WORLD ALL
1月3日
私はミストが一体どこからケーキやお菓子を持ってくるのか少し不思議だ。
ミストは、戸棚や部屋の扉を何処か別の場所とつなげて食べ物だとかお菓子だとか果物だとか、普段は禁止されていてめったに食べられないものを持ってくる。
この世界、この宇宙のどこかと時間と空間をつなげて、遠くにあるものを手元に引き寄せたり、逆にこちらから向こうに物や人を送れる能力。
私たちの使う魔法、物理現象に干渉する力は、物体の分子の運動や状態を把握し、それに干渉・制御することでさまざまな事象を任意に発生させることができる。
でもそれは、自分の知覚する範囲で分子や電子の運動を認識できるからであって、たとえば念動系は自分の視界内の分子にしか干渉することはできないけれど、
感応系は壁の向こうや地理的に遠く離れた場所にまで知覚するセンサーの範囲を広げられるし、生体系は生物の体内に干渉することができる。
(ただ、その代わりに生物組織以外のものには干渉できない。 生物限定で干渉することに特化した能力なのだ)
しかし、時間や空間といった物にまで認識能力を拡大し、干渉を行うことができる時空系の能力というのは、かなり異質な力だといえる。
量子系のように可能性事象や作用量子定数に干渉し、「確立の変動」を行う能力とも異なる。
私は、ずっと以前司教様に時空系の能力を使えるようになるにはどうしたら良いのか、と尋ねたことがある。
時間と空間にに干渉するほどの能力を得るには、この宇宙全体、あるいは宇宙の外にまで認識能力を拡大しなければならない…司教様はそう言っていた。
そして、時空系の能力はその原理が不明確な部分が多い。 それは、もしかしたらこの宇宙全体の運動に干渉を行える能力…なのかもしれないと、付け加えた。
私はそれを聞いて、少なからず落胆した。
その質問をしたのは修道会に来てからまもなくの頃だったけど、私自身の能力の限界というものは既に自覚していた。
だから、私はミストみたいに自分の部屋の扉を何処か遠くと繋げたりすることはできないのだと、理解してしまった。
もし、私にミストの様な力があったら、部屋の扉と生まれ故郷の村をつなげて、あの子に会いに行けるのに。
その時の私は、それが残念で、心残りで、悲しくなって少し泣いた。
私がミストの顔を見つめると、ミストは視線に気づいて「食べないの?」という視線と表情を私に投げかけながら自分のケーキを手づかみて口に入れる。
ミストは、口が利けない。 言葉を話すことができないだけでなく、声が出せない。
失語症、というのだそうだ。
私たち魔女・魔法使いの多くは、魔法が使えると周囲の人間に知られたときから嫌悪と侮蔑と畏怖の対象として見られる。
私が両親や大人たちに言われたりされたりした事は、まだ軽いほうらしい。
もっともっと酷い事を、それこそ自殺してしまいたくなるような事をされた子も、修道会には大勢居る…
ミストも、そんな子の一人なのだ。 なのに、ミストは口が利けないということ意外は、普通の女の子と変わらない。
よく笑って、よくはしゃいで、よく食べて、私たちと、こうして一緒に居る。
スケルグはミストと違ってあまり笑わない子だ。 いつもすましたような表情をしている。
でも、おしゃべりが好きで自分の得意分野の話なら何時間でも話している。
私も、スケルグと量子論の話をするのは好きだ。
時空系が使えないならせめて量子系を、と思ってスケルグに教えてもらったのが始まりだけれど、未だに私は初歩の確立変動すら使いこなせずにいる。
スケルグは、得意不得意があるのだから、といいつつ理論を教えてくれる。
スルーズは勝手に人の頭の中を覗くというちょっとデリカシーの無いところもあるけれども、悪気があってやっているわけじゃないし、本人はお人好しでいい子だ。
めったに怒らないし、喧嘩もしない。 温和だし、控えめだし、あと少し子供っぽいところもあるけれど、全部含めて好きだ。
だから、この時の私は、気の合う友達に恵まれて、とても幸せだった。
