自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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だれでも歓迎! 編集
5月26日 ヴァルレキュア王国首都 ロイレル 午後3時
スプルーアンス大将一行は、無事にヴァルレキュア王国の首都であるロイレルに到着した。
ロイレルに向かう際、最初はこの時代と同じような馬車で行くかと考えたが、調査の結果、
シュングリル~ロイレル間の道路は十分な幅があり、トラック2台分が入る広さがあると
分かり、急遽ジープやトラックに乗って向かう事になった。
彼らは、道を行く現地民などに当初は困惑した表情で見られた。なんせ、見た事も無い車
が堂々と街道を突っ走っているのだから当然だろう。だが、やがては行く先々で歓迎を受けた。
この時までに、スプルーアンスの第58任務部隊が、猛烈な攻撃を行ってあの怒涛のごとき
のバーマント軍の侵攻を阻止した事は、口コミで広がっており、最初は警戒心丸出しで見ていた
人も、やがて通過していく米軍車両に向けて手を振ってきた。
彼らはあまり知らなかったが、ヴァルレキュアの民達は、彼らを英雄、救世主と呼んでおり、
集落を米軍の車列が通れば、たちまち街道の両脇に人が集まり口々に
「勇者万歳!救世主万歳!」
と、拳を振ったり、握手を求めたりなどの熱烈ぶりだった。これには米軍の車列もゆっくりと
しか走れず、ロイレルの1歩手前の村では、歓迎してきた村人が急に道に飛び出してきて、危うく
轢きそうになったほどである。これにより、予定は遅れ気味になった。
しかし、そんなこんなでも米軍の車列はやっと、首都のロイレルに着いたのである。

「スプルーアンス提督閣下、ロイレルが見えてきました。」
一緒のトラックに同乗していたフランクス将軍が、前方を指で指してそう言って来た。第5艦隊の
司令部幕僚はその周辺を見て思わずおお、と声が漏れた。
彼らが見る初めての首都、それは、彼らがすごした現代の町とは大きく異なるものだった。どこか
幻想的な感のある街、ロイレルに対する第一印象はそう思われた。
スプルーアンスは何事も言わず、ロイレルを見つめたが、すぐに彼は姿勢を戻し、何やら思考を
始めた。
(司令長官、シュングリルを出て以来ずっと考えっぱなしだな。)
参謀長のデイビス少将は、ずっと思考を続けたままのスプルーアンスを一瞥しながら、そう思った。
デイビス少将は知らなかったが、スプルーアンスは、この後どういう方法でバーマントを叩きのめし、
そしてどういう風に戦争を終わらせて、現代に帰るかと、トラックに乗ってから、ずっと思案を重ねていた。

米軍の車列は、ロイレル市民の熱烈な歓迎を受けながら、王国宮殿に到着した。既にスプルーアンス一行
が来る事を知らされていた国王は、直属の騎士団と共に宮殿の玄関で待っていた。
スプルーアンスら第5艦隊の幕僚、首脳は護衛の海兵隊と宮殿前で一旦別れてから、宮殿に入った。
彼らは、やや緊張した足取りで大玄関に向かった。そこには、両脇に甲冑を被った完全武装のヴァルレキュア
兵が、背筋をピンと伸ばし、誇らしげに立っていた。
彼らは階段を上がると、そこで待っていた国王、クルー・バイアン王と対面を果たした。
第5艦隊の首脳、幕僚らが、スプルーアンスを先頭に並び、立ち止まって立派な敬礼をした。
「私はアメリカ第5艦隊司令長官、レイモンド・エイムズ・スプルーアンス大将であります。国王
陛下にご対面でき、心から光栄に思います。」
「遠いところから、ご足労ありがとうございます。私はクルー・バイアンと申します。」
バイアン王は、その皺が刻まれたいかつい顔に微笑を浮かべると、彼らに頭を下げ、一礼した。

