北方諸国同盟軍、南部戦線。
戦争が始まり、南部戦線の軍がリンド国境に迫ろうとしていた時には2~3日に1度くらいの頻度で
皇国軍の空からの偵察なり爆撃があったが、今は週に1度という感じで明らかに活動が鈍っている。
ポゼイユ方面の偵察部隊からの情報でも、特に砦を建築したりして防備を固めている様子も無い。
戦争が始まり、南部戦線の軍がリンド国境に迫ろうとしていた時には2~3日に1度くらいの頻度で
皇国軍の空からの偵察なり爆撃があったが、今は週に1度という感じで明らかに活動が鈍っている。
ポゼイユ方面の偵察部隊からの情報でも、特に砦を建築したりして防備を固めている様子も無い。
ただ漫然と、この場を確保して待機しているというのは気の緩む毎日で士気も下がる。
皇国軍のポゼイユ駐留部隊は多く見積もっても未だ1000人程度であり、動かないと不味いのではないか
という不安と合わさって、これくらいなら押し切れるのではないかという楽観論からの意見が増えて来た。
皇国軍のポゼイユ駐留部隊は多く見積もっても未だ1000人程度であり、動かないと不味いのではないか
という不安と合わさって、これくらいなら押し切れるのではないかという楽観論からの意見が増えて来た。
“皇国軍による空襲頻度が減ったからといって、安易に進んで良いものか”
という消極的意見も根強くあったが、厭きると思考が鈍感になって判断が狂うようにもなる。
という消極的意見も根強くあったが、厭きると思考が鈍感になって判断が狂うようにもなる。
「ベルグからの情報を見れば、皇国軍の主力全部隊が到着するまで楽観的に見積もっても1週間。現実には
4~5日のうちに駆け付けるでしょう。それまでにポゼイユを陥落させるのは流石に無理というものです」
ポゼイユに行って戦って皇国軍とリンド王国軍を蹴散らして部隊の再編成など行って
次の戦闘準備を整えるまでを4~5日で済ませないと成り立たないが、それは無理な話だ。
どちらにせよ、後から来る南部戦線主力軍に道を譲る為、自分たちはさらに南に拠点を移さねばならない。
さしあたってこの付近の確保という任務の一つは遂行したのだから、死に急ぐこともあるまい……。
4~5日のうちに駆け付けるでしょう。それまでにポゼイユを陥落させるのは流石に無理というものです」
ポゼイユに行って戦って皇国軍とリンド王国軍を蹴散らして部隊の再編成など行って
次の戦闘準備を整えるまでを4~5日で済ませないと成り立たないが、それは無理な話だ。
どちらにせよ、後から来る南部戦線主力軍に道を譲る為、自分たちはさらに南に拠点を移さねばならない。
さしあたってこの付近の確保という任務の一つは遂行したのだから、死に急ぐこともあるまい……。
「しかし小さな勝利でも、いや大きな勝利を望むのが無理なら尚更、どんな
小さなものでも、可能性だけでも勝利を示せねば兵達の士気が保てません」
ここで停止するというのは、相手の注意を向けさせた上での物理的損害を考えれば
悪くない作戦だったが、末端の将兵の心理的負担を考えると評価し難い側面があった。
将軍もそれは分かっていたが、徒な前進が失敗して早期に崩壊してしまうよりは良いと考えていたのだ。
北部戦線が押し上がる前に南部戦線が崩壊したらドミノ倒しのように全て崩れる。
ポゼイユも重要だが、北部戦線のスコルマード攻撃はそれとは別に重要である。
小さなものでも、可能性だけでも勝利を示せねば兵達の士気が保てません」
ここで停止するというのは、相手の注意を向けさせた上での物理的損害を考えれば
悪くない作戦だったが、末端の将兵の心理的負担を考えると評価し難い側面があった。
将軍もそれは分かっていたが、徒な前進が失敗して早期に崩壊してしまうよりは良いと考えていたのだ。
北部戦線が押し上がる前に南部戦線が崩壊したらドミノ倒しのように全て崩れる。
ポゼイユも重要だが、北部戦線のスコルマード攻撃はそれとは別に重要である。
「伝令! 北部戦線のアレキス殿下からです」
天幕に入ってきた将校が差し出したのは、マルロー王太子アレキスからの命令書。
3日後にポゼイユに対して総攻撃を行えという指示だった。
皇国軍に打撃を与えるのではなく、ポゼイユに打撃を与えよという内容。
天幕に入ってきた将校が差し出したのは、マルロー王太子アレキスからの命令書。
3日後にポゼイユに対して総攻撃を行えという指示だった。
皇国軍に打撃を与えるのではなく、ポゼイユに打撃を与えよという内容。
皇国軍が準備を整えてザラ公国方面に進軍を始めてからでは遅いから、
先にポゼイユとその近隣を攻撃する事で皇国軍を足止めせよというものだ。
軍事的な衝撃で皇国軍を拘束するのには限界があるが、ポゼイユが大事に
