自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

006

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最悪の事態を誰もが想像しだした頃、ようやく通信機が反応した。
「いやーすいません。ちょっと交渉に手間取ってしまいまして」
「無事か!よかった。で、交渉はどうだった?」
「遭難した船を追い払うような真似はしない。寄港を許可する、だそうです」

寄港許可の言葉に、全員が喜びを覚える。少なくとも地面の上に戻れると分かった
からだ。しかし艦橋の喜びとは逆に、事務官の声はどことなく暗かった。

「ではこれから、許可書を持って帰艦します」
「了解!」
事務官の声の固さに気付いた者は、この時だれもいなかった。
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事務官を乗せた小舟は、まず武装帆船の方に戻った。その後、事務官は
帆船の小舟から護衛艦の内火艇に乗って、無事帰艦した。

事務官が船に戻ったことを確認すると、帆船はすぐに行ってしまった。
自分たちより大きく、しかも得体の知れない船の空いてなど嫌だったのだろう。

幾らか空気の明るくなった艦橋に、事務官が帰ってきた。
今回一番の功労者に、艦長がねぎらいの言葉を掛ける。
「よくやってくれた。ご苦労様」
「はい、ありがとうございます」
「よし、ではどこかで休んでくれ。疲れたろう」
「その前に艦長、許可書を金庫に保管したいので一緒に来て下さい」

この時初めて、艦長は事務官の声の固さに気付いた。他にも
感の鋭い者が何人か気付いたが、その事を考えさせる前に
二人は艦長室へと向かってしまった。

「艦長、実はお話がありまして・・・」
「分かっている。だから直ぐここに来た」

艦長と事務官は、艦長室の中にいる。もちろん鍵は掛けて有るし、
入る前に人気の無いことも確認していた。

事務官はぐびり、と息を飲むと、決然とした表情で話した。
「では単刀直入に申し上げます。我々が今いるのは、現代のイラクでは
ありません。私の見た限りでは、間違いなく」
「まあそんな気はしていた。で、ここはいつのイラクなんだ?」

艦長は思いの外あっさりと、事務官の言葉を受け入れた。その艦長の
様子を見て、事務官はあっけにとられる。自分が狂ったと思うどころか
当然の反応と受けるのだから、無理もない。

その事務官の反応に、艦長は苦笑しながら説明をした。
「君は船酔いで寝込んでいる間、ずっとこんな事の続き通しだ。
いい加減、認識を改めたんだよ。これは夢じゃない、現実なんだとね」

タンカーや軍艦の航海域で、帆船に、しかも三度も矢を射られれば、
どんな人間でも認識は変わる。もし変わらなかったとしたら、それは
その人が狂っている証拠とさえ言えるだろう。

いささか肩すかしを食った事務官は、気の抜けた、しかし固さの無い声で
艦長に返答した。
「いつの、ですか。許可書には183年と書いてありますから、
西暦で800年ですね」
「西暦800年?ということは、1200年も昔に来てしまったのか!」
さすがに艦長も、これほどの事とは考えていなかったらしい。
思わず大声で叫んでしまい、慌てて口をつぐむ。

廊下をおそるおそる確認し、人気の無いことに安堵してから
二人は話を再開した。

「で、この時期のイラクはどうなっている?」
「正直に言って、一番当たりの時期と言って良いですね。アッバース朝の
最も栄えた時期です。ハールーン=アッラシードはご存じですか?」
「ああ。確かアラビアンナイトにも出てくる王だな。貿易で栄えた王様とか
そういう話だったか」

「ええ。そしてここはその貿易の中心地で、この時期では破格の30万都市です」
「ということは、食糧もあるのか?」
「イラク平原から小麦やら何やらが山のように。まあ輸出用が多いですが、その分
貿易してますから食糧や物資には困りません」

艦長はその言葉を聞くと、急に安堵した表情になった。
「そうか、食糧不足は無いか。隊員達の分も何とかなるかな」
「30万を養う街です。700人やそこらなら、どうとでもなります」

正しく地獄に仏とはこの事だ、そう艦長は思った。手段さえ講じれば、
取り敢えず誰も飢える事だけはないのだから。

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