自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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915 名前:始末記[sage] 投稿日:2016/02/02(火) 11:14:16.09 ID:AJ36t06y

はつゆき型護衛艦『いそゆき』

緊急連絡を受けて、現場に急行していた護衛艦『いそゆき』は、すでに十数隻の船舶をレーダーに捉えていた。
それでも旅客船『いしかり』にあまりに近接しているので攻撃を躊躇っていた。
だが五キロの目視圏内ならば、誤射はありえない。

「まずは『いしかり』の周囲に群がる海賊船を掃討する、水上戦闘用意!!」

艦長の石塚二等海佐の命令のもと、砲雷長兼副長の神田三等海佐が指示を叫ぶ。

「水上戦闘用ぉー意!」

各部署の乗員はすでに終えた戦闘の準備を頭の中でおさらいしながら覚悟を決める。
艦内に戦闘配置発令の警報音が鳴り響く。

「主砲、打ちぃ方始めぇ!!」
「打ちぃ方始めぇ!!」

艦首、62口径76mm単装速射砲がほぼ一秒間に一発ずつ発射されながら旋回していく。
木造の帆船などほぼ一撃で粉砕される。
15秒後に砲撃が止まると、海域に残っているのは『いしかり』と連結した『生より出でし蒼白の武神』号と『正義を操りし月夜の咎人』号、『漆黒の翼』の3隻だけだった。

「は、早すぎるだろ・・・」

ピョートル船長が船員達と後方から現れた日本の軍艦に対抗する為に船尾までピョートル砲を積んだ台車を転がしている間に後方の海賊船団は壊滅状態になってしまった。
さらに『いしかり』の真上に陣取ったSH-60Kが『生より出でし蒼白の武神』号に対して、74式車載7.62mm機関銃のドアガン攻撃を敢行している。
さらに反対側のスライドドアが開き、ラペリング降下で5名の隊員が降りてくる。
高嶋警備隊長は彼等を援護するように警備会社隊員に射撃や放水をさせる。
降下した隊員達は89式小銃で『正義を操りし月夜の咎人』号、『漆黒の翼』から乗り移ろうとしてくる海賊達に銃弾を食らわす。

「海上自衛隊『いそゆき』警備班長の緒方三曹です。
通信で連絡は受けてますが、船員、乗客に負傷者はいらっしゃいますか?」

海上自衛隊では転移前から各護衛艦ごとに海上阻止行動(MIO)を想定した立入検査隊というの臨検を専門とする部隊編成していた。
これは乗員から選抜され、普段は、各職種の任務に就いていた。
転移後は、海賊や帝国残党、モンスターとの戦闘が頻発した為に専門の常設的な部隊として各艦ごとに警備班が編成された。

「おかげさまでなんとか支えきれそうだ。
だが連絡した通り海中にも何かがいて、『いしかり』の航行を阻害している。」
「そちらは『いそゆき』が現在対策を考えてます。」

だがそこに船壁からよじ登って来た人影が現れた。
緒方がすかさず89式小銃で蜂の巣にして海中に叩き込むが、手応えに違和感を感じていた。
幾つかの弾丸が鎧のような硬いもの当たった時のような着弾音だったのだ。
高嶋と緒方が船縁から船壁を確認すると数十の人影がよじ登って来ていた。
彼等を一様に巨大な物体を頭部に被っていた。

「参った、敵は人間だけだと想定していたよ。
「自分もです。
ボルタリングの選手も真っ青な連中だな。」
「あれは螺貝族という海棲亜人ですね、資料で見たことがあります。」

二人の会話に割り込んできたのは元公安調査官の佐々木だ。
背後には円楽元和尚が錫杖を持って付き添っている。


「人間のような両腕を持ち貝の蓋の部分に目のついています。
下半身は軟体動物のようなぬめつく体躯で、船壁に張り付いているのですよ。
銚子のラブホテルでオーナーが殺害され、地回りのヤクザに犯人として射殺された事件でその存在が確認されました。
貝殻の突起物からサザエから進化した亜人と考えられてます。
通称、『サザエサン』。
なんです、その人を胡散臭い不審者のような者を見る目は?
ああ、連中がどんな風に自称してるかは不明ですよ?
交流なんてまったく無いどころか学術都市にすら記述が見つからないのですから。
貝殻部分は固いですがそれ以外の部分に銃弾を当てれば普通に死にますよ。」

