自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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オレンジ色に染まる空から、ヴァイアン号に向けて一粒の黒い点が向かってきた。
鳥?いや、鳥にしては異様だ。それに、この不思議な音は一体なんだ?
フランクスは頭の中が謎で一杯だった。やがて、その「鳥」が高度を下げてきた。それは
鳥らしからぬ轟音をあげ、高度を下げながらヴァイアン号の左舷から向かってきた。
グオオオオオー!という何かの唸り声のようなものが徐々に大きくなっていく。彼はそれを
凝視した。それは、先端に何かが取り付けられ、物凄い勢いで回転している。
「あの回転しているのはなんだ?羽か?」
彼はそう呟いた。「鳥」はもの凄い勢いでヴァイアン号の左舷から右舷上空を飛びぬけていった。
普通の鳥では絶対にあり得ない速さだ。それに、バーマント公国軍が所有する高速の飛空挺よりも
幾分早いように感じられる。
フランクスは「鳥」が通り過ぎる際、その全体像を見ることができた。その「鳥」は太い胴体をもち、
その真ん中に長い真っ直ぐな剣のようなものを串刺しにしたかのように取り付けられ、その胴体の上に
細いかごのようなものが乗っかるようにしておかれている。印象としてはごつく、美しいとは言えなかったが
、それでもある程度の力強さと安定感が見られた。
それに、細長いかごの中には3つの人影、その内の一人に目が合った。眼鏡のようなものを取り付けていたが、
その目は青かった。

「なっ、なんだあありゃあ!」
マストの上で部下の見張りと共にその「鳥」を通り過ぎるのを見たプラットン船長は仰天してそう叫んだ。
仰天するのも無理は無い。見たことも無い飛行物体が400キロを超える猛スピードで通り過ぎたのだ。
その韋駄天ぶりは彼のみならず、乗員を驚かせるには十分だった。

「船長!通り過ぎていた船影がまた近づいてきました!」
見張りがそう叫ぶと、彼は望遠鏡を船首方向に向けた。先程は彼らの船から逃げるように
向きを変えたのだが、不思議な飛行物体を飛ばすと、今度は彼らのほうに舳先を向けたのである。
右舷の方向からグオオオー!という獣の唸り声にも似た音が聞こえてきた。
「また来たぞ!」
下から乗員の上ずった声が聞こえてきた。彼が視線を向けた時、その異様な鳥は、轟音を上げて
船上を通り過ぎていった。
船上を通り過ぎると、今度は上昇し始めた。上昇の仕方も早い。それどころか、鳥なんてものでは
なかった。
「あれは・・・・・一体何だ?」
彼は困惑に満ちた表情で呟く。額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「船長!」
下からフランクス将軍の声が聞こえてきた。
「なんですか!閣下!」
「ここは白旗を揚げたほうがいいぞ!私の勘からして、彼らはいきり立ってるかも知れん!」
その言葉に彼はぎょっとした。
「いきり立ってる!?何でそんな事が分かるんですか!」
「彼らの目を見た!かすかとだが、どこか恨みを持っている目だった!ここは自分たちが敵ではない
ことを見せるしかない!」
「そうです!早く白旗をあげましょう!」
フランクスは、いつの間にかリーソン魔道師がいることに気が付いた。
「君?いつからここにいた?確か船倉で寝ていたんじゃ。」
「あんな轟音が聞こえれば眠気も吹っ飛びますよ。せっかく酔い止めが効いて
眠りやすくなってたのに。」
上のマストからプラットン船長の声が聞こえてきた。

「いいでしょう!白旗をあげましょう!目的地に着かんうちに沈められたらたまり
ませんからね!」
プラットン船長がそう言うと、マストからプラットンが下りてきて、下の船員たちと共に
白旗の代わりになるのを探し始めた。

「閣下、あの飛んでいるものは?」
リーソン魔道師が怪訝な表情で飛んでいる異様な鳥を指差した。その「鳥」はグオングオンと音を立てながら
ヴァイアン号の上空を旋回していた。
「おれもハッキリとは分からんな。だが言えることは、あれがこの世のものではないと言う事だ。」
「この世の物ではない・・・・・」
彼女はその言葉を呟きながら上空の「鳥」に見入っていた。
「だとすると、私達の召喚は成功したと言うことですね。」
「ああ、その通りだ。」
彼がそう頷いた時、
「閣下!白いものを見つけました!」
後ろから声がかかった。トーンがやけに高い声、眼鏡の魔道師リリア・フレイドの
ものだ。メンバーの中では一番若く、19歳だ。
「ああ、ご苦労。」
彼がそう言って振り返ろうとしたとき、ドサッ!という何かが倒れる音がした。