なれば相当な長期間足止めできるから、そうせよという命令である。
睨み合いを続ける事での足止めという方針が事実上却下されたのだ。
先にポゼイユとその近隣を攻撃する事で皇国軍を足止めせよというものだ。
軍事的な衝撃で皇国軍を拘束するのには限界があるが、ポゼイユが大事に
なれば相当な長期間足止めできるから、そうせよという命令である。
睨み合いを続ける事での足止めという方針が事実上却下されたのだ。
しかし、ポゼイユに打撃を与えるには守備する皇国軍に幾らかの
打撃を与えるか、自軍の損害を幾らか無視して強襲するしかない。
リンド王国軍の損害から考えても、皇国軍と戦った場合の損害は計り知れない。
とすると、妨害してくる皇国軍は無視して数に任せてポゼイユに殺到するしかない。
打撃を与えるか、自軍の損害を幾らか無視して強襲するしかない。
リンド王国軍の損害から考えても、皇国軍と戦った場合の損害は計り知れない。
とすると、妨害してくる皇国軍は無視して数に任せてポゼイユに殺到するしかない。
攻撃せよという命令に沸き立つ隊長や下士官も居たが、
当の師団長は難しい表情で次の手を考える事になった。
手紙にはザラ公国軍の増援もあると書かれているが……。
当の師団長は難しい表情で次の手を考える事になった。
手紙にはザラ公国軍の増援もあると書かれているが……。
「別働隊を皇国軍の正面に向かわせて陽動し、その隙に我が
本隊がポゼイユ攻略を行う事とする。作戦準備を急がせよ」
皇国軍を慌てさせ注意を向けさせるには本格的な都市攻撃しかない。
ポゼイユは幾らかの堀や市壁もあるが、全体的には城塞都市と呼べるような防御力は
無いので、市内に軍を進める難易度という点で他の都市より制し易いだろう。
本隊がポゼイユ攻略を行う事とする。作戦準備を急がせよ」
皇国軍を慌てさせ注意を向けさせるには本格的な都市攻撃しかない。
ポゼイユは幾らかの堀や市壁もあるが、全体的には城塞都市と呼べるような防御力は
無いので、市内に軍を進める難易度という点で他の都市より制し易いだろう。
一旦大軍が市内に雪崩込めば、同士討ちを警戒して膠着状態に持ち込める。
少なくとも野戦での決戦を求めるより戦術目標達成の可能性がある。
大威力の武器を多数持っている(大威力の武器しか持っていない)
皇国軍は、都市への被害を抑える為に自らの武器を封印せねばなるまい。
あくまで可能性があるというだけで、どれだけの確実性があるかは未知数だが。
少なくとも野戦での決戦を求めるより戦術目標達成の可能性がある。
大威力の武器を多数持っている(大威力の武器しか持っていない)
皇国軍は、都市への被害を抑える為に自らの武器を封印せねばなるまい。
あくまで可能性があるというだけで、どれだけの確実性があるかは未知数だが。
本来なら10倍以上の兵員を擁する同盟軍が恐れる必要は無いが、小規模とは言え存在する皇国軍が厄介極まりない。
ポゼイユ攻略という段階になればベルグからの航空部隊も増発されるだろう。
現時点で小康状態だからといってそれが続くとは考えられない。
「やれる事をやるだけだ……。飛竜陣地をお披露目しろ!」
ポゼイユ攻略という段階になればベルグからの航空部隊も増発されるだろう。
現時点で小康状態だからといってそれが続くとは考えられない。
「やれる事をやるだけだ……。飛竜陣地をお披露目しろ!」
カーサドラルで停止中の北方諸国同盟軍が動いた。
その報せに皇国軍のベルグ本部は期待半分、不安半分であった。
大仰な宣戦布告をしてきた割に慎重を通り越して臆病にも見える
軍団が動いたのだから、何かの準備が整って満を持してという事だろうか。
その報せに皇国軍のベルグ本部は期待半分、不安半分であった。
大仰な宣戦布告をしてきた割に慎重を通り越して臆病にも見える
軍団が動いたのだから、何かの準備が整って満を持してという事だろうか。
しかし、とすると何を目的に軍を動かすのだろうか。
動きからすると軍を引き上げる訳では無さそうで、前進あるいは転進である。
「一直線に来るならポゼイユですが、左折して南に向かうか右折して北に向かう可能性もあります」
「それぞれの確率はどの程度と読む?」
「我々が入手している情報だけでは、何とも読めません。参謀部ではポゼイユ直行の公算が
高いと考えていますが、セソー大公国方面からの主力と合流する可能性は否定できません」
「そうなったら、北部戦線が東と南から包囲される形になるか」
「はい。ですが参謀部がその公算低しと判断する理由は、今から向かっても冬の始まりまでに
間に合わず、援軍としては機能せず単なる孤立した遊兵になる公算が高いからです」
妥当な見解であったが、面白味というか意外性が無かった。
