自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

016 第14話 境目のオアシス

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第14話 境目のオアシス

1482年 1月31日 ガルクレルフ

西海岸に配備されていたシホールアンル軍第3艦隊は、30日に急遽東海岸の回航命令を受けた。
途中トラブルがあったものの、艦隊は午後2時に、東海岸のガルクレルフに到着した。

「やっと到着したか。」
「ええ。」

戦艦レンベラードの艦橋で、2人の仕官が談話を交わしている。
第3艦隊司令官イル・ベックネ少将が言うと、艦長のロスグタ大佐が短く返答する。
ベックネ少将は、顔立ちは鋭く、痩せてはいるが、どこか獰猛な肉食獣を思わせるような風体だ。

「それにしても、オールクレイが抜けたのは少し痛かったな。本来なら、戦艦3隻を加えて、
アメリカの主力艦隊を迎え撃てると思ったのだが。」
「オールクレイは、機関の魔法石の調子がすぐれないようです。オールクレイは万が一のために、本国に戻って修理を受けるようです。」
「修理か・・・・・・・まあ、戦闘中にいきなり停止して、足を引っ張られたらかなわぬからな。
グジェンガー艦長の判断は一応、間違いっていないか。」

そう言いながら、ベックネ少将は、ガルクレルフの港を見てみた。
ガルクレルフの港は、今や北大陸から輸送されてきた物資で溢れ返っていた。
港には、うず高く積み上げられた木箱や布袋が幾重にも続き、それは2ゼルド離れた内陸でも同様である。
ガルクレルフを占領した時にはなかった、物資を保管する倉庫は60ほど建てられ、
満杯になれば1個軍が1ヶ月戦える両の物資が蓄えられる。
しかし、現状ではそれ以上の必要物資が、このガルクレルフに所狭しと溢れ返っている。

「木箱の町、と言ったほうが正しいのかね?」

ベックネ少将はニヤリを笑いながら、港のほうに顎をしゃくった。

「どこもかしこも木箱や布袋しか見えんのだが。」
「ここは元々、後方兵站基地として活用されていますからな。ここで本国からの物資を蓄えた後、
前線部隊に一定量の補給を行っているのでしょう。でも、本当ならこのガルクレルフに、
こんな過剰なまでに物資が蓄えられる事はなかったのですが。」
「この木箱の山を築いた原因は、あのアメリカ空母部隊にある。」

ベックネ少将は、こうなるように仕向けた下手人が分かっていた。

「そうです。本来なら、この補給物資は前線軍の後方に分散された簡易集積所に集められる予定でしたが、
どうしてか、アメリカ軍艦載機が簡易集積所ばかりを爆撃して、少なからぬ物資がオシャカになりました。」
「私も知っている。あの“挨拶回り”だな。アメリカと言う国は、どこを攻撃すれば、何がどうなるかしっかり分かっているな。」

ベックネ少将は感心したように呟いた。

「そのアメリカ艦隊は、いまやそう遠くない地域に艦隊の主力を貼り付けてきおった。」
「ヴィルフレイングですね?」

艦長の言葉に、ベックネ少将は頷く。
シホールアンル海軍の将兵にとって、もはやヴィルフレイングといえば即座にアメリカ艦隊という言葉を連想するまでになっている。
これまで、ヴィルフレイングといえば、一昔前の魔法事故で、大惨事を引き起こした悲劇の港町、あるいは呪われた町、というイメージが圧倒的に多かった。
これは、アメリカ艦隊がヴィルフレイングに現れるまで健在だった。

だが、第6艦隊やシホールアンル地上軍等を一気に叩きのめしたアメリカ空母部隊や、太平洋艦隊の主力が
ヴィルフレイングに陣取るや、悲劇の町というイメージはたちどころに吹き飛び、シホールアンルの喉元に突きつけられた匕首、
という意識が将兵の頭に埋め込まれている。
その戦力たるや、これまで判明しただけで、戦艦8隻、空母4隻、巡洋艦、駆逐艦合計で40隻以上というとんでもない物である。
もしこれらが一気に押し掛けて来れば、主力戦艦6隻しか持たぬシホールアンル艦隊は甚大な損害を被る。
せめて、戦艦戦力だけでも優位を保たねば・・・・・・
海軍上層部は第3艦隊を東海岸に派遣する事に決め、うち戦艦1隻が魔法石の調子が悪く、回航途中でリタイアしたが、
残りは北大陸南部のマルヒナス運河を通り、無事にガルクレルフに着いた。
これで、シホールアンル艦隊は戦艦8隻になり、とにもかくも、戦艦戦力はこれで互角になった。

