218 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:36 [ qUq6iUEM ]
アルクアイはこれを千載一遇の機会と捉えていた。
あの目の上のたんこぶだったジファンが死に、今船団の指揮権は自分にある。
さらに自分の居る船は異世界人の船から一番離れた位置にあるのだ。
今ここでラーヴィナに帰ればジファンの地位がそのまま自分の地位となるだろう。
そもそもあの異世界人たちに勝負を挑むのが間違いだった。
あれほど大きな船、たとえどんな魔法があるからと言ってその戦力差がひっくり返せるわけは無い。王下正規軍ならともかく我々の様な奴隷収穫用の船団では勝てる訳が無い。
アルクアイはジファンほど魔法を過信しているわけではなく、更に状況を把握能力、たぐいまれな指揮能力に恵まれていた。
「今私がすべきことはなるべくこちらの損害を少なくして、本国に帰ることだ。」
右腕の篭手で各船にもぐらせている部下と共振通信を繋ぐ、自分と通信手段を持っている人間を全ての船に配置しておく、この点だけでもアルクアイはジファンよりも上回っていると言えるだろう。
「今からこの船団の指揮は私が取る!」
完全なパニックに陥っていた船員達にとってこの言葉はまさに地獄に仏、だっただろう。
船員達はすぐにアルクアイの言葉に従いその混乱は収束して行った。
219 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:36 [ qUq6iUEM ]
一方青島たちは何とかこんごうの甲板にたどり着いていた。
「無事ですか、皆さん・・・。」
「ああ、すまない。」
狩野、福地と降りて行き、最後にセフェティナが青島の手を借りてヘリから降りた。
そして村田と佐藤が怪我をした天野を背負って降りる。
そこにすぐさま担架を持った担任たちが駆け寄った。
「怪我人がいるそうですね、早く担架に!」
その時、青島は自分の上を光る糸が通っているのに気がついた。
「危ない、伏せろ!」
青島はセフェティナと福地を抱えるようにして倒れこんだ。
220 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:37 [ qUq6iUEM ]
倒れこむ青島のそのすぐ上を赤い光が肌をチリチリと焼くような灼熱の炎を撒き散らしながら通って行き、甲板で激しい火柱を作る。火柱、と言っても厳密には火ではないのだが。
「な、なんですか・・・今のは。」
事情を知らない隊員が担架を持ったまま口をパクパクさせる、
「ここまで届くのか・・・、なんて射程だ。・・・後で説明する!今は天野を!」
青島はセフェティナと福地を下敷きにうつ伏せにはいつくばったまま叫んだ。
「は、・・・はい!」
その勢いに飲まれその隊員は担架を持って甲板から消えていった。
221 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:38 [ qUq6iUEM ]
「すいません、大丈夫でしたか二人とも・・・。」
「ああ・・・、次助ける時はもう少し丁寧にしてもらいたい物だがな。」
「・・・あ、はい。」
人間の男、佐藤に触られるだけでもショックを受けていた彼女だ、
押し倒されるなんてよほどの衝撃だろう、顔を真っ赤にしている。
しかし今はそんなことに構っている場合は無い。
「司令、敵の頭は潰しましたが、今なお敵からの組織的、かつ激しい攻撃が続いています。
おそらく敵No2が指揮を執っているものと思われますが。」
「No2か、セフェティナさん、心当たりはありますか?」
セフェティナは顔を真っ赤にしたままコクリとうなずいた。
そして「No2」の人物に考えを巡らし、その顔は急に凍りついた。
「はい、名前を・・・。」
そこで言葉に詰まる。
「どうしました?」
「あ、はい。名前を・・・アルクアイ、といいます。」
アルクアイ、人間にもかかわらずセフェティナ以上の魔力を持つ魔術師で、そのジファンとは質の違う氷のような非常さにセフェティナは恐れを抱いていた。
「その人物と前のジファンとのように通信を持てますか?」
「いえ、彼の篭手の波長は知らないので・・・。」
「そうですか、・・・もう正当防衛射撃の条件は整っているな、ならば威嚇射撃の後に正当防衛射撃を実行せよ。」
「了解しました。」
222 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:38 [ qUq6iUEM ]
狩野が無線で宮野に通達を送る。一方青島は妙な違和感を覚えていた。
「なぜだ・・・?トップをやられて混乱した部隊を立て直せるほどの人間ならば勝ち目が無いことくらい分かるはず。しかし、玉砕覚悟の攻撃にしては飛んでくる弾数が少ない。
というよりもジファンが乗っていた船以外からの攻撃が無い・・・?」
その青島のすぐ横を赤い光が通り抜けた。的になっているらしい。
「隊長!何をやっているんですか、早く中に!」
「あ、ああ。」
青島は慌てて中に入った。
「威嚇射撃実行します。」
その言葉と共に54口径127ミリ速射砲がジファンの船の鼻先に黒い雨を降らせる。
