自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

10 第10話:ハードミッション(後編)

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2004年5月22日19時48分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 15階客室
 客室の洗面所で村山は足の傷を手当していた。いくら革靴でも窓ガラスを蹴り破ったのだ。無傷ですむはずがなかった。
「いててててて!!」
 ドローテアに足を濡れたタオルで拭ってもらう。小さな破片は全部取ったが、10カ所以上切り傷があった。幸い、利き足の右足だけだったがそれにしても我ながら無茶をしたものだと思った。
「まったく、無茶なことを・・・」
 ドローテアが苦笑しながら洗面台に座る村山の足に、タオルで作った包帯を巻いてやりながら言った。照れ隠しにタバコに火をつける。
「だから、びっくりさせるお詫びはしただろ?」
 屋上からダイブする直前、村山の奇襲攻撃のようなキスを思い出して大神官は赤面して、思わず結びかけていた包帯をぎゅっとしぼった。
「ぎゃ、ぎゃああああ!」
 思わずタバコを床に落としてしまった。それに気がついたドローテアが慌ててそれを拾おうと身をかがめた。それと同時に村山も身をかがめる。2人の頭が見事にぶつかった。
「いてっ!」
「いたっ!」
 思わず顔を見合わせた2人は、しばらく無言で見つめ合っていたが笑いをこらえきれなくなった。ドローテアの普段はなかなか見せない屈託のない笑顔だった。
「ほほお・・・。何か楽しそうじゃないか・・・」
 いつの間にか部屋に入ってきたガルシアが恨めしそうな顔をして立っている。彼は村山に詰め寄ると早口の日本語で叫んだ。
「村山ぁ!貴様、抜け駆けは許さんぞぉ!彼女のハートを射止めるのはこの私だ!こんな非常事態でドローテアの心を奪おうとは、卑怯だぞ!」
「卑怯も何も・・・。俺はただの彼女の護衛だ。」
 その言葉にガルシアはドローテアを振り返った。すがるような視線を投げかけている。
「本当なのかい?」
「あ、ああ。そういう「契約」ということになっている・・・」
 それを聞いてほっとしたガルシアはようやく本題に入った。思えば、こんなことでよく海兵隊の大尉まで昇進できたものだと村山は思ったが、口に出すことはしなかった。
「で、アンテナはどうだった?」
「手当たり次第ぶっ壊したよ。そしたらすぐに連中が来たよ」
 ガルシアも、村山の推測には賛成だった。彼らの作戦に支障が出たからこそ、迅速に屋上にやってきたのだ。つまりは、村山とドローテアの壊したアンテナの中に彼らが携帯や無線の傍受に使っていたアンテナが混じっていたことの証拠になる。
「屋上を確保できなかった。海兵隊が直接ヘリボーンするのは難しいかもな・・・・」
 村山の言葉にガルシアはにやりとした。
「まさか、君は海兵隊の強襲部隊が輸送ヘリだけで来ると思っているのか?給油を繰り返しながら、イラクに移送予定だった陸軍のアパッチを随行させている。」
 村山はそれを聞いて安心した。あとは、日本側の突入を同時に行えば、一気にホテルを制圧できる。だが、重岡と美雪の携帯は通じない。丸山たちの番号など知る由もない。ためしに尾上にかけてみる。
「む、村山さん?無事なんですか?」
 すぐに電話に出た尾上が開口一番言った。
「なんとか無事だよ・・・」
「いえ、村山さんじゃなくて、ドローテア様ですよ!」
 目の前にいたら絶対殴っていたであろう尾上の言葉をどうにか無視して、村山はさらに質問した。
「連隊長のところへは行けないか?」
「それが、変な市議会議員が来て一般職までシャットアウトしちゃったんですよ」

2004年5月22日20時02分 北九州市小倉北区浅野 JR小倉駅 警備本部
 八方ふさがりの警備本部に突然訪問者が訪れた。丸山はその人物の顔を知っていた。
「こ、これは、田所先生!」
 小倉南区選出の市議会議員である田所だった。年齢は29歳。アメリカ留学後、松下政経塾のエリートとして与党から立候補した若手のホープだ。
「手こずっているようですな・・・」
 茶髪にスーツ、その辺の若造にしか見えない議員は本部を一通り見回した。同じ保守系でも浅川とは一線を画す若手勢力のリーダーに、丸山も対応を考えていた。それを見透かすように田所は言った。
「まさか、テロリスト相手に内部の人間と連絡が取れないと言って手をこまねいているわけではないでしょうな?さきほど、ラジオでSATを投入して失敗したとか・・・。岩村本部長、内部の状況を説明してください。」
 当然といえば当然の次元だが、今まで現場はまる投げだった浅川とは全然違う対応に、丸山も岩村も目を白黒させた。
「情けない・・・。田島さん、ホテルにいると思われる警察、自衛隊関係者の一覧を」
 ため息をついて田所は田島から名簿を受け取った。そしてノートパソコンにとりつくとキーボードを叩いてメールを一斉送信した。
「浅川先生が不在の今、自衛隊のシビリアンコントロールを担当する人間がいない以上。ぼくが指揮を執ります。他の議員先生の内諾は得ています。いいですね?」
 パソコンから向き直って田所は丸山たちに宣言した。他の議員はこんなやっかいな案件を引き受けることはしなかったのだ。それで巡り巡って彼のところまで指揮権が流れてきたのだ。

