その4

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homuhomu_tabetai

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689 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage saga] 投稿日:2011/09/12(月) 00:22:55.95 ID:mFCHYHTY0




生い茂る草むらを抜け、やや草の少ない獣道のような場所に飛び出したりぼほむは、
再び辺りを、特に白まどの悲鳴の聞こえた方角を見遣った。

見付けた。

野良仔白まど「ミャリャァァァァァッ!?」

悲鳴を上げて草むらの中を逃げ惑う白まど、その背後に大型の、獲物を狙う目をしたバッタの姿。

野良仔りぼ「ミャロカァァッ!!」

野良仔白まど「ミャリッ!? ホ、ホミュラチャァン、ミャロォッ!」

呼び声に応えて、白まどがこちらに気付く。
草むらを縫うように逃げ惑っていた彼女の動きが、獣道を直線的に走る軌道に変わる。

助けを求める、当然の行動。
だが、それは死へと至る一本道。
草むらを縫うように走っていれば回避できたバッタの跳躍を、阻むものはない。

自分と彼女の距離は、約1メートル。
彼女とバッタの距離は、約20センチ。

バッタならば、明らかに一度の跳躍で白まどを捕らえる。

数秒後にあるのは、最愛のつがいが異形に食い荒らされる、最悪の未来。

野良仔りぼ「ミャ、ミャロカァッ、ホミャァァァァァッ!!」

名を叫び、草むらに逃げ込むように促そうとする声は言葉にならぬ悲鳴となる。

そして、りぼほむは咄嗟にその行動に打って出ていた。

スカートの中に隠されていた、己が外骨格とも言える武器を取り出し、
長い髪の毛を一本引き抜き、歯に沿わせるようにして唾液を吸わせる。

りぼほむであるならば、生まれた時から知っている当然の動作。

ほむ種上位品種の歯の裏にだけある、他の生物にとっては致死の猛毒となる体液を含んだ唾液によって、固く凝固した髪の毛。
外骨格の両端を結ぶ強力な筋にソレを番えれば、必殺の毒の弓矢が完成する。

野良仔りぼ「ホ、ホミュンッ!」キリ…ッ

だが、まともな訓練を施されていない自分にとっては、ただの威嚇道具にしかならない。

それは、目の前の狩猟者にも分かったのだろう。

成体が構えれば、それだけで飢えた大型肉食獣すら怯ませる弓矢を、所詮は狼狽え玉と一笑に付して、跳躍を始めるバッタ。

威嚇にすらならない。
最悪の未来を変える力は、自分にはない。

野良仔りぼ「ホ、ホミャァ……」ポロ……ッ

無力感に、涙が一粒落ちる。

だが――

野良仔白まど「ホミュラチャンッ、ミャロ!」

白まどの声が聞こえた。
自分の名前を叫び、あまつさえ……笑顔を見せてくれている。

そう、彼女は死の道を選んだのではない。
最初から、自分を信頼して、この道を選んだのだ。

野良仔りぼ「ホ……ミャ……ミャロカ………ホ、ホミュホミャァッ!」

信じてくれた。
まだ未熟な自分を信じて、笑顔で、名前を呼んでくれた。

野良仔りぼ「ミャロカァァァッ!!」

それだけで、自分は今、彼女を守るためなら、まだ見ぬ百獣の王すら凌駕して見せる。

野良仔りぼ「ホミュンッ!」

矢は、放たれた。

野良仔白まど「ミャロッ!」

白まどは飛び込むように倒れて体勢を低くする。

矢は頭を低くした白まどの頭上を掠め、跳躍しかけたバッタの腹に突き刺さる。
矢が腹を貫いた瞬間、バッタは前ではなく真上に跳躍して、そのまま無様に落ち、動かなくなった。

呆気なささえ感じるが、それは紛れもなく、勝利の瞬間だった。
未熟な狩人が、一人前になる瞬間。

野良仔りぼ「ホミャ………」ストン……

だが、一人前となった狩人は、勝利の余韻に浸る事なく腰を落とした。
極限の緊張状態が解け、力が抜けたのだ。

野良仔白まど「ミャロ……ホミュラチャン」

そこに、白まどが駆け付ける。

何で、こんな時間に外に出たのか。
何で、何も言わずに山に戻ろうとしたのか。
何で、何で、何で………!

野良仔りぼ「ホミュホミャ……!」

それは思わず、怒りの声になってりぼほむの口から飛び出しかけた。

だが――

野良仔白まど「ミャロォ……」スッ

怒声を放ちかけた自分の頭に、白まどがスカートの中から取り出した何かが載せられた。

野良仔りぼ「ホ、ホミュ!?」

突然の事に驚き、頭の上に載せられたソレに手を這わせる。

それは、小さな小さな一輪の野花で作られた花飾り。

野良仔白まど「ミャロォ、ホミュラチャン、ミャロミャロォ……」

野良仔りぼ「ホ、ホミュホミャァ……ミャロカ」

それは、前に見付けた小さな小さな野花だった。
昼に慰めてくれたお礼に、白まどが取って来たのだ。

しかし、運悪く、帰り道でバッタに遭遇した。

白まどが山に向かったと思って追い掛け、飛び出しただけの自分の姿も、
彼女には、絶体絶命の危機に颯爽と駆け付けたようにも見えただろう。

何だ、最初から、彼女は自分を信じてくれていたのだ。
それなのに、自分は一瞬でも、彼女の信頼を疑っていたのだ。

野良仔りぼ「ホミュ……ホ、ホミャァァァ」ポロポロ

それを思うと、涙が止まらなかった。

疑ってごめんなさい。
こんなにも信じて、愛してくれているのに……。

罪悪感が首をもたげ、さらに涙が溢れる

野良仔白まど「ミャロォ……ホミュラチャン、ミャロミャロォ///」スリスリ

すると、昼に自分がそうしたように、白まどの頬が涙を拭った。

野良仔りぼ「ミャ、ミャロカ……ホ、ホミャッ///」スリスリ ポロポロ

りぼほむも、最愛のつがいに応えるように、頬ずりを返す。

私も、あなたを愛しているよ、と。



夜光虫が、つがいを祝福するように、夜空を舞っていた。



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