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【神斬機后と鬼子の旅路】

 ZEIP-UB SVAT、又の名を神斬機后。
 だが、最も良く知られる字名は「剣王シュベーアト」であろうか。

 クルスベルグ革命事変の折に地上より姿を消したはずの神巨人《タイタン》の、地上での再度の起動。
 これがいかな意味を持つものか、当人すら知る由もない。

 願わくば、その目覚めが、幸福に彩られんことを。


神斬機后と鬼子の旅路



「・・・訳が分からん」
 新天地のとある港湾街を歩きつつぼやくのは、鬼人種《ギガス》の少年ログ=ガド。
「そもそも何で俺が、こんな大それたモノを・・・?」
 彼の目下の悩みは、昨晩手にした「大それたモノ」に起因している。
「心中察するが、まずは付いて来い」
「つかザンマさん、仕事ほっぽり出して行っちゃっていいんですかい?」
 ログと「大それたモノ」を先導する狼人の聖騎士団、ザンマは、ログの問いかけに
「問題ない。 私はそもそも主に言われて出向している身故、折々に戻るのは当然の事。 それに、この地で外様の紋を掲げての揉め事処理は、角が立つこともあるのでな」
 とサラリと返す。
 聖騎士団でありながら装束にラ・ムール国印を掲げるザンマは、新天地という土地柄の都合で、自分が関わることで利権が絡みうる事態をややこしくしてしまう可能性を自覚している。
 それ故に、昨晩の放火強盗騒ぎについては地元に聡い聖騎士団員に任せて出てきた、という次第である。

「休眠停止《スタンバイ・スリープ》に入ってより、もう数百年の時が経ちましたが・・・今の世界は当時知る由もないものが存在しているのですね」
「生まれる前にはもう『大ゲート』があった俺らからすれば珍しくないものも、アトにとっちゃ珍しいものばっかりか」
「そうですね、ログの言うとおりです。 我らが父達が開門せし扉の向こうの世界、そこから流入する産物、そのいずれもが私にとっては未知そのものです」
 振り返り、眺め、見返すたびに目に入る異界の物品が珍しい、とばかりに辺りを見回すのは、アトと呼ばれた、ログに付き従う一人の乙女。
 アトが何にでも興味を引かれる子供のように振り返る様を横目に、ログはザンマに再度問いかける。
「さっきの話、あれってマジなんすかね?」
「私から言えるのは、恐らくは、という程度の物だ。 不確実なまま話したくないが、今の君らに事情を伝えるには、私の持つ情報は少なすぎる」
「でも、アト自身もそう言ってたとはいえ、俺にはまだ・・・」
 ログがどうしても疑念を拭えないのは無理もない。 アトが昨晩オルニト貴族が投げ捨てて、何の因果かその手に転がってきた、巧芸としても武器としても微妙な刀剣だったのだから。

 ザンマに渡されたエルフ女性用の衣服を、経緯不明ながら全裸で寝ていた女性に着るよう渡して部屋を出たログ。
 どうしたものかと思案するも、それは部屋の前で待ったままだったザンマの存在に中断を余儀なくされる。
「あ、えと、昨日はいったい何が・・・」
「黒装束なら気にすることはない。 裏手に埋まってる。 続きは彼女が表に出られる状態になってから、食堂で話すとしよう」
「さ、さいですか・・・ってアンタ何入ろうとしてんの!?」
「妻の居る身で他の女に懸想するほど愚昧でもない。 それに推論通りなら、隔世の間に衣服の文化が変わっている可能性もあるからな」
「だからっつっていいわきゃねーだろー!」
 ザンマの堂々とした態度に痺れ憧れつつも部屋への侵入は制止しようとするログ。
 その時扉は開き、
「私の知っている衣服の記録と同一であれば、これで問題ないと思うのですが・・・如何でしょうか?」
 惨事になることなく衣服を身に着けた少女が出てきた。
「よし、ならば食堂へ行こうか。 君たちの分も食事を用意させよう」
 ザンマに導かれるまま、起き抜けから疲労が拭えないログと、そんなログを疑問符混じりの目線で見つめる少女は聖騎士団派出所の食堂へ向かう。