「戦艦のみならず、竜母も東海岸に回せばよかったのですが」

話を聞いていた、参謀長のリギングラ准将が残念そうな表情で言ってきた。

「第24竜母機動艦隊も加えれば、母艦戦力は6対4の優位に立ち、まず相手側の空母を血祭りに挙げられる筈ですが。」
「それは出来んかもしれない。」

ベックネ少将はかぶりを振る。

「アメリカ空母部隊は、どこに出没して暴れ回るか分からん。28日だったかな、グレンキアの南端に左遷されたスパイが、
沖で訓練を行うアメリカ機動部隊を発見したそうだ。諸君らも、この報告を聞けば何か分かるだろう?」

彼はイタズラ小僧が浮かべるような表情で、周りを見回した。誰も直ぐには分からなかったようだ。
(これがヘルクレンスや、モルクンレルなら直ぐに理解できただろうな)
幕僚達が、ようやく分かったと言わんばかりの表情を浮かべた。

「つまり、アメリカ空母部隊は、西海岸に回り込んで、手薄の我が艦隊や北部戦線を襲う可能性がある、と言う事ですね?」
「その通りだ。これを恐れた西海岸区司令官が、第24竜母機動艦隊を手放さないのだ。
まあ、ここで西海岸区司令官の文句を言いたい者もおるかも知れぬが、彼の気持ちは分からんでもない。」

彼は艦橋の窓の外に手をかざした。

「この境目のアオシスから、カレアントの戦線までは、充分な数のワイバーンが配備されている。
だが、西海岸戦線では、軍の大半をカレアントに持っていかれているため、ヴェリンス共和国の残りの領土や、
ミスリアル王国に地上軍を押し込む事も、ワイバーンの大空襲も頻繁には加えられない。」

事実、シホールアンル軍の侵攻軍は、東海岸戦線偏った形になっており、西海岸戦線はヴェリンス残存軍の抵抗を思うように突破できないでいる。
ワイバーンの配備数も、東西の比率で表すと、3:1である。

「頼りになるのは海軍のワイバーン部隊や、主力艦隊だが、その一翼が抜けた今、アメリカの空母部隊が、分力でも攻め入ってきたらどうなると思う?」

アメリカ主力艦艇の性能は、今やシホールアンル海軍の全部隊に知られている。
アメリカ側の空母は特に侮りがたい性能である。
一番搭載数の少ないワスプ、レンジャー級でさえ、80機以上。
ヨークタウン級、レキシントン級の大型正規空母となれば搭載数は90~100と、一気に戦力が上がる。
もし、アメリカ空母部隊の分力、2隻を中心とする艦隊が西海岸に現れれば、
そして、それが不意を突いて、地上軍や艦隊に襲いかかれば、たちまち大混乱に陥る。
これに対抗可能なのは、モルクンレル部隊であろうが、モルクンレル部隊はワイバーン総数272騎に対し、
敵2隻がワスプ、レンジャー級であれば、160機程度で、モルクンレル部隊が優位だ。
しかし、その差も、敵の空母がレキシントン級、ヨークタウン級と来ればたやすく縮まってしまう。
増してや、敵の空母部隊が4隻全てを投入する可能性もある。
それを恐れる西海岸区司令官は、モルクンレル部隊を手放したくなかった。

「だから、敵が来た時には、この艦隊の戦力で戦うしかない。まあ要するにアレだ、無い物ねだりしても始まらぬという事だ。」
「なるほど。しかし、来年の中頃には、我々もホロウレイグ級竜母が複数登場します。
それに36騎搭載可能の高速小型竜母も、増産が決まり10隻が続々と作られます。この年で、アメリカ軍や
南大陸軍の反撃を上手く押さえ込めば、勝機は自ずとこちらに転がって来ますぞ。」
「そうだ!アメリカの戦艦如き、わがオールクレイ級の足元に及ばぬ!」
「むしろ、敵が来た時こそ好機です。それに、我々は陸軍のワイバーン部隊の援護を受けながら敵と向かい合う予定です。
もし、あの忌々しい高速空母部隊が来ても、ヘルクレンス部隊と陸のワイバーン部隊と協力すれば、奴らを海の藻屑に出来ぬこともありません。」
「ふむ、そうだな。」

