※投稿者は作者とは別人です
228 :外伝:2008/10/26(日) 22:37:46 ID:sjtC5X1.0
「この通行証は認められん」
「でもリプラック司令のサインがありますよ、ほらココに」
「そのような者、本官は知らん!」
横柄の国から横柄を広めに来たような口調の憲兵の台詞を聞いて、アーニスは溜息を吐いた。
三日前ツンデレラの第16竜騎兵連隊に12騎のワイバーンを送り届けたアーニスは、編隊を先導して
来たワイバーンでモエンタに飛んで帰る予定だったのだが、戦隊司令に帰還用のワイバーンを徴発され、
殴り書きの通行証一枚持たされて基地を追い出されてしまった。
そして負傷兵を後送する艀に便乗してドルプネズ運河を下り、ポルクイシキの街でモエンタ行きの馬車
を探していたところで絵に描いたような悪役顔の野戦憲兵に捕まってしまったのだ。
「お前は脱走兵であるな?本官の目はフシアナではないぞ」
いやフシアナだろといいかけたアーニスは、ジロリと睨まれ冷たい汗を流す。
マオンド人にあらずば人にあらずとまで言われるマオンドの差別主義は、マオンド人の中でも厳格な
階級制度として適応されている。
そして平民の軍属が非マオンド人に接する態度は二種類に分けられる。
一つは同じ貴族階級に虐げられる仲間として比較的穏健な態度で接するというもの。
残念ながらこれは少数派だ。
もう一つは貴族に虐げられた鬱憤をより弱い立場の者にぶつけるというもの。
アーニスが遭遇したのは後者の典型だった。
悪いことにプラチナブロンドの髪とエメラルドグリーンの瞳を持つアーニスは、メイヤー山脈に
住む少数民族ロワ族の特徴を余すところ無く示しており、更に悪いことにアーニスはどこのミスコン
に出しても三位以内に入選すること間違いなしのとびきりの美少女だった。
「脱走兵は死刑である、吊るし首である」
二人の憲兵が両側からアーニスの腕を拘束する。
「本来なら即死刑執行であるが本官は情に厚い男であるからして、取り調べの態度如何で情状酌量の
余地もないこともないのである」
革の飛行服を押し上げる豊かな胸の膨らみに舐めるような視線を這わせ、好色な笑みを浮かべる憲兵達。
明らかにアーニスを“野戦用マットレス(戦地で非公式に徴用した慰安婦の隠語)”として使用する
つもりである。
街外れにある煉瓦造りの倉庫を改装した憲兵詰所兼留置場、その地下室にそいやそいやと掛け声を
掛けながらアーニスを担ぎ込む三人の憲兵。
ワイバーンの手綱を握らせれば一騎当千のアーニスも、陸の上で屈強な男三人が相手では如何とも
し難い。
「お、思い出した。実はワタクシすっごくタチの悪い性病患ってるんです!」
「フッ、下手な嘘は止すのである。本官の生娘センサーがホレ、このとおりビンビンにいきり立って
いるのである」
「イヤーッ!なんかグレイトに脈打ってるー!?!」
229 :外伝:2008/10/26(日) 22:38:59 ID:sjtC5X1.0
哀れアーニス、獣のような男達に純潔を奪われてしまうのかと思われたその時、轟音とともに建物が
震動した。
一瞬遅れて崩れた天井が図ったように憲兵達の頭上に降り注ぐ。
「これはひょっとしてチャンス?」
うつ伏せに倒れた憲兵を跨いで出口に向かおうとしたアーニスのブーツを、憲兵の腕が掴む。
「逃がさないのである」
「うわ、勤勉な人!」
だが再度の激震により一階から降ってきた石炭ストーブが憲兵を直撃する。
混乱に乗じて詰所から脱出したアーニスが見たものは、グロスシーブルーに塗られたずんぐりした
単発機とその胴体と主翼に描かれた白い星だった
「あれは…」
その日、第26護衛空母部隊第3護衛空母群“タフィ3”の三隻の護衛空母から発進したFM-2
ワイルドキャット18機は右の主翼に58gal容量のドロップタンクを懸架し、左の主翼に
500ポンド爆弾一発を懸架して往復600マイルを飛び、ポルクイシキの兵站施設に爆撃と機銃掃射
を加えた。
「あの子がいたぞ!」
任務を終え母艦に帰投する途中でベイソン少尉の無線に興奮したゼオラ少尉の声が飛び込んで来た。
「あの子って?」
「トムナン湾でワイバーンの編隊を先導してた銀髪のカワイコちゃんだよ!」
そう言われてベイソンも思い出した。
あの時は4機のワイルドキャットを相手に1騎で渡り合った見事な戦いぶりと、その正体が清楚な
美少女だったという意外性からパイロット仲間の間で大いに話題になったものだ。
「いや~相変わらずいい体してたな~」
「お前なあ…」
思わず呆れるベイソンだったが続くゼオラの台詞は思いのほかシリアスだった。
「なあ、今度空であの子に会ったらお前、撃てるか?」
「撃つべきなんだろうが…本音を言うと撃ちたくない」
「俺もだ…」
その後VC-10を代表するムードメーカー二人は、珍しく母艦に着くまで一言も発しなかった。