同時刻 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 15階客室
 村山の携帯が鳴った。彼がそれを取ると、メールの新着を告げるメッセージが表示されている。
「なんだこりゃ?63、32、51、75、55、12、41、91、21、12、45、34、85・・・?」
 長文の数字羅列だけだった。ガルシアが携帯をのぞき込んでいるがわかるはずもない。
「文字化けじゃないのか・・・」
 そう言うガルシアを村山は手で制した。いつになく真剣な顔で画面を見ている。いきなり、ドローテアに振り返った。その真剣さに思わず彼女もひるむくらいだった。
「ドローテア、すまん。タバコを取ってくれ」
「ん?これだな・・・」
 真剣な村山の表情に思わず、彼女は言うとおりに洗面台にあったタバコの箱を渡した。彼は「悪い」と言ってタバコに火をつけて考え込んだ。タバコを半分ほど吸うと、おもむろに村山はメールに返信した。
「村山殿・・・いったい・・・」
 不思議がるドローテアとガルシアに村山は笑いながらタバコを吸って言った。
「君たちが知らなくてもしょうがない。今のは10年ほど前にはやったポケベルの日本語入力だ。たとえば、11は、あ。32は、し。この組み合わせだよ。で、今のは「無事な者いたら回答せよ」だ・・・」
  アンテナは村山とドローテアが壊してしまったが、それでも敵に傍受されていることを前提にした暗号だ。丸山や田島、岩村の発想ではできまい。どのみち、こ の暗号は解かれてしまうだろうが、解かれない間にやりとりする情報は非常に有益だ。もっとも、アンテナをすべて壊してしまったので敵にその方法はないだろ うが。村山はタバコの煙をおいしそうに吹きだした。
「ラッキーなことに、警備本部に誰か切れ者が来たようだ・・・」

2004年5月22日20時09分 北九州市小倉北区浅野 JR小倉駅 警備本部
 村山から返信を受け取った田所は長文の数字を丁寧にひらがなになおしていた。彼もまたポケットベル時代にこの法則にはなじんでいる。
「ほお、村山という男が、大神官と在日米軍の将校と一緒だそうだ。彼らがアンテナを壊してテロリストの通信傍受の手段を奪ったそうだ・・・。それに・・、在日米軍の強襲部隊も午後9時半頃到着の見込みか・・」
 本部でずっと座っていたワドル大佐ははっとした。きっとガルシアが勝手に要請したに違いない。だが、遅かれ早かれ彼もそれは命令しているであろうことなので、さして気にならなかった。だが、この面々は違っていた。
「村山ですとぉ?」
「在日米軍ですって?」
「県警のメンツはどうなるんだぁ!」
 丸山、田島、岩村は一様に慌てていた。それを見たワドル大佐が何か言おうとしたが、田所が流ちょうな英語で「ちょっと待ってくれ」というのを聞いて踏みとどまった。彼は机を力一杯叩いた。
「いいかげんにしたまえ!君たちはいつまで古い慣習にかじりつく気だ!この国はもう、我々のいた世界にいるのではない!我々はガシリアとの協力なしにはやってはいけないのだ!それがわかっていないのか?」
 議員とはいえ、若造にここまで言われては丸山も黙っていられなかった。毅然として彼に反論する。
「それは重々承知しております。だからこそ、慎重な判断を検討しているんです」
「甘 い!相手は今までだんまりを決め込んできた学生連中。それにガシリアの騎士だぞ!この連中が結託してこんな大事件を起こす背景を考えたまえ!ここ最近で急 速に接近している我が国とガシリアの関係をよく思わない連中の陰謀とすぐにわかるだろう!その最重要容疑者はドボレクに決まっているではないか!」
 若造へのささやかな反論もばっさりと切り伏せられてしまった3人に声は出ない。田所はめがねの位置を修正してさらに言った。
「国際法も、日本国憲法も発する側と受け取る側がいて初めて成立するんだ。浅川先生はその辺がわかっておられない。それにその腰巾着の君たちも!その考えの硬直が、あのSAT隊員の犠牲を産んだと反省したまえ!」
 茶髪の議員は一気にまくし立てて深呼吸すると、穏やかな声で言った。
「在日米軍と共同で一気に突入するんだ。村山君たちにもその支援をしてもらおう」
 田所修平。アメリカ留学中に危機管理について学んだという。なぜ、そんな彼が市議会議員になったのか。それは多くの人々の謎だった。