「そも、ポゼイユとスコルマードではどちらを取られた方がリンド王国にとって痛いのか」
「それは、我が国で例えれば商業の大阪と工業の北九州のどちらの失陥が痛いかというような話かと」
「どちらも相応に痛い訳だな」
北の大都市スコルマードは広大な岩塩鉱脈がある工業都市だから、重要度を
比較するのに金融と学問の都市であるポゼイユと同じ土俵では比べられない。
皇国がスコルマードを有望視するのはリンド王国の工業化に不可欠な資源を産出するからだ。
食塩の需要は人口に比例するが、工業塩の需要は人口と関係ない。
工業化が進むほど人口に比して工業塩の需要は増えるから、有望な塩の生産地はリンド王国にとって“国家の資産”である。
神賜島での岩塩鉱開発が軌道に乗るまでは、既に開発されている大陸の岩塩を適正価格で購入したいという欲も勿論あった。
賠償金の現金部分を減額する代わりに、その分を現物で払わせる事も真剣に検討されているのだ。
リンド王国にとってどうだか知らないが、皇国にとってスコルマードは“失陥が許されざる都市”だった。
動きからすると軍を引き上げる訳では無さそうで、前進あるいは転進である。
「一直線に来るならポゼイユですが、左折して南に向かうか右折して北に向かう可能性もあります」
「それぞれの確率はどの程度と読む?」
「我々が入手している情報だけでは、何とも読めません。参謀部ではポゼイユ直行の公算が
高いと考えていますが、セソー大公国方面からの主力と合流する可能性は否定できません」
「そうなったら、北部戦線が東と南から包囲される形になるか」
「はい。ですが参謀部がその公算低しと判断する理由は、今から向かっても冬の始まりまでに
間に合わず、援軍としては機能せず単なる孤立した遊兵になる公算が高いからです」
妥当な見解であったが、面白味というか意外性が無かった。
「そも、ポゼイユとスコルマードではどちらを取られた方がリンド王国にとって痛いのか」
「それは、我が国で例えれば商業の大阪と工業の北九州のどちらの失陥が痛いかというような話かと」
「どちらも相応に痛い訳だな」
北の大都市スコルマードは広大な岩塩鉱脈がある工業都市だから、重要度を
比較するのに金融と学問の都市であるポゼイユと同じ土俵では比べられない。
皇国がスコルマードを有望視するのはリンド王国の工業化に不可欠な資源を産出するからだ。
食塩の需要は人口に比例するが、工業塩の需要は人口と関係ない。
工業化が進むほど人口に比して工業塩の需要は増えるから、有望な塩の生産地はリンド王国にとって“国家の資産”である。
神賜島での岩塩鉱開発が軌道に乗るまでは、既に開発されている大陸の岩塩を適正価格で購入したいという欲も勿論あった。
賠償金の現金部分を減額する代わりに、その分を現物で払わせる事も真剣に検討されているのだ。
リンド王国にとってどうだか知らないが、皇国にとってスコルマードは“失陥が許されざる都市”だった。
「閣下。ザラ公国軍が前進しているようです。完全に戦闘隊列で行軍中です」
「敵は全力投球か……」
「はい。マルロー王国以外で、それなりの規模で兵を出せる国は全部出しています」
こうなると、ポゼイユの北から南東にかけて大きな包囲網を作れる。
仮に薄く広く展開した鶴翼から一斉に雪崩込まれたら、兵力密度が足りずに突破される恐れがある。
というより敵が皇国軍の粉砕を目的とせず、ポゼイユへの入城を目的とするならそうなるだろう。
大砲や攻城塔が無くとも、梯子があれば市壁は突破出来る。
「結局は敵情を観察しつつ慎重にならざるを得んか。砲兵はポゼイユの
西に置くとして、歩兵と戦車だな……。敵に飛竜が居ないのがまだ救いか」
この世界に転移して以降、今まで攻める一方だった皇国軍が本格的な守勢に回るのは初めて。
主導権が取れないのがもどかしかった。
「敵は全力投球か……」
「はい。マルロー王国以外で、それなりの規模で兵を出せる国は全部出しています」
こうなると、ポゼイユの北から南東にかけて大きな包囲網を作れる。
仮に薄く広く展開した鶴翼から一斉に雪崩込まれたら、兵力密度が足りずに突破される恐れがある。
というより敵が皇国軍の粉砕を目的とせず、ポゼイユへの入城を目的とするならそうなるだろう。
大砲や攻城塔が無くとも、梯子があれば市壁は突破出来る。
「結局は敵情を観察しつつ慎重にならざるを得んか。砲兵はポゼイユの
西に置くとして、歩兵と戦車だな……。敵に飛竜が居ないのがまだ救いか」
この世界に転移して以降、今まで攻める一方だった皇国軍が本格的な守勢に回るのは初めて。
主導権が取れないのがもどかしかった。
しかし数時間後、司令部にはさらに嫌な報せが届いた。