スプルーアンスら一行は、宮殿の中に招き入れられた。彼らは会議室のような部屋に招かれた。
バイアン王が、玉座に座ると、
「どうぞ、席に掛けてください。」
と、一行を椅子に座らせた。バイアン王の側には、フランクス将軍が立っていた。長旅に疲れている様子は
無かった。
「スプルーアンス提督。」
バイアン王が口を開いた。スプルーアンスははいと答え、バイアン王に姿勢を向けた。
「あなたは道中ずっと無口のままであったと聞きましたが、どこかお体の具合が良くないのですか?」
彼は心配しているかのような表情で聞いた。スプルーアンスは微笑を浮かべてかぶりを振った。
「いいえ、私はどこも悪くありません。ただ、少々考えことをしていたので、ずっと無口になって
いました。」
「考え、と言いますと、どんな事を?」
「ええ。この戦争を出来るだけ、早く終わらせる方法を考えておりました。」
彼は、いつもの怜悧な口調で、バイアン王にそう言った。

「戦争を終わらせる方法ですか。確かに考えるべき問題です。」
バイアン王は感心したような表情で、スプルーアンスを見つめた
「考えるだけで、まだ結論は出せません。問題が難しいもので。」
スプルーアンスは、首都に向かう道中、ずっと戦争の終わらせ方を考えたていた。しかし、
相手がこちらの話に応じないため、頭脳明晰と謳われたスプルーアンスは全く結論を出せないでいた。
ある時は、陸軍航空隊のB-24を使って首都を無差別爆撃させることを考えた事もあり、ある時は
機動部隊にバーマント公国沿岸の港町を荒らし回らせ、敵国民の厭戦気分を誘わせ、それを拡大させ
ようとも思った。
しかし、それは長期間続けてこそ効果があるもので、弾薬に制限があるアメリカ側はせいぜい3ヶ月、
長くても4ヶ月で続行不能となってしまう。いくらマーシャル諸島に膨大な物資を蓄えたと
言っても、補給を絶たれた今、消費を続ければ爆弾が無くなる事は確かである。
では、いっそバーマント公国の首都に、マリアナ侵攻部隊の全軍を突入させようとも考えた。
バーマント公国の首都は、最寄の海岸から100キロの所にあり、途中険しい山脈や森林地帯
があるが、今もっている工作機械などを使えば、道を開いて進軍する事は出来る。
だが、スプルーアンスはこの考えも保留している。いくら強力な機動部隊の援護をつけても、
そこはバーマントの庭でもあるため、バーマント軍は各地から防衛軍を掻き集めて、米軍の侵攻
部隊を迎撃できる。現に、バーマント軍は動員兵力の約140万、全軍200万のうちの半数以上
を本土防衛にあてている。これには空中騎士団や海軍兵力は含まれていない。
それらも含めれば、敵の防衛兵力はさらに上がる。いくらこの時代より遥かに優れた兵器を持つ
米軍も、敵の大群の猛反撃を受けては損害は馬鹿にならないだろう。
他の考えも浮かんだが、結論は見出せないでいるか、見えかけても補給の問題、損害の問題が常に
つきまとった。

「戦には、常に問題がつきものです。もし、バーマントがもっと理性的な国であれば、こういう
悲劇も起こせずに済んだのですが。」
バイアン王は苦りきった表情でそう言った。
「我々はバーマント公国に幾度か講和の申し入れを行いました。2ヶ月前にも、我が国は大幅に譲歩
して講和の申し入れを行いました。」
「大幅に譲歩したとおっしゃりましたが、どのような条件で送ったのですか?」
スプルーアンスに対面する格好で座っていたホーランド・スミス中将が聞いてきた。
「条件としては、占領地をそのままバーマントに委譲してもよい代わりに、我がヴァルレキュア王国の
残存する国民、領土の保障を求めました。しかし、バーマント公国はそれを無視し、見せしめとして
首都近郊の村に飛空挺の絨毯爆撃を行いました。この絨毯爆撃で300人の命が失われ、3000人が
傷を負いました。」
ひどい!いくらなんでも、そこまでする必要があるのか!?スプルーアンスら一行の気持ちは、この時
偶然に一致した。
「国王陛下、私は前にフランクス将軍から聞いたのですが、バーマント公国は相手からの講和を一方的
に一蹴し、敵の領土を完全に占領するまで戦闘をやめないと聞いていますが、かの国は始めからそうで
あったのですか?」
スプルーアンスの隣に座るウイリス・リー中将が質問した。それにバイアン王は答えた。
「そうです。バーマント公国は、占領しようとした国には一切の容赦をせずに相手を攻め滅ぼすまで
戦い続けます。しかし、今回のような全て皆殺しという残虐な方法はあまり取らず、降伏した相手には
それなりの対応で応じていました。しかし、現皇帝になってからは殲滅作戦が好まれて使用されるように
なり、バーマントはこの大陸で最後に残った我が国に初めて、敵を皆殺しにする戦法を使ってきました。
この絶滅戦法により、我が国の国民58万余、将兵40万余が犠牲になりました。捕虜は一人として残って
いません。この調子で行けば、残った100万の国民、40万の軍将兵は文字通り・・・・・・・」
そこまで言ってバイアン王は口をつぐんだ。無理も無い、彼が愛してきた国が、文字通り「消滅」しようと
しているのだから。

