ぼくを押し倒したのは侍女のようだった。殺気に満ちた目でぼくをにらみつけている。髪の毛は金髪でやや茶色かかっている。そして彼女の手には護身用であろう。短剣が握られ、その切っ先はぼくの首のすぐ近くだった。
「よせ!話せばわかる!」
思わずぼくは大声で叫んだ。だが、侍女はぼくの言葉を全く意に返さなかった。
「だまれ!男子禁制である侍女の部屋に堂々と忍び込むとは!」
男子禁制?そんな話聞いてないぞ!思わず叫びそうになったが、彼女が手に力を入れたため言葉にすることができなかった。剣の切っ先が徐々にぼくに近づいてくる。
「やめてくれ!危ない!刺さったら死ぬぞ!刺さったらどうすんだ!」
もちろん、向こうは刺す気満々なのだ。こんなことを言っても通用するはずがないのだが、じたばたしながら思わず叫んだ。そこへ大川さんが慌ててやってきた。
「立花!おまえ、あれほど言ったのに・・・!」
そう言って大川さんはぼくを刺そうとする侍女に王国から配布された許可証を見せた。その瞬間、彼女の手がゆるんだ。そう言えば、工事にあたって王国側から何か許可証を渡されて常時それを携帯するように言われていたことを思い出した。
「た、たすかった・・・・」
「俺たちは、おたくの王様に頼まれてこの王宮にガスの配管を敷いてんだ。ちょっとおじゃまするよ」
何事もなかったかのように大川さんは近くにあったガスコンロの火をつけた。瞬時についた火を見て、ぼくに馬乗りになったままの侍女はびくっとした。
「一瞬でこんな大きな火をつけるなんて、しかもこんな青い火見たことない・・・」
ぼくを拘束することをすっかり忘れてしまった彼女から解放されたぼくが彼女の疑問に答えた。
「こいつは外にある筒の中に詰まった空気を燃やしてるから青いんだ。ちゃんと使えば危なくないから心配いらないよ」
「では、あなたがたは魔法使いか何かでしょうか?」
金髪の侍女はぼくたちがこの国に来てもう30回以上はされた質問を再び繰り返した。
「立花、おまえが説明しろ。ここは耐圧検査も終わってるからな。今日の時点で供給開始。明日は玉座の間と王の私室にガスエアコンを設置するぞ」
大川さんは伝票に必要事項を書き込むとさっさと引き上げていった。
「よせ!話せばわかる!」
思わずぼくは大声で叫んだ。だが、侍女はぼくの言葉を全く意に返さなかった。
「だまれ!男子禁制である侍女の部屋に堂々と忍び込むとは!」
男子禁制?そんな話聞いてないぞ!思わず叫びそうになったが、彼女が手に力を入れたため言葉にすることができなかった。剣の切っ先が徐々にぼくに近づいてくる。
「やめてくれ!危ない!刺さったら死ぬぞ!刺さったらどうすんだ!」
もちろん、向こうは刺す気満々なのだ。こんなことを言っても通用するはずがないのだが、じたばたしながら思わず叫んだ。そこへ大川さんが慌ててやってきた。
「立花!おまえ、あれほど言ったのに・・・!」
そう言って大川さんはぼくを刺そうとする侍女に王国から配布された許可証を見せた。その瞬間、彼女の手がゆるんだ。そう言えば、工事にあたって王国側から何か許可証を渡されて常時それを携帯するように言われていたことを思い出した。
「た、たすかった・・・・」
「俺たちは、おたくの王様に頼まれてこの王宮にガスの配管を敷いてんだ。ちょっとおじゃまするよ」
何事もなかったかのように大川さんは近くにあったガスコンロの火をつけた。瞬時についた火を見て、ぼくに馬乗りになったままの侍女はびくっとした。
「一瞬でこんな大きな火をつけるなんて、しかもこんな青い火見たことない・・・」
ぼくを拘束することをすっかり忘れてしまった彼女から解放されたぼくが彼女の疑問に答えた。
「こいつは外にある筒の中に詰まった空気を燃やしてるから青いんだ。ちゃんと使えば危なくないから心配いらないよ」
「では、あなたがたは魔法使いか何かでしょうか?」
金髪の侍女はぼくたちがこの国に来てもう30回以上はされた質問を再び繰り返した。