ベックネ少将は、幕僚達が戦意を失っていない事に満足していた。
(これだ。敵が優勢なほど、戦意を掻き立てる。これこそが、我がシホールアンル海軍のいい事だ。
彼らのような戦意旺盛な部下がいれば、我々も負ける事はあるまい)
彼は、次第にアメリカ艦隊の決戦を望むようになって来た。

「出るなら出て来い、アメリカ軍。我々シホールアンル海軍の実力を見せてやる。」

1482年2月3日 バルランド王国ヴィルフレイング

この日、戦艦コロラドの会議室で、本国からやって来たキンメル太平洋艦隊司令長官と幕僚2人を交えた作戦会議が行われた。
「であるからにして、この作戦は未だに進撃を続けようとするシホールアンル側の意図を挫くと共に、
南西太平洋軍がカレアント南部に進駐するまでの時間を捻出するのが目的である。」

言い終えたキンメル大将は周りを見回した。
面白そうだなと顔を緩めている者、少し危険すぎるのではないか?と顔を強張らせている者がいた。
そのうちの面白そうと思っている者、第16任務部隊司令官、ウィリアム・ハルゼー中将が口を開いた。

「なかなか面白い作戦だ!これなら、シホールアンル軍を大きく足止めできるぜ。」

彼はニヤリと笑みを浮かべた。
その一方で、顔を強張らせている者、第2任務部隊司令官、アイザック・キッド少将も口を開く。

「しかし長官、古来から言われるように、敵に当たる時は全力で、との言葉があるではありませんか。
分力で敵の肝心な所を叩き、混乱に陥れると共に心理的ダメージは計り知れない事になるでしょう。
しかし、失敗すれば貴重な高速空母や、旧式とは言え、まだ使い道のある戦艦を無為に失う可能性もあります。」
「ミスターキッド。確かに君の言う事は重々承知できる。」

キンメルが深く頷く。

「だが、この作戦は敵が未だに戦力を満足に補充し得ていない今だからこそ、出来る物だ。
戦力が整えば、強引に出来るかもしれないが、それはいつになると思う?」

「・・・・・・・・」

キッド少将は言葉に詰まった。
だが、内心ではこのような投機性の高い任務は賛成できぬという思いが強い。

「投機性が高いのはよく分かっている。だが、この作戦は今をおいてしか出来ない。」

キンメルはずいと、前のめりに姿勢を傾ける。

「機動作戦には、旧式戦艦には不向きです。司令官、せめて・・・・ワシントンは太平洋に回せぬのでしょうか?」

キッドは縋るような口調で言う。

「ペンシルヴァニアやアリゾナは21ノットしか出せない低速艦です。しかし、ワシントンなら、28ノットのスピードが出せ、
機動部隊にも随伴できます。そのワシントンを、回せませんか?」
「残念だが。ワシントンは大西洋から回せない。現状の戦力で作戦を行うしかない。」

キンメルはきっぱりと言い放った。
会議室に、重苦しい沈黙が流れた。
本来、機動作戦とは高速艦でやるものだが、わざわざ低速艦で行うのは、自殺行為に等しい。
だが、キンメルの言った作戦は、はっきり言って正攻法ではなく、奇策そのものである。
失敗すれば少なからぬ戦力を失ってしまう。
だが、新鋭艦の就役する43年まで余裕の無い太平洋艦隊は、駐留予定の南西太平洋軍や南大陸軍の作戦をやりやすくするために、
こうやって時間を敵から捻出するしかない。

「分かりました。」

キッドは決心した。
確かに、犠牲の大きくなりそうな作戦だが、これで成功すれば、厄介者呼ばわりされる旧式戦艦にも花を持たせられる。

「やりましょう。我が戦艦の14インチ砲で、敵地を綺麗さっぱり吹き飛ばしてやりましょう。」
「そうか。やってくれるのだな。」
「はい。」

キッド少将は、先ほどまで胸につかえていた不安が、嘘のように引いていった。

「第2任務部隊の上空援護は、我々が抜かりなく行う。だから貴官は思う存分やってくれ。」

ハルゼー中将も微笑みながら、キッド少将に語りかけた。

「よし。これで皆の腹も決まった事だろう。さて、これからは作戦を成功させために、色々問題点が出てきた。
これからはその問題点を解決させるために、細かいところを調整しよう。」