「閣下。敵軍の続報ですが、司令部偵察機による写真を解析した所、飛竜陣地が確認されました」
「飛竜陣地……3日前は無かったな?」
「はい。ですが今はあるようです」
提出された写真には長さ150m、幅30m程の更地と、併設された竜舎と
思しき建物が映っており、飛竜騎士と飛竜らしき影も5騎認められた。
3日前の同じ場所は木立が茂った藪だったが、これではまるで“一夜城”ではないか。
航空燃料や整備部品を温存する理由から偵察機の飛行密度が減っていた虚を突かれた形だ。
「飛竜の航続距離からすると、ポゼイユにも来れる訳だ」
「しかし片道しか飛べない筈です」
「竜は飛行機とは違う。少しの広場があれば離着陸出来る。
ポゼイユの近くに着陸して一晩休むという手も使えない訳では無い」
長距離の不休飛行はかなりの体力を消耗し、無理をさせれば体温も危険な程に上昇するので、
通常は飛竜基地や飛竜陣地のような保養設備の整った場所を拠点に運用されるが、
そのような場所でなければ絶対に運用が出来ない訳では無い。
寝床と水と食糧さえあるなら、1日や2日くらい竜舎でなくとも何とかなる。
大昔には敵の兵士や住民を竜の胃袋に入れる目的で攫っていた事も
あるようだから“食糧は現地調達”というのも不可能ではない。
「閣下。敵軍の続報ですが、司令部偵察機による写真を解析した所、飛竜陣地が確認されました」
「飛竜陣地……3日前は無かったな?」
「はい。ですが今はあるようです」
提出された写真には長さ150m、幅30m程の更地と、併設された竜舎と
思しき建物が映っており、飛竜騎士と飛竜らしき影も5騎認められた。
3日前の同じ場所は木立が茂った藪だったが、これではまるで“一夜城”ではないか。
航空燃料や整備部品を温存する理由から偵察機の飛行密度が減っていた虚を突かれた形だ。
「飛竜の航続距離からすると、ポゼイユにも来れる訳だ」
「しかし片道しか飛べない筈です」
「竜は飛行機とは違う。少しの広場があれば離着陸出来る。
ポゼイユの近くに着陸して一晩休むという手も使えない訳では無い」
長距離の不休飛行はかなりの体力を消耗し、無理をさせれば体温も危険な程に上昇するので、
通常は飛竜基地や飛竜陣地のような保養設備の整った場所を拠点に運用されるが、
そのような場所でなければ絶対に運用が出来ない訳では無い。
寝床と水と食糧さえあるなら、1日や2日くらい竜舎でなくとも何とかなる。
大昔には敵の兵士や住民を竜の胃袋に入れる目的で攫っていた事も
あるようだから“食糧は現地調達”というのも不可能ではない。
飛竜は自分の主人である騎士や普段から良く目にする仲間の騎士や厩務員を
食う事は絶対にしないが、面識がないなら友軍の兵士を食う事にも躊躇いは無い。
主人である騎士が止める事をしなければ、腹が減ったら目についた動物を食うのが飛竜である。
食う事は絶対にしないが、面識がないなら友軍の兵士を食う事にも躊躇いは無い。
主人である騎士が止める事をしなければ、腹が減ったら目についた動物を食うのが飛竜である。
ただ、現代の文明国であればそんな野蛮な戦争方法は選択しないという話を
ユラ神国やリンド王国、あるいは西大陸の文明諸国からも聞いていた。
短い期間であったが実際にそういう戦法を取られた事も無い。
「この写真、リンド王国軍に調査協力を仰ぎますか?」
「どうしたものかな。こんなものを今まで発見できなかったとなればとんだ間抜けだ」
「しかし情報共有はある程度必要でしょう。隠しておいて突然空襲に遭った時の方が問題が大きくなります」
「分かった……飛竜軍の参謀にも助言を求めよう。ポゼイユ方面の師団にも警告を発しておけ」
ユラ神国やリンド王国、あるいは西大陸の文明諸国からも聞いていた。
短い期間であったが実際にそういう戦法を取られた事も無い。
「この写真、リンド王国軍に調査協力を仰ぎますか?」
「どうしたものかな。こんなものを今まで発見できなかったとなればとんだ間抜けだ」
「しかし情報共有はある程度必要でしょう。隠しておいて突然空襲に遭った時の方が問題が大きくなります」
「分かった……飛竜軍の参謀にも助言を求めよう。ポゼイユ方面の師団にも警告を発しておけ」
皇国軍の司令部に招致されたリンド王国軍の参謀は、写真を見て眉を顰めた。
「閣下。写真を拝見しましたが、この規模の竜舎と助走路からすると20~30騎の運用は堅いです。
現状はそこまでの数の竜は居ないようですが、細心の注意が必要でしょう……我が軍ならばそうします」
「この規模の飛竜陣地を3日で造営可能ですか?」
「全く無理とは申しませんが、優秀な飛竜陣地設営連隊でも相当な突貫作業になります」
皇国軍に比べて土木技術が劣っても、航空兵力を3日で展開可能に出来る。
