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294 第216話 レーミア海岸上陸

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第216話 レーミア海岸上陸

1485年(1945年)1月21日 午前7時40分 レスタン領レーミア沖8マイル地点

マーケット作戦実行部隊の中核を担う上陸部隊は、1月21日午前6時までにレーミア海岸沿岸部に終結を終え、午前6時10分から
護衛の第54任務部隊第1任務群の戦艦部隊が、上陸前の準備砲撃を開始した。
第54任務部隊は、18日から断続的にレーミア海岸付近のシホールアンル軍陣地に向けて事前に艦砲射撃を行っていたが、敵の要塞砲に
よる反撃と、航空部隊の迎撃によって、駆逐艦2隻を失い、戦艦ウェスト・バージニアと重巡洋艦のシカゴ、ミネアポリスが大破したが、
護衛空母から発艦した艦載機と、陸軍航空隊の援護のお陰で、損害はそれだけに留まった。
TG54.1は、18日から20日にかけて、総計48000発の砲弾を敵陣に撃ち込み、事前砲撃の際の第1目標と定められていた
敵の沿岸砲台は、19日までには沈黙を余儀なくされた。
19日の午後からは、レーミア海岸のシホールアンル軍部隊は、TF54の艦砲や、護衛空母の艦載機、陸軍航空隊の航空機によって
一方的に攻撃を受けるだけとなり、上陸作戦の準備は徐々に整って行った。

そして、運命の21日。
これまでに無いほどの猛砲撃が、レーミア海岸一帯に浴びせられた。
TG54.1に残存している6隻の戦艦と6隻の巡洋艦、15隻の駆逐艦は、前夜に補給を済ませた事もあって、盛大に主砲を撃ちまくった。
レーミア湾沿岸部は、ちょうど薄い霧に覆われて見え辛かったものの、米艦隊はお構いなしに砲を撃ちまくる。
この砲撃には、TG54.1に所属している艦のみならず、輸送船団と共に付いて来た多数の上陸支援艦艇……ロケット弾発射艦に改造された
24隻のLSMを始めとする大小の砲艦も加わり、レーミア海岸は、地獄さながらの様相を呈していた。
午前7時30分頃には霧が晴れ始め、午前7時50分までには、霧は完全に消えていた。
その頃には、上陸第一波に選ばれた各部隊が、上陸用舟艇に乗り組み、海岸に向かう準備を整えていた。
上陸第一波に選ばれたのは第1海兵師団と第2海兵師団、第3海兵師団である。

第3海兵師団第3海兵連隊第1大隊に所属するルエスト・ステビンス大尉は、輸送艦の周囲を旋回するLVTの内部から、陸地の様子を
うかがっていた。

「中隊長。前進命令はまだですか?」

B中隊の第1小隊長であるクラレンス・ルィスキー中尉が彼に声をかけて来る。

「早く進まないと、自分の部下が船酔いで伸びちまいますよ。せっかく、出撃前にヴィクトリー・カレーを食べたって言うのに、ここで吐いたら、
台無しですぜ。」
「心配するな。すぐに命令が下りる。」

ステビンス大尉は、軽く笑いながらルィスキー中尉にそう返した。

「それに、これぐらいの揺れであれこれ言っているようじゃ、まだまだ気合いが足りんぞ。」
「はぁ…そりゃそうですね。最も、悩みは船酔いだけじゃないんですが。」

ルィスキー中尉がそう言った直後、LVTが大きな揺れと共に波を被った。
真冬の冷たい海水がたっぷりと艇内に入り込み、防寒服を着た海兵隊員が小さな悲鳴を上げながら体を縮めこませた。
ステビンス大尉とルィスキー中尉も例外無く、冷や水を浴びていた。

「畜生!これは流石に応えるな!」
「ええ。早いとこ陸に上がらんと、俺達全員凍死しちまいますよ。」

ステビンスは同意と言わんばかりに頷き、半乾きのタオルで顔を拭いた後、再び12キロ向こうの陸地に顔を向けた。

レスタン領沿岸部には海岸が少ない。
沿岸部の大半は、切り立った断崖であり、まともに海岸らしい物は、沿岸部全体で6つしかない。
このため、レスタンは昔から、海運業や漁業が盛んでは無く、より利益の多い農業や鉱物採掘等の事業が盛んに行われていた。
今回の上陸作戦に当たって、連合国軍は、上陸に適している土地を探す為、盛んに沿岸部を偵察したが、海岸らしい海岸と言えば、
このレーミア湾しかなかった。
連合軍側は否応なしに、レーミア海岸に上陸せざるを得なかった訳だが、他の沿岸部が使えにくい半面、レーミア海岸は幅が6キロと
なかなかに広く、上陸作戦を行えば、一気に4個師団相当の部隊が上陸出来ると予想されている程である。
アメリカ軍は、この広大なレーミア海岸を3つの地点に分け、第1海兵師団は南のアラスカ・ビーチに、その左隣の第2海兵師団はニューヨーク・ビーチ、
一番北側の第3海兵師団はテキサス・ビーチに向かう事になっている。

第1、第2、第3海兵師団が橋頭保を確保した後は、後続の第4、第5、第6海兵師団と、カレアント軍の第2機械化軍団所属の2個機甲師団
(実名は機械化騎兵師団だが)が続々と上陸し、内陸に進撃する予定である。
これらの上陸部隊は、午前7時前に特別メニューが出された。
海兵隊は、上陸作戦前の定番メニューであるステーキが出されたが、一部の輸送船では、なぜかカツカレーが振舞われた。
ステビンス大尉が乗っていた輸送船でもカツカレーが出され、海兵隊員達は、独特の辛さと、カツと呼ばれる独特の揚げ物を、最初は不審がっていたが、
食べてみるとかなり美味いため、彼らはあっという間にカツカレーを平らげた。
(最も、平らげたのは何も知らない新米ばかりであり、経験のある古参兵は、半分以上残していたが…)
また、このカツカレーは、カツの部分を英語読みで勝つ=ヴィクトリーと変えてヴィクトリー・カレーと言う名前で出された為、海兵隊員達は、
これは縁起の良い料理だと考え、特別料理を出した輸送船のコックに深く感謝していた。
ステーキやヴィクトリー・カレーで腹を満たした海兵隊員達は、多数のLVTに乗り込み、上陸作戦開始の時を今か今かと待ち侘びていた。
第3海兵師団が担当するテキサス・ビーチは、他のビーチ同様、沿岸部はほぼ平らで、内陸から2キロの地点には緩やかな丘がある。
浜辺から3キロの所には、艦砲射撃を受けて半壊したレーミア城がある。
ステビンスは、そのレーミア城に注目した。