民族完全絶滅か・・・・・我が先人達も、インディアンに対して相当酷いことをしてきたが、完全にその
民族を「消滅」させるまでは行かなかったぞ。バーマントのやり方は先人達よりも酷すぎる)
スプルーアンスは、完全に消滅しきったヴァルレキュアの領土にバーマントの国旗が翻る姿を想像した途端、
かの国に対する呆れと共にどこか背筋が凍る思いがした。
「私は、これも運命なのかと諦めかけた時もありました。しかし、どうせなら一時でもバーマントの進撃を
阻止するべく、王国の臣民、軍将兵を激励叱咤してきました。その甲斐あって、我が国は2年間もバーマント
による領土の完全占領を防いできました。」
バイアン王は力強い声音でそう言った。その言葉一つ一つに、彼が味わってきた苦悩が滲んでいた。
スプルーアンスはある事に気が付いた。それは、バイアン王の目の下に濃いくまが出来ている事である。
もしや・・・・・彼はある事を思った。それを聞こうとしたが、その事は王自らが口にした。
「ここ最近は睡眠時間が3時間しかないもので、いやはや、本当なら私の見苦しい顔などお見せしたくなかった
のですが。」
バイアン王はいかつい顔に微笑を浮かべてそう自嘲した。顔とは対照的に、性格は結構温厚のようだ。
(王様とは、昔から楽ばかりしているイメージがあったが)
スプルーアンスは、他の将星と言葉を交わすバイアン王を見つめながら思った。
(この人は違うな。むしろ自分から試練に立ち向かっていく方だ。それ故、あらゆる人に信頼されているのだろう
それに、普段の激務にも耐えてよく仕事をこなしていると見える。こういう人物こそ、まさに名君と言うのだろう)

話はバーマントの話題以外にも、色々な話題が飛び出し、最初はぎこちない感があった会見も、
長時間言葉を交わすことによって解消された。
生い立ちの話、個人の思い出話、そしてこの大陸にあった元々の国の話、ヴァルレキュアの
自慢話など、両者は次第に打ち解けて行った。

会見から3時間が経った時、第5艦隊将星、幕僚と、ヴァルレキュア王国の重臣がまだ話を続けている時に、
突然一人の高官が慌てた表情で何か紙を持ってきた。
衛兵が何事かと聞いた。すると、その衛兵の表情ががらりと変わり、すぐにそのひげ面の高官を通した。
高官はバイアン王の側に来ると、紙を渡した。
それまで明るい表情だったバイアン王は、紙を一読すると唖然とした表情になった。そして次第に顔が青白くなった。
「なんて事だ・・・・・・バーマント軍の飛空挺部隊が・・・・・首都を爆撃しに来る・・・・」