228 :外伝:2008/10/26(日) 22:37:46 ID:sjtC5X1.0
「この通行証は認められん」
「でもリプラック司令のサインがありますよ、ほらココに」
「そのような者、本官は知らん!」
横柄の国から横柄を広めに来たような口調の憲兵の台詞を聞いて、アーニスは溜息を吐いた。
三日前ツンデレラの第16竜騎兵連隊に12騎のワイバーンを送り届けたアーニスは、編隊を先導して
来たワイバーンでモエンタに飛んで帰る予定だったのだが、戦隊司令に帰還用のワイバーンを徴発され、
殴り書きの通行証一枚持たされて基地を追い出されてしまった。
そして負傷兵を後送する艀に便乗してドルプネズ運河を下り、ポルクイシキの街でモエンタ行きの馬車
を探していたところで絵に描いたような悪役顔の野戦憲兵に捕まってしまったのだ。
「お前は脱走兵であるな?本官の目はフシアナではないぞ」
いやフシアナだろといいかけたアーニスは、ジロリと睨まれ冷たい汗を流す。
マオンド人にあらずば人にあらずとまで言われるマオンドの差別主義は、マオンド人の中でも厳格な
階級制度として適応されている。
そして平民の軍属が非マオンド人に接する態度は二種類に分けられる。
一つは同じ貴族階級に虐げられる仲間として比較的穏健な態度で接するというもの。
残念ながらこれは少数派だ。
もう一つは貴族に虐げられた鬱憤をより弱い立場の者にぶつけるというもの。
アーニスが遭遇したのは後者の典型だった。
悪いことにプラチナブロンドの髪とエメラルドグリーンの瞳を持つアーニスは、メイヤー山脈に
住む少数民族ロワ族の特徴を余すところ無く示しており、更に悪いことにアーニスはどこのミスコン
に出しても三位以内に入選すること間違いなしのとびきりの美少女だった。
「脱走兵は死刑である、吊るし首である」
二人の憲兵が両側からアーニスの腕を拘束する。
「本来なら即死刑執行であるが本官は情に厚い男であるからして、取り調べの態度如何で情状酌量の
余地もないこともないのである」
革の飛行服を押し上げる豊かな胸の膨らみに舐めるような視線を這わせ、好色な笑みを浮かべる憲兵達。
明らかにアーニスを“野戦用マットレス(戦地で非公式に徴用した慰安婦の隠語)”として使用する
つもりである。
街外れにある煉瓦造りの倉庫を改装した憲兵詰所兼留置場、その地下室にそいやそいやと掛け声を
掛けながらアーニスを担ぎ込む三人の憲兵。
ワイバーンの手綱を握らせれば一騎当千のアーニスも、陸の上で屈強な男三人が相手では如何とも
し難い。
「お、思い出した。実はワタクシすっごくタチの悪い性病患ってるんです!」
「フッ、下手な嘘は止すのである。本官の生娘センサーがホレ、このとおりビンビンにいきり立って
いるのである」
「イヤーッ!なんかグレイトに脈打ってるー!?!」
229 :外伝:2008/10/26(日) 22:38:59 ID:sjtC5X1.0
哀れアーニス、獣のような男達に純潔を奪われてしまうのかと思われたその時、轟音とともに建物が
震動した。
一瞬遅れて崩れた天井が図ったように憲兵達の頭上に降り注ぐ。
「これはひょっとしてチャンス?」
うつ伏せに倒れた憲兵を跨いで出口に向かおうとしたアーニスのブーツを、憲兵の腕が掴む。
「逃がさないのである」
「うわ、勤勉な人!」
だが再度の激震により一階から降ってきた石炭ストーブが憲兵を直撃する。
混乱に乗じて詰所から脱出したアーニスが見たものは、グロスシーブルーに塗られたずんぐりした
単発機とその胴体と主翼に描かれた白い星だった
「あれは…」
その日、第26護衛空母部隊第3護衛空母群“タフィ3”の三隻の護衛空母から発進したFM-2
ワイルドキャット18機は右の主翼に58gal容量のドロップタンクを懸架し、左の主翼に
500ポンド爆弾一発を懸架して往復600マイルを飛び、ポルクイシキの兵站施設に爆撃と機銃掃射
を加えた。
「あの子がいたぞ!」
任務を終え母艦に帰投する途中でベイソン少尉の無線に興奮したゼオラ少尉の声が飛び込んで来た。
「あの子って?」
「トムナン湾でワイバーンの編隊を先導してた銀髪のカワイコちゃんだよ!」
そう言われてベイソンも思い出した。
あの時は4機のワイルドキャットを相手に1騎で渡り合った見事な戦いぶりと、その正体が清楚な
美少女だったという意外性からパイロット仲間の間で大いに話題になったものだ。
「いや~相変わらずいい体してたな~」
「お前なあ…」
思わず呆れるベイソンだったが続くゼオラの台詞は思いのほかシリアスだった。
「なあ、今度空であの子に会ったらお前、撃てるか?」
「撃つべきなんだろうが…本音を言うと撃ちたくない」
「俺もだ…」
その後VC-10を代表するムードメーカー二人は、珍しく母艦に着くまで一言も発しなかった。