「へえ……艦砲弾をあんなに撃ち込んだにもかかわらず、あの城だけは原形を留めているんだね。」

ステビンスの横で、カメラを大事そうに抱えていた従軍記者が、双眼鏡越しに、物珍しそうな口ぶりでステビンスに言った。

「パイルさん。このテキサスビーチは、他のビーチと比べて、砲撃は余り行われていなかったようだぜ。海軍の連中は、でかでかと立てられた
要塞があるニューヨーク・ビーチやアラスカ・ビーチに砲撃を集中している。お陰で、この地区は、別の所に比べてまだ綺麗な方らしい。」
「へえ、そうなのか。でも、昨日の昼から巡洋艦と駆逐艦、10隻以上が延々と、砲撃を浴びせ続けていたが、それでも足りないのかね?」
「足りないってもんじゃないぜ。戦艦も含めた砲撃を行ってこその事前砲撃だ。巡洋艦と駆逐艦じゃ、せいぜいクラッカー止まりだな。」
「クラッカー止まりとは、なかなか厳しい意見だね。」

ワシントンデイリーニュース紙から派遣されて来た従軍記者、アーニー・パイルは、ステビンスの厳しい意見を聞いて、興味津津と言った
様子で更に聞いてくる。

「やはり、敵を完全に叩き潰して貰わんと満足しないかい?」

「当り前さ。上陸開始直後くらいは、俺たちの仕事を残さないぐらいに叩いて貰わんと、逆にこっちが痛い目に遭う。パイルさん。
あんただって、浜辺に付いた途端、敵に撃ち殺されたくは無いだろう?」
「ああ。当然、死にたくないな。」

パイルはそう答えながら、大事そうに抱えているカメラを、右手で叩いた。

「俺は、これからもずっと、いい写真を撮って行きたいからね。」

パイルとステビンスは、それから口を閉ざし、上陸開始の時をひたすら待ち続けた。

ステビンスを始めとする海兵隊員達は、作戦開始前の緊張を雑談で紛らわせている間、上陸部隊を構成する各艇は、徐々に輸送艦から離れ、
攻撃開始点に付くまでの間、次第に陣形を整えて行く。
陣形の最先頭を行くのは、3インチ、または5インチ砲、ロケット弾発射機を備えた小型の火力支援砲艦と、中型揚陸艦を改造したロケット弾搭載艦、
LSMRである。
これらの支援艦艇は、上陸部隊の最先頭に立って、戦艦、巡洋艦、駆逐艦の支援を受けつつ、上陸地点に砲弾やロケット弾を叩き込みながら、
後から付いて来る上陸部隊を支援する。
支援艦部隊の後続は上陸部隊が続くが、この上陸部隊の最先頭にも、火力支援用のLVTが配置されている。
これは、LVT4を、自走砲型に改造したLVTA4である。
通称、アムタンクと呼ばれるLVTA4は、75ミリ短砲身砲を搭載しており、形としては戦車そのものである。
このアムタンクは、75ミリ砲弾を上陸地点に撃ち込みながら、後続の舟艇部隊を先導する任を担っている。
その後方に、ステビンスらも含む海兵隊員が乗る無数のLVTが続く。
歩兵を満載したLVTの後方にも、ジープや装甲車を搭載したLCMやLCVPが、時速5ノットという速度で輸送船の周囲を回り続けている。
第3海兵師団は、上陸第一波に第3海兵連隊と第21海兵連隊を選んでいるが、第3海兵連隊と第21海兵連隊は、上陸当初は戦車の支援を
受けられない為、必然的に歩兵のみで上陸地点を確保しなければならない。
第3海兵師団の装甲戦力の主力である第3海兵戦車連隊が上陸できるか否かは、第3、第21海兵連隊の奮闘に掛かっていた。

午前8時 唐突に、舟艇が旋回運動を止め、船首を陸地に向け始めた。

「おっ、動きが変わったぞ。」

ステビンスはそう呟いてから、首を伸ばした。

「遂に始まったか……」

彼は、周囲の状況を見ながら、ため息交じりにそう言い放った。
ステビンスの乗るLVTの左右には、何隻ものLVTが横に付いている。
LVT隊は、先頭の支援艦に付き添う形で、時速6ノットで陸地に向かって行く。
淡々とした様子で上陸地点に向かう中、TG54.1に属する戦闘艦艇は、所定の位置に付いた状態で、最後の支援砲撃を行っている。
ステビンスは、戦艦カリフォルニアが自分の乗るLVTから300メートルほど離れた場所で、主砲弾を発砲する様子を見つめる。
カリフォルニアは、12門ある14インチ砲を、ほぼ水平に近い角度まで下げてから主砲を撃ち放っている。
(内陸部では無く、海岸付近を撃っているな)
ステビンスは、心中でそう思った。
彼の乗ったLVTはカリフォルニアの艦首付近を通り過ぎた後、重巡洋艦クインシーの艦尾をすり抜け、フレッチャー級駆逐艦ビッキングの
艦首先も単調な船足で通り過ぎて行く。
駆逐艦ビッキングは、海岸より2キロも離れていない場所に居た為、艦上に搭載していた40ミリ機銃も撃ちまくっていた。
舟艇隊を引き連れている支援艦部隊も、ここぞとばかりに撃ちまくる。
支援艦は、それぞれに搭載されている3インチ砲や7インチ砲のみならず、駆逐艦ビッキングと同様に40ミリ機銃を雨あられと海岸に注ぎ込む。
ロケット弾を搭載している艦は、それも使って海岸の地ならしに励んでいる。
一番派手なのは、ロケット弾発射機を大量に詰め込んだLSMRである。
第3海兵師団の戦区には、4隻のLSMRが配置されており、1隻で480発。4隻合わせて1900発もの5インチロケット弾を上陸地点に
叩きつけていた。
先のレーフェイル大陸戦では無数のゾンビ軍団を一掃した程の凄まじい威力が、ここでも発揮されていた。

「ヒュー、こいつは凄いねぇ。」

艇内から顔を出したパイルは、上陸地点の様子を見ながら半ば呆れたような表情を浮かべた。

「こりゃ、軽く1万発はぶち込んでいるな。この様子じゃ、さしもの敵さんもおしまいだと思うが。」
「パイルさん、そいつは甘いぜ。」

ステビンスは戒める様な口ぶりで、パイルに言う。

「シホット共は意外と粘り強いんだ。先のエルネイル戦だって、上陸前にたらふく砲弾をぶち込んだにもかかわらず、シホット共はかなりの数が
生き残っていた。今回だって、連中はどこかに隠れて、俺達を狙って来るかもしれん。」
「油断は禁物って事だな。」

パイルの一言に、ステビンスは無言のまま頷いた。
唐突に、LVTが波を被り、再び艇内に海水が入って来る。
ステビンスらはまたもや、真冬の冷たい海水を浴びせられ、体を震わせた。
(クソ!これが夏か秋頃だったら、服が濡れてもさほど気にならなかったのに!とんだお偉方だな、畜生め!!)
彼は胸の内で、真冬に上陸作戦を計画した上層部を罵った。
先頭を走っていた支援艦部隊が左右に展開し、LVT部隊に道を開ける。
陸地から1000メートルを切った所で、上陸部隊の先頭を行くアムタンク部隊が、一斉に75ミリ短砲身砲を発射した。
戦艦や巡洋艦、駆逐艦のみならず、支援艦の砲弾やロケット弾を受けていた上陸地点が、アムタンクの75ミリ砲弾で更に耕されていく。
LVTAは、1000メートルから800メートル。800メートルから600メートルと、着実に進行していく。
上陸部隊は順調に進み続け、海岸との距離が300メートルに達した時、陸地から待ってましたとばかりに、迎撃の砲火が放たれた。
始めに狙われたのは、先頭を走るアムタンク部隊であった。
シホールアンル軍の放った砲弾がアムタンク隊の前方や後方で着弾し、水柱を噴き上げる。
無数の水柱が立ち上がり、前方を航行していたアムタンクの半分が覆い隠された。