2004年5月22日20時22分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 3階レストラン
  人質たちが監禁されていたホールは出入り口が3カ所しかない。客用の出入り口とホールの奥にある従業員通路が2カ所だけだ。守るにたやすい。その中でも、 エントランスに向かった客用の入り口は最も重点的に守られていた。応急手当をしてもらったバルクマンも、トカレフを持って警官たちと一緒にバリケードにと りついている。
「君、休んだ方がいい・・・」
 人質の中にいた医者がバルクマンを座らせて傷の具合を診てやった。出血は収まりつつあるが、フルメタルジャケットの弾丸を至近距離で食らったのだ、内蔵の損傷が怖かった。
「先生・・・、私は大丈夫です。この御礼はきっと・・・」
 そう言うバルクマンに30代の医者は苦笑いして首を振った。
「これは君が自分で手当したことにしてくれ・・・・。その、ここに今日来ているのは、妻には内緒なんだ・・・」
 気まずそうに言う医者の後ろに、さっき彼の手当を手伝った看護師という女性が見えた。そう言うことか。バルクマンは力無く笑うと無言で頷いた。
「来るぞ!エスカレーターだ!」
 見張っていた警官が叫んだ。一斉に銃撃が始まる。先頭でエスカレーターを降りてきたテロリストが2,3人そこから転げ落ちた。残ったメンバーは手すりを遮蔽物に反撃を始めた。流れ弾がバルクマンが座る壁にも着弾した。
「美咲殿、怖くないですか?」
 美咲は耳をふさぎながらバルクマンのそばを離れない。彼の質問にも首を横に振った。
「こわくないもん!バルにいちゃんとお巡りさんと自衛隊の人が悪いヤツをすぐにやっつけてくれるんでしょ」
「立派ですよ、美咲殿」
 笑顔で彼女の頭をなでると、バルクマンは壁際の死角から突入しようした騎士を片手撃ちで撃ち倒した。

2004年5月22日20時32分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 1階正面玄関
  国道には田所の呼びかけで集まった県警と自衛隊の有志が集合していた。市議会議員の田所自ら、アメリカで撃ったというシグザウエルを持って、完全武装でみ んなを指揮している。尾上もその中に加わっていた。留守番を仰せつかったが、テレビで事態を知って、完全武装のままモノレールで駅まで乗り付けたのだ。
「み んな!聞いてくれ!この作戦はおよそ1時間後に米軍が屋上を強襲するのに呼応する!一気に3階に突入して人質を解放し、米軍と共に、上と下から4階の敵を 圧迫する!自衛隊の諸君!今日、この場では諸君をしばる理不尽な法律は忘れてもいい!そのかわり、日本国の独立と国民の生命財産を守るという、自衛隊の絶 対原則!そして、この国とこの国を慕ってくれている人々を救うことを優先させて欲しい!県警の諸君は、メンツを捨てて、自衛隊の諸君と一致団結して彼らを 支援して欲しい!ぼくも、君たちと共にホテルに突入する!」
 前代未聞の、指揮官である市議会議員も共に突入するという大作戦に、県警も自衛隊も 士気が大いにあがった。田所は時計をじっくり見ていた。20時45分きっかりに自衛隊の戦車から煙幕弾を発射するのだ。丸山も田島も、これくらいのことは 考えつくだろうに、国内だとか法律で思考が縛られている。それが田所には憎らしかった。
「時間だ・・・」
 国道に展開する74式戦車から煙幕弾が次々と発車された。田所は深呼吸すると機動隊と自衛隊の幹部に合図した。
「いくぞぉ!」
「おおお!」
 日本史上、初めてであろう現職議員が加わった突入部隊は突入を開始した。強襲あるのみ。迅速な対処で一気に王と知事を救うのだ。

2004年5月22日20時45分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 15階客室
 階下で始まった突入に3人は準備を終えた。戦車の砲撃で窓ガラスがビリビリと震えた。
「行くか・・・」
「うむ」
「ドローテア、君のそばを離れないよ」
 それぞれの言葉を発して3人は階段に向かって走り始めた。・・・・・・・が、
「いててててて!ちょっと待ってくれ!」
 村山がストップを出した。テンションのあがったガルシアとドローテアは非難するような目で彼を見る。
「足が痛いんだよ。しょうがねえだろ・・・」
 ため息をついてガルシアが村山に肩を貸した。30男の肩を抱いたガルシアが思わずぼやいた。
「今頃、ドローテアと熱い抱擁を交わしているころだったのに・・・。なんで君と・・・」