これが厄介なのだ。部隊展開に要する労力が違う。
隣の芝は青いというが、この身軽さはまさに“青い芝”だった。
「閣下。写真を拝見しましたが、この規模の竜舎と助走路からすると20~30騎の運用は堅いです。
現状はそこまでの数の竜は居ないようですが、細心の注意が必要でしょう……我が軍ならばそうします」
「この規模の飛竜陣地を3日で造営可能ですか?」
「全く無理とは申しませんが、優秀な飛竜陣地設営連隊でも相当な突貫作業になります」
皇国軍に比べて土木技術が劣っても、航空兵力を3日で展開可能に出来る。
これが厄介なのだ。部隊展開に要する労力が違う。
隣の芝は青いというが、この身軽さはまさに“青い芝”だった。
空中戦になれば一方的に堵殺可能だし、地上からの
対空射撃も元世界の戦闘機や爆撃機に対するよりは有効である。
が、上から覗かれる可能性がある事は、それだけで地上部隊にとってリスクだ。
ベルグの司令部は、先行してポゼイユに駐屯している捜索連隊に偵察任務を命じた。
対空射撃も元世界の戦闘機や爆撃機に対するよりは有効である。
が、上から覗かれる可能性がある事は、それだけで地上部隊にとってリスクだ。
ベルグの司令部は、先行してポゼイユに駐屯している捜索連隊に偵察任務を命じた。
軍団及び師団司令部からの命令を受けてリエール傭兵隊の宿舎に訪れると、
山科は殆ど待つ事も無く隊長の執務室となっている部屋に通された。
「リエール隊長、宜しいか?」
「何用でしょうか、少佐殿」
山科は同じ軍の上官と部下としての顔で話を進める。
「貴隊はポゼイユ市から東、ザラ公国方面の地理にも詳しかったな?」
「私自身はそれ程でも無いですが、詳しい者も居ます」
「よし、では我々の偵察隊に同行を命ずる」
「地理に詳しい者のみでしょうか、隊としての行動でしょうか?」
「隊として完結した戦闘行動を取れるようにしてくれ。
任務は敵の陣容確認。地図に拠ればこの辺りを進軍中だ」
山科は決して詳細とは言えない地図を広げ、指差した。
「これは、カーサドラルから2~3マシルといったところですね。
真っ直ぐこちらに向かってくるなら、道すがら鉢合わせという事も」
あまりぐずぐずしていると、ポゼイユ市が大砲の射程に入ってしまうかも知れない。
皇国軍は当初、ポゼイユの北東から東4~10マシル程度の所を前線に考えていた
ようだが、そこに陣取るべき主力軍は連絡部隊を中心にちらほら来ているだけ。
待っていられなくなったか。
「偵察と同時に可能ならば一翼を迎撃し、ある程度の追撃も行う。
リエール隊の編成内容は任せるが、可能な限りの人員装備で、
作戦期間は2~3週間になる。数日内に部隊を動かせるか?」
リエール傭兵隊は既に方々で物資を買い溜めて、後は微調整のみという段階まで準備が整っていた。
今すぐ出発という無茶を言われても対応出来るように、主戦場が予想される
カーサドラル方面の町には先行して物資を買い付ける協力者も手配済み。
「それならば出撃準備に2日下さい。明後日の朝までには整えましょう」
「結構だ。では連絡要員を寄越すから、明後日の午前8時、朝食後に出発してくれ」
「我々は皇国軍と合同で動くのではないのですか?」
「私は先発して陣地を張っておくので、今日中に出発する」
「なら、1時間程お待ち下さい。心当たりのある道案内を1人、お預けします」
「そうか、助かる」
山科は殆ど待つ事も無く隊長の執務室となっている部屋に通された。
「リエール隊長、宜しいか?」
「何用でしょうか、少佐殿」
山科は同じ軍の上官と部下としての顔で話を進める。
「貴隊はポゼイユ市から東、ザラ公国方面の地理にも詳しかったな?」
「私自身はそれ程でも無いですが、詳しい者も居ます」
「よし、では我々の偵察隊に同行を命ずる」
「地理に詳しい者のみでしょうか、隊としての行動でしょうか?」
「隊として完結した戦闘行動を取れるようにしてくれ。
任務は敵の陣容確認。地図に拠ればこの辺りを進軍中だ」
山科は決して詳細とは言えない地図を広げ、指差した。
「これは、カーサドラルから2~3マシルといったところですね。
真っ直ぐこちらに向かってくるなら、道すがら鉢合わせという事も」
あまりぐずぐずしていると、ポゼイユ市が大砲の射程に入ってしまうかも知れない。
皇国軍は当初、ポゼイユの北東から東4~10マシル程度の所を前線に考えていた
ようだが、そこに陣取るべき主力軍は連絡部隊を中心にちらほら来ているだけ。
待っていられなくなったか。
「偵察と同時に可能ならば一翼を迎撃し、ある程度の追撃も行う。
リエール隊の編成内容は任せるが、可能な限りの人員装備で、
作戦期間は2~3週間になる。数日内に部隊を動かせるか?」