と、同時にミサイル艇から通信が入る。
「敵船全船、捕捉しています。いつでも撃てます。」
「いや、いい。なるべく沈めずに情報源となる捕虜が欲しい。」
「了解。」
敵船を前にして狩野は思った。
これが「血が騒ぐ」と言う物か、と。
223 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:39 [ qUq6iUEM ]
「我々は威嚇射撃を実行しました、これ以上攻撃を続けるようなら正当防衛射撃を実行します!」
ジファンの居た船を囮とし、敵がもたもたしている内にようやく旋回を終えた自船の後方から巨大な声が聞こえてくる、内容は良く分からないがおそらく降伏しろ、と言ったたぐいの物だろう。
「接触する前のあの鳴き声の正体、これだったか。」
アルクアイはクックッ、と笑った。
しかし降伏を求めるとは笑わせる、捕虜にされたら何をされるかたまったものではない。
拷問地獄の挙句に処刑がせいぜいだろう。
―――ゼナ!―――
元・ジファンの船の指揮を執っている部下に共振通信を繋ぐ。
―――は。―――
―――攻撃をやめ降伏しろ。―――
―――降伏するふり・・・ですか?―――
我が部下ながらよくわかっている。
―――それで奴らの船に近づいたら、自爆しろ。―――
―――はい、了解しました。―――
いともあっさりと答え通信が切られる。
良く出来た部下だったが、仕方が無い。
「おい!奴隷達にもっと急いで漕ぐように言え。」
「はっ!」
224 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:40 [ qUq6iUEM ]
アルクアイは部下に諸々の指示をした後に甲板に出た。
大分遠くにある元・ジファンの船は青い布――こちらの世界における白旗――をはためかせている。
アルクアイは篭手を付けなおし、目の前に巨大なマナの壁を作り出す。
誤解しないで欲しいのだが、これほど大規模な魔法が使えるのは彼を入れてごく一部だけである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い詠唱の後にアルクアイは目を見開き魔法を開放する。
使った魔法は実体の無い幻を作り出すだけの初級の幻覚魔法。
しかしアルクアイはそれでジファン以外の三船の幻を作りだした。
これで自分達がこの海域から離れてもそうばれることも無いだろう。
「うっ・・・。」
精神力の使い過ぎで軽い脱力感と目眩を覚える。
「ここで気を失うわけにはいかないな。」
アルクアイは椅子に座り全船に全速前進を指示した。
アルクアイはこれを千載一遇の機会と捉えていた。
あの目の上のたんこぶだったジファンが死に、今船団の指揮権は自分にある。
さらに自分の居る船は異世界人の船から一番離れた位置にあるのだ。
今ここでラーヴィナに帰ればジファンの地位がそのまま自分の地位となるだろう。
そもそもあの異世界人たちに勝負を挑むのが間違いだった。
あれほど大きな船、たとえどんな魔法があるからと言ってその戦力差がひっくり返せるわけは無い。王下正規軍ならともかく我々の様な奴隷収穫用の船団では勝てる訳が無い。
アルクアイはジファンほど魔法を過信しているわけではなく、更に状況を把握能力、たぐいまれな指揮能力に恵まれていた。
「今私がすべきことはなるべくこちらの損害を少なくして、本国に帰ることだ。」
右腕の篭手で各船にもぐらせている部下と共振通信を繋ぐ、自分と通信手段を持っている人間を全ての船に配置しておく、この点だけでもアルクアイはジファンよりも上回っていると言えるだろう。
「今からこの船団の指揮は私が取る!」
完全なパニックに陥っていた船員達にとってこの言葉はまさに地獄に仏、だっただろう。
船員達はすぐにアルクアイの言葉に従いその混乱は収束して行った。
219 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:36 [ qUq6iUEM ]
一方青島たちは何とかこんごうの甲板にたどり着いていた。
「無事ですか、皆さん・・・。」
「ああ、すまない。」
狩野、福地と降りて行き、最後にセフェティナが青島の手を借りてヘリから降りた。
そして村田と佐藤が怪我をした天野を背負って降りる。
そこにすぐさま担架を持った担任たちが駆け寄った。
「怪我人がいるそうですね、早く担架に!」
その時、青島は自分の上を光る糸が通っているのに気がついた。
「危ない、伏せろ!」
青島はセフェティナと福地を抱えるようにして倒れこんだ。
220 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:37 [ qUq6iUEM ]
倒れこむ青島のそのすぐ上を赤い光が肌をチリチリと焼くような灼熱の炎を撒き散らしながら通って行き、甲板で激しい火柱を作る。火柱、と言っても厳密には火ではないのだが。
「な、なんですか・・・今のは。」
事情を知らない隊員が担架を持ったまま口をパクパクさせる、
「ここまで届くのか・・・、なんて射程だ。・・・後で説明する!今は天野を!」