2004年5月22日20時47分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 4階メイン会場
 1階に突入部隊が突入したことを悟った田中はすぐに行動を起こした。部下に目で合図して、ヴェート王を拘束するダンカン公に歩み寄った。
「ここでは防ぎきれない。人質は浅川とヴェート王で十分だ。移動する」
 田中のいきなりの言葉に、ダンカン公と数名の騎士は驚いている。
「な、アジェンダ亡命はどうなるのですか?」
 そんな質問は田中に答えられるはずがない。とにかく、ドボレク社長と打ち合わせたとおり、状況が不利になれば屋上に向かうことだけだ。
  田中は考えていた。無茶な作戦ではあったが成功の見込みもあるはずだった。だが、上の階に残ったネズミが意外にも激しく抵抗したために、メンバーの多くを 失った。おかげで3階に配置する人員が薄くなっている。易々と突破されてしまうだろう。ため息をついてダンカン公にスコーピオンを突きつけた。
「状況が変わったのだ。早くヴェート王を連れてこい。上の階だ。」
 田中の言葉をいぶかしげに聞いていたダンカン公一行だったが、銃声を聞いてしぶしぶ動き始めた。田中は残った人質を銃で脅して動きを封じた。
「重岡二尉、どうなんの?」
 美雪が周りをきょろきょろしながら重岡に尋ねた。彼にも状況がわかるはずがない。人質はテロリストの動きにざわめくばかりだ。
「動くな!動くんじゃない!」
  テロリストと騎士は浅川とヴェート王を引き立てると、銃で脅しながらすべての扉を外から閉めてしまった。200名近い人質は密室に閉じこめられてしまった のだ。しかも、人質側から見て手前に開く扉には、ワイヤーを張った手榴弾が仕掛けられた。ご丁寧にタイマーで動くゼンマイがそのワイヤーにつながれてい る。時間が来ればゼンマイが動いてワイヤーを引っ張るのだ。こういう小道具に手が込んでいるところは学生臭さの残るテロリストどもだった。
「畜生・・・。あのネズミどもめ。殺してやる」
 田中がエレベーターに乗り込みながらつぶやいた。

2004年5月22日20時55分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 2階エントランス
 機動隊と騎士が至近距離で対峙していた。機動隊の後ろには自衛隊が銃を構えている。双方はにらみ合ったままだった。
「君たちは完全に包囲されている!武器を捨てて投降しなさい!」
 警官の最終警告にも騎士たちは剣を捨てることはなかった。機動隊の指揮官は少し後方の田所を振り返った。彼は無言で頷いた。決心した隊長は部下に大声で命令した。
「突入せよ!」
  ジェラルミンの盾と六尺棒の機動隊と、剣を持ったガシリア騎士がエントランスでぶつかった。そのまま数にモノを言わせてエスカレーターまで騎士団を押し やっていく。剣をたたき落とされ、勢いで尻餅をついた騎士は屈強な機動隊員にこれでもかと言うくらい、警棒でぶっ叩かれて降伏していった。
「この野郎!」
「うわあああ!やめてくれぇぇえ!」
 数名の機動隊にぼこぼこにされた騎士が次々と連行されていく。
「突入路を確保せよ!」
 隊長の合図を聞いて自衛隊の幹部も部下に命令した。
「第1小隊、機動隊と共に3階に突入。進路を確保せよ!」
  2名ずつ並んだ機動隊員の盾に守られた自衛官が続々とエスカレーターを登っていく。機動隊の防御力と自衛隊の戦力が見事にマッチングした連係プレーだっ た。今まで訓練もしたこともない両者が、田所の指揮でここまで機敏な行動を見せている。部隊はエスカレーターを登り切ったところで、レストランを銃撃して いるテロリストたちと遭遇した。
「散開しろ!散開だ!」
 一斉に散らばる突入部隊にテロリストは銃撃をくわえる。盾に守られた田所が3階に到達した。幹部から状況報告を受ける。
「テロリストが10名ほどいます。現在銃撃中。発砲許可を」
「許可する。殲滅せよ!」
 田所のオーダーは恐ろしく短いものだった。命令を受けた幹部は部下にフラッシュグレネードの投擲を命じた。次々と投げ込まれるグレネードにテロリストも投げ返す暇はなかった。

「うわあっぁぁぁ!」
 閃光でひるんだテロリストに遮蔽物から身を乗り出した自衛官の89式が容赦なく撃ち込まれた。全員を射殺したことを確認すると、田所は数名の部下を従えて、情報にあったレストランに近づいた。ドア付近にはバリケードが作られている。
「おい!撃つな!」
 その時、バリケードから人質になっていた警官が顔を出した。田所の合図で大勢の警官と自衛官がホールに入った。中には人質たちが手に手に奪った銃を持って各所を防衛しているのが見えた。
「負傷者はいますか?」
 田所の声に、近くにいた30代くらいの医者がおずおずと手を挙げた。
「1名います。早く救急車を・・・」
 彼が示したのはスーツ姿の金髪の若い男だった。脇腹を撃たれている。出血で意識を失っているが、その傍らには小さな女の子が心配そうに彼にくっついている。
「いったんは止血したのですが、彼が武器を持って発砲したもので。そのショックで再び出血しています」
 田所の担架を呼ぶ大声で気がついた金髪の男は、状況が理解できないようだった。そして、失神した自分にひどく腹を立てているようだった。
「ぼくは北九州市議会議員の田所修平です。突入部隊を率いてやってきました。もう大丈夫ですよ。」
 茶髪にメガネの若い議員の顔を見て若い男、バルクマンは少し怪訝そうな顔をした。数秒の沈黙で彼は何かに気がついたようで驚きの声を出した。
「あ、あなたは・・・・。サラミドの組合青年部の・・・」
 バルクマンの言葉に田所はうれしそうに、にやっと笑った。
「大神官様の従者、バルクマン様。兄がサラミドでお世話になってます・・・・」
 やはり、そうだったか・・・・。バルクマンは自分の記憶の正しさを確認できた。田所修平は、サラミドの農業組合青年部長である田所の弟だった。その弟は怪我をした騎士に笑いかけると早口で言った。
「つもる話もありますが、それはまた今度・・・。で、この女の子は?」
 エスカレーターを登って走ってくる救急隊員を横目で見ながら田所は、大神官の従者の手を握って離さない女の子を不思議に思った。日本人の女の子で、バルクマンを心配そうに見つめている。当の従者は力無く笑いながら彼に答えた。
「私の・・・、大事な「おともだち」ですよ・・・」
 バルクマンは女の子、初めて見る田所に少し人見知りする美咲の頭を優しくなでた。