振り返ってみるとフレイド魔道師が倒れていた。
「イタタタタタ、邪魔なものに引っかかってしまったのかなあ。」
その言葉に、フランクスとリーソンは顔を見合わせた。
「何か邪魔なもんあったか?」
「全くありません。平坦です。」

実は彼女、リリア・フレイドはよくコケる。何にも無い平坦な場所に限ってなぜか
足と足を引っ掛けて転んでしまうのである。それだけではなく、召喚作戦の時にも
重要な書類を危うく捨てそうになったり、薬の入ったガラス容器を落としそうに
なったりとドジを起こしまくっているのだ。このお陰で、彼女は「ドジッ娘リリア」
というあだ名を頂戴している。
それでも、魔道師としての腕前は一流で、彼女自身も格闘術を身に着けている。昔は
町の飲み屋で、数人の男に囲まれてレイプされそうになったのを彼女はそいつらを
容赦無しに叩きのめした経験がある。

起き上がった彼女は白旗をフランクス将軍に渡した。
「プラットン船長!あったぞ!」
彼が大声を張り上げてそう言うと、棒切れを持ったプラットン船長が船倉から飛び出してきた。
「おお!見つけてくれれましたか。ありがとうございます!」
彼は笑みを浮かべてそう言うと、白布を棒切れにつけようとした。

軽空母ベローウッドを発艦したアベンジャーは、木造船の上空を旋回していた。
操縦士のクルツ・グリーン中尉は、木造船の左舷から何かが振られているのを見た。
「機長!不審船から旗が振られてます。白旗です!」
電信員席のウッドワード兵曹長がそう伝えてきた。
「俺も見てる。」
不審船からはさかんに白旗が振られている。ラフな格好をした男が棒切れに付けられた
白旗を左右に振り回している。横にいる男が手を振り、横の女性らしき2人の人も、ハンカチ
らしきものを振り回している。
「どうやら、彼らは敵意が無いみたいですよ。さかんに旗を振りまくってます。」
後部機銃員のマルクスター兵曹が冷静な口調で言ってきた。
「わからんぞ。こっちを騙しているかも知れんぞ。先日お前も見たろ?炎上する船と
襲撃船らしいものを。」
彼らは5月4日の時に策敵飛行に参加していた。その時に炎上し沈みかけてる船と襲撃船
らしき船を見たのだ。高度3000から遠目で見たので詳しいことは分からなかった。
だがこの世界にも危険な者がいると、その時に確認できたのだ。
「まさか、この間の襲撃船ではないでしょうね?だったとしたら・・・・・」
「500ポンドをぶつけるのか?」
アベンジャーには胴体の爆弾倉に2発の500ポンド(225キロ)を積んでいる。もし
この船が敵対行動に移れば、直ちにこの爆弾で撃沈せよとの命令を受け取っていた。
「それには及ばないだろう。それに相手は木造船だぞ?喫水線下に機銃弾をぶち込むだけで
済むだろう。爆弾は今回は使えないさ。」
彼は無線機を取り、マイクに向かってしゃべり始めた。
「こちらパッカードワン、マザーへ。目標は白旗を振っている。敵対の意思は無いようだ。」

軽空母ベロー・ウッドの艦橋で艦長のジョン・ペリー大佐は偵察機からの報告を
受け取った。報告によれば不審船の乗員が白旗を振っているという。
彼はしばらく考えたが、考えを決め、彼は通信士官を呼んだ。通信士官が艦橋に
入ってきた。
「第5艦隊司令部に電文を送れ。」
「ハッ!」
「我、不審船を発見せり。不審船の乗員は敵対の意思は無い模様。指示を仰ぐ。以上だ。」
「分かりました!」
通信士官が内容を復唱し、持っていたボードに内容を書き写してから艦橋を離れていった。