青島はセフェティナと福地を下敷きにうつ伏せにはいつくばったまま叫んだ。
「は、・・・はい!」
その勢いに飲まれその隊員は担架を持って甲板から消えていった。
221 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:38 [ qUq6iUEM ]
「すいません、大丈夫でしたか二人とも・・・。」
「ああ・・・、次助ける時はもう少し丁寧にしてもらいたい物だがな。」
「・・・あ、はい。」
人間の男、佐藤に触られるだけでもショックを受けていた彼女だ、
押し倒されるなんてよほどの衝撃だろう、顔を真っ赤にしている。
しかし今はそんなことに構っている場合は無い。
「司令、敵の頭は潰しましたが、今なお敵からの組織的、かつ激しい攻撃が続いています。
おそらく敵No2が指揮を執っているものと思われますが。」
「No2か、セフェティナさん、心当たりはありますか?」
セフェティナは顔を真っ赤にしたままコクリとうなずいた。
そして「No2」の人物に考えを巡らし、その顔は急に凍りついた。
「はい、名前を・・・。」
そこで言葉に詰まる。
「どうしました?」
「あ、はい。名前を・・・アルクアイ、といいます。」
アルクアイ、人間にもかかわらずセフェティナ以上の魔力を持つ魔術師で、そのジファンとは質の違う氷のような非常さにセフェティナは恐れを抱いていた。
「その人物と前のジファンとのように通信を持てますか?」
「いえ、彼の篭手の波長は知らないので・・・。」
「そうですか、・・・もう正当防衛射撃の条件は整っているな、ならば威嚇射撃の後に正当防衛射撃を実行せよ。」
「了解しました。」
222 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:38 [ qUq6iUEM ]
狩野が無線で宮野に通達を送る。一方青島は妙な違和感を覚えていた。
「なぜだ・・・?トップをやられて混乱した部隊を立て直せるほどの人間ならば勝ち目が無いことくらい分かるはず。しかし、玉砕覚悟の攻撃にしては飛んでくる弾数が少ない。
というよりもジファンが乗っていた船以外からの攻撃が無い・・・?」
その青島のすぐ横を赤い光が通り抜けた。的になっているらしい。
「隊長!何をやっているんですか、早く中に!」
「あ、ああ。」
青島は慌てて中に入った。
「威嚇射撃実行します。」
その言葉と共に54口径127ミリ速射砲がジファンの船の鼻先に黒い雨を降らせる。
と、同時にミサイル艇から通信が入る。
「敵船全船、捕捉しています。いつでも撃てます。」
「いや、いい。なるべく沈めずに情報源となる捕虜が欲しい。」
「了解。」
敵船を前にして狩野は思った。
これが「血が騒ぐ」と言う物か、と。
223 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:39 [ qUq6iUEM ]
「我々は威嚇射撃を実行しました、これ以上攻撃を続けるようなら正当防衛射撃を実行します!」
ジファンの居た船を囮とし、敵がもたもたしている内にようやく旋回を終えた自船の後方から巨大な声が聞こえてくる、内容は良く分からないがおそらく降伏しろ、と言ったたぐいの物だろう。
「接触する前のあの鳴き声の正体、これだったか。」
アルクアイはクックッ、と笑った。
しかし降伏を求めるとは笑わせる、捕虜にされたら何をされるかたまったものではない。
拷問地獄の挙句に処刑がせいぜいだろう。
―――ゼナ!―――
元・ジファンの船の指揮を執っている部下に共振通信を繋ぐ。
―――は。―――
―――攻撃をやめ降伏しろ。―――
―――降伏するふり・・・ですか?―――
我が部下ながらよくわかっている。
―――それで奴らの船に近づいたら、自爆しろ。―――
―――はい、了解しました。―――
いともあっさりと答え通信が切られる。
良く出来た部下だったが、仕方が無い。
「おい!奴隷達にもっと急いで漕ぐように言え。」
「はっ!」
224 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/02(月) 19:40 [ qUq6iUEM ]
アルクアイは部下に諸々の指示をした後に甲板に出た。
大分遠くにある元・ジファンの船は青い布――こちらの世界における白旗――をはためかせている。
アルクアイは篭手を付けなおし、目の前に巨大なマナの壁を作り出す。
誤解しないで欲しいのだが、これほど大規模な魔法が使えるのは彼を入れてごく一部だけである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い詠唱の後にアルクアイは目を見開き魔法を開放する。
使った魔法は実体の無い幻を作り出すだけの初級の幻覚魔法。
しかしアルクアイはそれでジファン以外の三船の幻を作りだした。
これで自分達がこの海域から離れてもそうばれることも無いだろう。
「うっ・・・。」
精神力の使い過ぎで軽い脱力感と目眩を覚える。
「ここで気を失うわけにはいかないな。」
アルクアイは椅子に座り全船に全速前進を指示した。