「立花、おまえが説明しろ。ここは耐圧検査も終わってるからな。今日の時点で供給開始。明日は玉座の間と王の私室にガスエアコンを設置するぞ」
大川さんは伝票に必要事項を書き込むとさっさと引き上げていった。
夜、城下町からだいぶ離れた森に作られた野球場3個分ほどの駐屯地。我々ガス業者の施設や充填所。携帯電話の基地局、海底ケーブルから引き込まれた電気の 変電所。自衛隊の補給所などだ。すぐ近くには大型船も接岸できる港が建設中だ。ここでは毎晩パーティが繰り広げられる。駐屯している自衛隊のヘリが撃ちま くる30ミリ機関砲の花火大会だ。森にはゴブリンだとかいう怪物が住んでいて、毎晩のように駐屯地を襲ってくる。そして、もう1つはぼくたち駐在員や非番 の自衛官が行うパーティだ。駐屯地の酒場「ミスティ」には多くの日本人が集まっていた。日本人向けにこの酒場は建設されていて、ただでさえ娯楽の少ない 我々は仕事が終わればここで飲むくらいしかすることがなかったのだ。ここには我々業者の他に、派遣されている自衛隊や役人も多く訪れる。あの侍女、名前を リナロというらしいが。彼女に義務づけられた周知を終えたぼくは、疲れ果ててこの酒場の扉を開けた。
「よお。立花!」
大川さんがすでに ご機嫌になっている。こんなマイペースな技術屋とこの先うまくやっていけるのか心配だ。というのも、工事の終わった後も我が社はぼくと大川さんに管理を任 せるというのだ。大川さんは保安業務。ぼくは顧客管理。設備工事が終わってもガスを知らないこの国の人々が何をしでかすかわからない。そのための保安要員 も我が社では、ぼくと大川さんということになっている。
「明日はガスエアコン設置だ。設備も何もぜーんぶ、定価で申請するからな」
我々が請け負ったのはアルドラ王国に指定された施設にガス設備を設置することだ。その費用は日本政府持ち。当然、ガスコンロから給湯器、配管にいたるまで請求することになるが、それらは一切定価で請求することになる。
「どうせ、ガス代もこっちの言い値なんだからサービスしてもいいんじゃないっすか?」
とりあえず、ビールを注文したぼくは大川さんに言った。
「バカ野郎。稼げるときに稼ぐんだよ。どのみち、指定の施設が終われば後は自由競争だ。そのために資金はあった方がいいからな」
そう。指定された施設が終わればあとの市内の一般家庭への営業は本土と変わらないルールだ。熾烈な顧客争奪戦が繰り広げられることは予想に安い。
「しかしこんな中世の国でガスが普及しますかね」
「この国の王のマキシム6世が直々にこの事業を推進していると言うぞ。可能性はある」
アルドラ王国国王、マキシム6世は自衛官の使う100円ライターを見て、ガス事業の誘致を決めたらしい。ちなみに、100円ライターに入っているガスも、液化石油ガス=つまりLPガスのたぐいだ。
「しかし、あの侍女にコンロの原理を説明するだけでも一苦労でしたよ。電池式の発火装置を理解してもらえなくてね・・・・」
ぼくはジョッキをかたむけながらぼやいた。ガスはもちろん、電気の構造も知らない。しかもただの侍女にこれらを説明するのは予想以上の労力が必要だった。
「そんなことでどうする?顧客管理には顧客への周知も含まれるんだぞ。」
その言葉にぼくは思わずテーブルに突っ伏した。元の世界でも説明するのにかなりの苦労が必要だったのだ。ましてや、ニュートンもワットも何も知らない人々にガスの原理を教えることを考えると、自分の業務ながら胃に穴が開きそうだったのだ。
「しかし、幸いなのは恐ろしく古いが水道設備がこの国にあることだな」
大川さんがジョッキのビールを飲み干しながら言った。確かに、市内には雨といの要領で水道が走り、高台にある王宮にも水車で水が供給されている。おかげでシャワー設備など、水道とリンクした設備にさほど時間をとられずにすんだ。
「ほどほどにしとけ。明日も早いぞ!」
