自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

262 外伝52

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tapper

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408 :外パラサイト:2010/05/30(日) 05:57:29 ID:6LiHdjEo0
1484年(1944年)11月7日 ルークアンド共和国ヘラナブタ高原

第715戦車駆逐大隊に所属するハロルド・チャップマン中尉は、対戦車自走砲四両から成る偵察小隊を率
いて山間の小路を進んでいた。
レーフェイル大陸派遣軍は、北大陸で戦うアメリカ軍や南大陸連合軍に比べ比較的旧式な装備をあてがわれ
ることが多く-さすがに現場からの突き上げを無視できなくなったのか最新鋭のM26重戦車が一個中隊
だけ届くことになっているが-チャップマンの部隊は未だにハーフトラックに75ミリカノン砲を載せた
M3GMC(ガンモーターキャリッジ)を使用している。
「いや~この自走砲というヤツには驚かされますな!で、こいつはどんな魔法で動いておるのですか?」
「いや、魔法じゃなくて…」
そしてチャップマンの隣りで“はじめてのじどうしゃ”に興奮し、千切れるような勢いで尻尾を振っている
のが、ルークアンド共和国郷土防衛隊志願予備少尉ユッカ・トロンベルカである。
郷土防衛隊は、その名が示すとおり全員が地域住民のボランティアであり、銀髪と狐耳が目を引くユッカは
19歳という若さで分団の指揮を任されている。
これも占領軍による過酷な弾圧とそれに対するレジスタンス活動の結果、人口に占める二十~三十代の男性
の割合が極端に低下していることの影響である。
ここヘラナブタ高原では、マオンド軍の撤退後もブービートラップとして置き土産にされたり、術者が戦死
してコントロールが効かなくなったりで野生化したキメラや召喚獣による被害が後を絶たないため、ルーク
アンド国内で休養と再編成の途中だった715大隊からチャップマンの小隊が抽出され、郷土防衛隊と共同
で野良キメラ退治を行うことになったのだ。
チャップマンの自走砲小隊とユッカ率いる郷土防衛隊ヘラナブタ管区第三分団は、一番最近野良キメラが目
撃された無人の集落に到着した。
戦前はトンキューと呼ばれる牛に似た食肉獣を飼育して生計を立てていた農村は、戦火に晒され全住民が離
散した今となっては荒れ放題の廃墟と化している。
チャップマンは村はずれの草原に陣を構えた。
野良といっても生物兵器、敵兵を攻撃するよう訓練されたキメラを捕捉するには自分自身を囮にするのが最
も効率がいい。
「これはですね、こうやってソースを絡めて食べるんです」
「この果物の蜂蜜漬けも美味しいですよ~」
で、キメラを待つ間に食事をとることになったのだが、貴重な男手は全て正規軍か復興関連事業に取られ、
十代の女性が隊員のほとんどを占める郷土防衛隊との共同作戦である。
気分はすっかりガールスカウトの野外実習であった。
「遠足じゃないんだがな…」
「まあ大目に見てやってください」
思わずボヤきの出るチャップマンの隣りに腰を降ろしたユッカが言った。
「みんな長年待ち望んでいた自由ってやつを満喫してるんですよ、マオンドに支配されていた頃はほとんど
家畜扱いでしたから」
楽しそうにGIと交流する部下の姿を目を細めて見守るユッカのうなじから鎧に隠れた背中にかけて、薄い
ピンク色の筋が走っている。
実家が牧場をやっているチャップマンは、それが棒か鞭で肉が裂けるまで打たれた跡だということを知って
いた。

409 :外パラサイト:2010/05/30(日) 05:58:20 ID:6LiHdjEo0
その日の夕刻までにチャップマン小隊は4体のキメラを仕留めた。
力はあるが動きの遅い攻城用キメラは75ミリ砲の榴弾で吹き飛ばし、動きの速い肉食獣タイプは車載機銃で蜂の巣にする。
剣や槍で武装した郷土防衛隊ははっきり言って空気だった。
代々武闘家の家柄で腕に覚えありなユッカは「私の時代は終わった…orz」状態である。
と、その時-
突然の地鳴りとともに地面がモコモコと盛り上がる。
大地を震わせ、大型トラックの急ブレーキのような咆哮をあげながら、灰色の岩塊を連想させるせる巨大生物が姿をあらわした。
「あれはゴスゴツゴル!」
「知っているのか雷d…じゃなくトロンベルカ少尉?!」
「うむ、実は私も実物を見るのは初めてなのだが村の古老の話では、普段は地中深くに潜み地上に出てくることは滅多に無いが、ひとたび暴れ出すと町一つ潰れるくらいで済めば良いほうだとか」
「とにかく撃てドンドン撃て!」
だがゴスゴツゴルの皮膚は下手な戦車より強靭で、M3自走砲の75ミリ徹甲弾はピンポン玉のように跳ね返されてしまう。
「ファック!こんな化け物が出てくるなんて聞いてないぜ!」
つい品の無い単語を口にしてしまうチャップマンに、ユッカが並々ならぬ決意を漲らせた表情で言った。
「私にいい考えがある」

ちゃ~らら~ら~(アメリカ国旗→ルークアンド国旗)

横一列に並んだ自走砲が撃ちまくりながらバックで後退する。
実害が無いとはいえ、さすがに集中的に顔を狙われるのは鬱陶しいらしく、ゴスゴツゴルは一直線におかしな鉄の箱の群れに向って突っかける。
GMCに誘い出された岩石怪獣が一本の巨木のわきにさしかかったその時-
「といや!」
木のてっぺんで待ち構えていたユッカがゴスゴツゴルの背中に飛び乗った。
「ここだ!」
怪獣の背中で仁王立ちするユッカは、手にした矛を逆手に持ち替え、何故か都合よく背中に開いている隙間から不気味に脈動する心臓部を抉り出す。
ゴスゴツゴルの目から光が消え、地響きを立てて地に伏した巨体に無数のひび割れが走る。
岩石怪獣は瞬く間に只の岩塊に変わってしまった。
矛を振り上げ勝利のウォークライを挙げるユッカ。
「なんか一番美味しいとこ持っていかれましたね」
「まあいいだろ」
チャップマンは砲手を務める伍長に言った。
「ファンタジー世界じゃモンスター退治は勇者の仕事だ」

410 :外パラサイト:2010/05/30(日) 05:59:09 ID:6LiHdjEo0
こうして一つの事件は終わりました
しかし安心してはいけません
ここは全てのバランスが崩れた恐るべき世界なのです
アメリカ人の想像を超えた神秘と驚異は今もどこかで
じっと牙を剥くチャンスを窺っているのです
(ナレーション:石坂浩二)
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