20分後、返電が帰ってきた。
彼は通信士官から紙を渡すとすぐに目を通した。
「第5艦隊司令部より、不審船を拿捕せよ。尚、拿捕前に船員が敵対行動を取り、わが将兵に
危害を加えた場合は直ちにこれを撃沈すべし。」
彼は読み終えると、すぐに電話を取った。電話の相手はキャンベラの艦長だった。

重巡洋艦のキャンベラは、26ノットのスピードで不審船に近づいていた。やがて
不審船の全体が明らかになってきた。
2本の帆つきマストに中央の船橋。まぎれもなく中世風の木造船だ。船首はやけに細い。
おおかた高速性を増すために細く作ったのだろうか。
艦長のブラッシュ・カー大佐は素っ頓狂な声を上げた。
「こいつぁたまげたぞ。ひどい旧式の帆船だ。これじゃせいぜい16ノットが限界だな。」
「16ノットですが・・・・輸送船並みですな。」
副長が相槌をうってくる。カー大佐はがっしりした体形に鼻の下にコールマン髭を生やしている。
その顔の左頬には6センチにも渡る傷跡が残っている。
一目で見るとどこぞかの戦場を潜り抜けてきた戦士の印象がある。
不審船との距離が2000を切ると、彼は機関室に命令を下した。
「14ノットまで減速!」
ゴンゴンゴンゴンというディーゼルエンジンの鼓動が小さくなり、やがては艦のスピード
が落ち始めた。
不審船まで1000までと迫ったときに彼は次の命令をくだした。
「砲撃戦用意!目標は不審船。」
彼がそう叫ぶと、3連想8インチ砲が動き始めた。前部2基、後部1基。合わせて9門の
8インチ(20センチ)砲が、不審船にぴたりと狙いを定めた。
何か不審なそぶりを見せたら、例えば舷側から口を開けている大砲が火を噴いたら即座に
発砲する予定だった。
(9門の8インチ砲が火を噴いたら、この近距離だ。おそらく9発まともに食らって粉砕
されるだろう。できれば撃ちたくないものだな。)
カー艦長は、そう心の中で思った。

「すごいぞこれは!たまげたもんだ!」
カー艦長と似たようなことを口走っている者がここにもいた。ヴァイアン号船長
プラットン船長である。
煙突からもうもうと煙を上げ、船特有の揺れが少ないその船は、全体的に黒く、
ごつごつとした感じだ。それでいて何かと美しい印象を持つ形をしていた。
細長い感じの大砲が1個の砲塔に3門つなげられ、それが前部2基、後部1基、
合計3基もある。砲の口径もこのヴァイアン号の7センチ砲より大きいだろう。
その時、スピードを緩め、ゆっくりと近づいてきた船がいきなり前部2基、後部1基
の砲塔を向けてきた。
「おいおい!俺達はなんもしてねえぞ!それなのに砲撃で沈める機か!?」
船員たちの声が聞こえた。いきなり大砲を向けられたことに驚いているようだ。
「おめえら!絶対に大砲に触れるんじゃねえぞ!相手はでかい。それに頑丈そうだ。
1発や2発食らわせても勝てっこねえ。逆にこっちがやられるだろう。いいか、絶対に
撃つんじゃねえぞ!」
プラットン船長は大声でそう叫んだ。浮き足立っていた船員も、彼の大渇に足を止め、
そして頷いた。
彼はすぐ右にいるリリアに声をかけた。
「おい、魔道師さん。アレを見てどう思う?」
「はあ、私が見た限り、アレは鉄でできていますね。」
「鉄だって!?」
彼は驚いた。鉄の船が浮くはずは無いとかれは反論した。
「いいえ。アレは見た限り鉄です。私も信じられない思いですが・・・・」
「まあ、俺も同じだ。ところで・・・・・あっちの言葉分かるのかい?あの、70
と数字の書いた船の乗員の言葉を。」
彼が聞くと、リリアは黙った。
「おい、もしや・・・・」
分からないのかい?と言おうとした時、不意に言葉が聞こえた。それも鉄の船のほうから。
「こちらはアメリカ合衆国海軍重巡洋艦キャンベラである。こちらの言葉が分かるか?分かるのなら
その白旗を4回振れ。」
聞こえそうも無いのだが、どことなく大きな声が鉄の船から聞こえてきた。よく見てみると船の甲板に
何人かの人が見える。それでも大声出して明瞭に聞こえる距離ではない。
(まあ、そんなのは後だ)
彼はそう思い、白旗を4回振った。
「なんだ。相手の言葉も分かるじゃないか。これなら問題ないな。」
彼はそう呟くと、またもや船、キャンベラから声が届いた。
「よし。これより貴船の臨検を行いたい。許可するなら旗を2回振れ。」
プラットン船長は旗を2回振った。
「それではこれより貴船に近寄る。」
この言葉を皮切りに会話は終わった。重巡キャンベラは舳先をヴァイアン号に変えると
ゆっくり近寄ってきた。