大陸暦1098年6月1日午後1時 
この日は雲の少ないよく晴れた日だった。その気分が良くなるような空に、一群の飛行物体が、
エンジン音を轟かせながら南に向かっていた。
その飛行物体の集団は、緊密な編隊を組み、統率の取れた動きで飛行していた。その物体の翼や
胴体にはいずれもバーマント軍の国旗が描かれていた。
この飛行物体こそ、バーマント軍第3航空軍に属する第5空中騎士団、第6空中騎士団の飛空挺の大群だった。その数
は合計で140機。まさに雲霞のごとき大群であった。
この2個空中騎士団は、首都の爆撃の先陣を切って投入された部隊であり、今日が首都爆撃の初日であった。
その大編隊の先陣を行くのが、第5空中騎士団飛行隊長であるギラ・ジュング騎士大佐の飛空挺であった。
「真下にフリットの街が見えます。」
後部座席の部下がそう伝えてきた。真下にはかつて街であったものが見えていた。今では完全に町とは呼べないもの
になっていた。このフリットは、首都より北60キロ離れた小規模の町で、開戦前は綺麗な城や建物が並んでいた。
だがそれらは、第3航空軍の連日の猛爆撃によって焦土と化してしまった。
今ではフリットは完全に人がいなくなり、ゴーストタウンそのものになっている。
「首都まであと60キロほどか・・・・・今回はヴァルレキュア人の本拠地だ。壊し甲斐があるぞ。」
ジュング騎士大佐は、その浅黒い顔に獰猛な笑みを浮かべた。今日は炸薬量を変えた新型の250キロ爆弾を搭載している。
この新型の爆弾は、これまでの250キロ爆弾より威力が1.5倍アップしており、実験の結果は好評だった。
(実験は、捕まえた捕虜を建物の中に入れて行われた)
その新型爆弾の実地テストを、第3航空軍の2個空中騎士団がすることになったのだ。
「テスト結果が楽しみだな。ハハハハハ。」
シュング騎士大佐はそう微笑んだ。

ふと、太陽に何かが光った。雲の少ない、青い空。そして大地を照らし出す太陽。その太陽の中から
何やら小さい豆粒のようなものが見えた。
「なんだ、あれは?」
彼は別段気にも留めない口調でそう呟いた時、その豆粒は大きくなった。それも早いスピード
でぐんぐん迫ってきた。
「な、何だと?」
シュング騎士大佐はそう答えた瞬間、急激に迫ってきた影、自分達が乗っている
飛空挺の似たようなものが両翼から光を発した。その刹那、無数のオレンジ色、もしくは赤い色の球が
無数にシュング騎士大佐の機体に突き刺さった。
ガリガリガリ!という猛烈な乱打音が聞こえた、とシュング騎士大佐が思ったときには
彼自身何かに体を貫通され、即死した。

陸軍第774航空隊第3中隊のP-51ムスタング4機が襲った飛空挺のうち、先頭を飛んでいた隊長機と思わしき飛空挺
ががくりとよろけ、黒煙を噴きながら逆落としに墜落していった。
他に2機が翼から白煙を吐いて編隊から脱落しつつあった。
「こちらガルムワン、敵機1機を撃墜、2機が脱落しつつある。」
第3中隊の中隊長であるトッド・ゴア大尉はマイクに向かってそう告げた。
「了解、後続部隊がそちらの空域に到達する。今君の中隊の所属機が敵の飛空挺部隊に突入している。味方同士の接触に気を
つけろ。」
「OK,では俺達は接触に注意しながら、奴らを歓迎してくる。」
そう言ってゴア大尉はマイクを戻した。