リエール傭兵隊は既に方々で物資を買い溜めて、後は微調整のみという段階まで準備が整っていた。
今すぐ出発という無茶を言われても対応出来るように、主戦場が予想される
カーサドラル方面の町には先行して物資を買い付ける協力者も手配済み。
「それならば出撃準備に2日下さい。明後日の朝までには整えましょう」
「結構だ。では連絡要員を寄越すから、明後日の午前8時、朝食後に出発してくれ」
「我々は皇国軍と合同で動くのではないのですか?」
「私は先発して陣地を張っておくので、今日中に出発する」
「なら、1時間程お待ち下さい。心当たりのある道案内を1人、お預けします」
「そうか、助かる」
夕刻。山科を含む中隊主力要員は2両の装軌装甲車と2両の装輪装甲車、4両の輸送トラックに乗り込む。
トラックのうち1両は37mm対戦車速射砲を牽引し、予備弾薬と各種物資の輸送用に宛がわれた。
少ない車両で1人でも多く運ぶ為、装甲車に跨乗する人員も居た。
リエール傭兵隊から派遣された案内役の少年アズルは副官の曹長と共に乗馬で先行する。
「北の方も忙しいようだから、ここで派遣軍全体の足は引っ張れないぞ」
決して数は多くないが、しかし“騎兵科の精鋭”である部隊が出陣した。
トラックのうち1両は37mm対戦車速射砲を牽引し、予備弾薬と各種物資の輸送用に宛がわれた。
少ない車両で1人でも多く運ぶ為、装甲車に跨乗する人員も居た。
リエール傭兵隊から派遣された案内役の少年アズルは副官の曹長と共に乗馬で先行する。
「北の方も忙しいようだから、ここで派遣軍全体の足は引っ張れないぞ」
決して数は多くないが、しかし“騎兵科の精鋭”である部隊が出陣した。
「どうだね、シャイアノ君?」
傭兵隊の副官として、キスカの事務作業の補佐を
任されているシャイアノは、キスカより10歳近く若い男だ。
医師と言えば腕一つで身を立てる開業医が常識の世界で、複数の医師を雇って
働かせる、皇国で言う総合病院のような“医院”を経営していた父の三男に生まれた
シャイアノは、経理や衛生管理の腕を見込まれてキスカにスカウトされた。
傭兵隊の副官として、キスカの事務作業の補佐を
任されているシャイアノは、キスカより10歳近く若い男だ。
医師と言えば腕一つで身を立てる開業医が常識の世界で、複数の医師を雇って
働かせる、皇国で言う総合病院のような“医院”を経営していた父の三男に生まれた
シャイアノは、経理や衛生管理の腕を見込まれてキスカにスカウトされた。
また医師の弟子になって修行を積んだわけではないが、簡単な外科手術くらいは出来る。
幼い頃より、複数の医師から様々な医学的治験を聞かされていたため、
本人の執刀技量よりも戦場で傷病者の選別能力を期待されてキスカが雇った。
助かりそうな者を助け、手の施しようのない者は楽にさせてやるという“命の選別”係である。
幼い頃より、複数の医師から様々な医学的治験を聞かされていたため、
本人の執刀技量よりも戦場で傷病者の選別能力を期待されてキスカが雇った。
助かりそうな者を助け、手の施しようのない者は楽にさせてやるという“命の選別”係である。
机上でも戦場でも、大抵の場面で隊長であるキスカより忙しい。
「清書した目録です」
渡された紙には兵員、食糧、被服、武器弾薬、その他必要物資の目録と予算、隊員への給金が纏められていた。
「これで1000リルスに収めてくれたか。流石だな」
「ポゼイユ侯爵閣下の署名と捺印が入った契約書です。あれの威力です」
信用の無い自称傭兵団などでは、商品代金の未払いという事が起こり得るが、
ポゼイユ侯爵がパトロンであるなら、債務不履行という事にはまずならない。
故に“ツケ払い”や“先物の購入”が非常にスムーズに行った。
現金ではなく約束手形での大口取引も、ことポゼイユ領内では他の地域に比べて比較的活発に
行われていたので、そういう点で“現金でないと取引に応じない”という商人が少ないのも利点だった。
「清書した目録です」
渡された紙には兵員、食糧、被服、武器弾薬、その他必要物資の目録と予算、隊員への給金が纏められていた。
「これで1000リルスに収めてくれたか。流石だな」
「ポゼイユ侯爵閣下の署名と捺印が入った契約書です。あれの威力です」
信用の無い自称傭兵団などでは、商品代金の未払いという事が起こり得るが、
ポゼイユ侯爵がパトロンであるなら、債務不履行という事にはまずならない。
故に“ツケ払い”や“先物の購入”が非常にスムーズに行った。
現金ではなく約束手形での大口取引も、ことポゼイユ領内では他の地域に比べて比較的活発に
行われていたので、そういう点で“現金でないと取引に応じない”という商人が少ないのも利点だった。