高嶋も緒方も突然現れた佐々木に不審な顔と目をしているので、身分を明かすと納得された。
まあ、半分は

『冗談がきついぜ』

と、思っていた。

「貴方の会社の創設者と私の元職場は同じ内務省特別高等警察の流れを組む従兄弟みたいなものじゃないですか。
あんまり邪険にしないで下さい。」
「そんな古い話、私のような下っぱが知ってるわけないでしょう?」

高嶋は佐々木を扱いにくそうだが、螺貝族に対抗する為に拳銃を渡す。
『いしかり』警備隊員と『いそゆき』警備班員は、『漆黒の翼』の海賊と船を挟んで銃撃戦を繰り広げている。
『正義を操りし月夜の咎人』号は、SH-60Kによる74式車載7.62mm機関銃のドアガン攻撃ですでに沈黙している。
反対側の監視をヘリに頼んで三人は船壁の螺貝族を上から狙い撃ちしていく。
頑丈な貝殻の頭部は銃弾を完全に防げていないが、幾分かの被弾経始の効果はあるようだ。
銃弾を掻い潜ってデッキに上がり込んだ螺貝族を円楽元和尚が錫杖を叩き付けて海に落とす。
佐々木の話を聞いていた円楽元和尚は疑問を一つ思い付いていた。

「帝国も交流が無かった螺貝族と海賊を誰が結び付けたのかな?」



護衛艦『いそゆき』
『いそゆき』は、戦闘海域から4キロの地点に陣取っていた。
艦載砲の有効射程が約18キロなのに対してここまで艦を近づけたのは、『いしかり』を拘束する謎の水中の脅威を探る為だ。
当初はソナーを放って探っていたのだが『いしかり』の周辺に巨大な岩塊のような物があって、座礁してるようにしか反応しないのだ。
周辺に雑音となる海賊船も多い。
まずは海賊船を排除し、さらに詳細な情報を得る為の切り札を投下する。
石塚艦長の命令が下される。
「サイドスキャンソナーを投下せよ。」
「サイドスキャンソナー投下!!」

サイドスキャンソーナーとは、
艦船の後部から海中に曳航させて音波を送受信することにより、海底地形や、海中、海底にある様々な物体を高精細な映像として可視化するシステムである。
転移前は海洋調査艦や掃海艦艇に搭載されていたが転移後は周辺海域が劇的に変化した日本や未調査海域である大陸で必要性を認められて増産されて護衛艦にも配備されていたのだ。
投下されたサイドスキャンソナーからの映像がモニターに可視化される。

「これ、なんだと思う?」

石塚艦長の言葉に全員が怪訝な顔をする。
代表して砲雷長兼副長の神田三佐が私見を述べる。

「僭越ながら・・・でっかいヤドカリではないかと・・・貝殻は・・・サザエ?」

サイドスキャンソナー担当の乗員は、映像の縮尺を間違えたのかと、コンソールの確認をはじめだした。

「なるほど、さすが異世界だな。
ヤドカリもあんなにでかくなるのか?」
「宿の貝殻の巨大さもツッコミどころ満載ですが、この部分・・・船の形してませんか?」


神田三佐がモニターの指でなぞった部分を皆が注視する。

「まさか連中は・・・貝殻に船を掘ったのか?
船の気密性とかはガン無視か・・・」

石塚艦長の辿り着いた結論に全員が唖然とするなか、『いしかり』から届いた螺貝族の介入が拍車を掛ける。

「螺貝族の船・・・船かな?
空気のいらない潜水できる何かですか?
反則もいいところだ。」
「だが方針は決まった。
幸い目標は足場を固定しようとして動きが止まっている。
有線誘導の短魚雷でハサミ、貝殻の船体部分、本体を直接狙う。
左舷、魚雷発射用意。」



『食卓の使者』
螺貝族(日本側名称)のドーラク船長は膠着状態の状況に苛立っていた。
誰も手が出せない海中は膠着状態だが海上がそうでは無いのは一目瞭然だからだ。
次々と沈没してくる海賊船や海賊達は味方が一方的にやられていることを示している。