話は26日に遡る。スプルーアンス第5艦隊司令長官は、運良く入ってきた味方の
スパイ情報を見て愕然とした。なんと敵が王都の無差別爆撃を計画している。
それも6月1日には爆撃を開始できるとの情報であった。
失意の表情を浮かべたスプルーアンスは、とある提案をした。
それは王都郊外の空き地のどこかを貸してほしいと伝えたのだ。バイアン王は、
「空き地なら、ちょうど王都の西北5キロの所に草原がありますが、何をされるのですか?」
「バーマント軍の空襲をなんとか防ぎたいのです。」
スプルーアンスの言葉に、バイアン王は彼をまじまじと見た。
「防ぐ?どうやってです?」
彼は手順を熱心に説明した。その説明を聞いたバイアン王は二つ返事で
スプルーアンスの提案を受け入れた。
その翌日未明、シュングリルから海軍工兵大隊の一部隊が、建設機械等を運んで出発した。
工作機械を積んだ米軍車両は、街道を補給しながら走りぬけた。途中賊らしき者20人が、
米軍車両の荷を強奪しようとして武器を携えて襲撃してきたが、護衛の海兵隊によって瞬く間
に駆逐されてしまった。
盗賊側は全員が負傷して、近くのヴァルレキュア軍の憲兵詰め所に連れ込まれた。
そして移動に丸一日費やし、28日早朝、王都西北の建設予定地に着いた工兵大隊
は、ついた早々、早速仮飛行場の建設を始めた。
建設予定地は王都から街道沿いにあるため、往来する現地人は見慣れぬ工作機械を見ると誰
もが目を丸くして立ち止まった。一部の住民は建設予定地に入ろうとしたが、護衛の米兵に
注意されてすごすごと帰っていった。
それから昼夜交代の突貫工事で、6月1日早朝。王都の西北に長さ1500メートルの
急造滑走路が完成した。
レーダー完備の施設、対空火器も備えられた。
6月1日午前11時、マーシャル諸島のエニウェトク環礁からシュングリルを経由してきた、
陸軍第774航空隊のP-51ムスタング、P-47サンダーボルトの混合80機が、ロイレル飛行場と呼ばれた
急造滑走路に着陸。第774航空隊の航空機はすぐに燃料補給を受け、いつでも離陸できる態勢にあった。

そして午後0時50分、対空レーダーが接近してくる大編隊を感知した。
第774航空隊の専任士官であるウイリアム・ラーキン中佐はすぐに全機出撃を命じた。

第2中隊のP-51ムスタング12機は、敵飛空挺部隊の後方上空にたどり着いた。
集団の前方の飛空挺部隊は、第3、第1中隊に襲われて既に6機が撃墜され、3機が脱落していた。
高度は5000メートル。真下に進撃していくバーマント軍の飛空挺が見えている。
第2中隊長であるハンス・ベルガー大尉はマイクを握った。
「野郎共!行くぞ!敵機を残らず叩き落してやれ!」
彼は荒っぽい口調でそう叫ぶと、
「ラジャー!!!」という部下の威勢のいい声が聞こえた。
「元気な奴らだ。」
彼は内心で微笑むと、操縦桿を倒した。眼下に悠然と飛行する敵飛空挺部隊が見えた。
それもたくさん。迎撃に出た第774航空隊の数を上回っている。
(畜生、いくら相手がただ飛ぶだけのトンボとはいえ、頑丈な上に数がこんなにいたんじゃな。
全て叩き落とさねえといかんな)
彼は内心で舌打ちした。その間にも、彼は一番左を飛ぶ飛空挺に狙いを定めた。だが、この時、
飛空挺の編隊に異変が起きた。飛空挺の編隊はパッと散開したのである。
「クソ!敵もただ真っ直ぐ飛ぶだけではないのだな。」
だが、その間にも700キロを超えるスピードでベルガー大尉のP-51は、目標に急速に迫った。
「だが、逃がしはしない!」
照準にピタリと狙いを付けた飛空挺に向けて、彼はボタンを押した。ダダダダダダダ!という
リズミカルな音が鳴り響き振動が伝わった。
6丁の12.7ミリ機銃は、奔流のような銃弾の嵐を飛空挺に放った。
無数の曳光弾が飛空挺に注がれ、何発かが命中して破片を飛び散らせた。彼の機体はそこまで
確認したところで飛空挺の右側を降下していった。
ベルガー大尉は機を左旋回させ、今度は上昇に移る。急速な上昇によってGがかかり、頭がぼうっとなる。
それを耐えて、ベルガー大尉の機は上昇を始めた。後部集団の敵機はほとんどがバラバラになっている。
だが、それによって集団で撃墜される事は無くなっていた。