2004年5月22日21時13分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 9階
 「いててて!」
 片足で器用に階段を下りる村山は9階のホールで一息ついた。それをガルシアとドローテアがイライラしながら見ている。
「しょうがないだろぉ」
 やれやれと言った感じで周囲を見回した村山の目がある一点で止まった。すごい勢いでケンケンしながらエレベーターまで飛んでいく。
「ドローテア、ガルシア大尉。聞いてみろ」
 彼が扉を顎でしゃくった。2人が耳を当てて聞いてみる。聞こえてきた音に一様に驚きの表情を浮かべた。
「エレベーターが動いている・・・」
 突入にはエレベーターを使用するとは考えにくい。だとすれば使っているのはほぼ100%テロリストどもだ。動いているのは1台だけ。大勢の人質はあきらめて必要最低限の人物だけだろう。とすれば、その人物は当然、ヴェート王と浅川知事だ。
「止まった・・・」
 聞き耳を立てるガルシアが小さい声で言う。その言葉が終わらないうちにエレベーターは再び動き出した。そして今度はすぐに止まり、そのまま動くことはなかった。
「かなり上の階だな」
 そう言って村山は携帯をとりだした。かけた相手は尾上だ。3回コールで彼は電話に出た。
「村山さん、今ちょっと忙しいんですよ」
 これから4階に突入しようとしている尾上は困ったような声を出した。だがそれに構う村山ではなかった。
「じゃあ3階は解放したんだな。だったらそのどさくさに紛れてエレベーターで9階まで上がってこい。」
「えええ?なんでですかぁ?」
「敵の親玉は上の階に逃げた。4階はもぬけの空だ。それと、会場にはおそらく罠が仕掛けてある。安易に突入するなとこっちの指揮官に言っておけ。」
 彼の言葉に対する尾上の返答はなかった。「もしもし!」と村山が怒鳴った時だった。尾上とは全く違う人物の声が受話器を通して聞こえてきた。
「あなたが村山さんですね・・・」
 尾上よりも若々しく張りのいい声だった。村山は眉間にしわを寄せながら声の人物に質問する。
「だれ?あんた」
「ぼくは北九州市議会議員の田所ともうします。突入部隊の指揮を執っている者です。あなたの話は兄から聞いてますよ。サラミドで反逆者をちょっとあくどい手でやっつけたそうですな・・・・」
 ごく簡単に田所の身の上を聞いた村山は、無理矢理、尾上を借りることを承諾させた。
「わかりました。こっちは会場に仕掛けられたトラップの撤去と残敵捜索に全力を注ぎます。ホントに尾上君だけでいいんですか?」
「屋上の連中は海兵隊のマッチョがミンチにしてくれる。後は人質をとった連中だが、これは大人数いてもあまり意味がない。俺に良い案がある」
「わかりました。ドローテア様によろしくお伝えください」
 電話を切ったのとほぼ同時に、尾上がエレベーターで到着した。彼はドローテアの姿を見るなり直立不動の姿勢で感激の涙を流した。
「ドローテア様!遅くなって申し訳ありません!・・・無事でよかったぁ・・・えぐ・・えぐ・・・」
 完全武装で大泣きするヲタクの姿にガルシアはかなり引いている。
「Oh。ドローテア、何なんだい?このヲタクは・・・」
 同じく、ちょっと引き気味のドローテアは苦笑いを浮かべて彼に答える。
「まあ、外見はちょっと・・・中身もちょっとアレだが。私の大事な部下だ・・・」

2004年5月22日21時18分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 29階展望バー
 バーの一角で田中たちは一息ついた。指定された携帯にメールを送ったら屋上付近で待機せよとのことだったが、果たしてドボレクはどんな隠し玉を用意しているのか。田中自身にも想像はつかなかった。
「君、いったい我々をどうしようというのかね」
 銃を突きつけられたまま浅川が田中に問いかける。冷静さを失わないようにがんばっているが、内心恐怖で縮み上がっている。
「まもなく、協力者が迎えに来る。おとなしくしていろ」
 一方、ヴェート王も完全に冷静さを失うダンカン公に問いかけている。
「ダンカン、多くの騎士を失ってまでそなたは何を得ようというのだ・・・」
「国王陛下、ガシリアの平和のためです。今しばらくご辛抱を・・・」
 その言葉に王は眉をぴくりとさせた。この男、進んでアジェンダに寝返ったように見えるが、実のところは少々理由があるようだ。
 不意にピアノがメロディを奏で始めた。余裕を失った田中とテロリストが大慌てで銃を向ける。だが、次の瞬間彼らはもっと驚くことになった。田中がかすれたような声を出した。
「ドボレク社長・・・」
 自動ピアノのスイッチを入れたのはいつの間に潜んでいたのか、黒いスーツに身を固めたドボレクだった。その姿にヴェート王も浅川も言葉を失った。両国が血眼になって探すお尋ね者が目の前にいるのだ。
「田中君。作戦をしくじったようだな・・・」
 自動ピアノが奏でる「月光」を気持ちよさそうに聴きながら、黒い髪の毛をオールバックにした魔道大臣は静かに言った。
「はい・・・。しかし計画通り、王と知事は捕獲に成功しました。約束通り我々をアジェンダに亡命させてください。そこで革命のための同志を募りたいのです。日本とガシリア帝国主義同盟を打ち破るために・・・」
 田中は熱っぽく理想を語った。もう何度も聞かされていいかげん聞き飽きた様子のドボレクはにやりと笑うと静かに田中に歩み寄った。
「よかろう・・・その前に最後の仕事だ」
「はい・・」

