「ロッソ・ファンタズマ」の再習得は在りえない話だったのである。
 そして、それをこんなにも上手く、ユートピアの目を欺いて利用するとは思えなかった。
 彼女は──自分の命を捨てる事さえも恐れずに、技を使っているわけだ。──いや、もしかすれば、既に“そのリスクがない”のか?
 結局、彼には何もわからなかった。

「はあああああーーーーッッ!!」

 そんな最中、仮面ライダーエターナルも飛び込んでくる。
 そう、こうしている間にも、時間は動いている。

 制限が切れた今、自分の周囲の特殊能力を無効化するエターナルのエターナルローブは厄介な代物に違いない。
 こんな一瞬の隙があれば、彼にもエターナルローブを纏う時間がやってくる。

「くっ! ユートピアが負けるはずはない……こんな未来がありうるはずがない!!」

 ──この逆境を越えられるのは、ベリアルの力のみ!

 しかし、ドーパントたちのコアも、魔法少女のコアも既に砕かれ、トリッキーな時間停止が利用できなくなっている。
 この身体にもその血の片鱗が流れているはずだが、魔法少女の力をそのままコアに流入しただけのエネルギーは、彼を留めてはくれない。

『こうなる事は目に見えていた。ユートピア……お前は、力と人との、絆に負けたんだ!!』
「そう──たとえ、99パーセントの適合率があっても、∞の絆には勝てないってわけさ!!」

 ダブルたちの声が、ユートピアの脳裏に突き刺さる。
 何度となく聞いた彼らの言葉。
 それが、指を突き立てるポーズとともに。



「『────さあ、お前の罪を、数えろッ!! 加頭順!!』」



 それを聞くのは最後だと思っていた。
 それは、自分が勝つからだ──しかし。

 今は、違う。
 その言葉を聞くのが最後になるのは──理想郷が、崩壊していくからだ。
 ベリアルエクストリームの外形から、ぼろぼろと理想郷の姿が崩れ去っていくのを加頭自身も感じていた。



「──人を愛する事がァッ、罪だとでも……罪だとでもいうのか……ッッ!!!」



 ユートピアは、かつてと同じダブルの言葉に、再び怒りを募らせる。
 何度聞いても──何度前にしても──この問いかけに、ユートピアは同じ答えを取るだろう。
 そして、その度に冴子の顔を脳裏に浮かべる。

 冴子への愛。
 その証明。
 それが、加頭の原動力。

「いくぜ……燦然!!!」

 その時、涼村暁が、変身のポーズを取った。
 燦然──それは、涼村暁がクリスタルパワーを発現させ、超光戦士シャンゼリオンとなる現象である。
 変身を解除されたくせに、再変身を行うつもりらしい。

 ──そして。
 再び、クリスタルの輝きがユートピアの前に出現した。

「超光戦士──シャンゼリオン!!」

 暁が再びシャンゼリオンに燦然するのと、仮面ライダーダブル、仮面ライダーエターナルがユートピアの周囲を囲むのはほぼ同時だった。
 佐倉杏子が、ゆっくりと身体を遠ざけて行く。──それは、これから行われる同時攻撃を回避する為だ。
 ユートピアの逃げ場を塞ぎながら向かってくる三つの影は、同時にその必殺技の名を叫んだ。



「シャイニングアタック!!」



「エターナルレクイエム!!」



「「────ゴールデンエクストリーム!!」」



 四つの声が重なり、見事なコンビネーションでユートピアの方に接近する──。
 クリスタルパワーの結晶。
 マキシマムドライブの衝撃。
 そして、人々の祈りの風。
 それらは──次の瞬間には、全ての攻撃がユートピアの身体へとぶつかっていく。

「がっ……」

 ユートピアの身体に打撃の痛みが走るよりも──早く、三つの影が貫く。
 シャンゼリオンのシャイニングアタック。
 仮面ライダーエターナルのエターナルレクイエム。
 それと同時に、仮面ライダーダブルがゴールデンエクストリームを放った。

「ぐぁっ……!!!!!!!!」

 そして、身体が再生するよりも早く起きたのは──メモリブレイクと、コアブレイク。
 残る全てのコアと、ユートピアのメモリが崩壊する。
 ユートピアドーパント・ダークエクストリームの再建された理想郷が、再びエクストリームの姿を失い、「崩れた理想郷」へと変わっていった。
 その、崩落の後さえも、また崩落していく。



 全ての理想郷が崩壊し、それは、内側から大爆発を起こしたのだった──!!



「ぬっ──ぬあああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」

 それは、ユートピアドーパントを中心に、周囲一帯を燃やし尽くすような黒い炎をあげ、その場にいた者たちに勝負の行方を知らせなかった。
 加頭が、その瞬間、何を考えていたのか──それは、誰にもわかるまい。

(この私が────!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

 ……ただ、彼の持つ力と野望は全て、その瞬間打ち砕かれた。
 それだけは確かな事実であった。
 そして。



「冴子さんんんんんんんんんんんんんんんんん────ッッッ!!!!!!!!!」



 三人──いや、四人の戦士がユートピアの身体を過ぎ去ったが、そのシルエットは爆煙の中に隠れ、誰にも視えなかった。
 彼の雄叫びが、そこにいた者たちの耳に残り続けた。






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最終更新:2016年01月06日 17:23