先日のクロイッチ沖海戦(米側呼称)では、2~3機がF6Fにまとめて撃墜される事が何度
も起きたため、バーマント側は米軍の飛空挺がもし現れたら、バラバラになってそれぞれで目標
に向かえと言われていた。
この対策は見事に図に当たった。相変わらず撃墜される飛空挺は相次いでいるが、
米軍側は6機で1機を追い回したりと、迎撃の効率が悪くなっていた。
とある飛空挺は爆弾を捨てると、途端に身軽な旋回性能を発揮し、高速で突っ込んでくる
P-51の攻撃をひらりひらりとかわし始めた。その飛空挺は、通過した米軍機の後ろを取るという
戦闘機らしい行動を取り、後ろを取られたP-51のパイロットは、現世界での体験が脳裏をよぎり、
一瞬撃たれたと思った。

P-47サンダーボルトを装備している第7中隊は、すでにバラバラで動き回る両軍の空域に到着した。
「こいつはひどいな。」
第7中隊長のジェームズ・オヘア大尉は眉をひそめた。先程まで緊密な編隊を組んでいたバーマント軍機は、
先行したP-51の攻撃に掻き回され、すでにバラバラの状態となっていた。
この時、P-51隊は48機を撃墜し、12機を傷を負わせていたものの、バーマント軍機はバラバラに
なりながら王都を目指していた。
「こいつらは撤退と言う言葉は思い浮かばないのか!?」
オヘア大尉は半ば近くを叩き落されたバーマント軍の飛空挺部隊にある種の恐怖を感じた。
落としても落としても突っ込んでくる。まるで空中のバンザイアタックのように思えた。
「ええい、各機散開!敵機を逃がすな!」
「ラジャー!」

部下の声が響くと、サンダーボルトは散開し始めた。オヘア大尉は1機の進撃してくる飛空挺を見つけた。
「ようし。あいつを狙うぞ。」
彼は冷静な口調でそう呟くと、機首をやや下に向けて、飛空挺を目指した。グオオオオオーーー!という
エンジンの回転数が上がる音が聞こえ、速度計が700キロを指した。
距離が700まで迫った時に彼はボタンを押した。リズミカルな振動と共に、赤い糸のような12.7ミリ
機銃弾が雨あられと飛空挺に注がれた。
何発かが翼や胴に突き刺さったと見た途端、風防ガラス砕け散った。飛行眼鏡をかけた操縦士が
赤い血煙を吹き出しながら仰け反る姿が見えた。そこまで見た時、彼の機は飛空挺の後ろ下方
を飛びぬけた。
(あの機は操縦士がやられたから助からんだろう)
彼はそう思って後ろを振り返った。案の定、彼が銃撃を加えた飛空挺は錐もみ状態で墜落していった。
彼は機を左旋回させながら上昇させた。首を上下左右後方に振りながら、敵味方の飛行機に接触しない
よう、注意を払う。
そして距離1200メートルのところで右側前上方を飛ぶ飛空挺を見つけた。今度はあれを落としてやると
決めた。すぐにスピードを上げる。
飛空挺はやっと彼の機に気づいたのか、右旋回で逃げようとした。だが、その飛空挺は彼に腹をさらす格好に
なった。
「逃がさん!!」
彼は絶叫し、機銃を発射した。ダダダダダダ!という音と共に機銃弾の曳光弾が敵機の腹に注がれた。
数発が命中した。
(手ごたえあった!)

彼がそう思ったその時、突然飛空挺の腹に抱いていた爆弾が大爆発を起こし、木っ端微塵に吹っ飛んで
しまった。ドガーン!という爆裂音が鳴り響いた。
「うおっ!畜生!!!」
彼は慌ててその爆炎をさけようと機体を捻った。爆炎の側を通り過ぎる際、破片がガツン!ガツン!と
機体をたたく振動が伝わった。彼の風防ガラスの顔の横の部分に、ビシッ!と雲の巣状の割れ目が入った。
それに構わず、爆風で失いそうになるコントロールを懸命に取り戻そうと彼は必死に機体を動かした。
爆風の振動が収まったところで、彼は機体を水平にした。高度は1000まで下がっていた。
「ふぅ~・・・・・・・危なかった」
危うく死に掛けた。そう思うと、体中から冷や汗が吹き出し、体がガタガタと震えた。だが、これで彼は
2機を撃墜した事になる。
先の破片で機体が損傷したものの、エンジンは快調だった。よし、後一戦やるか、と気を取り直そうと
した時、左前方で1機の飛空挺と1機のP-47が正面から向かいあっていた。
「正面からか。」
彼はそう呟いた。距離が縮まった時、P-47が機銃弾を撃ってきた。たちまち何十発と機銃弾を叩き込まれた
飛空挺は、エンジンからどっと黒煙を噴き、風防ガラスが割れた。