「おい!アムタンクがやられてるぞ!!」

攻撃を受けるアムタンクを見ていた海兵隊員の1人が、興奮で浮ついた声音でそう叫ぶ。
確実に2、3両は撃破されているかもしれないと、誰もが確信していたが、水柱が晴れると、そこには尚、健在なアムタンクが姿を現し、
お返しとばかりに、75ミリ砲弾を撃ち放っていた。

海岸付近に展開しているシホールアンル陸軍第18歩兵師団は、レーミア海岸の北側に歩兵2個連隊を配置し、残存している火砲と
魔道銃を塹壕やトーチカの銃眼から突き出してアメリカ軍上陸部隊を待ち伏せていた。
レーミア海岸の防衛は、第42軍が担っており、海岸線には北側、中央、南側に2個連隊ないし3個連隊を配置している。
シホールアンル軍は、アメリカ軍の事前砲撃による被害をなるべく抑える為、レーミア城を含む海岸線に地下要塞を構築し、ここに
部隊を布陣させていた。
防衛地点の要でもある中央側と南側には、通常の沿岸要塞もあったが、この要塞は敵の砲火を引き付ける囮として使い、主力部隊は地下に籠っていた。
第42軍は、海岸付近に3個師団+1個機動砲兵旅団を布陣させ、万全の態勢で敵を迎え撃ったのだが、海岸線の展開部隊は、18日より開始された
敵の事前攻撃により少なからぬ損害を被り、特に、レーミア城周辺に配置され、敵が上陸して来た時には、その真価を発揮するであろう
第221機動砲兵旅団は、空襲と艦砲射撃の集中攻撃を受けて戦力が40%以上も低下した他、もともと囮としていた沿岸要塞の全滅はともかく、
海岸線付近の地下要塞に籠っていた主力部隊もまた、保有していた火砲の3割以上を喪失し、12000人が死傷すると言う大損害を被っていた。
敵の上陸前から大出血を受けた第42軍だが、それでも主力部隊はまだ戦闘能力を充分に残しており、火砲も半数以上が残存している。
何よりも、軍の直轄予備として温存されていた第21歩兵師団と第308石甲旅団が無傷なのが救いだった。
第42軍の作戦目的は、大挙上陸して来る連合軍部隊を海岸線に押しとどめるか、最悪の場合でも、海岸より1ゼルド以上は進ませず、増援の
第47軍と第2親衛石甲軍の増援を待つと言う物だった。
事前砲撃で散々に叩きのめされた第42軍の将兵達は、アメリカ軍が上陸部隊を陸地に近付けようとしている今でも、全く自信を失っていなかった。
それどころか、上陸して来る無防備なアメリカ兵を大量に仕留められるチャンスとさえ思っていた。
第21歩兵師団第78歩兵連隊第1大隊を指揮しているキュルス・ベーゲギル少佐も、そう確信している将兵の内の1人であった。

「敵上陸部隊、600グレルまで接近!」
「ふむ……馬鹿共が。のこのこと近付いて来たな。」

ベーゲギル少佐は不敵な笑みを浮かべた。
エルネイル戦で、アメリカ軍の上陸作戦を経験しているベーゲギルは、事態が自分の思う通りに進んでいる事に、内心、嬉しくてたまらなかった。
(連中は、上陸部隊の最先頭に戦車を伴っていない。来るのは薄い装甲しか張られていない紙のような船と、脆弱な歩兵だけ。こいつらを
全滅させれば、かなり時間を稼げるぞ)
海岸の地下要塞に布陣しているシホールアンル軍部隊は、巧妙に駆逐された陣地に配置され、交互に魔道銃で支援を行えるように工夫されている。
彼らは、アメリカ軍部隊が上陸しようとしたら、魔道銃と野砲の十字砲火を思う存分浴びせる事が出来る。
事前の艦砲射撃と空襲のせいで使える魔道銃と野砲は減ったが、残存する兵器だけでも敵を波打ち際に拘束出来る自信はあった。

「この海岸は、1時間後には血で染まるだろうな……アメリカ人共の血で……。」

ベーゲギルの脳裏に、エルネイル戦での屈辱的な敗北が蘇る。
あの時、一介の中隊長だったベーゲギルは、敵の上陸部隊相手に奮闘するも、虚しく敗北し、撤退したが、その時生き残ったのは、たったの
5名だけであった。
120名中、たったの5名である。全滅といっても過言ではなかった。
その時の復讐を、今こうして、果たせる時が来た。

「さて、俺の指揮下にある銃座では、何人のアメリカ人を打ち倒す事が出来るかな……」

彼がそう呟いた時、唐突に艦砲射撃の砲声と爆発音が鳴り止んだ。

「支援砲撃が終わったか……来るぞ。」

ベーゲギルは、落ち着き払った口調で独語する。
エルネイル戦で敵前上陸を体験した彼は、海岸に接近している味方の誤射を恐れた敵艦隊が、砲撃を止めたのだと分かっている。

「もう少しで、奴らは上がって来るな……自らの死体を晒しに……」

ベーゲギルは、敵が十字砲火を浴びて苦戦する様を思い浮かべ、満足気な笑みを見せた。
その笑みは、海側から聞こえてきた砲声によって凍り付いた。
唐突に砲声が鳴ったかと思うと、再び海岸付近に爆発が起こった。

「ん?敵はまだ艦砲射撃を続けるのか?」

ベーゲギルは、アメリカ軍が味方撃ちを恐れずに砲撃を続けたのかと思った。
だが、彼は、部下から意外な言葉を聞く事になる。

「大隊長!敵の上陸艇が砲撃を行っています!」
「何?上陸艇が、だと?」
「ハイ!敵上陸部隊は、最先頭に大砲を積んだ船を配置しているようです!」

銃眼の向こうへ目を向けたまま、報告を送って来る部下の言葉に、ベーゲギルは首を捻った。

「……敵は舟艇に大砲を積んで来たのか……流石に、上陸第一波は重火器が足りないから、間に合わせで大砲1門を積んだ舟艇を先頭にして来たのかな。」

彼はそう言い放った。
ベーゲギルは、てっきり、敵が上陸艇に野砲を搭載し、そこから砲撃を行っているのかと思っていた。

「なるほど、なかなかの良策だ。しかし、それも、事前の攻撃に生き残った多数の魔道銃と、壕に配置された野砲にはあまり効果が無い。敵の
無防備な砲などは、舟艇ごと十字砲火で叩きのめす事が出来るだろう。」