リエール傭兵隊の人員には貴族が居ない為、貴族将校が抱える“実用に適さない”輜重隊を編成せずに済む。
貴族であれば使用人が付くし、妻帯者であれば奥方のドレスなども運ばねばならない。
これら随員が戦闘においては全く無意味な人員である事は論を待たないが、
その無意味な人員の為に何十台もの馬車を占有する愚を犯さずに済む。
戦力に比して、正規軍以上に身軽なのだ。
貴族であれば使用人が付くし、妻帯者であれば奥方のドレスなども運ばねばならない。
これら随員が戦闘においては全く無意味な人員である事は論を待たないが、
その無意味な人員の為に何十台もの馬車を占有する愚を犯さずに済む。
戦力に比して、正規軍以上に身軽なのだ。
ギルド所属の傭兵隊だと、必ずしもこうはいかない。
貴族や騎士崩れが傭兵隊長をやっている場合が多いので、正規軍以上に無駄が多かったりする。
貴族や騎士崩れが傭兵隊長をやっている場合が多いので、正規軍以上に無駄が多かったりする。
最終的に決定されたリエール傭兵隊の編成は戦闘要員220人、後方要員(人夫)200人。
隊長用と副隊長用に乗用軍馬が2頭と予備が5頭。
1ヶ月分の食糧と弾薬。荷馬車が23台。
さらに傭兵隊の員数には含まれない“商人と女”が100人近く居る。
全くもって贅沢である。
後方部隊の比率は皇国軍の先遣隊より充実している。
“商人と女”に関しては、皇国軍将兵も一定の範囲で利用する事を同意していた。
今まで、中々上手く行かなかった“女の調達”が非常にスムーズに運んだ事で、皇国軍の士気も高い。
隊長用と副隊長用に乗用軍馬が2頭と予備が5頭。
1ヶ月分の食糧と弾薬。荷馬車が23台。
さらに傭兵隊の員数には含まれない“商人と女”が100人近く居る。
全くもって贅沢である。
後方部隊の比率は皇国軍の先遣隊より充実している。
“商人と女”に関しては、皇国軍将兵も一定の範囲で利用する事を同意していた。
今まで、中々上手く行かなかった“女の調達”が非常にスムーズに運んだ事で、皇国軍の士気も高い。
執務室から主要な隊員の集まる広間に行くと、皆の視線がキスカに集まる。
「姐御!」
「姐御は止めろと言っているだろう。隊長と呼べ」
「へいへい……で、いよいよ出陣ですか?」
「そう。皇国軍との合同任務だよ」
「ほう……で、今回は誰が居残るんです?」
「居残りは無し。ガチで軍隊と戦うし、前金だけでも大量に受け取ったからね。出し惜しみはしないのが我々の流儀だろ?」
ポゼイユ侯爵から賜った10リルス刻印金貨を見せるキスカの景気の良い話に、傭兵隊員から歓声が上がった。
副隊長のトゥルクと副官のシャイアノの間で何度か話し合った結果、そう決まったのだ。
「姐御!」
「姐御は止めろと言っているだろう。隊長と呼べ」
「へいへい……で、いよいよ出陣ですか?」
「そう。皇国軍との合同任務だよ」
「ほう……で、今回は誰が居残るんです?」
「居残りは無し。ガチで軍隊と戦うし、前金だけでも大量に受け取ったからね。出し惜しみはしないのが我々の流儀だろ?」
ポゼイユ侯爵から賜った10リルス刻印金貨を見せるキスカの景気の良い話に、傭兵隊員から歓声が上がった。
副隊長のトゥルクと副官のシャイアノの間で何度か話し合った結果、そう決まったのだ。
「では諸君、お務めに参ろうか!」
北方諸国同盟軍の南部戦線は大きく二手に分かれて進んでいた。
レステルトートからポゼイユを一直線に目指す部隊では、遅れて
到着したザラ公国軍が前衛に入り、後衛にマルロー王国軍の1個連隊。
レステルトートからポゼイユを一直線に目指す部隊では、遅れて
到着したザラ公国軍が前衛に入り、後衛にマルロー王国軍の1個連隊。
残りの主力軍は北と南に分かれてから迂回してポゼイユを目指していた。
皇国軍の航空偵察活動が再び活発になったので、囮として街道を進む別働隊に定数以上の
隊旗を持たせたりして実数より多く見せたりしてはいるが、偽装がばれるのも時間の問題だろう。
皇国軍の航空偵察活動が再び活発になったので、囮として街道を進む別働隊に定数以上の
隊旗を持たせたりして実数より多く見せたりしてはいるが、偽装がばれるのも時間の問題だろう。
森林があって空からの視界が遮られる場所もあるが、全ての道程でそうではない。
ポゼイユの市壁に登れば、ほぼ一面視界を遮るものは無い。
身長の目線からなら姿を隠せる丘があっても、航空戦力からは隠れられないのは飛竜による効果と同じだ。
開けた地形での部隊の隠蔽は無理である。
偽装にも限度があり、存在しないものを存在するように見せかける事は
比較的可能でも、存在するものを存在しないように見せかけるのは難しい。