飲むだけ飲んで大川さんは勘定をママさんに済ませて帰っていった。ホントにホントにマイペースすぎる。ぼくはジョッキに残ったビールを一気にあおった。
「よお。立花!」
大川さんがすでに ご機嫌になっている。こんなマイペースな技術屋とこの先うまくやっていけるのか心配だ。というのも、工事の終わった後も我が社はぼくと大川さんに管理を任 せるというのだ。大川さんは保安業務。ぼくは顧客管理。設備工事が終わってもガスを知らないこの国の人々が何をしでかすかわからない。そのための保安要員 も我が社では、ぼくと大川さんということになっている。
「明日はガスエアコン設置だ。設備も何もぜーんぶ、定価で申請するからな」
我々が請け負ったのはアルドラ王国に指定された施設にガス設備を設置することだ。その費用は日本政府持ち。当然、ガスコンロから給湯器、配管にいたるまで請求することになるが、それらは一切定価で請求することになる。
「どうせ、ガス代もこっちの言い値なんだからサービスしてもいいんじゃないっすか?」
とりあえず、ビールを注文したぼくは大川さんに言った。
「バカ野郎。稼げるときに稼ぐんだよ。どのみち、指定の施設が終われば後は自由競争だ。そのために資金はあった方がいいからな」
そう。指定された施設が終わればあとの市内の一般家庭への営業は本土と変わらないルールだ。熾烈な顧客争奪戦が繰り広げられることは予想に安い。
「しかしこんな中世の国でガスが普及しますかね」
「この国の王のマキシム6世が直々にこの事業を推進していると言うぞ。可能性はある」
アルドラ王国国王、マキシム6世は自衛官の使う100円ライターを見て、ガス事業の誘致を決めたらしい。ちなみに、100円ライターに入っているガスも、液化石油ガス=つまりLPガスのたぐいだ。
「しかし、あの侍女にコンロの原理を説明するだけでも一苦労でしたよ。電池式の発火装置を理解してもらえなくてね・・・・」
ぼくはジョッキをかたむけながらぼやいた。ガスはもちろん、電気の構造も知らない。しかもただの侍女にこれらを説明するのは予想以上の労力が必要だった。
「そんなことでどうする?顧客管理には顧客への周知も含まれるんだぞ。」
その言葉にぼくは思わずテーブルに突っ伏した。元の世界でも説明するのにかなりの苦労が必要だったのだ。ましてや、ニュートンもワットも何も知らない人々にガスの原理を教えることを考えると、自分の業務ながら胃に穴が開きそうだったのだ。
「しかし、幸いなのは恐ろしく古いが水道設備がこの国にあることだな」
大川さんがジョッキのビールを飲み干しながら言った。確かに、市内には雨といの要領で水道が走り、高台にある王宮にも水車で水が供給されている。おかげでシャワー設備など、水道とリンクした設備にさほど時間をとられずにすんだ。
「ほどほどにしとけ。明日も早いぞ!」
飲むだけ飲んで大川さんは勘定をママさんに済ませて帰っていった。ホントにホントにマイペースすぎる。ぼくはジョッキに残ったビールを一気にあおった。
2週間後、ぼくは再び王宮にいた。王宮に設置された器具の1つに不具合が生じたという。おおかた火をつけっぱなしにしてマイコンメーターが働いたんだろう。 場所は重臣が詰める控え室の隣にある衛兵の休憩室だった。やはり、中庭に面していて、ガスボンベもそこに設置してある。ぼくはそのメーターを見て愕然とし た。
「圧力低下遮断?」
つまりガス切れということだ。まさか。そう思ってボンベを見たときだった。
「あっ」
ボンベか ら調整機につながる高圧ホースが切られている。ボンベ内のガスは高圧で液化している。それを調整機を通すことで低圧ガスに変えて使用する。その途中が切ら れているのだ。相当な量のガスが漏れたことになる。遅いと思いながらもボンベのバルブを閉鎖した。爆発が起こらなかったのが幸いだ。急いで車に戻って予備 の高圧ホースと交換した。
「しかし、ホースが自然に切れるなんてありえないぞ・・・」