1482年2月6日 バルランド王国ヴィルフレイング 午前8時

ラウス・クレーゲル魔道師は、眠たそうな顔を張り付かせながら桟橋に向かった。
服装はいつものように黒いローブと、下はいつも変わった白のハイカラーである。
桟橋に辿り着くと、3隻の内火艇が係留されていた。

「エンタープライズ行きはどれっすか?」

彼は強面の下士官に尋ねた。その下士官はラウスを見ると、

「目の前の船ですよ。乗るんですか?」

と、内火艇のへりを棒でコンコン叩く。

「今から発進させようとしてたんですが。」
「じゃあ乗ります。」

そう言って、ラウスは内火艇に飛び乗った。
内火艇が発進しようとすると、後ろから慌てた声が聞こえてきた。

「おーい!ちょっと待ってくれ!」

下士官が振り返ると、1人の将校が走ってきた。

「あ、マクラスキー少佐。」
「すまんな、待たしちまって。」
「もうすぐで出るところでしたよ。昨日はたっぷり楽しめましたか?」
「辛うじて合格点と言う所かな。」

そう言って、マクラスキー少佐は笑いながら内火艇に飛び乗った。
彼が乗った事を確認した内火艇は桟橋から離れ、800メートル沖合いの空母エンタープライズに向かった。

「ん?おいあんた。」

ラウスは、そのままぼーっと船の左舷側を見つめていたが、唐突に横から声をかけられた。

「あんた魔道師だろ?」
「ああ、あなたは確か・・・・・・」

ラウスはしばらく考え込んでから、思い出す。

「ウェイド・マクラスキー少佐、でしたっけ?」
「そうだ。よく覚えててくれたな。」
ラウスは、レアルタ島沖海戦や北東沿岸爆撃の際に、何度か報告のため、艦橋に上がってきた彼を見ているから、自然に顔と名前を覚えていた。

「また今度もエンタープライズに乗るのかい?」
「ええ、そうですよ。なんか、本国からエンタープライズにずっと乗っとけと言われまして。」
「へぇ~、魔道師さんも大変だな。」

「ラウスです。ラウスで結構すよ。」

そう言いながら、彼は大欠伸をかいた。

「前にも思ったんだが、ラウスはよく眠たそうな顔をしてるよな。眠り病にでもかかってるのかい?」
「別に病気じゃないですよ。ただ、元々こういう体質なもので。」

そう言ってまたもや欠伸。

「それで、バルランドで有数の魔術師か。なあラウス、こういうような言葉を聞いた事ないか?」
「どのような言葉っすか?」
「時たま耳にするんだが、有能な奴は面白い一面を持っている、って奴さ。うちのブル親父を見て最初どう思った?」
「ブル親父とは、ハルゼー提督の事ですよね?」
「ああ、そうだ。」

マクラスキー少佐の質問に、ラウスは最初の出会いを思い出した。
最初、ハルゼーは彼らと会った時、かなり不機嫌そうに見えた。
いかつい顔つきは今にも怒鳴ってやろうか、と思うほど強張っており、口はへの字に曲げられていた。
いかにも感情型の闘将という雰囲気を出していた。

「怒り出したらおっかないおっさん、と言った感じでしたね。」
「君もそう思ったか。俺もだよ。」

マクラスキー少佐は自分に親指を指してそう言った。

「でもな、本来はかなりの努力家なんだよ。」

「知ってますよ。なんでも、空母の艦長になる時に、高齢にもかかわらず強引にパイロットの教育課程を受けて
パイロットになったって、本人に聞かされました。」
「チッ、本人から聞かされたのか。あっと驚かせようと思ったんだが。でもな、あんなすぐに物事を決めそうな
ブル親父でも、本当は人一倍努力する人なんだよ。」
「確かに、面白い一面ですよね。」
「ああ、全くだ。」

マクラスキー少佐は笑いながらそう言う。

「それは、君も一緒だよ。巷では優秀な魔道師、ラウス・クレーゲルも、本当は眠るのが唯一の楽しみな若者!
と、俺の中ではそうなってる。」
「ええ~、勝手に決めないで下さいよぅ。」