「お見事だ!」
オヘア大尉は、たった今撃墜戦果1を数えた味方機に賞賛を送った。
そのままP-47はその飛空挺の側を通り過ぎようとした。
だが、ここで悲劇が起こった。被弾した飛空挺が、なんとP-47の進路をふさぐようにして旋回
を始めたのだ。それに気づいたP-47がかわそうとした。

だが、遅かった。P-47と飛空挺はまともにぶつかった。その次の瞬間、
2機とも大爆発を起こし、空中に大きな火の玉ができあがった。
「ああ!?」
彼は思わず声を上げてしまった。味方のあっけない散華に彼はただ驚かされるばかりだった。
そして、オヘア大尉は、帰還してもしばらくふさぎこむ事になる。

バーマント軍第6空中騎士団の第8中隊9機は、王都の右側にある米軍の急造飛行場を見つけると、
そこに機を向けた。
「まずは王都よりも飛行場を叩くんだ。そうすれば、あの白星の悪魔どもも降りる事ができなくなる!」
臨時中隊長になった3番機のグルアッツ・イーエン騎士中尉は、そう叫んだ。
次第に飛行場に近づいてきた。その時、飛行場の外縁からいくつもの光が放たれた。その直後に飛空挺
の周りで黒煙が吹き上がった。
飛行場の防空部隊が高角砲弾を放ってきたのだ。高度は2000メートル、風向きは西向き。後部座席の
照準手は、冷静にそう判断した。
「これが、クロイッチの飛空挺部隊を襲った大砲か。聞きしに勝るものだ。」
彼は、全滅した第1、第2空中騎士団が対面した、敵の高速船部隊の猛烈な防御放火を聞かされた。それによる
と、敵高速船の大砲は、まるで面を耕すかのように前方や周辺に弾幕を張るという。
次いで小型の火弾が上げられてそれに機体が当たると、破壊されると聞いた。
その噂の対空砲火が、目の前にある。数はそれほど多くは無いものの、精度はかなりのもので、常に周りで炸裂している。
「あっ!6番機が!」
3番機の左後方を飛んでいた6番機が、高角砲弾に左の翼を叩き折られた。6番機はバランスを失ってコマのように
落ちていく。
その間にも、飛行場の上空に間もなく達しようとしている。今度は高角砲だけではなく、機銃弾が打ち上げられてきた。
無数の曳光弾が機体の横をかすめる。
「おい、あの木造の建物を狙うぞ!」
彼は手近にある木造の建物を指向した。このまま行けば、滑走路に爆弾を叩きつける前に落とされるかもしれない。
そうなる前に、滑走路の左脇にある木造の建物を吹き飛ばそうと思いついた。
「わかりました!」
爆撃手は了解すると、照準機を覗き込み、コースに乗っている事を確かめる。
「ちょい右・・・・・・・ちょい左・・・・・そのまま・・・・・そのまま。」
周りで砲弾がドン!ドン!と音を立てて炸裂する。その度に機体にカツンカツンと破片が突き刺さり、
横やたてに揺さぶられる。それを必死に操縦桿で抑えながら、目標上空に向かう。
そして、ついに、待望の目標にやってきた。目標の左の小さな陣地から、数人の兵士が何かを向けて
放っているのが見えた。