無駄なあがきだ。彼は心中で、アメリカ軍の“苦肉の策”をそう切り捨てた。
だが、彼は、それが間違いであった事をすぐに思い知らされた。

「だ、大隊長!大変です!!」
「なんだ、騒ぐな。」

急に、金切り声を上げる部下に対して、ベーゲギルは余裕のある口調で応える。

「あれを見て下さい!」

部下はベーゲギルに振りかえり、銃眼の向こうを指差す。先程まで顔に張り付いていた余裕は、綺麗さっぱり吹き飛んでいた。

「それを貸せ。」

ベーゲギルは部下から望遠鏡をひったくり、沖合の敵上陸部隊を見据える。
その時、銃眼の側で砲弾が落下し、爆発音と共に前方が煙に遮られる。

「チッ!忌々しい!」

ベーゲギルは苛立ちながら、視界が晴れるのを待つ。
やがて、煙が晴れ、沖合の上陸部隊が見え始めた。彼は、上陸部隊の最先頭を行く上陸艇に目を向ける。

「……おい、何だあれは!?」

彼は、最先頭の上陸艇を見るなり、飛び上がらんばかりに仰天した。
それは、上陸艇と呼ぶには余りにも攻撃的な姿をしていた。
車体は平たく、所々にアメリカ軍が良く使う上陸艇の特徴を残している。
だが、車体の上には、短いながらも太い口径と思しき砲身が付いており、それが断続的に火を噴いている。
また、車体も見るからに頑丈そうだ。
彼が目にしているそれは、防御力が薄く、貧弱な火器しか持たぬ上陸艇では無く、攻防性能の高い戦車そのものであった。

「あれは上陸艇じゃない!戦車だ!!」

ベーゲギルは、驚きの余り、叫び声をあげてしまった。

「畜生!敵は新兵器を送り込んで来やがった!魔道士!大隊の砲兵中隊に連絡だ!全力で、あの戦車を叩き潰せと伝えろ!!」
「りょ、了解!」

ベーゲギルの焦りが移ったのか、魔道士もまた、声を上ずらせながら砲兵隊に連絡する。
敵が海岸まで150リギルに迫った時、砲兵隊は野砲を撃ち放った。
浅瀬を走る戦車部隊の周囲に、次々と砲弾が落下し、水柱を噴き上げる。
大隊に配属されている砲兵中隊の野砲は前部で8門残っている。水柱の数は、明らかに8本以上はあった。

(連隊の野砲を総動員しているな)
彼はそう思いながらも、あの無数の水柱の中に、2、3両ほどは砲弾を浴びて破壊されたかと思い、無様な姿を晒す敵戦車の姿が見える事に期待した。
だが、彼の期待を裏切るかのように、敵戦車は水柱を突っ切って前進を続けてきた。
敵戦車はお返しとばかりに砲を撃ち放った。
再び敵戦車の砲弾が浜辺の陣地に落下し、爆煙が前方の海岸を見え辛くする。
野砲部隊は2度、3度と斉射を繰り返し、水上を突き進んで来る敵戦車を阻もうと奮闘するが、どういう訳か、至近弾こそあれど、直撃弾は全くと
言っていいほど無く、敵戦車は備砲と、車内に搭載されている機関銃を撃ちまくりながら悠々と浜辺に近付きつつあった。

「砲兵隊の連中は何やってるんだ!?さっさとあいつらを片付けろ!!」

ベーゲギルは、一向に成果を上げない砲撃に苛立ちを爆発させた。
その時、魔道士から続けざまに2つの報告が入った。

「大隊長!レーミア城付近に展開している第221砲兵旅団が掩護射撃に入るそうです!それから、後方より味方のワイバーン隊が多数接近中との事です!」
「旅団の援護射撃と味方のワイバーン隊の到着か。なかなかの対応だな。」

報告を聞いたベーゲギルは、強張っていた頬を僅かに緩ませた。
唐突に、彼のいる陣地の右横で敵戦車の放った砲弾が落下し、爆発が起きた。
衝撃は真横から来たが、頑丈な作りの陣地は爆風に耐え、ベーゲギルらに危害が及ばなかった。
後方から多数の飛翔音が鳴り、それが瞬時に通り過ぎた、かと思うと、敵戦車の周囲に多数の砲弾が落下し、これまで以上にない激しい爆発があちこちで起こる。
その中に、敵戦車の誘爆と思しき炎を2つ確認出来た。
爆煙と水柱が晴れると、そこには火を噴いて擱坐している2両の敵戦車が居た。
そこに連隊の野砲弾が次々と着弾する。
この砲撃で、新たに2両の敵戦車が爆発するか、履帯を吹き飛ばされ、白煙を上げて停止した。

「よし!いいぞ!」

ベーゲギルは喝采を叫んだ。

ここにきて、砲兵隊もようやく調子を取り戻したか、または221砲兵旅団の助力のお陰か、敵戦車が相次いで戦闘不能に陥れられる。
旅団砲兵と連隊の砲兵隊は、更に3両の敵戦車を行動不能にするという戦果を上げた。
しかし、砲兵旅団と連隊砲兵隊の奮闘は遂に実らなかった。残りの敵戦車は、猛然たる勢いで浜辺に乗り上げて来た。
浜辺には、艦砲射撃と爆撃に生き残った障害物があるが、敵戦車はそれをあっさりと踏み潰し、目につく陣地に片っ端から砲撃と銃撃を浴びせる。
連隊の野砲1門が、敵戦車の放った砲弾に爆砕され、野砲と兵4名が無残な姿に変わりはてる。
別の敵戦車は、流動石で作られた陣地の銃眼目掛けて砲弾をぶち込んだ。
砲弾は銃眼から陣地に踊り込み、そこで爆発。中に詰めていた3名の兵は原形を留めぬまでに体を粉砕された。
新型戦車が、野砲弾を浴びせる小癪な野砲陣地や防御陣地を相手に立ち回っている中、シホールアンル側の野砲陣地も、浜辺に暴れ込んだ新型戦車を
討ち取ろうとする。
新たに1両の新型戦車が真正面から砲弾を受けた。
新型戦車は内部に搭載していた弾薬が誘爆したのか、派手に火炎を噴き上げ、車体が爆発エネルギーによって、大きく引き裂かれた。

「……あの新型戦車。やけに脆いな。」

ここで、ベーゲギルは敵の新型戦車に対して疑問を持った。

「俺が聞いた話では、アメリカ軍がつい最近、前線に出して来た新型戦車は、長砲身キリラルブスの砲弾ですらあっさりと弾く、強靭な防御力を
備えていると聞いていた。だが……今、目の前で戦っている新型戦車は、やたらに脆い気がする……」

彼はてっきり、浜辺に乗り上げて来た新型戦車を、噂に聞いた重防御戦車であると思い込んでいた。
しかし、敵の新型戦車は、200グレルから放たれる野砲弾を、装甲が薄いと言われている側面ならともかく、最も厚い筈の正面に受け、あっさりと
破壊されている。