「さて、それでは腹も膨れて頭も回転してきただろうところで、話をしようか」
「は、はぁ・・・」
 ただ飯にありつけた有難味を噛みしめる間もなく、ザンマは二人に相対し、口火を切る。
「そちらの方、師モウライの言と昨日の事情から察するに、人ならざる身、いや神域の身と申した方がよろしいかな?」
「御推察の通りにございます。 我が身は父セダル・ヌダにより創建されし身、名をシュヴェーアトと申しますれば」
「シュベーアト、って、えと、どこかで・・・」
「『剣王』の名を得し十の神巨人の一柱。 地上に降り立った史上最強にして最も壮麗明美なる刃。 クルスベルグ革命動乱という、伝承の闇に消えた存在だな」
「お詳しいのですね」
「我が主と秘地秘境巡りなどしていれば、自然と神話伝承に関する知識と生存の知恵が身に付くものでな」
「・・・いやいや二人して御冗談を」
「ログ、と言ったか。 そろそろ呆けるには時間も経ちすぎている。 昨晩君に渡したあの剣、それが彼女だ」
 突拍子もない話に、ログの思考は上手く回ってくれない。 よもや伝承の存在が今真横に居ようなどと、どうして信じられようか?
「つかザンマさん、でしたっけ? アンタはどうしてそんな自然に受け止めてるんスか?」
「巨人種《タイタニア》が今なお存在していることは我が主より伺っている。 それに、鉄鋼奴を切り伏せ、守護樹龍《ガルディオ・ナガス》と接触するような機会もあれば、この程度の事に動じるのも馬鹿馬鹿しくなる」
「今なんと仰られました!? 私と同じ機人が、どこかに居るのですか!」
「遥か西、余人には立ち入ることも難しい、白銀の秘境に居を構えていると言っていた。 我が主に伺えば、分かることもあるだろう」
「あの、ザンマ様、その主殿への御目通りは、叶いますでしょうか?」
「アイツは基本的に暇だ。 国策事業の鼓舞やら神域の所用、試練で出払ってなければ、面会の機会もあるだろう」
「そうなのですか・・・どちらに伺えば、お会いできましょうか? 是非お伺いして、同胞の話を伺いたいのです!」
 少女、シュベーアトは本気である。 数百年の時の果てに同胞に会えるかも知れないという期待が、態度から溢れんばかりに零れている。
「ということだが、ログ、君はどうする?」
「ログ様、一緒に来ていただけませんか?」
 前門の少女後門の狼とはまさにこの事。 置いてけ堀にされたと思いきや外堀は埋まっていたという事態に、ログは降参せざるを得ない。
「行くにしても、どこにどうやって?」
 ログがザンマに尋ねると、
「目的地はラ・ムール王都マカダキ・ラ・ムール。 3日後に出る船に乗って、後は竜馬車か遡上船で数日の距離だ。 とは言え、ログは職業柄国外渡航歴はあるだろうが、シュベーアトはそうもいくまい」
「そりゃまぁ、そうっすけど・・・」
「それに、だ。昨晩の件もある。 異界に曰く『乗りかかった船』ではないが、王都までの道中、共に行かせてもらおう」
「何か、事情に流されてるだけの気がするなぁ俺・・・」
 目的地ラ・ムールを横断するルミコープ大河で繰り広げられる名物試練「激流下り」に巻き込まれたかの如く事態の推移に抗えないログは、最後はシュベーアトの喜色満面の顔に観念し、帰宅を先延ばしにしてラ・ムールへ向かうことにした。

 かくして、2人と1機は馬車での移動で港湾街を訪れ、先ほどに至る。
 道中でログとアトはそれなりに親睦を深め、名前で呼び合う程度の仲にはなったようだ。
「ラ・ムールか・・・三国臨境に御用聞に行くことは偶にあったけど、こんな用事で行くことになるなんてなぁ」
「砂漠の民には、動乱の折にも助けられました。 尤も、彼らとしては飛び火が困るからという理由が大きかったようですけれどね」
「ふぅん、昔は大変だったんだなぁ」
「あの時に皆で勝ち取った平和が今も続いているというだけで、私たちがやってきたことが間違いではなかったと確信できる。 そのことが素晴らしいのです」
 海の向こうにあるかつての故国を偲ぶアトの横顔に、ログはかける言葉を失うほどに見入っていた。
「御両人、青春真っ盛りも大概にしてもらえないか。 青春を謳歌することと乗船を放棄することは等価ではないのだからな」
「ぬっく・・・!」
「失礼いたしました。 取り急ぎ、参りましょう」
 ザンマの呼びかけに、ログとアトは急ぎこれから乗り込む船を目指した。

