自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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「三山さーん!五木田さーん!七尾さーん!どこですかー?」
山村には三人の居場所の目星が付いていたから、呼びかけは最初から一箇所に
向けて放たれた。その場所とはもちろん、奴隷市が行われている所である。
台の上に立たされた奴隷は、遠くからでもよく見えるのだ。

山村がここに三人がいると判断した理由は、『日本人の目には、奴隷市は珍しいから』
という単純な物だった。現代日本にも伝統芸能としてたたき売りは残っているが、
人買いを街頭で目にする事は、現代では有り得ない。何故ならそれは犯罪だからだ。

しかしこの時代のこの街では、昼間から公然とそれが行われており、人々の耳目を
集めている。しかも誰も、それに対して文句など言わない。それどころか買い手は
階層の上流中流や職業の別なく、皆喜々として競りを行っているのだ。町人にしても、
本当にちょっとした見世物だという風な視線を送っている。

これが現代教育を受けた、それも日本人の目を集めないはずがない。嫌悪や驚愕、
その他のどんな感情を抱こうとも、素通りなど出来はしないのだ。むしろ何の
感慨も抱かずに、さっさと通り過ぎる方が異常だとも言える。

そうしたわけで山村は奴隷市に呼びかけたのだが、返答は帰って来なかった。
反応のない理由は分からなかったが、とにかく一度はここを探るべきだと決めていた
山村は、とりあえず人垣の中へと入っていくことにした。

「通して下さい!この中に行きたいんです!」
三人と違って山村はアラビア語が喋れるので、呼びかけもきちんとしたものである。
しかし人垣は自分や周りの話し声に気を取られて、余り気付かない。三人と違って
まともにアラビア語で喋った事が、ここでは裏目に出てしまったのだ。

しかたがないので、山村はとにかく奥へ進む事にした。奴隷を立たせる台の周りなら、
人払いが成されてスペースがあるからだ。そこなら自分も動くことができるし、探して
いる三人にしても、人混みを避けてそこにいるかも知れない。

そうしてもみ合うこと数分間、暑い中を走って汗みずくになっていた山村は、人の
熱気で更に炙られるようになりながらも、何とか最前列へとたどり着いた。

「三山さん!七尾さん!五木田さん!いませんかー!」
山村は前に付くなり、声を出しながら辺りを見回す。すると彼らはすぐに発見できた。
ただしそこで、山村は見つかった喜びよりも頭を抱えたくなる光景に出くわした。三人の
自衛隊員は、どう見ても貴族級の買い手がいるエリアで何かしているのだった。

「何をしてるんですか、そこの三人!」
山村が思わず声を荒らげると、ようやく一人がこちらに気付いた。彼は女性的な顔立ちを
しており、涼しげな表情は男の山村にも綺麗に思えた。しかしその事はむしろ山村に
反感を覚えさせる。

「何をって、この競りを見てるんですが」
山村の怒りを無視するように、彼は平然とした口調で答えてきた。しかし山村は
その言葉にさらに反感を覚えながら、彼に呼びかけた。

「そこは買い手用の場所なんですよ!そこで競りだけを見ていると、冷やかしだと
思われて面倒な事になります!すぐにこっちに来てください!」
その言葉でようやく気付いたのか、彼は他の二人に声を掛けるとすぐにその場を
離れていった。

山村と三人は観衆の最前列、売り買いの場から少し離れた場所で合流した。そして
すぐさま山村は三人を問いただす。
「どうしてあんな所にいたんですか?確実に雰囲気が違うのに、なぜあそこまで行って
見物なんかしていたんです」

そう山村が問い詰めると、さっきの一人が返答した。
「向こうに凄い美人がいたから、もっと前の方で見ようって事になって、それで。無理に
入った訳じゃないですけど。何人か変な顔したけど、あっさり入れてくれましたし」

「むしろ嬉しそうにしてたのも居たしなあ。だから別に、問題ないと思ったんだが」
合いの手を入れたのは、濃い髭面の男だった。三人の中で一番背が高く、体つきも
正に軍人といった風貌の男だった。

それを聞いた山村は、その理由に思い当たった。バスラに来てからの一月、とにかく
司令部は有力者に愛想を振りまいていたから、自衛隊の存在も知れ渡っているのだ。
それも貴族のお気に入りで、不思議な商品と巨大な船を持つ大商人として。

そんなイメージが付きまとっていれば、例え下っ端でも何らかの使いであれば粗略には
扱えない。今回の三人は、奴隷を買いに来た代理か何かだと思われたのだろう。
山村がその事を説明すると三人はどうやら納得した。

「なるほど、俺達もバイヤーだと思われていた訳か。だったらついでに一人くらいは
買えないかねえ?」
説明を聞いた後、しれっとした表情のままもう一人が喋った。彼は中肉中背で、どこか
飄々とした雰囲気を持っている男である。

その余りにあっさりとした発言に、山村は大声を上げた。
「買う?何言ってるんですか!というかなぜ買う必要があるんです!」

「こっちは買い手と思われてたんだろ?一人くらいはお買い上げにならないと、
ここの連中にも示しが付かないと思うんだけど」

山村の声にも眉一つ動かさないまま、彼は返答した。確かに貴族らの中にまで紛れ込んで、
何もしないまま帰るのも微妙な所ではある。しかし山村は、それをすぐに否定した。

「買いたい人が居ないから買わなかった、で十分です。押し売りじゃないんですから、
気に入らなければ買わないで帰るのばこっちの自由ですよ」

その言葉を受けた彼は、少し間を空けて苦笑いした。
「やっぱこの理由じゃダメか。じゃあ正直に話そう!実を言うと、あそこにいる奴隷の
一人に、さっき言ったとびきりの美女がいる。彼女がいれば隊の空気も和むことは間違い
なし!だから買いたい。無理かな?」

その言葉を聞いた山村は、数秒間絶句してしまった。一体こいつは何を考えているんだ?
山村はそう思いながら、とにかく次に何と言うべきか考えた。

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