ポゼイユの市壁に登れば、ほぼ一面視界を遮るものは無い。
身長の目線からなら姿を隠せる丘があっても、航空戦力からは隠れられないのは飛竜による効果と同じだ。
開けた地形での部隊の隠蔽は無理である。
偽装にも限度があり、存在しないものを存在するように見せかける事は
比較的可能でも、存在するものを存在しないように見せかけるのは難しい。
ザラ公国軍を預かる将軍は、階級上はマルロー王国軍の連隊長より上であったが、力関係は逆だった。
この場のマルロー王国軍連隊長を介して、マルロー王国軍の将軍の指揮下にあるという立場なのだ。
部隊運用の専門家として連隊長に助言するという立場での意見具申は認められるが、決定権は連隊長にある。
その為に連隊長は臨時に准将という扱いになっているが……。
「准将殿、少し急ぎ過ぎでは? 我々だけ先行しても主力がポゼイユに辿り着けねば水の泡。行軍速度を落とした方が宜しいかと」
「それはそうだが。歩みを止めれば皇国軍を釣り出せない」
「日に15マシルも進めば十分です。20マシルでは早過ぎます」
「ここの農村をキャンプにしたいのだがね」
“准将”は地図を見せ、ポゼイユから5マシルの所にある農村を指差した。
確かに都市攻撃だから、今までの戦争常識からすればそれ程変な考え
でもないのだが、リンド王国軍を壊滅状態にした皇国軍が相手なのだ。
その農村だとポゼイユに展開する砲兵の射程に入ってしまう公算大。
こちらが早々に全滅して転進されては囮任務は失敗なのだ。
この場のマルロー王国軍連隊長を介して、マルロー王国軍の将軍の指揮下にあるという立場なのだ。
部隊運用の専門家として連隊長に助言するという立場での意見具申は認められるが、決定権は連隊長にある。
その為に連隊長は臨時に准将という扱いになっているが……。
「准将殿、少し急ぎ過ぎでは? 我々だけ先行しても主力がポゼイユに辿り着けねば水の泡。行軍速度を落とした方が宜しいかと」
「それはそうだが。歩みを止めれば皇国軍を釣り出せない」
「日に15マシルも進めば十分です。20マシルでは早過ぎます」
「ここの農村をキャンプにしたいのだがね」
“准将”は地図を見せ、ポゼイユから5マシルの所にある農村を指差した。
確かに都市攻撃だから、今までの戦争常識からすればそれ程変な考え
でもないのだが、リンド王国軍を壊滅状態にした皇国軍が相手なのだ。
その農村だとポゼイユに展開する砲兵の射程に入ってしまう公算大。
こちらが早々に全滅して転進されては囮任務は失敗なのだ。
「キャンプはもう少しポゼイユから距離を取って下さい。
整然と退却出来る環境でないと、釣り出しに成功しても即壊滅です。
我々を無視して転進すれば背後から追撃されるという状況にせねば」
この辺りの加減が難しい。
「もう一度偵察隊を出そうと思う。皇国軍がまだポゼイユに留まっているのか、移動しているのか」
「それですと騎兵の消耗が……」
随伴する軽騎兵隊はそれ程多くなく、予備の騎馬もそうだった。
戦竜隊は居ないので胸甲騎兵が唯一の騎兵打撃力になるが、これを偵察には使い潰せない。
後方に居る飛竜隊は偵察結果を帰り際に投げ落としてくれるが、それによれば
“ポゼイユの東30マシルまでは敵影なし”というもので、甚だ不足だった。
それで毎日騎兵小隊を繰り出しては恐る恐る進んでいる状況で、
その頻度も増えており、軽騎兵隊の負担が大きくなっていた。
いざ戦闘になれば、軽騎兵隊は側面掩護などにも使うから、この段階で消耗させたくない。
整然と退却出来る環境でないと、釣り出しに成功しても即壊滅です。
我々を無視して転進すれば背後から追撃されるという状況にせねば」
この辺りの加減が難しい。
「もう一度偵察隊を出そうと思う。皇国軍がまだポゼイユに留まっているのか、移動しているのか」
「それですと騎兵の消耗が……」
随伴する軽騎兵隊はそれ程多くなく、予備の騎馬もそうだった。
戦竜隊は居ないので胸甲騎兵が唯一の騎兵打撃力になるが、これを偵察には使い潰せない。
後方に居る飛竜隊は偵察結果を帰り際に投げ落としてくれるが、それによれば
“ポゼイユの東30マシルまでは敵影なし”というもので、甚だ不足だった。
それで毎日騎兵小隊を繰り出しては恐る恐る進んでいる状況で、
その頻度も増えており、軽騎兵隊の負担が大きくなっていた。
いざ戦闘になれば、軽騎兵隊は側面掩護などにも使うから、この段階で消耗させたくない。
「奇襲されでもしたら、そちらの方が厄介ではないか?」
「……解りました。では騎兵隊を出しましょう」
しぶしぶではあるが、今のザラ公国軍はそうするしかなかった。
「……解りました。では騎兵隊を出しましょう」
しぶしぶではあるが、今のザラ公国軍はそうするしかなかった。