田中の合図で知事を捕まえていたテロリストが彼から離れた。同時に王を拘束していた騎士もとまどいながらも王から離れた。田中とテロリストは銃を構えて2人 が動かないように牽制している。ドボレクは右手の手のひらを上に向けると何かつぶやいた。小さな火の玉が彼の手のひらの上に浮かびあがった。
「う、うわ・・・。待て!待ちたまえ!」
 ドボレクの意図を察した浅川は後ずさりした。背後のイスに足を引っかけて尻餅をつく。一方のヴェート王はまっすぐにドボレクを見つめている。
「余を殺したところで戦乱は収まるわけではないぞ・・・」
「ふっ、アジェンダの運命などどうでもよい・・・。わしはガシリアを滅ぼし、日本を滅ぼしわしの王国を作るのだ。田中君の言うところの革命だ・・・。」
 ドボレクの意図を察したダンカンが驚きの声をあげた。
「待て!話が違うではないか!この場で王と知事を説得して休戦に持ち込めば、ガシリアへの禁呪魔法攻撃を中止するという話ではなかったのか?」
  やはりダンカンはそそのかされていたのか・・・。ヴェート王はため息をついた。抗議の声をあげたダンカンに、ドボレクは先ほど作り出した小さな火の玉を飛 ばした。ダンカンの足下に大きな火柱ができて、彼は大声を出しながら床に転がった。慌てて部下の騎士が主人に駆け寄る。
「こ、こ、国王陛下・・・・、申し訳ございません・・・・」
 右足におおやけどを負ったダンカンが苦痛に満ちた顔で王に訴えかけた。ドボレクは冷たい笑みを浮かべて、再びその手に火球を作り出した。
「ちょっと待ったぁぁ!!」
 緊迫した場に似合わない声は田中たちだけでなく、ドボレクまでも振り返らせるほどだった。バーの入り口にスーツ姿で1人の男が立っている。
「へぇ。おまえがドボレクか・・・、ヤクザみたいな格好してるじゃねえか・・。で、おまえがリーダーの田中だな。やっぱ学生だな。詰めが甘いよ・・・」
 挑発的な言葉を並べるのは、もちろん村山だった。彼の言葉に自分の作戦がめちゃくちゃにされたことを気にしている田中が怒りの視線を向けた。

「貴様がネズミか。おかげで俺の作戦が台無しだ。だが、この状況でどうするってんだ?たった1人で?」
 田中はドボレクを振り返った。ドボレクは「勝手にしろ」と言うように手の中の火球を納めて下がった。リーダーはスコーピオンを浅川に向けた。
「さっさと銃を捨てろ!この野郎をぶっ殺すぞ!!」
 田中の脅迫にも村山は動じることなくにやにやしながらバーの中に入ってきて、彼との距離を縮めようとする。それを見た田中は少し慌てて再び叫んだ。
「本気だぞ!銃を捨てろよ!捨てろってんだよぉ!この野郎!」
 最後は半分絶叫に近くなった言葉にようやく村山は立ち止まって、手にしていたスコーピオンを捨てた。そして両手をゆっくりと頭の後ろで組む。それを見届けた田中は高笑いしながら銃を村山に向けた。
「ははは!自殺しに来たようなもんだな!おまえバカだろ?俺はこれでも国立大なんだからな!さっさと殺してやるよ」
「そうか?殺しちゃうのか?ははは・・・」
 笑う田中に村山も一緒になって笑った。意外な行動に田中は一瞬、たじろいだが後は引き金を引くだけだ。一緒になって笑った。
「奇遇だな・・・・俺も国立の京大卒業なんだよ」
 そう言って村山は自分の右肩、肩胛骨あたりにガムテープで張り付けたトカレフを抜くと、田中より先に5発撃ち込んだ。
「き、汚ねぇぞ・・・」
 胴体のあちこちに銃弾を受けた田中は血を吐きながらそう言うと、うつぶせに床につっぷした。生き残ったメンバーが慌てて村山に銃を向けるが、村山の方が早かった。一撃で頭を撃たれて彼は仰向けに倒れた。それを見届けたドボレクはゆっくりと村山と向かい合う位置に進んだ。
「なかなかやるな、異世界人。名前は?」
「村山次郎。一応、探偵だ」
 それを聴いたドボレクは「くっくっく」といかにも悪役っぽい笑い声を出して笑って、再び手に火球を作った。
「覚えておこう、村山・・・」
 そう言って彼が火球を村山に放とうとした瞬間、当の村山が大声で叫んだ。
「今だっ!尾上!」

