自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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その後の会議の進展は、概ね淡々とした物だった。議題の大半は現在進行中のものや、
対処療法的にやっていくしかない状況が殆どだったからだ。しかしそれでも、時折場が
荒れることはあった。

「我々がどこへ何をしに行く任務を帯びていたのか、忘れたというのですか!」
大きな声を張り上げたのは、会議出席者の一人新沼二等陸佐である。会議の話題が
行動方針の検討に変わってから少しして、彼は全員に呼びかけたのである。

「ここには私達のすべき仕事はありません。大切なのはここでどう生き延びるかでは
なく、如何にして日本と連絡を取り、本来の任務に復帰するかです」

新沼二佐が述べた意見は、場の空気を掻き乱すのに十分だった。それまでは反省会のような
空気が流れていたのに、あっと言う間に硬い気配が漂い始めた。

「確かに君のその意見は正しい。しかし通信どころか政府が存在しないのだから、どうにも
ならないと思うがね」
新沼に返答したのは望田だった。結局ここは現代ではないのだから、どう足掻いても無駄だと
言いたげな声だった。

「私が言いたいのは、連絡を取る努力をすべきだと言うことです。この現象が一体
どういう物なのかを調査し、そして打破する事こそが現状で成すべき事では無いでしょうか?」

呼びかける風な新沼の言に対し、今度は別の士官が反論を返した。
「調査と言っても、具体的には何を行うのですか?隊内に専門家がいるわけでも
ないし、当てずっぽうでは全くの無駄だと思うのですが」

その反論に対し、新沼は冷静に答えた。
「この時間転移という現象は、インド洋上で嵐に巻き込まれた時から始まった。
それ以前には通信等が途絶していなかったのだから、これは間違い無い。だから
私は、再度嵐と遭遇した海域に向かうべきだと思う」

新沼の案に対して、すぐに望田から横槍が入った。
「それはそうだが、幾らなんでも漠然としすぎやしないかね?来たところに戻った
からと言って、すぐに兆候が掴めるわけでも無いだろう。第一こんな事には前例がない」

二回目の口出しに、少しムッとしたように新沼は言い返した。
「しかしこれしか確実な物が無い以上、海へ行くしか方法は無いと思いますが。ただ
ここにいた所で、帰れる可能性は全くありません。ならば少しでも可能性を試した
方が良いと私は考えます」

新沼の言に対し、今度は会計課の士官がくちばしをはさむ。
「ですがそれには、食糧や水の問題があります。今は食糧の安定確保を
目指していますから、それが終わってからでも遅くないのでは?」

士官はなだめるような口調で喋ったのだが、新沼は一層不機嫌になった。
「それはそうだが、確保のために一日を使えば、それだけ多くの物資を
売らなければならなくなる。それを防ぐためにも、我々は一刻も早く帰還する
手だてを考えるべきなのだ」

新沼が不機嫌になった理由は、およそ十日ほど前にあった会議での決定にあった。
その会議で議論されたのは、部隊の食糧問題に付いてだった。

補給基地も何もないこの時代では、自衛隊に食糧をくれる者は誰もいない。もちろん
持ち込んだ食糧はあるものの、保存食や冷凍食品ばかりではない。野菜などはどれだけ
冷蔵庫に入れ、日持ちする細工をしても絶対に腐っていく。

そして保存食もそう長くは持たず、すぐ消費されていくのは目に見えていた。なにせ
七百人からの人間が、ただ喰うだけの生活をするという事になるからだ。

しかし食糧を買い付けるにも、部隊は現金を持っている訳ではないし、あったにしろ
使えない紙幣や訳の分からない金属なのだから、両替商の方で取り合ってくれない。
工芸品として売る方がまだ現実味がある位だった。

つまり現状は、金もないのに食糧だけが無くなっていく、ほぼ最悪の状況と言うことだ。
ならばどこから資金を調達するか?それが会議の内容だった。

その会議の中で出された提案は、『支援物資の売却・交換による資金化』という
現実的で手堅い案であった。現在部隊の持つ金目の物の中で、最も量が多く売却に
問題がない物を選んだといえる。

だが新沼はそれに反対した。復興という任務の為に与えられた物資を、自分達の生存の
ために安易に使うべきではないと主張したのだ。そして対案として隊員の現地労働や、
知識の伝達による報酬の獲得などを上げたものの、確実性が低いとされて却下された

それでも食い下がった新沼は、食糧を統制して限界まで物資売却に頼らない道を望んだ。
だが一番通りそうなその提案さえ受け入れられず、結局売却は即日決定となった。
そのことがわだかまりとなって、新沼を不機嫌にさせているのだ。

「新沼二佐の意見は確かに正しい。我々のいるべき所はここではないし、一刻も早い
帰還は我々や政府、復興対象の人々の誰もが望むことだろう」

空気の荒れ方を察したのは、議長の芝尾だった。もちろん彼は議長だから、その発言は
全員が黙って聞かねばならない。そのため一瞬場は静まり、険悪な雰囲気は消えていった。

「だが、現状では食糧等の問題が有るのも事実だ。帰還方法を探すにしても、いつまで
掛かるかのメドが立っていない以上、まずは態勢を整えることが先決だろうと思う。
だから調査等の方法については、別の機会にまた考えたい。それでいいな、新沼二佐?」

有無を言わせぬ芝尾の口振りと視線に、流石に新沼も同意せざるを得なかった。
こうして会議の荒れた一幕は終わりを告げ、後は淡々と流れて行った。

派遣部隊の命綱が復興支援物資だというのは、全く皮肉な事だった。そしてその
馬鹿馬鹿しい出来事は、その事態に怒りを覚える者、諦めと共に受け入れた者の
二種類を作り出していたのだった。

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