「あの戦車は、もしかして、噂に聞いた戦車とは、別の奴なのかも知れん。」

ベーゲギルの言う通り、目の前の新型戦車は、噂の重防御戦車……パーシングではなかった。
LVTA4アムタンクは、短砲身ながら、75ミリ砲を有する強力な装甲車両であるが、元々は、LVT4に75ミリ榴弾砲を付けただけであり、
防御力は装甲車並みである。

近距離ならば、シャーマン戦車の正面装甲ですら撃ち抜ける野砲弾である。
装甲車と同程度の防御力しか持たぬアムタンクが耐えられる筈が無かった。

「新型と言えど、簡単に撃破出来るのならば都合が良い。砲兵隊に連絡だ。1台も逃すな!」

新型戦車が簡単に撃破できると知ったベーゲギルは、魔道士に向けてけしかけるような口調でそう命じた。
だが、この時点で、彼らは肝心な事を忘れていた。
シホールアンル軍の砲撃は、もっぱら、敵の新型戦車に向けられていたが、本来であれば、真っ先に攻撃するべきの敵歩兵を乗せた後続車両は、
全く無傷のまま海岸に近付きつつあった。

「……待て……おい、敵の歩兵部隊は砲撃していないのか!?」

敵の新型戦車と砲兵隊の死闘に見入っていたベーゲギルは、後続の無傷の歩兵部隊を乗せたLVTの群れを見るなり、ハッとなった口調でそう言った。
砲撃は、敵の新型戦車にばかり向けられていた。
この時、敵新型戦車の群れは、損害を出しながらも、海岸より100メートルの位置まで前進していた。
砲撃は当然、その新型戦車に集中していたが、その後方100メートルには、ごく少量の砲弾が思い出したかのように着弾しているだけである。
(いかん!敵の新型戦車に気を取られている間に、僅かながらとはいえ、敵に足場を確保させてしまった!)
ベーゲギルは、失態を悟った。
彼も含む2個連隊と、221砲兵旅団は、未知の敵新型戦車を破壊しようとしたばかりに、後続の歩兵をすっかり見落としていたのである。

「やばいぞ!すぐに砲を敵の歩兵に向けさせなければ!」

ベーゲギルは、すぐに命令を伝えようとした。
彼の顔から、先程まであった自信がすっかり失われ、今では焦りの色が濃く滲みでていた。
ベーゲギルは、命令を魔道士に伝えたが、その頃には、歩兵を乗せた敵の上陸第一波が海岸に到達し、後部の開閉部から無数の歩兵を吐き出していた。

第3海兵連隊と第21海兵連隊は、30両のアムタンクが先頭切って戦っている中、敵の砲撃がアムタンクに集中している隙を突く形で、次々と上陸して来た。
LVTは浜辺に乗り上げた後も、しばらく突き進む。

LVTが海岸に到達する前に、残っていた敵陣から魔道銃の連射が放たれるが、海兵隊員もLVTに取り付けられている12.7ミリ機銃を乱射して反撃を試みる。
海岸地帯は、炎上するアムタンクと砲弾の弾着、飛び交う光弾と機銃の曳光弾によって混乱の極みにあったが、勢いは海兵隊にあった。

「行けぇ!進め!」

ステビンスは、LVTの後部ランプが開くと同時に、部下の将兵達を叱咤しながら浜辺に躍り出る。
砲弾の飛翔音が鳴り響き、前方60メートル程の所で幾つもの爆発が起こる。
海兵隊員は咄嗟に伏せたため、被害は最小に抑えられた。

「これはまた、偉い事になった物だ!」

ステビンスの後ろに付いているアーニー・パイルが、仰天した口調で叫んだ。

「あっちこっちから敵の銃弾が飛んで来るぞ!」
「シホット共が魔道銃を撃ちまくってやがるんだ!幸いにして、ここには俺達の乗って来たLVTに、連中が残した障害物と、破壊されたアムタンクが
盾として使えるから、身を隠していられる!障害物が少なかったエルネイル戦よりゃだいぶマシな状況だ!」

ステビンスは興奮した口調でパイルに言う。その直後、砲弾が後方に落下した。
凄まじい爆発音と共に、後方から熱風が伝わって来た。
咄嗟に伏せたステビンスとパイルは、爆風が収まったのを見計らって、少しだけ顔を上げた。
30メートルほど後方にあった1隻のLVTが、直撃弾を食らって炎上していた。
中から、火達磨となった乗員2人が慌てて飛び出し、波打ち際に倒れたまま動かなくなった。

「……クソッタレな状況には変わりないがね。」

ステビンスは、顔を引き攣らせながらパイルにそう言う。

「ああ……その通りだな。」

パイルは浅く頷いてから、炎上するLVTにカメラを向け、シャッターを切った。

「魔道銃の攻撃は何とかなるんだが…問題は、断続的に振って来るこの砲撃だな。エルネイル戦でもシホット共の砲撃で射すくめられる部隊が
少なからずいた。このままじゃ、海岸から200メートルも離れん内に完全に足止めされちまう。」
「つまり、やばい状況という事か。どうするんだい、中隊長さん?」
「どうするって?そんなモン決まってる。」

ステビンスは、持っていたM1ガーランドを左手で叩いた。

「7.62ミリをぶち込むか、こいつのケツでシホット共の頭をカチ割って黙らすだけだ。」
「なるほど……流石はマリーンだ。」

パイルは、ステビンスの闘志に感嘆の言葉を漏らした。
第3海兵連隊の歩兵を乗せたLVTは、その後も続々と上陸して来る。
シホールアンル軍は、砲撃と魔道銃によって前進を阻止しようとするが、海兵隊員達は障害物を上手く利用して、じりじりと陸地に近付いて行く。
残存するアムタンクも、海兵隊員達の奮闘に負けまいと、砲兵陣地や防御陣地に片っ端から砲弾を叩き込んでいく。
第3海兵連隊の最先頭部隊が上陸して早10分が経過した時、海岸上空に味方機動部隊から発艦した艦載機の大編隊が現れた。

「騎兵隊の到着だぞ!」

ステビンスは、上空を通り過ぎて行く戦闘機、艦爆、艦攻の大編隊を見て頼もしげに叫んだ。
少なめに見積もっても100機以上の規模を誇る艦載機隊は、激戦区となっているレーミア海岸上空を通過し、まっしぐらにレーミア城に突進して行く。
この時、シホールアンル軍の航空支援部隊もレーミア海岸の近くに到達していた。
図らずも接触したアメリカ、シホールアンル両軍の航空部隊は、まずは制空隊同士が彼我入り乱れての激戦を展開し、制空隊の迎撃を振り切った
ワイバーンや、F4U、F6Fがそれぞれの攻撃機に襲い掛かって行く。
先に目標を攻撃できたのはシホールアンル軍であった。
米戦闘機の妨害を突破した18騎のワイバーンは、海岸地帯をじりじりと進む第3海兵連隊と第21海兵連隊に襲い掛かった。
ワイバーンは海岸地区にたむろするLVTの群れに次々と爆弾を投下する。