「今です!」
「投下!!」
2人の声が響き、爆弾投下レバーを引いた。250キロ爆弾が機体から離れ、フワリと浮き上がる
感触が伝わる。
やがて、目標の建物が爆発し、黒煙と破片が吹き上がった。
「命中です!」
後部座席の兵が叫ぶと、イーエン騎士中尉は歓声をあげた。
「やったぞ!」
その瞬間、ガーン!と機体が激しい衝撃に揺さぶられた。まるで金属製でかい棒で殴られた
ような感触だった。
彼は右主翼と左主翼を見た。左主翼を見た時、彼は愕然とした。
なんと、半ばから吹き飛ばされているではないか!
「ああ、くそったれ!」
イーエンは罵声を漏らしながら必死に操縦桿を引いた。機体を立て直そうとするが、
操縦桿は硬いままウンともスンともしない。
(動け!動いてくれぇ!!)
彼は懇願するように思いながら必死に引いた。そして、操縦桿がそれに答え、手前に引かれた。
機首が上に上がり、機体が上向きなったと思った時、飛空挺は地面に叩きつけられた。
イーエン中尉の飛空挺は300メートルに渡って地面を滑走した。

飛行場守備に当たる陸軍第456防空中隊は、海兵隊の防空部隊と共に進入してきたバーマント
軍機に向けて対空砲火を撃ち込んだ。
34門配備された5インチ(12.7センチ)高角砲は、飛行場上空に黒煙の花を多数咲かせた。
仮宿舎の側に設置された40ミリ連装機銃は5人の海兵隊員によって操作されていた。
機銃手のアル・クローズ軍曹は、宿舎に向けて迫り来る3機のバーマント軍機に向けて機銃弾
を撃ち込んだ。曳光弾が赤い糸を引くように上空に注がれる。
1機が唐突に爆発した。高角砲弾の直撃か、爆弾に破片が当たって炸裂したのだろうか。
その光景に部下の兵は仰天した。
「びびるな!作業を続けろ!!」
彼は手を止めた部下を叱咤すると、すぐに敵機に向き直った。すぐに引き金を握って空に機銃弾
を注いだ。
曳光弾は2機のうちの後続の1機の翼に突き刺さったと見るや、付け根から翼が吹き飛んで、
その後、きりきり舞いしながら墜落し、地面に火柱を上げた。
だが、最後の1機が腹から黒い物を吐き出した。爆弾である。
「やばいぞ。」
彼は点となって落ちてくる爆弾を見つめた。機銃座のすぐ横には木造の仮宿舎がある。爆弾が指向
している先はまさにそこだった。
「逃げろ!吹き飛ばされるぞ!」
5人はわあっと悲鳴を上げながら、銃座から脱兎のごとく逃げ散った。その5秒後、物凄い音の
爆発音が辺りに鳴り響いた。クローズ軍曹は爆裂音を聞いた瞬間、地面に伏せた。
その直後、ゴオオオオォーーーー!という爆風が音を立てて彼の背中の上を走り去った。怖い、死にたくない。
彼は恐怖に震えながら爆風が止むのを待った。爆風が止むと、回りにパラパラと破片が落ちてきた。
恐る恐る顔を上げ、後ろを振り向いた。そこにあったはずの仮宿舎は、跡形も無く吹き飛ばされ、
炎と黒煙が上空に舞い上がっていた。
上空には、翼をもぎ取られた飛空挺が墜落していった。

午後1時40分 第774航空隊は、敵機を完全に阻止する事は出来なかった。襲来してきた140機の
うち、120機を撃墜したが、米軍側も敵機の体当たりによって2機を失い、爆発に巻き込まれて6機が
損傷し、そのうち2機は使用不能とされ、合計4機を失った。
飛行場には残りの20機が進入してきた。防空部隊が全機撃墜したものの、8機が爆弾を投下した。
爆弾のうち、1発は滑走路脇の仮宿舎を吹き飛ばし、1発は高角砲座を叩き壊した。
2発は滑走路付近に落ちた。うち1発が滑走の左端に着弾して穴を開けたが、発着に死傷は無い。
また、1発がブルドーザー2台が入ったテントを直撃し、少数の予備機材共々吹き飛ばしてしまった。
結果的に、バーマント軍は2個空中騎士団をまたもや全滅させる事となってしまったが、米側はP-47
を3機、P-51を1機失い、爆撃で海兵隊員2名、陸軍兵3人が戦死し、32人が負傷した。
他に米側が痛手となったのは、貴重な工作機械の喪失で、高角砲座や宿舎の喪失よりも、ブルドーザー
2台の喪失は、補給の無い米側に取ってやや痛い結果となった。
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