ラウスは困った顔つきで、マクラスキー少佐に抗議した。

「でも、大体は合ってるだろう?」
「ま、まあ、確かに。」
「まっ、要するに俺が言いたいのは、有能な人間ほど、面白い一面を持っていると言う事だ。それだけかな。」
「ハハハハ、よく考えれば、確かに。」

ラウスはふと、スプルーアンス提督の事を思い出した。
あの巡洋艦部隊を束ねる男も、結構驚く一面を持っている。
気が付くと、目の前にはエンタープライズの巨大な艦体が迫っていた。
内火艇はエンタープライズの艦尾左舷側から近付くと、一度離れて半周し、内火艇の左舷側をエンタープライズの左舷が会談に、ゆっくりと接舷した。
マクラスキー少佐が先に降り、次にラウスが降り、階段を上がって行く。

「やっぱ、司令官と同じサイズのステーキは、私もとてもじゃないですが食べ切れません。」

ブローニング大佐が苦笑しながら言った。

「2、3日メシ抜きにすりゃあ誰だって食べれるよ。」

と、ハルゼー。
その時、艦橋に若い兵が入って来た。

「ラウス・クレーゲル魔道師がただいま着任いたしました。」
「おう、入れてくれ。」

ハルゼーは機嫌がよさそうに頷く。しばらくして、ラウスが入って来た。

「こんちわーす。」
「ようラウス君。たっぷり眠れたかね?」
「まあ、ぼちぼちと。」

ラウスは、眠たそうな顔に苦笑を浮かべながらそう答える。

「今度の作戦でもよろしく頼むぞ、“魔道参謀殿”。」
「ええ、微力を尽くしますよ。」

ラウスがやや、力の入った声音で言い、ハルゼーとブローニングの2人と、代わる代わる握手をした。
魔道参謀というのは、ハルゼーが勝手につけた名前だが、実質的にラウスの立場は、魔道参謀そのものである。

「今回は前回以上に厄介な仕事だが、連絡役の君にも色々期待している。お互い、今度の作戦成功を祈って頑張ろう。」

「これが成功すれば、シホールアンルの前進は完全にストップしますからね。自分としても、自然に気合が入りますよ。」
「成功すれば、ラウス君の眠る時間も飛躍的に増えるでしょうな。」

ブローニングの何気ない言葉に、3人は思わず笑ってしまった。

「とりあえず、出港までまだ時間があるから、前に使った部屋でゆっくり休むと言い。
これから眠る時間も少なくなるから、今のうちに寝溜めしたほうがいいぞ。」
「わかりました。では、お言葉に甘えるとします。」

2月8日 午後11時 ネバダ州ロスアラモス

南大陸側の特使達は、ラウスが南大陸に戻った後もアメリカ本土に留まっていた。
アメリカ政府の高官との協議や、各州の工場などを見学し、彼らはアメリカという国の真の姿を目の当たりにしている。

「アメリカからは、多くの事を学べるかもしれない。」

派遣特使団のリーダーであり、レイリー・グリンゲルはそう思っていた。
その旅路も2ヶ月以上続き、そろそろ南大陸に戻ろうと思ったある日彼とルィール、ヴェルプはとある場所に呼ばれた。
丸1日移動した後、彼らが連れ来られたのは、砂漠の峡谷の中にある何かの研究施設だった。
彼らは、別に用意された建物の個室に案内された。
個室には、太平洋艦隊司令部で見かけた顔、レイトン中佐と、始めてみる白髪の老人が座っていた。

「よく来てましたね。ささ、どうぞこちらへ。」

2人は訝しげな表情を浮かべながらも、ソファーの向かい側に座った。

「初めまして、私はアルベルト・アインシュタインと言う者です。」

白髪の人物は、にこやかな笑顔を浮かべながら自己紹介を行った。
2人もそれぞれ自己紹介を行って、話は始まった。

「遠いところからわざわざ有難うございます。このアインシュタイン博士とは初対面となりますが、アインシュタイン博士は理論物理学者です。」
「物理学者ですか・・・・・レイトン中佐、なぜ私とルィールをこのような辺境の地に呼んだのですか?」
「それは、君達が腕の立つ魔法使いだからです。」