2発ずつの150リギル爆弾が砂浜や海面で炸裂する。不運なLVTが直撃弾を食らい、一瞬の内に猛火に包まれた。
2騎のワイバーンは、沖合から向かって来るLVTに爆弾を浴びせる。
この爆弾は2発とも外れたが、ワイバーンは帰りがけの駄賃とばかりに、海兵隊員を満載したLVTにブレス攻撃を仕掛けた。
たちまちの内に30名以上の海兵隊員が丸焼きにされ、LVTの荷台が激しく燃え上がる。
やがて、LVTは爆発を起こし、黒煙を噴き上げながら水没していった。
一度に多数の海兵隊員を殺した事に愉悦の笑みを浮かべた竜騎士だが、報復は即座に返された。
仲間の死を目の当たりにした海兵隊員達は、傍若無人なワイバーンをむざむざ帰すという”ふざけた“事はしなかった。
5、6隻のLVTが搭載していた12.7ミリ機銃を乱射し、高空に向けて飛び去ろうとしていたワイバーンが機銃弾を浴びる。
1騎は魔法防御が切れる前に、12.7ミリ機銃の射程外に逃れる事が出来たが、もう1騎は運悪く、魔法防御が切れてしまった。
その瞬間、竜騎士の体が腹のあたりから分断され、ワイバーンが下腹や頭部等に12.7ミリ弾を食らった。
全身から大量出血を起こしたワイバーンは、切断された竜騎士の体と競い合うようにして海面に落下した。
水柱が上がる瞬間、撃墜を確信した海兵隊員達は、小癪な敵の散華に中指を立てながら歓声を上げた。
海岸を襲ったワイバーン隊は健闘したが、それと同時に、米機動部隊から発艦した攻撃隊も、レーミア城の西側に展開した221砲兵旅団に襲い掛かっていた。
この日早朝の航空支援は、護衛空母から発艦したF6Fとアベンジャーの他に、レーミア海岸西方沖90マイル地点に展開した第58任務部隊の艦載機も加わっていた。
TG58.1から発艦したF6F24機、F4U32機、SB2C、TBF各18機は、海兵隊の支援要請を受けてレーミア城付近に展開する敵砲兵隊の攻撃に向かった。
途中、シホールアンル側のワイバーン隊と遭遇し、SB2C2機とTBF1機がワイバーンに撃墜したが、残りはレーミア城に向けて突進した。
まず、エセックスから発艦したヘルダイバー隊が高度3500メートルから急降下に入る。
シホールアンル軍は、レーミア城周辺に展開させた対空砲を総動員して迎撃に当たるが、ヘルダイバー隊は1機も撃墜される事無く、次々と爆弾を投下した。
海岸の海兵隊を狙い撃ちにしていた野砲陣地に1000ポンド爆弾が着弾し、野砲が操作に当たっていた砲兵もろとも吹き飛ばされた。
ある爆弾は、野砲の後ろに野積みにされていた砲弾箱の山に命中した。
その瞬間、大爆発が起こり、一気に4門の野砲が破壊された。
ヘルダイバー隊によって、散々に叩きまくられた野砲陣地は、この時点で残存戦力の3分の1を喪失していたが、そこへ駄目押しと言わんばかりに、
イントレピッドのアベンジャー隊が水平爆撃を敢行し、更に被害を拡大させた。
第221砲兵旅団は、この空襲で砲戦能力を喪失し、海岸への掩護射撃が満足にできなくなった。
ステビンスは、落下して来る砲弾の量が急激に減った事から、機動部隊の艦載機隊が敵砲兵の爆撃に成功した事を確信した。

「砲撃が少なくなった。これで進める!」

ステビンスはそう言うと、体を起こして部下の海兵隊員を叱咤した。

「今がチャンスだ!あそこの土手まで一気に駆け抜けるぞ!」

ステビンスの言葉を聞いた海兵隊員達は、ここぞとばかりに、一斉に起き上がり、内陸部に向けて突進した。
ステビンス中隊を見習うかのように、他の海兵中隊も一気呵成に内陸部へ雪崩れ込んでいく。
ある部隊はいまだ健在なアムタンクに隠れながら進み、ある部隊はステビンス中隊のように戦場を駆け抜けて行く。
シホールアンル軍の魔道銃がより一層、激しく光弾を放ちまくるが、海兵隊も陸地に据えた30口径機銃をお返しとばかりに銃眼に撃ち返す。
多数の海兵隊員の援護を受けたアムタンクは、更に内陸部へ進んでいく。
アムタンク隊は30両中、14両が破壊されるか、行動不能に陥っていたが、残りはこの大損害に臆する事無く、敵陣に突っ込んで言った。
交戦開始から30分足らずで200メートル前進し、第3海兵連隊と第21海兵連隊は、敵の陣地地帯の至近にまで浸透した。
それまで、海岸線だけを狙い撃っていたシホールアンル軍は、急速に進出した敵兵に側面を脅かされつつあった。
火炎放射器を持ったとある海兵隊員が、トーチカの側方からそっと近付き、隙を見て銃眼に火炎を注ぎ込んだ。
灼熱の炎をたっぷりと注ぎ込まれたそのトーチカの中で、全身に炎を纏ったシホールアンル兵が断末魔の叫び声を上げ、2人が外に飛び出してきた。
そこを別の海兵隊員に後ろから撃たれ、戦死した。
1両のアムタンクは、野砲陣地に接近すると、止まる事も無く、そのまま進み続ける。
機銃を乱射しながらアムタンクは野砲陣地を蹂躙する。
生き残ったシホールアンル兵が、不用意に後ろ姿を見せたアムタンクに飛び乗ろうとするが、随伴して来た海兵隊員に射殺された。

敵歩兵部隊の上陸開始から1時間が経過した。
第78歩兵連隊は、尚も海岸線付近で粘っていたが、形勢は第78連隊にとって、完全に不利な物になっていた。
ベーゲギルは、戦死した射手に変わって、魔道銃を撃ちまくっていた。

「畜生!アメリカ兵め!あちこちから湧いて来やがる!」

彼は憎らしげな言葉を吐きながら、遮蔽物に身を隠そうとする敵兵に向けて光弾を放つのだが、タイミングがずれたため、1発も命中しなかった。
今の所、彼の担当区域である海岸地帯は、敵の前進を何とか抑えている。
ベーゲギル大隊は、海岸から50グレル~200グレルの範囲に展開しているが、敵の歩兵は既に150グレルの位置にまで進んでいる。

それでも、ベーゲギル大隊は残った魔道銃と野砲を総動員し、20分前から敵の進出を抑えていた。

「大隊長!増援の石甲部隊が、敵機の空襲に遭って予定通りには進めないそうです!」
「何!?キリラルブスが足止めを食らっているのか!?」

ベーゲギルは魔道銃の引き金を引いたまま、銃声に負けまいと、絶叫めいた声で魔道士に聞き返した。

「はい!それから、左翼の第2大隊が後退を開始しました!」
「なんだと!?くそ、もう少し粘れる筈なのに……!」

ベーゲギルは悔しげに顔を歪めながら、再び前方を見据える。
この時、遮蔽物の向こうから、大きな鉄の塊がゆっくりと姿を現した。
上陸開始当初から、海岸線で派手に暴れ回った敵の新型戦車だ。