「離脱するか・・・だが、最低でもピョートル船長だけでも救出してないとアウグストス将軍に顔向けできない。」

せめてピョートルの身柄だけでも抑えようと部下を『漆黒の翼』に派遣しようとした時に海中に今までと違う『波』を感じた。

「何か来るか!?」

護衛艦復帰の為に改装された『いそゆき』は、97式短魚雷の使用が可能となっている。

「二番、四番、六番連続発射!!」
「二番、四番、六番連続発射!!」

『いそゆき』の68式324mm3連装短魚雷発射管から三発の97式短魚雷が次々と発射される。
『いしかり』を固定する為に身動きが取れない『食材の使者』号はハサミを外して防御体勢を取る。
即ち殻に閉じ籠もったのだ。
目標を失った二番魚雷は『いしかり』からの誘導に従い殻の蓋になるように引っ込むハサミを追って炸裂する。
さらに元々本体を狙っていた六番魚雷も直撃する。
97式短魚雷は成形炸薬弾頭が用いられている。
これは、潜水艦の耐圧船殻の強化・二重化に対抗するのが目的だ。
強固なハサミの甲を貫き爆発の効果を内部に伝える。
たが『食材の使者』号は自らハサミを切り落として難を逃れる。
カニやヤドカリの仲間は、天敵に襲われたハサミや脚が掴まれるとトカゲの尻尾のように自切して逃れることが出来るのだ。
本体は難を逃れたが、貝殻部分の船舶部分にも四番魚雷が直撃する。
最初から内部が注水状態の『食材の使者』号であるが、爆圧で大半の壁が吹き飛ばされて螺貝族のほとんどが死亡する。
内部奥深くにいたドーラク船長は咄嗟に自らの貝の中に閉じ籠もって死を免れた。
『食材の使者』号が使用していた巨大サザエの殻は崩壊状態で最早使用不能だった。

「ここまでか・・・総員退船!!」

生き残った船員は海中に脱出していく。
十人にも満たないが彼らは海中でも生存が可能だ。

「やれやれ、泳いで帰るしかないか。
何年掛かるやら」

『食材の使者』本体も巨大サザエの貝殻から脱出している。
あのサイズの本体が入る巨大貝殻など数十年に一度に成長するかどうかだ。
ドーラク船長と螺貝族の生き残りは、『食材の使者』本体に張り付き戦場から撤退した。



『食材の使者』号という錨代わりの物体が無くなり、旅客船『いしかり』はいきなり加速状態となった。

「うわっ!?」
「何かに掴まれ!!」

さすがに船に慣れた高嶋は転がる佐々木の足を掴まえて、片手を手摺り掴まってバランスを取る。
緒方三曹は床に伏せて、円楽は念仏を唱えてバランスを取っている。

ブリッジでは平塚船長の檄が飛んでいる。

「多少無理をしても海賊船から距離をとれ!!
この揺れで負傷者が出ているかもしれない。
船員、乗客の点呼を取れ。」

ようやく自由に動けるようになった『いしかり』だが、まだロープや網、鎖など多数で『漆黒の翼』に括り付けられている。
そのロープや網も船員達が斧で断ち切っている。
たが最後の一本の太い鎖だけはどうしても歯が立たない。

「どきなさい。」

円楽元和尚が四歳くらいの子供を連れている。

「剛、ちょっと父さんに仁王様の加護をくれ。」
「いいの?
父さん普段は人前では使うなと言ってるじゃん。」
「多くの人の命が掛かってるから仕方がない。」
「しょうがないなあ 。
ゴホン、ナマサマンダバ サラナン トラダリセイ マカロシヤナキャナセサルバダタアギャタネン クロソワカ。」

剛少年から流れ出る力が円楽に剛力の力を与える。
船員から受け取った斧で4度、5度打ち据えて砕く。
『いしかり』から『漆黒の翼』が離れていく。

「父さん、疲れたよ。」
「はっはは、修行だ修行。
いい経験になったろ?
港に着いたらきっと船会社が御馳走を用意してくれてるぞ。」

汗だくの息子を労うと唖然と見ていた船員に口止めをする。

「今のは貴殿の中の御仏に誓って内緒ですぞ?」

船員は無言で頷くしかなかった。



『漆黒の翼』
ようやくピョートル砲に弾込めが終わったピョートル船長達は『いそゆき』に照準を定める。
先程まで船が激しく揺れていたので弾込めすらままならなかった。
これまでは帝国の大砲は一キロの距離も飛ばせなかった。
だがピョートル大砲は六倍の有効射程を手にいれた。
この事実は『いそゆき』は知らないだろう。
安全距離を保ったつもりなのか、四キロの距離まで近づいて来ている。

「まだ少し遠いが・・・撃て!!」

祈る気持ちで撃った執念の1弾は『いそゆき』の艦首に見事に命中した。
それは異世界に転移した地球の軍艦が初めて被弾したという象徴的な出来事だった。


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