1月3日
私はミストが一体どこからケーキやお菓子を持ってくるのか少し不思議だ。
ミストは、戸棚や部屋の扉を何処か別の場所とつなげて食べ物だとかお菓子だとか果物だとか、普段は禁止されていてめったに食べられないものを持ってくる。
この世界、この宇宙のどこかと時間と空間をつなげて、遠くにあるものを手元に引き寄せたり、逆にこちらから向こうに物や人を送れる能力。
私たちの使う魔法、物理現象に干渉する力は、物体の分子の運動や状態を把握し、それに干渉・制御することでさまざまな事象を任意に発生させることができる。
でもそれは、自分の知覚する範囲で分子や電子の運動を認識できるからであって、たとえば念動系は自分の視界内の分子にしか干渉することはできないけれど、
感応系は壁の向こうや地理的に遠く離れた場所にまで知覚するセンサーの範囲を広げられるし、生体系は生物の体内に干渉することができる。
(ただ、その代わりに生物組織以外のものには干渉できない。 生物限定で干渉することに特化した能力なのだ)
しかし、時間や空間といった物にまで認識能力を拡大し、干渉を行うことができる時空系の能力というのは、かなり異質な力だといえる。
量子系のように可能性事象や作用量子定数に干渉し、「確立の変動」を行う能力とも異なる。
私は、ずっと以前司教様に時空系の能力を使えるようになるにはどうしたら良いのか、と尋ねたことがある。
時間と空間にに干渉するほどの能力を得るには、この宇宙全体、あるいは宇宙の外にまで認識能力を拡大しなければならない…司教様はそう言っていた。
そして、時空系の能力はその原理が不明確な部分が多い。 それは、もしかしたらこの宇宙全体の運動に干渉を行える能力…なのかもしれないと、付け加えた。
私はそれを聞いて、少なからず落胆した。
その質問をしたのは修道会に来てからまもなくの頃だったけど、私自身の能力の限界というものは既に自覚していた。
だから、私はミストみたいに自分の部屋の扉を何処か遠くと繋げたりすることはできないのだと、理解してしまった。
もし、私にミストの様な力があったら、部屋の扉と生まれ故郷の村をつなげて、あの子に会いに行けるのに。
その時の私は、それが残念で、心残りで、悲しくなって少し泣いた。
私がミストの顔を見つめると、ミストは視線に気づいて「食べないの?」という視線と表情を私に投げかけながら自分のケーキを手づかみて口に入れる。
ミストは、口が利けない。 言葉を話すことができないだけでなく、声が出せない。
失語症、というのだそうだ。
私たち魔女・魔法使いの多くは、魔法が使えると周囲の人間に知られたときから嫌悪と侮蔑と畏怖の対象として見られる。
私が両親や大人たちに言われたりされたりした事は、まだ軽いほうらしい。
もっともっと酷い事を、それこそ自殺してしまいたくなるような事をされた子も、修道会には大勢居る…
ミストも、そんな子の一人なのだ。 なのに、ミストは口が利けないということ意外は、普通の女の子と変わらない。
よく笑って、よくはしゃいで、よく食べて、私たちと、こうして一緒に居る。
スケルグはミストと違ってあまり笑わない子だ。 いつもすましたような表情をしている。
でも、おしゃべりが好きで自分の得意分野の話なら何時間でも話している。
私も、スケルグと量子論の話をするのは好きだ。
時空系が使えないならせめて量子系を、と思ってスケルグに教えてもらったのが始まりだけれど、未だに私は初歩の確立変動すら使いこなせずにいる。
スケルグは、得意不得意があるのだから、といいつつ理論を教えてくれる。
スルーズは勝手に人の頭の中を覗くというちょっとデリカシーの無いところもあるけれども、悪気があってやっているわけじゃないし、本人はお人好しでいい子だ。
めったに怒らないし、喧嘩もしない。 温和だし、控えめだし、あと少し子供っぽいところもあるけれど、全部含めて好きだ。
だから、この時の私は、気の合う友達に恵まれて、とても幸せだった。