「くそ、邪魔だぁ!!」

ベーゲギルは顔を真っ赤に染めながら、魔道銃の銃身を新型戦車に向け、発砲した。
無数の光弾が新型戦車に注がれ、夥しい火花が飛び散る。
だが、それだけであった。
野砲弾の砲撃であっさりと破壊された新型戦車だが、魔道銃如きでやられるほど柔では無かった。
敵の新型戦車は、ベーゲギルの努力をあざ笑うかのように遮蔽物を乗り越え、ゆっくりと前進してくる。
新型戦車は、ベーゲギルのいる陣地から80メートルほど手前で停止する。
その短い砲身は、彼が居る陣地に狙いを定めていた。

「いかん!こっちを狙っているぞ!退避しろ!!」

ベーゲギルは慌てた口調でそう叫んだ。
彼の言葉を聞いた魔道士や給弾員が慌てふためいたように駆け出し、ベーゲギルも魔道銃から離れ、陣地の出入り口から飛び出した。
その直後、敵戦車から放たれた砲弾が銃眼の開口部の上の部分に突き刺さって爆発し、それに伴う爆炎と破片が陣地内に注がれた。

ステビンスの率いる第1大隊B中隊は、海岸から300メートル進んだ所で敵トーチカ群から放たれる猛烈な弾幕射撃に足止めされていたが、
1両のアムタンクが支援に来てくれたお陰で、状況は一気に好転した。
アムタンクの砲弾を食らった3つある内の真ん中のトーチカから黒煙が吐き出され、そこから光弾が飛んで来なくなった。
B中隊に注がれる光弾の量は、一気に減った。

「よし!今だ!」

ステビンスはそう叫ぶと、部下の海兵隊員達が待ってましたとばかりに隠れていた塹壕から飛び出し、急速に間合いを詰めて行く。
残った左右のトーチカが魔道銃を放つが、右側の魔道銃は、アムタンクが直接、12.7ミリ機銃を撃ち込んで射撃を妨害した。
左側の魔道銃だけが、突進する海兵隊員達を撃つ事が出来たが、魔道銃1丁だけでは、猛然と突き進む100人以上の海兵隊員達を食い止める事は出来なかった。
何人かの海兵隊員が撃たれ、土の上や、飛び越えようとした他の塹壕の中に落ちたが、大半はトーチカの至近にまで接近した。
アムタンクが海兵隊員を援護するため、右側のトーチカに75ミリ砲弾を放つ。
砲弾はトーチカの上部に命中した。
榴弾であるため、トーチカを破壊するまでは出来なかったものの、破片が中に入り込んでシホールアンル兵を殺傷したのか、右のトーチカも完全に沈黙した。
ステビンスは、直率の第1小隊と共に魔道銃を撃ちまくっていた左側のトーチカの左側面に回り込んでいた。

「よし、後ろに回り込んで敵を排除する。ボブ、スペイシー、手榴弾を投げ込め。ケイスはそれで中を焼け。」

M1ガーランドとトンプソンサブマシンガンを持つ兵と、火炎放射器を持つ兵に指示を下す。
だが、指示を下したその直後、意外な事が起こった。

「後退だ!急いで逃げろ!」

中からそんな叫び声が聞こえたかと思うと、いきなり、トーチカの出入り口から4人のシホールアンル兵が飛び出してきた。
彼らは不幸にも、ステビンスらと鉢合わせとなってしまった。

「動くなシホット!」

ステビンスらを目の前に、驚いた表情を浮かべたシホールアンル兵は、その場に固まってしまった。
彼らは、薄汚れた軍服に身を纏い、両手には何の武器も持っておらず、武器らしい物と言えば、それぞれが装備した長剣と、胴体に付けている
手榴弾と思しき物だけであった。

「死にたくなければ、手を上げて投降しろ。死にたいのなら俺の指示に逆らえ。さっさと撃ち殺してやる。」

ステビンスはそう言うと、ガーランドライフルの狙いを、隊長格と思しきシホールアンル兵の頭に定めた。

「……わ、わかったアメリカ人。貴様の言う通りにする。だから、殺さないでくれ!」

シホールアンル兵は、緊張と恐怖に声を震わせながら、ステビンスの指示に従う意思を示した。

「ようし。ならばこっちに来い。妙な真似をしたら、すぐに名誉の戦死だからな。分かったか!?」
「あ、ああ。わかった……」

シホールアンル兵はそう言うと、頭に手を乗せ、背を丸めながら、海兵隊員に連れて行かれた。

「やれやれ……あれが、噂の強兵達かね?あっさりと降伏してしまったな。」

後ろから付いて来たパイルは、海兵隊員に護送される4人のシホールアンル兵を見てから、ステビンスにそう話した。

「少し前までは、剣を振りかざして突っ込んで来る奴が殆どだったんだが、最近は俺達が捕虜を取る事を知っているから、ああいう奴が
かなり増えて来た。まっ、がむしゃらに突っ込まされて、こっちにも被害が及ぶよりは、あんな腰抜けが増えてくれた方が俺達も助かるんだが……」

ステビンスは苦笑しながら、パイルに応える。

「これからはそうもいかないだろう。敵も、このマーケット・ガーデン作戦の阻止に失敗したら、帝国本土へ戦火が及ぶ事を承知している。
ああやって、降伏する様な腰抜けは減っていくだろうよ。」

「なるほど……戦いはこれからが本番、という事だね。」
「その通りさ。」

ステビンスはそう答えると、顔を第1小隊長に向け、更に前進するように命じた。
パイルは後ろを振り返った。
第1小隊の後ろには、今しがた捕虜にした4人のシホールアンル兵が、3人の海兵隊員に見張られながら後方に送られていく。
パイルは、その後ろ姿にカメラを向けた。
(シホールアンル帝国兵は鬼のように強い……と、俺は聞かされていた。だが、今目の前に居るあいつらは、俺達と同じような人間だった。
いや、もしかしたら、精神面では弱かったかもしれない。)
パイルは、カメラのレンズを調節しながら、心中でそう思う。
シホールアンル兵達の後ろ姿は、どことなく寂しい物がある。
(……それはともかく、彼らの後ろ姿は、今のシホールアンルの実情を現しているかに見えるな)
パイルは思いながら、カメラのシャッター切った。


午前9時20分 第5艦隊旗艦アラスカ

第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将は、旗艦である巡洋戦艦アラスカの作戦室で、第5艦隊幕僚と共にレーミア海岸の
戦況報告が届くのを待っていた。

「………あれから、報告が入って来ないようだが、海兵隊は上手くやっているのかな。」

参謀長のカール・ムーア少将が、ぼそりと呟いた。
上陸指揮艦上の第5水陸両用軍司令部から、第一波、海岸に到達との報告を受けたのは、今から1時間以上も前である。
第58任務部隊は、これまでに2度、攻撃隊を差し向け、海岸付近の上陸部隊に対して近接航空支援を行っている。
だが、第5水陸両用軍司令部からは、それから一度も報告が無かった。