バーの入り口近くの天井に設置された点検孔から尾上が逆さまにぶら下がった状態で顔を出した。その手にはスコープ付きの89式小銃があった。彼のはなった弾丸は確実にドボレクの心臓を捕らえた。
「なっ!」
 着弾の衝撃でドボレクが2,3歩後ずさった。手の火球が消えた。自らの肉体の修復が優先されているようだ。尾上は逆さ吊りの状態でさらに2発3発とドボレクに撃ち込んでいく。
「ドローテア!」
 再び叫んだ村山の声でドローテアがバーの入り口に現れた。呪文の朗詠は最後の一文を除いて済ませてある。事態を察したドボレクは背面飛びの要領で窓に向かって跳躍した。
「・・・・我に力を与えたまえ!」
 ほぼ同時にドローテアの魔法が発動して、自動ピアノは吹き飛んだ。だが、ドボレクは背中でガラスを破って空中に身を踊らせていた。
「村山!この続きはまたの機会だ・・・!」
 落下しながら叫ぶドボレクは短く何かつぶやく。すると彼の身体は空中から消えた。肉体を修復しながら瞬間移動の魔法を発動したのだ。窓に駆け寄ったドローテアが様子を見て舌打ちした。
「くそ。間一髪で逃げられたみたいだな・・・」
 そのかたわらで、ダンカン公と数名の騎士がヴェート王に跪いている。無事に解放された王はちらっと浅川の方を見た。県知事は尻餅をついて放心状態だった。
「こ、国王陛下。申し訳ありませんでした・・・。この上は・・・」
 ダンカンはいきなり短剣を抜くや、自分の首にそれを突き立てようとした。王はすばやくそれを手で払うとダンカンに平手打ちを食らわせた。
「馬鹿者。死んで逃げることは許さぬ。生きて、死んでいった騎士の家族と、ここに残った部下たちのために王国に忠誠を誓って働くのだ。ガシリアの法でそなたの領地と階級は没収するが、私有財産までは奪わん。それで、自分の部下に対する償いをしろ」
 意外な王の言葉に、重傷にも関わらずダンカンは立て膝をついた。
「そなたがドボレクの口車に乗ってしまったのも、余と国を思う心からと言うことはわかっておる。その証拠に、先ほど身を挺して余を守ろうとしたではないか・・・。すべての責任をとったら余のところに帰ってくるがいい」
「国王陛下・・・・」
 ヴェート王の言葉に、ダンカンはもちろん部下の騎士までも感激の涙を流している。これはまた大層な大岡裁きだな・・・。村山は感嘆のため息をついた。

2004年5月22日21時22分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉上空
 「いいか!ガルシア大尉の連絡ではテロリストは在日米軍の将校を数名射殺したようだ!容赦するな!」
「サー!イエス!サー!」
 ホプキンス曹長の言葉に、重武装の海兵隊員は大声で返事した。曹長は強襲部隊の面々を見てからさらに言葉を続ける。
「おまえたちは海兵隊を愛しているか?」
「サー!イエス!サー!」
「おまえたちの仕事はなんだ?」
「キル!キル!キル!」
「おまえたちはマリーンを愛しているのか?」
「サー!イエス!サー!アイ・ラブ・マリーン!!」
「よーし!いくぞ野郎ども!ロックン・ロール!」
 ホプキンスの言葉と時同じくして護衛のAH-64はホテルの屋上に展開するテロリスト(正確にはその残党)を捕捉していた。
「こちらマッドマックス2!屋上にテロリストを発見。約10名」
「こちらマッドマックス1!こっちでも捕捉した。仲間の敵だ、奴らのケツにぶち込んでやれ!」
 2機のAH-64は合計で156発の70ミリロケット弾を一気に発射した。そのほとんどはテロリストではなく、屋上の設備を吹き飛ばしただけだったが・・・。
「野郎ども行くぞ!」
 廃墟の屋上に降り立ったCH-53からホプキンス率いる海兵隊が30名、手当たり次第に発砲しながら展開した。生き残ったテロリストも蜂の巣にしてしまうと、曹長はとりあえずメンバーを集合させた。
「よし!俺たちはこのまま下まで突き進む。残りはガルシア大尉を捜索するんだ!」
「サー!イエス!サー!」 
 部下たちの威勢のいい返事に満足した曹長が行動を開始しようとした時だった。1人の部下が異変に気がついて声をかけた。
「そ、曹長!」
 彼の言葉の意味をホプキンスもすぐに知ることになって思わず天に向かって叫んだ。
「ちっくしょう!!」