レイトン中佐は即答した。

「君達が使っている魔法の中に、通信魔法という物があるのは既に知っていますが、この通信魔法は普通の人間には使えないのですよね?」
「ええ。短距離通信魔法は、平の魔道師でも使えますが、大陸間の長距離通信魔法となると、
約5年~6年程度の中堅、又はベテランの魔道師しか使えません。普通の人間に送っても、何ら感触はありません。」
「なるほど、魔法使い同士でやり取りできるコミニュケーションですか・・・・・いやはや、凄い物だ。」

唐突に、アインシュタイン博士が面白げな笑みを浮かべながら、言葉を発した。

「では、私達が使う交信装置の事は分かるかな?」
「ええ。電波、ですよね?」
「そうです。あなた方は本国と頻繁に魔法通信で連絡を取り合っているようですが、この魔法通信は、敵側の魔法通信も受信できるのですか?」

レイトン中佐が聞いてきた。

「いえ、受信はできないことは無いですが、受信できても解読できません。時折、頭の中で何かが通るような感触、
あなた方の主に使う電波放送で言えばノイズや雑音でしょうか、それと似たようなものを感じるのです。
魔法通信には、敵側に通信内容を解読されぬために、魔法の構成式に暗号のような妨害式を交えてから作り、
送り主に発信するのです。これは敵も同様であり、今の所、双方の魔法通信は解読できない状況になっています。」
「なるほど・・・・実はですね。今回お2人にここに来てもらったのは、あるプロジェクトに参加してもらいたいからです。」
「あるプロジェクト?」

アインシュタイン博士の言葉に、レイリーとルィールは首を捻った。

「ええ。それはですね、我々が使う無線機に魔法通信も傍受出来る様にしたいのです。」
「現在、我々情報部は、敵が使う魔法通信を全く知る事が出来ない状況にあります。そこで、南大陸では有数の魔道師である
お2人に協力してもらいたいのです。」

2人は一瞬唖然となった。

「驚かれるのも無理はないでしょう。科学技術と魔法技術。この2つには接点などあまり無い様に見えますからね。
しかし、魔法は火を起こしたり、強力な力を発生させて物を吹き飛ばしたり等、様々なことができます。科学も、
ほとんど物の助けは借りますが、同じように火を起こしたり、強力な力を発生させたりできる。要は物を使うか、使わないかなのですよ。
それさえ無ければ、不思議な事に魔法と科学は似ているところが幾つもあります。
まあ、私はあなた方の世界の魔法を本格的に見た事がないので、お2人にはデタラメな事を言っている様に聞こえるでしょうが。」

そう言って、アインシュタイン博士は照れくさそうに頭を掻く。

「要するに、魔法と科学の接点は多い、と言う事ですね?」

レイニーは姿勢を前のめりにして言う。

「その通りです。」
「まあ、魔法と言っても、時たま手製の杖とかを使って発動する時もありますけど。」

ルィールが無表情のまま言う。

「でも、アインシュタイン博士の言う事は理解できました。」
「分かってくれましたか。」

アインシュタイン博士は、どこか安堵したような表情になった。

「どんな言葉が返ってくるかと心配していましたが、ふう良かった。」
「何を心配していたのです?」

ルィールは怪訝な表情で質問する。

「ええ、実はですね。さきほどの説明で、お2人からしたら間違っていると思う部分があるのではと思っていましたが。」
「いいえ、そんな事はありません!」

レイリーが慌ててかぶりをふった。

「むしろこちらが驚いたぐらいです。どうも博士は、年齢の割には柔軟な考えをお持ちのようですね。」
「いやいや、買い被らなくても。私なんぞ、年ばかり気にしている一介の老人ですよ。」

自嘲気味に言って、アインシュタイン博士は笑った。それにつられて3人も笑ってしまった。

「さて、場が和んできたところで話を戻しましょうか。」

レイトン中佐がそう言って、話は元の路線に戻った。

「我々としては、味方同志は勿論、敵シホールアンル軍の魔法通信を傍受でき、それを解読できる無線機を開発する事が目的です。
先の話でも出てきましたように、南大陸軍、シホールアンル、マオンド軍の魔法通信は盛んに発せられているといえ、内容は解読できません。
敵陣営が発する魔法通信の中に重大な通信文が入っているのは確実です。これまで、我々は航空偵察や味方潜水艦を使って
敵情の把握にあたりましたが、これではすぐに限界が生じます。」