「攻撃隊指揮官機からの報告では、レーミア海岸に取り付いた海兵隊は、シホールアンル軍が内陸部に展開させている砲兵隊による砲撃に
よって前進が阻まれつつあるとありました。今の所、陸地には辿り着いた物の、敵の抵抗によって進み辛い状にある、と判断した方が良い
でしょう。」

航空参謀のジョン・サッチ中佐がムーア少将にそう話す。

「レーミア海岸から遠く離れている今は、ただ、待つしかあるまいよ。」

スプルーアンスが冷静な声音で、ムーアとサッチを交互に見ながら言う。

「大丈夫、彼らは歴戦の海兵隊だ。仕事はきっちりこなしてくれるよ。」
「海岸付近の状況はまだ予断は許しませんが、それよりも、我々は反撃に出て来るであろう、シホールアンル海軍の主力艦隊に備えなければなりません。」

作戦参謀のジュスタス・フォレステル大佐がスプルーアンスに向けてそう言う。

「現在、TF58は、19日と20日に行われた洋上補給で、艦艇の燃料並びに、艦載機の補充も済ませており、戦闘力はヒーレリ領への事前攻撃前に
近い状態にまで戻っています。ただ、戦闘機専用空母を3隻も欠いた状態ですので、敵機動部隊との決戦時には、戦闘機不足によって少なからぬ敵騎の
侵入を許しかねない状況にあります。一応、大輪形陣方式を取っている今の状態では、空母が少なくなった任務群に敵ワイバーンや飛空挺隊が向かう
事はほぼ無いでしょうが、盾の役割を担うTG58.1,TG58.2,TG58.3は集中攻撃を受ける確率が高く、防空戦闘機隊が消耗した場合、
敵が再び、空母に大打撃を与える恐れがあります。それを防ぐためには、こちらも積極的に打って出、敵機動部隊を早期に発見、撃滅する必要があります。」
「敵機動部隊の撃滅には大いに賛成ではあるが、前にも言った通り、防御の要である高速機動部隊が上陸部隊から離れる事は出来ない。残念だが、
積極策を取るのは避けた方が良い。」
「しかし長官。今の方法で行けば、確実に1個任務群は犠牲にならざるを得ません。今度の決戦で、また正規空母や新鋭戦艦が撃沈されるような事が
あれば、本国内で静まった厭戦気分も吹き返す恐れがありますが……」

フォレステル大佐の言葉に、スプルーアンスは眉間にしわを寄せた。

「……犠牲が出るのは百も承知だ。だが、我が合衆国は…いや、連合国はレスタン領を解放し、そして、シホールアンル帝国を倒す事を望んでいる。
正規空母や新鋭戦艦を喪失するのは確かに痛い。だが、それを恐れるあまり、結果的にマーケット作戦が失敗すれば、必然的にガーデン作戦の方にも
影響が及ぶ。何よりも、マーケット・ガーデン作戦が失敗すれば、戦争の終結は長引く可能性もあり、はたまた、昨年のように、急な講和を持ちかけられ、
それがきっかけで、不完全な形での停戦という事もあり得るだろう。しかし、我々は、それを望まない。」

スプルーアンスは、きっぱりと言い放った。

「また、我々が望んだとしても……シホールアンルの圧政によって命を絶たれた者達は、死しても尚、浮かばれぬままだろう。」
「…長官……」
「ミスターフォレステル。マーケット作戦指揮官としては、やはり、機動部隊に行動の自由を許す事は出来ない。機動部隊が離れ、その隙を衝かれた場合、
輸送船団は大打撃を被り、上陸している海兵隊は孤立し、合衆国軍史上、最悪の損害を出す事になるだろう。だから、TF58は、任務期間中は輸送船団の
護衛を行い続ける。TF58が離れる時は、レーミア海岸に充分な防御態勢が敷かれてからになる。それまでは、しばらく我慢して貰おう。」
「なるほど……長官のお言葉とあらば、致し方ありませんな。」

フォレステルは苦笑しながらそう言い、スプルーアンスに軽く頭を下げた。

「浅はかな事を言ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「なに。謝る事は無い。君の気持は分かる。私もいっそ、護衛任務等はほっぽり出して、敵機動部隊と決戦を行った方が早いと考えているほどだ。」

スプルーアンスの何気ない一言に、作戦室内の幕僚達は軽く笑い声を上げた。

「失礼いたします!」

唐突に、通信兵が作戦室に入って来た。
通信参謀は通信兵から紙を受け取ると、すかさず一読した。

「長官。第5水陸両用軍司令部より報告です。第3海兵師団は0-1ラインを確保せり。第1、第2海兵師団も間も無く、0-1ラインを
確保する見込み。」
「ほほう、上陸部隊は何とか進んでいるか。」

スプルーアンスは、幸先の良い報告に無表情のままそう答えた。

上陸作戦は、まず、橋頭保を確保する事が第1の任務になる。
それに伴い、上陸軍は3段階に分けて橋頭保を拡大させていく。
最初に、上陸軍は、敵が海岸地帯に対して魔道銃や対戦車用の野砲の水平射撃などを使って、直接攻撃できる範囲を占領する必要がある。

距離にすれば、約800メートルから1キロ四方である。
これが0-1ラインと呼ばれる範囲だ。
0-1ラインを確保した後は、野砲の間接射撃を受けぬ範囲内を占領し、敵の関節攻撃力を削いで行く。
距離にすれば、約5キロ四方であり、森林地帯や丘陵地帯等が含まれる場合は、これも速やかに占領しなければならない。
これが0-2ラインである。
そして、最後の0-3ラインであるが、この範囲は敵が移動に使う道路の占領や市街地並びに港等の重要拠点が含まれている。
0-3ラインの範囲内まで制圧できれば、その時点で上陸地点は、完全に連合軍の物になる。
マーケット作戦実行部隊は、23日までに0-3ラインの制圧を目標にされており、その第一歩と言える0-1ライン制圧成功の報告に、
緊張に固まっていたスプルーアンスら第5艦隊幕僚のみならず、海岸部に近い沖合に展開している第5水陸両用軍司令部や、カレアント軍
第2機械化軍団司令部の幕僚達も、ホッと胸を撫で下ろしていた。

「最初の難関は、何とかクリアしつつあるな。」
「そのようですな。上陸部隊にようやく、戦車を支援に回す事が出来ます。」

フォレステル大佐の言葉に、スプルーアンスは満足そうに頷いた。
その時、先程の通信兵が再び作戦室に入って来た。

「失礼します!」

通信兵は敬礼しながら入室すると、通信参謀に歩み寄り、先程と同様、紙を渡して退出して行った。

「長官、ヒレリイスルィに展開中の潜水艦部隊から報告が入りました。」

通信参謀の言葉が室内に響くや、誰もが口を塞いで、その報告文に聞き入った。

「潜水艦のアーチャーフィッシュが、午前7時頃、多数の竜母を伴う大艦隊がヒレリイスルィを出港したのを発見したようです。」
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