2004年5月22日21時25分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 29階バー
 ドローテアがヴェート王に跪いている。村山とガルシアは手持ちぶさただった。
「ドローテア、よくやってくれた。礼を言うぞ」
「ははっ!」
 平伏するドローテア。王は3人の男にも笑顔で礼を述べようと彼らに歩み寄った。
「ガルシア大尉、村山殿。尾上二曹。本当に世話になった・・・・。先ほどまで聞こえていた音。あれはガルシア大尉の部下の到着であろう?」
「はい。我が国きっての精鋭です。今頃、屋上のテロリストアは殲滅されていると確信します」
 自慢げなガルシアの言葉を聞いて気をよくした王は1人、窓際に歩いて小倉の街を眺め始めた。
「すばらしい国だ。人も街もほんとうに・・・・、どわぁぁぁあっぁあ!!」
  感慨に耽る王の上に、いきなり迷彩服の男たちが落下してきた。彼らと共にコンクリートの破片が山のように落ちてきて、きれいなバーはほこりまみれになっ た。さすがに、アパッチの70ミリロケット弾150発はやりすぎだったようで、見事に天井を破壊して海兵隊員もろとも下の階に落ちてきたようだった。
「あ、あ・・・・・。国王陛下・・・?」
 言葉を失ったドローテアはおずおずと王のいたであろう場所に近寄った。王は黒人の曹長と組んず解れつの状態で絡み合っていた。その格好たるや、ほとんど「サ○」のグラビアのような状態だった。
「ご、ご苦労であった。そなたの名前は?」
「は、はい。合衆国海兵隊ホプキンス曹長であります!」
 自慢の精鋭の大失態にガルシアは口を開けたまま天を仰いだ。

2004年5月22日21時52分 北九州市小倉北区浅野 リーガロイヤルホテル小倉 1階正面玄関
  テロリストの仕掛けた罠を事前に感知した突入部隊によってどうにか無事解放された4階の人質たちがようやく降りてきた。彼らは警察、自衛隊、在日米軍関係 者の拍手と報道陣のフラッシュで迎えられた。その中の重岡と美雪は、出迎える人々の中にドローテア、村山、ガルシアと尾上を見つけて駆け寄った。
「おお!重岡殿と小娘、無事であったか・・・」
「ドロちゃんも無事で良かった!」
 美雪とドローテアは互いに抱き合って互いの無事を喜んだが、しばらくして美雪が周囲を見て村山に質問した。
「センセー、バルクマンは?」
 その言葉に、村山とドローテアは言葉に窮してそのまま彼女を救護所に連れていった。テントの中に設置された簡易ベッドに点滴を刺されたバルクマンが横たわっていた。その横には美咲がちょこんと座っている。
「な?嘘でしょ?」
 それを見た美雪が慌てて彼の枕元に駆け寄った。それを見た美咲が怒ったように人差し指を自分の口にくっつけた。
「しー!バルにいちゃんがやっと寝たんだから静かにしてよ!おばちゃん」
「お、おばちゃん?」

 しばしの沈黙。23の女性と5歳児がバルクマンを巡ってガチンコファイトしかねない雰囲気になった。それを察したのか、バルクマンが目をつむったまま口を開いた。
「まだ、寝てませんよ」
「バルクマン、よくぞ重岡殿の大事な美咲を守ってくれたな。それでこそ、ガシリア騎士だぞ」
 ドローテアの言葉に由緒ある騎士は、美咲の頭をなでながら笑顔で応じた。
「はい、ドローテア様。だいじなだいじな「おともだち」ですから・・・。それから、田村殿」
 いきなりかしこまった想い人の言葉に今度は美雪が緊張する番だった。
「傷は大したことないのですが、血が出すぎてしまってしばらく入院することになりました。こんなお願いをするのも心苦しいのですが、一緒に病院まで来てくれませんか?」
 思いもかけない言葉に美雪は思わずバルクマンの手を握りしめた。
「うん!一緒に行く!だから絶対治ってね!」
 感激の余り涙ぐむ美雪を見て、バルクマンは安堵の笑みを浮かべた。ほうっとため息をつくと笑顔で美雪に振り返った。そのさわやかな笑顔に思わず彼女は吸い込まれそうになる。だが、次に発せられた言葉は彼女にとってはカウンターパンチに等しかった。
「あ りがとうございます。どうも私はこの、点滴とか注射が苦手でして・・・。騎士として恥ずかしいのですが、だれかいてくれたらありがたいのです。付き添いを 村山様や重岡様、ましてやドローテア様にお願いするわけにはいかないので困っておりました。いやぁ、申し訳ないですなぁ」
「え?あ、ああ・・・。気にしないで・・・・」
  思いつくメンバーの消去法の結果である上に、その理由が注射が怖い・・・・。つまりは誰でもいい存在だった。少なからずショックを受けつつも、一応指名さ れた喜びで複雑な表情を浮かべる美雪だった。そんな彼女の気持ちを察してか、察していないのか。美咲が笑いをこらえるように言った。
「じゃあ、おばちゃん。バルにいちゃんをよろしくね!」
 愛しい愛しいバルクマンの手前、美雪は笑顔らしき表情をどうにか作ることに成功した。
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