その時、上空の鳥が右舷方向の海面に降下を始めた。エンジンの唸り声が響き渡り
猛禽のような勢いで海面に突っ込んでいく。
「なっなんだ!?」
プラットン船長は仰天した。まさか、海に突っ込むつもりか!?アベンジャーの降下に
驚いた乗員は誰もがそう思った。その時、胴体から何かが落とされた。
それは2個あった。それを胴体から落とすと、「鳥」は機首を上げて上昇に移った。2個
の小さな物体が海面に落下した。直後、猛烈な水柱が2個も上がった。
その時、何かがバラバラになりながら吹き上げられた。そう、海竜だ!海竜とは、5月4日に
第58・2任務郡の護衛艦を襲ったあの巨大海蛇である。
時を置いてドーン!という爆発音が鳴り響いた。腹にこたえる音だ。乗員の誰もが、いきなりの
化け物退治に度肝を抜かれた。
「す・・・・・すげえ。」
プラットン船長も例外ではなかった。海竜はアベンジャーが爆弾を叩き込んだ1匹だけで他には見えなかった。

20分後、あたりは暗くなりつつあった。夕焼けがうっすらとオレンジ色の光を放つ中、上空には
星が見え始めていた。
重巡洋艦のキャンベラはヴァイアン号に接舷した。ヴァイアン号とキャンベラの高さに差があるため、
キャンベラから梯子をたらして臨検の武装兵がヴァイアン号に乗船した。
臨検班の班長であるアルバート・グレグソン少佐は、船長らしき人物に声をかけた。
「あなたが船長ですか?」
その人物は白いラフなシャツに黒いズボンらしきものを履いているが、その人物が部下を仕切っている姿
を見たグレグソン少佐は、彼だろうと思って聞いてみたのだ。
「そうです。私が船長のプラットンです。」
「私は臨検班長のグレグソン少佐です。これより貴船を臨検いたします。」
彼はカッと踵をあわせ、敬礼した。

その時、3人の男女が彼の前に現れた。1人は中年の男性で2人は若い女性だった。
「失礼だが、ちょっと質問してもいいですか?」
中年の男が聞いてきた。
「あなたは?」
「私はヴァルレキュア王国第5騎士団長、フランクス将軍です。」
「私はグレグソン少佐です。」
互いに紹介し合うと、いきなり女性の一人が聞いてきた。
「あの、グレグソン少佐。あなたは5日前に何か感じませんでした?」
「リーソン。いきなりどうした?ちょっと待て。」
フランクス将軍が止めに入る。
「将軍閣下、別に構いません。ええ、確かに何かを感じましたよ。あの時、視界が一瞬
真っ白になって、嵐がやんだら、あなた方の世界に連れてこられたのですよ。」
彼は口調に怒りを込めながら言った。内心ではこんな世界に連れてこられた事を恨んでいた。
「もしや、あなた方が・・・・・私たちを連れてきたのですか?」
「そうです。」
彼女は即答した。その時、彼は別の事に思い至った。普通ならこいつらを海に叩き込んでやりたい
と思うだろう。だが、それとは違う方向になった。
「あ、あの・・・・・どうかしました?」
唖然となった米海軍将兵を見て彼女は戸惑いを見せた。グレグソン少佐は後ろを振り返った。そして
誰もが同じように驚いた表情を見せた。
「少佐・・・・・・気づきましたか?彼女の声・・・・・・」
一人の下士官が声を忍ばせて言う。彼も頷いた。
「ああ・・・・・・これは、東京ローズの声だ。」
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