そう思ってボンベ周辺を調べてみた。ボンベに無数の傷が付いている。どうやら何かで叩いたようだ。配管にも数カ所、似たような傷があった。まちがいない。ホースは剣か何かで切られたのだ。意図的に。
「タチバナ!なにやってんの?」
不意に声をかけられて驚いて振り返ると、そこにはあまり会いたくない人物がにこやかに立っていた。
「なに?どうして後ずさってんの?」
茶色かかった髪の毛に今日は赤のワンピースともなんともつかない服を着たリナロだった。顔はかわいいが、油断できない。もう刺されそうになるのはごめんだった。そう思ったぼくの心を読んだのか彼女はけらけらと笑った。
「刺しはしないわよ。で、あなたとオオカワが仕掛けた魔法の様子を見に来たの?」
魔法じゃないって何度も言ったんだが、彼女はやっぱりわかっていなかった。まあ、魔法と呼ぼうが魔術と呼ぼうが、正しく使ってくれればどうでもいい話だが・・・・。
「ああ、ちょっとね。こいつを見てくれないか?」
ぼくはちょうどよかったと思い、ボンベや配管につけられた傷をリナロに見せてみた。彼女は恐れることなく設備に近寄ってきた。どこでもそうなんだろうが、 ガス設備を見るこの国の人のリアクションは大きく分けて3パターンだ。極度に恐れて近寄りもしないタイプ。リナロのように興味津々なタイプ。そしてやっか いなのが、既存の価値観からこれを暗黒魔法だの、悪魔の所行だの決めつけてしまうタイプだ。
「ロングソードっぽいわね。すごい・・・なんでこんなに冷たいの?」
彼女はボンベを触りながら驚いている。当然、高圧で液化されたガスは低温だ。ふと、ぼくはボンベの近くに何か光るモノを見つけて拾い上げた。金のメダルかボタンのようだ。紋章が刻まれている。それを見たリナロが顔を真っ青にした。
「どうした?」
「あなたたち、やばいわよ。これは神聖騎士団のマント留めよ!」
神聖騎士団、戦乱のないこの国では騎士も貴族も政治的抗争に明け暮れているらしいが、この連中だけは特別だった。王の直轄でなく、神の直轄の騎士団という わけだ。竜の化身であり、アルドラ王家に王権を授けたとされる神をあがめるアルドラ正教会に属する彼らは、王国の中でも相当な発言力を持つ。その隊長、ア ストラーダは名前からわかるとおり、アルドラ正教の聖職者でもある。
「あなたたち、この国のことを何も知らないで来てしまったようね。」
「圧力低下遮断?」
つまりガス切れということだ。まさか。そう思ってボンベを見たときだった。
「あっ」
ボンベか ら調整機につながる高圧ホースが切られている。ボンベ内のガスは高圧で液化している。それを調整機を通すことで低圧ガスに変えて使用する。その途中が切ら れているのだ。相当な量のガスが漏れたことになる。遅いと思いながらもボンベのバルブを閉鎖した。爆発が起こらなかったのが幸いだ。急いで車に戻って予備 の高圧ホースと交換した。
「しかし、ホースが自然に切れるなんてありえないぞ・・・」
そう思ってボンベ周辺を調べてみた。ボンベに無数の傷が付いている。どうやら何かで叩いたようだ。配管にも数カ所、似たような傷があった。まちがいない。ホースは剣か何かで切られたのだ。意図的に。
「タチバナ!なにやってんの?」
不意に声をかけられて驚いて振り返ると、そこにはあまり会いたくない人物がにこやかに立っていた。
「なに?どうして後ずさってんの?」
茶色かかった髪の毛に今日は赤のワンピースともなんともつかない服を着たリナロだった。顔はかわいいが、油断できない。もう刺されそうになるのはごめんだった。そう思ったぼくの心を読んだのか彼女はけらけらと笑った。
「刺しはしないわよ。で、あなたとオオカワが仕掛けた魔法の様子を見に来たの?」
魔法じゃないって何度も言ったんだが、彼女はやっぱりわかっていなかった。まあ、魔法と呼ぼうが魔術と呼ぼうが、正しく使ってくれればどうでもいい話だが・・・・。
「ああ、ちょっとね。こいつを見てくれないか?」