 船には無事乗り込み、客室に荷物をまとめたところで、「部屋の番はしてやるからアトに船内でも案内して来い」とザンマに追い出された両名は、ひとまず甲板に出て潮風を浴びることにした。
「ログ、お伺いしたいことがあるのですが」
「ん? また何か珍しいモノでも見つけたかい?」
「あの・・・先ほど水夫が仰っていた『すらヴぃあ』とは、一体何なのでしょう?」 
「いや、スラヴィアはスラヴィアだけど・・・?」
「私の記録には、この挟海には特定国家に属せずあまねくヒトが集い憩う、スラフ島という保養地があると残っていますが」
「あー・・・そういうことか。 多分ザンマさんの方が詳しいと思うんだけど、その記録の中の『スラフ島』ってのはもう無いんだ」
「半ば不可侵となっておりましたし、近隣に龍神様を抱く海都があります故、そうそう侵攻など出来ないはずですが・・・」
「今のスラフ島・・・スラヴィアは、死神モルテと屍姫サミュラを筆頭とする死徒《スラヴィアン》の国だよ。 出来てすぐの時に世界が一丸となって抗戦したけどスラヴィアが粘り勝ちして、そのあとゆっくりじっくりと世界の仲間入りをしたって話さ」
「眠っている間に、そのような事になっていたのですか」
「でもあの国、結構いいとこだぜ? 上得意のバーバルディア侯もそうだけど、気さくなヒトが多いしな」
「そうなのですか・・・これも、時代の格差、なのでしょうね」
 アトはまた、遠い過去と今の隔たりに思いを巡らせる。

 爽やかな潮風とは対照的に重苦しい空気を解消するだけの甲斐性はまだ持ち合わせていないログとしては、この空気をどうしたものかと思案せざるを得ないところではあったが、アトが自発的に「船内を見たい」と言い出してくれたことが、彼にとっては僥倖となった。
 そんな折、妙にもこもこしい集団に出くわすことになる。
「ログ、あれは・・・着ぐるみ、なのでしょうか?」
「ああ、アレがさっき話した死徒さ。 太陽の光を浴びると滅んじまうから、どうしても昼間に表に出たいときはあんなふうに、完全遮光に闇精霊を充填した全身着ぐるみを着るんだ」
「これは・・・何とも言えないですね」
「まぁ実際のところ、アレ1着作るにも結構値が張るって話だし、よっぽどの物好きか、異界と出入りしてて昼間のこっち側に来ざるを得ない都合のあるヤツしか必要ないものだけどな」
「先ほども仰っていましたが、特殊な体質を除けば、皆変わらず普通のヒトなのですね」
「戦争したのも昔の話だし、今じゃスラヴィアから世界に菓子とか発信する時代なんだぜ?」
「情報の整理と連結がうまくいかない話ばかりですね・・・収集すべき事象が多すぎて、くらくらしそうです」
「あんまり思いつめないでさ、少しずつでいいんじゃないか?」
「それもそうですね。 では一度、部屋に戻りましょうか。 ザンマ様にもお伺いしたいことが御座いますし」
「ああ、そうしよう」
 夕焼けの赤が客船を照らし出す前に、二人は客室へ戻ることにした。

 部屋で食事を取りながら、アトは今の世界情勢についてザンマに尋ねる。 クルスベルグ帝政時代以降の主要な史実についてザンマが語り、それに対してアトが確認や質問を随時投げるその様子は、半ば歴史の授業の時間。
 年頃の男子らしく勉学についてはあまり詳しくない上に挟む言葉もないログは、ただただ黙って授業を聞いているより他無い。
 食事が終わった後も近現代史の時間は続いたが、ログだけは早々に退散して、再度部屋の外へ出ることにした。 すでに日は落ち、一人思案するには程よい頃合となっていた。
「にしても、何でこんなことになっちまったんだろうなぁ・・・」
 思わず吐き出されたログの問いに答える者は、天上にすら居なかった。