レイトン中佐は、一度水を飲んでから再び言葉を続ける。

「この戦争では、情報を多く掴んだ方が戦争に勝つといっても過言ではありません。今のように、味方のみの通信を受け取って、
敵の情報は傍受して確認しない、では今後の作戦遂行に大きな支障を来たします。そこで、わがアメリカは、あなた方と協力して、
敵側の魔法通信を傍受、解読できる装置を開発しようと考えたのです。」
「・・・・・・・これは少々、いや、かなり難しいかもしれません。」

レイリーは表情を強張らせながらそう呟いた。

「魔法通信の構成式は、短距離用、長距離用では違いが生じます。それに、構成式に加える妨害波も一定のパターンはあるとは言え、様々です。
私としては、開発は相当難しいと思われます。ですが、」

一瞬、レイリーが吹っ切れたような表情になった。

「やる価値は充分にあります。それに、魔法通信を解読しようとしているのは、我々南大陸のみではありません。
シホールアンルやマオンドも魔法通信を解読する研究は盛んに行われています。もしこれを我々が開発したなら、敵に情報の面に関して
大きく差をつけることが出来ます。」
「私も、この研究開発は、今後の戦争において有意義なものになると思います。
それに、これは個人的見解ですが、これほど面白そうで、やり甲斐のある研究は初めてです。」

2人のエルフはやる気満々であった。元々、魔法研究が一番盛んなミスリアル人だ。
持ち前の探究心や好奇心が、この新たな無線機開発に参加するきっかけとなった。

「引き受けてくれるのですね?」

レイトン中佐が聞くと。

「「もちろんです!」」

2人は威勢のいい声で即答した。
それを聞いたアインシュタインも満足そうに頷く。

「これなら話が早いですね。今後も、お2人と詳細を協議して、近いうちにマンハッタン計画を実行に移しましょう。」


1481年2月10日 午前3時20分 バルランド王国ヴィルフレイング

未だに夜の開けきらぬこの日、一群の艦艇がゆっくりと、ヴィルフレイングを出港しつつあった。
出港しつつある船の1隻である第2任務部隊の旗艦、戦艦アリゾナ艦橋で、寮艦の出港風景を見守るアイザック・キッド少将は、内心寂しい思いをしていた。

「夜中に、なるべく音を立てずに出港とは。これではまるで、夜逃げみたいだな。」
「ですが、借金取りはおりませんから、安心できますぞ。」

艦長のフランクリン・ヴァルケンバーク大佐が冗談を言ってきた。

「借金取りとは物足りない。せめてギャングと言ってくれれば良いのだがな。」

「アル・カポネから逃げる被害者家族、とでもしましょうかな?」
「ハハハ、それは傑作だな。」

ヴァルケンバーグ艦長の言葉に艦橋要員からも失笑が漏れた。

「とは言っても、この作戦、失敗すればかなり危ないからな。」
「ノースカロライナ辺りに任せれば、もっと効率がいいでしょうに。」
「艦長、ノースカロライナのみだったら、1隻で敵地を艦砲射撃をしないといけない。
それに、今回は旧式戦艦だからこそ、このような任務に参加するべきなのだ。」
「心理作戦も兼ねていますからな。とは言っても、機動部隊で叩けば・・・・
いや、今じゃ機動部隊でも前のような戦果は挙げにくいですかな。」
「そうだろう。敵も2、3度奇襲を受けるような馬鹿ではないからな。最も、」

キッド少将は艦橋の左舷側を眺めた。
洋上は暗闇に包まれて見えないが、左舷側海域には、出港したTF16が艦隊の集合を行っている。

「こっちはワイバーンの妨害さえ受けなければ、任務を達成できる。F4Fがどれだけワイバーンを減らしてくれるか、
それによって作戦がやりやすいか、やりにくくなるかが決まる。」

キッド少将は深くため息をついた。

「とりあえず、この2隻の旧式戦艦でも、暴れる場所を用意してくれた事に感謝しておくか。」
「老いたりとは言え、アリゾナ、ペンシルヴァニアの14インチ砲24門は侮れないですからな。
いずれにしろ、ガルクレルフの兵站基地なぞ、綺麗さっぱり吹き飛ばして、シホールアンルの侵攻軍に休暇を与えてやりましょうか。」
「ああ、長い休暇を与えてやるか。」

キッド少将は頷いた。
出港しつつある第2任務部隊の後には、ニュートン少将の第15任務部隊が、間を置かず出港する手筈になっていた。
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