ぼくはちょうどよかったと思い、ボンベや配管につけられた傷をリナロに見せてみた。彼女は恐れることなく設備に近寄ってきた。どこでもそうなんだろうが、 ガス設備を見るこの国の人のリアクションは大きく分けて3パターンだ。極度に恐れて近寄りもしないタイプ。リナロのように興味津々なタイプ。そしてやっか いなのが、既存の価値観からこれを暗黒魔法だの、悪魔の所行だの決めつけてしまうタイプだ。
「ロングソードっぽいわね。すごい・・・なんでこんなに冷たいの?」
彼女はボンベを触りながら驚いている。当然、高圧で液化されたガスは低温だ。ふと、ぼくはボンベの近くに何か光るモノを見つけて拾い上げた。金のメダルかボタンのようだ。紋章が刻まれている。それを見たリナロが顔を真っ青にした。
「どうした?」
「あなたたち、やばいわよ。これは神聖騎士団のマント留めよ!」
神聖騎士団、戦乱のないこの国では騎士も貴族も政治的抗争に明け暮れているらしいが、この連中だけは特別だった。王の直轄でなく、神の直轄の騎士団という わけだ。竜の化身であり、アルドラ王家に王権を授けたとされる神をあがめるアルドラ正教会に属する彼らは、王国の中でも相当な発言力を持つ。その隊長、ア ストラーダは名前からわかるとおり、アルドラ正教の聖職者でもある。
「あなたたち、この国のことを何も知らないで来てしまったようね。」
込み入った話になりそうなのでとりあえず、リナロを軽トラックに乗せて王宮から外に出た。その間、彼女はこの国の現状を話してくれた。その内容は政府の説明会でも聞かなかったような話ばっかりで驚きの連続だった。
この国でもっとも発言力があるのは国王であるマキシム6世ではない。神聖騎士団、ひいてはアストラーダであるようだ。王宮ではマキシム6世の改革派、これ は主に科学者や文官が多いそうだ。そしてアストラーダの保守派、騎士や魔導師、大貴族が多いらしい。この2派に大きく別れている。そのほかには日和見派が 数派あり、互いに機会をうかがっているという。長い間戦争がなければ、それはそれでいろいろと大変らしい。
「で、そのこととぼくたちがやばいこととどう関係があるんだい?」
肝心なのはそこ。ぼくは街から離れた林道で車を止めて彼女に聞いた。
「アストラーダの一派は新しいモノは認めようとしないわ。新しいモノを受け入れることで自分たちの特権が侵されることを嫌ってるの。ましてや、あなたたちはこの世界にはいなかった人たち。さっきのは神聖騎士団の嫌がらせだわ」
なるほど、それで合点がいった。ガス設備を壊そうとやたらめったら剣で叩くうちに、ホースを切ってしまったのだろう。犯人の驚く様が目に浮かんだ。ぼくも 実際に見たことないが、ものすごい音をたててガスが噴出したに違いない。それでびっくりして大事なマント留めを落としていったわけだ。
「しかしいったいぼくたちはどうすりゃいいんだ?こっちは王様から請け負った仕事だからなぁ。こう設備を壊されちゃたまんないし、事故が起これば大変な惨事になる」
ぼくの言葉にリナロは何かひらめいたようだ。助手席でぽんと手を叩いた。
「あなたたち、マガンダ侍従にまだご挨拶してないでしょ?彼が王宮の一切を仕切っているから、彼に挨拶しとけば大丈夫よ」
「マガンダ侍従ってあのでっぷり太ったおっさんだろ?工事に入る前に挨拶したさ。」
「違うの、彼は金と銀が好きなの。彼は改革派でも保守派でもない。日和見なの。何かもめ事が起きると、贈り物の多い方に味方するわ」
それってつまり、賄賂じゃないか・・・・。ぼくはマガンダ侍従への「ご挨拶」が果たして接待交際費で通るのか考えた。
「とにかく、タチバナ!これからは王宮にはあなたの魔法をちょくちょく点検に来ることを勧めるわ。それと、侍従にご挨拶する事ね。そうしないと、魔法どころかあなたの命も危険になるかもしれないわよ。」
彼女との話でわかったのはこの国の複雑なお家事情だけだった。ぼくは今後の仕事を思うと大きなため息をついた。
「わかったよ。時間をとらせて悪かったね。城まで送ろう。」