 新天地の港湾街よりスラヴィアを経由しての航路、3日強の行程を経て、客船はラ・ムール海の玄関口となるコマルクル・カ・ムールに辿り着く。
「漸くの到着か。 出立の準備は問題ないな?」
「大丈夫っす」
「私には、頂いたこの服以外の持ち合わせが御座いませんので」
「よし、ならば下船するとしよう」
 乗船するまで同様、ザンマが先導する形で一行はラ・ムールに降り立つ。
「うひぃ・・・やっぱりあっちぃなぁ」
「以前はこれほどでも無かったはずですが・・・排熱効率を向上させないと」
 熱砂の大地が訪れた旅人を歓迎するのは、何も熱波と陽光のみではない。
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 口を訊いたら最後、生涯付きまとわれることになる地上最悪の精霊による熱烈歓迎である。
 職業柄その手の知識は持ち合わせているログは、試練の精霊の甘言に一切耳を貸さずにぺちぺちと払い落としていくが、アトはと言えば、話しかけてきた精霊へ軽く頭を下げている。
「先を急ぐ身ですので。 御免なさいね?」
「っておぉい! ソイツらにそんな事言ったら!」
「いや、何ら問題なかろう」
「ちょ、え?」
「神造の身たる彼女に、試練を課せる精霊など居るはずもない。 精霊よりさらに神に近い存在、我が主が言うには神霊と言うそうだが、あるいは天上の陽光ならば話は異なろうが」
 寄り付くことをすんなり諦めて去っていく精霊たちの様子に、ログはザンマの言葉を真実味を持って理解する。
「・・・ところで、ザンマさんにも精霊どもは寄り付いてきませんね?」
「なに、精霊が課す程度の、生死を賭ける試練ならあらかた終らせたからな」
「ほへぇ・・・」
 数多の試練を潜り抜けた猛者を人は「突破者」「錬達者」等と呼ぶが、その現物を目にしたログからは感嘆の言葉しか漏れてこない。
「先を急ぐぞ。 砂漠慣れしていない君達には悪いが、状況を鑑みて陸路を取らせてもらう。 幸い船上では何事もなかったが、この先も何も無いとは限らないからな」
「心得ました。 現世に不慣れな身故、判断はザンマ様とログにお任せいたします」
「そうするっきゃないもんなぁ・・・」
 一行は、一般の旅行客が王都行に使うものとは異なるフリーの旅客竜馬車を用立てて、砂漠の中央に座する王都マカダキ・ラ・ムールを目指す。


 旅客竜馬車は赤熱の大地をひた走る。
 道中の半ばほど、周囲に集落もなく只管に砂と蜃気楼だけが広がる視界に、不意に異物が混入する。
「やはりと言うか、何というか。 観光経路を外れたのは正解だったな。 主人、手間を掛けるぞ」
 ザンマが旅客竜馬車の御者に告げる。 視界に混じる異物がその姿を鮮明にすれば、竜馬に跨る黒装束が3人。
「あれって、やっぱり・・・」
「間違いなく、刺客ですね。 それと、この地鳴りにも似た音は・・・」
 ログとアトが刺客を視認し語り合うところに、ザンマが割り込む。
「あれはどうでもいいのだがな。 問題は下だ。 奴ら、砂漠大線虫《ワームビースト》を引き連れている。 恐らく三人のうち一人は虫類と交信が出来るか、虫人種《インセクター》なのだろう」
「なぁお客人、ワシは逃げてもええか?」
「すまんな御主人。 礼は弾む。 暫し付き合え」
「今朝愛用の椀が割れたときに嫌な予感がしたんじゃぁ!」
 照りつける陽光があたかも「これぞ試練」と語るかのように降り注ぐ中、刺客3人に導かれるように砂漠大線虫がその巨躯を露わにする。
「・・・よし。 主人、兎に角全速前進だ。 ただ前だけを見て突き進め」
「ザンマ様、討たないのですか!?」
 ザンマの判断にアトは当然の疑念を投げ返すが、
「では聞くが、アト、後々まで考えた上で講じるべき策が、この場での打倒だと思うか? 君自身の存在が現代において持つ意味とログの器量、この二点に留意し再度咀嚼した上で返答して欲しい」
「それは・・・」
 神巨人がその持てる力を発揮しうるのは、3種あると言われる形態の内、真なる神の姿たる巨神形態《エノーメ・オブリク》と象徴たる武具へと変幻した神武形態《ザン・オブリク》。 人界活動のためヒトの姿を模した擬人形態《ペルゾネン・オブリク》では、並のヒトより身体機能が優れている程度で、超人的な活動は難しい。
 巨神形態を取れば「復活の神巨人ここにあり」と宣伝するようなもので最悪ラ・ムールとクルスベルグとの国交に問題が生じる可能性を孕み、神武形態ではそれを唯一扱いうる神武装具者《エンゲージ》であるログに神武より発せられる爆発的で濃密な神気《オーラ》を制御するだけの器量がない。
 先にログが片腕の黒装束に襲われた際、休眠停止からの再起動と同時に装具契《エンゲージング》と神武形態への移行を図るも、鬼人種とはいえ特別神通力に卓越しているわけでもなく一般人同然のログは、絶大な神気の奔流に呑まれ思考を強制シャットダウンせざるを得なくなってしまった。
 つまるところ、アトは強力すぎるが故に真価を発揮できない状況にある。
 ログは身体的には頑健な鬼人種ではあるが、心身に異常なく殺意に満ちた暗殺者や砂漠大線虫と正面から相対するには圧倒的に技量と経験が不足しており、御者は言うまでもない。
 実質戦力1名の一行が相対するのに、暗殺者3名に砂漠大線虫1体という構成は、犠牲無く勝利を収めるのは難しい。 それ故に、少しでも王都に近づき、暗殺者が最も嫌う衆人環視を利用するのが目下の策となる。 アトの結論はこうである。
「しかし、王都まで走り続けることが出来ますでしょうか?」
「何を言っている? 無駄なとばっちりを受けないために離れるだけだ。 ああいう面倒事は専門家に処理させればいい」
 ザンマがそう言うが早く、砂丘の偽装より姿を現した、砂漠での巨獣狩りを生業とするハンター集団の放つ一斉放火が砂漠大線虫の身に突き刺さる。
「何だアイツら!?」
「砂漠大線虫や大甲虫《メガクロウラー》から採れる甲殻や爪牙などは、質次第ではひと財産になるからな。 ああいう一攫千金と命を秤にかけて前者に傾く手合いが砂漠には点在している。 こういう状況で利用しない手は無いのでな」
「つか、あんなヤツらがいるって良く分かったっすね?」
「これでも狼人だ。 伊達に鼻が利くわけではない」
 去りゆく背後からは、おい何か変なヤツらがいるぞ、ついでだから身包み剥ぐか、などと物騒な物言いが聞こえてきた気がするが、きっと砂漠の蜃気楼か何かだろう。
 次第に旅客竜馬車は全力走から通常走行へ戻り、眼前には王城と砂防の巨壁がその姿を現し始める。

 程なくして辿り着いた、ラ・ムール王都マカダキ・ラ・ムール。
 御者の「畜生、アンタらの顔覚えたからな! もう絶対アンタらは乗せないからな! 絶対だからな!」という涙ながらに別れを惜しむ言葉をかけられ、一行は王都の目抜き通りへと歩を進める。
「流石は世界に名高い商業の都、1年くらい前に来た時よりも、またモノも店も増えてるな」
「凄いにぎわいですね・・・ヒトの営みがこの地に集約されているのが良く分かります」
 玄関口も兼ねる商業区の喧騒に感嘆する二人を余所に、ザンマはただ
「街はあとでも見る機会はある。 まずは付いて来い」
 とだけ告げて、王都区画の中央、王城へと向けて歩き出す。
「ところで、ザンマ様。 お仕えしている方に会わせて頂けるという事でしたが」
「分かっている。 付いて来れば分かる」
「でも、この先ってお城っすよ?」
 分かっているなら言う必要はないとばかりに、ザンマは無言を返答として一切の迷いなく王城へと踏み入ってしまう。
「入って、いいのか・・・?」
「ザンマ様は付いて来いと仰られておりますし」
 結局ザンマの後に続くしかない二人も、王城の門を潜る。

「これが、ラ・ムール王城の中かぁ」
「作りはともかくとして、全体から何かしら神気に近いものを感じます」
 一般的な国外からの渡航者では立ち入る理由も機会もない施設という物珍しさに目を奪われるログと、施設全体から発せられる奇異な神気に気を取られるアトを余所に、ザンマはただただ目的地を目指す。
「・・・つか、どこまで行くんです?」
「付いて来れば分かる・・・と、お前はここで何をしている」
 王城の数ある門扉の中でも一際剛健な扉の前で、アホみたいにデカい斧を背負った熊っぽいフォルムで白黒の着ぐるみを連れ、菓子を頬張る猫人にザンマは声をかける。
「おうザンマ、お勤め御苦労さん。 ホレ、スラヴィア土産だ。 <向こう側>の『しゅーくりーむ』っつー菓子をこっちの食材で再現したってシロモノでな、結構ウマいぞ?」
「そんな事はどうでもいい。 それより今は客人が居る。 お前に話を聞きたいそうでな、報告の序に連れてきた」
「ったく、何だってそう真面目なんかねぇ。 ま、いいや。 そっちの客人共々まぁ入れや」
 猫人は門扉を足で開け、ずかずかと入り込むや否や、どう見ても玉座にしか見えない椅子に座りこんで菓子の続きを食い始める。
「つーわけで、だ。 おっす、おらカー・ラ・ムール。 一応そこのザンマのダチ兼上司だ。 んじゃ、お話ってやつをしようじゃないか、『神斬機后《シュベーアト》』殿?」
 王を自称する猫人の眩しく輝く左目が、ログとアトを射抜いた。


  • タイタンの登場から予想外に国の紹介と面白い流れ。キャラや産業の流れの中で出てくるイレヴンズゲート語句など色濃い面もありますが登場する面々も濃いので親和性が高いですね -- (名無しさん) 2014-04-20 19:11:35
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最終更新:2014年04月20日 19:07