そう言ってサイドブレーキを降ろしたぼくにリナロが目を輝かせながらいった。
「ねえ、今度は後ろに乗せてよ!」
「やめといたほうがいい。後ろには先客がいるからな」
軽トラックの荷台には2本の20キロボンベが積まれている。実際には、ボンベ自体が約18キロ。それに充填されたガスが17,8キロ(ガスは満タンまで詰 めない。熱膨張の関係で約80%までしか充填しない)。合計でおよそ40キロになる。不整地の多いこの国の道路で後ろにあまり重い荷物は積みたくなかった のだ。
「ちぇ、ケチ・・・、いたっっ!」
がたがた道を走りながらリナロがぼやく。舌を噛んだらしい。涙目になっている。ぼくは彼女を見て笑いながら言った。
「今度暇なときに乗せてやるよ」
この国でもっとも発言力があるのは国王であるマキシム6世ではない。神聖騎士団、ひいてはアストラーダであるようだ。王宮ではマキシム6世の改革派、これ は主に科学者や文官が多いそうだ。そしてアストラーダの保守派、騎士や魔導師、大貴族が多いらしい。この2派に大きく別れている。そのほかには日和見派が 数派あり、互いに機会をうかがっているという。長い間戦争がなければ、それはそれでいろいろと大変らしい。
「で、そのこととぼくたちがやばいこととどう関係があるんだい?」
肝心なのはそこ。ぼくは街から離れた林道で車を止めて彼女に聞いた。
「アストラーダの一派は新しいモノは認めようとしないわ。新しいモノを受け入れることで自分たちの特権が侵されることを嫌ってるの。ましてや、あなたたちはこの世界にはいなかった人たち。さっきのは神聖騎士団の嫌がらせだわ」
なるほど、それで合点がいった。ガス設備を壊そうとやたらめったら剣で叩くうちに、ホースを切ってしまったのだろう。犯人の驚く様が目に浮かんだ。ぼくも 実際に見たことないが、ものすごい音をたててガスが噴出したに違いない。それでびっくりして大事なマント留めを落としていったわけだ。
「しかしいったいぼくたちはどうすりゃいいんだ?こっちは王様から請け負った仕事だからなぁ。こう設備を壊されちゃたまんないし、事故が起これば大変な惨事になる」
ぼくの言葉にリナロは何かひらめいたようだ。助手席でぽんと手を叩いた。
「あなたたち、マガンダ侍従にまだご挨拶してないでしょ?彼が王宮の一切を仕切っているから、彼に挨拶しとけば大丈夫よ」
「マガンダ侍従ってあのでっぷり太ったおっさんだろ?工事に入る前に挨拶したさ。」
「違うの、彼は金と銀が好きなの。彼は改革派でも保守派でもない。日和見なの。何かもめ事が起きると、贈り物の多い方に味方するわ」
それってつまり、賄賂じゃないか・・・・。ぼくはマガンダ侍従への「ご挨拶」が果たして接待交際費で通るのか考えた。
「とにかく、タチバナ!これからは王宮にはあなたの魔法をちょくちょく点検に来ることを勧めるわ。それと、侍従にご挨拶する事ね。そうしないと、魔法どころかあなたの命も危険になるかもしれないわよ。」
彼女との話でわかったのはこの国の複雑なお家事情だけだった。ぼくは今後の仕事を思うと大きなため息をついた。
「わかったよ。時間をとらせて悪かったね。城まで送ろう。」
そう言ってサイドブレーキを降ろしたぼくにリナロが目を輝かせながらいった。
「ねえ、今度は後ろに乗せてよ!」
「やめといたほうがいい。後ろには先客がいるからな」
軽トラックの荷台には2本の20キロボンベが積まれている。実際には、ボンベ自体が約18キロ。それに充填されたガスが17,8キロ(ガスは満タンまで詰 めない。熱膨張の関係で約80%までしか充填しない)。合計でおよそ40キロになる。不整地の多いこの国の道路で後ろにあまり重い荷物は積みたくなかった のだ。
「ちぇ、ケチ・・・、いたっっ!」
がたがた道を走りながらリナロがぼやく。舌を噛んだらしい。涙目になっている。ぼくは彼女を見て笑いながら言った。
「今度暇なときに乗せてやるよ」